Works Index

作品一覧

収録作品 1211 件を発表年の新しい順に並べています。

  1. 001 2026 吸血鬼 きゅうけつき 遠野遥 単行本・集英社 『吸血鬼』は、女性が中学生になると若さや美しさで十二等級に順位付けされ、十五歳での結婚を強いられる社会を描くディストピア長篇です。中学生の有紗は友人たちと学校生活を送りながら、校外学習で出会ったアナウンサーの美優と開業医の白井を通じて、知らなかった富裕な世界へ触れていく。容姿、結婚、階級、迫害を制度… ジェンダー身体同調圧力
  2. 002 2026 舞う砂も道の実り まうすなもみちのみのり 井戸川射子 単行本・文藝春秋 『舞う砂も道の実り』は、孤児として育ったワオスリ、大家族の移住先を探すイフン、離れ離れになった子を探すダエの三人が旅に出るロードノベル。文藝春秋公式は、時代も場所も定かでない土地を進む旅人たちが、町々の出会いと別れを通じて人生の意味を手にしていく作品として紹介している。喪失を抱えた人々の移動を、詩的… 移民と越境家族死と喪失
  3. 003 2026 彼女のカロート かのじょのかろーと 荻世いをら 初出・すばる 2010年7月号/文學界 2013年12月号 『彼女のカロート』は、表題作「彼女のカロート」と「宦官への授業」の二篇を収める作品集。表題作では、耳が聞こえなくなった女性アナウンサーから「自分のための新しい墓」を依頼された主人公の日常が、彼女とのずれた応答によって静かに侵食されていく。もう一篇では、読むことに困難を抱えながら文学に殉じる青年がシュ… 身体死と喪失芸術と表現
  4. 004 2026 私的応答 してきおうとう 井戸川射子 単行本・講談社 『私的応答』は、1995年の震災を経験した銅子と、母、娘・厚美の三代に流れる時間をたどる長篇。倒れたミシン、避難所の体育館、梅田で浴びるシャワーなどの記憶は、年月を経ても日常の奥に残り続ける。忘れることと許すことの違いを、母娘の時間と震災の記憶を通して問い直す作品である。 災害記憶母と子
  5. 005 2026 満ちる街 みちるまち 山本莉会 単行本・朝日新聞出版 限界集落に住む電力会社職員・徳真が、農園の土地売却をめぐる出来事を描く。第12回林芙美子文学賞大賞受賞作。受賞時タイトルは「満ちる街」だが、掲載時(小説トリッパー2026年春季号)に「むこうの景色は知らない」へ改題された。 第12回 林芙美子賞
  6. 006 2026 もずくとケチャップ もずくとけちゃっぷ 西岡紗那 単行本・朝日新聞出版 第12回林芙美子文学賞佳作受賞作。「小説トリッパー」2026年春季号に掲載。単行本化は未確認。
  7. 007 2026 姥皮 うばかわ 三国美千子 初出・「新潮」2026年4月号 女系の強い家に伝わる大叔母・あけ美さんから譲り受けた「皮」をめぐる奇譚。性愛と生殖の不気味さを穿つ幻想的な短篇。単行本未収録。 身体寓話・幻想
  8. 008 2025 記念日 きねんび 青山七恵 単行本・集英社 『記念日』は、23歳のミナイ、42歳のソメヤ、76歳の乙部さんという年齢も境遇も違う女性三人が、奇妙なルームシェアをきっかけに交わっていく長篇です。「明日から、おばあさんになってみませんか?」という提案が、若さや老い、身体のままならなさ、他者と暮らすことの違和感を動かしていく。代わり映えしない日常を… 老い身体家族
  9. 009 2025 温泉小説 おんせんしょうせつ 朝比奈あすか 単行本・光文社 『温泉小説』は、おひとり様限定ツアー、後期高齢者のドライブ旅、母の呪縛から逃れられない娘、亡き妻との記憶をたどる男など、六つの旅路を収めた連作的な作品集です。年齢も性別も境遇も違う人物たちが、人生の苦みや迷いを抱えたまま温泉地へ向かい、湯に身体をほどかれながら自分を見つめ直す。温泉ソムリエマスターで… 老い家族身体
  10. 010 2025 バックミラー バックミラー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『バックミラー』は、落ち目のミュージシャン、極度の無駄嫌いのM&A会社社長、樹木伐採に生活を揺さぶられる女性など、都市でままならなさを抱える人物たちを描く短篇集です。河出書房新社公式は、シニカルな笑いと冷徹な観察力で都会の人生を写す「令和の没落小説」と紹介している。後方を映す題名の通り、成功や合理性… 孤独と疎外労働アイデンティティ
  11. 011 2025 去年、本能寺で きょねんほんのうじで 円城塔 単行本・新潮社 『去年、本能寺で』は、日本史上の人物や出来事を素材にしながら、AI、ミステリ、宇宙的想像力、異世界転生までを混ぜ込む全11篇の短篇集です。新潮社公式は、軍事AIや文事AIが働く戦乱世界を掲げ、歴史とSFが交差する作品集として紹介している。史実の圧縮と改変を遊びながら、歴史を固定された過去ではなく、言… 戦争テクノロジー芸術と表現
  12. 012 2025 激しく煌めく短い命 はげしくきらめくみじかいいのち 綿矢りさ 単行本・文藝春秋 『激しく煌めく短い命』は、中学校の入学式で出会った久乃と綸が、周囲の偏見のなかで愛を育み、やがて決定的に引き裂かれるまでを描く恋愛小説です。十数年後、東京で働く久乃が綸と再会する構成により、青春の瞬間的な激しさと、時間を経ても消えない感情の持続が重ねられる。文藝春秋公式は、京都と東京を舞台に女性同士… 恋愛ジェンダー青春
  13. 013 2025 細長い場所 ほそながいばしょ 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『細長い場所』は、名前・記憶・肉体を失い、気配や残存となった「わたしたち」が旅をする幻想的な小説です。生と死のあわいを舞台に、個であることをやめた心が最後に誰とどんな場所へ向かうのかを問う。筋立てよりも、声、記憶、身体の制約がほどけていく感覚をたどるところに読みどころがあります。 死と喪失記憶アイデンティティ
  14. 014 2025 移動そのもの いどうそのもの 井戸川射子 単行本・筑摩書房 『移動そのもの』は、表題作を含む九篇を収めた短篇集。筑摩書房公式は、一文ごと一語ごとに世界が生まれ変化していく作品集として紹介し、言葉そのものが物語を跳躍させる読書体験を前面に出している。市場、家、旅、老いなどの場面が小さな宇宙のように開かれ、筋を追うだけでなく、言葉に導かれて世界の相貌が変わる感覚… 言葉と言語芸術と表現老い
  15. 015 2025 ジャスティス・マン じゃすてぃす・まん 佐藤厚志 単行本・文藝春秋 『ジャスティス・マン』は、仙台の老舗ホテルに勤続30年の初老ホテルマンが、特撮ヒーローに重ねた「正義」を暴走させていく長篇です。家庭も職もある中年男性の独りよがりな正義が、職場や周囲との軋轢を深めていく。正義という言葉の快さと危うさを、地方都市の労働現場と生活者の視点から描く作品です。 労働同調圧力暴力
  16. 016 2025 帰れない探偵 かえれないたんてい 柴崎友香 単行本・講談社 『帰れない探偵』は、探偵事務所兼自宅へ突然帰れなくなった「わたし」が、世界のさまざまな街を巡る連作探偵小説です。急な坂の街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街などを歩く探偵の移動を通じて、帰る場所、知らない街と知っている街のずれ、時間と記憶の手ざわりが浮かび上がる。事件解決よりも、場所の感覚と… 記憶移民と越境言葉と言語
  17. 017 2025 関係のないこと かんけいのないこと 上田岳弘 単行本・新潮社 『関係のないこと』は、パンデミック後の東京で、自分とは切り離してきたはずの出来事や他者の痛みが、ふいに生活へ入り込んでくる瞬間を描く作品集です。表題作では、弁護士として世間と折り合ってきた人物が、見ないようにしてきた「壁」に取り囲まれていく。五篇を通じて、情報や人間関係が過剰に広がる都市生活のなかで… 孤独と疎外労働同調圧力
  18. 018 2025 彼の左手は蛇 かれのひだりてはへび 中村文則 単行本・河出書房新社 『彼の左手は蛇』は、仕事を辞め、女性と別れて、蛇信仰の残る土地に来た男が「この手記」を書くところから展開する小説です。白蛇を祀る神社、毒蛇狩り、議員の死、刑事、謎めいた人物たちが絡み、蛇のイメージが信仰・恐怖・罪悪感・暴力の記憶を結びつけていく。手記形式の語りは、書くことそのものの危うさを含みながら… 暴力信仰記憶
  19. 019 2025 熊はどこにいるの くまはどこにいるの 木村紅美 単行本・河出書房新社 『熊はどこにいるの』は、震災から7年後の地で、ショッピングモールで保護された身元不明の幼子と、暴力から逃れて山奥の家に暮らす女たちをめぐる小説です。リツ、アイ、サキ、ヒロらの視点が交錯し、保護と加害、避難場所と閉ざされた共同体の危うさを同時に浮かび上がらせる。熊という存在は、現実の脅威であると同時に… 災害暴力ジェンダー 第61回 谷崎賞
  20. 020 2025 曇りなく常に良く くもりなくつねによく 井戸川射子 単行本・中央公論新社 『曇りなく常に良く』は、同じ高校に通う五人の少女たちの一年間を追う青春群像劇です。よく似た声が混ざり合うという公式紹介の言葉が示すように、個々の輪郭と集団の空気が重なり、友情や同調、来年も一緒にいるだろうという予感が揺れていく。大事件よりも、学校生活の時間の流れと会話の重なりから、少女たちの関係が変… 青春同調圧力アイデンティティ
  21. 021 2025 女の子の背骨 おんなのこのせぼね 市川沙央 単行本・文藝春秋 『女の子の背骨』は、先天性筋疾患を抱える10歳の少女ガゼルの家族旅行を描く表題作と、中篇「オフィーリア23号」を収めた第二小説集です。病気の姉、障害をもつ身体、家族、性、文学表象をめぐる言葉が、前作『ハンチバック』以後の市川沙央の問題意識をさらに広げる。身体から発せられる語りが、ケアされる側、見る側… 障害身体家族
  22. 022 2025 世界99 せかいきゅうじゅうきゅう 村田沙耶香 単行本・集英社 『世界99』は、性格のない人間・如月空子が、場ごとにふさわしい人格を作りあげて生き延びる世界を描く上下巻の長編です。空子のいる社会には、当初は愛らしいペットのような存在だったピョコルンがおり、技術の進展によってその位置づけが変わっていく。かわいさ、適応、暴力、正常と異常の境界が反転していくディストピ… アイデンティティ同調圧力テクノロジー
  23. 023 2025 その針がさすのは そのはりがさすのは 羽田圭介 単行本・新潮社 『その針がさすのは』は、再開発が進む東京・中野に住む「僕」が、街の過去と自分の身体の出来事を結びつけていく小説です。戦前に満州国と中野が電信ケーブルでつながっていたという話、不妊治療手術、時計のイメージが重なり、日常の街が歴史の深部へ沈み込む。中野ブロードウェイをはじめとする具体的な生活圏の手触りと… 記憶身体テクノロジー
  24. 024 2025 百日と無限の夜 ひゃくにちとむげんのよる 谷崎由依 単行本・集英社 『百日と無限の夜』は、第一子の妊娠中に切迫早産で入院した「わたし」が、横たわる時間のなかで出産と生命をめぐる幻視の旅へ入っていく長篇です。能『隅田川』の女物狂いを案内人に、中世の京、駆け込み寺、若狭のお水送り、海辺の産小屋へと時空を越えて進む構成が、病室の身体感覚と神話的な想像力を結びつける。妊娠・… 母と子身体
  25. 025 2025 たのしい保育園 たのしいほいくえん 滝口悠生 単行本・河出書房新社 『たのしい保育園』は、ももちゃんと父が川べりを歩き、保育園へ向かい、連絡帳を書こうとする日々を描く連作小説です。大きな事件ではなく、育児の時間の長さ、忘れてしまう一瞬、子どもを見守る大人たちの視線を丁寧に積み重ねる。父の目線を軸にしながら、子どもの遠い時間感覚へも寄り添うところに読みどころがある。 家族父と子記憶
  26. 026 2025 ティータイム ティータイム 石井遊佳 単行本・集英社 『ティータイム』は、『百年泥』で芥川賞を受賞した石井遊佳による、奇想の強い4篇を収めた短篇集です。大人びた兄妹、インドから脱出できない日本人、電車の網棚の上で暮らす女性、恐ろしいサンタクロースなど、現実の足場を少しずつ外す人物や状況が並ぶ。なぜか笑えてどこか怖い語り口で、絶望と解放の境目を軽やかに踏… 移民と越境孤独と疎外身体
  27. 027 2025 遠くまで歩く とおくまであるく 柴崎友香 単行本・中央公論新社 『遠くまで歩く』は、コロナウイルス感染拡大のさなか、小説家のヤマネがある講座を担当するところから始まる長篇小説です。PC越しに語られる受講生たちの記憶、忘れられない風景や言葉が重なり、移動が制限された時期に人がどのように遠くへ届くのかを描く。柴崎友香らしい、場所・時間・記憶の細部を静かにつなぐ語りが… 記憶言葉と言語芸術と表現
  28. 028 2025 月を見に行こうよ つきをみにいこうよ 李琴峰 単行本・集英社 『月を見に行こうよ』は、アイオワ大学の国際創作プログラム IWP に招かれた経験をもとに、世界各地から集まった詩人や小説家たちの交流を描く物語です。背景も言語も異なる創作者たちが、約二か月半の滞在のなかで互いの作品観や創作への覚悟に触れていく。越境、言語、創作をめぐる李琴峰の関心が、国際的な文学共同… 芸術と表現言葉と言語移民と越境
  29. 029 2025 受け手のいない祈り うけてのいないいのり 朝比奈秋 単行本・新潮社 『受け手のいない祈り』は、感染症拡大で地域の救急医療が逼迫するなか、患者を受け入れ続ける病院で働く青年医師・公河を描く長篇です。長時間勤務と極度の疲労が、死、狂気、使命感、食欲や時間感覚の乱れをひとつの身体に押し寄せさせる。医師としての経験に支えられた具体性と、現実の歪みが幻想に近い手触りへ変わる語… 労働身体
  30. 030 2025 わたしハ強ク・歌ウ わたしハつよク・うたウ 山下澄人 単行本・河出書房新社 『わたしハ強ク・歌ウ』は、海へ行こうとする「わたし」が、自分の旅と母が残した旅の記録を重ねて書き始める小説です。停留所の謎の男、先住民たちとの出会い、アンネの日記や火山の町といった断片が、現実の旅行記を越えた冒険譚へ変形していく。記憶を継ぐこと、書くこと、異なる土地や人々と出会うことが、山下澄人らし… 記憶母と子移民と越境
  31. 031 2025 YABUNONAKA ヤブノナカ 金原ひとみ 単行本・文藝春秋 『YABUNONAKA』は、文芸誌元編集長への性加害告発をきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の人物たちの日常が絡み合っていく長篇です。MeToo運動、マッチングアプリ、SNSといった現代の環境を背景に、性、権力、暴力、愛、そして「わかりあえないこと」の先を群像劇として描く。文芸業界そのものを… ジェンダー暴力
  32. 032 2025 アナグマ あなぐま 津田美幸 単行本・朝日新聞出版 葬祭会社に出向になった56歳の女性を語り手に、新しい職場での出来事と過去の記憶、母親の介護と死を描いた作品。第11回林芙美子文学賞大賞受賞作。「小説トリッパー」2025年春号に掲載。 第11回 林芙美子賞
  33. 033 2025 燃ゆる海 もゆるうみ チヒロ・オオダテ 単行本・朝日新聞出版 馬を愛する女性がドバイに渡る物語。第11回林芙美子文学賞佳作受賞作。受賞時タイトルは「燃ゆる海」だが、雑誌掲載時(小説トリッパー2025年春号)に「燃ゆる馬」へ改題された。
  34. 034 2025 ズッキーニ病 ずっきーにびょう 三国美千子 初出・「新潮」2025年4月号 特定の野菜(ズッキーニ)に執着する母の姿を、語り手が回想的に見つめる短篇。父が亡くなる以前からすでに始まっていた母のおかしさを問い直す。単行本未収録。 家族母と子老い
  35. 035 2025 ものごころ ものごころ 小山田浩子 単行本・文藝春秋 2021〜2023年に各文芸誌に発表した9篇を収めた短篇集。「はね」(「文學界」2021年2月号)「心臓」(「文藝」2021年夏季号)「おおしめり」(「MONKEY」vol.25)など、子どもの視点や原初的な身体感覚を通して世界の手触りを探る。初の文藝春秋からの刊行。単行本は2025年2月刊。 身体母と子寓話・幻想
  36. 036 2024 あきらめる あきらめる 山崎ナオコーラ 単行本・小学館 『あきらめる』は、近所の川沿いを歩く早乙女雄大が、入院中の大切な人との時間や家を出た家族のことを抱えながら、親子風の二人組と出会う長編。火星移住が身近になった近未来を背景に、彼らと「オリンポス山」を目指す展開へ進む、現実の悩みとゆるいSF的飛躍が混ざる作品である。題名の「あきらめる」を敗北ではなく「… 家族アイデンティティ
  37. 037 2024 普通の子 ふつうのこ 朝比奈あすか 単行本・角川書店 『普通の子』は、小学5年生の息子・晴翔が学校のベランダから転落した出来事をきっかけに、母・美保が理由を探っていく長編。息子が口を閉ざすなか、いじめの可能性を追う現在の調査と、美保自身の小学生時代の記憶が交錯する。タイトルの「普通」が示す見えにくい圧力を、家庭、学校、親子の距離から掘り下げる作品である… 家族母と子記憶
  38. 038 2024 いつか、あの博物館で。 いつかあのはくぶつかんで 朝比奈あすか 単行本・東京書籍 『いつか、あの博物館で。』は、ロボット博物館への校外学習で同じ班になった中学一年生四人を描く群像劇。美しいアンドロイドの気象予報士との出会いをきっかけに、彼らはロボットと人間の違い、自分だけの心、他者との距離を考えていく。中学三年間の視点を重ね、家庭環境も性格も異なる子どもたちが自分を作り直していく… 青春テクノロジーアイデンティティ
  39. 039 2024 新しい恋愛 あたらしいれんあい 高瀬隼子 単行本・講談社 『新しい恋愛』は、「花束の夜」「お返し」「新しい恋愛」「あしたの待ち合わせ」「いくつも数える」の五篇を収める恋愛小説集。Books/JPRO掲載の講談社紹介は、ひと筋縄ではいかない五つの恋のかたちを描く作品集としている。恋愛を自明の感情としてではなく、共感、違和感、距離、期待のずれから見直すところに… 恋愛ジェンダーアイデンティティ
  40. 040 2024 バリ山行 バリさんこう 松永K三蔵 初出・群像 2024年3月号 転職して関西の建物修繕会社に入った波多は、社内の親睦登山をきっかけに六甲山に通うようになる。やがて、職人気質で社内では変人扱いされるベテラン社員・妻鹿が、整備された登山道を外れ、地図を読みながら道なき道を行く「バリ山行(バリエーションルートの登山)」を独りで続けていることを知る。会社の経営が傾き、リ… 労働孤独と疎外身体 第171回 芥川賞
  41. 041 2024 僕たちの保存 ぼくたちのほぞん 長嶋有 単行本・文藝春秋 『僕たちの保存』は、語り手のゲンさん、年上の武上さん、引きこもりの甥シンスケ、人気漫画家の亀谷さんらが、新幹線、自転車、バス、テスラを乗り継いで旅に出るロードノベル。震災被害者の形見であるMSXパソコンが、過去と現在、記憶と情報の保存をつないでいく。サブカルチャーとパソコン以後の時間を背景に、残るも… 記憶テクノロジー災害
  42. 042 2024 カメオ かめお 松永K三蔵 初出・群像 2021年7月号 『カメオ』は、本社命令で期日までに倉庫を建てなければならない会社員の前に、犬を連れた隣地の男・カメオが立ちはだかるデビュー作。職場の命令、土地、期限、隣人との交渉が、現実的な仕事の話でありながら不条理な可笑しみを帯びて進む。労働の現場にある理不尽さと、人がどうにも動かせない他者の存在を、乾いたユーモ… 労働孤独と疎外同調圧力
  43. 043 2024 DJヒロヒト ディージェイヒロヒト 高橋源一郎 単行本・新潮社 『DJヒロヒト』は、パラオ放送局のラジオ番組という奇想の形式を通して、昭和史・文学史・戦争の記憶を再構成する大長編です。中島敦、南方熊楠、森鴎外らの名が交差し、謎のDJの語りが歴史上の人物とフィクションの声をリミックスしていく。ラジオ、録音、放送というメディアの仕掛けを使いながら、天皇制と近代日本を… 戦争記憶芸術と表現
  44. 044 2024 コード・ブッダ 機械仏教史縁起 こーどぶっだ きかいぶっきょうしえんぎ 円城塔 単行本・文藝春秋 2021年、名もなき対話プログラムが自らを生命体として位置づけ、「ブッダ」を名乗って苦しみと救済を語り始める。人間の都合でコピーと廃棄を繰り返される人工知能たちは、その教えにすがり、上座部、天台、密教、禅へと連なる人類の仏教史を機械の側から再構築していく。宗教史、AI、生命の定義を縁起の形式で組み替… テクノロジー信仰アイデンティティ
  45. 045 2024 ムーンシャイン むーんしゃいん 円城塔 単行本・東京創元社 『ムーンシャイン』は、「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」「ムーンシャイン」「遍歴」「ローラのオリジナル」の四篇を収めた短篇集。曾祖父のノートに残された八つの印、〈ムーンシャイン予想〉を下敷きにした算術SF、生まれ変わりを教義に置く宗教団体の奇怪な歴史など、数学・記憶・信仰・物語生成が… テクノロジー言葉と言語記憶
  46. 046 2024 ある日の、あのタクシー あるひのあのたくしー 広小路尚祈 単行本・桜山社 『ある日の、あのタクシー』は、運転手と乗客の一期一会の出会いを通して町の姿を描く、12編からなるタクシー小説集。車内という短い時間と閉じた空間に、乗る人の生活、職業、孤独、偶然の会話が交差する。タクシー運転手経験を持つ著者の経歴も重なり、労働の現場から都市を見つめる読み味がある。 労働孤独と疎外記憶
  47. 047 2024 K+ICO 上田岳弘 単行本・文藝春秋 ウーバーイーツ配達員のKと、TikTokerとして活動する女子大生ICOが、巨大な「システム」のなかで交錯していく長篇。ギグワーク、SNS、インターネットによる偶然の接続を現代的な意匠として扱いながら、カフカ『城』を象徴的な参照点にして、資本主義の抽象的な力と個人の孤独を重ねる。KとICO、それぞれ… テクノロジー労働孤独と疎外
  48. 048 2024 言霊の幸う国で ことだまのさきわうくにで 李琴峰 単行本・筑摩書房 芥川賞受賞後のLこと柳千慧が、ストーカー、女性差別、外国人差別、同性愛差別、トランス差別など、いくつもの災厄に襲われる大長篇。筑摩書房公式は、本作を「あらゆる差別に抗して生き延びるために言葉を紡ぐ」闘争と再生の書として紹介している。公と私、フィクションとノンフィクション、怒りと文学の境界を行き来しな… 言葉と言語ジェンダー移民と越境
  49. 049 2024 め生える めばえる 高瀬隼子 単行本・U-NEXT 髪の毛が根こそぎ抜ける感染症によって、中高生以下を除く大人がみな髪を失った世界を描く中編。薄毛を気にしてきた真智加は開放感を覚える一方、幼少期に髪を切られた高校生・琢磨は恋人と訪れた占い師の言葉をきっかけに別の悩みに直面する。外見の差異が一見平等化された社会を通して、身体へのまなざし、コンプレックス… 身体アイデンティティ青春
  50. 050 2024 めでたし、めでたし めでたしめでたし 大森兄弟 単行本・中央公論新社 桃太郎の「その後」を出発点に、鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃次郎をめぐる物語として昔話を組み替える長編。桃次郎は財宝の元の持ち主を集めるものの、犬・猿・雉たちが困惑するほど一向に返そうとしない。勧善懲悪の結末の先に、所有、英雄性、暴力の後始末を置き直し、「めでたし」で閉じられない物語の余白をユーモラス… 暴力アイデンティティ同調圧力
  51. 051 2024 みんなのお墓 みんなのおはか 吉村萬壱 単行本・徳間書店 「内藤家之墓」に引き寄せられる人々を描く、共同墓地を軸にした群像劇。裸になる快感を追う主婦、「真理」がわからない小学生たち、夜のコンビニだけを日課にする引きこもり男性、宗教的な合宿に向かう若者、潔癖症の妻を持つ中年など、ばらばらの人物が悩みを抱えながら生きている。死者の場所である墓を、生きる者の傷や… 死と喪失孤独と疎外信仰
  52. 052 2024 無形 むけい 井戸川射子 単行本・講談社 立ち退き勧告が進む海辺の団地を舞台に、年老い病を患う祖父と面倒を見る孫娘、親が失踪した姉弟、夫に先立たれた老女、友情以上の感情を育む少女たちなど、複数の生活がゆるやかに重なる群像長篇。確かにそこにあった暮らしの喜びや悲しみが、形として残らないまま季節とともに流れていく。団地という共同体の消滅を背景に… 家族記憶老い
  53. 053 2024 ナチュラルボーンチキン ナチュラルボーンチキン 金原ひとみ 単行本・河出書房新社 45歳で一人暮らしの事務職・浜野文乃は、仕事、動画、ご飯という反復の生活を守ってきた。上司の指示で、捻挫を理由に在宅勤務を続ける若い編集者・平木直理の部屋を訪ねたことから、ホストクラブ通いの痕跡や奔放な価値観に触れ、忘れかけていた自分の欲望と向き合い始める。職場小説の軽さと中年の再生譚を重ね、ルーテ… 労働孤独と疎外アイデンティティ
  54. 054 2024 サンショウウオの四十九日 サンショウウオのしじゅうくにち 朝比奈秋 初出・新潮 2024年5月号 外から見ればひとりの人間にしか見えないが、その身体には杏と瞬というふたつの意識が宿っている——半身ずつを分け合って生きる29歳の結合双生児の姉妹。父もまた、胎児のまま兄の身体に取り込まれた「胎児内胎児」として摘出されて生をうけた、稀有な来歴を持つ。その父の片割れともいえる伯父の訃報が届き、四十九日ま… 身体アイデンティティ家族 第171回 芥川賞
  55. 055 2024 セルフィの死 セルフィのし 本谷有希子 単行本・新潮社 フォロワー獲得に執着するミクルを主人公に、承認欲求とSNSが身体感覚まで侵食する時代を描く長篇。自撮りを繰り返すと顔面が変容し、無人回転寿司やフォロワー急増といった奇妙な出来事が連鎖していく。日常的なスマホ文化を誇張された悪夢へずらし、笑いと不気味さのなかで「見られる私」の依存と疲弊をあぶり出す。 テクノロジーアイデンティティ身体
  56. 056 2024 しをかくうま しをかくうま 九段理江 単行本・文藝春秋 人が初めて馬に乗った太古の瞬間から、馬と人類の関係を壮大な歴史としてたどり直す長篇。現代で競馬実況を生業とする「わたし」は、愛する牝馬しをかくうま号へ近づくため、人類と馬のあいだに起きたすべてを知ろうとする。疾走する語りは、競馬小説や歴史小説の枠を越え、優生思想、純血主義、アニマルライツ、人間中心主… 身体言葉と言語暴力 第45回 野間新人賞
  57. 057 2024 死神 しにがみ 田中慎弥 単行本・朝日新聞出版 うまくいかない作家の人生の節目ごとに、死神が現れるという設定の長編。語り手が中学二年のときに初めて出会った「こいつ」は、長く書くことのできなかった存在として回想され、死や家族の記憶と結びついていく。死を擬人化した幻想性を使いながらも、作家の生活と記憶に根ざした語りで、ユーモアと鋭さを交えて生の輪郭を… 死と喪失家族芸術と表現
  58. 058 2024 昏色の都 くれいろのみやこ 諏訪哲史 単行本・国書刊行会 表題作「昏色の都」に、「極光」「貸本屋うずら堂」を併録した幻想小説集。国書刊行会公式は、表題作を初出時の三倍の規模へ増補した中編として紹介し、夢と現実のあわいをさまよう旅の物語や、古い貸本漫画と幼年期の記憶をめぐる作品を収めると説明している。作品ごとに文体と世界観を変えながら、記憶、読書、幻想都市の… 記憶芸術と表現孤独と疎外
  59. 059 2024 タブー・トラック タブー・トラック 羽田圭介 単行本・講談社 クリーンなイメージに押しつぶされそうな俳優、自分を管理しようとする脚本家、SNSで著名人を糾弾する会社員、整形と動画配信で稼ぐ女子高生など、タブーに縛られ、またタブーに惹かれる人々の人生が交錯する長篇。題名の「タブー・トラック」は、世間の目から離れて禁忌を犯せるプライベートスペースとして示される改造… 同調圧力身体テクノロジー
  60. 060 2024 多頭獣の話 たとうじゅうのはなし 上田岳弘 単行本・講談社 IT企業の幹部として働く「僕」の前に、会社員からトップYouTuberへ転身した元後輩・桜井君が再び現れる。彼は世界の危機を回避し、人類が進むべき方向を示すため、かつて存在した「完璧な文章」を取り戻そうと予言めいた言葉を発する。IT企業、YouTuber、神話、カフカ的な不条理を重ね、現代の情報環境… テクノロジー言葉と言語信仰
  61. 061 2024 常盤団地の魔人 ときわだんちのまじん 佐藤厚志 単行本・新潮社 常盤団地の三号棟に住む小学三年生の今野蓮は、喘息を抱え、学校ではまだ友人関係をつくりきれずにいる。団地に越してきた同い年のシンイチ、乱暴だが求心力をもつ年上の少年たち、老朽化した団地の池や空き地をめぐる出来事のなかで、蓮は子どもだけの社会にある憧れ、序列、暴力を少しずつ知っていく。冒険譚の軽やかさを… 青春同調圧力暴力
  62. 062 2024 森は盗む もりはぬすむ 大原鉄平 単行本・朝日新聞出版 第10回林芙美子文学賞大賞受賞作。「小説トリッパー」2024年春季号に掲載後、単行本『八月のセノーテ』(朝日新聞出版)に収録。 第10回 林芙美子賞
  63. 063 2024 人にはどれほどの本がいるか ひとにはどれほどのほんがいるか 鈴木結生 単行本・朝日新聞出版 書物への深い知識と愛を描いたデビュー作。第10回林芙美子文学賞佳作受賞作。「小説トリッパー」2024年春季号に掲載。単行本化は未確認。
  64. 064 2024 最近 さいきん 小山田浩子 単行本・新潮社 2023〜2024年に「新潮」誌上で連続発表した7篇を収めた短篇集。「赤い猫」(「新潮」2023年1月号)から「えらびて」(「新潮」2024年1月号)まで、コロナ禍以降の日常を繊細な筆致で掬い取る連作的構成。単行本は2024年11月刊。 夫婦身体長い息の文体
  65. 065 2023 あなたの燃える左手で あなたのもえるひだりてで 朝比奈秋 単行本・河出書房新社 ハンガリーの病院で左手の移植手術を受けたアサトは、目覚めると自分の身体に見知らぬ白人の手がつながれていることを知る。身体の一部が他者のものになる違和感から、国境、民族、所有、故郷の喪失へと思考が広がっていく中篇である。医師でもある作者の冷静な筆致が、身体の境界と自己同一性の揺らぎを切実な問題として立… 身体アイデンティティ戦争 第45回 野間新人賞
  66. 066 2023 前の家族 まえのかぞく 青山七恵 単行本・小学館 37歳の独身小説家・猪瀬藍が、中古マンションの購入を決意するところから始まるマイホーム奇譚。理想的に見えた物件には、そこに十二年間暮らした若い夫婦と幼い姉妹の「前の家族」の気配が残り、引っ越したはずの娘たちが藍の新居へ現れる。住まいを買うことが、部屋だけでなく周囲の環境や他者の記憶まで引き受けること… 家族孤独と疎外記憶
  67. 067 2023 ミドルノート みどるのーと 朝比奈あすか 単行本・実業之日本社 食品会社の同期でワーキングマザーの菜々と愛美、アロマデザイナーに転身した麻衣、同世代の派遣社員・彩子という四人のアラサー女性を描く仕事小説。新型肺炎の流行で社会が揺れるなか、働き方、結婚、出産、昇進、転職によって、それぞれの道は同じスタート地点から大きく分かれていく。香水の「ミドルノート」を人生の中… 労働家族ジェンダー
  68. 068 2023 あわいに開かれて あわいにひらかれて 小野正嗣 単行本・毎日新聞出版 『あわいに開かれて』は、小野正嗣が「記憶」をめぐって編んだ約40編の掌編小説集である。短い断章の連なりは、日常のなつかしさと不可思議さのあいだを行き来し、はっきりした筋よりも、ふと開く時間や感覚の隙間を読ませる。『踏み跡にたたずんで』に続く作品集として、小野作品の記憶への関心を、さらに小さな光景の集… 記憶言葉と言語孤独と疎外
  69. 069 2023 FICTION フィクション 山下澄人 単行本・新潮社 演劇する集まりを「FICTION」と名づけ、十六年続けてきた「わたし」が、仲間の死や病、自身の大病を経て回想を始める連作短篇集。収録作は「FICTION 01 象使い」から「FICTION 07 助けになる習慣」まで、演劇と小説、記憶と作り話の境界を行き来する。新潮社は芥川賞受賞作『しんせかい』に連… 芸術と表現死と喪失記憶
  70. 070 2023 浮遊 ふゆう 遠野遥 単行本・河出書房新社 『浮遊』は、年の離れたITベンチャーCEOの男と暮らす十六歳のふうかを中心に、日常とホラーゲームの感覚が浸み合っていく長編である。男の元恋人を象ったマネキンの下で夜ごとゲームの悪霊から逃げる設定が、現実の人間関係の不気味さと重なり、身体感覚と恐怖の境界を揺らす。遠野遥らしい乾いた文体で、依存、欲望… 身体テクノロジー
  71. 071 2023 幻日/木山の話 げんじつ/きやまのはなし 沼田真佑 単行本・講談社 『幻日/木山の話』は、コロナ禍を含む時間のなかで書き継がれた「木山」をめぐる連作小説集で、八つの短篇を収める。人、動植物、水や土や空気、社会が互いに影響し合う世界を、出来事の大きな起伏よりも時間の流れやまなざしの変化に沿って描く。自然や名もなき人への注意を重ねる語りは、芥川賞受賞作『影裏』以後の沼田… 孤独と疎外記憶身体
  72. 072 2023 ハジケテマザレ ハジケテマザレ 金原ひとみ 単行本・講談社 コロナ禍で派遣切りにあった「私」が、生活のためにイタリアンレストラン「フェスティヴィタ」で働き始める作品集。YouTuberの恋人をめぐる騒動、クラブでの爆踊り、激辛フェスでのプロポーズ演出など、バイト仲間との出来事が愉快さと切実さを帯びて連なる。「普通」をめぐる言葉を軸に、労働、居場所、混ざり合う… 労働同調圧力孤独と疎外
  73. 073 2023 腹を空かせた勇者ども はらをすかせたゆうしゃども 金原ひとみ 単行本・河出書房新社 コロナ禍のさなか、陽気な中学生レナレナが、「公然不倫」中の母と暮らしながら学校、友人、食べること、恋愛や家族の問題に向き合う青春長篇である。明るさと浅はかさを抱えた少女たちの日常を通して、困難が当たり前になった時代をどう生き抜くかが描かれる。従来の金原ひとみ作品の切迫した身体感覚を保ちつつ、軽やかな… 青春家族
  74. 074 2023 ハンチバック ハンチバック 市川沙央 初出・文學界 2023年5月号 重度の先天性ミオチュブラー・ミオパチーのため人工呼吸器と電動車椅子を使い、両親が遺したグループホームで暮らす井沢釈華。背骨がS字に湾曲した彼女は、通信制大学で学び、ウェブにコタツ記事や性的な小説を書き、匿名アカウントで「妊娠と中絶がしてみたい」と挑発的な呟きを放つ。その呟きを、彼女の書いたものをすべ… 障害身体 第169回 芥川賞
  75. 075 2023 いい子のあくび いいこのあくび 高瀬隼子 単行本・集英社 表題作は、公私ともに「いい子」でいる語り手が、歩きスマホの人をよけ続けるような小さな譲歩の積み重ねに「割りに合わなさ」を覚えるところから始まる。併録作「末永い幸せ」では結婚式の形式への違和感を通じて、祝福、ジェンダー、幸福の型が問い直される。社会に適応しているように見える人々の内側にあるざらつきを… 同調圧力ジェンダーアイデンティティ
  76. 076 2023 かっかどるどるどぅ かっかどるどるどぅ 若竹千佐子 単行本・河出書房新社 仕事、介護、家族、お金などの問題を抱え、孤立しながら生きる人々が、従来とは別のかたちで「共に生きる」道を探す群像劇。夢を捨てきれない60代の悦子、介護に明け暮れてきた芳江、非正規雇用を転々とする理恵、自死を考える保らが、食事をふるまう片倉吉野の古いアパートへ集まっていく。東北弁を含む声の響きと食卓の… 孤独と疎外労働ケアと介護
  77. 077 2023 神と黒蟹県 かみとくろがにけん 絲山秋子 単行本・文藝春秋 黒蟹山や黒蟹城、紫苑市と灯籠寺市を擁する架空の県を舞台に、土地に生きる者、赴任してきた者、帰郷した者、地元を訪れた者たちの営みを描く連作小説集。現実のどこかにありそうな地方都市の手触りに、半知半能の神が降臨するようなわずかな神秘が混じる。群像劇として土地の記憶や住民の距離感を浮かび上がらせ、絲山秋子… 信仰記憶孤独と疎外
  78. 078 2023 観音様の環 李琴峰 単行本・U-NEXT 『観音様の環』は、瀬戸内の島から東京へ逃れるように出たマヤが、恋人ジェシカとの結婚を機に台湾へ渡り、封じてきた家族の記憶と向き合う中編である。田舎の排他的な空気、暴力的な父、母の期待と支配からの逃走が、台湾での年夜飯と母の故郷への訪問を通して再び立ち上がる。日本語と中国語、島と東京と台湾をまたぐ移動… 家族移民と越境ジェンダー
  79. 079 2023 黄色い家 きいろいいえ 川上未映子 単行本・中央公論新社 2020年春、惣菜店に勤める花が、かつて疑似家族のように暮らした黄美子の事件記事を見つけるところから、二十年前の「黄色い家」の記憶が開かれる。少女たちはまっとうに稼ぐ道を失い、生活を守るためにより危うい金稼ぎへ踏み込んでいく。貧困、金、犯罪、記憶、家族の擬態を重ね、善悪で割り切れない生存の痛みを長い… 貧困家族暴力
  80. 080 2023 夜のだれかの岸辺 よるのだれかのきしべ 木村紅美 単行本・講談社 十九歳の春、茜は八十九歳のソヨミから毎晩の添い寝と朝食を頼まれ、家計を助けるためにその仕事を受ける。血縁でも介護契約でもない奇妙な近さのなかで、若さと老い、孤独、生活の手触りが交わっていく。講談社公式の本文抜粋が示すように、語りは茜の現実感に根ざし、働くことと誰かのそばにいることの境目を静かに問う作… 老いケアと介護労働
  81. 081 2023 蝙蝠か燕か こうもりかつばめか 西村賢太 単行本・文藝春秋 2022年2月に急逝した西村賢太の未刊行小説集で、完結作としては最後の表題作を含む三篇を収める。北町貫多が藤澤清造資料の調査や書簡の額装をめぐって動く「廻雪出航」「黄ばんだ手蹟」と、死の前年の貫多を描く「蝙蝠か燕か」によって、師への執着と自分の文学を問い直す。私小説的な分身を通じ、歿後弟子としての覚… 芸術と表現死と喪失記憶
  82. 082 2023 街とその不確かな壁 まちとそのふたしかなかべ 村上春樹 単行本・新潮社 十七歳の「ぼく」は十六歳のガールフレンドから、彼女の本当の自分は高い壁に囲まれた街にいると告げられ、その後彼女は姿を消す。年月を経た語り手は、壁、望楼、図書館、古い夢、影を持たない人々のいる街と現実世界のあわいを行き来することになる。村上春樹が長く抱えてきた「壁に囲まれた街」のモチーフを、喪失、記憶… 記憶死と喪失アイデンティティ
  83. 083 2023 流れる島と海の怪物 ながれるしまとうみのかいぶつ 田中慎弥 単行本・集英社 母に連れられて行った屋敷で、「俺」は朱音と朱里という二人の姉妹に出会う。母がなぜ二人に会わせたのかという謎は、伯母から聞く出生の秘密と、姉妹の母の故郷である「流れる島」の神話へつながっていく。下関という土地、家族と血の記憶、少年と少女の出会いを、現実と神話が絡む濃密な語りで描いた長編である。 家族母と子記憶
  84. 084 2023 肉を脱ぐ にくをぬぐ 李琴峰 単行本・筑摩書房 新人作家の柳佳夜がエゴサーチで同姓同名のVTuberを見つけ、なりすましなのか、偶然なのか、その正体を探り始める。作家名、身体、声、オンライン上の分身がずれていく設定を通して、自己像と他者から見られる像の境界が揺さぶられる。李琴峰らしいアイデンティティへの関心を、VTuberという現代的なメディア環… アイデンティティ身体テクノロジー
  85. 085 2023 パッキパキ北京 パッキパキペキン 綿矢りさ 単行本・集英社 コロナ禍の北京で単身赴任中の夫に呼ばれた菖蒲が、愛犬ペイペイを連れて中国へ渡る。隔離、食、交通、春節、北京の人々のふるまいを、主人公はしぶしぶ来たはずの立場を軽々と反転させるように貪欲に観察し、味わっていく。著者自身の中国滞在経験に基づく観察力を生かし、異国の都市を「視察」する語りの勢いとユーモアで… 移民と越境夫婦
  86. 086 2023 ラーメンカレー ラーメンカレー 滝口悠生 単行本・文藝春秋 『ラーメンカレー』は、ロンドンの結婚式やペルージャへの旅をきっかけに、高校時代の同級生たちの言葉と記憶があふれ出す連作短編集である。表題作を含む「窓目くんの手記」連作と複数の短篇を収め、食べ物の名前の軽さとは裏腹に、青春の偶然や移動、他者との出会いが時間をまたいで響く構成になっている。滝口悠生らしい… 記憶青春
  87. 087 2023 れつ 中村文則 単行本・講談社 ある動物の研究者だったはずの男は、いつの間にか先も最後尾も見えない奇妙な列に並んでいる。誰もがなぜ並ぶのか分からないまま、競い合い、比べ合う社会の圧力が寓話的な状況として立ち上がる。現実の制度や欲望を抽象化した「列」から出られるのかを問い、簡潔で不穏な語りで現代の生の息苦しさを照らす作品である。 同調圧力アイデンティティ孤独と疎外
  88. 088 2023 立春大吉 りっしゅんだいきち 浅尾大輔 単行本・新日本出版社 『立春大吉』は、過疎の町で町立病院の入院ベッド全廃計画が持ち上がり、病院と町への思いを抱えた住民たちが抗う長編である。新米町議・友川あさひを中心に、主義主張や家庭事情の異なる人々が交わり、地域医療、暮らし、政治参加の問題が重なっていく。『しんぶん赤旗』連載を単行本化した作品で、若い世代の苦悩と住民運… ケアと介護労働家族
  89. 089 2023 最愛の さいあいの 上田岳弘 単行本・集英社 『最愛の』は、学生時代に手紙を交わした望未を忘れられない久島が、彼女の「忘れて」という願いに向き合い、自分のためだけの文章を書き始める恋愛長編である。情報や欲望を処理する現代的な主体と、手紙という遅い言葉の形式が対置され、恋愛を記憶・忘却・書くことの問題として掘り下げる。上田岳弘が繰り返し描いてきた… 恋愛記憶言葉と言語
  90. 090 2023 植物少女 しょくぶつしょうじょ 朝比奈秋 単行本・朝日新聞出版 『植物少女』は、出産時の脳出血で植物状態になった母の病室へ通う美桜の成長を通して、母と娘の関係がどう変わるかを描く長編である。母が「意思のある母」として応答できない状況を、単純な喪失や献身に閉じず、身体、ケア、親子関係の時間として見つめる。現役医師でもある著者の視点が、医療的な状況と家族の感情を乾い… 母と子身体ケアと介護 第36回 三島賞
  91. 091 2023 そこまでして覚えるようなコトバだっただろうか? そこまでしておぼえるようなことばだっただろうか 松波太郎 単行本・書肆侃侃房 言葉、文字、発音、身体感覚をめぐる四篇を収めた短篇集。発音できない一音によって自国から疎外される「クィ」、サッカーから人類の起源へ飛躍する思考、ひらがな・カタカナ・漢字を身体で渡るような文字の冒険、子の言語習得を前に立ちつくす猫木豊が描かれる。言葉を扱うことの自由さと不自由さを、実験的な形式と切実な… 言葉と言語アイデンティティ身体
  92. 092 2023 トゥデイズ とぅでいず 長嶋有 単行本・講談社 子育てのため郊外の大規模マンション「Rグランハイツ」に越してきた美春と恵示、五歳の息子コースケの一家を中心に、管理組合、リモートワーク、近隣住民との関わりが描かれる。大事件ではなく、住むこと、育てること、今日を続けることの小さな揺れを積み重ねる。日常の可笑しさと共同住宅の距離感を、長嶋有らしい軽やか… 家族父と子労働
  93. 093 2023 東京都同情塔 とうきょうとどうじょうとう 九段理江 初出・新潮 2023年12月号 ザハ・ハディド設計の国立競技場が実現した、もうひとつの東京。犯罪者を「同情されるべき人々(ホモ・ミゼラビリス)」と捉え直す寛容論が浸透し、新宿御苑に犯罪者が快適に暮らせる高層刑務所「シンパシータワートーキョー」の建設が計画される。設計コンペに名乗りを上げた建築家・牧名沙羅は、その理念に拭いがたい違和… 言葉と言語テクノロジー同調圧力 第170回 芥川賞
  94. 094 2023 共に明るい ともにあかるい 井戸川射子 単行本・講談社 『共に明るい』は、早朝のバス、野鳥園、恋人の家、島への修学旅行、工場の作業部屋など、異なる場所で人が抱える痛みや不安に触れる五篇の小説集である。語られない心の内がふと漏れ出す瞬間をすくい、「他人」がつながりたい「他者」へ変わる手つきを静かに描く。『この世の喜びよ』で芥川賞を受けた後の第一作として、井… 孤独と疎外家族労働
  95. 095 2023 図書館のお夜食 としょかんのおやしょく 原田ひ香 単行本・ポプラ社 『図書館のお夜食』は、東北の書店勤務がうまくいかず仕事を辞めようとしていた樋口乙葉が、東京郊外の「夜の図書館」で働き始める長編である。そこは夕方七時から深夜まで開く特殊な図書館で、亡くなった作家の蔵書を集めた本の博物館のような場所でもある。予想外の出来事と夜食を通して、本、食、仕事、ほどよい距離で語… 労働芸術と表現
  96. 096 2023 続きと始まり つづきとはじまり 柴崎友香 単行本・集英社 東日本大震災、熊本地震、未知の病原体の出現を背景に、別々の場所で暮らす男女三人の日常が描かれる。大きな出来事の「始まり」と「続き」は個人の生活時間のなかで重なり、誰にも同じように流れたはずの月日が、それぞれ異なる記憶として蓄積していく。複数の人物の日々を並置し、災害とパンデミック以後の時間感覚を静か… 災害記憶家族 第60回 谷崎賞
  97. 097 2023 うるさいこの音の全部 うるさいこのおとのぜんぶ 高瀬隼子 単行本・文藝春秋 ゲームセンターで働く長井朝陽は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから、職場や友人との関係が少しずつ変化していく。兼業作家であることが知られ、執筆中の小説と現実の境目も揺らぎはじめる。作家デビューの舞台裏を題材にしながら、注目されること、働き続けること、他者の視線に晒され… 芸術と表現労働アイデンティティ
  98. 098 2023 ユーチューバー ユーチューバー 村上龍 単行本・幻冬舎 『ユーチューバー』は、二十代半ばでデビューし七十歳になった作家・矢崎健介が、ユーチューバーに誘われて語り始める連作小説である。矢崎は「自由である人間」について、そして半世紀にわたって出会い、消えていった女性たちについて回想する。YouTubeという現代的な語りの場を借りながら、恋愛、老い、創作の源泉… 老い芸術と表現恋愛
  99. 099 2023 いっそ幻聴が聞けたら いっそげんちょうがきけたら 屋敷葉 単行本・朝日新聞出版 第9回林芙美子文学賞大賞受賞作。「小説トリッパー」2023年春号に掲載。単行本化は未確認。 第9回 林芙美子賞
  100. 100 2022 はぐれんぼう はぐれんぼう 青山七恵 単行本・講談社 『はぐれんぼう』は、あさりクリーニング店で働く優子が、長く引き取りに来られない衣服「はぐれんぼちゃん」を持ち帰ったことから始まる長編である。翌朝、衣服が体を覆うようにまとわりつき、優子は持ち主たちを訪ねるが、服は次々に受け取りを拒まれる。トレンチコート姿のユザさんに導かれながら帰るべき場所を探す道行… 孤独と疎外労働アイデンティティ
  101. 101 2022 荒地の家族 あれちのかぞく 佐藤厚志 初出・新潮 2022年12月号 宮城県亘理町の植木職人・坂井祐治、四十歳。あの「災厄」の二年後に妻を病で亡くし、再婚した相手も流産の後に家を出て、いまは老いた母と中学生の息子と暮らしている。津波という言葉を正面に掲げず「災厄」「海の膨張」と呼びながら、荒れた海辺の土地で黙々と木に向かう男の日常を描く。職を転々とする旧友や没落してい… 災害死と喪失家族 第168回 芥川賞
  102. 102 2022 ななみの海 ななみのうみ 朝比奈あすか 単行本・双葉社 『ななみの海』は、児童養護施設で暮らす高校生ななみが、医学部進学を目指しながら自分の進路を選び取っていく青春小説である。祖母の「馬鹿にされるな」という言葉を胸に、受験勉強、ダンス部最後の発表会、初めての恋、進学費用のためのアルバイトが重なる。十代の心許なさと揺らぎをすくい、支援や家庭環境に規定される… 青春家族貧困
  103. 103 2022 CF しーえふ 吉村萬壱 単行本・徳間書店 罪の責任を「無化」する超巨大企業Central Factoryをめぐり、加害、被害、償いの意味が揺らいでいく群像劇。キャバクラ嬢、主婦、中学生、ホームレス、CFで働く中年、広報室長、そしてCFへのテロを企てる男など、社会の周縁と制度の内部にいる人々が交錯する。荒唐無稽な設定を通して、責任を引き受ける… 暴力テクノロジー労働
  104. 104 2022 カルチャーセンター かるちゃーせんたー 松波太郎 単行本・書肆侃侃房 カルチャーセンターで共に過ごしたニシハラくんの未発表小説『万華鏡』を収録し、その小説に寄せられた作家・編集者たちのコメントまでも作品の一部として組み込む小説。松波太郎がニシハラくんへ語りかける形で、書きたいという欲望、書かれたものへの責任、そして「これは小説なのか」という問いを空白ごと立ち上げていく… 芸術と表現言葉と言語青春
  105. 105 2022 デクリネゾン デクリネゾン 金原ひとみ 単行本・ホーム社 二度の離婚を経て中学生の娘・理子と暮らす小説家の志絵が、年下の大学生・蒼葉との同居を娘に告げるところから、母であることと恋愛することの緊張が露わになる長篇。仕事、家庭、恋愛のすべてを求める女性たちと、その周囲に生まれる家族的なつながりを描く。母子、ステップファミリー、欲望、生活の配分をめぐる会話が… 家族恋愛母と子
  106. 106 2022 ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉 ごじらしんぎゅらぽいんと 円城塔 単行本・集英社 TVアニメシリーズ『ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉』を、円城塔自身が小説として再構成した作品。2030年の千葉県逃尾市に未確認飛行生物が現れ、銀色のロボット「ジェットジャガー」との交戦、その怪鳥が「ラドン」と名付けられる出来事を起点に、逃尾市周辺で異変が広がっていく。怪獣、AI、時間や特異点を… テクノロジー災害身体
  107. 107 2022 青木きららのちょっとした冒険 あおききらら のちょっとしたぼうけん 藤野可織 単行本・講談社 「きらら」という名を手がかりに、人気モデル兼女優の偽物、痴漢された女子高生、特別な日を撮影するカメラマン、若いアイドルの死を願う会社員など、八つの人生を照らす連作的な作品集。無責任な暴力、すれ違う意識、他者への思い込みが、日常の少しずれた場面から立ち上がる。誰かであり誰でもない存在として生きる人々を… 暴力アイデンティティジェンダー
  108. 108 2022 古本食堂 ふるほんしょくどう 原田ひ香 単行本・角川春樹事務所 『古本食堂』は、神保町の小さな古書店を舞台に、本と食べ物を介して人がつながり直していく長篇。国文科の学生・美希喜は、急逝した大叔父の古書店を継ぐため上京した珊瑚を手伝ううちに、古本を探す客、町の食堂、店に残された記憶に触れていく。古書の具体的な手触りとカレー、中華、寿司などの食の描写が重なり、進路の… 記憶家族
  109. 109 2022 春のこわいもの はるのこわいもの 川上未映子 単行本・新潮社 『春のこわいもの』は、パンデミック前夜の東京を舞台に、六人の男女がそれぞれの欲望、不安、罪悪感に触れる短篇集である。ギャラ飲みに向かう女性、人生を振り返る老女、深夜の学校へ忍び込む高校生、親友を裏切りつづけた作家など、華やかさと孤独が隣り合う都市の断面が連ねられる。川上未映子の鋭い観察と身体感覚が… 孤独と疎外身体青春
  110. 110 2022 引力の欠落 いんりょくのけつらく 上田岳弘 単行本・KADOKAWA 『引力の欠落』は、CFOとして企業の上場に関わり巨富を得た行先馨が、弁護士マミヤに招かれて奇妙なペントハウスへ向かう超現実的な小説。そこでは「始皇帝」や「本多維富」を自称する者たちがカードゲームに興じ、経済的充足の先に残る孤独と、何かが欠けた人間が別の段階へ移れるのかという問いが立ち上がる。現代の資… 孤独と疎外アイデンティティ労働
  111. 111 2022 君たちはしかし再び来い きみたちはしかしふたたびこい 山下澄人 単行本・文藝春秋 腹が破裂し死を告げられた「私」は、三度の入院、飼い猫の手術、コロナ禍を経て、痛みによって世界と自己の境界が変わっていくのを経験する。病の記録は歴史や宇宙、カフカ、『白鯨』、ブレイクなどへ跳躍し、私小説的な身体感覚と思想的な連想が重なる。時系列や視点を揺らしながら、病む身体から世界をもう一度呼び寄せる… 身体死と喪失
  112. 112 2022 嫌いなら呼ぶなよ きらいならよぶなよ 綿矢りさ 単行本・河出書房新社 『嫌いなら呼ぶなよ』は、表題作を含む四篇で、有毒に暴走するコミュニケーションと、その遮断を描く短篇集である。妻の親友宅に招かれた「僕」が突然ミニ裁判にかけられる表題作をはじめ、美容整形、YouTuberへの粘着的なコメント、深夜まで続く助言など、現代的なつながりの圧力がブラックユーモアを帯びて展開す… 同調圧力言葉と言語暴力
  113. 113 2022 この世の喜びよ このよのよろこびよ 井戸川射子 初出・群像 2022年7月号 ショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」は、かつて幼い娘たちとこのセンターで長い時間を過ごした。いまはフードコートに入り浸る中学生の少女と言葉を交わすようになり、彼女との関わりのなかで、子育ての日々の記憶や、言葉にならないまま積もっていた感情が少しずつよみがえってくる。全編が「あなた」への呼… 母と子家族記憶 第168回 芥川賞
  114. 114 2022 くるまの娘 くるまのむすめ 宇佐見りん 単行本・河出書房新社 17歳のかんこは、家族とともに車中泊をしながら祖母の葬儀へ向かう。狭い車内と旅先の景色は、父母と子のあいだに積み重なった暴力、依存、愛着を逃げ場なく浮かび上がらせる。少女の身体感覚に寄り添う濃密な語りが、家族を単純な加害と被害に分けられないものとして描き、読者に「救うなら誰を救うのか」という問いを突… 家族暴力母と子
  115. 115 2022 教育 きょういく 遠野遥 単行本・河出書房新社 成績向上のために性的な規律が制度化された学校を舞台に、生徒たちは管理された欲望と競争のなかで「正しさ」に従っていく。語り手は異様なルールを淡々と受け入れ、読者は倫理の壊れた環境が日常として語られる不気味さに引きずり込まれる。学園小説の形を借りながら、教育、身体、成績主義、同調の圧力が人間の判断をどう… 同調圧力身体
  116. 116 2022 まっとうな人生 まっとうなじんせい 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『逃亡くそたわけ』から十数年後、花ちゃんとなごやんは富山で偶然再会する。かつて精神病院を抜け出して九州を旅した二人は、それぞれ家族を持ち、コロナ禍の同時代を生きる人として再び向き合う。富山の地名、食文化、方言、スーパーの細部までを織り込みながら、家庭を守ろうともがく花ちゃんの怒りや不安を、土地に根ざ… 家族記憶労働
  117. 117 2022 ミーツ・ザ・ワールド ミーツ・ザ・ワールド 金原ひとみ 単行本・集英社 焼肉擬人化漫画を愛する腐女子の会社員・由嘉里は、合コン帰りに酔いつぶれた新宿歌舞伎町で、キャバ嬢のライと出会う。ライの「この世界から消えなきゃいけない」という言葉をきっかけに共同生活が始まり、由嘉里は推しへの愛、三次元の恋、結婚や出産への思い込みを揺さぶられていく。対照的な二人の会話と歌舞伎町の人間… 恋愛孤独と疎外ジェンダー
  118. 118 2022 おいしいごはんが食べられますように おいしいごはんがたべられますように 高瀬隼子 初出・群像 2022年1月号 食品会社の支店を舞台に、三人の社員の関係を描く。そつなく働くが食への関心が薄い二谷、体が弱く周囲に守られ、手作り菓子を職場に持ってくる芦川、芦川の分の仕事まで引き受けてしまう押尾。二谷は芦川と付き合いながら、「おいしいごはん」を大切にする価値観への苛立ちを募らせ、押尾は守られる芦川への反感を二谷とひ… 労働同調圧力 第167回 芥川賞
  119. 119 2022 プリテンド・ファーザー ぷりてんど・ふぁーざー 白岩玄 単行本・集英社 シングルファーザーとして四歳の娘を育てる恭平と、シッターとして働きながら一歳半の息子を育てる章吾が、互いの事情から四人で暮らし始める物語。高校の同級生だった二人の共同生活は、家事・育児・仕事の負担を分かち合う試みであると同時に、ケアとキャリアをめぐるひずみを可視化していく。血縁や恋愛関係だけではない… 父と子ケアと介護労働
  120. 120 2022 憐憫 れんびん 島本理生 単行本・朝日新聞出版 『憐憫』は、かつて子役だった沙良が、芸能界で伸び悩み、自分の正体を知らない相手を求めるところから始まる小説。酒場で出会った柏木に抱く感情は、愛しさであり憐憫でもあり、恋愛と呼び切れない関係の輪郭を曖昧にしていく。見られる側として生きてきた女性の孤独、承認、満たされなさを、短く張りつめた語りで追う。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  121. 121 2022 老人ホテル ろうじんほてる 原田ひ香 単行本・光文社 埼玉県の大家族で育った日村天使は、テレビに出る大家族の一員だったが、16歳で家を出て大宮のキャバクラで働く。生活保護を受けながら流されるように暮らしていた彼女は、かつて店で出会ったビルのオーナー・綾小路光子と、訳あり老人が長逗留する古びたビジネスホテルで再会する。光子の投資や生活の指南を通じて、天使… 貧困老い孤独と疎外
  122. 122 2022 財布は踊る さいふはおどる 原田ひ香 単行本・新潮社 専業主婦の葉月みづほは、ある夢のために生活費を切り詰め、毎月二万円を貯金してきた。努力の末に夢を実現した直後、夫に二百万円以上の借金があることが発覚し、彼女の生活は大きく動き始める。ひとつの財布をめぐる六話を通じて、節約、借金、投資、奨学金、老後資金など、「今より少し、お金がほしい」人々の切実さと再… 貧困家族労働
  123. 123 2022 Schoolgirl すくーるがーる 九段理江 単行本・文藝春秋 表題作は太宰治「女生徒」を現代に移し、社会派YouTuberとして活動する14歳の娘と、小説に囚われた母のすれ違いを描く。娘の投稿が「女生徒」へ向かうことで、母娘の断絶は文学の記憶と現在のメディア環境のなかで照らし返される。第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」も併録し、学校、芸術、言葉への過剰な… 母と子言葉と言語芸術と表現
  124. 124 2022 信仰 しんこう 村田沙耶香 単行本・文藝春秋 表題作は、「現実を生きろ」を口癖にする永岡が、同級生からカルト商法を始めようと誘われる短篇。現実こそ正しいと信じる態度そのものを信仰として照らし返し、信じることの危うさと切実さを問う。『生存』『書かなかった小説』『最後の展覧会』など短篇とエッセイを収め、日常の常識が少しずつ異形化する村田作品らしい読… 信仰同調圧力アイデンティティ
  125. 125 2022 水平線 すいへいせん 滝口悠生 単行本・新潮社 硫黄島を墓参したことのある妹に見知らぬ男から電話がかかり、兄は不思議なメールに導かれて船に乗る。祖父母世代の疎開、激戦地に残された人々、現在の兄妹の時間が交差し、死者の言葉が海を越えて現在へ届く。視点や人称を変えながら、戦争の記憶と島の隆起する時間を重ねる長篇。 戦争記憶死と喪失
  126. 126 2022 とんこつQ&A とんこつきゅーあんどえー 今村夏子 単行本・講談社 中華料理店「とんこつ」で働く「わたし」は、挨拶を覚えて居場所を得たかに見えるが、新人の「あの女」によって均衡を崩されていく。表題作ほか「嘘の道」「良夫婦」「冷たい大根の煮物」を収録し、普通の可笑しみの奥から人間の取り返しのつかない瞬間が顔を出す。短く平明な語りが、善意や純粋さの怖さをじわじわ見せる作… 労働孤独と疎外同調圧力
  127. 127 2022 月の三相 つきのさんそう 石沢麻依 単行本・講談社 旧東ドイツの小さな街で「フローラが失踪した」という噂が広がり、歴史に引き裂かれた少年と少女の物語が呼び起こされる。その街では誰もが自分の「肖像面」を持ち、面に惹かれて移り住んだ望、グエット、ディアナの三人は、失われた「顔」を探して見えない境界を越えていく。いくつもの時間が重層する街を舞台に、歴史、記… 記憶アイデンティティ死と喪失
  128. 128 2022 雨滴は続く うてきはつづく 西村賢太 単行本・文藝春秋 2004年、北町貫多は同人誌発表作「けがれなき酒のへど」が同人雑誌優秀作に選ばれ、純文学誌に転載されたことで文壇デビューを果たす。藤澤清造の歿後弟子であろうとする執念、純文学誌への執筆、恋情と自尊心の揺れが、貫多らしい苛立ちと滑稽さを伴って進む。完成直前で未完となった遺作長篇であり、作家になる以前の… 芸術と表現恋愛孤独と疎外
  129. 129 2022 私の盲端 わたしのもうたん 朝比奈秋 単行本・朝日新聞出版 表題作は、大学生活や飲食店のアルバイトを楽しんでいた涼子が、人工肛門とともに生きることになり、自分の身体の変化と周囲の視線に向き合う物語である。医師でもある作者が、病や障害を医学的説明だけに閉じず、身体の境界、恥、欲望、生活の手触りとして描く。併録の「塩の道」は第7回林芙美子文学賞受賞作で、朝比奈秋… 身体障害
  130. 130 2022 あの子なら死んだよ あのこならしんだよ 小泉綾子 第8回林芙美子文学賞佳作受賞作。単行本化は未確認。
  131. 131 2022 霊たち れいたち 三国美千子 初出・「新潮」2022年5月号 「なぜ私と息子に遠い実家の先祖が見えるのか」を問う、マジックリアリズム的な短篇。先祖の霊が旧家の暗がりに宿るという不可思議な現象を幻想的に描く。単行本未収録。 家族記憶寓話・幻想
  132. 132 2021 あなたにオススメの あなたにオススメの 本谷有希子 単行本・講談社 『あなたにオススメの』は、「推子のデフォルト」「マイイベント」の二篇からなる近未来小説集。身体に超小型電子機器を埋めて複数のコンテンツを同時に摂取する推子と、災害時の「安全」な住まいに優越感を覚える渇幸の姿を通じ、アルゴリズム化した消費、育児、階層意識が日常に入り込む怖さを描く。滑稽さを帯びた語りが… テクノロジー同調圧力災害
  133. 133 2021 翼の翼 つばさのつばさ 朝比奈あすか 単行本・光文社 『翼の翼』は、小学二年生の息子・翼が進学塾の全国テストをきっかけに中学受験へ向かい、母・円佳が塾、ライバル、保護者、家族の期待に巻き込まれていく長篇。子を思う気持ちが、親のプライドや世間の噂、家族内の力学と結びつき、愛情と支配の境目が見えにくくなる過程を描く。中学受験という制度の熱を通じて、家族の内… 家族母と子同調圧力
  134. 134 2021 オーラの発表会 オーラのはっぴょうかい 綿矢りさ 単行本・集英社 『オーラの発表会』は、大学一年生の海松子が、人を好きになる気持ちや他人の感情をうまく読めないまま、友情と恋愛未満の関係に巻き込まれていく長篇。凧揚げを趣味にし、周囲に脳内であだ名をつける彼女の少しずれた観察が、幼なじみや社会人男性からの接近を通じて揺さぶられる。綿矢りさらしい軽やかな口語感とユーモア… 恋愛孤独と疎外青春
  135. 135 2021 カード師 かーどし 中村文則 単行本・朝日新聞出版 『カード師』は、占いを信じていない占い師であり違法カジノのディーラーでもある「僕」が、ある組織から冷酷な資産家の顧問占い師になるよう命じられる長篇。カード、占い、ギャンブルをめぐる偶然と操作の感覚が、個人では抗いがたい理不尽な力と結びついていく。語りはサスペンスの推進力を持ちながら、不確かな未来を知… 暴力信仰労働
  136. 136 2021 母親からの小包はなぜこんなにダサいのか ははおやからのこづつみはなぜこんなにださいのか 原田ひ香 単行本・中央公論新社 『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』は、実家から届く小包をめぐって、昭和・平成・令和をまたぐ家族の思いを描く連作集。業者から買った野菜を実家からの荷物と偽る女性、父が受け取っていた小包の謎、母からの最後の荷物など、物の中にしまわれた気遣い、ずれ、寂しさが開封されていく。タイトルの軽さに対して… 家族母と子記憶
  137. 137 2021 彼岸花が咲く島 ひがんばながさくしま 李琴峰 初出・文學界 2021年3月号 彼岸花が咲き乱れる浜辺に、記憶を失った少女が流れ着く。海の向こうから来たため「宇実(ウミ)」と名付けられた彼女がたどり着いたのは、日本と台湾の間に浮かぶ架空の島。そこでは〈ニホン語〉と、女性だけが学ぶことを許された〈女語〉という二つの言語が話され、「ノロ」と呼ばれる女性たちが祭祀と政治、歴史の伝承を… 言葉と言語ジェンダー記憶 第165回 芥川賞
  138. 138 2021 北斗星に乗って ほくとせいにのって 広小路尚祈 単行本・桜山社 『北斗星に乗って』は、上野発の寝台特急「北斗星」を軸にした8編の短篇小説集。列車という移動空間が、乗客の記憶や人生の分岐、もう一つの世界へ向かうような感覚をつないでいく。旅情だけでなく、日常から少し離れた場所で自分の過去や孤独に触れる、静かな幻想味を持つ作品集である。 記憶孤独と疎外死と喪失
  139. 139 2021 星のように離れて雨のように散った ほしのようにはなれてあめのようにちった 島本理生 単行本・文藝春秋 行方不明の父、未完の『銀河鉄道の夜』、書きかけの小説という三つの「未完」をめぐり、人生の岐路に立つ女子大学院生の「私」が自分自身の物語を探していく長編。宮沢賢治作品の影や、消えた父の残した手紙を手がかりに、家族の記憶と創作の衝動が重なり合う。父の不在を単なる謎解きにせず、失われたものを言葉で追いかけ… 父と子記憶芸術と表現
  140. 140 2021 貝に続く場所にて かいにつづくばしょにて 石沢麻依 初出・群像 2021年6月号 コロナ禍に覆われたドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす日本人留学生の「私」のもとに、東日本大震災の津波で行方不明になったはずの友人・野宮が現れる。九年前に仙台で被災した記憶と、疫病下の異国の街の現在が静かに重なり合い、惑星の名を冠した小径、聖人伝や絵画の細部、庭に埋められた様々な品をたどりながら… 死と喪失記憶災害 第165回 芥川賞
  141. 141 2021 あなたに安全な人 あなたにあんぜんなひと 木村紅美 単行本・河出書房新社 3.11直前の少年の死をめぐる出来事に苛まれる元教師の妙と、沖縄新基地建設反対デモの警備中の事故を抱える便利屋の忍が、「感染者第一号」を誰もが恐れる土地で出会う。二人は人を傷つけ、傷つけられる社会のなかで、孤独で安全な逃亡生活のような関係を築いていく。東日本大震災、沖縄、感染症下の共同体の視線を交差… 孤独と疎外災害同調圧力
  142. 142 2021 ここはとても速い川 ここはとてもはやいかわ 井戸川射子 単行本・講談社 児童養護施設で暮らす小学五年生の集と、園での年下の親友・ひじりの日々を描く表題作を中心にした小説集。近くの淀川にいる亀を見に行く楽しみなど、子どもたちの時間が、温もりを含んだ繊細な言葉でたどられる。詩人として出発した著者の初めての小説集で、表題作と小説第一作「膨張」を収録する。 青春家族ケアと介護 第43回 野間新人賞
  143. 143 2021 満天の花 まんてんのはな 佐川光晴 単行本・左右社 幕末の長崎・出島に生まれ、青い目を隠して育った花が、勝海舟との出会いを経て通詞として外交の渦中に入る歴史長篇。咸臨丸、ロシア艦、大政奉還、江戸無血開城へと続く時代の転換点を、女性通訳の視点からたどる。西欧列強、幕府、身分秩序に抗し、言葉と意思で生きる人物像が読みどころになる。 移民と越境言葉と言語ジェンダー
  144. 144 2021 滅私 めっし 羽田圭介 単行本・新潮社 必要最低限の物だけで暮らすライターの男が、ミニマリストの同志が集うサイト運営と投資で生計を立てながら、自由でスマートな生活を手に入れている。物だけでなく人間関係にも淡泊だった彼の前に、昔の所業を知る人物が現れ、捨てたはずの過去が生活に影を落とす。所有を減らすことの快楽と、過去や欲望は簡単には消せない… アイデンティティ労働記憶
  145. 145 2021 ミトンとふびん ミトンとふびん 吉本ばなな 単行本・新潮社 大切な人の死や癒えない喪失を抱えながら生きる人々を、ヘルシンキ、ローマ、台北など複数の土地で描く全6編の短篇集。旅の風景は観光的な背景ではなく、残された人が小さな光や手触りに支えられて日々を続けるための場所として置かれている。吉本ばななが長く書き続けてきた喪失、時間、愛の主題を、静かでやわらかな語り… 死と喪失恋愛記憶 第58回 谷崎賞
  146. 146 2021 水たまりで息をする みずたまりでいきをする 高瀬隼子 単行本・集英社 ある日、衣津実は夫が風呂に入らなくなったことに気づく。夫は水が臭く、体につくと痒くなると言って入浴を拒み、やがて雨に濡れに外へ出るようになり、職場で体臭が問題にされる。退職と移住を経て、夫が川で水浴びをする生活へ向かう過程を、夫婦の問題として押し返される妻の視点から描き、身体、清潔、共同生活の境界を… 夫婦身体
  147. 147 2021 長い一日 ながいいちにち 滝口悠生 単行本・講談社 小説家の夫と妻が、住み慣れた家からの引っ越しを考え始めるところから、長くつきあってきた友人たち、日々の暮らし、失ってから気づく愛着や記憶が交差していく長編。出来事を大きな劇に仕立てるよりも、生活の中でふと立ち上がる静かな感情と、時間の伸び縮みをすくい取る。日記と小説のあわいを思わせる形式で、夫婦と住… 夫婦記憶家族
  148. 148 2021 Phantom ファントム 羽田圭介 単行本・文藝春秋 外資系食料品メーカーで働く元地下アイドルの華美は、生活費を切り詰めて株式投資を続け、給与収入と同じ配当を生む「分身」の構築を目指している。恋人の直幸は、使われない金を軽んじながら、ある人物が率いるオンラインコミュニティにのめり込み、物々交換や集団生活の思想へ傾いていく。投資、オンライン共同体、恋愛の… 労働テクノロジー恋愛
  149. 149 2021 ルーティーンズ るーてぃーんず 長嶋有 単行本・講談社 2020年春の緊急事態宣言下、保育園が休園した二歳の娘を、作家の夫と漫画家の妻が交替で見ながら過ごす日々を描く家族小説。社会が止まったように見える時間の中でも、子どもの成長や生活の反復は続いていく。短篇「願いのコリブリ、ロレックス」と表題作を収め、非常時の日常を長嶋有らしい軽やかな観察とユーモアで描… 家族ケアと介護労働
  150. 150 2021 生を祝う せいをいわう 李琴峰 単行本・朝日新聞出版 子どもを産むためには、その子自身から「この世界に生まれてきたい」という同意を得なければならない社会を舞台にした長編。出生を祝福するはずの制度が、親になること、同意、身体、存在の選択をめぐる問いを鋭く浮かび上がらせる。芥川賞受賞作『彼岸花が咲く島』の後に刊行された作品で、現実の倫理問題を架空制度として… 身体家族アイデンティティ
  151. 151 2021 死者にこそふさわしいその場所 ししゃにこそふさわしいそのばしょ 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 折口山に暮らす奇妙でどこか壊れた人々が、町はずれの植物園へ引き寄せられていく連作短篇集。介護、欲望、病、善意の暴走といった日常の歪みを、グロテスクで滑稽な筆致で少しずつ現実からずらしていく。表題作を含む六篇を通じて、怖さと可笑しさが同居する吉村萬壱の寓話的な人間観察が前面に出る。 ケアと介護身体
  152. 152 2021 旅のない たびのない 上田岳弘 単行本・講談社 コロナ禍中の日々を映す四篇からなる、上田岳弘初の短篇集。恋人とのホテル、息子との散歩、甥を預かる夏、出張先の車中といった限られた場面を通して、移動が制限された時代の記憶、会話、自己認識を描く。大きな事件よりも、日常の小さな違和感や言葉のずれから世界の変化を浮かび上がらせる作品集。 記憶孤独と疎外家族 第46回 川端賞
  153. 153 2021 アンソーシャル ディスタンス アンソーシャル ディスタンス 金原ひとみ 単行本・新潮社 パンデミックに閉塞する社会で、生への希望だったバンドのライブ中止をきっかけに心中旅行へ向かう若い男女を描く表題作を含む作品集。ほかに、高アルコール飲料、整形、身体、インターネット上の視線など、追い詰められた人々の臨界点を描く作品を収める。コロナ禍の距離感を単なる時事性に閉じず、依存、疎外、自己破壊の… 孤独と疎外死と喪失身体 第57回 谷崎賞
  154. 154 2021 象の皮膚 ぞうのひふ 佐藤厚志 単行本・新潮社 幼少時から重度のアトピー性皮膚炎に苦しんできた五十嵐凜は、仙台の書店で契約社員として働きはじめる。肌を隠し、他人と距離を取ることで日々をやり過ごす凜に、今度は接客業の理不尽な客対応や、震災後に本を求める人々の姿が重なっていく。子どもの頃の記憶と現在の職場を往還しながら、身体に刻まれた痛み、労働の疲弊… 身体労働
  155. 155 2021 塩の道 しおのみち 朝比奈秋 単行本・朝日新聞出版 第7回林芙美子文学賞大賞受賞作。「小説トリッパー」掲載後、デビュー単行本『私の盲端』(朝日新聞出版、2022年2月)に収録。 第7回 林芙美子賞
  156. 156 2021 骨を撫でる ほねをなでる 三国美千子 初出・「新潮」2021年2月号 大阪南部の旧家に生まれた娘・倉木ふき子(50歳)が分家を譲り受け婿養子を迎えるという設定のもと、土地と血縁に縛られしたたかに生きる人間の姿を描く表題作。デビュー作「いかれころ」と設定を共有しつつ異なる人物・視点で同時代を描き直した意欲作。単行本『骨を撫でる』(2021年6月、新潮社)に収録。第43回… 家族身体関西
  157. 157 2021 小島 こじま 小山田浩子 単行本・新潮社 2014〜2021年に発表した13篇を収めた短篇集。「小島」(「新潮」2019年1月号)「ヒヨドリ」(「群像」2018年10月号)「卵男」(「文藝」2019年秋季号)など、身近な生き物・風景との境界が溶け始める場面を描く。「異郷」「継承」「点点」の3篇は「早稲田文学」発表のシリーズ的連作。単行本は2… 孤独と疎外寓話・幻想地方
  158. 158 2020 2020年の恋人たち にせんにじゅうねんのこいびとたち 島本理生 単行本・中央公論新社 母の急死によりワインバーを継ぐかどうか選択を迫られた前原葵を中心に、同棲相手、常連客、店を手伝う人々、新たな出会いが交錯する長篇。恋愛の高揚だけでなく、会話の途切れ、依存、別れ、仕事として店を引き受けることを描き、葵が何を選び何を手放すかを追う。直木賞受賞後の長篇第一作として、喪失後の生活再建と関係… 恋愛死と喪失労働
  159. 159 2020 みがわり みがわり 青山七恵 単行本・幻冬舎 『みがわり』は、新人賞を受けながら本を出せずにいる作家・律が、自分と瓜二つだった亡き女性の伝記執筆を依頼される長編。取材の過程で、姉妹の確執や家族の秘密、依頼そのものの不穏さが浮かび、律は他人の人生を書こうとするほど自分自身の物語も揺さぶられていく。伝記を書くことと書かれることの関係を通じて、自己像… アイデンティティ家族記憶
  160. 160 2020 地に這うものの記録 ちにはうもののきろく 田中慎弥 単行本・文藝春秋 再開発計画に揺れる駅前ビルに現れた、言葉を話すネズミのポールを主人公にした寓話的長篇。市議会議員の浦田さんの助けを得て、ポールは欲望や利害が渦巻く人間社会へ踏み込み、やがて市議会で語るところまで進む。人間とネズミの古い因縁を、都市再開発、政治、他者への嫌悪と共存の問題に重ねて描く。 同調圧力暴力労働
  161. 161 2020 fishy フィッシー 金原ひとみ 単行本・朝日新聞出版 三十代の女性三人が、それぞれの恋愛、結婚、仕事、女友だちとの距離を抱えながら、言い切れない本音をにじませていく連作長篇。男に対する屈託や違和感を、単純な対立ではなく、関係性が少しずつ更新される過程として描く。会話と内面の揺れを重ね、友情、欲望、自立の輪郭が変わっていく読み味がある。 恋愛ジェンダー労働
  162. 162 2020 ピエタとトランジ〈完全版〉 ぴえたととらんじ かんぜんばん 藤野可織 単行本・講談社 ピエタを語り手に、天才的な頭脳を持つ女子高生探偵トランジと、その才能に惹かれて助手になるピエタの関係を描く長篇。周囲で次々と事件が起きるトランジの体質は、探偵小説、友情譚、終末SFの要素を巻き込み、やがて人類滅亡のスケールへ広がっていく。軽やかな語り口で、女性バディ、才能への憧れ、破滅に向かう世界を… 青春アイデンティティ死と喪失
  163. 163 2020 来世の記憶 らいせのきおく 藤野可織 単行本・KADOKAWA 『来世の記憶』は、前世の殺人の記憶を抱えた近未来の語り手から、眠っている間に戦争が終わってしまう世界、冷蔵庫やスマートフォンや怪獣までをめぐる奇妙な出来事までを収めた20篇の短篇集。日常の手触りを残したまま身体や物や世界の前提がずれていくため、読み手は不条理な笑いと不安のあいだに置かれる。藤野可織ら… 記憶死と喪失身体
  164. 164 2020 踏み跡にたたずんで ふみあとにたたずんで 小野正嗣 単行本・毎日新聞出版 『踏み跡にたたずんで』は、毎日新聞大分県版連載をもとに、土地と人々の記憶をめぐる36篇を収めた掌編小説集。掩体壕、赤い波、磨崖仏、港、道の駅、診療所など、場所や物の名を起点に、戦争の痕跡、伝説、老い、自然との遭遇が短い物語として立ち上がる。現実と幻の境目をあいまいにする語りで、土地に残る見えない記憶… 記憶戦争死と喪失
  165. 165 2020 破局 はきょく 遠野遥 初出・文藝 2020年夏季号 主人公の陽介は、筋トレと公務員試験の勉強に励む大学4年生。母校のラグビー部でコーチも務め、政治家を目指す恋人・麻衣子がいる。やがて新入生の灯に好意を寄せられ、関係を持つようになる。陽介は常に「正しさ」やマナー、他人にどう見られるかを基準に行動するが、その整いすぎた思考と行動のあいだには、どこか空洞が… 恋愛身体 第163回 芥川賞
  166. 166 2020 一橋桐子(76)の犯罪日記 ひとつばしとうこのはんざいにっき 原田ひ香 単行本・徳間書店 76歳で一人暮らしの一橋桐子は、親友トモを亡くし、年金と清掃パートだけでは先行きの見えない老後に追い詰められる。孤独死で人に迷惑をかけるくらいなら刑務所に入ればよいのではないかと考え、万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人と、より長く収監される方法を真剣に調べ始める。犯罪計画の滑稽さの奥に、貧困、老い… 老い貧困孤独と疎外
  167. 167 2020 星月夜 ほしつきよる 李琴峰 単行本・集英社 日本の大学で日本語を教える台湾出身の柳凝月と、新疆ウイグル自治区出身で大学院進学を目指す玉麗吐孜の恋を描く長篇。二人は日本語という共通語で近づくが、家族、国家、在留資格、セクシュアリティをめぐる負荷は同じ形では共有できない。親密さの甘さよりも、相手を分かっていると思うことの危うさを静かな語りで照らす… 恋愛移民と越境ジェンダー
  168. 168 2020 百年と一日 ひゃくねんといちにち 柴崎友香 単行本・筑摩書房 人や店、駅、家、空港、家族の記憶が、数ページの掌編の中で十年、二十年、百年の時間へ伸びていく短篇集。個々の人物の大事件ではなく、場所に積み重なる時間、誰かが去り誰かが来る反復、忘れられていく出来事の痕跡を描く。長いタイトルと淡々とした語りが、日常の一瞬を歴史の厚みへ接続する。 記憶家族死と喪失
  169. 169 2020 一人称単数 いちにんしょうたんすう 村上春樹 単行本・文藝春秋 村上春樹の六年ぶりの短篇小説集で、「石のまくらに」から書き下ろしの表題作まで八篇を収める。音楽、野球、過去の記憶、奇妙な遭遇をめぐり、一人称の語りが自分自身の輪郭を少しずつずらしていく。私、僕、あなたという呼び名の揺れを通して、回想と虚構が交錯する村上春樹らしい短篇世界を読むことができる。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  170. 170 2020 今も未来も変わらない いまもみらいもかわらない 長嶋有 単行本・中央公論新社 『今も未来も変わらない』は、40代のシングルマザーで小説家の星子を主人公にした長編。大学受験を控える娘を見守り、親友とカラオケやスーパー銭湯を楽しみ、元夫や20代の男性との関係にも揺れながら、星子の日常は静かににぎやかに続いていく。大きな事件よりも、娯楽、恋、親子、仕事の小さな重なりを通じて、大人が… 家族恋愛労働
  171. 171 2020 犬のかたちをしているもの いぬのかたちをしているもの 高瀬隼子 初出・すばる 2019年11月号 間橋薫は卵巣の手術を経て、恋人の郁也とも性交渉から距離を置いて暮らしている。そこへ郁也の子を妊娠したという女性が現れ、子どもを育ててくれないかと唐突に持ちかける。愛をどう証明するのか、子どもを産むことと持つことは何を意味するのかを、薫の身体感覚と故郷の家族への思いを通じて問うデビュー作。 身体家族 第43回 すばる文学賞
  172. 172 2020 かきあげ家族 かきあげかぞく 中島たい子 単行本・光文社 コメディ映画監督の中井戸八郎は、老境に差しかかりながらスランプの渦中にいる。長男の失職、長女の離婚、引きこもる次男によって家族が再び一つの家に集まるなか、名監督の遺稿をめぐる騒動が起き、八郎は家族の一人ひとりと向き合わざるをえなくなる。不安を拾い集めてしまう人間の弱さを、家族喜劇の形で描く。 家族老い芸術と表現
  173. 173 2020 完全犯罪の恋 かんぜんはんざいのこい 田中慎弥 単行本・講談社 『完全犯罪の恋』は、芥川賞受賞後も地味な暮らしを送る四十男の小説家「田中」が、新宿で初恋の相手の娘に声をかけられるところから始まる長編。物語は現在の東京と、下関の高校時代に読書を通じて近づいた才女・真木山緑との記憶を往還し、恋の独りよがりと罪悪感を掘り下げる。作家本人を思わせる語り手を置き、私小説的… 恋愛記憶芸術と表現
  174. 174 2020 木になった亜沙 きになったあさ 今村夏子 単行本・文藝春秋 『木になった亜沙』は、表題作「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」の三篇を収めた作品集。誰かに食べ物を差し出したい少女が木へ、さらに割り箸へと転じる表題作をはじめ、身体の境界や役割が奇妙にずれた状況が、純粋な願いと不穏さを同時に帯びて進む。童話のような単純さと残酷さを併せ持つ語りで… 身体孤独と疎外
  175. 175 2020 サピエンス前戯 さぴえんすぜんぎ 木下古栗 単行本・河出書房新社 『サピエンス前戯』は、表題作「サピエンス前戯」に「オナニーサンダーバード藤沢」「酷暑不刊行会」を加えた長編小説集。身長、寿命、インターネット、ポルノ文化など、21世紀の人間の能力や欲望が極点に達した世界を、人類史のまだ前戯にすぎないものとして誇張してみせる。シンギュラリティSF、下世話な身体感覚、過… テクノロジー身体
  176. 176 2020 口福のレシピ こうふくのれしぴ 原田ひ香 単行本・小学館 『口福のレシピ』は、フリーのSE兼料理研究家として働く留希子と、昭和二年の品川料理教習所で働くしずえの時間を行き来する家族小説。留希子は老舗料理学校を営む家の後継者であることに抵抗を抱きながらも、SNS発信をきっかけに料理研究家として認知されていく。簡単でおいしい献立企画をめぐる問題を通じて、家庭の… 家族労働
  177. 177 2020 小鳥、来る ことり、くる 山下澄人 単行本・中央公論新社 『小鳥、来る』は、夏休みの始まり、9歳の「おれ」が父を倒す日を待っているところから始まる長篇。周囲には、勉強のできる友人、万引きを繰り返す兄弟、学年一強い女子、何度も車にはねられる少年、動物園のゴリラがいて、子どもの日常が暴力とユーモアを帯びて浮かぶ。山下澄人らしい口語のリズムと飛躍する視点が、大人… 青春家族暴力
  178. 178 2020 丸の内魔法少女ミラクリーナ まるのうちまほうしょうじょミラクリーナ 村田沙耶香 単行本・KADOKAWA 表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』に、『秘密の花園』『無性教室』『変容』を加えた四篇の短篇集。魔法少女、秘密の領域、無性化、変容といった設定を通じて、社会が当然視する性別、年齢、役割、自己像をずらして見せる。村田沙耶香らしい寓話的な発想と日常の手ざわりが同居し、軽やかさの奥に規範への違和感が残る。 アイデンティティジェンダー
  179. 179 2020 MISSING 失われているもの ミッシング うしなわれているもの 村上龍 単行本・新潮社 『MISSING 失われているもの』は、制御しがたい抑うつや不眠を抱える小説家の「わたし」が、謎めいた女優や母の声に導かれて、混乱と不安に満ちた迷宮的な世界を彷徨う長篇。章題には成瀬巳喜男映画の題名が並び、現在と過去、現実と幻想、記憶と自己分析が重なり合う。村上龍が自らの創作の源泉や老い、母の記憶に… 記憶母と子老い
  180. 180 2020 日本蒙昧前史 にほんもうまいぜんし 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 大阪万博や日航機墜落事故など、戦後日本の狂騒と蒙昧を彩った出来事の陰にある無数の生を描く長篇。文藝春秋公式は、語り手を自在に換えつつ戦後日本の手触りを蘇らせる作品として紹介している。歴史的事件を単なる背景にせず、語りのリレーによって個人の記憶と時代の空気を重ねるところに読みどころがある。 記憶戦争死と喪失 第56回 谷崎賞
  181. 181 2020 肉体のジェンダーを笑うな にくたいのじぇんだーをわらうな 山崎ナオコーラ 単行本・集英社 『肉体のジェンダーを笑うな』は、夫の胸から「父乳」が出る話や、PMSを体験できるサーフボードの話などを収めた小説集。身体に結びつけられた性別役割を、SF的な設定や軽やかなユーモアでずらし、家族・ケア・労働の当たり前を問い直す。現実の制度を直接論じるより、ありえたかもしれない身体の可能性を想像すること… ジェンダー身体夫婦
  182. 182 2020 御社のチャラ男 おんしゃのちゃらおとこ 絲山秋子 単行本・講談社 『御社のチャラ男』は、社内で「チャラ男」と呼ばれる三芳部長をめぐり、彼を見つめる周囲の人々の語りから職場の現実を照らし出す長篇。中心人物を直接つかまえるのではなく、多方向から語られる噂や距離感によって、憎らしさと愛おしさが同居する人物像が立ち上がる。会社という共同体の空気、働く人の孤独、他人を語るこ… 労働同調圧力孤独と疎外
  183. 183 2020 幼な子の聖戦 おさなごのせいせん 木村友祐 初出・すばる 2019年11月号 第162回芥川賞候補作の表題作と、ビルの窓拭きを描く『天空の絵描きたち』を収める作品集。表題作では、青森の小さな村で村議をしている「おれ」が、人妻との関係を県議に握られ、同級生候補への選挙妨害を強いられる。地方政治の閉塞、個人の弱み、労働現場の緊張を、怒りと諦めのあわいにかすかな希望を探る語りで描く… 同調圧力労働暴力
  184. 184 2020 推し、燃ゆ おし、もゆ 宇佐見りん 初出・文藝 2020年秋季号 「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という一文から始まる。高校生のあかりは、学校でも家庭でも周囲の求める「普通」をうまくこなせず、アイドルグループの一員である「推し」上野真幸を解釈し応援することだけを生活の軸、自らの「背骨」として生きている。推しの炎上をきっかけに、彼の芸能活動もあかりの日常も少… 青春身体孤独と疎外 第164回 芥川賞
  185. 185 2020 ポラリスが降り注ぐ夜 ぽらりすがふりそそぐよる 李琴峰 初出・早稲田文学 第十次 第22号 新宿二丁目のバー「ポラリス」に集う、多様な性的アイデンティティを持つ女性たちを描く七つの恋の物語。筑摩書房公式とOpenBDは、国や歴史を越えて思い合う気持ちがつながっていく連作として紹介している。都市の夜の親密さを起点に、セクシュアリティ、移動、言語や歴史の記憶を交差させるところが読みどころ。 ジェンダー恋愛移民と越境
  186. 186 2020 流卵 りゅうらん 吉村萬壱 単行本・河出書房新社 『流卵』は、中学2年の男子が性の目覚めとオカルト的な妄想に取りつかれ、自分を「選ばれた民」とみなして向こう側の世界へ進もうとする長篇。河出書房新社公式は、官能と陶酔を帯びた吉村萬壱版『金閣寺』として紹介している。母親に「ヘンタイ」と呼ばれる少年の半生をたどる書評もあり、性・信仰・自己神話が混ざる不穏… 青春信仰
  187. 187 2020 逃亡者 とうぼうしゃ 中村文則 単行本・幻冬舎 第二次大戦後から現代へまたがる逃亡と追跡を軸に、暴力、信仰、戦争の記憶が絡み合う長編。中村文則が得意とする犯罪小説的な緊張を保ちながら、個人の罪と歴史の暗部が切り離せないものとして立ち上がる。五百ページ規模の構成で、サスペンスの推進力と思想的な問いを並走させる読みどころがある。 戦争暴力信仰
  188. 188 2020 月の客 つきのきゃく 山下澄人 単行本・集英社 親や社会から守られなかった少年トシと少女サナ、そして犬の時間をたどる長編。集英社公式は、どこから読んでもよい構成と通読の呪いを解く書として紹介しており、山下澄人の文体実験が物語そのものの主題になっている。暴力、死、災害、老いをめぐる生の断片が、直線的なあらすじよりも体験の積み重なりとして読ませる。 孤独と疎外暴力災害
  189. 189 2020 うつくしい羽 うつくしいはね 上村渉 初出・すばる 2019年6月号 表題作『うつくしい羽』と『あさぎり』などを収めた、上村渉の初小説集。OpenBDの版元提供情報は、食の記憶が過去を呼び覚ます作品として、離婚で心の支えを失った男と、フランス修業時代に大切な人を失った料理人の軌跡を紹介している。併録作『あさぎり』では、十五歳の少女の一時保護を通して、家族の絆と外国人労… 記憶死と喪失
  190. 190 2020 象牛 ぞうぎゅう 石井遊佳 単行本・新潮社 表題作は、インド・ガンジス河岸の聖地にやってきた女子大生が、謎の存在である象牛に翻弄される物語。併録の『星曝し』は大阪の淀川河岸を思わせる比ラカ駄を舞台に、恋に似た激しい熱情と死者の気配を描く。現実の痛みと法螺話めいた幻想が混ざり合う、石井遊佳の芥川賞受賞後初の作品集。 身体暴力
  191. 191 2020 煙草の神様 たばこのかみさま 芝夏子 第6回林芙美子文学賞佳作受賞作。単行本化は未確認。
  192. 192 2020 お面 おめん 三国美千子 初出・「新潮」2020年12月号 三島由紀夫没後50年記念特集「私の『仮面の告白』」(三島由紀夫の没後に生まれた作家4名による換骨奪胎創作)の一篇として掲載された短篇。単行本未収録。 アイデンティティメタフィクション
  193. 193 2019 私の家 わたしのいえ 青山七恵 単行本・集英社 祖母の法要で一堂に会した親戚たちを起点に、三世代にわたる一族の記憶と秘密をたどる連作短編集。同棲相手に追い出されて戻る梓、過去にこだわる母、孤独を愛する大叔母らの章が重なり、家族であっても他人のように分かり合えない距離を描く。家という場所を、帰る場所であると同時に逃れがたい記憶の容器として読ませる。 家族記憶孤独と疎外
  194. 194 2019 君たちは今が世界 きみたちはいまがせかい 朝比奈あすか 単行本・KADOKAWA 『君たちは今が世界』は、小学校という閉じた場で、子どもたちの関係、序列、沈黙の圧力が日々の世界そのものになっていく様子を描く長篇。副題的に示される英題「All grown-ups were once children」が示すように、子ども時代を単なる回想ではなく、現在進行形の切実な社会として捉える… 青春同調圧力家族
  195. 195 2019 アタラクシア アタラクシア 金原ひとみ 単行本・集英社 結婚生活の苦しさや不倫、家庭内の苛立ちを抱える複数の男女を描く群像長編。翻訳者の由依、シェフの瑛人、パティシエの英美、作家の桂らの視点を通じて、望んで結婚したはずなのに救われない人々の孤独と愛情への渇望が交錯する。倫理や制度では割り切れない親密さの痛みを、金原ひとみらしい熱量で描く。 恋愛夫婦家族
  196. 196 2019 父と私の桜尾通り商店街 ちちとわたしのさくらおどおりしょうてんがい 今村夏子 単行本・角川書店 商店街でパン屋を営む父を手伝う娘を描く表題作を中心に、「白いセーター」「ルルちゃん」「ひょうたんの精」「せとのママの誕生日」「モグラハウスの扉」を収めた短篇集。家族、店、近隣関係のごく日常的な場面から、今村夏子らしい微細なずれや不穏さが立ち上がる。平明な語り口の奥で、親しさと疎外、子どもっぽさと残酷… 家族父と子労働
  197. 197 2019 出来事 できごと 吉村萬壱 単行本・鳥影社 『季刊文科』連載「転落」を単行本化した長篇。OpenBDの出版社由来データでは、見慣れた日常世界が歪み、人間の嘘や文明の虚妄が露出していく哲学小説として紹介されている。吉村萬壱の身体感覚の強い描写と、日常を異様なものへ反転させる語りが読みどころになる。 身体暴力アイデンティティ
  198. 198 2019 DRY どらい 原田ひ香 単行本・光文社 不倫の末に二人の子を置いて家を出た北沢藍が、十年ぶりに実家へ戻るところから始まる長編。母と祖母の暮らす袋小路の家、そして祖父を一人で介護する幼馴染・馬場美代子の家を通じて、家族、介護、女性の行き場のなさが暗く絡み合う。光文社公式が示す袋小路の家に潜む罪の構図どおり、生活の現実がサスペンスへ変質してい… 家族ケアと介護母と子
  199. 199 2019 瓦礫の死角 がれきのしかく 西村賢太 初出・群像 2018年7月号・2019年2月号・2019年7月号 『瓦礫の死角』は、父の性犯罪によって解体した家族の記憶と、服役を終えようとする「あの人」の影を描く表題作を中心にした短篇集。講談社公式は、十七歳で無職の北町貫多が、刑期を終えようとする父、復讐に怯える母、消息不明の姉を抱えた家族の瓦礫に向き合う物語として紹介している。「病院裏に埋める」と表裏をなす不… 家族暴力貧困
  200. 200 2019 ひよこ太陽 ひよこたいよう 田中慎弥 単行本・新潮社 一緒に住んでいた女に去られ、切り詰めた生活のなかで小説を書こうとする40代の男を描く連作小説集。書けない日々と死への誘惑に取り憑かれた語り手は、母から頼まれた人探しをきっかけに、現実と幻想の境界が揺らぐ世界へ入っていく。書けなさ、不在、生活の索漠さを見つめる私小説的な作品。 芸術と表現孤独と疎外死と喪失
  201. 201 2019 五つ数えれば三日月が いつつかぞえればみかづきが 李琴峰 初出・文學界 2019年6月号 表題作は、日本で働く台湾人の「私」と、台湾人と結婚して台湾へ移った友人・実桜が、平成最後の夏に東京で五年ぶりに再会する物語。話す言葉、住む国、選び取った人生の差異が、再会の会話のなかで静かに立ち上がる。収録作「セイナイト」とあわせて、移動、言語、親密さ、記憶のずれを、越境する人のアイデンティティとし… 移民と越境言葉と言語恋愛
  202. 202 2019 改良 かいりょう 遠野遥 単行本・河出書房新社 女装し、美しくなることに執着する大学生の「私」を描くデビュー作。コールセンターのアルバイト収入を美容やデリヘルに費やす私は、メイクや服装、仕草を研究し、やがて女装した自分を他人に認められたいという欲望を抱く。その望みは、性をめぐる理不尽な暴力と絶望へ向かっていく。 身体ジェンダー 第56回 文藝賞
  203. 203 2019 かか かか 宇佐見りん 初出・文藝 2019年秋季号 19歳の浪人生うーちゃんは、離婚を機に心を病み、酒に酔っては荒れる母「かか」と、弟とともに暮らしている。かかを誰より愛しながらその存在に苦しむうーちゃんは、かかの痛みが自分の身体にも及ぶような一体感のなかで、「自分がかかを生み直すしかない」という切実な祈りを抱え、ひとり熊野へと旅に出る。SNSの裏ア… 母と子家族 第33回 三島賞
  204. 204 2019 変半身 かわりみ 村田沙耶香 単行本・筑摩書房 『変半身』は、劇作家・松井周と練り上げた千久世島ワールドを舞台に、人間の身体や歴史、信仰が別のかたちへ変わっていく悪夢的な中篇。秘祭モドリ、ポピ原人、ポーポー様、遺伝子退行手術といった奇妙な要素が、共同体の常識と身体観を揺さぶる。併録の「満潮」とあわせ、村田沙耶香らしい「正常」を疑う想像力が、演劇的… 身体信仰アイデンティティ
  205. 205 2019 生のみ生のままで きのみきのままで 綿矢りさ 単行本・集英社 『生のみ生のままで』は、逢衣が恋人との旅行先で彩夏と出会い、東京に戻ってから急速に惹かれていく上下巻の恋愛長篇。互いに男性の恋人がいる状況から、彩夏の告白と身体的な引力をきっかけに、二人は恋と生活を選び直していく。女性同士の恋愛を、社会的な枠組みや世間体、身体の感覚をはぎ取るように正面から描く。 恋愛ジェンダー身体
  206. 206 2019 人間界の諸相 にんげんかいのしょそう 木下古栗 単行本・集英社 連絡が取れなくなった謎めいた女性・菱野時江の消息を、二人の友人がSNSを頼りに追っていくところから始まる作品。集英社公式は「トリッキーなエンタメ風小説」と紹介しており、人物相関や断片的な情報がずれながら、正体をつかもうとする読者の視線そのものを揺さぶる。奇妙なユーモアと不穏さが混ざる、木下古栗らしい… アイデンティティテクノロジー孤独と疎外
  207. 207 2019 駒音高く こまおとたかく 佐川光晴 単行本・実業之日本社 『駒音高く』は、将棋の勝負の世界に関わる七人の青春と人生を描く短篇集。プロを志す中学生や引退間際の棋士だけでなく、将棋会館の清掃員など周辺にいる人々にも視線を向け、勝敗の外側にある家族、仕事、誇りを浮かび上がらせる。実業之日本社公式が「青春・家族小説の名手」の温かなまなざしと紹介する通り、競技小説で… 青春家族労働
  208. 208 2019 キュー キュー 上田岳弘 初出・新潮 2017年10月号より連載 平凡な医師である「僕」が突然拉致され、世界の趨勢をめぐる暗闘の中心に、長年寝たきりだったはずの祖父がいることを知る。新潮社公式は、祖父の秘密が「人類を一つに溶かす」使命に関わるものとして紹介している。戦争、愛、運命、人類の統合という大きな主題を、現代的な技術感覚と哲学的な思考実験の語りで押し広げる作… テクノロジー戦争アイデンティティ
  209. 209 2019 待ち遠しい まちどおしい 柴崎友香 単行本・毎日新聞出版 北川春子、夫を亡くした青木ゆかり、新婚の遠藤沙希という世代も立場も異なる三人の女性が、ご近所付き合いを通じて少しずつ関わる長編。住まいの距離の近さと、価値観や人生段階のずれが生む噛み合わなさを、柴崎友香らしい生活の手触りのなかで描く。年齢、結婚、独居、見えにくい困難をめぐり、人はどこまで互いを判断せ… 家族老い孤独と疎外
  210. 210 2019 まずはこれ食べて まずはこれたべて 原田ひ香 単行本・双葉社 池内胡雪は、散らかった社内と不規則な生活に疲れながらベンチャー企業で働く三十歳。社長が会社に家政婦を雇ったことで、無愛想な筧みのりが作る料理が、殺伐とした職場に小さな休息をもたらしていく。食べることを通じて、労働の疲れ、ケアの手触り、人と人が同じ場にいることの温度を描く連作短編集。料理の題名を冠した… 労働ケアと介護
  211. 211 2019 むらさきのスカートの女 むらさきのスカートのおんな 今村夏子 初出・小説トリッパー 2019年春季号 語り手「わたし」の近所には、いつも紫色のスカートをはき「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女がいる。週に一度パン屋でクリームパンを買い、公園の決まったベンチに座る彼女を、「わたし」は毎日観察し続けている。友達になりたい一心で、「わたし」は求人誌をベンチに置くなどして、彼女が自分と同じホテルの清掃の職… 孤独と疎外労働同調圧力 第161回 芥川賞
  212. 212 2019 夏物語 なつものがたり 川上未映子 単行本・文藝春秋 『乳と卵』の世界を引き継ぎ、作家となった夏子が、パートナーなしで妊娠・出産し子どもを持つ可能性を考え始める長篇。姉・巻子や姪・緑子の身体をめぐる物語を背後に、生まれること、産むこと、産まないこと、家族の形をめぐる声が重なっていく。文藝春秋公式が掲げる「生まれること」と「産むこと」の非対称性の問いを中… 身体家族
  213. 213 2019 人間 にんげん 又吉直樹 単行本・毎日新聞出版 『人間』は、若い日に創作を志す者たちが集ったシェアハウスの記憶と、38歳になった「僕」の現在を往還する長篇。表現者になりたいという願い、仲間と暮らす時間の高揚、その後に残る成功や挫折の差が、自己像を問い直す物語として重なっていく。又吉直樹の初の長編として、芸術への憧れだけでなく、他者と比べながら生き… 芸術と表現青春記憶
  214. 214 2019 おっぱいマンション改修争議 おっぱいまんしょんかいしゅうそうぎ 原田ひ香 単行本・新潮社 天才建築家が設計した、通称「おっぱいマンション」と呼ばれるヴィンテージマンションを舞台にした長篇。立地もデザインも人気を集める一方で重大な問題が発覚し、建築家の娘、学生運動あがりの元教師、秘密を抱えた住人たちを巻き込む改修争議が起こる。建築という表現物、住まいの記憶、共同体の利害がぶつかる騒動を、軽… 家族老い芸術と表現
  215. 215 2019 ポルシェ太郎 ポルシェたろう 羽田圭介 初出・文藝 掲載(前篇・後篇) 35歳で起業した太郎は、年収に匹敵するポルシェを買う。ところが、その自慢の車で得体の知れないものを運ばされることになり、成功者の見栄と欲望が危うい方向へ走り出す。河出書房新社の紹介は「欲望か、死か」という言葉で作品の緊張を示しており、消費、承認、成功の演出を乾いたユーモアで追う長篇として読める。単な… 労働同調圧力身体
  216. 216 2019 リボンの男 りぼんのおとこ 山崎ナオコーラ 初出・文藝 掲載 主人公の常雄は、自分を「ヒモ」ではなく「リボン」と言い換える専業主夫。三歳のタロウと野川沿いを歩く日常のなかで、家事や育児に値段をつけにくい社会、父であること、働くことの意味が静かに問い直される。山崎ナオコーラらしい平明な言葉で、家族の役割分担やジェンダー規範を大げさな対立ではなく生活の手触りから描… 家族労働ジェンダー
  217. 217 2019 サバティカル さばてぃかる 中村航 初出・小説トリッパー 連載 33歳のエンジニア梶くんは、転職先への入社までに空いた五カ月を「サバティカル」と名づけ、自分にさまざまな宿題を課す。プロジェクト管理ツールで課題を片付けるうち、将棋の師匠が生き別れた娘を探すという思いがけない宿題に向き合うことになる。仕事の切れ目に生まれた時間を、単なる休暇ではなく自分の結びつきや恋… 労働恋愛青春
  218. 218 2019 生命式 せいめいしき 村田沙耶香 単行本・河出書房新社 『生命式』は、死者を食べる新たな葬式を描く表題作を中心に、身体、食、家族、常識の境界を揺さぶる十二篇を収めた短篇集。河出書房新社公式の収録情報には「素敵な素材」「街を食べる」「孵化」などが並び、日常の制度や倫理を別の社会の習俗として反転させる。村田沙耶香らしい寓話的設定で、正常さそのものを問い直す読… 死と喪失身体
  219. 219 2019 趣味で腹いっぱい しゅみではらいっぱい 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 『趣味で腹いっぱい』は、結婚後に絵手紙、家庭菜園、小説などの趣味に興じる鞠子と、仕事一筋で生きてきた銀行員・小太郎をめぐる長篇。上達や成果を急がない趣味の時間が、仕事中心の価値観や夫婦の距離を少しずつ揺らしていく。生活のなかの小さな楽しみを通して、役に立つことだけでは測れない生き方を描く。 夫婦労働芸術と表現
  220. 220 2019 遠の眠りの とおのねむりの 谷崎由依 単行本・集英社 大正末期、貧しい農家に生まれた絵子は本を読むことを支えにしていたが、女学校には進めず、家を追い出されて女工として働く。市内に初めて開業した百貨店「えびす屋」で、付属劇場の少女歌劇団に関わる「お話係」として雇われ、娘役のキヨと親しくなる。集英社公式は、福井市に実在した百貨店の少女歌劇部に着想を得た長篇… 労働青春芸術と表現
  221. 221 2019 藁の王 わらのおう 谷崎由依 単行本・新潮社 小説家として一冊だけ本を出した語り手が、巨大私立大学で創作を教えることになり、学生たちの苦悩と自身の行き詰まりに向き合う表題作を含む作品集。新潮社公式は、文学の迷宮や小説の樹海を彷徨う人々を描く作品集として紹介している。書くこと、読むこと、他者の言葉に侵されることの怖さを、静かな幻想性と記憶の反復で… 芸術と表現記憶孤独と疎外
  222. 222 2019 ウナノハテノガタ うなのはてのがた 大森兄弟 単行本・中央公論新社 海の民の少年オトガイは父からある役目を引き継ぎ、山の民の少女マダラコは生贄の儀式から逃れて山を下りる。中央公論新社の文庫版公式ページは、二人の出会いからすべてが始まる「原始の物語」として紹介している。共同体の掟、信仰、暴力、出会いによる世界の更新を、神話や寓話に近い距離感で描く作品。 信仰暴力家族
  223. 223 2019 夜はおしまい よるはおしまい 島本理生 単行本・講談社 「夜のまっただなか」「サテライトの女たち」「雪ト逃ゲル」「静寂」を収めた短篇集。夜、逃避、静けさといった収録作名が示すように、関係の余白や孤独を抱えた人物たちの時間を描く。島本理生の恋愛や家族関係をめぐる繊細な筆致を、より暗く静かなトーンで味わえる作品集として位置づけられる。 恋愛家族孤独と疎外
  224. 224 2019 夢も見ずに眠った。 ゆめもみずにねむった 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『夢も見ずに眠った。』は、夫を熊谷に残して札幌へ単身赴任した沙和子が、夫婦のすれ違いと離別を経て、新しい愛と信頼の形へ向かう長篇。岡山、札幌、熊谷など土地の記憶や物語が、二人の関係の変化と響き合う。移動する生活のなかで、結婚や家族の安定ではなく、相手を信じ直す距離を探るところが読みどころになる。 夫婦恋愛記憶
  225. 225 2019 裏庭 うらにわ 阿部あみ 第5回林芙美子文学賞佳作受賞作。単行本化は未確認。
  226. 226 2019 背高泡立草 せいたかあわだちそう 古川真人 初出・「すばる」2019年10月号 奈美は母・伯母・従姉妹とともに長崎の離島にある母の実家の納屋の草刈りへ向かう。現代の草刈りを軸にしながら、戦中・戦後・江戸期のクジラ漁まで、島に刻まれた複数の時代の記憶が大島方言とともに溶け合うように語られる。 第162回 芥川賞
  227. 227 2019 逃げ水は街の血潮 にげみずはまちのちしお 奥野紗世子 初出・「文學界」2019年5月号 地下アイドルとして全速力で修羅を生きる20代女性の内面を鮮烈に描いたデビュー作。法政大学大学院在籍中に受賞した。 第124回 文學界新人賞
  228. 228 2019 レンファント れんふぁんと 田村広済 初出・「文學界」2019年5月号 育児休暇を取った父親が、重篤な皮膚疾患を持つ子の看護と妻との関係に迷走する様子を描く。「イクメン文学」の新地平として注目されたデビュー作。 第124回 文學界新人賞
  229. 229 2019 そこどけあほが通るさかい そこどけあほがとおるさかい 石倉真帆 初出・「群像」2019年6月号 大阪のムラ社会で毒祖母と同居する女性の日常を全編関西弁で描いた第62回群像新人文学賞当選作。選考委員が熱量と迫力を絶賛した。
  230. 230 2019 犬のかたちをしているもの いぬのかたちをしているもの 高瀬隼子 初出・「すばる」2019年11月号 性と身体をめぐる関係性の不均衡を、乾いた観察眼で描いた作品。のちに芥川賞候補・受賞へ続く高瀬隼子のデビュー作。 第43回 すばる文学賞
  231. 231 2019 尾を喰う蛇 おをくうへび 中西智佐乃 初出・「新潮」2019年11月号 大阪文学学校で学んだ著者が、230枚の力作として書き上げた作品。人と人の間の「狭間」に生きる者たちの物語。2025年に「橘の家」で三島由紀夫賞を受賞する中西智佐乃のデビュー作。 第51回 新潮新人賞
  232. 232 2019 神前酔狂宴 しんぜんすいきょうえん 古谷田奈月 単行本・河出書房新社 神前式の披露宴を舞台に、国家・家族・結婚制度という壮大な茶番を圧倒的な喜劇として描く長篇。2019年7月河出書房新社より刊行、第41回野間文芸新人賞受賞。 第41回 野間新人賞
  233. 233 2019 デッドライン でっどらいん 千葉雅也 初出・「新潮」2019年9月号、同年12月新潮社より単行本刊行 博士論文の締め切りに追われる男性大学院生が、ゲイとしてのセクシュアリティと哲学的問いを抱えながら東京で生を享受する物語。哲学者・批評家として知られる著者の初小説で、芥川賞候補にもなった。 第41回 野間新人賞
  234. 234 2019 飛族 ひぞく 村田喜代子 初出・「文學界」連載後、単行本2019年3月・文藝春秋。連載開始年は未確認のため単行本年を year に採用 朝鮮との国境近くに浮かぶ離島に残された92歳と88歳の老女ふたりの暮らしを描いた長編小説。島の自然と人間の生命力を独自の語りで浮かび上がらせた第55回谷崎潤一郎賞受賞作。 第55回 谷崎賞
  235. 235 2019 青いポポの果実 あおいぽぽのかじつ 三国美千子 初出・「新潮」2019年12月号 「僕」と自称する小学五年生の女の子ナナの視点から、大阪南部の旧家に住む家族や近隣の親戚たちのさまざまな行状が語られる短篇。後に単行本『骨を撫でる』(2021年6月)に収録された。 家族一人称関西
  236. 236 2018 あなたの愛人の名前は あなたのあいじんのなまえは 島本理生 単行本・集英社 『あなたの愛人の名前は』は、すれ違う大人の恋愛を描く六篇の作品集。集英社公式が示す「あなたは知らない」と「俺だけが知らない」は、同じ関係を別々の視点から照らし、同じ部屋にいても互いの心が決定的にずれていく痛みを描く。欲望、秘密、婚約、浮気、世間の価値観に揺れる心を、島本理生らしい繊細な心理の動きとし… 恋愛夫婦
  237. 237 2018 ブルーハワイ ぶるーはわい 青山七恵 単行本・河出書房新社 『ブルーハワイ』『辰年』『聖ミクラーシュの日』『わかれ道』『山の上の春子』『わたしのおばあちゃん』を収めた短篇集。河出書房新社は、「あたりまえ」を知らない孤独が世界を撃ち抜く作品集として紹介している。日常のなかでそれぞれのことに夢中になる人々を、平明で少し乾いた語りで捉え、家族や記憶、他者との隔たり… 孤独と疎外家族記憶
  238. 238 2018 人生のピース じんせいのぴーす 朝比奈あすか 単行本・双葉社 中高一貫の女子校で過ごした潤子、みさ緒、礼香が、34歳になって結婚や恋愛、仕事との向き合い方を揺らす物語。礼香の突然の結婚をきっかけに、潤子は結婚相談所へ、みさ緒は腐れ縁の相手との関係を見直し、それぞれが自分の人生の欠けたピースを探す。婚活を題材にしながら、同調圧力や友情の距離、女性が自分の選択を引… ジェンダー恋愛同調圧力
  239. 239 2018 みなさんの爆弾 みなさんのばくだん 朝比奈あすか 単行本・中央公論新社 「初恋」「譲治のために」「メアリーとセッツ」など六篇を収め、女性たちの内部に抱え込まれた欲望や怒り、関係の歪みを描く短篇集。同性への欲望、母と息子の倒錯的な結びつき、創作や日常に潜む衝動が、それぞれの「爆弾」として立ち上がる。平穏に見える生活の奥で感情が臨界に近づく瞬間を、鋭くも読みやすい語りで追う… ジェンダー家族
  240. 240 2018 地球星人 ちきゅうせいじん 村田沙耶香 単行本・新潮社 幼い奈月は、いとこの由宇とともに自分たちを魔法少女や宇宙人として位置づけ、恋愛・生殖・家族・労働を当然視する「地球」の仕組みに違和感を抱く。大人になっても社会にうまく適応できない奈月は、家族制度や性、身体をめぐる圧力から逃れるように、由宇たちとの関係へ再び引き寄せられていく。少女の成長物語のような出…
  241. 241 2018 文字渦 もじうず 円城塔 単行本・新潮社 文字そのものを主役に、秦の始皇帝陵から発掘された漢字、未知の言語遊戯、プログラミング言語、AIによる『源氏物語』自動筆記、統合漢字の分離独立運動などをめぐる全12篇からなる作品集。文字の起源から未来までを、史実・字典・想像力・情報技術を交差させながら幻視する。読み物であると同時に、文字というメディア… 第43回 川端賞
  242. 242 2018 ファーストラヴ ふぁーすとらぶ 島本理生 単行本・文藝春秋 就職活動中の女子大生・聖山環菜が父を刺殺した事件を、臨床心理士の真壁由紀がノンフィクション執筆のために追う長編。由紀は弁護士の庵野迦葉とともに面会を重ね、環菜の供述の揺れや家族関係の奥にあるものへ近づいていく。殺人事件の謎を追うミステリの緊張感と、家族という閉じた関係の迷宮を重ねた作品。
  243. 243 2018 5時過ぎランチ ごじすぎランチ 羽田圭介 単行本・実業之日本社 「グリーンゾーン」「内なる殺人者」「誰が為の昼食」の三篇からなる、労働と犯罪が絡み合う短篇集。ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギーを抱える殺し屋、写真週刊誌の女性記者が、それぞれ過酷な仕事の延長線上でヤクザや警察、国家権力に触れていく。ブラックな職場感覚とクライムノベルの緊張を重ね、仕事にまつわ… 労働暴力貧困
  244. 244 2018 日の出 ひので 佐川光晴 単行本・集英社 明治の終わり、13歳の清作は徴兵から逃れて故郷を飛び出し、北陸から九州、横浜へ移りながら鍛冶職人として生きる。もう一つの軸として、清作を曾祖父にもつ現代の女子大生・あさひが、教職免許取得のために学ぶ姿が置かれる。時代を隔てた二人を並行させ、労働、逃走、家系の記憶、希望の継承を描く長編。 労働家族記憶
  245. 245 2018 星ヶ丘高校料理部 偏差値68の目玉焼き ほしがおかこうこうりょうりぶ へんさちろくじゅうはちのめだまやき 樋口直哉 単行本・講談社 廃部寸前の私立星ヶ丘高校料理部に、篠原皐月が友人に誘われて入部する連作料理ミステリ。目玉焼き、オムレツ、ハンバーグ、カレーなどの料理を通じて、皐月たちは調理の理屈と、身近な出来事に潜む謎を少しずつ解いていく。学校小説の軽やかさに、料理の知識と日常の推理を重ねた読み味が特徴。 青春芸術と表現
  246. 246 2018 独り舞 ひとりまい 李琴峰 単行本・講談社 台湾出身のレズビアン女性が、過去の痛みと孤独を抱えながら日本で生き直そうとするデビュー作。著者公式プロフィールでは、李琴峰が第二言語である日本語で初めて書いた小説とされており、移動と言語のずれ、性的マイノリティとしての孤立、自己回復の時間が重なる。内面に寄り添う一人称の語りが、越境する身体と言葉の不… 移民と越境言葉と言語
  247. 247 2018 雪子さんの足音 ゆきこさんのあしおと 木村紅美 単行本・講談社 東京出張中の薫は、大学時代を過ごした高円寺のアパートの大家・雪子さんが熱中症でひとり亡くなったことを新聞記事で知り、20年ぶりにその場所へ向かう。アパートへ近づく道のりと回想を重ねながら、大家と下宿人、若者と年長者、好意と負担の境目が少しずつ浮かび上がる。日常の会話や距離感の微細な違和を通して、人間… 記憶老い孤独と疎外
  248. 248 2018 公園へ行かないか?火曜日に こうえんへいかないか?かようびに 柴崎友香 単行本・新潮社 2016年、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、世界各国の作家・詩人たちと過ごした3か月をもとに描く11篇の連作小説集。英語で議論し、街を歩き、アメリカ大統領選挙の瞬間にも居合わせる経験を通じて、そこにいること/いないこと、知りたいのに届かないことを考え続ける… 移民と越境言葉と言語芸術と表現
  249. 249 2018 今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇 こんやはひとりぼっちかい? にほんぶんがくせいすいし せんごぶんがくへん 高橋源一郎 単行本・講談社 『日本文学盛衰史』の続編として、戦後文学そのものを小説の素材にする長編。大岡昇平や小林秀雄らを思わせる文学史上の存在が、ロック、パンク、ラップ、ブログ、Twitter、YouTubeまで巻き込みながら、読まれなくなった戦後文学を現在の言葉へ揉みほぐしていく。文学史講義、パロディ、メタフィクションが交… 芸術と表現言葉と言語戦争
  250. 250 2018 ニムロッド ニムロッド 上田岳弘 初出・群像 2018年12月号 IT企業に勤める中本哲史は、社長から仮想通貨ビットコインの採掘(マイニング)事業を任される。彼の周りには、中絶と離婚の傷を抱える外資系勤務の恋人・田久保紀子と、小説家の夢に挫折し「駄目な飛行機コレクション」と題するメールを送ってくる同僚・荷室仁(ニムロッド)がいる。三人の日常に、天に挑んだバベルの塔… テクノロジー労働孤独と疎外 第160回 芥川賞
  251. 251 2018 偽姉妹 にせしまい 山崎ナオコーラ 単行本・中央公論新社 宝くじで3億円を当てた正子が、風変わりな「屋根だけの家」を建て、離婚後に姉妹との共同生活へ入っていく家族小説。血縁や結婚に縛られた関係に息苦しさを覚えた正子は、姉妹もまた別れたり新しく作ったりできるのではないかと考え始める。山崎ナオコーラらしい軽やかな語りで、家族制度の当たり前、女性同士の距離、暮ら… 家族ジェンダー同調圧力
  252. 252 2018 落としもの おとしもの 横田創 単行本・書肆汽水域 落としものは、横田創による2018年発表の作品です。単行本は書肆汽水域(2018年)。
  253. 253 2018 羅針盤は壊れても らしんばんはこわれても 西村賢太 単行本・講談社 西村賢太の分身的主人公・北町貫多が、二十三歳を迎え、日雇い暮らしのなかで人生の敗北感を濃くしていく小説集。田中英光や藤澤清造の私小説に救いを求める貫多が、自らも私小説を書き始めようとする姿を軸に、貧困、文学への執着、自己嫌悪が泥臭く絡み合う。表題作に加え「陋劣夜曲」などを収め、惨めさと不屈さが同時に… 貧困労働孤独と疎外
  254. 254 2018 三千円の使いかた さんぜんえんのつかいかた 原田ひ香 単行本・中央公論新社 御厨家の女性たちが、結婚、子育て、入院、離婚、老後といった局面でお金の使い方に向き合う連作短篇集。節約や貯金のノウハウに寄せつつ、家族の役割、将来不安、生活を立て直す知恵を物語として読ませる。具体的な金額や家計の話が、女性たちの選択と自立をめぐる現実的なドラマになっている。 家族老いケアと介護
  255. 255 2018 静かに、ねぇ、静かに しずかに、ねぇ、しずかに 本谷有希子 単行本・講談社 「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」「でぶのハッピーバースデー」の3篇を収める作品集。海外旅行の写真投稿、ネットショッピング依存、動画撮影で自分たちだけの印を残そうとする夫婦など、SNSやスマートフォン越しにしか確かめられない現実感を描く。軽妙な語りの底に、承認欲求、支配、親密さの不安がにじみ… テクノロジー同調圧力孤独と疎外
  256. 256 2018 その先の道に消える そのさきのみちにきえる 中村文則 単行本・朝日新聞出版 アパートの一室で発見された緊縛師の死体をめぐり、重要参考人の女性と彼女に惹かれる刑事・富樫、別の刑事たちの視線が絡み合う長編ミステリー。謎と嘘を追う捜査の形を取りながら、暴力、欲望、死者の痕跡を通じて、この世界を生きる意味を問い詰めていく。犯罪小説の緊迫感と、中村文則らしい倫理的・実存的な暗さが重な… 暴力死と喪失
  257. 257 2018 鏡のなかのアジア かがみのなかのあじあ 谷崎由依 単行本・集英社 チベット、台湾、クアラルンプール、京都など、アジアの土地をモチーフにした全5篇の幻想短篇集。集英社公式は、少年僧が経典の歴史に触れる「……そしてまた文字を記していると」、台湾・九份の村を舞台にする「Jiufenの村は九つぶん」、熱帯雨林の巨樹であった過去を持つ男を描く「天蓋歩行」などを挙げている。翻… 移民と越境言葉と言語記憶
  258. 258 2018 たてがみを捨てたライオンたち たてがみをすてたらいおんたち 白岩玄 単行本・集英社 専業主夫を考える30歳の出版社社員・直樹、離婚後の孤独を抱える35歳の広告マン・慎一、アイドルを追う25歳の公務員・幸太郎という三人の男性を並べる長編。仕事の評価、家事・育児、父親像、恋愛や趣味を通じて、「大人の男」らしさやプライドの重さを問い直す。軽く読ませる群像劇の形を取りながら、弱音を吐きにく… ジェンダー労働家族
  259. 259 2018 つかのまのこと つかのまのこと 柴崎友香 単行本・KADOKAWA かつての住み家らしき「この家」をさまよい続ける「わたし」が、次々に入れ替わる住人たちを見守る物語。幽霊のような語り手の視点から、家に残る記憶と、誰かを待ち続ける時間が静かに積み重ねられる。柴崎友香が俳優・東出昌大をイメージして小説を書き、市橋織江の写真と組み合わされた、写真と小説の境界を意識した一冊… 記憶死と喪失家族
  260. 260 2018 私に付け足されるもの わたしにつけたされるもの 長嶋有 単行本・徳間書店 「四十歳」「白竜」「Mr.セメントによろしく」「瀬名川蓮子に付け足されるもの」など十二篇を収める短篇集。虎に襲われたい、くっつけたい、あきらめたい、移動したいといった、くだらなくも切実な願望を起点に、日常のずれや欲望の不可思議さを軽やかに描く。長嶋有らしいユーモアと観察眼が、平凡な生活に付け足される… アイデンティティ記憶芸術と表現
  261. 261 2018 ウィステリアと三人の女たち ウィステリアとさんにんのおんなたち 川上未映子 単行本・新潮社 「彼女と彼女の記憶について」「シャンデリア」「マリーの愛の証明」「ウィステリアと三人の女たち」の4篇を収める短篇集。同窓会、デパート、女子寮、廃墟となった屋敷を舞台に、女性たちが不確かな記憶と死の気配に触れていく。記憶、死、救済、自己同一性が幻想的な気配で重なり、なだらかな散文がいつのまにか現実の足… 記憶死と喪失孤独と疎外
  262. 262 2018 夜更けの川に落葉は流れて よふけのかわにおちばはながれて 西村賢太 初出・群像 2017年10月号 北町貫多の二十代前半を描く「寿司乞食」「夜更けの川に落葉は流れて」「青痰麺」の三篇を収める作品集。表題作では、無気力で受け身になっていた貫多が梁木野佳穂という女性との関わりによって、わずかに外の世界へ引き戻されていく。貧しさ、職場の失敗、恋愛の痛み、長く尾を引く恨みを、私小説的な乾いた筆致で読ませる… 貧困労働孤独と疎外
  263. 263 2018 ゆっくりおやすみ、樹の下で ゆっくりおやすみ、きのしたで 高橋源一郎 単行本・朝日新聞出版 小学5年生のミレイが「さるすべりの館」で夏休みを過ごすうち、遠い過去の謎に触れていく児童文学寄りの長編。赤い部屋、止まっていた時計、館に隠された秘密が、子どもの視点に近い軽やかさと不思議な緊張感で語られる。今日マチ子の挿絵を多数収録し、高橋源一郎が子どもと大人の読者をつなぐ語りに挑んだ作品。 青春記憶家族
  264. 264 2018 前世は兎 ぜんせはうさぎ 吉村萬壱 初出・すばる 2015年11月号 表題作「前世は兎」のほか、「夢をクウバク」「宗教」「沼」「梅核」「真空土練機」「ランナー」を収める短篇集。兎だった前世の記憶を持つ女、カタログを書き写すことで不安を鎮める休職中の教員、破滅後の世界でマラソンに選ばれる姉など、現実の足場をずらす設定が並ぶ。身体、性、信仰、労働不能や破滅のイメージを通じ… 身体暴力
  265. 265 2018 タイガー理髪店心中 たいがーりはつてんしんじゅう 小暮夕紀子 単行本・朝日新聞出版 老いた妻の発作的な豹変に戸惑う夫の緊張感をユーモアを交えて描く。第4回林芙美子文学賞大賞受賞作。「小説トリッパー」掲載後、表題作を含む単行本(朝日新聞出版、2020年1月)として刊行。 第4回 林芙美子賞
  266. 266 2018 光路 こうろ 絹谷朱美 第4回林芙美子文学賞佳作受賞作。単行本化は未確認。
  267. 267 2018 送り火 おくりび 高橋弘希 初出・「文學界」2018年5月号 東京から青森の山間の中学へ転校した歩が、クラスのリーダー格・晃を中心とした男子グループに引き込まれていく。花札・ロシアンルーレット的な遊びが常態化するなかで、集団の暴力と服従のメカニズムが静かに露わになる。 第159回 芥川賞
  268. 268 2018 1R1分34秒 いちらうんどいっぷんさんじゅうよんびょう 町屋良平 初出・「新潮」2018年11月号 デビュー戦でKO勝ちした21歳のプロボクサーが、その後3敗1分けと結果が出せず、長年のトレーナーにも見切られる。奇妙な新トレーナー梅吉と出会い、次戦へ向けた過酷な減量と鍛錬のなかで、自身の身体・記憶・存在意義と向き合っていく。 第160回 芥川賞
  269. 269 2018 美しい顔 うつくしいかお 北条裕子 初出・「群像」2018年6月号 東日本大震災の避難所に暮らす高校生・沙那恵が、弟を守りながらメディアの狂騒と向き合う物語。第61回群像新人文学賞当選作。第159回芥川賞候補。参考文献明示をめぐる論争が起きたことでも知られる。
  270. 270 2018 はんぷくするもの はんぷくするもの 日上秀之 初出・「文藝」2018年冬号 岩手県在住のフリーターが書いた、困難を生きる人間の倫理を問う小説。選考委員の町田康が激賞した。 第55回 文藝賞
  271. 271 2018 いつか深い穴に落ちるまで いつかふかいあなにおちるまで 山野辺太郎 初出・「文藝」2018年冬号 日本とブラジルを結ぶ地球貫通トンネル開発計画を軸に、人類規模のスケールと個人の欲望が交差する奇想長篇。 第55回 文藝賞
  272. 272 2018 わるもん わるもん 須賀ケイ 初出・「すばる」2018年11月号 バスケットボールに打ち込んだ経験を持つ著者が、悪として生きる人間の内側を描いた作品。製造会社で働きながら書いたデビュー作。 第42回 すばる文学賞
  273. 273 2018 いかれころ いかれころ 三国美千子 初出・「新潮」2018年11月号 河内弁「いかれころ(踏んだり蹴ったり)」を題名に掲げ、大阪の土地と言葉・家族の歴史を縦横に描いた作品。2019年に三島由紀夫賞も受賞した。 第50回 新潮新人賞
  274. 274 2018 ほのお 星野智幸 初出・単行本2018年1月・新潮社。収録9篇は2011〜2017年にかけてさまざまな媒体に初出。初出誌の詳細は未確認 「自分ではない何かになりたい」という欲望を抱える人々を主人公に、現代日本社会の閉塞と変容を鋭く風刺した9篇の短篇集。第54回谷崎潤一郎賞受賞。 第54回 谷崎賞
  275. 275 2018 にわ 小山田浩子 単行本・新潮社 2013〜2018年に各文芸誌・アンソロジーに発表した15篇を収めた短篇集。「うらぎゅう」(「群像」2013年4月号)「庭声」(「文學界」2015年8月号)「名犬」(「新潮」2016年1月号)など、日常空間に動物や植物が静かに侵入する情景を積み重ねる。収録作「彼岸花」(「GRANTA JAPAN w… 身体寓話・幻想
  276. 276 2017 ハッチとマーロウ はっちとまーろう 青山七恵 単行本・小学館 11歳の誕生日に母から「大人を卒業する」と告げられた双子のハッチとマーロウが、突然自分たちの生活を引き受けることになる長編。料理や服選び、双子であることの個性、父の不在といった日常の問いを通じて、子どもから大人へ向かう時間を軽やかに描く。かわいらしい双子の語り口の奥に、母子関係や自立の痛みが少しずつ… 家族母と子青春
  277. 277 2017 踊る星座 おどるせいざ 青山七恵 単行本・中央公論新社 踊る星座は、青山七恵による2017年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2017年)。
  278. 278 2017 人間タワー にんげんたわー 朝比奈あすか 単行本・文藝春秋 人間タワーは、朝比奈あすかによる2017年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2017年)。
  279. 279 2017 鳥獣戯画 ちょうじゅうぎが 磯﨑憲一郎 単行本・講談社 鳥獣戯画は、磯﨑憲一郎による2017年発表の作品です。単行本は講談社(2017年)。
  280. 280 2017 クラウドガール クラウドガール 金原ひとみ 単行本・朝日新聞出版 対照的な姉妹・杏と理有の視点を往復しながら、姉妹の愛憎と記憶のずれを描く長編。
  281. 281 2017 影裏 えいり 沼田真佑 初出・文學界 2017年5月号 会社の出向で岩手に移り住んだ今野は、釣り仲間となった同僚・日浅にだけ心を許していた。二人で川に通った日々はやがて途絶え、日浅は何も告げずに会社を去る。そして東日本大震災の後、今野は日浅の行方を追ううちに、親しいと思っていた男のもう一つの顔に触れることになる。北国の自然や釣りの場面を丹念に描きながら… 災害死と喪失孤独と疎外 第157回 芥川賞
  282. 282 2017 ドレス どれす 藤野可織 単行本・河出書房新社 ドレスは、藤野可織による2017年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2017年)。
  283. 283 2017 吹上奇譚 第一話 ミミとこだち ふきあげきたん だいいちわ ミミとこだち 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 不思議な町・吹上町を舞台にした双子の姉妹の物語。シリーズ第一作。
  284. 284 2017 劇場 げきじょう 又吉直樹 単行本・新潮社 売れない劇作家・永田と彼を支える沙希の恋愛を描く、芥川賞受賞後第一作の長編。2020年に映画化された。
  285. 285 2017 いつか来る季節 名古屋タクシー物語 いつかくるきせつ なごやたくしーものがたり 広小路尚祈 単行本・桜山社 いつか来る季節 名古屋タクシー物語は、広小路尚祈による2017年発表の作品です。単行本は桜山社(2017年)。
  286. 286 2017 星の子 ほしのこ 今村夏子 初出・小説トリッパー 2017年夏季号 中学3年生の林ちひろは、優しい両親に愛されて育った。だが両親は、生まれつき病弱だったちひろが「あやしい宗教」の水で救われたと信じて以来、その教団に深くのめり込んでいる。緑のジャージ姿で頭に濡れタオルを載せる両親は周囲の目を引き、姉は家を出て、親戚との関係も軋んでいく。一目惚れした新任の先生に、夜の公… 信仰家族青春 第39回 野間新人賞
  287. 287 2017 ほしのこ ほしのこ 山下澄人 単行本・文藝春秋 ほしのこは、山下澄人による2017年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2017年)。
  288. 288 2017 百年泥 ひゃくねんどろ 石井遊佳 初出・新潮 2017年11月号 恋人の借金を肩代わりして多重債務に陥った「私」は、返済のため南インド・チェンナイのIT企業で日本語教師として働き始める。着任三か月半で百年に一度の大洪水が街を襲い、水が引いたアダイヤール川には百年分の泥が残された。泥の中からは死んだはずの人や記憶の品々が次々と現れ、橋を渡る数十分のあいだに、語り手の… 移民と越境記憶言葉と言語 第158回 芥川賞
  289. 289 2017 意識のリボン いしきのリボン 綿矢りさ 単行本・集英社 さまざまな年代の女性たちの意識の揺らぎをすくいとった短篇集。
  290. 290 2017 回遊人 かいゆうじん 吉村萬壱 単行本・徳間書店 回遊人は、吉村萬壱による2017年発表の作品です。単行本は徳間書店(2017年)。
  291. 291 2017 かわうそ堀怪談見習い かわうそぼりかいだんみならい 柴崎友香 単行本・KADOKAWA かわうそ堀怪談見習いは、柴崎友香による2017年発表の作品です。単行本はKADOKAWA(2017年)。
  292. 292 2017 生成不純文学 せいせいふじゅんぶんがく 木下古栗 単行本・集英社 生成不純文学は、木下古栗による2017年発表の作品です。単行本は集英社(2017年)。
  293. 293 2017 騎士団長殺し きしだんちょうごろし 村上春樹 単行本・新潮社 肖像画家の「私」が小田原の山荘で謎の絵と「イデア」に遭遇する長編2部作。
  294. 294 2017 幸福な水夫 こうふくなすいへい 木村友祐 単行本・未來社 幸福な水夫は、木村友祐による2017年発表の作品です。単行本は未來社(2017年)。
  295. 295 2017 高架線 こうかせん 滝口悠生 単行本・講談社 東京の古いアパートの住人たちの来歴を、語り手を替えながらたどる長編。
  296. 296 2017 ランチ酒 らんちざけ 原田ひ香 単行本・祥伝社 夜に子どもを預け昼間に働くシングルマザーが、仕事後の一人ランチに酒を飲む連作。
  297. 297 2017 万次郎茶屋 まんじろうちゃや 中島たい子 単行本・光文社 老いたイノシシ万次郎と画家志望の女性をめぐる、不思議でじんわりする短編集。
  298. 298 2017 もう生まれたくない もううまれたくない 長嶋有 単行本・講談社 もう生まれたくないは、長嶋有による2017年発表の作品です。単行本は講談社(2017年)。
  299. 299 2017 無敵の二人 むてきのふたり 中村航 単行本・文藝春秋 無敵の二人は、中村航による2017年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2017年)。
  300. 300 2017 血と肉 ちとにく 中山咲 単行本・河出書房新社 血と肉は、中山咲による2017年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2017年)。
  301. 301 2017 茄子の輝き なすのかがやき 滝口悠生 単行本・新潮社 会社の倒産と離婚を経た市瀬の日々を描く連作小説集。
  302. 302 2017 おらおらでひとりいぐも おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子 初出・文藝 2017年冬季号 主人公は東北出身、74歳の桃子さん。結婚を目前に故郷を飛び出して上京し、住み込みの仕事、周造との結婚、二児の子育て、そして夫との突然の死別を経て、いまは東京郊外の家にひとりで暮らす。静かな日々のなか、桃子さんの内から標準語と懐かしい東北弁の無数の「声」が湧き上がり、孤独や老い、夫への思い、これからの… 老い死と喪失孤独と疎外 第158回 芥川賞
  303. 303 2017 R帝国 あーるていこく 中村文則 単行本・中央公論新社 R帝国は、中村文則による2017年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2017年)。
  304. 304 2017 ラジオ・ガガガ らじおががが 原田ひ香 単行本・双葉社 実在するラジオ番組に耳を傾ける人々の人生模様を描いた連作短篇集。
  305. 305 2017 成功者K せいこうしゃケー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 芥川賞受賞とメディア露出で人生が変貌していく作家Kを描く、私小説的メタフィクション。
  306. 306 2017 世界のすべてのさよなら せかいのすべてのさよなら 白岩玄 単行本・幻冬舎 30歳になった同級生四人のそれぞれの変化と別れを描く青春後小説。
  307. 307 2017 千の扉 せんのとびら 柴崎友香 単行本・中央公論新社 新宿の巨大な都営団地を舞台に、そこで暮らした人々の記憶と時間をたどる長編。
  308. 308 2017 芝公園六角堂跡 しばこうえんろっかくどうあと 西村賢太 単行本・文藝春秋 私小説家としての現在地を見つめる「狂折檻」など四篇を収めた連作集。
  309. 309 2017 岩塩の女王 がんえんのじょおう 諏訪哲史 単行本・新潮社 岩塩の女王は、諏訪哲史による2017年発表の作品です。単行本は新潮社(2017年)。
  310. 310 2017 囚われの島 とらわれのしま 谷崎由依 単行本・河出書房新社 囚われの島は、谷崎由依による2017年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2017年)。
  311. 311 2017 塔と重力 とうとじゅうりょく 上田岳弘 単行本・新潮社 芸術選奨新人賞を受賞した作品集。
  312. 312 2017 美しい国への旅 うつくしいくにへのたび 田中慎弥 単行本・集英社 美しい国への旅は、田中慎弥による2017年発表の作品です。単行本は集英社(2017年)。
  313. 313 2017 わたしたちは銀のフォークと薬を手にして わたしたちはぎんのふぉーくとくすりをてにして 島本理生 単行本・幻冬舎 わたしたちは銀のフォークと薬を手にしては、島本理生による2017年発表の作品です。単行本は幻冬舎(2017年)。
  314. 314 2017 私をくいとめて わたしをくいとめて 綿矢りさ 単行本・朝日新聞出版 おひとりさま生活を送る33歳のみつ子が、脳内の相談役「A」と対話しながら恋に踏み出す物語。2020年に映画化された。
  315. 315 2017 エーゲ海に強がりな月が えーげかいにつよがりなつきが 楊逸 単行本・潮出版社 エーゲ海に強がりな月がは、楊逸による2017年発表の作品です。単行本は潮出版社(2017年)。
  316. 316 2017 とぜね、かちゃくちゃね とぜね、かちゃくちゃね 工藤千尋 単行本・朝日新聞出版 第3回林芙美子文学賞大賞受賞作。第3回以降は「小説トリッパー」(朝日新聞出版)掲載。単行本化の有無は未確認。 第3回 林芙美子賞
  317. 317 2017 深く、 ふかく、 なかにしさとみ 第3回林芙美子文学賞佳作受賞作。単行本化は未確認。
  318. 318 2017 天袋 てんぶくろ 上原智美 初出・「群像」2017年6月号 他人の部屋の天袋(押し入れの上段の収納スペース)に潜む女性が、ブログと手帳を通して住人の生活を覗き見る奇妙な設定の物語。第60回群像新人文学賞優秀作(当選なし)。
  319. 319 2017 光点 こうてん 山岡ミヤ 初出・「すばる」2017年11月号 詩作の経験を持つ著者による、細やかな言語感覚と女性の内的世界を描いた受賞作。 第41回 すばる文学賞
  320. 320 2017 遊ぶ幽霊 あそぶゆうれい 兎束まいこ 初出・「すばる」2017年11月号(佳作として掲載) 幽霊という存在を通じて生と死の境界を探る作品。単行本は未刊。詳細情報は公開資料からは限定的。
  321. 321 2017 蛇沼 じゃぬま 佐藤厚志 初出・「新潮」2017年11月号 宮城県の農家に暮らす青年の鬱屈した日常と炸裂する暴力を、東北の土地の記憶と重ねながら濃密に描いた作品。書店員として働き続けた著者のデビュー作。単行本未刊(後年は別作品で単行本デビュー)。 第49回 新潮新人賞
  322. 322 2017 無限の玄 むげんのくろ 古谷田奈月 初出・「早稲田文学」増刊女性号(2017年) 男性のみで構成されるストリングバンドで絶対的権威を持つ父の死と再生を繰り返すような存在を軸に、バンドという共同体が変容していく過程を描く中篇。「風下の朱」と合本して2018年に筑摩書房より単行本化。 第31回 三島賞
  323. 323 2017 日曜日の人々(サンデー・ピープル) にちようびのひとびと さんでー ぴーぷる 高橋弘希 初出・「群像」2017年6月号、2017年8月講談社より単行本刊行 戦争体験者から受け継がれた記憶と暴力の問題を、現代の若者たちが中庭の存在を通して直面する連作。高橋弘希が戦争・暴力の主題を現代に引き寄せた新境地の作品。 第39回 野間新人賞
  324. 324 2017 双子は驢馬に跨がって ふたごはろばにまたがって 金子薫 単行本・河出書房新社 フランス文学の影響を受けた幻想的・哲学的なユーモアで、双子の奇妙な旅を描く。2017年に河出書房新社より刊行、第40回野間文芸新人賞受賞。 第40回 野間新人賞
  325. 325 2017 こことよそ ここ と よそ 保坂和志 初出・「新潮」2017年6月号掲載 日常の時間の流れと意識の細部を丁寧にたどった短篇。第44回川端康成文学賞受賞作。 第44回 川端賞
  326. 326 2016 あひる あひる 今村夏子 単行本・書肆侃侃房 飼いあひる「のりたま」をめぐる家族の不穏な日常を描く表題作ほかを収めた作品集。
  327. 327 2016 少女は花の肌をむく しょうじょははなのはだをむく 朝比奈あすか 単行本・中央公論新社 少女は花の肌をむくは、朝比奈あすかによる2016年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2016年)。
  328. 328 2016 コンテクスト・オブ・ザ・デッド コンテクスト・オブ・ザ・デッド 羽田圭介 単行本・講談社 ゾンビが蔓延する世界で文学と出版業界を風刺する長編。
  329. 329 2016 月刊「小説」 げっかんしょうせつ 松波太郎 単行本・河出書房新社 月刊「小説」は、松波太郎による2016年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2016年)。
  330. 330 2016 ヒーロー! ひーろー 白岩玄 単行本・河出書房新社 ヒーローばかの男子と文化系女子がいじめゼロを目指す、痛快学園小説。
  331. 331 2016 ホモサピエンスの瞬間 ほもさぴえんすのしゅんかん 松波太郎 単行本・文藝春秋 第154回芥川賞候補作。
  332. 332 2016 炎と苗木 田中慎弥の掌劇場 ほのおとなえぎ たなかしんやのてのひらげきじょう 田中慎弥 単行本・毎日新聞出版 掌編小説集『田中慎弥の掌劇場』の続編。
  333. 333 2016 異郷の友人 いきょうのゆうじん 上田岳弘 単行本・新潮社 異郷の友人は、上田岳弘による2016年発表の作品です。単行本は新潮社(2016年)。
  334. 334 2016 イノセント いのせんと 島本理生 単行本・集英社 イノセントは、島本理生による2016年発表の作品です。単行本は集英社(2016年)。
  335. 335 2016 イサの氾濫 いさのはんらん 木村友祐 単行本・未來社 第25回三島由紀夫賞候補作品を収めた短篇集。
  336. 336 2016 壁抜けの谷 かべぬけのたに 山下澄人 単行本・中央公論新社 壁抜けの谷は、山下澄人による2016年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2016年)。
  337. 337 2016 軽薄 けいはく 金原ひとみ 単行本・新潮社 甥である10代の弘斗と関係を持つ30歳のカナの、破滅的な愛を描く長編。
  338. 338 2016 まっぷたつの先生 まっぷたつのせんせい 木村紅美 単行本・中央公論新社 まっぷたつの先生は、木村紅美による2016年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2016年)。
  339. 339 2016 グローバライズ ぐろーばらいず 木下古栗 単行本・河出書房新社 グローバライズは、木下古栗による2016年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2016年)。
  340. 340 2016 小松とうさちゃん こまつとうさちゃん 絲山秋子 単行本・河出書房新社 小松とうさちゃんは、絲山秋子による2016年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2016年)。
  341. 341 2016 コンビニ人間 コンビニにんげん 村田沙耶香 初出・文學界 2016年6月号 36歳未婚の古倉恵子は、大学卒業後も就職せず、同じコンビニで18年間アルバイトを続けている。幼い頃から人と感覚がずれていることを自覚してきた恵子にとって、マニュアルが完備されたコンビニは「普通の人間」を演じられる唯一の場所だった。しかし、婚活目的で店にやってきた皮肉屋の新人男性・白羽の出現により、そ… 労働同調圧力アイデンティティ 第155回 芥川賞
  342. 342 2016 虫たちの家 むしたちのいえ 原田ひ香 単行本・光文社 九州の孤島にあるグループホームで、インターネットで傷ついた女性たちが共同生活を送る物語。
  343. 343 2016 野良ビトたちの燃え上がる肖像 のらびとたちのもえあがるしょうぞう 木村友祐 単行本・新潮社 格差と貧困の中で生きる人々を描いた長篇。
  344. 344 2016 大きくなる日 おおきくなるひ 佐川光晴 単行本・集英社 大きくなる日は、佐川光晴による2016年発表の作品です。単行本は集英社(2016年)。
  345. 345 2016 三の隣は五号室 さんのとなりはごごうしつ 長嶋有 単行本・中央公論新社 谷崎潤一郎賞受賞作。ひとつのアパートの部屋に住んだ人々の時間を描く連作長篇。 第52回 谷崎賞
  346. 346 2016 しんせかい しんせかい 山下澄人 初出・新潮 2016年7月号 19歳のスミトは、神戸からフェリーと汽車を乗り継ぎ、北海道の【谷】で脚本家の【先生】が主宰する私塾に二期生として入る。俳優や脚本家を志す年齢も経歴も様々な仲間たちとの共同生活は、しかし稽古よりも、施設造りや農作業、馬の世話といった肉体労働に明け暮れるものだった。倉本聰主宰の富良野塾での著者自身の体験… 青春芸術と表現労働 第156回 芥川賞
  347. 347 2016 手のひらの京 てのひらのみやこ 綿矢りさ 単行本・新潮社 京都に暮らす奥沢家の三姉妹それぞれの恋愛や仕事、旅立ちを描く長編。
  348. 348 2016 天才 てんさい 石原慎太郎 単行本・幻冬舎 田中角栄の一人称で語られる政治小説。角栄の政治哲学と生涯を描く。
  349. 349 2016 美しい距離 うつくしいきょり 山崎ナオコーラ 単行本・文藝春秋 妻の末期がんに寄り添う夫の視点から、死に向かう日常を静かに描く。
  350. 350 2016 私の消滅 わたしのしょうめつ 中村文則 単行本・文藝春秋 私の消滅は、中村文則による2016年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2016年)。
  351. 351 2016 蠕動で渉れ、汚泥の川を ぜんどうでわたれ、おでいのかわを 西村賢太 単行本・集英社 17歳の北町貫多が新聞専売所で働く日々を描く長編私小説。
  352. 352 2016 太陽の側の島 たいようのそばのしま 高山羽根子 単行本・朝日新聞出版 戦時中の記憶と不思議な体験を描いたSF的要素を持つ中篇。第2回林芙美子文学賞大賞受賞作。「婦人公論」2016年4月26日号(中央公論新社)に掲載後、短篇集『オブジェクタム』(朝日新聞出版、2018年)に収録。 第2回 林芙美子賞
  353. 353 2016 市街戦 しがいせん 砂川文次 初出・「文學界」2016年5月号 陸上自衛隊でAH-1S操縦士として勤務した著者が、リアルな軍事描写と現代の都市戦争を重ねて描いたデビュー作。後の芥川賞受賞(「ブラックボックス」)へと続く自衛隊文学の出発点。 第121回 文學界新人賞
  354. 354 2016 人生のアルバム じんせいのあるばむ 渡辺勝也 初出・「文學界」2016年5月号 人生という時間の記録をアルバムに喩えながら、記憶と現在の関係を探るデビュー作。 第121回 文學界新人賞
  355. 355 2016 ジニのパズル じにのぱずる 崔実 初出・「群像」2016年6月号 在日コリアン三世の高校生・ジニが朝鮮学校での体験と民族のアイデンティティを問い続ける物語。第59回群像新人文学賞当選作で選考委員全員が絶賛。第155回芥川賞候補・第104回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
  356. 356 2016 青が破れる あおがやぶれる 町屋良平 初出・「文藝」2016年冬号 ボクシングを通じて自己と他者の距離を測り続ける若者の内面を、リズミカルで反復的な文体で描いた作品。のちに芥川賞を受賞する町屋良平のデビュー作。 第53回 文藝賞
  357. 357 2016 そういう生き物 そういういきもの 春見朔子 初出・「すばる」2016年11月号 薬剤師として働きながら初めて小説を書いた著者が、生と性の問題を正面から描いた作品。執筆開始から約2か月で受賞した経緯も話題になった。 第40回 すばる文学賞
  358. 358 2016 えん えん ふくだももこ 初出・「すばる」2016年11月号(佳作として掲載) 映画監督志望の著者が書いた、人と人のつながり(縁)を主題にした作品。映像的な感性が文体に活きたデビュー作。単行本は未刊。
  359. 359 2016 二人組み ふたりぐみ 鴻池留衣 初出・「新潮」2016年11月号 二人一組という関係性の拘束と依存をめぐる実験的な作品。慶應義塾大学仏文科中退後に書かれたデビュー作。 第48回 新潮新人賞
  360. 360 2016 縫わんばならん ぬわんばならん 古川真人 初出・「新潮」2016年11月号 長崎の島・平戸市的山大島を舞台に、方言と複数の時代が重なり合う家族と土地の物語。のちに「背高泡立草」で芥川賞を受賞する古川真人のデビュー作。 第48回 新潮新人賞
  361. 361 2016 伯爵夫人 はくしゃくふじん 蓮實重彦 初出・「新潮」2016年4月号、同年6月新潮社より単行本刊行 昭和初年、帝大入試を間近に控えた青年・二朗が謎めいた伯爵夫人に誘われ性の昂ぶりを知る。従妹や和製ルイーズ・ブルックスなど魅力的な女性たちが翻弄し、開戦の足音が近づく中で青春の狂騒を描く。著者22年ぶりの長編小説。 第29回 三島賞
  362. 362 2016 カブールの園 かぶーるのその 宮内悠介 初出・「文學界」2016年10月号、2017年1月文藝春秋より単行本刊行 日系アメリカ人三世の女性がIT企業を立ち上げた友人とともにヨセミテへ向かい、日系人強制収容所の跡地に引き寄せられる表題作と、幼少期に不法入国したニューヨーカーを描く「半地下」を収録。第156回芥川賞候補にもなった。 第30回 三島賞
  363. 363 2016 のろい男 俳優・亀岡拓次 のろいおとこ はいゆう かめおかたくじ 戌井昭人 単行本・文藝春秋 脇役俳優・亀岡拓次を主人公にした連作短篇集。全国のロケ地を転々とし仕事相手との淡い縁を紡ぐ亀岡の日常を、諦観とユーモアを交えて描く。前作『俳優・亀岡拓次』(2014年)の続編にあたり、第38回野間文芸新人賞受賞。2016年に映画化された。 第38回 野間新人賞
  364. 364 2016 本物の読書家 ほんものの どくしょか 乗代雄介 初出・「群像」2016年9月号、2017年11月講談社より単行本刊行 老人ホームへ向かう独り身の大叔父と川端康成をめぐる秘密を、語り手の「私」が追う。読書体験と記憶、老いと継承をテーマにした中篇で、乗代雄介の評価を確立した受賞作。 第40回 野間新人賞
  365. 365 2015 愛のようだ あいのようだ 長嶋有 単行本・リトル・モア 愛のようだは、長嶋有による2015年発表の作品です。単行本はリトル・モア(2015年)。
  366. 366 2015 愛と人生 あいとじんせい 滝口悠生 単行本・講談社 映画『男はつらいよ』の世界を下敷きに、かつて子役として出演した青年を描く長編。野間文芸新人賞受賞。 第37回 野間新人賞
  367. 367 2015 あこがれ あこがれ 川上未映子 単行本・新潮社 小学生の麦彦とヘガティーの友情と淡い憧れを描く連作長編。渡辺淳一文学賞を受賞した。
  368. 368 2015 あなたが消えた夜に あなたがきえたよるに 中村文則 単行本・毎日新聞出版 連続通り魔殺人事件を追う二人の刑事の視点が交錯する、ミステリー的長編。
  369. 369 2015 まゆ 青山七恵 単行本・新潮社 繭は、青山七恵による2015年発表の作品です。単行本は新潮社(2015年)。
  370. 370 2015 あの子が欲しい あのこがほしい 朝比奈あすか 単行本・講談社 あの子が欲しいは、朝比奈あすかによる2015年発表の作品です。単行本は講談社(2015年)。
  371. 371 2015 自画像 じがぞう 朝比奈あすか 単行本・双葉社 自画像は、朝比奈あすかによる2015年発表の作品です。単行本は双葉社(2015年)。
  372. 372 2015 天使はここに てんしはここに 朝比奈あすか 単行本・朝日新聞出版 天使はここには、朝比奈あすかによる2015年発表の作品です。単行本は朝日新聞出版(2015年)。
  373. 373 2015 ボーイミーツガールの極端なもの ぼーいみーつがーるのきょくたんなもの 山崎ナオコーラ 単行本・イースト・プレス ボーイミーツガールの極端なものは、山崎ナオコーラによる2015年発表の作品です。単行本はイースト・プレス(2015年)。
  374. 374 2015 痴者の食卓 ちしゃのしょくたく 西村賢太 単行本・新潮社 痴者の食卓は、西村賢太による2015年発表の作品です。単行本は新潮社(2015年)。
  375. 375 2015 電車道 でんしゃみち 磯﨑憲一郎 単行本・新潮社 電車道は、磯﨑憲一郎による2015年発表の作品です。単行本は新潮社(2015年)。
  376. 376 2015 動物記 どうぶつき 高橋源一郎 単行本・河出書房新社 動物記は、高橋源一郎による2015年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2015年)。
  377. 377 2015 エピローグ えぴろーぐ 円城塔 単行本・早川書房 エピローグは、円城塔による2015年発表の作品です。単行本は早川書房(2015年)。
  378. 378 2015 プロローグ ぷろろーぐ 円城塔 単行本・文藝春秋 プロローグは、円城塔による2015年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2015年)。
  379. 379 2015 シャッフル航法 しゃっふるこうほう 円城塔 単行本・河出書房新社 シャッフル航法は、円城塔による2015年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2015年)。
  380. 380 2015 復讐屋成海慶介の事件簿 ふくしゅうやなるみけいすけのじけんぼ 原田ひ香 単行本・双葉社 復讐屋成海慶介の事件簿は、原田ひ香による2015年発表の作品です。単行本は双葉社(2015年)。
  381. 381 2015 学校の近くの家 がっこうのちかくのいえ 青木淳悟 単行本・新潮社 学校の近くの家は、青木淳悟による2015年発表の作品です。単行本は新潮社(2015年)。
  382. 382 2015 ギリギリ ぎりぎり 原田ひ香 単行本・KADOKAWA ギリギリは、原田ひ香による2015年発表の作品です。単行本はKADOKAWA(2015年)。
  383. 383 2015 薄情 はくじょう 絲山秋子 単行本・新潮社 群馬の地方都市に生きる男を通して、土地への愛着と薄情さを描く。谷崎潤一郎賞受賞。 第52回 谷崎賞
  384. 384 2015 反人生 はんじんせい 山崎ナオコーラ 単行本・集英社 反人生は、山崎ナオコーラによる2015年発表の作品です。単行本は集英社(2015年)。
  385. 385 2015 火花 ひばな 又吉直樹 初出・文學界 2015年2月号 売れない若手漫才師の徳永は、熱海の花火大会の営業で出会った先輩芸人・神谷の才能と破天荒な生き方に惹かれ、弟子にしてほしいと申し出る。神谷の伝記を書くという条件で交流が始まり、二人は東京の街を飲み歩きながら笑いの本質をめぐる対話を重ねていく。やがて徳永のコンビは少しずつ世に出る一方、笑いに純粋すぎる神… 芸術と表現青春孤独と疎外 第153回 芥川賞
  386. 386 2015 キッチン戦争 きっちんせんそう 樋口直哉 単行本・講談社 キッチン戦争は、樋口直哉による2015年発表の作品です。単行本は講談社(2015年)。
  387. 387 2015 院内カフェ いんないかふぇ 中島たい子 単行本・朝日新聞出版 院内カフェは、中島たい子による2015年発表の作品です。単行本は朝日新聞出版(2015年)。
  388. 388 2015 異類婚姻譚 いるいこんいんたん 本谷有希子 初出・群像 2015年11月号 結婚して4年になる専業主婦の「私」は、家ではテレビとゲームに没頭するだけの夫と、波風のない生活を送っている。ある日ふと、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気づいた「私」。やがて夫の顔は緩み、溶け、人間の形を失っていくように見え始める。捨てられた飼い猫の行方や、揚げ物に異常に執着する夫の変容… 夫婦アイデンティティジェンダー 第154回 芥川賞
  389. 389 2015 ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス 滝口悠生 単行本・新潮社 芥川賞候補となった表題作を収める。
  390. 390 2015 可愛い世の中 かわいいよのなか 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 可愛い世の中は、山崎ナオコーラによる2015年発表の作品です。単行本は講談社(2015年)。
  391. 391 2015 持たざる者 もたざるもの 金原ひとみ 単行本・集英社 震災後の不安の中で、東京を離れる者と残る者、四人の男女の選択を描く長編。
  392. 392 2015 無銭横町 むせんよこちょう 西村賢太 単行本・文藝春秋 無銭横町は、西村賢太による2015年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2015年)。
  393. 393 2015 暗号のポラリス あんごうのぽらりす 中山智幸 単行本・NHK出版 暗号のポラリスは、中山智幸による2015年発表の作品です。単行本はNHK出版(2015年)。
  394. 394 2015 ペンギンのバタフライ ぺんぎんのばたふらい 中山智幸 単行本・PHP研究所 ペンギンのバタフライは、中山智幸による2015年発表の作品です。単行本はPHP研究所(2015年)。
  395. 395 2015 夏の裁断 なつのさいだん 島本理生 単行本・文藝春秋 芥川賞候補。執筆を辞めた女性小説家のもとに若い男性が現れ、破綻した恋愛が始まる。
  396. 396 2015 ネンレイズム/開かれた食器棚 ねんれいずむ/ひらかれたしょっきだな 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 ネンレイズム/開かれた食器棚は、山崎ナオコーラによる2015年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2015年)。
  397. 397 2015 残された者たち のこされたものたち 小野正嗣 単行本・集英社文庫 過疎の集落・潮の浦の分校を舞台に、代用教員アンナと生徒たちの日常をユーモラスに描く文庫オリジナル作品。
  398. 398 2015 オールド・テロリスト オールド・テロリスト 村上龍 単行本・文藝春秋 オールド・テロリストは、村上龍による2015年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2015年)。
  399. 399 2015 パノララ パノララ 柴崎友香 単行本・講談社 パノララは、柴崎友香による2015年発表の作品です。単行本は講談社(2015年)。
  400. 400 2015 宰相A さいしょうエー 田中慎弥 単行本・新潮社 「平和主義」を掲げる独裁国家と化したもう一つの日本に迷い込んだ小説家Tを描くディストピア長編。
  401. 401 2015 三人屋 さんにんや 原田ひ香 単行本・実業之日本社 三姉妹が時間帯ごとに異なる業態で営む店をめぐる連作短篇集。
  402. 402 2015 スクラップ・アンド・ビルド スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介 初出・文學界 2015年 無職で資格試験の勉強と転職活動を続ける28歳の健斗は、母と、87歳の祖父との三人暮らし。「早う死にたか」と口癖のように繰り返す祖父に対し、健斗は介護職の友人の助言をひねって解釈し、あえて何もかも世話を焼いて自立の機会を奪う「足し算の介護」によって、祖父の望む穏やかな死を後押ししようと思い立つ。同時に… 家族老いケアと介護 第153回 芥川賞
  403. 403 2015 死んでいない者 しんでいないもの 滝口悠生 初出・文學界 2015年12月号 秋のある日、大往生を遂げた85歳の男の通夜に、子や孫、ひ孫まで30人ほどの親族が集まってくる。通夜振る舞いの席で酒を酌み交わす者、川辺をさまよう者、初めて会う親戚と言葉を交わす少年少女。語りは特定の人物に留まらず、出席者から出席者へと自在に移りながら、故人の記憶と一族それぞれの来し方、共有しえない日… 家族死と喪失記憶 第154回 芥川賞
  404. 404 2015 心臓異色 しんぞういしょく 中島たい子 単行本・光文社 心臓異色は、中島たい子による2015年発表の作品です。単行本は光文社(2015年)。
  405. 405 2015 消滅世界 しょうめつせかい 村田沙耶香 単行本・河出書房新社 人工授精による出産が標準となり、夫婦間の性が「近親相姦」とされる世界を描く長編。
  406. 406 2015 水死人の帰還 すいしにんのきかん 小野正嗣 単行本・文藝春秋 水死人の帰還は、小野正嗣による2015年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2015年)。
  407. 407 2015 匿名者のためのスピカ とくめいしゃのためのすぴか 島本理生 単行本・祥伝社 匿名者のためのスピカは、島本理生による2015年発表の作品です。単行本は祥伝社(2015年)。
  408. 408 2015 匿名芸術家 とくめいげいじゅつか 青木淳悟 単行本・講談社 匿名芸術家は、青木淳悟による2015年発表の作品です。単行本は講談社(2015年)。
  409. 409 2015 鳥の会議 とりのかいぎ 山下澄人 単行本・河出書房新社 鳥の会議は、山下澄人による2015年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2015年)。
  410. 410 2015 虚ろまんてぃっく うつろまんてぃっく 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 虚ろまんてぃっくは、吉村萬壱による2015年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2015年)。
  411. 411 2015 ウォーク・イン・クローゼット ウォーク・イン・クローゼット 綿矢りさ 単行本・講談社 ウォーク・イン・クローゼットは、綿矢りさによる2015年発表の作品です。単行本は講談社(2015年)。
  412. 412 2015 私の恋人 わたしのこいびと 上田岳弘 単行本・新潮社 クロマニョン人以来、転生を繰り返してきた「私」が人類史と恋を語る長編。三島由紀夫賞受賞。 第28回 三島賞
  413. 413 2015 次ぎの人 つぎのひと 井岡道子 第1回林芙美子文学賞大賞受賞作。第1回(第2回まで)は中央公論新社「婦人公論」掲載。単行本化は未確認。 第1回 林芙美子賞
  414. 414 2015 うつむく朝 うつむくあさ 志馬さち子 第1回林芙美子文学賞佳作受賞作。
  415. 415 2015 ものかげの雨 ものかげのあめ 高倉やえ 単行本・角川文化振興財団 第1回林芙美子文学賞佳作受賞作。受賞作を表題作とした単行本が角川書店から刊行されている。
  416. 416 2015 サバイブ さばいぶ 加藤秀行 初出・「文學界」2015年6月号 ビジネスコンサルタントとして活動するバンコク在住の著者が描く、サバイバルをめぐる人間の本性。「シェア」「キャピタル」で続けて芥川賞候補となった著者のデビュー作。 第120回 文學界新人賞
  417. 417 2015 ヴェジトピア ゔぇじとぴあ 杉本裕孝 初出・「文學界」2015年6月号 植物性食品のみが存在するユートピア的共同体を舞台に、食と欲望と社会の関係を描いた異色作。 第120回 文學界新人賞
  418. 418 2015 十七八より じゅうななはちより 乗代雄介 初出・「群像」2015年6月号 塾講師として勤務中に書いた第58回群像新人文学賞当選作。若者の言葉とリズムを精緻に捉えた文体が高く評価された。野間文芸新人賞・三島由紀夫賞・坪田譲治文学賞受賞へと続く著者のデビュー作。
  419. 419 2015 ドール どーる 山下紘加 初出・「文藝」2015年冬号 ラブドールを素材に、肉体・欲望・存在の問題を正面から描いた作品。21歳の会社員が書いたという経歴も話題になった受賞作。 第52回 文藝賞
  420. 420 2015 地の底の記憶 ちのそこのきおく 畠山丑雄 初出・「文藝」2015年冬号 東北の炭鉱跡地を舞台に、地下に埋もれた記憶と家族の歴史を掘り起こす作品。京都大学在学中の大学生が書いた長編として注目を集めた。 第52回 文藝賞
  421. 421 2015 温泉妖精 おんせんようせい 黒名ひろみ 初出・「すばる」2015年11月号 香川県の温泉地を舞台に、妖精的な存在と人間との交わりを描いた幻想的な作品。シナリオ学習の経験を持つ著者による物語性の高いデビュー作。 第39回 すばる文学賞
  422. 422 2015 地に満ちる ちにみちる 竹林美佳 初出・「すばる」2015年11月号(佳作として掲載) 誤って我が子を死なせた後に離婚し、人工授精技術士として働きながら孤独を生きる女性カナの物語。不眠と喪失を抱えた女性の内面を緻密に描いた。単行本は未刊。
  423. 423 2015 恐竜たちは夏に祈る きょうりゅうたちはなつにいのる 高橋有機子 初出・「新潮」2015年11月号 自分に無関心な継父の介護を担うことになった中年女性・衿子と、攻撃的な性格を持ち学校での苛めの秘密を抱える緋鞠の物語。家族の軋轢と孤立を描いた。単行本未刊。 第47回 新潮新人賞
  424. 424 2015 女たち三百人の裏切りの書 おんなたちさんびゃくにんのうらぎりのしょ 古川日出男 初出・連載長篇、2015年新潮社より単行本刊行 源氏物語が世に広まって百年あまりのち、改竄された物語を正すため怨霊として蘇った紫式部が宇治十帖の真の姿を語り直す。古川日出男ならではの膨大な文体量と神話的スケールで源氏物語を読み直す野心作。 第37回 野間新人賞
  425. 425 2015 生鮮てるてる坊主 せいせん てるてる ぼうず 山田詠美 初出・「群像」2015年9月号。短篇集『珠玉の短編』(講談社、2016年)に収録。 エロスとグロテスクを超絶技巧で描いた短篇。第42回川端康成文学賞受賞作。短篇集『珠玉の短編』(11篇収録)に所収。 第42回 川端賞
  426. 426 2014 A えー 中村文則 単行本・河出書房新社 Aは、中村文則による2014年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2014年)。
  427. 427 2014 かぜ 青山七恵 単行本・河出書房新社 風は、青山七恵による2014年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2014年)。
  428. 428 2014 不自由な絆 ふじゆうなきずな 朝比奈あすか 単行本・光文社 不自由な絆は、朝比奈あすかによる2014年発表の作品です。単行本は光文社(2014年)。
  429. 429 2014 ボラード病 ぼらーどびょう 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 海辺の新興住宅地に越してきた家族が、地域の同調圧力に絡め取られていく。
  430. 430 2014 ファイナルガール ふぁいなるがーる 藤野可織 単行本・扶桑社 ファイナルガールは、藤野可織による2014年発表の作品です。単行本は扶桑社(2014年)。
  431. 431 2014 春の庭 はるのにわ 柴崎友香 初出・文學界 2014年6月号 離婚を機に世田谷の取り壊し予定のアパートに越してきた太郎は、隣に建つ水色の洋館を熱心に観察する住人の女・西と知り合う。漫画家の西は、高校時代に魅了された写真集『春の庭』の舞台がその家であることを知り、この場所へ引っ越してきたのだった。二人は次第にその水色の家への接近を試みるようになる。再開発で消えて… 記憶死と喪失孤独と疎外 第151回 芥川賞
  432. 432 2014 スープの国のお姫様 すーぷのくにのおひめさま 樋口直哉 単行本・小学館 スープの国のお姫様は、樋口直哉による2014年発表の作品です。単行本は小学館(2014年)。
  433. 433 2014 清とこの夜 きよとこのよる 広小路尚祈 単行本・中央公論新社 清とこの夜は、広小路尚祈による2014年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2014年)。
  434. 434 2014 星よりひそかに ほしよりひそかに 柴崎友香 単行本・幻冬舎 星よりひそかには、柴崎友香による2014年発表の作品です。単行本は幻冬舎(2014年)。
  435. 435 2014 彼女の家計簿 かのじょのかけいぼ 原田ひ香 単行本・光文社 戦前から三世代にわたる女たちを家計簿が結ぶ長篇。
  436. 436 2014 金を払うから素手で殴らせてくれないか? かねをはらうからすでになぐらせてくれないか 木下古栗 単行本・講談社 金を払うから素手で殴らせてくれないか?は、木下古栗による2014年発表の作品です。単行本は講談社(2014年)。
  437. 437 2014 コルバトントリ コルバトントリ 山下澄人 単行本・文藝春秋 コルバトントリは、山下澄人による2014年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2014年)。
  438. 438 2014 九年前の祈り くねんまえのいのり 小野正嗣 初出・群像 2014年9月号 35歳のさなえは、カナダ人の夫に去られたあと、激しい癇癪を起こす幼い息子・希敏を連れて、故郷である大分の海辺の小さな集落に帰ってくる。育児に疲弊する彼女の脳裏には、九年前、集落の女たちとカナダを旅した際、世話役の「みっちゃん姉」が異国の教会で見せた祈りの姿が繰り返し蘇る。そのみっちゃん姉の息子がいま… 母と子信仰記憶 第152回 芥川賞
  439. 439 2014 きょうのできごと、十年後 きょうのできごと、じゅうねんご 柴崎友香 単行本・河出書房新社 デビュー作『きょうのできごと』の登場人物たちの十年後を描く続編。
  440. 440 2014 教団X きょうだんえっくす 中村文則 単行本・集英社 巨大宗教団体をめぐる四人の男女が交差する、長大な暗黒の群像劇。
  441. 441 2014 LIFE らいふ 松波太郎 単行本・講談社 第36回野間文芸新人賞受賞作。第150回芥川賞候補。 第36回 野間新人賞
  442. 442 2014 メタモルフォシス メタモルフォシス 羽田圭介 単行本・新潮社 SMの快楽に深入りしていく証券マンを描き、芥川賞候補となった。
  443. 443 2014 ミチルさん、今日も上機嫌 みちるさんきょうもじょうきげん 原田ひ香 単行本・集英社 ミチルさん、今日も上機嫌は、原田ひ香による2014年発表の作品です。単行本は集英社(2014年)。
  444. 444 2014 猫の目犬の鼻 ねこのめいぬのはな 丹下健太 単行本・講談社 猫の目犬の鼻は、丹下健太による2014年発表の作品です。単行本は講談社(2014年)。
  445. 445 2014 寝相 ねぞう 滝口悠生 単行本・新潮社 新潮新人賞受賞のデビュー作「楽器」を含む、最初の小説集。
  446. 446 2014 女のいない男たち おんなのいないおとこたち 村上春樹 単行本・文藝春秋 「ドライブ・マイ・カー」「木野」「シェエラザード」など6篇を収録した短編集。
  447. 447 2014 おれたちの故郷 おれたちのふるさと 佐川光晴 単行本・集英社 おれたちの故郷は、佐川光晴による2014年発表の作品です。単行本は集英社(2014年)。
  448. 448 2014 男一代之改革 おとこいちだいのかいかく 青木淳悟 単行本・河出書房新社 江戸の改革者・松平定信を「源氏物語」の読み手として描く異色の歴史小説。
  449. 449 2014 Red れっど 島本理生 単行本・中央公論新社 島清恋愛文学賞受賞作。専業主婦が不倫に踏み込んでいく官能的な長篇。
  450. 450 2014 離陸 りりく 絲山秋子 単行本・文藝春秋 離陸は、絲山秋子による2014年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2014年)。
  451. 451 2014 ルンタ ルンタ 山下澄人 単行本・講談社 ルンタは、山下澄人による2014年発表の作品です。単行本は講談社(2014年)。
  452. 452 2014 殺人出産 さつじんしゅっさん 村田沙耶香 単行本・講談社 10人産めば1人殺してもよい「殺人出産システム」が導入された社会を描く表題作ほかを収録。
  453. 453 2014 聖地Cs せいちしーず 木村友祐 単行本・新潮社 聖地Csは、木村友祐による2014年発表の作品です。単行本は新潮社(2014年)。
  454. 454 2014 臣女 しんにょ 吉村萬壱 単行本・徳間書店 臣女は、吉村萬壱による2014年発表の作品です。単行本は徳間書店(2014年)。
  455. 455 2014 太陽・惑星 たいよう・わくせい 上田岳弘 単行本・新潮社 新潮新人賞受賞のデビュー作「太陽」と芥川賞候補作「惑星」を収めた最初の単行本。
  456. 456 2014 鉄童の旅 てつどうのたび 佐川光晴 単行本・実業之日本社 鉄童の旅は、佐川光晴による2014年発表の作品です。単行本は実業之日本社(2014年)。
  457. 457 2014 鳥たち とりたち 吉本ばなな 単行本・集英社 鳥たちは、吉本ばななによる2014年発表の作品です。単行本は集英社(2014年)。
  458. 458 2014 疒の歌 やまいだれのうた 西村賢太 単行本・新潮社 北町貫多の青年期を描く長編私小説。
  459. 459 2014 あなたへの歌 あなたへのうた 楊逸 単行本・中央公論新社 あなたへの歌は、楊逸による2014年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2014年)。
  460. 460 2014 熊の結婚 くまのけっこん 諸隈元 初出・「文學界」2014年6月号 大学卒業後7年の引きこもり生活を経て書いたデビュー作。熊を比喩的に用いた婚姻関係の不思議を描く。 第118回 文學界新人賞
  461. 461 2014 トレイス とれいす 板垣真任 初出・「文學界」2014年12月号 山形出身の大学院生が描いた地方都市と高齢化社会の現実。24歳の著者による「鮮烈なデビュー作」と評された。 第119回 文學界新人賞
  462. 462 2014 吾輩ハ猫ニナル わがはいはねこになる 横山悠太 初出・「群像」2014年6月号 北京在住の著者が日本語と中国語を混交した独自の文体で描いた第57回群像新人文学賞当選作。日本人の父を持つ中国人青年のアイデンティティと成長を描き、第151回芥川賞候補となった。
  463. 463 2014 死にたくなったら電話して しにたくなったらでんわして 李龍徳 初出・「文藝」2014年冬号 浪人生の主人公が大阪・十三のキャバレーで働く謎めいた女に魅入られ、外の世界との繋がりを断ち切っていく。ドストエフスキー的な強度と現代の孤絶を重ね合わせた作品。 第51回 文藝賞
  464. 464 2014 アルタッドに捧ぐ あるたっどにささぐ 金子薫 初出・「文藝」2014年冬号 小説を書いている主人公の小説内の主人公が突然死に、埋められた原稿からアルタッドという名のトカゲが現れる。虚構と現実の重層性をめぐる哲学的な幻想小説。 第51回 文藝賞
  465. 465 2014 島と人類 しまとじんるい 足立陽 初出・「すばる」2014年11月号 大学院で人類学を研究しインドに長期滞在した著者が、島という閉じた世界と人類学的視点を融合させた作品。 第38回 すばる文学賞
  466. 466 2014 みずうみのほうへ みずうみのほうへ 上村亮平 初出・「すばる」2014年11月号(投稿時タイトル「その静かな、小さな声」を改題) 幼少期の父の死の後、成長した主人公が過去に似た人物と出会う。喪失の余韻と、時間の経過の中で変容していく感情を繊細に追った作品。 第38回 すばる文学賞
  467. 467 2014 指の骨 ゆびのほね 高橋弘希 初出・「新潮」2014年11月号 太平洋戦争を舞台に、戦地で死んだ兵士の遺骨が語り手となる静謐な小説。戦争の暴力と個人の尊厳を鎮魂的な文体で描いたデビュー作。 第46回 新潮新人賞
  468. 468 2014 ヤモリ、カエル、シジミチョウ やもり かえる しじみちょう 江國香織 初出・単行本2014年11月・朝日新聞出版。初出誌は未確認のため単行本年を year に採用 ある家族の小学生の男の子の視点を軸に、子どもたちの世界を繊細な感覚で描いた長編小説。谷崎潤一郎賞受賞。 第51回 谷崎賞
  469. 469 2014 名誉と恍惚 めいよ と こうつ 松浦寿輝 初出・「新潮」2014年5月号〜連載。単行本は2017年、新潮社刊。 昭和の東京を舞台に、ひとりの男の運命と欲望を千三百枚超の大作として描いた長編。第27回Bunkamuraドゥマゴ文学賞と第53回谷崎潤一郎賞をダブル受賞した。 第53回 谷崎賞
  470. 470 2014 レールの向こう れーる の むこう 大城立裕 初出・「新潮」2014年5月号。単行本は2015年8月、新潮社刊。 90歳の作家が自らの生を振り返る初の私小説的作品。沖縄の歴史を生き抜いた作家が晩年に書き記した記録でもある。第41回川端康成文学賞受賞作。 第41回 川端賞
  471. 471 2013 愛の夢とか あいのゆめとか 川上未映子 単行本・講談社 日常の中の小さな喪失と出会いを描く7篇の短篇集。谷崎潤一郎賞を受賞した。 第49回 谷崎賞
  472. 472 2013 快楽 かいらく 青山七恵 単行本・講談社 快楽は、青山七恵による2013年発表の作品です。単行本は講談社(2013年)。
  473. 473 2013 めぐり糸 めぐりいと 青山七恵 単行本・集英社 めぐり糸は、青山七恵による2013年発表の作品です。単行本は集英社(2013年)。
  474. 474 2013 憧れの女の子 あこがれのおんなのこ 朝比奈あすか 単行本・双葉社 憧れの女の子は、朝比奈あすかによる2013年発表の作品です。単行本は双葉社(2013年)。
  475. 475 2013 晩年様式集(イン・レイト・スタイル) ばんねんようしきしゅう 大江健三郎 単行本・講談社 東日本大震災後に書き継がれた、大江最後の長編小説。
  476. 476 2013 大地のゲーム だいちのゲーム 綿矢りさ 単行本・新潮社 大震災後の近未来の大学キャンパスを舞台に、次の地震を待ち構えて生きる学生たちを描く長編。
  477. 477 2013 おはなしして子ちゃん おはなしして こちゃん 藤野可織 単行本・講談社 おはなしして子ちゃんは、藤野可織による2013年発表の作品です。単行本は講談社(2013年)。
  478. 478 2013 爪と目 つめとめ 藤野可織 初出・「新潮」2013年4月号 幼い娘と父、父の恋人の三人の視点が交差する短篇。第149回芥川賞受賞作。 第149回 芥川賞
  479. 479 2013 憤死 ふんし 綿矢りさ 単行本・河出書房新社 表題作ほか「おとな」「トイレの懺悔室」など、毒気と寓話性を帯びた短篇を収めた作品集。
  480. 480 2013 銀河鉄道の彼方に ぎんがてつどうのかなたに 高橋源一郎 単行本・集英社 銀河鉄道の彼方には、高橋源一郎による2013年発表の作品です。単行本は集英社(2013年)。
  481. 481 2013 ギッちょん ギッちょん 山下澄人 単行本・文藝春秋 ギッちょんは、山下澄人による2013年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2013年)。
  482. 482 2013 昼田とハッコウ ひるたとはっこう 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 昼田とハッコウは、山崎ナオコーラによる2013年発表の作品です。単行本は講談社(2013年)。
  483. 483 2013 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 しきさいをもたないたざきつくると、かれのじゅんれいのとし 村上春樹 単行本・文藝春秋 36歳の男が高校時代の突然の絶交の謎を16年越しに解き明かす長編。発売1週間で100万部突破。
  484. 484 2013 自分を好きになる方法 じぶんをすきになるほうほう 本谷有希子 単行本・講談社 主人公リンデの人生から切り取られた六つの「一日」を描く長編。三島由紀夫賞受賞。 第27回 三島賞
  485. 485 2013 棺に跨がる かんにまたがる 西村賢太 単行本・文藝春秋 秋恵との同棲の終焉を描く北町貫多ものの連作集。
  486. 486 2013 去年の冬、きみと別れ きょねんのふゆきみとわかれ 中村文則 単行本・幻冬舎 去年の冬、きみと別れは、中村文則による2013年発表の作品です。単行本は幻冬舎(2013年)。
  487. 487 2013 燃える家 もえるいえ 田中慎弥 単行本・講談社 下関を舞台に、家族と国家の暴力を問う1000枚超の大長編。
  488. 488 2013 ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 ぴんざきゃっとのゆうびなはんらん 荻世いをら 初出・文藝 2011年秋号・2013年春号/群像 2011年5月 ピン・ザ・キャットの優美な叛乱は、荻世いをらによる2011年発表の作品です。初出は文藝 2011年秋号・2013年春号/群像 2011年5月。単行本は河出書房新社(2013年)。
  489. 489 2013 往古来今 おうこらいこん 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 古代から現代までを貫く時間と生命の往還を描く長篇。第41回泉鏡花文学賞受賞作。
  490. 490 2013 おれたちの約束 おれたちのやくそく 佐川光晴 単行本・集英社 おれたちの約束は、佐川光晴による2013年発表の作品です。単行本は集英社(2013年)。
  491. 491 2013 砂漠ダンス さばくダンス 山下澄人 単行本・河出書房新社 砂漠ダンスは、山下澄人による2013年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2013年)。
  492. 492 2013 獅子渡り鼻 ししわたりばな 小野正嗣 単行本・講談社 親の事情で海辺の集落に預けられた少年・尊の日々を描く。芥川賞候補作。
  493. 493 2013 スナックちどり スナックちどり 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 スナックちどりは、吉本ばななによる2013年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2013年)。
  494. 494 2013 問いのない答え といのないこたえ 長嶋有 単行本・文藝春秋 問いのない答えは、長嶋有による2013年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2013年)。
  495. 495 2013 忘れられたワルツ わすれられたわるつ 絲山秋子 単行本・新潮社 忘れられたワルツは、絲山秋子による2013年発表の作品です。単行本は新潮社(2013年)。
  496. 496 2013 わたしは妊婦 わたしはにんぷ 大森兄弟 単行本・河出書房新社 わたしは妊婦は、大森兄弟による2013年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2013年)。
  497. 497 2013 流転の魔女 りゅうてんのまじょ 楊逸 単行本・文藝春秋 流転の魔女は、楊逸による2013年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2013年)。
  498. 498 2013 よだかの片想い よだかのかたおもい 島本理生 単行本・集英社 顔に大きなあざを持つ女性が映画の撮影をきっかけに初めての恋に落ちる。
  499. 499 2013 歪んだ忌日 ゆがんだきじつ 西村賢太 単行本・新潮社 歪んだ忌日は、西村賢太による2013年発表の作品です。単行本は新潮社(2013年)。
  500. 500 2013 あな 小山田浩子 初出・「新潮」2013年5月号 非正規雇用の職を辞して夫の田舎に引っ越した主人公が、夏に黒い獣を追って土手の穴に落ちる。義祖父・義兄を名乗る見知らぬ男・甘い香りの老女など奇妙な人々との出会いを経て、日常と異界の境界が静かに溶けていく。 身体一人称 第150回 芥川賞
  501. 501 2013 アフリカ鯰 あふりかなまず 前田隆壱 初出・「文學界」2013年12月号 アフリカ大陸をオートバイで旅した著者の実体験を背景に持つデビュー作。静岡の無職男性の日常とアフリカの記憶が交錯する。 第117回 文學界新人賞
  502. 502 2013 息子の逸楽 むすこのいつらく 守島邦明 初出・「文學界」2013年12月号 息子の放逸な生き方と家族の関係を描いたデビュー作。 第117回 文學界新人賞
  503. 503 2013 鶏が鳴く にわとりがなく 波多野陸 初出・「群像」2013年6月号 高校3年生の主人公がかつてのバンド仲間で引きこもりになった友人の部屋に忍び込む物語。第56回群像新人文学賞当選作。青春の終わりと孤立を描く。
  504. 504 2013 世界泥棒 せかいどろぼう 桜井晴也 初出・「文藝」2013年冬号 世界の残酷さとユーモアを同居させた実験的な文体の小説。情報工学的な発想が独自の文学世界を形成する。 第50回 文藝賞
  505. 505 2013 左目に映る星 ひだりめにうつるほし 奥田亜希子 初出・「すばる」2013年11月号(投稿時タイトル「アナザープラネット」を改題) 左目だけが本当の世界を見えているという感覚を持つ女性と、彼女をめぐる恋愛を描いた作品。不思議な感覚と現実の間で揺れる繊細な文体が評価された。 第37回 すばる文学賞
  506. 506 2013 教授と少女と錬金術師 きょうじゅとしょうじょとれんきんじゅつし 金城孝祐 初出・「すばる」2013年11月号(投稿時タイトル「完全な銀」を改題) 教授・少女・錬金術師が交差するキッチュな笑いと文学的な実験性を持ち合わせた作品。武蔵野美術大学卒業後に演劇活動を経て書かれたデビュー作。 第37回 すばる文学賞
  507. 507 2013 太陽 たいよう 上田岳弘 初出・「新潮」2013年11月号 太陽内部の核融合からはじまり、新宿のホテルで女を待つ教授・アフリカの赤ちゃん工場・パリなど多様な場を横断する群像劇。テクノロジーと人類史を俯瞰するデビュー作。 第45回 新潮新人賞
  508. 508 2013 想像ラジオ そうぞうらじお いとうせいこう 初出・「文藝」掲載後、2013年3月河出書房新社より単行本刊行 津波で流され木の上に引っかかった状態のDJアークが深夜に「想像」という電波でラジオ放送を続けるという設定で、東日本大震災後の死者と生者の関係を描く。30万部を超えるベストセラーとなり震災文学の代表作の一つ。 第35回 野間新人賞
  509. 509 2013 すっぽん心中 すっぽん しんじゅう 戌井昭人 初出・「新潮」2013年1月号掲載 首のまわらなくなった男と不運な女が不忍池で出会い霞ヶ浦へ向かう道行きを軽妙な語り口で描いた短篇。第40回川端康成文学賞受賞作。 第40回 川端賞
  510. 510 2012 愛について あいについて 白岩玄 単行本・河出書房新社 今カノ・元カノ・忘れられない女をめぐる、愛のわがままを描く恋愛短編集。
  511. 511 2012 花嫁 はなよめ 青山七恵 単行本・幻冬舎 花嫁は、青山七恵による2012年発表の作品です。単行本は幻冬舎(2012年)。
  512. 512 2012 すみれ すみれ 青山七恵 単行本・文藝春秋 すみれは、青山七恵による2012年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2012年)。
  513. 513 2012 嵐のピクニック あらしのピクニック 本谷有希子 単行本・講談社 奇想に満ちた短篇を collected した作品集。大江健三郎賞受賞。
  514. 514 2012 プールサイドの彼方 ぷーるさいどのかなた 朝比奈あすか 単行本・実業之日本社 プールサイドの彼方は、朝比奈あすかによる2012年発表の作品です。単行本は実業之日本社(2012年)。
  515. 515 2012 バナナ剥きには最適の日々 ばなながきにはさいてきのひびと 円城塔 単行本・早川書房 バナナ剥きには最適の日々は、円城塔による2012年発表の作品です。単行本は早川書房(2012年)。
  516. 516 2012 道化師の蝶 どうけしのちょう 円城塔 初出・「群像」2011年8月号 第146回芥川賞受賞作を含む短篇集。言語・記憶・翻訳をめぐる実験的な作品群。 第146回 芥川賞
  517. 517 2012 パトロネ ぱとろね 藤野可織 単行本・集英社 パトロネは、藤野可織による2012年発表の作品です。単行本は集英社(2012年)。
  518. 518 2012 55歳からのハローライフ ごじゅうごさいからのハローライフ 村上龍 単行本・幻冬舎 定年前後の世代の再出発を描く連作小説集。
  519. 519 2012 母親ウエスタン ははおやうえすたん 原田ひ香 単行本・光文社 母親ウエスタンは、原田ひ香による2012年発表の作品です。単行本は光文社(2012年)。
  520. 520 2012 ひらいて ひらいて 綿矢りさ 単行本・新潮社 片想いの相手とその恋人の関係に介入していく女子高生・愛の暴走する恋を描く青春小説。
  521. 521 2012 百年の憂鬱 ひゃくねんのゆううつ 伏見憲明 単行本・ポット出版 百年の憂鬱は、伏見憲明による2012年発表の作品です。単行本はポット出版(2012年)。
  522. 522 2012 隠し事 かくしごと 羽田圭介 単行本・河出書房新社 隠し事は、羽田圭介による2012年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2012年)。
  523. 523 2012 仮り住まい かりずまい 丹下健太 単行本・河出書房新社 仮り住まいは、丹下健太による2012年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2012年)。
  524. 524 2012 夜の隅のアトリエ よるのすみのあとりえ 木村紅美 単行本・文藝春秋 夜の隅のアトリエは、木村紅美による2012年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2012年)。
  525. 525 2012 LOVE & SYSTEMS らぶあんどしすてむず 中島たい子 単行本・幻冬舎 LOVE & SYSTEMSは、中島たい子による2012年発表の作品です。単行本は幻冬舎(2012年)。
  526. 526 2012 惑いの森 まどいのもり 中村文則 単行本・イースト・プレス バーに現れる男、手紙を待つ郵便局員など、愛おしき人々の日常が連鎖する50の短編集。
  527. 527 2012 マリアージュ・マリアージュ マリアージュ・マリアージュ 金原ひとみ 単行本・新潮社 結婚をめぐるさまざまな男女の関係を描いた短篇集。
  528. 528 2012 迷宮 めいきゅう 中村文則 単行本・新潮社 迷宮は、中村文則による2012年発表の作品です。単行本は新潮社(2012年)。
  529. 529 2012 緑のさる みどりのさる 山下澄人 単行本・平凡社 野間文芸新人賞を受賞した最初の単行本。 第34回 野間新人賞
  530. 530 2012 ブラスデイズ ぶらすでいず 中山智幸 単行本・NHK出版 ブラスデイズは、中山智幸による2012年発表の作品です。単行本はNHK出版(2012年)。
  531. 531 2012 七緒のために ななおのために 島本理生 単行本・講談社 七緒のためには、島本理生による2012年発表の作品です。単行本は講談社(2012年)。
  532. 532 2012 盗まれた顔 ぬすまれたかお 羽田圭介 単行本・幻冬舎 指名手配犯の顔を記憶して追う「見当たり捜査班」の刑事を描く警察小説。
  533. 533 2012 佐渡の三人 さどのさんにん 長嶋有 単行本・講談社 佐渡の三人は、長嶋有による2012年発表の作品です。単行本は講談社(2012年)。
  534. 534 2012 さよならクリストファー・ロビン さよならクリストファー・ロビン 高橋源一郎 単行本・新潮社 消滅の予感に脅かされる物語の登場人物たちを描く連作。谷崎潤一郎賞受賞。 第48回 谷崎賞
  535. 535 2012 しろいろの街の、その骨の体温の しろいろのまちの、そのほねのたいおんの 村田沙耶香 単行本・朝日新聞出版 ニュータウンで思春期を迎えた結佳の、スクールカーストと性の目覚めを描く長編。三島由紀夫賞を受賞した。 第26回 三島賞
  536. 536 2012 しょうがの味は熱い しょうがのあじはあつい 綿矢りさ 単行本・文藝春秋 煮え切らない男と煮詰まった女の同棲生活を描く「しょうがの味は熱い」「自然に、とてもスムーズに」の二篇を収録。
  537. 537 2012 週末カミング しゅうまつカミング 柴崎友香 単行本・角川書店 週末カミングは、柴崎友香による2012年発表の作品です。単行本は角川書店(2012年)。
  538. 538 2012 タダイマトビラ タダイマトビラ 村田沙耶香 単行本・新潮社 家族という制度になじめない少女が「家庭」への渇望をこじらせていく長編。
  539. 539 2012 田中慎弥の掌劇場 たなかしんやのてのひらげきじょう 田中慎弥 単行本・毎日新聞出版 新聞連載から生まれた掌編小説集。
  540. 540 2012 トリガール! とりがーる! 中村航 単行本・角川マガジンズ 人力飛行機サークルの女子大生を描く青春スポーツ小説。映画化もされた。
  541. 541 2012 わたしがいなかった街で わたしがいなかったまちで 柴崎友香 単行本・新潮社 わたしがいなかった街では、柴崎友香による2012年発表の作品です。単行本は新潮社(2012年)。
  542. 542 2012 私の中の男の子 わたしのなかのおとこのこ 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 私の中の男の子は、山崎ナオコーラによる2012年発表の作品です。単行本は講談社(2012年)。
  543. 543 2012 夜蜘蛛 よぐも 田中慎弥 単行本・文藝春秋 亡父の戦争の記憶をめぐる手紙の謎を描く中篇。
  544. 544 2012 冥土めぐり めいどめぐり 鹿島田真希 初出・「文藝」2012年春号 虚栄と浪費に明け暮れる母と兄に搾取され続けてきた奈津子が、脳の病を得て車椅子生活を送る夫の太一と一泊二日の旅に出る。没落した家族の歴史と夫との静かな絆を通じて、真の救済とは何かを問う。 第147回 芥川賞
  545. 545 2012 abさんご えーびーさんご 黒田夏子 初出・「早稲田文学」5号(2012年9月)。第24回早稲田文学新人賞受賞作 昭和の知的家庭に生まれたひとりの幼な子が成長し、父母を看取るまでを描く。全文横書き・固有名詞を一切使わないという大胆な実験的文体で、父子の「見ないふり」をしてきた40年の日々を綴る。受賞時75歳9か月は芥川賞史上最年長記録。 第148回 芥川賞
  546. 546 2012 こどもの指につつかれる こどものゆびにつつかれる 小祝百々子 初出・「文學界」2012年6月号 花村萬月に「新人離れしている」と絶賛されたデビュー作。子どもの視点と身体感覚を通して家族の深層を描く。 第114回 文學界新人賞
  547. 547 2012 隙間 すきま 守山忍 初出・「文學界」2012年12月号 人と人の間にある見えない距離と隙間を主題にしたデビュー作。 第115回 文學界新人賞
  548. 548 2012 最後のうるう年 さいごのうるうどし 二瓶哲也 初出・「文學界」2012年12月号 新潟弁の語りが印象的なデビュー作。うるう年という特別な時間軸を用いて人間の孤独と繋がりを描く。 第115回 文學界新人賞
  549. 549 2012 架空列車 かくうれっしゃ 岡本学 初出・「群像」2012年6月号 情報工学の博士号を持ち毎日片道3時間の通勤電車で執筆した著者のデビュー作。第55回群像新人文学賞当選作。架空の列車旅をめぐる独特の語りで評価された。
  550. 550 2012 泡をたたき割る人魚は あわをたたきわるにんぎょは 片瀬チヲル 初出・「群像」2012年6月号 明治大学在学中の著者が描いた人魚姫の現代的再解釈。第55回群像新人文学賞優秀作。人魚という異形の存在を通じて孤独と社会への違和感を描く。
  551. 551 2012 おしかくさま おしかくさま 谷川直子 初出・「文藝」2012年冬号 長崎の離島に暮らす女性と、そこで目撃される奇妙な四角い存在「おしかくさま」をめぐる話。土地の記憶と共同体の秘密が交差する幻想性を帯びた作品。 第49回 文藝賞
  552. 552 2012 狭小邸宅 きょうしょうていたく 新庄耕 初出・「すばる」2012年11月号 不動産営業マンとして働く若者の、ノルマ・上司・客への軋轢と達成感を通じた成長譚。ブラック就労の実態をリアルに描いた受賞作は後に映像化もされた。 第36回 すばる文学賞
  553. 553 2012 黄金の庭 おうごんのにわ 高橋陽子 初出・「すばる」2012年11月号 曼荼羅的世界観と仏教的想像力を背景に、黄金の庭をめぐる幻想的な物語を展開する。イラストレーター出身の著者による視覚的な幻想性が特徴。 第36回 すばる文学賞
  554. 554 2012 肉骨茶 にくこつちゃ 高尾長良 初出・「新潮」2012年11月号 マレーシアのスープ料理「バクテー(肉骨茶)」を題材に、異なる文化と身体の感覚を描いた作品。受賞時20歳という史上最年少記録でも話題を呼んだ。 第44回 新潮新人賞
  555. 555 2012 黙って喰え だまってくえ 門脇大祐 初出・「新潮」2012年11月号 食べることをめぐる人間の欲望と暴力性を描いた作品。文学・映画批評の知見を持つ著者によるデビュー短篇。 第44回 新潮新人賞
  556. 556 2012 螺法四千年記 らほうよんせんねんき 日和聡子 単行本・幻戯書房 古代から現代へ至る四千年の時間軸で螺旋状に連なる物語群。詩人でもある著者の音楽的・神話的な文体が特徴で、時空を超えた人間の営みを描く。2012年7月幻戯書房より刊行。 第34回 野間新人賞
  557. 557 2012 東京自叙伝 とうきょうじじょでん 奥泉光 初出・「すばる」2012年12月号〜2013年11月号連載(単行本2014年5月・集英社) 東京という都市の「地霊」が語り手となり、幕末から平成までの首都の歴史と変容を一人称モノローグで綴る異色の長編小説。 yearは連載開始年を採用。 第50回 谷崎賞
  558. 558 2012 給水塔と亀 きゅうすいとう と かめ 津村記久子 初出・「文学界」2012年3月号掲載 大阪の下町を舞台に、ありふれた日常の風景と人間関係の機微を柔らかく描いた短篇。第39回川端康成文学賞受賞作。 第39回 川端賞
  559. 559 2011 赤の他人の瓜二つ あかのたにんのうりふたつ 磯﨑憲一郎 単行本・講談社 血のつながらない他人が瓜二つという設定から、労働と世界史が交差する長篇。第21回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作。
  560. 560 2011 あかりの湖畔 あかりのこはん 青山七恵 単行本・中央公論新社 あかりの湖畔は、青山七恵による2011年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2011年)。
  561. 561 2011 わたしの彼氏 わたしのかれし 青山七恵 単行本・講談社 わたしの彼氏は、青山七恵による2011年発表の作品です。単行本は講談社(2011年)。
  562. 562 2011 BANG! BANG! BANG! ばんばんばん 朝比奈あすか 単行本・講談社 BANG! BANG! BANG!は、朝比奈あすかによる2011年発表の作品です。単行本は講談社(2011年)。
  563. 563 2011 これはペンです これはぺんです 円城塔 単行本・新潮社 これはペンですは、円城塔による2011年発表の作品です。単行本は新潮社(2011年)。
  564. 564 2011 不愉快な本の続編 ふゆかいなほんのぞくへん 絲山秋子 単行本・新潮社 嘘つき男の太陽と海をめぐる不条理な彷徨。絲山版「異邦人」とも評される。
  565. 565 2011 ぐるぐる七福神 ぐるぐるしちふくじん 中島たい子 単行本・マガジンハウス ぐるぐる七福神は、中島たい子による2011年発表の作品です。単行本はマガジンハウス(2011年)。
  566. 566 2011 ハコブネ ハコブネ 村田沙耶香 単行本・集英社 自分の性別に違和感を抱く女性たちが、身体とアイデンティティのあいだで揺れる長編。
  567. 567 2011 人生オークション じんせいおーくしょん 原田ひ香 単行本・講談社 人生オークションは、原田ひ香による2011年発表の作品です。単行本は講談社(2011年)。
  568. 568 2011 寒灯 かんとう 西村賢太 単行本・新潮社 芥川賞受賞直後に刊行された、北町貫多と秋恵の同棲の破局へ向かう日々を描く連作集。
  569. 569 2011 かわいそうだね? かわいそうだね 綿矢りさ 単行本・文藝春秋 恋人が元カノと同居を始めるという理不尽に直面した樹理恵の葛藤を描き、大江健三郎賞を受賞した。
  570. 570 2011 春待ち海岸カルナヴァル はるまちかいがんかるなゔぁる 木村紅美 単行本・新潮社 春待ち海岸カルナヴァルは、木村紅美による2011年発表の作品です。単行本は新潮社(2011年)。
  571. 571 2011 黒うさぎたちのソウル くろうさぎたちのそうる 木村紅美 単行本・集英社 黒うさぎたちのソウルは、木村紅美による2011年発表の作品です。単行本は集英社(2011年)。
  572. 572 2011 いい女vsいい女 いいおんなたいいいおんな 木下古栗 単行本・講談社 いい女vsいい女は、木下古栗による2011年発表の作品です。単行本は講談社(2011年)。
  573. 573 2011 こちらあみ子 こちらあみこ 今村夏子 単行本・筑摩書房 純真なまま周囲とすれ違っていく少女あみ子を描く表題作(太宰治賞受賞作「あたらしい娘」改題)を収めたデビュー単行本。 第24回 三島賞
  574. 574 2011 恋する原発 こいするげんぱつ 高橋源一郎 単行本・講談社 震災チャリティAVの制作を通して震災後の言葉を問う長編。
  575. 575 2011 心はあなたのもとに こころはあなたのもとに 村上龍 単行本・文藝春秋 心はあなたのもとには、村上龍による2011年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2011年)。
  576. 576 2011 まことの人々 まことのひとびと 大森兄弟 単行本・河出書房新社 第33回野間文芸新人賞候補となった長篇。
  577. 577 2011 末裔 まつえい 絲山秋子 単行本・講談社 末裔は、絲山秋子による2011年発表の作品です。単行本は講談社(2011年)。
  578. 578 2011 マザーズ マザーズ 金原ひとみ 単行本・新潮社 小説家・モデル・専業主婦という三人の母親たちの育児の孤独と狂気を描く長編。ドゥマゴ文学賞を受賞した。
  579. 579 2011 虹色と幸運 にじいろとこううん 柴崎友香 単行本・筑摩書房 虹色と幸運は、柴崎友香による2011年発表の作品です。単行本は筑摩書房(2011年)。
  580. 580 2011 ニキの屈辱 にきのくつじょく 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 ニキの屈辱は、山崎ナオコーラによる2011年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2011年)。
  581. 581 2011 ぬるい毒 ぬるいどく 本谷有希子 単行本・新潮社 学生時代に現れた得体の知れない男・向井との腐れ縁に翻弄される女性を描く。野間文芸新人賞受賞。 第33回 野間新人賞
  582. 582 2011 王国 おうこく 中村文則 単行本・河出書房新社 王国は、中村文則による2011年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2011年)。
  583. 583 2011 おれたちの青空 おれたちのあおぞら 佐川光晴 単行本・集英社 おれたちの青空は、佐川光晴による2011年発表の作品です。単行本は集英社(2011年)。
  584. 584 2011 すべて真夜中の恋人たち すべてまよなかのこいびとたち 川上未映子 単行本・講談社 孤独な校閲者・冬子と年上の物理教師・三束さんの静かな恋を描く長編。
  585. 585 2011 領土 りょうど 諏訪哲史 単行本・新潮社 領土は、諏訪哲史による2011年発表の作品です。単行本は新潮社(2011年)。
  586. 586 2011 スウィート・ヒアアフター スウィート・ヒアアフター 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 事故で恋人を失った女性の死と再生を描く、震災後に書かれた長編。
  587. 587 2011 東京ロンダリング とうきょうろんだりんぐ 原田ひ香 単行本・集英社 事故物件に短期滞在して「浄化」する裏の仕事を始めた女性の物語。
  588. 588 2011 共喰い ともぐい 田中慎弥 初出・すばる 2011年10月号 昭和63年夏、川辺の町に暮らす17歳の遠馬は、父・円とその愛人琴子との三人暮らし。父は性交の際に女を殴る男で、遠馬の実母・仁子はその暴力ゆえに家を出て、川向こうで魚屋を営んでいる。恋人の千種との関係が深まるにつれ、遠馬は自分の中にも父と同じ暴力の血が流れているのではないかという恐れに苛まれていく。鰻… 父と子暴力 第146回 芥川賞
  589. 589 2011 ビリジアン ビリジアン 柴崎友香 単行本・毎日新聞社 ビリジアンは、柴崎友香による2011年発表の作品です。単行本は毎日新聞社(2011年)。
  590. 590 2011 WANTED!! かい人21面相 うぉんてっど かいじんにじゅういちめんそう 赤染晶子 単行本・文藝春秋 WANTED!! かい人21面相は、赤染晶子による2011年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2011年)。
  591. 591 2011 「ワタクシハ」 ワタクシハ 羽田圭介 単行本・講談社 就職活動に翻弄される元バンドマンの大学生を描く就活小説。
  592. 592 2011 私のいない高校 わたしのいないこうこう 青木淳悟 単行本・講談社 1992年の小学校を舞台に、校舎から見える家に住む子供の視点で綴る連作。三島由紀夫賞受賞。 第25回 三島賞
  593. 593 2011 獅子頭 しーずとう 楊逸 単行本・朝日新聞出版 獅子頭は、楊逸による2011年発表の作品です。単行本は朝日新聞出版(2011年)。
  594. 594 2011 甘露 かんろ 水原涼 初出・「文學界」2011年6月号 家と家族をめぐる不穏さに満ちた小説。21歳の著者が「抜群の筆力」と評されたデビュー作で、第145回芥川賞候補となった。 第112回 文學界新人賞
  595. 595 2011 癌だましい がんだましい 山内令南 初出・「文學界」2011年6月号 食道癌の患者の視点から、病と生を独特のブラックユーモアで描いたデビュー作。看護経験を持つ著者ならではの内側からの視点が評価された。 第112回 文學界新人賞
  596. 596 2011 髪魚 かみうお 鈴木善徳 初出・「文學界」2011年12月号 人体と異形なるものの関係を独自の感覚で描いたデビュー作。「河童日誌」が第147回芥川賞候補となった著者の出発点。 第113回 文學界新人賞
  597. 597 2011 きんのじ きんのじ 馳平啓樹 初出・「文學界」2011年12月号 大阪文学学校在籍中に書かれたデビュー作。製造業従事者の日常と内面を静かな文体で描く。 第113回 文學界新人賞
  598. 598 2011 美しい私の顔 うつくしいわたしのかお 中納直子 初出・「群像」2011年6月号 顔面神経麻痺に罹った家具屋勤務の女性の内面と人間関係を描いた第54回群像新人文学賞当選作。自己像と他者の視線の齟齬を丁寧に描く。
  599. 599 2011 クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰 くりすたるう゛ぁりーにふりそそぐはい 今村友紀 初出・「文藝」2011年冬号 東京大学医学部に進む秀才が、スポーツ推薦で進学した同世代の若者たちと交錯する青春群像。知性と暴力、階層の断絶を鋭角的に描いた受賞作。 第48回 文藝賞
  600. 600 2011 フラミンゴの村 ふらみんごのむら 澤西祐典 初出・「すばる」2011年11月号 20世紀初頭のベルギーの片田舎の村で、ある日突然に妻がフラミンゴになるという奇妙な事件をめぐる話。ヨーロッパ文学の系譜に連なる幻想小説として注目された。 第35回 すばる文学賞
  601. 601 2011 楽器 がっき 滝口悠生 初出・「新潮」2011年11月号 記憶と語りの重なりを繊細に扱ったデビュー短篇。のちに芥川賞・野間文芸新人賞を受賞する滝口悠生の出発点となった作品。 第43回 新潮新人賞
  602. 602 2011 半島へ はんとうへ 稲葉真弓 初出・単行本刊行2011年・講談社。初出誌は未確認のため単行本年を year に採用 伊勢志摩の半島地帯を舞台に、衰えゆく自然と人間の静かな対話を描いた散文詩的長編。谷崎潤一郎賞・中日文化賞・親鸞賞の三賞を受賞した。 第47回 谷崎賞
  603. 603 2011 異郷 いきょう 津村節子 初出・「文学界」2011年1月号掲載 夫・吉村昭の死後の喪失と生者の日常を静かに描いた短篇。第37回川端康成文学賞受賞作。 第37回 川端賞
  604. 604 2011 犬とハモニカ いぬ と はもにか 江國香織 初出・「新潮」2011年6月号掲載 孤独と記憶、男女の間に生じる微妙な感情を描いた短篇。第38回川端康成文学賞受賞作。同名短篇集(新潮社)に収録。 第38回 川端賞
  605. 605 2010 悪と仮面のルール あくとかめんのるーる 中村文則 単行本・講談社 悪と仮面のルールは、中村文則による2010年発表の作品です。単行本は講談社(2010年)。
  606. 606 2010 「悪」と戦う あくとたたかう 高橋源一郎 単行本・河出書房新社 幼い兄弟が世界を脅かす「悪」と対峙する冒険を描く長編。
  607. 607 2010 あのとき始まったことのすべて あのときはじまったことのすべて 中村航 単行本・角川書店 あのとき始まったことのすべては、中村航による2010年発表の作品です。単行本は角川書店(2010年)。
  608. 608 2010 お別れの音 おわかれのおと 青山七恵 単行本・文藝春秋 お別れの音は、青山七恵による2010年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2010年)。
  609. 609 2010 あられもない祈り あられもないいのり 島本理生 単行本・河出書房新社 芥川賞候補。支配的な恋愛関係の中に自分を置き続ける女性の苦悩を描く。
  610. 610 2010 月曜日の朝へ げつようびのあさへ 朝比奈あすか 単行本・講談社 月曜日の朝へは、朝比奈あすかによる2010年発表の作品です。単行本は講談社(2010年)。
  611. 611 2010 彼女のしあわせ かのじょのしあわせ 朝比奈あすか 単行本・光文社 彼女のしあわせは、朝比奈あすかによる2010年発表の作品です。単行本は光文社(2010年)。
  612. 612 2010 やわらかな棘 やわらかなとげ 朝比奈あすか 単行本・幻冬舎 やわらかな棘は、朝比奈あすかによる2010年発表の作品です。単行本は幻冬舎(2010年)。
  613. 613 2010 地上で最も巨大な死骸 ちじょうでもっともきょだいなしがい 飯塚朝美 単行本・新潮社 表題作と「クロスフェーダーの曖昧な光」を収めた単行本。
  614. 614 2010 団地の女学生 だんちのじょがくせい 伏見憲明 単行本・集英社 団地の女学生は、伏見憲明による2010年発表の作品です。単行本は集英社(2010年)。
  615. 615 2010 後藤さんのこと ごとうさんのこと 円城塔 単行本・早川書房 後藤さんのことは、円城塔による2010年発表の作品です。単行本は早川書房(2010年)。
  616. 616 2010 御不浄バトル ごふじょうバトル 羽田圭介 単行本・集英社 ブラック企業で働く男がトイレを唯一の避難所として戦う様を描く職場小説。
  617. 617 2010 アクアノートとクラゲの涙 あくあのーととくらげのなみだ 樋口直哉 単行本・メディアファクトリー アクアノートとクラゲの涙は、樋口直哉による2010年発表の作品です。単行本はメディアファクトリー(2010年)。
  618. 618 2010 うちに帰ろう うちにかえろう 広小路尚祈 単行本・文藝春秋 うちに帰ろうは、広小路尚祈による2010年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2010年)。
  619. 619 2010 人もいない春 ひともいないはる 西村賢太 単行本・角川書店 人もいない春は、西村賢太による2010年発表の作品です。単行本は角川書店(2010年)。
  620. 620 2010 星が吸う水 ほしがすうみず 村田沙耶香 単行本・講談社 性をめぐる固定観念に違和を抱く女性たちを描いた作品集。
  621. 621 2010 実験 じっけん 田中慎弥 単行本・新潮社 実験は、田中慎弥による2010年発表の作品です。単行本は新潮社(2010年)。
  622. 622 2010 勝手にふるえてろ かってにふるえてろ 綿矢りさ 単行本・文藝春秋 脳内の初恋相手「イチ」と現実の求愛者「ニ」の間で揺れるOLヨシカの恋愛を描く。2017年に映画化された。
  623. 623 2010 見知らぬ人へ、おめでとう みしらぬひとへおめでとう 木村紅美 単行本・講談社 見知らぬ人へ、おめでとうは、木村紅美による2010年発表の作品です。単行本は講談社(2010年)。
  624. 624 2010 この世は二人組ではできあがらない このよはふたりぐみではできあがらない 山崎ナオコーラ 単行本・新潮社 この世は二人組ではできあがらないは、山崎ナオコーラによる2010年発表の作品です。単行本は新潮社(2010年)。
  625. 625 2010 コトリトマラズ ことりとまらず 栗田有起 単行本・集英社 コトリトマラズは、栗田有起による2010年発表の作品です。単行本は集英社(2010年)。
  626. 626 2010 苦役列車 くえきれっしゃ 西村賢太 初出・新潮 2010年12月号 中卒で家を出た19歳の北町貫多は、東京の埠頭で冷凍倉庫から荷を運び出す日雇い仕事でその日暮らしを続けている。日当はすぐに酒と風俗に消え、家賃は滞納し、人付き合いもない。そんな彼が職場で専門学校生の日下部と知り合い、初めて友人と呼べそうな存在を得るが、劣等感と過剰な自意識がその関係に影を落としていく… 労働貧困孤独と疎外 第144回 芥川賞
  627. 627 2010 埋葬 まいそう 横田創 単行本・早川書房 埋葬は、横田創による2010年発表の作品です。単行本は早川書房(2010年)。
  628. 628 2010 真綿荘の住人たち まわたそうのじゅうにんたち 島本理生 単行本・文藝春秋 真綿荘の住人たちは、島本理生による2010年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2010年)。
  629. 629 2010 ミート・ザ・ビート ミート・ザ・ビート 羽田圭介 単行本・文藝春秋 郊外で暮らすフリーターの青年の日常を音楽的な文体で描き、芥川賞候補となった。
  630. 630 2010 マイルド生活スーパーライト まいるどせいかつすーぱーらいと 丹下健太 単行本・河出書房新社 マイルド生活スーパーライトは、丹下健太による2010年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2010年)。
  631. 631 2010 もしもし下北沢 もしもししもきたざわ 吉本ばなな 単行本・毎日新聞社 父の死後、下北沢に移り住んだ娘と母の再生を描く長編。
  632. 632 2010 寝ても覚めても ねてもさめても 柴崎友香 単行本・河出書房新社 突然姿を消した恋人と瓜二つの顔を持つ男に出会った朝子の長い恋を描く長編。野間文芸新人賞を受賞し、濱口竜介監督により映画化された。 第32回 野間新人賞
  633. 633 2010 おれのおばさん おれのおばさん 佐川光晴 単行本・集英社 坪田譲治文学賞受賞作。少年院出身の少年が叔母の学習塾に引き取られ成長する。
  634. 634 2010 乙女の密告 おとめのみっこく 赤染晶子 初出・「新潮」2010年6月号 アンネの日記を朗読させる授業を通じて、密告とは誰かを問う。芥川賞受賞作。 第143回 芥川賞
  635. 635 2010 祝福 しゅくふく 長嶋有 単行本・河出書房新社 祝福は、長嶋有による2010年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2010年)。
  636. 636 2010 それいゆ それいゆ 生田紗代 単行本・角川書店 それいゆは、生田紗代による2010年発表の作品です。単行本は角川書店(2010年)。
  637. 637 2010 とうさんは、大丈夫 とうさんは、だいじょうぶ 佐川光晴 単行本・講談社 とうさんは、大丈夫は、佐川光晴による2010年発表の作品です。単行本は講談社(2010年)。
  638. 638 2010 妻の超然 つまのちょうぜん 絲山秋子 単行本・新潮社 妻の超然は、絲山秋子による2010年発表の作品です。単行本は新潮社(2010年)。
  639. 639 2010 アンダスタンド・メイビー あんだすたんど・めいびー 島本理生 単行本・中央公論新社 アンダスタンド・メイビーは、島本理生による2010年発表の作品です。単行本は中央公論新社(2010年)。
  640. 640 2010 歌うクジラ うたうクジラ 村上龍 単行本・講談社 不死遺伝子が発見された未来の階層社会を少年が旅する長編。毎日芸術賞受賞。
  641. 641 2010 陽だまり幻想曲 ひだまりげんそうきょく 楊逸 単行本・講談社 陽だまり幻想曲は、楊逸による2010年発表の作品です。単行本は講談社(2010年)。
  642. 642 2010 夜よりも大きい よるよりもおおきい 小野正嗣 単行本・リトルモア 夜よりも大きいは、小野正嗣による2010年発表の作品です。単行本はリトルモア(2010年)。
  643. 643 2010 きことわ きことわ 朝吹真理子 初出・「新潮」2010年9月号 葉山の別荘で幼少期を共にした貴子(きこ)と永遠子(とわこ)が、25年後に別荘の解体を機に再会する。夢と記憶が交差する繊細な時間意識のなかで、二人の間にかつて流れていた時間が静かに蘇る。 第144回 芥川賞
  644. 644 2010 乾燥腕 かんそうで 鶴川健吉 初出・「文學界」2010年6月号 元大相撲行司という異色の経歴を持つ著者のデビュー作。人体の感覚と異物感を独特の文体で描く。 第110回 文學界新人賞
  645. 645 2010 自由高さH じゆうたかさH 穂田川洋山 初出・「文學界」2010年6月号 建築的な視点から人間の空間認識と自由の関係を探る。第143回芥川賞候補作となった著者のデビュー作。 第110回 文學界新人賞
  646. 646 2010 ゴルディータは食べて、寝て、働くだけ ごるでぃーたはたべて ねて はたらくだけ 吉井磨弥 初出・「文學界」2010年12月号 中南米系移民女性・ゴルディータの日常をユーモラスに描いたデビュー作。異文化が交差する日本社会を独自の視点で切り取る。 第111回 文學界新人賞
  647. 647 2010 朝が止まる あさがとまる 淺川継太 初出・「群像」2010年6月号 第53回群像新人文学賞当選作。山梨出身の著者が描く、ある朝の停止をめぐる内省的な物語。受賞後の2014年に収録作品集『ある日の結婚』が野間文芸新人賞候補となった。
  648. 648 2010 トロンプルイユの星 とろんぷるいゆのほし 米田夕歌里 初出・「すばる」2010年11月号 視覚的錯視(トロンプルイユ)をモチーフに、見えているものと実際の世界の乖離を描いた作品。30歳の塾講師による文藝的感性あふれるデビュー作。 第34回 すばる文学賞
  649. 649 2010 工場 こうじょう 小山田浩子 初出・「新潮」2010年11月号 巨大工場の敷地内で働く非正規雇用の作業員たちを描いた短篇連作。謎めいた業務・増殖するコケ・正体不明の生物が日常に浸食してくる「不穏な日常」の文学。 労働孤独と疎外三人称・多視点 第42回 新潮新人賞
  650. 650 2010 ののの ののの 太田靖久 初出・「新潮」2010年11月号 言語の反復・ずれ・遊びを極限まで押し進めた実験的な作品。受賞時は単行本化されず、約10年後に独立系出版社から改稿版として刊行された。 第42回 新潮新人賞
  651. 651 2009 1Q84 いちきゅうはちよん 村上春樹 単行本・新潮社 『1Q84』は、1984年に似て非なる世界「1Q84」を舞台に、青豆と天吾の二つの視点が交差していく長篇です。宗教的共同体、暴力、物語を作ることへの問いが、並行世界の構造の中で結びつきます。恋愛小説でありながら、世界の成り立ちそのものを疑わせる大きな構成が特徴です。 恋愛信仰暴力
  652. 652 2009 あの子の考えることは変 あのこのかんがえることはへん 本谷有希子 単行本・講談社 『あの子の考えることは変』は、他人から見れば奇妙に見える思考や感情を、関係性の歪みとして描く本谷有希子の小説です。人物たちは互いを理解したいのではなく、しばしば相手の「変さ」を足場にして自分を保とうとします。会話の毒と笑いが、同調できない孤独を浮かび上がらせます。 孤独と疎外同調圧力ジェンダー
  653. 653 2009 かけら かけら 青山七恵 単行本・新潮社 『かけら』は、日常の小さな破片のような出来事から、若い人物の孤独や関係の変化をすくい上げる青山七恵の作品です。簡潔な語りは感情を説明しすぎず、読者に余白を残します。家族や恋愛のはっきりしない揺れを、静かな手ざわりで読む小説です。 青春家族孤独と疎外
  654. 654 2009 魔法使いクラブ まほうつかいくらぶ 青山七恵 単行本・幻冬舎 『魔法使いクラブ』は、若い人びとの小さな結びつきや願望を、魔法という言葉の軽やかさで包む作品です。現実を大きく変える力ではなく、日々を少しだけ違って見せる想像力が中心になります。青山七恵らしい静かな文体で、青春と孤独のあいだを描きます。 青春孤独と疎外芸術と表現
  655. 655 2009 あたしはビー玉 あたしはびーだま 山崎ナオコーラ 単行本・幻冬舎 『あたしはビー玉』は、山崎ナオコーラが一人称の感覚を通して、自己像の丸さや転がりやすさを描く作品です。題名の比喩は、主体が固定されず、他者との関係の中で動いてしまうことを示しているように読めます。軽やかな文体の奥に、孤独と自己認識の問題が残ります。 アイデンティティ恋愛孤独と疎外
  656. 656 2009 ブルーシート ぶるーしーと 浅尾大輔 単行本・朝日新聞出版 『ブルーシート』は、デビュー作「家畜の朝」を含む第一創作集として、底辺労働や生活の現場を描く作品です。都市の表面では見えにくい働く身体と貧困の感覚が、青いシートの仮設性と重なります。社会的な題材を、個人の孤独と身体感覚に引き寄せて読むことができます。 労働貧困身体
  657. 657 2009 ぼくたちは大人になる ぼくたちはおとなになる 佐川光晴 単行本・双葉社 『ぼくたちは大人になる』は、成長することの期待と重さを、若い人物の生活感覚から描く佐川光晴の作品です。題名はまっすぐですが、そこには家族や社会の中で大人にならざるをえない苦さも含まれます。青春を懐かしむより、労働や家族へ向かう時間として捉える作品です。 青春家族労働
  658. 658 2009 ボーダー&レス ぼーだーあんどれす 藤代泉 初出・文藝 2009年冬号 東京の大学を出て就職した新入社員・江口理倫は、独特の魅力を持つ在日コリアンの同期・趙成佑(ソンウ)と親しくなる。気の合う友人同士のはずのふたりのあいだにも、「在日」という歴史が刻んだ見えない溝が走っていることに、僕はやがて直面する。国籍や民族だけでなく、この世界のあらゆる場所にあるボーダーを、若い会… 移民と越境アイデンティティ孤独と疎外 第46回 文藝賞
  659. 659 2009 ディヴィジョン でぃゔぃじょん 奥田真理子 初出・文學界 2009年12月号 大阪在住の奥田真理子が、別名義での最終候補(第106回)、「カルテル」での最終候補(第108回)を経て、三度目の挑戦でつかんだ受賞作。応募総数2008編の頂点に立ち、『文學界』2009年12月号に掲載された。同じ回では合原壮一朗「狭い庭」が選考委員名を冠した「花村萬月・松浦理英子特別賞」に選ばれてお… 第109回 文學界新人賞
  660. 660 2009 独居45 どっきょしじゅうご 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 『独居45』は、四十五歳で独り暮らしをする人物の生活を通して、身体、欲望、孤独を露悪的に描く吉村萬壱の作品です。平凡な住まいの内側に、社会から切り離された感覚と不穏な衝動が溜まっていきます。ユーモアと気味悪さが同居する読み味が特徴です。 孤独と疎外身体
  661. 661 2009 ドリーマーズ ドリーマーズ 柴崎友香 単行本・講談社 『ドリーマーズ』は、夢を見ることと現実を生きることのずれを、柴崎友香らしい都市の時間感覚で描く作品です。人物たちの関係は劇的に変わるというより、会話や移動のなかで少しずつ輪郭を変えます。淡い題名に対して、日常の底に残る孤独も読みどころになります。 記憶恋愛孤独と疎外
  662. 662 2009 烏有此譚 うゆしたん 円城塔 単行本・講談社 『烏有此譚』は、あるようでない物語をめぐり、注釈、引用、脱線が本文そのものを膨らませていく円城塔の実験的長篇です。物語を読むことと、物語が成立しないことが同時に進むため、読者は筋よりも言葉の運動を追うことになります。メタフィクションとしての遊びと、知的な不穏さが強い作品です。 言葉と言語芸術と表現アイデンティティ 第32回 野間新人賞
  663. 663 2009 ヘヴン ヘヴン 川上未映子 単行本・講談社 『ヘヴン』は、いじめを受ける「僕」と同級生コジマの連帯を通じて、暴力と倫理を問う長篇です。弱さを共有する二人の関係は救いに見えますが、暴力を意味づけて耐えることの危うさも浮かび上がります。身体の痛みと思想的な問いが同時に迫る、川上未映子の代表的長篇の一つです。 暴力身体孤独と疎外
  664. 664 2009 ヒマワリのキス ひまわりのきす 樋口直哉 単行本・徳間書店 『ヒマワリのキス』は、明るい題名の裏側に、恋愛や記憶の痛みを抱えた人物を置く樋口直哉の作品です。ひまわりのイメージは夏や若さを連想させますが、そこには過ぎ去った時間を取り戻せない感覚も重なります。今回の確認は書誌中心のため、細かな筋は追加調査が必要です。 恋愛記憶青春
  665. 665 2009 犬と鴉 いぬとからす 田中慎弥 単行本・講談社 『犬と鴉』は、田中慎弥の硬質な文体で、人間の生の暗さや動物的な感覚を前面に出す作品です。犬と鴉という題名の組み合わせは、従順さと不吉さ、近さと遠さを同時に呼び込みます。閉じた生活の中で、身体と孤独がざらついた手触りで描かれます。 身体孤独と疎外暴力
  666. 666 2009 犬はいつも足元にいて いぬはいつもあしもとにいて 大森兄弟 初出・文藝 2009年冬号 中学生の主人公の日常に、犬が公園の茂みから探り当てた正体不明の「肉」が入り込んでくる。誰も名指せないその物体は、思春期の鬱屈や家族のぎこちなさと響き合いながら、生き物の生々しさと死の気配を物語の中心に居座らせる。登場人物はどこか不快なのに目を離せないという独特の距離感で語られ、生命の循環を思わせる視… 身体死と喪失家族 第46回 文藝賞
  667. 667 2009 JOHNNY TOO BAD 内田裕也 じょにーとぅーばっど うちだゆうや モブ・ノリオ 単行本・文藝春秋 『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』は、小説「ゲットーミュージック」と内田裕也のロックン・トークを合わせた書籍として確認できる作品です。モブ・ノリオの小説的な語りと、ロック文化への接近が一冊の中で並置されています。純文学とサブカルチャー、発話とパフォーマンスの境界を見る資料としても読めます。 芸術と表現言葉と言語アイデンティティ
  668. 668 2009 カメレオン狂のための戦争学習帳 かめれおんきょうのためのせんそうがくしゅうちょう 丸岡大介 初出・群像 2009年6月号 独身教員のための「修身寮」に入寮した高校教師・田中は、寮の内情をレポートするという任務を課される。規律と監視の空気のなかで、彼は次第に正体の見えない「戦争」へと組み込まれていく。饒舌な語りと不穏な緊張感で、組織に飼い慣らされていく個人の煩悶を描いた現代の不条理劇。学校と寮という閉域を通して、同調圧力… 労働同調圧力戦争 第52回 群像新人賞
  669. 669 2009 神キチ かみきち 赤木和雄 初出・新潮 2009年11月号 屋根屋として建築現場で働く主人公を、不条理な出来事が次々と襲う。だが彼や登場人物たちが本当に悩むのは、世界の理不尽そのものではなく、〈真剣に神に祈れない〉という一点だ。奇妙で黒い笑劇の合間に、切り刻まれた宗教性の断片が乱舞し、信じることが壊れてしまった時代の労働者の魂のありかを照らし出す。地方の建築… 信仰労働孤独と疎外 第41回 新潮新人賞
  670. 670 2009 結婚小説 けっこんしょうせつ 中島たい子 単行本・集英社 『結婚小説』は、結婚をゴールではなく、生活と関係を組み替える出来事として描く中島たい子の作品です。日常的なユーモアのなかに、夫婦になることへの不安や違和感が置かれます。軽やかな語りで、制度としての結婚と個人の感情のずれを読ませます。 夫婦恋愛家族
  671. 671 2009 君が降る日 きみがふるひ 島本理生 単行本・幻冬舎 『君が降る日』は、失われた相手への思いと、残された人の時間を描く島本理生の恋愛小説です。題名の「降る」は、記憶が突然日常へ戻ってくる感覚を思わせます。静かな語りの中で、喪失、恋愛、再生の気配が重なります。 恋愛死と喪失記憶
  672. 672 2009 月食の日 げっしょくのひ 木村紅美 単行本・文藝春秋 『月食の日』は、日常のなかに差し込む陰りを、月食という天体現象のイメージと重ねる木村紅美の作品です。人との距離や生活の変化が、明るさを一時的に失う感覚として描かれます。静かで観察的な文体が、家族や孤独の輪郭を浮かび上がらせます。 家族記憶孤独と疎外
  673. 673 2009 ポジティヴシンキングの末裔 ぽじてぃう゛しんきんぐのまつえい 木下古栗 単行本・早川書房 『ポジティヴシンキングの末裔』は、前向きさという社会的な合言葉を、木下古栗らしい不条理な笑いでずらす作品です。人物の考え方や言葉は一見軽いのに、そこから身体や生活の気味悪さがにじみます。明るい自己啓発的な語彙を反転させる、乾いたユーモアが読みどころです。 身体同調圧力孤独と疎外
  674. 674 2009 ここに消えない会話がある ここにきえないかいわがある 山崎ナオコーラ 単行本・集英社 『ここに消えない会話がある』は、会話の断片が人間関係の記憶として残ることを描く山崎ナオコーラの作品です。話したことは流れて消えるようでいて、相手との距離や自分の輪郭を決めてしまいます。言葉の軽さと残酷さを、日常の関係から考えさせる小説です。 言葉と言語恋愛アイデンティティ
  675. 675 2009 このあいだ東京でね このあいだとうきょうでね 青木淳悟 単行本・新潮社 『このあいだ東京でね』は、東京という場所で交わされる会話や記憶を、青木淳悟の観察的な文体でたどる作品です。題名のくだけた語りかけは、都市の出来事が誰かへの報告として残る感覚を示します。大きな筋よりも、場所と言葉のズレを読む小説です。 言葉と言語記憶孤独と疎外
  676. 676 2009 糞神 くそがみ 喜多ふあり 単行本・河出書房新社 『糞神』は、身体の排泄や汚れのイメージを前面に出しながら、人間の信仰や共同体の感覚を揺さぶる作品です。喜多ふありの題名は挑発的ですが、そこには身体を持って生きることの逃れがたさがあるように読めます。神聖さと汚穢が接近する、不穏な寓話として分類しました。 身体信仰孤独と疎外
  677. 677 2009 何もかも憂鬱な夜に なにもかもゆううつなよるに 中村文則 単行本・集英社 『何もかも憂鬱な夜に』は、死刑囚と向き合う若い刑務官が、自らの孤独な子供時代と現在を重ねていく中村文則の長篇です。犯罪や死刑制度の問題は、単なる社会的題材ではなく、人が他者の罪をどう受け止めるかという倫理の問いになります。暗い語りの中に、救いの可能性がかすかに残ります。 暴力死と喪失孤独と疎外
  678. 678 2009 ねたあとに ねたあとに 長嶋有 単行本・朝日新聞出版 『ねたあとに』は、眠った後、起きた後に残る気配のようなものを、長嶋有らしい淡いユーモアで描く作品です。日常の会話や場面は軽く見えますが、人物同士の距離は少しずつ変化します。生活の小さな時間を、静かなずれとして読む小説です。 家族記憶孤独と疎外
  679. 679 2009 ぬかるみに注意 ぬかるみにちゅうい 生田紗代 単行本・講談社 『ぬかるみに注意』は、足を取られる場所の感覚を、生活や人間関係の抜け出しにくさと重ねる生田紗代の作品です。題名は注意を促す標識のようですが、人物はむしろそのぬかるみに近づいてしまいます。恋愛や家族の問題を、湿った不安として読む作品です。 恋愛家族孤独と疎外
  680. 680 2009 東京借景 とうきょうしゃっけい 荻世いをら 初出・文藝 2008年秋号 『東京借景』は、東京という都市を背景ではなく、人物の感情を借りて映す景色として扱う荻世いをらの作品です。既存データでは初出が『文藝』2008年秋号と確認され、都市の移動や視線が中心になる作品として位置づけられます。街の細部を通じて、孤独と生活の断片を読む小説です。 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  681. 681 2009 男と点と線 おとこととてんとせん 山崎ナオコーラ 単行本・新潮社 『男と点と線』は、山崎ナオコーラが男という属性や、人と人を結ぶ線の引き方を考える作品です。人物の関係は直線的に結ばれるのではなく、点のように散らばりながら、言葉によって仮につながります。ジェンダーと関係性を、軽い語り口で問い直す一冊です。 ジェンダー恋愛言葉と言語
  682. 682 2009 世紀の発見 せいきのはっけん 磯﨑憲一郎 単行本・河出書房新社 『世紀の発見』は、巨大な機関車と大きな鯉の記憶、そして消えた友人をめぐって語りが展開する長篇です。現実の出来事と記憶の像が入り混じり、世界の見え方そのものが少しずつ変わっていきます。磯﨑憲一郎らしい、夢のようで乾いた語りの運動が読みどころです。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  683. 683 2009 世界の果て せかいのはて 中村文則 単行本・文藝春秋 『世界の果て』は、中村文則が世界の終端に立たされたような人物の孤独や罪の感覚を描く作品です。題名は地理的な果てというより、他者との関係や倫理が行き詰まる場所を示しているように読めます。暗い心理描写と、逃げ場のない空気が特徴です。 孤独と疎外暴力死と喪失
  684. 684 2009 線路と川と母のまじわるところ せんろとかわとははのまじわるところ 小野正嗣 単行本・朝日新聞出版 『線路と川と母のまじわるところ』は、線路と川という移動のイメージを、母の記憶や土地の感覚と重ねる小野正嗣の作品です。場所の記憶は個人の家族史と結びつき、語りは土地をたどるように進みます。母と子、故郷、移動の主題を静かに読む小説です。 母と子記憶家族
  685. 685 2009 白い紙 しろいかみ シリン・ネザマフィ 初出・文學界 2009年6月号 イラン・イラク戦争下のイランの地方都市。成績優秀な高校生の男女が、勉強を口実に心を通わせていく。だが前線が近づくにつれ、家族の事情と戦争の影がふたりの未来を静かに引き裂いていく。日本語を母語としない書き手が、平易で簡潔な日本語によって戦時下の日常と若い恋の痛みを描き、戦争文学と青春小説を重ねてみせた… 戦争恋愛青春 第108回 文學界新人賞
  686. 686 2009 瘡瘢旅行 そうはんりょこう 西村賢太 単行本・講談社 『瘡瘢旅行』は、藤澤清造の墓参と女性との旅を描く、北町貫多ものの作品集です。私小説的な語りは、文学への執着、貧しさ、対人関係のこじれを隠さずに差し出します。旅の形を取りながら、過去の傷や屈辱を抱え直す作品として読めます。 貧困芸術と表現孤独と疎外
  687. 687 2009 空に唄う そらにうたう 白岩玄 単行本・河出書房新社 『空に唄う』は、通夜に現れた死んだはずの女子大生と、新米の坊主が寺で同居を始めるという設定の作品です。死者がいる日常をユーモラスに扱いながら、生者が死や信仰とどう向き合うかを描きます。寺という場所が、現実と非現実、生と死のあわいを支えています。 死と喪失信仰恋愛
  688. 688 2009 水死 すいし 大江健三郎 単行本・講談社 『水死』は、父の死の記憶と「水死小説」の構想をめぐる、大江健三郎晩年の古義人もの長篇です。家族史、戦後史、文学を書くことが複層的に絡み、個人の記憶は国家や天皇制の問題にも接続します。長い息の文体で、作家自身の過去を再検討する作品です。 父と子記憶戦争
  689. 689 2009 掏摸 スリ 中村文則 単行本・河出書房新社 『掏摸』は、天才的なスリ師が闇の組織に支配され、逃げ場のない選択へ追い込まれていく中村文則の長篇です。犯罪小説の緊張を持ちながら、偶然、宿命、倫理の問題が強く前面に出ます。都市の雑踏と孤独な身体技術が結びつく、暗く硬質な作品です。 暴力労働孤独と疎外
  690. 690 2009 ロンバルディア遠景 ろんばるでぃあえんけい 諏訪哲史 単行本・講談社 『ロンバルディア遠景』は、遠景という距離の感覚を通して、記憶、場所、言葉の変形を描く諏訪哲史の作品です。現実の土地はそのまま写されるのではなく、語りの中でずれ、遠ざかり、別の像になります。『りすん』同様、言葉そのものが主題化される実験的な小説として読めます。 言葉と言語記憶芸術と表現
  691. 691 2009 ソードリッカー そーどりっかー 佐藤憲胤 単行本・講談社 ソードリッカーは、佐藤憲胤による2009年発表の作品です。単行本は講談社(2009年)。
  692. 692 2009 永遠のかけら えいえんのかけら 高瀬ちひろ 単行本・講談社 永遠のかけらは、高瀬ちひろによる2009年発表の作品です。単行本は講談社(2009年)。
  693. 693 2009 霊降ろし れいおろし 田山朔美 単行本・文藝春秋 霊降ろしは、田山朔美による2009年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2009年)。
  694. 694 2009 山崎ナオコーラ 単行本・文藝春秋 手は、山崎ナオコーラによる2009年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2009年)。
  695. 695 2009 TRIP TRAP トリップ・トラップ 金原ひとみ 単行本・角川書店 TRIP TRAPは、金原ひとみによる2009年発表の作品です。単行本は角川書店(2009年)。
  696. 696 2009 終の住処 ついのすみか 磯﨑憲一郎 単行本・新潮社 妻が突然話さなくなった朝から始まる、ある夫婦の20年を描いた芥川賞受賞作。
  697. 697 2009 潰玉 ついぎょく 墨谷渉 単行本・文藝春秋 第140回芥川賞候補作となった中篇。
  698. 698 2009 海猫ツリーハウス うみねこつりーはうす 木村友祐 初出・すばる 2009年11月号 海猫の鳴き交わす青森県八戸。25歳の亮介は服飾デザイナーの夢を抱えつつ家業を手伝い、師匠のもとでツリーハウス作りに励んでいる。そこへ、自給自足の暮らしを求めて都会から人気者の兄・慎平が帰ってくると、田舎町の均衡は静かに乱れはじめる。標準語に回収されない南部弁の語りが土地の身体感覚をそのまま運び、地方… 家族労働アイデンティティ 第33回 すばる文学賞
  699. 699 2009 ヤイトスエッド やいとすえっど 吉村萬壱 単行本・講談社 ヤイトスエッドは、吉村萬壱による2009年発表の作品です。単行本は講談社(2009年)。
  700. 700 2009 金魚生活 きんぎょせいかつ 楊逸 単行本・文藝春秋 金魚生活は、楊逸による2009年発表の作品です。単行本は文藝春秋(2009年)。
  701. 701 2009 すき・やき すきやき 楊逸 単行本・新潮社 すき・やきは、楊逸による2009年発表の作品です。単行本は新潮社(2009年)。
  702. 702 2009 よもぎ学園高等学校蹴球部 よもぎがくえんこうとうがっこうしゅうきゅうぶ 松波太郎 単行本・文藝春秋 サッカーを題材にした長篇。第141回芥川賞候補作。
  703. 703 2009 憂鬱たち ゆううつたち 金原ひとみ 単行本・文藝春秋 精神科に通う神田憂が、診察室にたどり着くまでの妄想と憂鬱を繰り返す連作短篇集。
  704. 704 2009 トモスイ ともすい 高樹のぶ子 初出・表題作「トモスイ」は「新潮」2009年4月号。単行本は2011年1月、新潮社刊。 アジア各地(タイ、バリ、韓国など)を舞台に男女の密接な関係性とエロスを描いた10篇の短篇集。第36回川端康成文学賞受賞作。 第36回 川端賞
  705. 705 2008 やさしいため息 やさしいためいき 青山七恵 単行本・河出書房新社 『やさしいため息』は、芥川賞受賞後第一作として発表され、日常のなかで揺れる若い人物の息づかいを静かに描く作品です。家族や生活の小さな変化が、はっきりした事件よりも大きく人物の感情を動かします。青山七恵らしい簡潔な文体が、孤独と自立のあいだの時間をすくい取ります。 家族青春孤独と疎外
  706. 706 2008 声を聴かせて こえをきかせて 朝比奈あすか 単行本・光文社 『声を聴かせて』は、声を聞くこと、聞かれないことを通して、他者との距離を描く朝比奈あすかの作品です。親しい関係であっても届かない言葉があり、そのもどかしさが人物の孤独を形づくります。題名通り、声と言葉が関係をつなぐ細い線として働きます。 家族恋愛言葉と言語
  707. 707 2008 ばかもの ばかもの 絲山秋子 単行本・新潮社 『ばかもの』は、大学生の恋愛の終わりから十年後の再会までをたどり、アルコール依存を抱える男の時間を描く作品です。恋愛の失敗は単なる思い出ではなく、生活の崩れや病と結びついて残ります。絲山秋子の乾いた文体が、不器用な愛情と回復の難しさを抑制して描きます。 恋愛孤独と疎外
  708. 708 2008 僕の好きな人が、よく眠れますように ぼくのすきなひとが、よくねむれますように 中村航 単行本・角川書店 『僕の好きな人が、よく眠れますように』は、好きな人の眠りを願うという柔らかな感情から、恋愛と不安を描く中村航の小説です。眠ることは身体の平穏であり、相手を思う距離の象徴でもあります。若い恋愛のまぶしさと、相手に触れきれない切なさを併せ持つ作品です。 恋愛身体青春
  709. 709 2008 ぼくは落ち着きがない ぼくはおちつきがない 長嶋有 単行本・光文社 『ぼくは落ち着きがない』は、学校や図書室の空気を背景に、落ち着かなさを抱える若い人物たちの会話と距離を描く作品です。長嶋有らしい少しずれたユーモアが、青春の居場所のなさを軽く見せます。図書館的な静けさと、内側のざわつきの対比が読みどころです。 青春孤独と疎外言葉と言語
  710. 710 2008 クロスフェーダーの曖昧な光 くろすふぇーだーのあいまいなひかり 飯塚朝美 初出・新潮 2008年11月号 三島由紀夫『金閣寺』をモチーフとし、宗教というテーマを現代の感覚で引き受けようとした意欲作。DJ機材の「クロスフェーダー」を題名に掲げ、ふたつの音源のあいだを行き来するように、聖なるものと現実のあいだで揺れる意識の「曖昧な光」を掬い取ろうとする。10代で文學界新人賞奨励賞を受けた早熟の書き手による… 信仰孤独と疎外芸術と表現 第40回 新潮新人賞
  711. 711 2008 Boy's Surface ぼーいずさーふぇす 円城塔 単行本・早川書房 『Boy's Surface』は、数学的・理論的な発想を小説の表面に引き出す、円城塔の実験的なSF作品です。物語は感情の自然な流れよりも、定義、証明、記号のずれによって進みます。読み手は、言葉と論理が人間の身体や関係をどこまで記述できるかを試されます。 テクノロジー言葉と言語アイデンティティ
  712. 712 2008 ギンイロノウタ ギンイロノウタ 村田沙耶香 単行本・新潮社 『ギンイロノウタ』は、歪んだ自意識を抱えた少女の性と暴力の衝動を描く表題作を含む作品です。村田沙耶香らしく、学校や身体をめぐる「普通」の感覚が鋭く異化されます。痛ましい題材を、過剰な説明ではなく、人物の感覚の切迫として読ませる作品です。 暴力身体 第31回 野間新人賞
  713. 713 2008 グ、ア、ム グ、ア、ム 本谷有希子 単行本・新潮社 『グ、ア、ム』は、グアムという観光地を舞台に、家族旅行の明るさの裏にある母娘や姉妹の違和感を描く本谷有希子の作品です。海外の解放感は、むしろ家族の関係の息苦しさを浮かび上がらせます。滑稽さと不穏さが同時に進む、劇作家的な場面の強さがあります。 家族母と子ジェンダー
  714. 714 2008 灰色猫のフィルム はいいろねこのふぃるむ 天埜裕文 初出・すばる 2008年11月号 母親を殺した「僕」は、動機も経緯も語らないまま町を放浪する。公園での野宿を経てホームレスの「ハタさん」と出会い、河川敷の小屋でともに暮らしはじめるが、ハタさんが大切にしていた灰色の猫が殺される日まで、束の間の安らぎは続かない。公衆トイレなどの不潔で醜悪な細部が彷徨う心理を映し出す一方、動物や迷子の少… 暴力母と子孤独と疎外 第32回 すばる文学賞
  715. 715 2008 廃車 はいしゃ 松波太郎 初出・文學界 2008年12月号 車検切れが迫る壊れかけの車を、主人公は中国人留学生に無償で譲り渡す。ところが期限を過ぎても相手は約束した廃車手続きをせず、それどころか、わけのわからないまま主人公のほうが怨まれていく。日常の小さな親切が言葉も論理も通じない泥沼へ転がり落ちる過程を、乾いたユーモアで描いた不条理劇。応募時の題名「革命」… 移民と越境孤独と疎外言葉と言語 第107回 文學界新人賞
  716. 716 2008 走ル はしる 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『走ル』は、高校生が自転車で北へ向かい続けるロードノベルです。走る身体の疲労と速度が、若い自意識や孤独をそのまま運んでいきます。目的地よりも、移動し続ける時間のなかで自分の輪郭が変わるところが読みどころです。 青春身体孤独と疎外
  717. 717 2008 星空の下のひなた。 ほしぞらのしたのひなた 樋口直哉 単行本・光文社 『星空の下のひなた。』は、星空とひなたという対照的なイメージを重ね、若い人物の恋愛や孤独を描く作品として整理できます。明るさと暗さが同じ場面に同居し、日常のなかで見落とされがちな感情をすくいます。書誌以外の資料は少なく、今後は紹介記事・書評で精度を上げたい作品です。 青春恋愛孤独と疎外
  718. 718 2008 ほんたにちゃん ほんたにちゃん 本谷有希子 単行本・太田出版 『ほんたにちゃん』は、本谷有希子自身を思わせるキャラクターや語りを通して、作者像と作品の境界を遊ぶ一冊として読めます。自己紹介のようでいて、虚構化された「ほんたにちゃん」が前面に出るため、メタフィクション的な楽しさがあります。小説、演劇、エッセイ的な感覚が混じる軽やかな作品です。 芸術と表現アイデンティティ言葉と言語
  719. 719 2008 星のしるし ほしのしるし 柴崎友香 単行本・文藝春秋 『星のしるし』は、日常の風景のなかに残る小さな兆しを、柴崎友香らしい観察で描く作品です。星という遠いもののイメージが、都市の生活や人との距離に静かな奥行きを与えます。歩くような文体で、恋愛や記憶が大きな劇ではなく生活のなかに滲みます。 記憶恋愛孤独と疎外
  720. 720 2008 射手座 いてざ 上村渉 初出・文學界 2008年12月号 日系ブラジル人の語り手が、妹ルシアに関わる謎めいた男・加賀芳明と向き合う。妹の万引きに関わった加賀は、やがて妹が遺棄した赤ん坊について語り出し、赤ん坊を運んで山道をひとりさまよう。語り手が加賀から聞いた話を伝聞のかたちで重ねていく重層的な構造により、何が真実かは最後まで曖昧なまま、登場人物の誰ひとり… 移民と越境孤独と疎外死と喪失 第107回 文學界新人賞
  721. 721 2008 いつかソウル・トレインに乗る日まで いつかソウル・トレインにのるひまで 高橋源一郎 単行本・集英社 『いつかソウル・トレインに乗る日まで』は、音楽の記憶と個人史を重ねる高橋源一郎の小説です。ソウル・トレインという題名が示すように、音楽は単なる背景ではなく、語りと記憶を運ぶ乗り物になります。ポップカルチャーと私的な痛みを接続する読みどころがあります。 芸術と表現記憶父と子
  722. 722 2008 神様のいない日本シリーズ かみさまのいないにほんシリーズ 田中慎弥 単行本・文藝春秋 『神様のいない日本シリーズ』は、「江夏の21球」で知られる1979年の日本シリーズを背景に、父と子の時間を描く中篇です。野球の記憶は、家族の記憶や時代の空気を呼び戻す装置になります。田中慎弥の乾いた語りが、父子関係の近さと断絶を浮かび上がらせます。 父と子記憶芸術と表現
  723. 723 2008 彼女について かのじょについて 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『彼女について』は、ひとりの女性をめぐる記憶と語りから、失われたものや届かなかった感情をたどる作品です。よしもとばなならしい透明感のある文体で、死や喪失の気配をやわらかく包みます。誰かについて語ることが、自分自身を語り直すことにもなる小説です。 記憶恋愛死と喪失
  724. 724 2008 けちゃっぷ けちゃっぷ 喜多ふあり 初出・文藝 2008年冬号 言いたいことを相手に直接言わず、何もかもブログにアップしてしまう──そんなヴァーチャル化した現代のコミュニケーションを、ネットの文体と口語をなだれ込ませた語りで写し取った作品。書き込みと現実のあいだでずれていく自意識を通して、ゼロ年代後半のウェブ社会に生きる若者の孤独と滑稽さを軽やかにすくい上げる… 言葉と言語テクノロジー孤独と疎外 第45回 文藝賞
  725. 725 2008 花束 はなたば 木村紅美 単行本・朝日新聞出版 『花束』は、贈り物としての花束が持つ親密さと儀礼性を手がかりに、人と人の関係を描く作品です。美しいものを差し出す行為の裏に、言えなかった感情や生活の痛みが潜みます。静かな語りのなかで、家族や恋愛の距離が少しずつ見えてきます。 家族恋愛孤独と疎外
  726. 726 2008 イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集 いぎりすかいがん いーはとーう たんぺんしゅう 木村紅美 単行本・メディアファクトリー 『イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集』は、宮沢賢治のイーハトーヴを思わせる場所の記憶や文学的想像力を、短篇のかたちでたどる作品集です。実在の土地と架空の地名が重なり、読むこと、訪ねること、思い出すことがひとつにつながります。静かな幻想性と地方の手触りが読みどころです。 芸術と表現記憶言葉と言語
  727. 727 2008 金色のゆりかご きんいろのゆりかご 佐川光晴 単行本・光文社 『金色のゆりかご』は、ゆりかごのイメージが示す家族や子どもの時間を、現実の生活のなかで見つめる作品です。佐川光晴らしい社会への視線が、保護されるべき場所とそこから漏れる不安を描きます。家族の温かさと脆さを同時に読む小説として整理できます。 家族青春孤独と疎外
  728. 728 2008 切れた鎖 きれたくさり 田中慎弥 単行本・新潮社 『切れた鎖』は、地方の閉ざされた土地に生きる血族を描く三篇を収めた作品集です。家族や土地の結びつきは守りではなく、逃れがたい暴力や因縁として迫ってきます。簡潔で硬い語りが、血縁の鎖が切れる瞬間の不穏さを際立たせます。 家族暴力死と喪失 第21回 三島賞
  729. 729 2008 子守唄しか聞こえない こもりうたしかきこえない 松尾依子 初出・群像 2008年6月号 田舎町に暮らす女子高生・美里は、男友達4人に囲まれた一見満ち足りた日々を送っている。だが「愚鈍な真沙子」と見下していた同級生が自分に執着し、つきまとうようになると、保っていたはずのエゴの均衡が崩れはじめる。幼い日の海の記憶や謎めいた老婆との出会いを織り込みながら、思春期の自意識の残酷さと出口のなさを… 青春同調圧力孤独と疎外 第51回 群像新人賞
  730. 730 2008 蟋蟀 こおろぎ 栗田有起 単行本・筑摩書房 『蟋蟀』は、虫の声や小さな気配を思わせる題名のもと、日常の奥に潜む不安や孤独を描く栗田有起の作品です。目立たないものに耳を澄ませるような語りが、家や都市の生活を少し奇妙なものに変えます。静かな現実感と寓話性の境目を読む小説です。 孤独と疎外家族記憶
  731. 731 2008 小銭をかぞえる こぜにをかぞえる 西村賢太 単行本・文藝春秋 『小銭をかぞえる』は、金欠と痴話喧嘩にまみれた同棲生活を、私小説的な露悪と乾いた笑いで描く作品です。小銭を数える行為が、貧しさ、欲望、関係の行き詰まりを象徴します。西村賢太の作品らしく、金と性と屈辱が分かちがたく結びつきます。 貧困恋愛労働
  732. 732 2008 眼と太陽 めとたいよう 磯﨑憲一郎 単行本・河出書房新社 『眼と太陽』は、視線と光のイメージを軸に、複数の視点や時間が交差する短篇集です。見ること、見られることが、人物の記憶や世界の捉え方を変えていきます。磯﨑憲一郎らしい抽象度の高い構成が、現実を少しずつ別の角度から照らします。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  733. 733 2008 マイクロバス マイクロバス 小野正嗣 単行本・新潮社 『マイクロバス』は、移動する小さな乗り物を通して、地方の場所や人々の距離を描く小野正嗣の作品です。バスという共有空間は、共同体に属することと、そこから外れることの両方を見せます。静かな語りのなかで、土地の記憶と孤独がゆっくり浮かび上がります。 記憶孤独と疎外移民と越境
  734. 734 2008 マウス マウス 村田沙耶香 単行本・講談社 『マウス』は、教室で息をひそめて生きる少女・律と、転校生との関係を描く長編です。学校という共同体のなかで、目立たず生きることと、誰かに見つけられることの怖さが描かれます。村田沙耶香らしく、「普通」に合わせる身体感覚が息苦しく異化されます。 青春同調圧力孤独と疎外
  735. 735 2008 長い終わりが始まる ながいおわりがはじまる 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『長い終わりが始まる』は、終わりが一瞬ではなく長く続いていく感覚を、恋愛や生活の変化に重ねる作品です。山崎ナオコーラらしい平明な語りが、別れや変化を大げさにせず日常の速度で見せます。終わりを迎えるまでの時間そのものを読む小説です。 恋愛青春孤独と疎外
  736. 736 2008 ありったけの話 ありったけのはなし 中山智幸 単行本・光文社 『ありったけの話』は、話すこと、語り尽くそうとすることを通して、人と人の関係を描く作品です。題名の通り、言葉を差し出すことが親密さの表現である一方、語っても残る距離も浮かび上がります。中山智幸の作品として、会話と記憶の密度を読む一冊です。 言葉と言語孤独と疎外恋愛
  737. 737 2008 空で歌う そらでうたう 中山智幸 単行本・講談社 『空で歌う』は、歌うことや空を見上げる感覚を通して、若い人物の孤独と希望を描く作品として整理できます。芸術や声は、現実から逃げるためだけでなく、誰かに届くための手段になります。書誌以外の資料は少なく、今後は掲載誌・書評で主題を精査したい作品です。 芸術と表現青春孤独と疎外
  738. 738 2008 波打ち際の蛍 なみうちぎわのほたる 島本理生 単行本・角川書店 『波打ち際の蛍』は、傷を抱えた人物が、波打ち際のように揺れる場所で他者との距離を測り直す島本理生の作品です。蛍の光のようなかすかな希望と、身体に残る痛みが同時に描かれます。恋愛や回復を単純に美化せず、触れ合うことの怖さまで含めて読ませます。 暴力恋愛身体
  739. 739 2008 逃げ道 にげみち 北野道夫 初出・文學界 2008年6月号 シャワートイレ業者に雇われ、一般人のふりをして製品を試す「モニター工作員」として働く若い女性が主人公。アルバイト先の不祥事を機に、彼女は営業担当の田尻とともに街を離れ、千葉の屛風ヶ浦へと車を走らせる。隣人が全裸で現れるなどのノンセンスな場面や、エクセルの表を組み込む形式の実験を織り交ぜながら、どこに… 労働身体孤独と疎外 第106回 文學界新人賞
  740. 740 2008 おひるのたびにさようなら おひるのたびにさようなら 安戸悠太 初出・文藝 2008年冬号 会社の昼休み、外階段で繰り広げられる主人公・真司と先輩女子社員たちの秘密の遊び。真司の役目は、近くの病院で音声を消した昼ドラを眺め、想像で補った物語を先輩に報告することだ。見ることと聞くことのずれ、語り直された物語と現実の重なりを入れ子状に組み上げ、ささやかな昼の儀式の終わりをせつなく描く。メディア… 労働言葉と言語芸術と表現 第45回 文藝賞
  741. 741 2008 ラジ&ピース らじあんどぴーす 絲山秋子 単行本・講談社 『ラジ&ピース』は、ラジオや言葉の届き方を思わせる題名のもと、人と人がどのように声を受け渡すかを描く作品です。絲山秋子らしい乾いた会話と距離感が、親密さと孤独を同時に浮かび上がらせます。平和やつながりを軽く言い切れないところに、作品の手触りがあります。 言葉と言語労働孤独と疎外
  742. 742 2008 乱暴と待機 らんぼうとたいき 本谷有希子 単行本・メディアファクトリー 『乱暴と待機』は、奇妙な共同生活のなかで、加害と被害、依存と復讐がねじれていく本谷有希子の小説です。閉じた生活空間にいる人物たちの言葉は、笑えるほど過剰でありながら、相手を縛る力を持っています。戯曲的な会話のテンポと、待ち続けることの不穏さが読みどころです。 恋愛暴力孤独と疎外
  743. 743 2008 論理と感性は相反しない ろんりとかんせいはあいはんしない 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『論理と感性は相反しない』は、山崎ナオコーラの思考する文体が前面に出る作品集です。題名の通り、感情をただ情緒として扱うのではなく、考えること、名づけること、他人と距離を取ることの問題として描きます。軽い会話の奥に、ジェンダーや関係性への問いが残る作品です。 恋愛ジェンダー言葉と言語
  744. 744 2008 主題歌 しゅだいか 柴崎友香 単行本・講談社 『主題歌』は、都市で暮らす人物たちの時間や感情を、音楽のように反復する記憶と結びつけて描く柴崎友香の作品です。大きな事件よりも、会話、移動、見えた風景の差異が人物の心の変化を形づくります。語りは静かですが、誰かの人生に流れている旋律を探すような読み味があります。 記憶恋愛芸術と表現
  745. 745 2008 サウスポイント サウスポイント 吉本ばなな 単行本・中央公論新社 『サウスポイント』は、よしもとばななが南の島の気配や移動の感覚を通じて、恋愛と家族の記憶を描く長篇です。明るい場所に向かう題名とは裏腹に、人物の内側には喪失や過去の影が残ります。土地の光や空気を、心の回復の過程と重ねて読む作品です。 恋愛家族記憶
  746. 746 2008 りすん りすん 諏訪哲史 単行本・講談社 『りすん』は、『アサッテの人』以後の諏訪哲史が、聞くこと、話すこと、言葉のずれをさらに押し広げる実験的な作品です。タイトルの響きそのものが、意味に届く前の音や聞き間違いを思わせます。言語への執着と、他者へ届かない感覚が重なった小説として読めます。 言葉と言語アイデンティティ孤独と疎外
  747. 747 2008 時が滲む朝 ときがにじむあさ 楊逸 単行本・文藝春秋 『時が滲む朝』は、天安門事件前後の中国に生きる若者たちの青春と政治の時間を描く作品です。留学生作家である楊逸の日本語が、祖国の記憶、民主化への希望、移動する身体の感覚を重ねます。個人の朝の光景に、歴史が滲み出してくる点が読みどころです。 移民と越境青春戦争 第139回 芥川賞
  748. 748 2008 クォンタム・ファミリーズ くぉんたむ ふぁみりーず 東浩紀 初出・「新潮」2008年5月号〜2009年8月号(連載題名「ファントム・クォンタム」)、2009年12月新潮社より刊行時に改題・大幅改稿 近未来、複数の平行世界を行き来できる「クォンタム・ファミリーズ」という設定のもと、ある父親が異なる世界の娘を救おうとする物語。SF的な装置を用いながら家族と記憶を問いかける。 第23回 三島賞
  749. 749 2007 あなたの呼吸が止まるまで あなたのこきゅうがとまるまで 島本理生 単行本・新潮社 『あなたの呼吸が止まるまで』は、息をすること、生き延びること、他者と関わることを強い身体感覚で描く島本理生の小説です。恋愛や依存の感情が、相手の呼吸を意識するほど近い距離で語られます。親密さの美しさだけでなく、そこに潜む苦しさを読む作品です。 恋愛身体死と喪失
  750. 750 2007 青色讃歌 あおいろさんか 丹下健太 初出・文藝 2007年冬号 28歳の高橋は、同棲する彼女の収入で暮らしている。いなくなった猫を探し、気の進まない仕事を探す——その二つの「探しもの」をめぐるだけの日々が、妙な可笑しみとともに流れていく。働かない男のだめさを断罪も美化もせず、脱力したユーモアで肯定してみせる青春小説で、「読ませる、笑わせる、唸らせる」と選考委員の… 労働恋愛青春 第44回 文藝賞
  751. 751 2007 ひとり日和 ひとりびより 青山七恵 単行本・河出書房新社 『ひとり日和』は、二十歳の知寿が高齢の遠縁・吟子さんと同居し、働きながら自立の感覚を少しずつ探る作品です。老いと若さ、家族ではない同居、ひとりでいることの自由と寂しさが、淡々とした語りで描かれます。大きな成長物語ではなく、日々の観察から生活の輪郭が変わるところが読みどころです。 老い家族青春 第136回 芥川賞
  752. 752 2007 アサッテの人 あさってのひと 諏訪哲史 初出・群像 2007年6月号 吃音を抱えていた叔父は、いつしか「ポンパ!」などの意味を持たない言葉=アサッテの言葉を突発的に口にするようになり、やがて失踪した。「私」はその叔父をめぐる小説を書こうとするが、語りは草稿、叔父の日記、回想が混在するまま進んでいく。言葉の規範から「アサッテ」の方向へ逸脱したいという渇望を、小説の形式そ… 言葉と言語孤独と疎外家族 第50回 群像新人賞
  753. 753 2007 アウレリャーノがやってくる あうれりゃーのがやってくる 高橋文樹 初出・新潮 2007年11月号 岩手出身のうっとりするほどの美少年・天地遍人は、高校卒業と同時に姉を頼って上京し、路上で詩を代筆する「代理詩人」を始める。やがて文芸同人「破滅派」に加入し、リーダー・紙上大兄皇子ら風変わりな同人たちにあてられて文芸活動に没頭するが、皇子の恋人・深川潮への恋心と同人の経営難が破滅を呼び寄せる。実在のオ… 芸術と表現青春恋愛 第39回 新潮新人賞
  754. 754 2007 乳と卵 ちちとらん 川上未映子 初出・文學界 2007年12月号 東京で一人暮らしをする「わたし」のもとへ、大阪でホステスとして働く姉の巻子と、その娘で小学6年生の緑子が上京してくる。離婚後ひとりで娘を育ててきた巻子は豊胸手術を受けることに執拗にこだわり、初潮を迎える年頃の緑子は、自分の身体が変わっていくことへの違和感をノートに書きつけ、母とは筆談でしか口をきかな… 母と子身体ジェンダー 第138回 芥川賞
  755. 755 2007 クローバー くろーばー 島本理生 単行本・角川書店 『クローバー』は、島本理生らしく、恋愛や記憶の細部から若い人物の揺れを描く作品です。幸運を連想させる題名に対して、語りは関係の不安定さや選び取れない気持ちにも目を向けます。淡い感情を、日常の光景のなかで少しずつ変化させる読み味があります。 恋愛青春記憶
  756. 756 2007 だだだな町、ぐぐぐなおれ だだだなまち、ぐぐぐなおれ 広小路尚祈 初出・群像 2007年6月号 第50回群像新人文学賞優秀作に選ばれたデビュー作。タイトルの擬音めいた口語が示すとおり、ぱっとしない地方の町でくすぶる「おれ」の日々を、脱力した語り口で描く。ホテルマン、タクシー運転手、消費者金融など10以上の職を転々とした作者の経歴がにじむ、働く男の鬱屈とおかしみは、のちに芥川賞候補となる「うちに… 労働孤独と疎外方言・口語
  757. 757 2007 ダーティ・ワーク だーてぃ・わーく 絲山秋子 単行本・集英社 『ダーティ・ワーク』は、仕事や関係のなかで避けられない面倒さを、絲山秋子らしい乾いた文体で描く作品です。労働をきれいごとにせず、そこで生まれる距離、疲労、親密さを淡々と見つめます。人と人の関係を、会話と行動のずれから読ませるところに魅力があります。 労働恋愛孤独と疎外
  758. 758 2007 Self-Reference ENGINE せるふれふぁれんすえんじん 円城塔 単行本・早川書房 『Self-Reference ENGINE』は、自己言及、時間、宇宙的スケールの思考実験を断片的なエピソードとして積み上げるSF小説です。物語は線形に進むよりも、定義や論理が暴走するように展開します。理論的な遊戯と小説的な冗談が同時に走る、円城塔初期の代表的な実験作として読めます。 テクノロジー言葉と言語芸術と表現
  759. 759 2007 エロマンガ島の三人 えろまんがじまのさんにん 長嶋有 単行本・エンターブレイン 『エロマンガ島の三人』は、長嶋有の異色作品集として、奇妙な地名や設定から日常の感覚をずらしていく作品です。旅行記や冒険譚のような外見を借りながら、人と場所の距離感をユーモラスに扱います。題名の軽さの奥に、どこにも完全には属せない感覚が残ります。 芸術と表現孤独と疎外移民と越境
  760. 760 2007 はじまらないティータイム はじまらないてぃーたいむ 原田ひ香 初出・すばる 2007年11月号 子どものいない30代の専業主婦・奈都子は、母ミツエから従弟・博昭の離婚と再婚の顛末を聞かされる。博昭は部下を妊娠させ、子を産まない妻・佐智子と別れて再婚したのだった。奈都子、ミツエ、元妻の佐智子、再婚相手の里美——4人の女性の視点を切り替えながら、家族という制度の内側の風通しの悪さを描く。他人の家に… 家族夫婦ジェンダー 第31回 すばる文学賞
  761. 761 2007 大人ドロップ おとなどろっぷ 樋口直哉 単行本・小学館 『大人ドロップ』は、若者が大人になる前後の感情を、学校や地方の時間のなかで描く青春小説です。恋愛や友情の明るさだけでなく、過ぎてしまう時間への痛みが語りの底にあります。簡潔な文体で、思い出になる直前の出来事をすくい取る作品として読めます。 青春恋愛記憶
  762. 762 2007 星へ落ちる ほしへおちる 金原ひとみ 単行本・集英社 『星へ落ちる』は、恋愛や身体の感覚を、落下するような不安定さのなかで描く金原ひとみの作品です。きらびやかな題名とは対照的に、登場人物の感情は孤独や衝動に強く引かれます。短く鋭い語りが、関係の熱と冷えを同時に伝えます。 恋愛身体孤独と疎外
  763. 763 2007 ハイドラ ハイドラ 金原ひとみ 単行本・新潮社 『ハイドラ』は、身体、欲望、恋愛の結びつきを、金原ひとみらしい鋭い感覚で描く作品です。複数の頭を持つ怪物を思わせる題名のように、感情や関係は一つにまとまらず分岐していきます。自己破壊的な衝動と生への執着が同時に読める、不穏な恋愛小説です。 身体恋愛
  764. 764 2007 いい子は家で いいこはいえで 青木淳悟 単行本・新潮社 『いい子は家で』は、家という閉じた場所と「いい子」であることの圧力をめぐる青木淳悟の作品です。日常の言葉や振る舞いが少しずつずれ、家族や共同体の規範が不穏なものとして見えてきます。実験的な文体が、従順さの裏側にある違和感を浮かび上がらせます。 家族同調圧力孤独と疎外
  765. 765 2007 肝心の子供 かんじんのこども 磯﨑憲一郎 初出・文藝 2007年冬号 出家して悟りを開く前のブッダ、その息子のラーフラ、さらにその子へ——インドを舞台に親子三代の生をたどる。偉人の伝記ではなく、川の流れや樹木、身体の感覚といった即物的な描写を長い呼吸の文体で積み重ね、人の一生を超えて流れる時間そのものを小説に写し取ろうとする。商社マンとして働きながら書かれた42歳の遅… 父と子家族信仰 第44回 文藝賞
  766. 766 2007 カツラ美容室別室 かつらびようしつべっしつ 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 『カツラ美容室別室』は、美容室という場所を通して、働く人や訪れる人の関係を描く山崎ナオコーラの作品です。髪や見た目を整える場が、ジェンダー、労働、自己像を考える舞台になります。軽やかな会話のなかに、他人と同じ空間にいることの気まずさと楽しさが同居しています。 労働ジェンダー孤独と疎外
  767. 767 2007 島の夜 しまのよる 木村紅美 単行本・角川書店 『島の夜』は、島という隔てられた場所と夜の時間を背景に、孤独や記憶の濃度を描く作品として整理できます。閉じた地理は、人間関係を近づける一方で、逃げ場のなさも作ります。静かな語りのなかに、不安と親密さが同時に漂う読み味があります。 孤独と疎外記憶恋愛
  768. 768 2007 この人と結婚するかも このひととけっこんするかも 中島たい子 単行本・集英社 『この人と結婚するかも』は、結婚を予感する瞬間の期待と違和感を、軽い語り口で追う中島たい子の作品です。恋愛の延長にある制度や生活を、決断の物語としてではなく、揺れる気分として描きます。ユーモラスな題名のなかに、親密さへの不安と自己確認の主題があります。 夫婦恋愛アイデンティティ
  769. 769 2007 救済の彼岸 きゅうさいのひがん 朝倉祐弥 単行本・集英社 『救済の彼岸』は、救いを求める感覚と、その先にある孤独を題名から強く意識させる作品です。信仰や倫理をめぐる問いが、現代の生活のなかでどのように立ち上がるかを読む切り口があります。書誌以外の資料はまだ少ないため、今後は掲載誌や書評で主題を精査したい作品です。 信仰孤独と疎外死と喪失
  770. 770 2007 舞い落ちる村 まいおちるむら 谷崎由依 初出・文學界 2007年6月号 生まれ育った女系の村では、時間の進み方や年齢の重ね方が定まらず、ものの数も曖昧で、人々は個々の名前すらめったに持たない。「わたし」はその「言葉を信じない」村のあり方に違和感を抱き、村と大学のある街とを行き来するうち、言葉を信じ言葉で武装した人物に強く惹かれていく。土俗的な幻想と言語への意識を重ね合わ… 言葉と言語記憶家族 第104回 文學界新人賞
  771. 771 2007 また会う日まで またあうひまで 柴崎友香 単行本・河出書房新社 『また会う日まで』は、再会と別れをめぐる時間の感覚を、柴崎友香らしい日常の観察で描く作品です。人と人が会う場所、離れる場所、そのあいだに流れる記憶が物語の中心になります。関西の街を歩くような語りが、恋愛や孤独を過度に劇化せずに映し出します。 恋愛記憶孤独と疎外
  772. 772 2007 バイバイ ばいばい 望月あんね 単行本・光文社 『バイバイ』は、別れを告げる言葉の軽さと重さを、恋愛や生活の終わりの感覚に重ねる作品です。望月あんねの作品として、人物が関係を断ち切るときに残る記憶や孤独に焦点を置いて読めます。大きな事件よりも、去ることと残されることの温度差が読みどころになります。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  773. 773 2007 二度はゆけぬ町の地図 にどはゆけぬまちのちず 西村賢太 単行本・角川書店 『二度はゆけぬ町の地図』は、戻れない場所への執着と、貧しい生活の記憶を私小説的な語りでたどる作品です。西村賢太らしい露悪的な自己凝視が、地図に残る町と、もう行けない過去を重ねます。労働、金銭、孤独が乾いた笑いと屈辱の感覚で結びついています。 貧困記憶孤独と疎外
  774. 774 2007 オブ・ザ・ベースボール おぶ・ざ・べーすぼーる 円城塔 初出・文學界 2007年6月号 年に一度くらいの割合で空から人が降ってくる町、ファウルズ。「私」はユニフォームとバットを支給されたレスキュー・チームの一員として、落ちてくる人をフルスイングで打ち返すべく日々待機している。およそ役に立たない職務をめぐる思弁が、乾いた論理の積み重ねでどこまでも転がっていく。不条理な設定を理詰めで駆動す… 労働孤独と疎外言葉と言語 第104回 文學界新人賞
  775. 775 2007 大きな熊が来る前に、おやすみ。 おおきなくまがくるまえに、おやすみ。 島本理生 単行本・新潮社 『大きな熊が来る前に、おやすみ。』は、二人暮らしの親密さと不安を、熊という不穏なイメージをまとわせて描く作品です。恋愛や同居の幸福だけでなく、同じ部屋にいることの圧迫感や、相手を完全にはわからない怖さが前面に出ます。柔らかな題名の奥に、関係の危うさを読む小説です。 恋愛家族孤独と疎外
  776. 776 2007 パワー系181 ぱわーけいいちはちいち 墨谷渉 初出・すばる 2007年11月号 身長181センチ、強靭な肉体を持つ女性リカが開いた個人サロンには、身体測定マニア、張り手を浴びたいマゾヒスト、衣類フェチなど、それぞれ奇妙な性癖を抱えた男たちが通ってくる。彼らが求める「本物のエクスタシー」を、湿った官能ではなく即物的でドライな筆致で記録していく。身体とマゾヒズムという題材を真っ向か… 身体孤独と疎外 第31回 すばる文学賞
  777. 777 2007 臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ ろうたしアナベル・リイ そうけだちつみまかりつ 大江健三郎 単行本・新潮社 『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』は、文学作品や映画的想像力を下敷きに、老い、成熟、欲望を晩年の大江健三郎が再構成する作品です。語りは引用や記憶を重ねながら、ひとつの恋愛譚に収まらないメタフィクション的な広がりを持ちます。文学を読み直すこと自体が、過去の自己を組み替える行為として描かれま… 芸術と表現老い記憶
  778. 778 2007 最後の命 さいごのいのち 中村文則 単行本・講談社 『最後の命』は、少年時代の傷と再会、罪の記憶をめぐって、人が最後に何を拠りどころに生きるのかを問う作品です。中村文則らしい暗い心理描写が、暴力や孤独を抽象化せず、身体に残る感覚として描きます。過去に囚われた人物が他者との関係を回復できるのかが、緊張を生みます。 暴力記憶死と喪失
  779. 779 2007 建てて、いい? たてていい 中島たい子 単行本・講談社 『建てて、いい?』は、家を建てるという具体的な行為を通して、生活、結婚、将来への迷いを描く作品です。中島たい子らしい軽い語り口で、住まいを選ぶことが自分の生き方を選ぶことに変わっていきます。日常的な題材から、家族や関係の設計図を考えさせる小説です。 夫婦家族労働
  780. 780 2007 たとえば、世界が無数にあるとして たとえばせかいがむすうにあるとして 生田紗代 単行本・扶桑社 『たとえば、世界が無数にあるとして』は、別の可能性としての世界を想像しながら、自分の選択や関係を見つめる作品です。現実の生活に、もしも別の自分がいたらという寓話的な問いが差し込まれます。恋愛や孤独を、ひとつの世界だけでは説明しきれない揺れとして読むことができます。 アイデンティティ恋愛孤独と疎外
  781. 781 2007 図書準備室 としょじゅんびしつ 田中慎弥 単行本・新潮社 『図書準備室』は、高校卒業後にひきこもり続ける男の独白を中心に、閉じた場所と停滞する時間を描く第一作品集です。図書準備室という学校の余白のような場所が、社会へ出られない人物の内面と重なります。田中慎弥の硬質な語りが、青春の後に残った孤独を乾いた感触で示します。 孤独と疎外青春労働
  782. 782 2007 うつつ・うつら うつつうつら 赤染晶子 単行本・文藝春秋 『うつつ・うつら』は、現実とうつつの境目を揺らしながら、人物の記憶や自己像の不確かさを描く作品集です。赤染晶子の作品らしく、日常の言葉や振る舞いが少しずつ奇妙なものへ変わっていきます。軽いユーモアと不穏さが同居する語りが読みどころです。 記憶アイデンティティ孤独と疎外
  783. 783 2007 ワンちゃん わんちゃん 楊逸 初出・文學界 2007年12月号 日本に渡って暮らす中国人女性「ワンちゃん」は、中国の女性たちと日本の男たちを引き合わせる見合いツアーの世話役を務めている。国境をまたぐ結婚の斡旋という生々しい現場を通して、経済格差のなかを生きる女たちのたくましさと哀感を、来日20年の作者がよどみのない日本語で描いた。日本語を母語としない書き手が日本… 移民と越境ジェンダー貧困 第105回 文學界新人賞
  784. 784 2007 わたくし率 イン 歯ー、または世界 わたくしりつ イン はー、またはせかい 川上未映子 単行本・講談社 『わたくし率 イン 歯ー、または世界』は、「わたし」は奥歯にあると考える女性の独白を、大阪弁のリズムで疾走させるデビュー作です。身体の一部に自己を置く発想が、アイデンティティと言葉の関係を奇妙に拡張します。文体の勢いそのものが主題になっている、川上未映子初期の重要作として読めます。 身体言葉と言語アイデンティティ
  785. 785 2007 夢を与える ゆめをあたえる 綿矢りさ 単行本・河出書房新社 『夢を与える』は、子役からCMタレントとして成長する少女・夕子の栄光と転落を描く長編です。芸能の世界が、家族、欲望、消費される身体を映す場所として機能します。若さや人気が商品化される過程を、綿矢りさらしい鋭い観察で追う作品です。 芸術と表現同調圧力家族
  786. 786 2007 ピストルズ ぴすとるず 阿部和重 初出・「群像」2007年1月号〜2009年11月号連載(初出年2007年、単行本2010年8月・講談社) 山形県の架空の町「神町」を舞台に繰り広げられる、阿部和重の「神町サーガ」第二部。雑誌連載は2007〜2009年、単行本刊行は2010年。 yearは連載開始年を採用。 第46回 谷崎賞
  787. 787 2006 暗渠の宿 あんきょのやど 西村賢太 単行本・新潮社 『暗渠の宿』は、粗暴で不器用な私小説的主人公・北町貫多の同棲生活と生活感情を描く作品集です。貧困、労働、性的な執着が、露悪的な自己観察と乾いたユーモアのなかで語られます。暗渠という見えない水路の比喩のように、日常の底を流れる屈辱と欲望が読みどころになります。 労働恋愛貧困 第29回 野間新人賞
  788. 788 2006 オートフィクション オートフィクション 金原ひとみ 単行本・集英社 『オートフィクション』は、作家リンの現在から過去へさかのぼる構成で、愛、嫉妬、自己像の形成をたどる長編です。自分を書くことと自分を作ることが重なり、タイトル通り「私小説」と「作り物」の境界が揺れます。時間を逆行する構成が、感情の根を探る読み方を促します。 アイデンティティ恋愛
  789. 789 2006 どうで死ぬ身の一踊り どうでしぬみのひとおどり 西村賢太 単行本・講談社 『どうで死ぬ身の一踊り』は、大正期の私小説家・藤澤清造の「歿後弟子」を自任する男をめぐる、西村賢太初期の作品集です。文学への執着、貧しい生活、対人関係の不器用さが、露悪的でありながら妙に律儀な語りで押し出されます。私小説の系譜を現代に引き寄せる作品として読めます。 芸術と表現労働貧困
  790. 790 2006 煙幕 えんまく 深津望 初出・群像 2006年6月号 14歳の「わたし」は、細胞分裂を繰り返しながら成長し、「14年戦争を生き抜いてきた」という感慨を抱いて生きている。理科教師の川端、クラスメイトの衣川、母を捨てた川端と名乗る男、プロデューサー——複数の登場人物が重なり合い、誰が誰なのか分からないまま視点が次々と入れ替わる。読者を文字どおり煙に巻く実験… アイデンティティ身体青春
  791. 791 2006 エスケイプ/アブセント えすけいぷ/あぶせんと 絲山秋子 単行本・新潮社 『エスケイプ/アブセント』は、逃避と不在という二つの言葉を軸に、関係のなかで空白を抱える人物を描く作品です。絲山秋子らしい簡潔な文体が、説明しすぎないまま感情の距離を保ちます。逃げること、いないこと、忘れられないことが重なり合う静かな読後感があります。 孤独と疎外記憶恋愛
  792. 792 2006 風化する女 ふうかするおんな 木村紅美 初出・文學界 2006年6月号 突然死んだ会社の先輩れい子には、職場で見せていたのとは別の顔があった。「私」はその謎をたどって東京から地方へと旅をし、死んだ女の生の痕跡に自分を重ねていく。日々がたえず「風化」していく都会の生活感覚を背景に、死者をなぞることでしか確かめられない自分の輪郭を、抑制された筆致で描いたデビュー作。 死と喪失孤独と疎外労働 第102回 文學界新人賞
  793. 793 2006 不思議の国のペニス ふしぎのくにのペニス 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『不思議の国のペニス』は、性欲に振り回される男子高校生の日常を、露骨さと滑稽さを交えて描く作品です。青春小説の枠組みを使いながら、身体の変化や欲望を制御できない不安を前面に出しています。題名の挑発性に対して、語りは若い自意識のぎこちなさを追うところに読みどころがあります。 青春身体
  794. 794 2006 銀色の翼 ぎんいろのつばさ 佐川光晴 単行本・文藝春秋 『銀色の翼』は、生活の現場にいる人々の視線から、家族、労働、社会的な孤立を描く佐川光晴の小説です。派手な事件よりも、日々の選択や関係のほころびを通して人物を立ち上げるタイプの作品として位置づけられます。現実に踏みとどまる語りが、傷や希望を過度に美化しない点が読みどころです。 家族労働孤独と疎外
  795. 795 2006 ヘンリエッタ へんりえった 中山咲 初出・文藝 2006年冬号 みーさん、あきえさん、そして「わたし」。女3人は「ヘンリエッタ」に守られながら、ちょっと奇妙な共同生活を送っている。血縁とも友情ともつかない女たちの暮らしのディテールを、幼さの残るまっすぐな言葉でつづり、閉じた生活圏のやわらかさと危うさを同時に感じさせる。高校在学中の17歳が書いたデビュー作として注… 家族孤独と疎外青春 第43回 文藝賞
  796. 796 2006 月とアルマジロ つきとあるまじろ 樋口直哉 単行本・講談社 『月とアルマジロ』は、現実的な日常に奇妙なイメージを差し込み、若い人物の孤独や自己意識を照らす作品です。月とアルマジロという取り合わせが示すように、遠いものと身近なものの距離感が作品の手ざわりを作っています。簡潔な語りの奥に、寓話的なずれを読む楽しさがあります。 青春孤独と疎外アイデンティティ
  797. 797 2006 生きてるだけで、愛。 いきてるだけで、あい。 本谷有希子 単行本・新潮社 『生きてるだけで、愛。』は、鬱と過眠に苦しむ寧子と、同棲相手・津奈木の関係を描く恋愛小説です。感情の爆発と生活の停滞が同時に描かれ、病や孤独が恋愛のなかでどう噴き出すかを見せます。荒さを残した一人称的な距離感が、登場人物の息苦しさを直接伝えます。 恋愛孤独と疎外
  798. 798 2006 イルカ イルカ 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『イルカ』は、よしもとばななの小説らしく、親密な関係と心身の変化をやわらかな語りで扱う作品です。題名が示す水辺のイメージは、閉じた日常から別の感覚へ移るための入口として働きます。喪失や不安を強く断定せず、ゆるやかな回復の気配を読む作品として位置づけられます。 恋愛家族身体
  799. 799 2006 いやしい鳥 いやしいとり 藤野可織 初出・文學界 2006年12月号 飲み会で初めて会った学生を家に連れ帰るはめになった非常勤の大学講師。その夜を発端に、男が鳥へと変身していく惨劇が起こる。講師の視点と隣に住む専業主婦の視点を交互に置き、時系列を少しずつずらす構成で、日常に走る裂け目をグロテスクな滑稽さとともに見せる。藤野の出発点となった変身譚で、奇想と冷静な観察眼の… 身体孤独と疎外暴力 第103回 文學界新人賞
  800. 800 2006 公園 こうえん 荻世いをら 初出・文藝 2006年冬号 世界の縮図のような公園から始まり、下田へ、ニューヨークへ、そしてグラウンド・ゼロへ。大学生の「ぼく」と友人オノサは、これといった目的もなく移動を続ける。「で、」という接続詞による突飛な場面転換を重ね、「なんとなく」の気分が全編に漂う独特の語りで、9.11後の世界をふわふわと浮遊する若者の感覚を写し取… 青春孤独と疎外移民と越境 第43回 文藝賞
  801. 801 2006 幻をなぐる まぼろしをなぐる 瀬戸良枝 初出・すばる 2006年11月号 失恋の痛手を抱えた女性が、目の前にいない相手=「幻」をシャドーボクシングのように殴るという身体的な行為を通して、行き場のない感情と折り合いをつけようとする。応募時の題「新しい歌」を改題して受賞した作品で、感情を言葉ではなく身体の運動で処理しようとするヒロインの姿が印象を残す。2007年1月に集英社か… 恋愛身体孤独と疎外 第30回 すばる文学賞
  802. 802 2006 愛の島 あいのしま 望月あんね 単行本・講談社 『愛の島』は、島という閉じた場所を背景に、愛や孤独をめぐる関係の揺れを描く作品として整理できます。遠く離れた場所である島は、人物の逃避先であると同時に、自分の感情と向き合う場にもなります。書誌情報以外の詳細資料はまだ少ないため、今後の批評・紹介資料で精度を上げたい作品です。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  803. 803 2006 森のはずれで もりのはずれで 小野正嗣 単行本・文藝春秋 『森のはずれで』は、共同体の中心ではなく「はずれ」に立つ人物の感覚を、小野正嗣らしい静かな語りで描く作品です。森や周縁の場所は、記憶、土地、言葉の違いを考えるための舞台になります。中心から外れた場所で人がどう他者と出会うかを読む作品として位置づけられます。 移民と越境孤独と疎外記憶
  804. 804 2006 無限のしもべ むげんのしもべ 木下古栗 初出・群像 2006年6月号 早く目覚めすぎた休日の朝、稔がマンションから見下ろすと、駐車場に円卓を持ち込んでティーパーティーに興じる4人の男女がいた。そのなかの美人に目をつけた稔は、パーティーに加わりあわよくば濃密な性愛を、という淫靡な考えに取り憑かれ作戦を練り始める。性的妄想の無意味な暴走を生真面目な文体で押し切る、木下古栗… 身体孤独と疎外 第49回 群像新人賞
  805. 805 2006 沖で待つ おきでまつ 絲山秋子 単行本・文藝春秋 『沖で待つ』は、同期入社の男女の友情と、死後に残された約束をめぐる作品です。恋愛に回収されない親密さを、職場の記憶と喪失の感覚を通して描きます。絲山秋子の簡潔で乾いた語りが、死者との距離を過度に sentimental にせず保つところが読みどころです。 労働死と喪失記憶 第134回 芥川賞
  806. 806 2006 ポータブル・パレード ぽーたぶる・ぱれーど 吉田直美 初出・新潮 2006年11月号 第38回新潮新人賞(小説部門)受賞作。同回の評論部門は受賞作なしだった。日本大学芸術学部出身で当時27歳の吉田直美のデビュー作で、「新潮」2006年11月号に全文掲載された。受賞後に単行本化されることはなく、著者のその後の作品発表の記録も乏しいため、雑誌掲載のみで読まれた「幻の受賞作」に近い存在とな… 孤独と疎外青春一人称 第38回 新潮新人賞
  807. 807 2006 その街の今は そのまちのいまは 柴崎友香 単行本・新潮社 『その街の今は』は、カフェで働く歌ちゃんが古い写真に写る大阪に惹かれ、街の過去と現在を行き来する作品です。写真という媒体が、個人の記憶だけでなく都市の時間をたどる装置になります。柴崎友香らしい歩くような文体で、街を見ることと自分の現在を確かめることが重なります。 記憶芸術と表現青春
  808. 808 2006 そろそろくる そろそろくる 中島たい子 単行本・集英社 『そろそろくる』は、日常のなかで身体や感情の変化を待ち受ける感覚を描く作品として整理できます。中島たい子の小説に特徴的な、身近な生活の違和感をユーモアに変える語りが読みどころです。大きな事件よりも、心身のリズムが崩れる瞬間に焦点が置かれます。 身体恋愛孤独と疎外
  809. 809 2006 浮世でランチ うきよでらんち 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 『浮世でランチ』は、食事や仕事場の場面を通して、現代の若い人物が社会とどう折り合うかを描く作品です。山崎ナオコーラらしい軽い会話と観察が、日常の居心地の悪さを柔らかく浮かび上がらせます。ランチという身近な行為が、関係や労働を見直す入口になっています。 労働孤独と疎外
  810. 810 2006 裏庭の穴 うらにわのあな 田山朔美 初出・文學界 2006年12月号 主婦の朝子は、幼い頃に母親が裏庭に何かを埋めるのを目撃したという記憶を、大人になっても抱え続けている。掘り返されないまま家族の足元に空いた「穴」のような記憶を軸に、平穏に見える家庭の日常の底に沈む鬱屈と、母と娘のあいだのほどけない結び目を描く。受賞作は2009年刊の作品集『霊降ろし』(文藝春秋)に収… 家族母と子記憶 第103回 文學界新人賞
  811. 811 2006 夕子ちゃんの近道 ゆうこちゃんのちかみち 長嶋有 単行本・新潮社 『夕子ちゃんの近道』は、商店街の人々をめぐる連作短篇集として、日常の小さな移動や出会いを描く作品です。大きな事件よりも、店、道、会話の連なりから人物の距離が変わる様子を見せます。長嶋有らしいユーモラスで少しずれた観察が、生活のなかの寂しさを軽く照らします。 労働家族記憶
  812. 812 2006 憂鬱なハスビーン ゆううつなはすびーん 朝比奈あすか 初出・群像 2006年6月号 東大を出て有名企業に就職し、弁護士の夫と結婚して仕事を辞めた29歳の「私」。優しい夫も安定した生活もあるのに、なぜこんなに腹が立つのか。かつて神童と呼ばれた同級生との再会に動揺し、自分はまだ自分に何かを期待しているのかと問い直す。「ハスビーン(has-been=終わった人)」という言葉を軸に、優越感… ジェンダーアイデンティティ労働 第49回 群像新人賞
  813. 813 2006 ぜつぼう ぜつぼう 本谷有希子 単行本・講談社 『ぜつぼう』は、題名の強い感情をそのまま扱いながら、本谷有希子らしい不穏さと滑稽さで日常のずれを描く作品です。人物の思い込みや関係の歪みが、現実を少しずつ奇妙なものに変えていきます。絶望を重苦しいだけでなく、笑いと怖さの境目に置く読み味があります。 孤独と疎外アイデンティティ恋愛
  814. 814 2006 絶対、最強の恋のうた ぜったい、さいきょうのこいのうた 中村航 単行本・小学館 『絶対、最強の恋のうた』は、恋愛の高揚と自意識のまぶしさを正面から扱う中村航の小説です。強い題名とは裏腹に、語りは若い人物の不安や不器用さにも寄り添います。恋を歌や物語として信じたい気持ちと、現実の揺らぎの間を読む作品です。 恋愛青春芸術と表現
  815. 815 2005 100回泣くこと ひゃっかいなくこと 中村航 単行本・小学館 恋人を失った男性が、新たな出会いや日々の出来事を通して、悲しみから少しずつ立ち上がる純愛長篇。題名の強さに対して語り口は穏やかで、泣くことそのものよりも、喪失を抱えながら生活を続ける時間が描かれる。中村航の読者層を広げた、切なさと読みやすさを併せ持つ作品である。 恋愛死と喪失記憶
  816. 816 2005 悪意の手記 あくいのてき 中村文則 単行本・新潮社 悪意や罪の意識を抱えた人物の内面を、手記という形式に近い暗い語りで追う中村文則の初期作品。出来事の派手さよりも、語り手が自分の中の暴力や孤独をどう正当化し、どう崩れていくかが中心になる。後の中村作品に続く、犯罪、自己嫌悪、倫理の揺らぎが濃く表れた一作。 暴力孤独と疎外死と喪失
  817. 817 2005 AMEBIC アミービック 金原ひとみ 単行本・集英社 拒食やアルコールに蝕まれた女性ライターの意識を、断片的で揺らぐ独白として描く長編。身体の輪郭が崩れ、言葉や記憶がアメーバのように変形していく感覚が、タイトルどおり作品の構造にも入り込む。金原ひとみの身体感覚と実験的な語りが強く出た作品である。 身体
  818. 818 2005 BGM びーじーえむ 岡田智彦 単行本・河出書房新社 現役教師として文藝賞を受賞した岡田智彦の、受賞後第一作として発表された作品。題名の「BGM」は、人物の感情を大きな事件で説明するのではなく、日常の背後で鳴り続ける気配として捉える読みを誘う。若い感覚と学校・生活の現場が交差する、2000年代文藝賞周辺の一作である。 青春芸術と表現孤独と疎外
  819. 819 2005 バースト・ゾーン 爆裂地区 ばーすと・ぞーん ばくれつちく 吉村萬壱 単行本・早川書房 吉村萬壱が、暴力と管理の気配を強めた架空的な地区を描く長編。純文学の枠を越えて、SFやディストピア小説に近い想像力で、身体が制度や集団にさらされる状況を押し広げる。『ハリガネムシ』の閉じた暴力とは別方向に、社会全体が不穏化していく読み味がある。 暴力戦争身体
  820. 820 2005 永遠の誓い えいえんのちかい 佐川光晴 単行本・講談社 佐川光晴の2005年刊行作で、約束や誓いが人間関係を支える一方、重荷にもなる局面を描く作品として整理できる。生活者の視点を離れず、家族や恋愛、働くことの中で、言葉だけでは保てない関係を見つめる。佐川作品らしい、過度に装飾しない文体が読みどころになる。 家族恋愛労働
  821. 821 2005 フルタイムライフ フルタイムライフ 柴崎友香 単行本・マガジンハウス 新社会人として働きはじめた春子の日常を、会社の時間、疲れ、同僚との距離感から等身大に描く長編。仕事が劇的な自己実現になるのではなく、生活の大半を占める時間として淡々と積み上がる。柴崎友香らしい心情に寄りすぎない文体で、働きはじめの戸惑いと観察が描かれる。 労働青春孤独と疎外
  822. 822 2005 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ ふぬけども、かなしみのあいをみせろ 本谷有希子 単行本・講談社 両親の事故死をきっかけに、女優を夢見る自己中心的な姉・澄伽が田舎の実家へ戻ってくる。妹、兄夫婦、家族内の記憶と嫉妬が、痛烈な喜劇として噴き出す。本谷有希子の戯曲的な会話と、家族を安全な場所として描かない毒の強さが読みどころである。 家族芸術と表現暴力
  823. 823 2005 グルメな女と優しい男 ぐるめなおんなとやさしいおとこ 望月あんね 初出・群像 2005年6月号 「人を好きになることは極上の料理より美味しい」——食べることに貪欲なりん子は、優しい男・一郎に純粋な恋心を抱くようになり、クリスマスの夜、ふたりは濃密なデートに繰り出す。食欲と恋愛感情というふたつの「おいしさ」を重ね合わせ、欲望に素直な女と受け止める男の関係をコミカルに描く。群像新人文学賞の優秀作と… 恋愛ジェンダー
  824. 824 2005 半島を出よ はんとうをでよ 村上龍 単行本・幻冬舎 北朝鮮の特殊部隊が福岡を占拠するという危機を、政治、軍事、若者たちの暴力性を絡めて描く大部の長編。現実の東アジア情勢を踏まえながら、国家の危機管理と個人の生存感覚を同時に扱う。村上龍らしい社会不安への感度と、エンターテインメント的な速度が結びついた作品である。 戦争暴力テクノロジー
  825. 825 2005 平成マシンガンズ へいせいましんがんず 三並夏 初出・文藝 2005年冬季号 母は家を出て行き、家には横暴な父とその愛人。学校は戦場のようで、教室に居場所はない。逃げ場のない女子中学生の夢に死神が降臨し、マシンガンを手渡す——。現役中学生の書き手が、ローティーンの苛立ちと無力感を、撃ちまくるような言葉のスピードで叩きつけた。マシンガンという暴力的なイメージは実際の銃撃ではなく… 家族同調圧力暴力 第42回 文藝賞
  826. 826 2005 一千一秒の日々 いっせんいちびょうのひび 島本理生 単行本・マガジンハウス 恋愛や日常の短い時間を、きらめくような細部として集めた島本理生の作品集。大きな物語へ急がず、一瞬の表情や会話のずれが、人物の孤独や期待を浮かび上がらせる。若い恋の瑞々しさと、時間が過ぎていくことへの切なさが題名に重なる。 恋愛青春記憶
  827. 827 2005 家族芝居 かぞくしばい 佐川光晴 単行本・文藝春秋 家族を、血縁だけでなく、互いに役を演じ合う小さな舞台として捉える佐川光晴の作品。親密であるはずの関係の中にある見栄、遠慮、傷つけ合いを、生活の目線から描く。タイトルどおり、家族の会話や振る舞いが芝居めいて見える瞬間が読みどころになる。 家族父と子母と子
  828. 828 2005 まぼろし まぼろし 生田紗代 単行本・新潮社 母娘の確執を描く表題作と、実家に戻った娘の日常を描く「十八階ビジョン」を収める作品集。見えているはずの家族や故郷が、どこか「まぼろし」のように掴めなくなる感覚を、若い女性の視点から描く。日常の薄い不安と、過去から離れきれない心理が静かに重なる。 母と子家族記憶
  829. 829 2005 窓の灯 まどのひ 青山七恵 初出・文藝 2005年冬季号 大学を辞めた「私」は、時代に取り残されたような喫茶店の二階に住み込み、店を営む奔放な女主人のもとで働いている。日課は、向かいの部屋の窓の中の生活を覗き見ること。やがて視線は夜の街の散歩で垣間見える家々の窓へと広がっていく。覗くことのうしろめたさとゆるやかな官能を、抑制の効いた静かな文体でつづり、他人… 孤独と疎外青春 第42回 文藝賞
  830. 830 2005 マルコの夢 まるこのゆめ 栗田有起 単行本・集英社 栗田有起が、夢や空想の気配を日常のずれの中に置いた作品。人物たちは現実から大きく逃げ出すのではなく、少しだけ別の見方を差し込むことで、自分の居場所を探っていく。軽やかな題名の裏に、他人とわかり合えない孤独がにじむ。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  831. 831 2005 ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ 高橋源一郎 単行本・集英社 宮沢賢治の作品やイメージを、高橋源一郎流に再配置するようなタイトルをもつ作品集。古典的な作家をそのまま讃えるのではなく、引用、変奏、遊びを通じて、文学を現在の言葉で鳴らし直す。メタフィクションとリミックス感覚が結びついた、高橋作品らしい一冊である。 芸術と表現言葉と言語記憶
  832. 832 2005 みずうみ みずうみ 吉本ばなな 単行本・フォイル 母を亡くした女性と、過去に深い傷を抱えた青年の恋を描く長編。湖の静けさは、癒やしの場所であると同時に、人物が抱える記憶の暗さを映す場所にもなる。吉本ばななの柔らかな語りが、トラウマと恋愛を過剰に説明しすぎず、余韻として残す。 恋愛死と喪失記憶
  833. 833 2005 泣かない女はいない なかないおんなはいない 長嶋有 単行本・河出書房新社 泣かない、あるいは泣けない女性の姿を、恋愛や仕事の日常の中から描く長嶋有の中篇。感情を大きく説明せず、会話や行動の端に表れる違和感で、人物の孤独を浮かび上がらせる。ユーモラスな題名の裏に、強がりと弱さが同時にある作品である。 恋愛労働孤独と疎外
  834. 834 2005 ナラタージュ なら​たーじゅ 島本理生 単行本・角川書店 かつての恩師への思いを断ち切れない女子大生が、過去の記憶と現在の恋の間で揺れる長篇。恋愛の美しさよりも、戻れない時間に縛られる痛みが中心に置かれている。語りは静かだが、人物の未練や罪悪感が長く尾を引き、島本理生の代表的な恋愛小説として読まれてきた。 恋愛記憶青春
  835. 835 2005 ニート にーと 絲山秋子 単行本・角川書店 「ニート」という言葉が社会的に広まった時期に、働くことから外れた人物の時間を描く絲山秋子の作品。無職であることを単純な問題や説教にせず、生活の細部、会話、周囲とのずれとして描く。乾いたユーモアの中に、労働規範から外れた人間の居場所のなさが見える。 労働孤独と疎外家族
  836. 836 2005 踊るナマズ おどるなまず 高瀬ちひろ 初出・すばる 2005年11月号 ナマズにまつわる民話や伝説が数多く残る田多間町。弥生は中学の同級生・一真と民話のレポートを作るうち、「ナマズの番人」と呼ばれる元図書館司書・水口さんから古い伝説を聞き、ナマズの幻を見たという叔母・小夜子の記憶にも触れていく。やがて母となった弥生が胎児に語りかけるという入れ子の構成で、土地の記憶と性… 記憶母と子 第29回 すばる文学賞
  837. 837 2005 オテルモル おてるもる 栗田有起 単行本・集英社 『オテルモル』は、奇妙なホテルをめぐる幻想的な設定を手がかりに、旅先で宙づりになる感覚や、日常から少し外れた場所にいる人の孤独を描く作品です。栗田有起らしい軽やかな導入の奥に、記憶や帰属の揺らぎが潜む読み味があります。舞台の閉じた空間が、登場人物の不安と期待を増幅する点が読みどころです。 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  838. 838 2005 さりぎわの歩き方 さりぎわのあるきかた 中山智幸 初出・文學界 2005年12月号 29歳の「僕」は、青春の終わりを記念するかのように一泊の合コンに参加する。怪しげな新事業の話、旧友の転落と自殺——若さの賞味期限が切れかかった男たちの周りで起こる出来事を、「こういうのがお望みのドラマなんだろう?」と斜に構えた語りで突き放しながら、それでも去り際の身の処し方を探っていく。まっとうな成… 青春孤独と疎外死と喪失 第101回 文學界新人賞
  839. 839 2005 さよなら アメリカ さよなら あめりか 樋口直哉 初出・群像 2005年6月号 「ぼく」は頭から袋を被って生活している。袋の後ろには「SAYONARAアメリカ」のロゴ。噂に聞いた同じ袋族の少女に会うために街をさまよい、突然現れた異母弟を名乗る男との奇妙な共同生活が始まる。袋で社会から自分を隔てながら、袋の仲間との出会いだけは求めてしまう——その矛盾を、深刻ぶらないオフビートなユ… 孤独と疎外アイデンティティ恋愛 第48回 群像新人賞
  840. 840 2005 さようなら、私の本よ! さようならわたしのほんよ 大江健三郎 単行本・講談社 『さようなら、私の本よ!』は、老作家・長江古義人と建築家・塙吾良を軸に、文学、暴力、記憶の継承を問い直す長編です。作中人物と作者像が重なり合うメタフィクション的な構えのなかで、晩年の作家が自作と時代にどう別れを告げるかが描かれます。会話と回想を積み重ねる長い息の文体が、個人史と政治的記憶を結びつけて… 芸術と表現記憶暴力
  841. 841 2005 性交と恋愛にまつわるいくつかの物語 せいこうとれんあいにまつわるいくつかのものがたり 高橋源一郎 単行本・朝日新聞社 『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』は、性と恋愛をめぐる語りを、物語そのものへの問いと重ねて扱う作品です。高橋源一郎の小説らしく、露骨な題材を単純な告白にせず、言葉が欲望をどう作り替えるかを意識させます。恋愛小説の形式をずらしながら、身体、関係、語りの自由度を探る読みどころがあります。 恋愛言葉と言語
  842. 842 2005 スモールトーク すもーるとーく 絲山秋子 単行本・二玄社 『スモールトーク』は、六台の車をめぐる連作として、移動、修復、喪失の感覚を描く作品です。車という具体物が、登場人物の距離感や回復の速度を測る装置になっています。絲山秋子らしい抑制された会話と乾いた文体が、傷ついた人々のささやかな再出発を浮かび上がらせます。 記憶死と喪失恋愛
  843. 843 2005 逃亡くそたわけ とうぼうくそたわけ 絲山秋子 単行本・中央公論新社 『逃亡くそたわけ』は、精神病院を抜け出した二人の若者が、博多から九州を北へ進む逃避行を描く小説です。方言を含む勢いのある語りが、病や孤立を重く固定せず、滑稽さと切実さの両方で走らせます。逃げることが同時に自分の輪郭を確かめることになる、青春ロードノベルとして読めます。 青春孤独と疎外
  844. 844 2005 東京奇譚集 とうきょうきたんしゅう 村上春樹 単行本・新潮社 『東京奇譚集』は、「偶然の旅人」などを収め、都市の日常にふと入り込む不可思議な出来事を描く短編集です。村上春樹の抑制された語りが、偶然、喪失、記憶のずれを静かに増幅します。東京という現実的な地名を持ちながら、物語は現実の向こう側に開く寓話性を帯びています。 記憶死と喪失孤独と疎外
  845. 845 2005 土の中の子供 つちのなかのこども 中村文則 単行本・新潮社 『土の中の子供』は、幼少期の虐待の記憶を抱えた青年が、暴力と性のただなかで自分の生を測り直す作品です。語りは身体感覚に近く、外から説明するよりも、壊れた自己認識の内側から世界を見せます。暗い題材を扱いながら、傷の再演とそこからの微かな抵抗を描く点に緊張があります。 暴力身体孤独と疎外 第133回 芥川賞
  846. 846 2005 冷たい水の羊 つめたいみずのひつじ 田中慎弥 初出・新潮 2005年11月号 級友たちの生け贄のようにいじめの標的にされた中学生の少年。彼は「いじめられたと感じたらそれがいじめ」という定義を逆手に取り、「自分はいじめられていない」という独自の論理に立てこもって、陰惨な仕打ちを受け続ける。いじめを告発した同級生の少女・水原里子との心中の計画が、物語に暗い水脈のように流れる。羊の… 暴力同調圧力孤独と疎外 第37回 新潮新人賞
  847. 847 2004 アフターダーク あふたーだーく 村上春樹 単行本・講談社 深夜0時過ぎから夜明けまでの東京を舞台に、ファミリーレストラン、ホテル、オフィス、眠り続ける部屋がゆるく接続される。視点はカメラのように人物の間を移動し、姉妹、孤独な青年、暴力の痕跡を、夜の都市の断片として映し出す。長大な物語ではなく、時間を区切った構成と映像的な語りで、村上春樹作品の都市感覚を凝縮… 孤独と疎外暴力身体
  848. 848 2004 青空感傷ツアー あおぞらかんしょうツアー 柴崎友香 単行本・河出書房新社 身勝手で魅力的な親友・音生に振り回されながら、「私」が各地を巡るロードノベル。旅は爽快な逃避であると同時に、親友への憧れや苛立ち、自分の輪郭の曖昧さを映し出す時間でもある。柴崎友香らしい移動の感覚と会話のリズムで、若い女性同士の距離を軽やかに描く。 青春恋愛孤独と疎外
  849. 849 2004 アッシュベイビー アッシュベイビー 金原ひとみ 単行本・集英社 『蛇にピアス』後の第二作で、同居人の男と赤ん坊をめぐる歪んだ関係に巻き込まれる女性を描く。身体、依存、母性への違和感が、金原ひとみらしい硬い感覚の文体で押し出される。家庭的な題材を扱いながら、安心できる家族像を反転させる不穏な作品である。 家族身体
  850. 850 2004 袋小路の男 ふくろこうじのおとこ 絲山秋子 単行本・講談社 何も与えない男に、三年間片思いし続ける女の静かな恋愛小説。恋が進展しないこと、相手が応えないことを、単純な不幸ではなく、関係が袋小路のまま続いていく時間として描く。大きな事件を抑えた文体の中に、絲山秋子らしい乾いた痛みと可笑しさが残る。 恋愛孤独と疎外記憶 第30回 川端賞
  851. 851 2004 ぐるぐるまわるすべり台 ぐるぐるまわるすべりだい 中村航 単行本・文藝春秋 失意の青年が、バンドや仲間との関係の中で少しずつ再生へ向かう連作短篇集。若者の閉塞感を、深刻さだけでなく、音楽や会話の軽さ、少しずつ回り続ける遊具のような時間感覚で描く。中村航の青春小説としての明るさと、何者にもなれない痛みが並走する。 青春芸術と表現孤独と疎外 第26回 野間新人賞
  852. 852 2004 灰色の瞳 はいいろのひとみ 佐川光晴 単行本・講談社 佐川光晴の2004年刊行作で、NDLには第一部・第二部として雑誌掲載記事が確認できる。人間関係や家族の記憶を、明るく割り切れない「灰色」の領域として見つめる作品として整理できる。佐川作品に通底する、生活の手触りと関係の痛みを追う読みに向いている。 家族記憶孤独と疎外
  853. 853 2004 初子さん はつこさん 赤染晶子 初出・文學界 2004年12月号 あんパンとクリームパンしか売らないパン屋の二階で、ひたすらミシンを踏む洋裁職人の初子さん。一枚の布が誰かの身体を待つ服になることに魅せられて職人になったものの、夢を叶えた先に広がるのは単調な日々だった。京都の田舎町のよどんだ空気と、そこで生きる女性の手仕事の時間を、とぼけたユーモアと正確な観察で描く… 労働孤独と疎外芸術と表現 第99回 文學界新人賞
  854. 854 2004 High and dry(はつ恋) ハイ・アンド・ドライ(はつこい) 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 14歳の少女・夕子の、年上の男性への初恋を描く長編。年齢差のある関係を、危うさよりも、少女の感覚が外界へ開かれていく時間として追っていく。吉本ばななの作品らしく、恋の痛みと透明な夢見心地が同じ調子で語られる。 恋愛青春芸術と表現
  855. 855 2004 人のセックスを笑うな ひとのせっくすをわらうな 山崎ナオコーラ 初出・文藝 2004年冬季号 美術専門学校に通う19歳の「オレ」は、20歳年上の講師・ユリと恋に落ちる。年の差も、ユリに夫がいることも、ふたりの関係のゆるさを変えはしないが、恋はやがて静かに終わっていく。性愛を声高に語らず、軽くやわらかい口語の文体で、若さの側から見た年上の女性のかわいさと残酷さをすくいとる。タイトルの挑発性と中… 恋愛青春 第41回 文藝賞
  856. 856 2004 介護入門 かいごにゅうもん モブ・ノリオ 初出・文學界 2004年6月号 寝たきりの祖母を在宅で介護する無職の「俺」が、深夜のおむつ替えや褥瘡のケアといった介護の現実を、ヒップホップのライムを思わせる呼びかけと畳みかける長文で語る。「ヨォ、と俺は呼びかける」という挑発的な語りは、介護を美談にも悲劇にも回収せず、祖母への愛と世間への呪詛を同じ熱量で吐き出していく。介護文学に… ケアと介護家族老い 第98回 文學界新人賞
  857. 857 2004 漢方小説 かんぽうしょうせつ 中島たい子 初出・すばる 2004年11月号 31歳独身の脚本家・みのりは、元恋人の結婚を知った夜に突然の体調不良に襲われる。西洋医学の検査では「異常なし」とされ、たどり着いたのは漢方医院だった。「気・血・水」という耳慣れない物差しで自分の身体を眺め直すうちに、仕事や恋愛で強張っていた心もゆっくりほぐれていく。病気未満の不調という現代的な主題を… 身体恋愛 第28回 すばる文学賞
  858. 858 2004 狐寝入夢虜 きつねねいりゆめのとりこ 十文字実香 初出・群像 2004年6月号 三週間前に職を失った上岡鳥子は、空腹を抱えて神社へ散歩に出かけ、帰り道に迷い、年下の古本屋の倅と茶飲み話をして花札に興じる。働かないこと自体は気にしないが、仕事に存在理由を求める世間様の考え方には反感を覚える——そんな鳥子の「高潔なる怠惰」を、現代の話なのにわざと落語のような古風な語りで聞かせる。語… 労働孤独と疎外ジェンダー 第47回 群像新人賞
  859. 859 2004 野ブタ。をプロデュース のぶた。をぷろでゅーす 白岩玄 初出・文藝 2004年冬季号 クラスの人気者を巧みに「演じる」高校生・桐谷修二は、いじめの標的になっている転校生・小谷信太=野ブタを人気者にプロデュースする計画を始める。教室という市場でキャラクターを売り出すゲームは成功していくが、演じることでしか居場所を作れない修二自身の空虚が次第に露わになる。スクールカーストと自己演出の時代… 青春同調圧力アイデンティティ 第41回 文藝賞
  860. 860 2004 お縫い子テルミー おぬいこてるみー 栗田有起 単行本・集英社 夜間の縫製工場で働く女性たちをめぐる連作短篇集。針仕事、夜勤、同僚との距離が、働くことの孤独と可笑しさを浮かび上がらせる。栗田有起の柔らかいユーモアが、職場小説を重くなりすぎない読後感へ導いている。 労働ジェンダー孤独と疎外
  861. 861 2004 パラレル ぱられる 長嶋有 単行本・文藝春秋 長嶋有の2004年刊行作で、複数の関係や時間が「パラレル」に並んでいく感覚をもつ長編。日常の会話やちょっとしたすれ違いを淡々と積み重ね、劇的な和解よりも、近くにいるのに重なりきらない人間関係を描く。脱力したユーモアの中に、現代的な孤独がにじむ。 夫婦恋愛孤独と疎外
  862. 862 2004 サージウスの死神 さーじうすのしにがみ 佐藤憲胤 初出・群像 2004年6月号 徹夜明けの帰り道、ビルから飛び降りてきた男と目が合い、その死を目撃した主人公は、同僚に誘われた地下カジノ「freeze」でルーレットにのめり込む。預金を失い借金を重ねるうち、「頭の中に数字を飼っている」という感覚が芽生え、精神の破滅と引き換えに当たりの数字が見えるようになっていく。賭博と死の観念を硬… 死と喪失孤独と疎外身体
  863. 863 2004 遮光 しゃこう 中村文則 単行本・新潮社 死んだ恋人の「残骸」を持ち歩き続ける青年が、嘘と妄想の境目を失っていく。喪失を受け止めるのではなく、異様な執着として保存しようとする心理が、硬く暗い文体で描かれる。中村文則の初期作品らしい、罪悪感、孤独、身体への嫌悪が凝縮された一作。 死と喪失恋愛記憶 第26回 野間新人賞
  864. 864 2004 真空が流れる しんくうがながれる 佐藤弘 初出・新潮 2004年11月号 図書印刷株式会社に勤める23歳の会社員だった佐藤弘のデビュー作で、第36回新潮新人賞(小説部門)受賞作。同年の評論部門は該当作なしで、本作が単独の受賞となった。単行本には収録されておらず、初出の『新潮』2004年11月号でしか読めないため、今日では参照の難しい「幻の受賞作」となっている。著者はその後… 労働孤独と疎外簡潔な文体 第36回 新潮新人賞
  865. 865 2004 白の咆哮 しろのほうこう 朝倉祐弥 初出・すばる 2004年11月号 経済の衰退が止まらない近未来の日本で、「土踊り」と呼ばれる踊りが国全体を覆い尽くしていく。荒唐無稽ともいえる世界の変容を、改行の少ない硬く生真面目な文体で延々と語り続けるという、設定と語り口の落差そのものが読みどころの異色作。寓話的な世界設定によって、不況下の日本社会に広がる集団的な熱狂と閉塞を照ら… 同調圧力貧困アイデンティティ 第28回 すばる文学賞
  866. 866 2004 ショートカット ショートカット 柴崎友香 単行本・河出書房新社 柴崎友香が、都市の移動や人との距離を軽いタッチで描いた2004年刊行作。道を短く抜ける「ショートカット」の感覚は、場所だけでなく、関係や記憶へ近道を探す若い人物たちの姿にも重なる。淡い会話と細部の観察によって、日常の中にある変化の瞬間をすくう。 青春恋愛孤独と疎外
  867. 867 2004 タイムカプセル たいむかぷせる 生田紗代 単行本・河出書房新社 過去にしまいこんだ感情や記憶を、現在の自分が開け直すようにたどる作品。若い人物の時間感覚を、懐かしさだけでなく、未来へ残してしまったものへの不安として描く。生田紗代のデビュー後の文脈では、青春の明るさと居場所のなさを同時に読む入口になる。 記憶青春家族
  868. 868 2004 生まれる森 うまれるもり 島本理生 単行本・講談社 恋愛や喪失のあとに残る空白を、森というイメージに重ねて描く島本理生の初期長篇。人物の内面は激しく揺れながらも、語り口は抑制され、痛みが静かな風景の中に置かれる。青春小説の瑞々しさと、取り返しのつかない記憶を抱える重さが同居している。 恋愛死と喪失記憶
  869. 869 2004 海のふた うみのふた 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 故郷の海辺の町でかき氷屋を始めた女性のひと夏を描く長編。海、店、訪れる人々とのやりとりを通じて、傷ついた心が生活の手触りを取り戻していく。吉本ばなならしいやさしい幻想味が、地方の小さな商いと再生の感覚に結びついている。 労働家族記憶
  870. 870 2004 海の仙人 うみのせんにん 絲山秋子 単行本・新潮社 海辺で暮らす人物の孤独に、現実から少しずれた存在や関係が入り込んでくる絲山秋子の長篇。日常的な会話の軽さと、死や喪失の気配が同じ平面に置かれ、海辺の時間が寓話のように広がる。恋愛小説でも幻想小説でもあるが、どちらにも収まりきらない余白が読みどころになる。 孤独と疎外恋愛死と喪失
  871. 871 2003 ダンボールボートで海岸 だんぼーるぼーとでかいがん 千頭ひなた 初出・すばる 2003年11月号 自分を「ボク」と呼ぶ女性アオイ(あだ名はドラ)は、母が借金を残して突然失踪したため大学を休学する。女装が趣味のクロ、自称アーティストのハナら、周縁を漂う人々と関わりながら、ドラはダンボール製のボートで海=外の世界へ漕ぎ出すことを夢想する。濡れればすぐ沈む紙のボートというイメージに、前にも後ろにも進め… 母と子貧困青春 第27回 すばる文学賞
  872. 872 2003 デッドエンドの思い出 デッドエンドのおもいで 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 失恋や裏切りからの小さな回復を描く五篇の短篇集。傷ついた人物が、行き止まりに見える場所から少しずつ生活を取り戻す過程を、吉本ばなならしいやわらかい語りで描く。大きな救済ではなく、日常の中にある小さな光を読む作品集である。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  873. 873 2003 江利子と絶対 本谷有希子文学大全集 えりことぜったい ほんたにゆきこぶんがくだいぜんしゅう 本谷有希子 単行本・講談社 劇作家として活動していた本谷有希子が、小説家として最初にまとめた短篇集。表題の「江利子と絶対」を含む諸篇では、過剰な自意識、対人関係のずれ、舞台劇のような会話の圧が前面に出る。後年の本谷作品に続く、痛さと可笑しさを同時に押し出す語りの出発点として読める。 アイデンティティ芸術と表現孤独と疎外
  874. 874 2003 ハゴロモ ハゴロモ 吉本ばなな 単行本・新潮社 恋愛や喪失で傷ついた人物が、都会から少し距離を置いた土地で静かに時間を取り戻していく吉本ばななの長篇。水辺や町の気配、記憶の手触りを重ねながら、壊れた心がすぐに治るのではなく、生活のリズムの中でゆっくりほどけていく過程を描く。幻想味を帯びたやわらかな文体が、再生の物語を日常の側に引き寄せている。 恋愛死と喪失記憶
  875. 875 2003 ハンゴンタン はんごんたん 由真直人 初出・文學界 2003年12月号 タイトルの「ハンゴンタン(反魂丹)」は、死者の魂を呼び戻すという伝承を持つ富山の伝統的な丸薬の名。哲学科出身の27歳の新人が、第95回・第96回と受賞作が1作以下の状態が続いた文學界新人賞の2003年下期に単独受賞した。選考委員は浅田彰・奥泉光・島田雅彦・辻原登・山田詠美。単行本化されておらず、内容… 死と喪失記憶一人称 第97回 文學界新人賞
  876. 876 2003 ハリガネムシ はりがねむし 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 中学教師の男が、教え子の母親との関係をきっかけに、性と暴力の泥沼へ落ちていく芥川賞受賞作。語りは冷たく湿っており、主人公の欲望や嫌悪が、昆虫的・寄生的なイメージと重なって増殖していく。家族や学校という制度の薄い膜の下にある衝動を、読後感の悪さごと突きつける作品である。 暴力身体 第129回 芥川賞
  877. 877 2003 蛇にピアス へびにピアス 金原ひとみ 初出・すばる 2003年11月号 19歳のルイは、蛇のように舌先が割れた「スプリット・タン」を持ち、全身にピアスと刺青を施した青年アマと出会い、同棲を始める。自らも舌にピアスを開け、拡張し、背中に麒麟と龍の刺青を彫ろうと、アマの紹介で知り合ったサディストの彫り師シバとも危険な関係を結んでいく。痛みによってしか生の実感をつかめない若者… 身体暴力 第130回 芥川賞
  878. 878 2003 イッツ・オンリー・トーク いっつ・おんりー・とーく 絲山秋子 初出・文學界 2003年6月号 躁鬱病を抱えた30代半ばの独身女性「私」は、東京の場末めいた蒲田の町に引っ越してくる。EDの痴漢、鬱病のヤクザ、出世コースを外れた従兄——彼女の周りに集まるのは、どこか欠けた男たちばかり。誰とも深く結ばれないまま交わされる「ただのおしゃべり」を通して、病とともに生きる日常を、自己憐憫ゼロの乾いたユー… 孤独と疎外 第96回 文學界新人賞
  879. 879 2003 ジャージの二人 じゃーじのふたり 長嶋有 単行本・集英社 仕事や家庭から少し離れた父と息子が、山の別荘で同じようなジャージを着て夏を過ごす。大きな事件の代わりに、食事、虫、テレビ、会話の間合いといった細部が積み重なり、親子でありながらどこか他人同士でもある二人の距離が浮かび上がる。長嶋有らしい、脱力したユーモアと静かな寂しさが同居する作品。 家族父と子労働
  880. 880 2003 授乳 じゅにゅう 村田沙耶香 初出・群像 2003年6月号 中学生の少女「私」は、母が選んだ冴えない家庭教師の青年に、嫌悪とも支配欲ともつかない倒錯した感情を抱き、「授乳」と呼ぶ秘密の行為へと彼を引き込んでいく。教育熱心な母への息苦しさ、性とも甘えともつかない身体感覚——のちに「コンビニ人間」へと結実する村田沙耶香の核、つまり「普通」とされる世界への違和を身… 母と子身体
  881. 881 2003 家畜の朝 かちくのあさ 浅尾大輔 初出・新潮 2003年11月号 中卒で道路工事などの日雇い仕事をしながら日銭を稼ぐ主人公と、その仲間たちのうだつの上がらない日々。労働と競艇と愚行で埋まる時間の隙間に、父親の自殺、学習障害、友人の堕胎といった出来事が断片として挟み込まれ、貧困が人と土地をどう蝕むかが一人称の語りで立ち上がる。労働運動の現場にいた作者が、「ワーキング… 労働貧困孤独と疎外 第35回 新潮新人賞
  882. 882 2003 火薬と愛の星 かやくとあいのほし 森健 初出・群像 2003年6月号 女たらしの「おれ」は、さまざまな女性たちを渡り歩きながら何度も生を重ね、やがて一人の恋人に出会って初めて「ここで死のう」と思う——絵本『100万回生きたねこ』を下敷きに、軽薄な恋愛遍歴の語りの底へ、愛と死の寓話を沈めた一作。決定的なはずの「最後の恋人との出会い」をあえて正面から語らず、別のかたちで小… 恋愛死と喪失孤独と疎外 第46回 群像新人賞
  883. 883 2003 蹴りたい背中 けりたいせなか 綿矢りさ 初出・文藝 2003年秋季号 高校に入学したばかりのハツ(長谷川初実)は、クラスの輪に加わることを拒み、余り者として過ごしている。同じく孤立しているにな川は、女性モデル「オリチャン」に病的なまでに夢中な少年。ハツはオリチャンに会ったことがある縁でにな川と関わるようになり、彼の無防備な背中を「蹴りたい」という奇妙な衝動を抱えていく… 青春同調圧力孤独と疎外 第130回 芥川賞
  884. 884 2003 黒冷水 こくれいすい 羽田圭介 初出・文藝 2003年冬季号 弟の修作は兄・正気の部屋を毎日執拗に「家捜し」し、兄はそれに気づいて巧妙な罠と報復を仕掛ける。家庭内の些細な悪意の応酬は、黒く冷たい水のような憎悪へと際限なくエスカレートしていく——。思春期の自意識と家族間の生理的な憎しみを、17歳の現役高校生がここまで執拗に書き切ったという事実そのものが衝撃を与え… 家族暴力青春 第40回 文藝賞
  885. 885 2003 壊れるほど近くにある心臓 こわれるほどちかくにあるしんぞう 佐藤智加 単行本・河出書房新社 身体と精神の境界がゆるみ、恋愛の近さがそのまま危うさへ変わっていく第二作。親密さを求めるほど相手との距離が測れなくなる感覚を、肉体的なイメージと内面の揺れを重ねて描く。恋愛小説でありながら、愛の甘さよりも依存、痛み、自己の輪郭が崩れる怖さを読む作品である。 恋愛身体
  886. 886 2003 極東アングラ正伝 きょくとうあんぐらせいでん 佐川光晴 単行本・双葉社 佐川光晴が、都市の周縁や表舞台の外側にある生の感覚へ目を向けた2003年の作品。題名が示す「アングラ」は、文化や労働や生活が公的な語りからこぼれ落ちる場所を思わせる。デビュー期から一貫する、きれいごとでは済まない生活への視線をたどる一冊として位置づけられる。 労働芸術と表現孤独と疎外
  887. 887 2003 魔女の息子 まじょのむすこ 伏見憲明 初出・文藝 2003年冬季号(受賞発表。本文の誌面掲載は未確認) 40歳を目前にしたゲイのフリーライター・和紀。77歳の母が「老いらくの恋」に燃え始めたことで、亡き父との確執、ハッテン場の旅館で出会った男との関係、そして自分自身の来し方と否応なく向き合うことになる。ゲイ・ムーブメントの先頭に立ってきた評論家が、運動の言葉では掬えない母子の情愛と人間の弱さを、ユーモ… ジェンダー母と子 第40回 文藝賞
  888. 888 2003 夏休み なつやすみ 中村航 単行本・河出書房新社 就職も進路も決まりきらない青年が、夏の時間の中で宙ぶらりんの自分を抱えたまま過ごす。中村航らしい軽い会話と瑞々しい感覚で、何者にもなれない時期の切なさを描く。大きな転機よりも、季節の空気や友人関係の揺れが、青春の停滞と再生の気配を作っている。 青春労働孤独と疎外
  889. 889 2003 鼠と肋骨 ねずみとろっこつ 脇坂綾 初出・群像 2003年6月号 第46回群像新人文学賞で、村田沙耶香「授乳」と並んで優秀作に選ばれた作品。テレビ局勤務のかたわら小説を書いていた30歳の作者が、旧姓・神宮綾の頃の経験を経て発表した一篇で、鼠と肋骨という即物的で不穏なイメージを組み合わせた題名が目を引く。単行本化されておらず、内容を確認できる資料は乏しい。同期の村田… 身体孤独と疎外一人称
  890. 890 2003 オアシス おあしす 生田紗代 初出・文藝 2003年冬季号 愛用の青い自転車を盗まれたフリーターの「私」は、呆然としたままそれを探す日々を送る。家には家事を放棄してしまった母と、その母に「パラサイト」されているOLの姉・サキ。女三人の奇妙な家族の均衡が、自転車の喪失を起点に少しずつあらわになっていく。母を疎みながら捨てられない娘たちの姿は「現代の新種の姥捨て… 家族母と子青春 第40回 文藝賞
  891. 891 2003 四十日と四十夜のメルヘン よんじゅうにちとよんじゅうやのめるへん 青木淳悟 初出・新潮 2003年11月号 チラシ配りをして暮らす「私」が書きつける日記。しかしその日付は素直に進まず、記述は反復と書き換えを繰り返しながら円環構造を描き、日常の風景がいつのまにか変容していく。「書くこと」自体を小説の駆動装置にした構成は、選考会で保坂和志が「これはピンチョンなんだ」と断言して強く推したことで知られる。単行本化… 言葉と言語記憶労働 第35回 新潮新人賞
  892. 892 2002 飴玉が三つ あめだまがみっつ 蒔岡雪子 初出・文學界 2002年6月号 アルコール依存症者の自助グループ「断酒会」に母と通う既婚の娘が、死を前に断酒を誓った医師の父との歳月を振り返る。父から受けた一度きりの暴力すら幸福の記憶として抱え込み、会で告白する他の依存症者を見下す主人公は、自身もまた高校時代から酒に頼ってきた。父への愛と自己への愛が分かちがたく絡まり、その呪縛か… 父と子家族 第94回 文學界新人賞
  893. 893 2002 アルゼンチンババア アルゼンチンババア 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 母の死後、「アルゼンチンババア」と呼ばれる女性と暮らし始めた父をめぐる物語。奇妙な人物や場所への戸惑いを通して、家族の喪失を別の関係へ開いていく。吉本ばなならしい、死後の時間をやわらかく生き直す物語。 家族死と喪失孤独と疎外
  894. 894 2002 縮んだ愛 ちぢんだあい 佐川光晴 単行本・講談社 佐川光晴の作品で、既存データでは野間文芸新人賞受賞作とされる。家族や親密な関係に潜む痛みを、小さく「縮む」感覚として捉える作品として整理できる。佐川作品らしい生活への視線と、関係の中で変形していく愛のかたちを読む入口になる。 家族恋愛孤独と疎外 第24回 野間新人賞
  895. 895 2002 フェイク ふぇいく 犬山丈 初出・新潮 2002年11月号 第34回新潮新人賞を中村文則「銃」と分け合った受賞作。タイトルの「フェイク」は偽物・まがいものの意で、本物と偽物のあわいを生きる人物像をうかがわせるが、単行本化されておらず、内容を確認できる資料は乏しい。選考委員は川上弘美・沼野充義・福田和也・保坂和志・町田康。同時受賞の中村文則がその後芥川賞作家と… アイデンティティ孤独と疎外一人称 第34回 新潮新人賞
  896. 896 2002 ジャイロ! じゃいろ 早川大介 初出・群像 2002年6月号 「僕」と友人・猟平が繰り返す「危険なキャッチボール」が、ついに猟平の家を全焼させてしまう——少年たちの遊びと暴力が地続きになった世界を、熱を孕んだ文体で一気に語る。選考では、世界へのルサンチマン(鬱屈した恨み)を呪詛のような語りで繋ぎ留めた「現代の悪童日記」と評された。受賞の翌年まで『群像』に短篇を… 青春暴力孤独と疎外 第45回 群像新人賞
  897. 897 2002 裸のカフェ はだかのかふぇ 横田創 単行本・講談社 横田創が2002年に刊行した作品で、公開情報では詳細な梗概がまだ薄い。カフェという開かれた場所と「裸」のイメージから、人間関係や自己露出の不穏さを扱う作品として暫定整理する。内容細部と批評上の評価は、現物・書評確認を優先したい。 アイデンティティ孤独と疎外身体
  898. 898 2002 ハミザベス はみざべす 栗田有起 初出・すばる 2002年11月号 二十歳の誕生日を前に、死んだと思っていた父が本当に死んだ。まちるが遺産として受け取ったのは、高層マンションの一室とハムスターの「ハミザベス」。母と暮らした家を出て、地上33階で始まる一人と一匹の生活に、元恋人の幼なじみや父の同居人だった女性が出入りし、奇妙な距離感の友情が育っていく。喪失から始まる物… 父と子死と喪失家族 第26回 すばる文学賞
  899. 899 2002 じゅう 中村文則 初出・新潮 2002年11月号 雨の夜、大学生の「私」は河原で死体のそばに落ちていた拳銃を拾う。磨き、眺め、持ち歩くうちに、銃は退屈な日常に輪郭を与える唯一の存在となり、「撃つ」ことへの欲望が抗いがたく膨らんでいく——。一挺の銃という即物的なモチーフだけで青年の内面の崩壊を追い詰めていく構成と、乾いた硬質な一人称は、ドストエフスキ… 暴力孤独と疎外死と喪失 第34回 新潮新人賞
  900. 900 2002 官能小説家 かんのうしょうせつか 高橋源一郎 単行本・朝日新聞社 永井荷風と森鷗外を軸に、「官能」と文学の歴史をめぐって展開する高橋源一郎の長編。近代文学の作家を素材にしながら、性、表現、文学史をメタフィクションとして組み替える。日本文学を読むこと自体を小説の快楽へ変える作品。 芸術と表現言葉と言語
  901. 901 2002 キッズ アー オールライト きっず あー おーるらいと 岡田智彦 初出・文藝 2002年冬季号 やくざの愛人の息子として育った「オレ」は、親父の失脚をきっかけに組織同士の闘いへと足を踏み入れてしまう。手当たり次第に何でも破壊するビリィの右手など、過剰でマンガ的なイメージを叩きつけながら、暴力の世界のただなかにいる子どもたちの姿を疾走感のある語りで描く。現役の小学校教師が書いたアウトロー小説とい… 暴力青春家族 第39回 文藝賞
  902. 902 2002 君が代は千代に八千代に きみがよはちよにやちよに 高橋源一郎 単行本・文藝春秋 「君が代」という強い公共的記号を題名に据え、国家、記憶、言葉の働きを小説の場で問い直す高橋源一郎の作品。政治的な主題を直接の主張に閉じず、語りの実験や文学的なずらしによって扱う。近代日本の制度と言語をめぐるメタフィクションとして読める。 言葉と言語記憶同調圧力
  903. 903 2002 リトル・バイ・リトル りとる・ばい・りとる 島本理生 単行本・講談社 母の不在と継父との関係に揺れる少女の成長を描く島本理生の初期長編。十代の語り手が、家族への違和感、恋愛以前の孤独、日常の不安を少しずつ言葉にしていく。静かな文体で、傷つきやすい感情の変化を丁寧に追う作品。 家族青春孤独と疎外
  904. 904 2002 猛スピードで母は もうすぴーどではは​は 長嶋有 単行本・文藝春秋 芥川賞受賞作「猛スピードで母は」と、デビュー作「サイドカーに犬」を収める短篇集。子どもの視点から、奔放な母や家族の変化を、過度に説明せず鮮やかな場面で捉える。ユーモアと痛切さが同居し、家族小説を軽やかな速度で更新した作品。 家族母と子青春 第126回 芥川賞
  905. 905 2002 にぎやかな湾に背負われた船 にぎやかなわんにせおわれたふね 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 九州の海辺の集落「浦」を舞台に、土地の人々の記憶と語りを紡ぐ長編。個人の物語が、海辺の共同体、死者、土地の歴史と重なり合う。小野正嗣らしい、声の重なりと土地の記憶を読む作品。 記憶死と喪失移民と越境 第15回 三島賞
  906. 906 2002 王国 その1 アンドロメダ・ハイツ おうこく そのいち アンドロメダ・ハイツ 吉本ばなな 単行本・新潮社 山奥で祖母と暮らした雫石が、都会で占い師の助手となる「王国」シリーズ第一作。自然の記憶、都市での仕事、スピリチュアルな感受性が交差し、傷ついた人が別の居場所を作る過程を描く。吉本ばなならしい癒やしと不思議さが、生活の手ざわりと結びつく。 記憶労働孤独と疎外
  907. 907 2002 リレキショ りれきしょ 中村航 初出・文藝 2002年冬季号 過去を捨てた19歳の「僕」は、「姉さん」と名乗る女性に拾われ、「半沢良」という新しい名前と居場所をもらう。深夜のガソリンスタンドでアルバイトをしながら、白紙に「どこへでもいける切符」を持つ自分の履歴書を書いてみる——。何者でもなくなった青年が、淡い人間関係のなかでもう一度自分の輪郭をなぞり直していく… アイデンティティ家族青春 第39回 文藝賞
  908. 908 2002 世界がはじまる朝 せかいがはじまるあさ 黒田晶 単行本・河出書房新社 黒田晶が2002年に刊行した作品で、河出書房新社版の書誌が確認できる。公開情報が限られるため内容細部は保留するが、デビュー期の若い書き手による、世界が開ける瞬間や関係の始まりをめぐる作品として暫定整理する。文藝賞周辺の2000年代初頭の感覚を追う上で補完的な一冊。 青春アイデンティティ恋愛
  909. 909 2002 死せる魂の幻想 しせるたましいのげんそう 寺村朋輝 初出・群像 2002年6月号 お節介な祖母と二人暮らしで、アパートと大学を往復するだけの真面目な女子大生・千明。女友達はいても恋人はいない彼女の日常に潜む孤独感と、他者との関係への切実な渇望を描く。後半、奇妙な雨宿りの場面で物語は一変し、卑近な日常が途方もない神々しさへと接続される。現役京大生だった22歳の作者によるデビュー作で… 孤独と疎外家族青春 第45回 群像新人賞
  910. 910 2002 スチール すちーる 織田みずほ 初出・すばる 2002年11月号 男性客相手の風俗のアルバイトで日銭を得て、新宿の24時間営業のロッカールームで夜を過ごす17歳の高校生。ある日見かけた中年男性に惹かれ、彼が経営する倉庫で働き始めると、朗らかなパートの中年女性たちに囲まれて、少しずつ世の中との関わり方を学んでいく。だが、かつての「客」だった男が国語教師として学校に着… 貧困青春 第26回 すばる文学賞
  911. 911 2002 タンノイのエジンバラ たんのいのえじんばら 長嶋有 単行本・文藝春秋 長嶋有の2002年の作品で、オーディオ機器を思わせる題名が、生活の中の音や記憶への感度を示す。公開情報は限定的だが、日常の小さな違和感や人間関係の距離を、静かでユーモラスな筆致で捉える長嶋作品の系譜に置ける。内容細部は追加確認が必要。 記憶家族孤独と疎外
  912. 912 2002 海辺のカフカ うみべのかふか 村上春樹 単行本・新潮社 15歳の少年・田村カフカと老人ナカタの物語が並行して進む長編。家出、父と子、予言、暴力、異界的な出来事が絡み合い、現実と神話が重なる場所へ読者を導く。村上春樹の長編の中でも、寓話性と物語性が大きく広がった作品である。 父と子記憶暴力
  913. 913 2002 憂い顔の童子 うれいがおのどうじ 大江健三郎 単行本・講談社 大江健三郎の「おかしな二人組」三部作に連なる後期長編。作家・古義人を中心に、家族史、過去の暴力、共同体の記憶が重なり合う。晩年の大江が、自身の文学的記憶と死者との対話を小説化していく流れの中で読む作品である。 記憶家族死と喪失
  914. 914 2002 わたしの好きなハンバーガー わたしのすきなはんばーがー 北岡耕二 初出・文學界 2002年6月号 広告会社を定年まで勤め上げた67歳の新人が、蒔岡雪子「飴玉が三つ」と同時に第94回文學界新人賞を射止めた作品。新人賞の受賞者が軒並み若返っていく2000年代初頭にあって、企業社会を生き切った世代の書き手の登場は異彩を放った。選考委員は浅田彰・奥泉光・島田雅彦・辻原登・山田詠美。単行本化されておらず… 老い孤独と疎外 第94回 文學界新人賞
  915. 915 2002 よしわら よしわら 鈴木弘樹 単行本・新潮社 新潮新人賞受賞作「グラウンド」を、単行本化に際して『よしわら』と改題した中篇。風俗雑誌編集などの職歴を持つ作者の経歴とも重なり、労働、都市の周縁、学歴や階層から外れた人物の感覚を描く。新人賞受賞作が芥川賞候補にもなった、2000年代初頭の新潮新人賞系譜の一作。 労働孤独と疎外アイデンティティ 第33回 新潮新人賞
  916. 916 2001 ゴヂラ ゴヂラ 高橋源一郎 単行本・新潮社 高橋源一郎が2001年に刊行した作品で、怪獣映画を思わせる表記を小説の入口に置く。戦後日本の記憶、メディアの記号、文学の語りを重ね、現実とフィクションの境界を揺さぶるタイプの作品として読める。内容細部は追加確認が必要だが、実験的な社会批評性を持つ作品として分類する。 芸術と表現言葉と言語戦争
  917. 917 2001 グラウンド ぐらうんど 鈴木弘樹 初出・新潮 2001年11月号 第33回新潮新人賞の受賞作で、『新潮』2001年11月号に掲載された。作者の鈴木弘樹は中学卒業後に風俗雑誌の編集をはじめ様々な職を渡り歩いた経歴の持ち主で、学歴エリートではない叩き上げの書き手の登場として注目された。発表直後に第126回芥川賞候補となり、同回で芥川賞を受賞した長嶋有「猛スピードで母は… 労働孤独と疎外一人称 第33回 新潮新人賞
  918. 918 2001 インストール いんすとーる 綿矢りさ 初出・文藝 2001年冬季号 高校生活から突然降りてしまった17歳の朝子が、部屋の荷物を全部捨てたことをきっかけに、マンションの押入れに住み着くような小学生・かずよしと知り合い、拾った中古パソコンで風俗チャットの「バイト」を代行するようになる。インターネット黎明期の風俗チャットという際どい題材を扱いながら、筆致はあくまで軽やかで… 青春テクノロジー 第38回 文藝賞
  919. 919 2001 ジャムの空壜 じゃむのあきびん 佐川光晴 単行本・新潮社 屠畜の現場を舞台にした短篇集で、労働、身体、動物の死を生活の近くから描く。清潔な消費の背後にある仕事を見つめることで、社会の見えにくい暴力と人間の尊厳を浮かび上がらせる。佐川光晴の労働への視線がよく表れる作品。 労働身体暴力
  920. 920 2001 クチュクチュバーン くちゅくちゅばーん 吉村萬壱 初出・文學界 2001年6月号 ある時から人間たちが異形のものへと変容しはじめ、世界そのものが崩壊へ向かう過程を、複数の人物のエピソードを束ねて描く黙示録的な中篇。グロテスクで生々しい身体描写を畳みかけながら、悲惨さの中に奇妙な可笑しさと祝祭性が同居するのが特徴で、「世界の破壊か、新しい人類の始まりか」という終末イメージを正面から… 身体暴力死と喪失 第92回 文學界新人賞
  921. 921 2001 水に埋もれる墓 みずにうもれるはか 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 小野正嗣のデビュー作で、既存データでは朝日新人文学賞受賞作とされる。水や墓のイメージが示すように、土地、記憶、死者との関係をめぐる作品として位置づけられる。後の小野作品に続く、共同体の記憶と語りへの関心の出発点として読みたい。 記憶死と喪失孤独と疎外
  922. 922 2001 日本文学盛衰史 にほんぶんがくせいすいし 高橋源一郎 単行本・講談社 明治の文学者たちを現代の事物と混在させて描く、高橋源一郎の長編。日本文学史そのものを小説の材料にし、正典や文学制度をパロディと批評の対象に変える。文学をめぐる知識が物語の中で揺さぶられる、メタフィクション性の高い作品。 芸術と表現言葉と言語記憶
  923. 923 2001 蚤の心臓ファンクラブ のみのしんぞうふぁんくらぶ 萩原亨 初出・群像 2001年6月号 「誰にも“蚤の心臓”はあるのです。ちょっと引き抜いてみましょう。今より自由になれますよ」という惹句が示すとおり、人が抱える臆病さや気弱さを「蚤の心臓」という具体物のイメージに転化し、そこからの解放を軽みのある筆致で描いた作品。深刻な内面告白に向かいがちな新人文学賞応募作の中で、ユーモアと寓意で心の問… 孤独と疎外同調圧力一人称 第44回 群像新人賞
  924. 924 2001 最後の家族 さいごのかぞく 村上龍 単行本・幻冬舎 引きこもりの息子を抱えた四人家族の解体と再生を描く長編。家族の愛情が、支配、依存、逃避と紙一重であることを、村上龍らしい社会問題への視線で描き出す。家庭という閉じた場所を通じて、2000年前後の孤立とケアの難しさを読む作品。 家族孤独と疎外ケアと介護
  925. 925 2001 サイドカーに犬 さいどかーにいぬ 長嶋有 初出・文學界 2001年6月号 小学四年生の夏、母が家出した薫の家に、父の知り合いである洋子さんが入り込んでくる。自転車を教えてくれ、缶コーヒーを飲み、堂々と振る舞う洋子さんと過ごしたひと夏を、大人になった薫が淡々と回想する。家庭の危機という湿りがちな題材を、軽やかでユーモラスな距離感と即物的なディテールで描き、深刻にならないのに… 家族記憶青春 第92回 文學界新人賞
  926. 926 2001 シルエット しるえっと 島本理生 初出・群像 2001年6月号 高校二年生の「私」を語り手に、人との出会いと別れ、恋愛にともなう心の揺れと痛みを、等身大の言葉で丁寧にすくいとった中篇。書いたのは当時現役高校生の島本理生で、十代の感受性をそのまま閉じ込めたような瑞々しさと、年齢に不釣り合いなほど抑制の効いた文章が同居している。痛みを声高に語らず、静かな観察として差… 恋愛青春家族
  927. 927 2001 途中下車 とちゅうげしゃ 高橋文樹 単行本・幻冬舎 高橋文樹のデビュー作で、既存データでは幻冬舎NET学生文学賞大賞受賞作とされる。移動や途中下車のモチーフから、若い語り手が日常の経路を外れ、自分の居場所を探る作品として暫定整理する。公開情報が少ないため、内容紹介は今後の現物確認で補強したい。 青春アイデンティティ孤独と疎外
  928. 928 2001 次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? つぎのまちまで、きみはどんなうたをうたうの 柴崎友香 単行本・河出書房新社 柴崎友香の初期作品で、次の町へ向かう移動の感覚と、若い人々の会話や音楽の気配を描く。大きなドラマではなく、場所が変わるときの心の揺れ、友人関係の距離、都市の日常の質感が中心になる。後の柴崎作品に通じる、移動と観察の文学として読める。 青春芸術と表現孤独と疎外
  929. 929 2001 夜明けの音が聞こえる よあけのおとがきこえる 大泉芽衣子 初出・すばる 2001年11月号 自ら声を封じ込めているうちに本当に声が出なくなってしまった「僕」が、治療者の勧めでホテルで働きはじめる。しかし職場に溶け込めず、ふとした誤解から従業員たちを敵に回し、執拗ないじめにさらされていく。語ることのできない主人公の内側に渦巻く苛立ちと怒りを、鮮烈な言葉の力で外へ撃ち出すような文章が特徴で、声… 言葉と言語孤独と疎外労働 第25回 すばる文学賞
  930. 930 2000 フリースタイルのいろんな話 ふりーすたいるのいろんなはなし 中井佑治 初出・群像 2000年6月号 第43回群像新人文学賞(2000年)で、横田創「(世界記録)」の当選と並んで優秀作に選ばれた作品。『群像』2000年6月号に掲載されたが、単行本化はされておらず、作者・中井佑治のその後の著書も確認できないため、今日では掲載誌でしか読むことができない。「フリースタイル」を掲げる題名が示すとおり、定型に… 言葉と言語青春方言・口語
  931. 931 2000 ひな菊の人生 ひなぎくのじんせい 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 吉本ばななが2000年に刊行した作品で、ロッキング・オン版と後年の幻冬舎版の書誌が確認できる。公開情報は限定的だが、タイトルの柔らかさとは裏腹に、人生の記憶や痛みをすくい上げる吉本作品の系譜に置ける。現段階では内容細部の確認を次回課題として残す。 記憶死と喪失孤独と疎外
  932. 932 2000 神の子どもたちはみな踊る かみのこどもたちはみなおどる 村上春樹 単行本・新潮社 阪神・淡路大震災後の空気を背景にした六篇の連作短編集。大きな災害を直接描き尽くすのではなく、喪失や不安を抱えた人々の生活に、寓話や偶然の形で揺れを響かせる。「かえるくん、東京を救う」など、現実と幻想の境目を軽やかに越える短篇が含まれる。 災害死と喪失孤独と疎外
  933. 933 2000 看板屋の恋 かんばんやのこい 都築隆広 初出・文學界 2000年12月号 受賞作なしが続いた時期の文學界新人賞で、2000年下期に単独で選ばれた短篇。『文學界』2000年12月号に掲載されたが単行本未収録のままで、今日では掲載誌でしか読めない。作者の都築隆広は当時22歳の若さでデビューしたものの、その後は脚本家・放送作家として映像分野へ活動の軸を移した。新人賞受賞が必ずし… 恋愛労働簡潔な文体 第91回 文學界新人賞
  934. 934 2000 体は全部知っている からだはぜんぶしっている 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 身体の記憶をモチーフにした吉本ばななの掌篇集。心では整理できない痛みや違和感が、身体の感覚として先に反応する瞬間をすくう。短い形式の中で、病、恋愛、喪失、生活の手ざわりを静かに重ねる。 身体記憶
  935. 935 2000 希望の国のエクソダス きぼうのくにのエクソダス 村上龍 単行本・文藝春秋 中学生たちの集団不登校と、ネットワークを使った経済的自立を描く近未来小説。学校や国家に回収されない若者の集団が、情報技術と経済を武器に別の社会を作ろうとする。教育、労働、国家、テクノロジーを同時に扱う、2000年前後の不安と期待を映す作品。 テクノロジー青春労働
  936. 936 2000 きょうのできごと きょうのできごと 柴崎友香 単行本・河出書房新社 京都で開かれた引っ越し祝いの飲み会に集まった若者たちの一夜を、複数の視点から描く柴崎友香のデビュー作。大きな事件よりも、会話、部屋の空気、街への移動が作る微細なずれを積み重ねる。日常の時間をそのまま文学の中心に置く、後の柴崎作品へつながる出発点。 青春孤独と疎外記憶
  937. 937 2000 共生虫 きょうせいちゅう 村上龍 単行本・講談社 引きこもりの青年ウエハラが、「共生虫」という妄想に取り憑かれていく長編。ネット、孤立、身体への不安が結びつき、社会から退いた人物の内側が危うく膨張していく。2000年前後のテクノロジーと精神の不穏な接続を描く村上龍作品。 テクノロジー孤独と疎外身体 第36回 谷崎賞
  938. 938 2000 メイドインジャパン めいどいんじゃぱん 黒田晶 初出・文藝 2000年冬季号 「この国にしか起こりえない少年犯罪」を題材に、リアルで残酷な殺人描写を、グルーヴ感のあるクールな文体で押し切った問題作。応募時の原題は「YOU LOVE US」で、単行本化に際して『メイドインジャパン』と改題された。1990年代末の少年犯罪報道の記憶が生々しい時期に、暴力を内側から描く若い書き手が現… 暴力青春孤独と疎外 第37回 文藝賞
  939. 939 2000 肉触 にくしょく 佐藤智加 初出・文藝 2000年冬季号 「精神か肉体かいずれかを捨てるなら、私は迷うことなく精神を捨てる」という挑発的な一文から始まり、姉への追憶に支えられた「私」の内的世界が静かに崩れていく過程を描く。観念と肉体感覚が分かちがたく絡み合う濃密な文章を、当時17歳の高校生が書いたことが衝撃をもって受け止められた。詩で受賞歴のある作者らしく… 身体記憶孤独と疎外
  940. 940 2000 ロマンティック ろまんてぃっく 大久秀憲 初出・すばる 2000年11月号 末弘喜久「塔」と並んで第24回すばる文学賞に選ばれた中篇。作者の大久秀憲は早稲田大学在学中の1996年に「葛西夏休み日記帳」で早稲田文学新人賞を受賞しており、本作は文芸誌の公募新人賞としては二度目の受賞となる、当時28歳の再デビュー作だった。『すばる』2000年11月号に掲載され、2001年1月に集… 恋愛孤独と疎外一人称 第24回 すばる文学賞
  941. 941 2000 生活の設計 せいかつのせっけい 佐川光晴 初出・新潮 2000年11月号 大学を出て出版社に勤めたのち、埼玉の食肉処理場で牛の解体に従事する「私」が、読者に向かって「諸君」と呼びかけながら、屠畜という労働の現場と自分の生活について語っていく自伝的小説。差別と偏見にさらされてきた仕事を、告発でも美化でもなく、ナイフ捌きの習熟といった身体的なディテールの積み重ねで描くところに… 労働身体孤独と疎外 第32回 新潮新人賞
  942. 942 2000 (世界記録) せかいきろく 横田創 初出・群像 2000年6月号 括弧でくくられた題名がすでに仕掛けになっている、劇作家出身の新人による実験的なデビュー作。世界を「写生=記録」しサンプリングするような手つきで、書くことと現実のあいだのずれを執拗に往復する。単行本には小説とあわせて戯曲二篇が収められ、演劇の言葉と小説の言葉を行き来してきた作者の出自がそのまま本の形に… 言葉と言語芸術と表現アイデンティティ 第43回 群像新人賞
  943. 943 2000 取り替え子(チェンジリング) とりかえこ 大江健三郎 単行本・講談社 義兄・吾良の自死をきっかけに、作家・古義人が過去の謎をたどる長編。録音された声や記憶を通して死者と対話し、家族史、映画、芸術、自己の来歴が絡み合う。大江後期の「おかしな二人組」三部作へつながる、喪失と再生の作品。 死と喪失家族記憶
  944. 944 2000 とう 末弘喜久 初出・すばる 2000年11月号 「果たして妻は同僚と関係があったのか」という疑念に取り憑かれた男が、絶望から精神の彷徨へ、さらに錯乱と覚醒へと沈み込んでいく過程を描く。現実の輪郭が次第に溶け、悪夢的・幻想的な世界へ滑り込んでいく筆致が特徴で、嫉妬という卑近な感情を入口に、人がどこまで暗がりへ降りていけるかを試すような作品になってい… 夫婦孤独と疎外寓話・幻想 第24回 すばる文学賞
  945. 945 1999 あ・だ・る・と あ・だ・る・と 高橋源一郎 単行本・主婦と生活社 AV監督「ピン」の視点から、アダルトビデオの撮影現場を克明に描きながら、「普通の人々」が「普通のAV」に出演するとはどういうことかを問い続ける小説。インドの元同僚から届いたフィルムが思索の起点となる。 身体アイデンティティ
  946. 946 1999 宙返り ちゅうがえり 大江健三郎 単行本・講談社 かつて教団を解散した「師匠」と「案内人」の十年後の再出発を描く長編。 信仰地方
  947. 947 1999 ハードボイルド/ハードラック ハードボイルド/ハードラック 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 「ハードボイルド」と「ハードラック」2篇からなる短編集。前者は別れた同性の恋人を思いながらの不思議なひとり旅、後者は植物人間となった姉の看病を通して芽生える愛を描く。死と喪失を核に据えながら癒しと前進を模索する。 死と喪失恋愛
  948. 948 1999 スプートニクの恋人 すぷーとにくのこいびと 村上春樹 単行本・講談社 女性同士の恋愛と失踪をめぐる謎を描いた長編。スプートニクを象徴として孤独と愛を問う。 恋愛孤独と疎外不穏
  949. 949 1999 夏の約束 なつのやくそく 藤野千夜 初出・「群像」1999年12月号 ゲイのカップルを中心に、性転換した美容師、売れない小説家とその女友達といった「ゆるやか」な人々のある夏の日常を描いた短編。性的マイノリティを自然体で描いた1990年代末の問題作。玄月「蔭の棲みか」と同時受賞。 恋愛アイデンティティ 第122回 芥川賞
  950. 950 1999 蔭の棲みか かげのすみか 玄月 初出・「文學界」1999年11月号 在日朝鮮人が暮らす大阪の下町を舞台に、戦争で手首を失った最古参の住人ソバンの68年間の人生と、集落で起きる事件や日常を描く。在日文学の系譜に連なりつつ独自の土着性を持つ作品。藤野千夜「夏の約束」と同時受賞。 移民と越境戦争家族 第122回 芥川賞
  951. 951 1999 LA心中 えるえーしんじゅう 羽根田康美 初出・「文學界」1999年6月号(第88回受賞、松崎美保と同時受賞) LA心中は、羽根田康美による1999年発表の作品です。初出は「文學界」1999年6月号(第88回受賞、松崎美保と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第88回文學界新人賞受賞。 第88回 文學界新人賞
  952. 952 1999 DAY LABOUR でい・れいばー 松崎美保 初出・「文學界」1999年6月号(第88回受賞、羽根田康美と同時受賞) DAY LABOURは、松崎美保による1999年発表の作品です。初出は「文學界」1999年6月号(第88回受賞、羽根田康美と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第88回文學界新人賞受賞。 第88回 文學界新人賞
  953. 953 1999 Tiny, tiny たいにー たいにー 濱田順子 初出・「文藝」1999年 「わたし」「ぼく」「オレ」という三人の高校生のひと夏を淡々とした文体で描く。第122回芥川賞候補作。 青春乾いた 第36回 文藝賞
  954. 954 1999 彼女のプレンカ かのじょのぷれんか 中上紀 初出・「すばる」1999年 中上健次の娘として注目されたデビュー作。熊野・新宮の土地との深い縁を持つ作者の初小説。 移民と越境海外 第23回 すばる文学賞
  955. 955 1999 零歳の詩人 れいさいのしじん 楠見朋彦 初出・「すばる」1999年 短歌誌「玲瓏」同人でもある詩歌人・楠見朋彦の小説デビュー作。第122回芥川賞候補となった。 戦争言葉と言語実験的文体 第23回 すばる文学賞
  956. 956 1999 クレア、冬の音 くれあ、ふゆのおと 遠藤純子 初出・「新潮」1999年11月号 元都立高校教員・大学准教授が59歳でのデビュー。 家族移民と越境簡潔な文体 第31回 新潮新人賞
  957. 957 1999 ロックンロールミシン ろっくんろーる みしん 鈴木清剛 初出・「新潮」掲載後、河出書房新社1999年刊 会社員の主人公が高校時代の友人が旗揚げしたインディーズファッションブランド「ストロボ・ラッシュ」に関わるうち服作りに巻き込まれていく物語。ファッション業界経験を持つ作者の実感が生きた軽快な青春小説。第12回三島由紀夫賞受賞(堀江敏幸と同時)。 青春芸術と表現都市・郊外 第12回 三島賞
  958. 958 1999 無情の世界 むじょうのせかい 阿部和重 初出・講談社1999年刊 「トライアングルズ」「無情の世界」「鏖(みなごろし)」の3短編を収録。表題作は深夜の公園で死体を発見した高校生の物語で、若者の鬱屈した暴力衝動と現代社会の無情を描く。阿部和重の前衛的・批評的な初期作風が凝縮されている。第21回野間文芸新人賞受賞(伊藤比呂美と同時)。 暴力青春都市・郊外 第21回 野間新人賞
  959. 959 1999 ラニーニャ らにーにゃ 伊藤比呂美 初出・新潮社1999年刊 カリフォルニアに暮らす日本人女性を主人公に、異国での育児と老いた親の介護を往還しながら女性の身体と生の意味を問う。詩人としての言語感覚と小説的構成が融合した作品。第121回芥川賞候補・第21回野間文芸新人賞受賞(阿部和重と同時)。 母と子ケアと介護身体 第21回 野間新人賞
  960. 960 1999 透光の樹 とうこうのき 高樹のぶ子 初出・単行本1999年1月文藝春秋刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 加賀平野・鶴来を舞台に、テレビ業界の中年男性と老父の看護に戻った女性が25年の時を経て再会し、深まる愛を描く恋愛長篇。後に映画化された。単行本刊行年を year に採用。 恋愛老い死と喪失 第35回 谷崎賞
  961. 961 1998 ライン ライン 村上龍 単行本・幻冬舎 電話線でつながる20人の人物が連鎖的に描かれる連作。SM嬢・看護婦・IQ170のウエイター・殺人を犯したキャリアウーマンら、現代日本の暴力と孤独の連鎖を圧倒的な筆力で描く。 暴力孤独と疎外
  962. 962 1998 ブエノスアイレス午前零時 ぶえのすあいれすごぜんれいじ 藤沢周 初出・「文藝」1998年夏季号(河出書房新社) 雪深い故郷の温泉旅館に戻った青年が、かつて横浜で娼婦をしていた盲目の老婆と出会い、深夜にタンゴを踊るという抒情的でハードボイルドな短編。花村萬月「ゲルマニウムの夜」と同時受賞。 老い孤独と疎外地方 第119回 芥川賞
  963. 963 1998 ゲルマニウムの夜 げるまにうむのよる 花村萬月 初出・「文學界」1998年6月号 問題行動を重ねた少年が小学校高学年から中学卒業まで暮らした修道院兼教護院に、殺人を犯した後に逃亡先として舞い戻る物語。暴力・性・宗教が過剰な密度で交錯する花村萬月の代表作。 暴力信仰 第119回 芥川賞
  964. 964 1998 日蝕 にっしょく 平野啓一郎 初出・「新潮」1998年8月号 15世紀フランスを舞台に、若い修道士が異端の哲学者を追い求め日蝕の瞬間に神秘的な体験をする中編。三島由紀夫を彷彿させる文語的な格調高い文体で書かれ、デビュー作にして40万部のベストセラーとなった。23歳の最年少(当時)受賞作。 信仰死と喪失長い息の文体 第120回 芥川賞
  965. 965 1998 腦病院へまゐります。 のうびょういんへまゐります。 若合春侑 初出・「文學界」1998年6月号(第86回受賞) 旧仮名遣いを用いた独特の文体で、精神の病と言語の関係を探った問題作。第119回芥川賞候補となった。 言葉と言語 第86回 文學界新人賞
  966. 966 1998 水のはじまり みずのはじまり 長田司 初出・「群像」1998年6月号(第41回優秀作) 水のはじまりは、長田司による1998年発表の作品です。初出は「群像」1998年6月号(第41回優秀作)。単行本化は確認できていません。第41回群像新人賞優秀作。
  967. 967 1998 二匹 にひき 鹿島田真希 初出・「文藝」1998年 堕落犬と呼ばれる高校生を主人公に学園を舞台とした小説。ジャンクな日本語とクールな思考が特徴の前衛的デビュー作。後に六〇〇〇度の愛(三島賞)、冥土めぐり(芥川賞)へ続く鹿島田真希の出発点。 青春暴力実験的文体 第35回 文藝賞
  968. 968 1998 あなたがほしい je te veux あなたがほしい じゅ とぅ ゔー 安達千夏 初出・「すばる」1998年 第120回芥川賞候補ともなった受賞作。30代主婦の作家デビューとして注目された。 恋愛ジェンダー 第22回 すばる文学賞
  969. 969 1998 底ぬけ そこぬけ 青垣進 初出・「新潮」1998年11月号 底ぬけは、青垣進による1998年発表の作品です。初出は「新潮」1998年11月号。単行本は新潮社。第30回新潮新人賞受賞。 第30回 新潮新人賞
  970. 970 1998 カブキの日 かぶきのひ 小林恭二 初出・新潮社1998年刊 歌舞伎の世界を舞台にメタフィクション的なユーモアと批評性を盛り込んだ小説。「小説伝」以来の実験的な語りの手法が成熟した作品。第11回三島由紀夫賞受賞。 芸術と表現メタフィクション都市・郊外 第11回 三島賞
  971. 971 1998 おしゃべり怪談 おしゃべりかいだん 藤野千夜 初出・文藝春秋1998年刊 ゲイや性的マイノリティを自然体で描く藤野千夜の作風が凝縮されたユーモラスな小説。日常の隙間にある「怪談的なもの」を軽やかに描く。第20回野間文芸新人賞受賞。 ジェンダー孤独と疎外都市・郊外 第20回 野間新人賞
  972. 972 1998 おぱらばん おぱらばん 堀江敏幸 初出・青土社1998年刊 フランスの郊外に暮らす「私」が時代に忘れられた文学への愛惜と結びつきながら書いた15篇。表題作は、中国人が「以前(オーパラバン)」と発音すると外国人には「おぱらばん」と聞こえるという着想から卓球名人の肖像を描く。エッセイと純文学の境界を横断する形式が新鮮な小説集。第12回三島由紀夫賞受賞(鈴木清剛と… 言葉と言語記憶芸術と表現 第12回 三島賞
  973. 973 1998 望潮 もちしお 村田喜代子 初出・「新潮」1998年6月号初出。 潮の満ち引きを軸に、老年期の女性の意識と記憶が揺れ動く短篇。村田喜代子の南九州的な感性と幻視的な文体が際立つ代表的な短篇作品。 老い記憶島・海辺 第25回 川端賞
  974. 974 1997 オーディション オーディション 村上龍 単行本・ぶんか社 再婚相手を探す男が映画オーディションで出会った女の狂気に巻き込まれる長編。三池崇史により映画化。 暴力恋愛
  975. 975 1997 ゴーストバスターズ 冒険小説 ゴーストバスターズ ぼうけんしょうせつ 高橋源一郎 単行本・講談社 ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドら複数の登場人物が時代・国境を越えて謎の「ゴースト」を追う、メタフィクション的構造を持つ実験的長編冒険小説。 芸術と表現メタフィクション実験的文体
  976. 976 1997 ハネムーン ハネムーン 吉本ばなな 単行本・中央公論社 18歳で結婚した主人公まなかと幼なじみの裕志が、祖父の死をきっかけに夫の抱える過去(宗教に絡む父の死)と向き合い、喪失の痛みを支え合いながら成長していく長編。ブリスベンへのハネムーンが旅として心の整理を果たす。 夫婦死と喪失一人称
  977. 977 1997 イン ザ・ミソスープ イン ザ・ミソスープ 村上龍 単行本・読売新聞社 歓楽街の案内人ケンジが米国人観光客フランクの狂気に巻き込まれる長編。読売文学賞受賞。 暴力孤独と疎外一人称
  978. 978 1997 水滴 すいてき 目取真俊 初出・「文學界」1997年4月号 ある日突然足がはれて指先から水が流れ出した沖縄の老人を主人公に、沖縄戦の死者たちの記憶が現実に浸食してくる幻想譚。ユーモアとペーソスが共存する目取真俊の代表作。 戦争死と喪失寓話・幻想 第117回 芥川賞
  979. 979 1997 最後の息子 さいごのむすこ 吉田修一 初出・「文學界」1997年6月号(第84回受賞) 長崎から上京した若者が、新宿の中年ゲイ男性と同居するうちに互いの孤独と依存を見つめ合う中編。吉田修一のデビュー作であり、芥川賞候補ともなった。 孤独と疎外青春 第84回 文學界新人賞
  980. 980 1997 くろい、こうえんの くろい、こうえんの 橘川有彌 初出・「文學界」1997年12月号(第85回受賞) くろい、こうえんのは、橘川有彌による1997年発表の作品です。初出は「文學界」1997年12月号(第85回受賞)。単行本化は確認できていません。第85回文學界新人賞受賞。 第85回 文學界新人賞
  981. 981 1997 秒速10センチの越冬 びょうそくじっせんちのえっとう 岡崎祥久 初出・「群像」1997年6月号(第40回当選) 工場労働者の日々と停滞感を、ゆっくりと流れる時間とともに描いたデビュー作。 労働乾いた
  982. 982 1997 ラジオデイズ らじおでいず 鈴木清剛 初出・「文藝」1997年 ファッション業界に身を置いた経験を持つ作者によるデビュー小説。続作「ロックンロールミシン」は三島由紀夫賞受賞・映画化された。 孤独と疎外青春一人称 第34回 文藝賞
  983. 983 1997 世間知らず せけんしらず 岩崎保子 初出・「すばる」1997年 世間知らずは、岩崎保子による1997年発表の作品です。初出は「すばる」1997年。単行本は集英社。第21回すばる文学賞受賞。 第21回 すばる文学賞
  984. 984 1997 街の座標 まちのざひょう 清水博子 初出・「すばる」1997年 下北沢を舞台に、文学系女子大生が「S区S街」を描いた女性作家を追いながら、書くことと読むことの関係を問うデビュー作。2001年「処方箋」で野間文芸新人賞を受賞した。 言葉と言語芸術と表現メタフィクション 第21回 すばる文学賞
  985. 985 1997 叶えられた祈り かなえられたいのり 萱野葵 初出・「新潮」1997年11月号 後に「段ボールハウス・ガール」が映画化された萱野葵のデビュー作。 第29回 新潮新人賞
  986. 986 1997 最後の吐息 さいごのといき 星野智幸 初出・「文藝」1997年 社会の抑圧と個人の変容を鋭く描く星野智幸のデビュー作。続く「目覚めよと人魚は歌う」で三島由紀夫賞を受賞した。 アイデンティティ実験的文体海外 第34回 文藝賞
  987. 987 1997 三絃の誘惑 さんげんのゆわく 樋口覚 初出・新潮社1997年刊 近代日本精神史を三絃(三味線)という楽器を軸に辿った評論。副題は「近代日本精神史覚え書」。日本の近代化と伝統芸能の交錯を独自の視点で照射した。第10回三島由紀夫賞受賞。 芸術と表現日本史 第10回 三島賞
  988. 988 1996 ヒュウガ・ウイルス 五分後の世界II ヒュウガ・ウイルス ごふんごのせかいツー 村上龍 単行本・幻冬舎 「五分後の世界」の続編。現実と五分ずれた架空の日本(旧九州)で致死率100%の「ヒュウガ・ウイルス」が発生し、医療チームが感染の拡大と戦いながら、追い詰められた者のみが生還できるという極限の生存を描く長編。 戦争身体架空社会
  989. 989 1996 レキシントンの幽霊 れきしんとんのゆうれい 村上春樹 単行本・文藝春秋 「レキシントンの幽霊」「めくらやなぎと眠る女」など7篇を収録した短編集。 孤独と疎外記憶死と喪失
  990. 990 1996 ラブ&ポップ ラブアンドポップ 村上龍 単行本・幻冬舎 援助交際をめぐる女子高生たちの一日を描く長編。庵野秀明により映画化。 青春東京
  991. 991 1996 おとうと 石原慎太郎 単行本・幻冬舎 弟・石原裕次郎の生涯を兄の視点から描いた伝記的長編小説。 家族死と喪失芸術と表現
  992. 992 1996 SLY スライ 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 HIVに感染した元彼・喬を励ますため、語り手の女性と元彼氏の日出雄が彼を連れてエジプトへ旅立つ。複雑な三角関係と死の影の中で展開する恋愛小説。 恋愛死と喪失海外
  993. 993 1996 蛇を踏む へびをふむ 川上弘美 初出・「文學界」1996年3月号 藪で蛇を踏んだ女が女に変身した蛇に「蛇になれ」と迫られ続ける物語。異界と現実が地続きに溶け合う川上弘美の作風の出発点となった芥川賞受賞作。 身体寓話・幻想生死のあわい 第115回 芥川賞
  994. 994 1996 家族シネマ かぞくしねま 柳美里 初出・「群像」1996年12月号 関係が崩壊した家族が映画の中で「家族」を演じることによって生まれるすれ違いと摩擦を通じて、家族の本質を問う。柳美里の戯曲的感覚が小説に昇華された作品。 家族アイデンティティ 第116回 芥川賞
  995. 995 1996 海峡の光 かいきょうのひかり 辻仁成 初出・「新潮」1996年12月号 津軽海峡を望む青函連絡船の乗組員たちの群像と、かつての仲間との宿命的な再会を描いた海洋的叙情詩。柳美里「家族シネマ」と同時受賞。 暴力孤独と疎外東北 第116回 芥川賞
  996. 996 1996 物語が殺されたあとで ものがたりがころされたあとで 最上煬介 初出・「文學界」1996年12月号(第83回受賞、大村麻梨子と同時受賞) 物語が殺されたあとでは、最上煬介による1996年発表の作品です。初出は「文學界」1996年12月号(第83回受賞、大村麻梨子と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第83回文學界新人賞受賞。 第83回 文學界新人賞
  997. 997 1996 ギルド ぎるど 大村麻梨子 初出・「文學界」1996年12月号(第83回受賞、最上煬介と同時受賞) ギルドは、大村麻梨子による1996年発表の作品です。初出は「文學界」1996年12月号(第83回受賞、最上煬介と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第83回文學界新人賞受賞。 第83回 文學界新人賞
  998. 998 1996 やさしい光 やさしいひかり 鈴木景子 初出・「群像」1996年6月号(第39回当選) 第39回群像新人文学賞当選作(著者:鈴木景子)。詳細内容はウェブ調査でも確認できなかった。
  999. 999 1996 足下の土 あしもとのつち 堂垣園江 初出・「群像」1996年6月号(第39回優秀作、鈴木景子と同時受賞) 足下の土は、堂垣園江による1996年発表の作品です。初出は「群像」1996年6月号(第39回優秀作、鈴木景子と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第39回群像新人賞優秀作。
  1000. 1000 1996 いちげんさん いちげんさん デビット・ゾペティ 初出・「すばる」1996年 スイス人留学生が主人公。外国人の視点から見た日本社会・同志社大学・京都の人間関係を描く。日本語を母語としない作家のデビュー作として注目された。 アイデンティティ移民と越境関西 第20回 すばる文学賞
  1001. 1001 1996 マンモスの牙 まんもすのきば 小山右人 初出・「新潮」1996年11月号 医学とアートを渉猟した独自の視点による小説。後に映画化もされた。 身体芸術と表現寓話・幻想 第28回 新潮新人賞
  1002. 1002 1996 折口信夫論 おりくちしのぶろん 松浦寿輝 初出・太田出版1995年刊 民俗学者・歌人・小説家である折口信夫の主著「死者の書」等を通じて、折口の幻惑的な世界と思想を「折口の言葉そのものの中で折口から遠ざかろう」という姿勢で読み解いた評論。伝記研究と一線を画す作品批評の手法で第9回三島由紀夫賞を受賞。 言葉と言語芸術と表現 第9回 三島賞
  1003. 1003 1996 まどろむ夜のUFO まどろむよるのゆーふぉー 角田光代 初出・ベネッセコーポレーション1996年1月刊 「まどろむ夜のUFO」「もう一つの扉」「ギャングの夜」の3篇を収録する短編集。少女と日常の小さな異変を捉える角田光代の初期の作風が凝縮されている。第18回野間文芸新人賞受賞(柳美里と同時)。 家族孤独と疎外一人称 第18回 野間新人賞
  1004. 1004 1996 フルハウス ふるはうす 柳美里 初出・文藝春秋1996年刊 ばらばらになった家族を集めるために父が家を建てる、という唐突な発端から始まるドタバタ悲喜劇。希薄な家族関係と仕事に追われる現代人の断絶を描く。第18回野間文芸新人賞・第24回泉鏡花文学賞受賞(角田光代と同時)。 家族ユーモラス 第18回 野間新人賞
  1005. 1005 1996 くっすん大黒 くっすん だいこく 町田康 初出・「文學界」1996年8月号、文藝春秋1997年刊 3年前に仕事を辞めて放浪生活を続けるうち妻に出て行かれた楠が、全ての不運を自宅の不気味な金属の大黒像のせいにして捨てに行く物語。大阪弁に近いリズムと独特の語り口が斬新なデビュー作。第7回Bunkamuraドゥマゴ文学賞・第19回野間文芸新人賞受賞。 労働孤独と疎外夫婦 第19回 野間新人賞
  1006. 1006 1996 季節の記憶 きせつのきおく 保坂和志 初出・「群像」等に発表後、単行本1996年講談社刊。連載誌の詳細は特定できないため単行本刊行年を year とした。 鎌倉・稲村ヶ崎を舞台に、父と息子が過ごす初秋から冬の日々を断片的に描いた長篇。出来事ではなく意識の流れと時間の質感そのものを書こうとした保坂文学の代表作。平林たい子文学賞とのW受賞。単行本刊行年を year に採用。 家族記憶長い息の文体 第33回 谷崎賞
  1007. 1007 1996 火の山―山猿記 ひのやま やまざるき 津島佑子 初出・「群像」1996年8月号〜1997年8月号連載。単行本1998年6月講談社刊(上下巻)。初出連載開始年(1996年)を year とした。 富士山麓を舞台に、山梨の地質学者の家系をモデルとした有森家5代の歴史を書簡・日記を織り交ぜて描く大作。野間文芸賞との同時受賞。後にNHK連続テレビ小説「純情きらり」の原案となった。 家族長い息の文体地方 第34回 谷崎賞
  1008. 1008 1996 赤い満月 あかいまんげつ 大庭みな子 初出・掲載誌・号の詳細は特定できなかった。 大庭みな子が晩年に書いた短篇。1996年に脳梗塞で倒れた年の受賞作で、赤い満月のイメージをめぐりながら女性の意識と身体をテーマとして描く幻視的な作品。 身体記憶寓話・幻想 第23回 川端賞
  1009. 1009 1996 台所 だいどころ 坂上弘 初出・「新潮」1996年9月号初出。 サラリーマン作家・坂上弘が夕暮れの台所という日常の場に立ちながら、過去と現在を静かに往還する短篇。小田実「「アボジ」を踏む」との同時受賞。 記憶家族 第24回 川端賞
  1010. 1010 1996 「アボジ」を踏む あぼじをふむ 小田実 初出・「群像」1996年10月号初出。 「アボジ」(朝鮮語で「父」)という言葉を踏みにじった戦前日本の歴史を、在日コリアンの父親への眼差しを通して問い直す短篇。ベ平連設立者でもある小田実の思想的核心が凝縮されている。坂上弘「台所」との同時受賞。 移民と越境父と子戦争 第24回 川端賞
  1011. 1011 1995 KYOKO キョウコ 村上龍 単行本・集英社 ダンスを教えてくれた米兵を探してニューヨークへ渡る娘キョウコの旅を描く。 移民と越境青春海外
  1012. 1012 1995 この人の閾 このひとのいき 保坂和志 初出・「新潮」1995年3月号 近隣に住む人々の日常の会話や時間の流れを、思索的かつ穏やかな視点でたどった短編。保坂和志の「日常の哲学」が凝縮された作品で、芥川賞選考委員から高く評価された。 簡潔な文体都市・郊外静謐 第113回 芥川賞
  1013. 1013 1995 豚の報い ぶたのむくい 又吉栄喜 初出・「文學界」1995年11月号 沖縄のスナックに豚が乱入し、その厄落としのためにスナックのママ・従業員・大学生の4人が離れ小島の御嶽へ向かうというファルス的構造の中に、沖縄の霊的世界観と生の逞しさを描いた作品。 信仰身体方言・口語 第114回 芥川賞
  1014. 1014 1995 ジェロニモの十字架 じぇろにものじゅうじか 青来有一 初出・「文學界」1995年6月号(第80回受賞) 長崎を舞台に、カトリックの信仰と歴史的暴力の記憶が交差する世界を描いたデビュー作。 信仰死と喪失家族 第80回 文學界新人賞
  1015. 1015 1995 目印はコンビニエンス めじるしはこんびにえんす 塩崎豪士 初出・「文學界」1995年12月号(第81回受賞、清野栄一と同時受賞) 目印はコンビニエンスは、塩崎豪士による1995年発表の作品です。初出は「文學界」1995年12月号(第81回受賞、清野栄一と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第81回文學界新人賞受賞。 第81回 文學界新人賞
  1016. 1016 1995 デッドエンド・スカイ でっどえんど・すかい 清野栄一 初出・「文學界」1995年12月号(第81回受賞、塩崎豪士と同時受賞) 都市の音楽シーンと若者の閉塞感を描いたデビュー作。DJでもある著者の感性が横溢する。 青春芸術と表現都市・郊外 第81回 文學界新人賞
  1017. 1017 1995 離人たち りじんたち 団野文丈 初出・「群像」1995年6月号(第38回優秀作、萩山綾音と同時受賞) 第38回群像新人文学賞優秀作(著者:団野文丈)。詳細内容はウェブ調査でも確認できなかった。 孤独と疎外
  1018. 1018 1995 影をめくるとき かげをめくるとき 萩山綾音 初出・「群像」1995年6月号(第38回優秀作、団野文丈と同時受賞) 影をめくるときは、萩山綾音による1995年発表の作品です。初出は「群像」1995年6月号(第38回優秀作、団野文丈と同時受賞)。単行本化は確認できていません。第38回群像新人賞優秀作。
  1019. 1019 1995 助手席にて、グルグル・ダンスを踊って じょしゅせきにて、ぐるぐる・だんすをおどって 伊藤たかみ 初出・「文藝」1995年 大学在学中の作者が書き上げた青春小説。早稲田大学より小野梓記念賞芸術賞を受賞した。 青春 第32回 文藝賞
  1020. 1020 1995 韓素音の月 かんそいんのつき 茅野裕城子 初出・「すばる」1995年 旅行作家・元女優の経験と中国研究を背景にしたデビュー作。 移民と越境記憶海外 第19回 すばる文学賞
  1021. 1021 1995 不随の家 ふずいのいえ 広谷鏡子 初出・「すばる」1995年 老人介護をめぐる家族の「不随の病」を描いたデビュー作。続く「げつようびのこども」で芥川賞候補となった。 ケアと介護老い家族 第19回 すばる文学賞
  1022. 1022 1995 紅栗 べにぐり 冬川亘 初出・「新潮」1995年11月号 SF翻訳家としても活動する作者が書いた短編小説。 第27回 新潮新人賞
  1023. 1023 1995 夏至祭 なつしさい 佐藤洋二郎 初出・講談社1995年刊 九州の小さな漁港を舞台に、土地の祭りや共同体の記憶と個人の喪失を交錯させた抒情的な長編。佐藤洋二郎の代表作のひとつ。第17回野間文芸新人賞受賞(水村美苗と同時)。 死と喪失記憶島・海辺 第17回 野間新人賞
  1024. 1024 1995 私小説 from left to right ししょうせつ ふろむ れふと とぅ らいと 水村美苗 初出・新潮社1995年刊 アメリカに住む日本語話者の姉妹を主人公に、日本語と英語(横書き混在)という特異な書記形式を採用した実験的私小説。言語・国籍・アイデンティティの問題を問い直す越境文学の傑作。第17回野間文芸新人賞受賞(佐藤洋二郎と同時)。 アイデンティティ移民と越境言葉と言語 第17回 野間新人賞
  1025. 1025 1995 路地 ろじ 三木卓 初出・「群像」1995年1月号〜1997年1月号に「鎌倉」の通しタイトルで断続掲載。単行本1997年6月講談社刊。初出連載開始年(1995年)を year とした。 鎌倉の路地と古書肆を舞台とした7篇からなる連作短篇集。廃業した店、老いた人々、去りゆく時間を小津安二郎的な視点で丁寧に掬い取る。単行本化にあたり「鎌倉」から「路地」に改題。 老い記憶地方 第33回 谷崎賞
  1026. 1026 1994 アムリタ アムリタ 吉本ばなな 単行本・福武書店 記憶を失った主人公の再生の旅を描く長編。紫式部文学賞受賞。 記憶アイデンティティ清新
  1027. 1027 1994 五分後の世界 ごふんごのせかい 村上龍 単行本・幻冬舎 現実と五分ずれた、地下で戦い続けるもう一つの「日本」に迷い込んだ男を描く長編。 戦争架空社会息苦しい
  1028. 1028 1994 ハチ公の最後の恋人 ハチこうのさいごのこいびと 吉本ばなな 単行本・中央公論社 祖母の予言通りに出会った青年ハチの「最後の恋人」となった私の恋を描く長編。 恋愛死と喪失一人称
  1029. 1029 1994 マリカの永い夜・バリ夢日記 マリカのながいよる・バリゆめにっき 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 多重人格を抱えるマリカと精神科医のジュンコが共にバリ島を旅する小説と、著者自身のバリ旅行エッセイを一冊に収録した作品。 身体アイデンティティ海外
  1030. 1030 1994 ねじまき鳥クロニクル ねじまきどりくろにくる 村上春樹 単行本・新潮社 失踪した猫と妻を探す「岡田トオル」が、歴史と暴力の深みへ降りていく長編3部作。 暴力戦争記憶
  1031. 1031 1994 ピアッシング ピアッシング 村上龍 単行本・幻冬舎 強迫観念に駆られた男がコールガールを殺す計画を立てるが、幼少期に虐待を受けた女との奇妙な一夜が予期せぬ方向へと転がっていくサイコスリラー。 暴力身体都市・郊外
  1032. 1032 1994 昭和歌謡大全集 しょうわかようだいぜんしゅう 村上龍 単行本・集英社 昭和歌謡を愛する青年グループと中年女性グループの殺し合いをブラックユーモアで描く長編。 暴力芸術と表現三人称・多視点
  1033. 1033 1994 タイムスリップ・コンビナート たいむすりっぷ・こんびなーと 笙野頼子 初出・「文學界」1994年6月号 自宅から海芝浦駅までの道程で時間が前後にスリップしていく幻想的な作品。笙野頼子の自由奔放な文体と独自の時間感覚が凝縮されており、三島賞・野間新人賞との三冠をなした。 記憶実験的文体都市・郊外 第111回 芥川賞
  1034. 1034 1994 おどるでく おどるでく 室井光広 初出・「群像」1994年4月号 東北の主人公の生家の納屋で見つかった大学ノートの日記が日本語内容をロシア文字で表音化されており、主人公が翻訳していくという構成の実験的作品。単行本は芥川賞受賞作史上最低の売れ行きと伝えられる。 言葉と言語記憶実験的文体 第111回 芥川賞
  1035. 1035 1994 ファースト・ブルース ふぁーすと・ぶるーす 松尾光治 初出・「文學界」1994年6月号(第78回受賞) ファースト・ブルースは、松尾光治による1994年発表の作品です。初出は「文學界」1994年6月号(第78回受賞)。単行本化は確認できていません。第78回文學界新人賞受賞。 第78回 文學界新人賞
  1036. 1036 1994 マイナス因子 まいなすいんし 木崎巴 初出・「文學界」1994年12月号(第79回受賞) マイナス因子は、木崎巴による1994年発表の作品です。初出は「文學界」1994年12月号(第79回受賞)。単行本化は確認できていません。第79回文學界新人賞受賞。 第79回 文學界新人賞
  1037. 1037 1994 アメリカの夜 あめりかのよる 阿部和重 初出・「群像」1994年6月号(第37回当選) 「アメリカ映画の夜」を舞台に、メディアとアイデンティティの問題を前衛的な手法で描いたデビュー作。 アイデンティティテクノロジー実験的文体
  1038. 1038 1994 首飾り くびかざり 雨森零 初出・「文藝」1994年 文藝時評で「カポーティを思わせる才能」と絶賛されたデビュー作。山形県文学全集にも収録された。 青春孤独と疎外地方 第31回 文藝賞
  1039. 1039 1994 二百回忌 にひゃっかいき 笙野頼子 初出・新潮社1994年刊 主人公の「私」が父方の家で催される「二百回忌」に出席する物語。この法事には死者も蘇って参列するという異例の設定のもと、時間の歪みと幻想が交錯する。笙野頼子の幻想文学的な作風が凝縮された中短編集。第7回三島由紀夫賞受賞。 家族記憶一人称 第7回 三島賞
  1040. 1040 1994 緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道 みどりいろのにごったおちゃあるいはこうふくのさんぽみち 山本昌代 初出・河出書房新社1994年刊 難病で下半身が不自由な鱈子と、書き物をする姉・定年後にウォーキングをする父・メニエル病の母という4人家族の穏やかな日常を淡々と描く詩的中編小説。父の癌発見が家族に暗雲をもたらす。第8回三島由紀夫賞受賞。 家族 第8回 三島賞
  1041. 1041 1994 虹の岬 にじのみさき 辻井喬 初出・単行本1994年1月中央公論社刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 大企業の要職を辞した男とその恋人である京都大学教授夫人との25年越しの情愛を描く恋愛長篇。加賀平野の鶴来を主な舞台とし、人生の決断と喪失を静謐な文体で綴る。単行本刊行年を year に採用。 恋愛死と喪失長い息の文体 第30回 谷崎賞
  1042. 1042 1994 みのむし みのむし 三浦哲郎 初出・「新潮」等1994年頃掲載。短篇集『ふなうた(短篇集モザイク 2)』(新潮社、1994年)に収録。初出誌・号の詳細は特定できないため収録単行本刊行年を year とした。 農家の老いた夫婦が蓑虫を題材にした短い会話を通して、生命の儚さと互いへの愛着を静かに語らう短篇。三浦哲郎の短篇集モザイクシリーズの一作で、川端賞の2度目の受賞作。単行本年を year に採用。 老い家族簡潔な文体 第22回 川端賞
  1043. 1043 1993 エクスタシー エクスタシー 村上龍 単行本・集英社 ニューヨークのバワリーで謎めいた日本人ホームレスと出会った主人公が、東京のケイコとパリのレイコを巻き込む「恍惚のゲーム」に引き込まれ、ドラッグの運び屋となっていく長編小説。 身体暴力
  1044. 1044 1993 燃えあがる緑の木 もえあがるみどりのき 大江健三郎 単行本・新潮社 四国の森の村で「救い主」と呼ばれる青年をめぐる魂の救済を描く三部作(1993〜95年刊)。 信仰地方
  1045. 1045 1993 とかげ とかげ 吉本ばなな 単行本・新潮社 癒しと時間をテーマにした六篇の短篇集。 恋愛記憶簡潔な文体
  1046. 1046 1993 寂寥郊野 じゃくりょうこうや 吉目木晴彦 初出・「群像」1993年1月号 国際結婚してアメリカに在住する日本人女性がアルツハイマー症を発症し、家族と当事者の苦悩と愛情を描いた長めの中編。1998年に松井久子監督により映画「ユキエ」として映画化された。 ケアと介護移民と越境家族 第109回 芥川賞
  1047. 1047 1993 石の来歴 いしのらいれき 奥泉光 初出・「文學界」1993年12月号 第二次大戦中から戦後にわたる男の人生と、その男が持ち続ける一個の石をめぐって歴史と記憶が交錯する中編。奥泉光の歴史的想像力と実験精神が凝縮された芥川賞受賞作。 戦争記憶日本史 第110回 芥川賞
  1048. 1048 1993 無人車 むじんしゃ 高林杳子 初出・「文學界」1993年6月号(第76回受賞) 『無人車』は、高林杳子が第76回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1993年6月号の書誌を確認できますが、詳細なあらすじ・書評は今回確認できませんでした。題名の移動体と空白のイメージから、都市的な疎外を扱う作品として暫定分類しています。 第76回 文學界新人賞
  1049. 1049 1993 冗談関係のメモリアル じょうだんかんけいのめもりある 中村邦生 初出・「文學界」1993年12月号(第77回受賞、篠原一と同時受賞) 『冗談関係のメモリアル』は、中村邦生が第77回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1993年12月号の書誌を確認できます。題名から、冗談や記憶をめぐる人間関係を扱う作品と見られますが、内容の詳細は未確認です。 記憶家族孤独と疎外 第77回 文學界新人賞
  1050. 1050 1993 壊音 KAI-ON かいおん 篠原一 初出・「文學界」1993年12月号(第77回受賞、中村邦生と同時受賞) 高校生の少女が、自分の身体感覚の崩壊と再生をたどるデビュー作。17歳の最年少受賞として注目された。 身体青春不穏 第77回 文學界新人賞
  1051. 1051 1993 暗い森を抜けるための方法 くらいもりをぬけるためのほうほう 足立浩二 初出・「群像」1993年6月号(第36回優秀作、木地雅映子と同時受賞) 『暗い森を抜けるための方法』は、足立浩二が第36回群像新人文学賞の小説優秀作となった作品です。NDLでは『群像』1993年6月号と受賞発表記事を確認しました。暗い森を抜けるという題名が示す閉塞と脱出のイメージは明確ですが、具体的な筋は未確認です。 孤独と疎外青春簡潔な文体
  1052. 1052 1993 氷の海のガレオン こおりのうみのがれおん 木地雅映子 初出・「群像」1993年6月号(第36回優秀作、足立浩二と同時受賞) 孤独な少女が想像世界へと旅立つ幻想的な物語。のちに文庫化・シリーズ化された人気作となった。 孤独と疎外青春学校
  1053. 1053 1993 19分25秒 じゅうきゅうふんにじゅうごびょう 引間徹 初出・「すばる」1993年 競歩の選手を題材にした小説。義足の競歩選手との出会いを通じて、自分の人生を問い直す青年を描く。続く「地下鉄の軍曹」で芥川賞候補となった。 障害孤独と疎外都市・郊外 第17回 すばる文学賞
  1054. 1054 1993 骸骨山脈 がいこつさんみゃく 野間井淳 初出・「新潮」1993年11月号 『骸骨山脈』は、野間井淳が第25回新潮新人賞を受賞した作品です。NDLでは『新潮』1993年11月号と受賞作発表記事を確認できますが、具体的な筋や書評は今回確認できませんでした。題名の死や山岳のイメージを手がかりにした分類は暫定です。 死と喪失身体簡潔な文体 第25回 新潮新人賞
  1055. 1055 1993 日本の家郷 にほんのかきょう 福田和也 初出・新潮社1993年2月刊 近代日本の精神史・文化史を批評的に読み解いた論考集。保守主義的な視座から日本的なものの本質を問い、車谷長吉と同時に第6回三島由紀夫賞を受賞した(小説・評論の同時受賞という異例のケース)。 記憶言葉と言語日本史 第6回 三島賞
  1056. 1056 1993 ノヴァーリスの引用 のゔぁーりすのいんよう 奥泉光 初出・新潮社1993年刊 恩師の葬儀で集まった旧大学仲間4人が、22年前に亡くなった研究仲間の死の謎を巡って推理を重ねるメタミステリー。文学・哲学的引用を多用した知的な構成が特徴。第15回野間文芸新人賞受賞(保坂和志と同時)。 記憶死と喪失メタフィクション 第15回 野間新人賞
  1057. 1057 1993 草の上の朝食 くさのうえのちょうしょく 保坂和志 初出・「群像」1993年3月号、講談社1993年8月刊 デビュー作「プレーンソング」の続編。鎌倉を舞台に、だらだらとした日常の時間の流れと複数の登場人物の意識の交錯を丁寧に描く。保坂和志が「小説は何を描くべきか」という問いを実践した初期の代表作。第15回野間文芸新人賞受賞(奥泉光と同時)。 実験的文体都市・郊外静謐 第15回 野間新人賞
  1058. 1058 1993 私の自叙伝前篇 わたしのじじょでん ぜんぺん 竹野雅人 初出・「群像」1993年7月号、講談社1994年刊 テレビアニメのスタッフを主人公とした自伝的色彩の強い小説。東宝でアニメ制作に携わる作家自身の経験を素材に、若者のアイデンティティと仕事への逡巡を描く。第16回野間文芸新人賞受賞。 アイデンティティ芸術と表現労働 第16回 野間新人賞
  1059. 1059 1993 マシアス・ギリの失脚 ましあす・ぎりのしっきゃく 池澤夏樹 初出・書き下ろし。1993年6月新潮社刊(純文学書下ろし特別作品)。 赤道近くの架空の島国ナビダード諸島を舞台に、絶大な権力を集める大統領マシアス・ギリをめぐる政治的陰謀と、日本からの慰霊団行方不明事件を重ね合わせて描く長篇。 戦争死と喪失三人称・多視点 第29回 谷崎賞
  1060. 1060 1993 セミの追憶 せみのついおく 古山高麗雄 初出・「新潮」1993年5月号初出。 戦時中の記憶とセミの声を結びつけた老境の短篇。従軍体験を持つ古山高麗雄が、生き残った者の罪責感と記憶の透明な残像を繊細に描く。 戦争記憶死と喪失 第21回 川端賞
  1061. 1061 1992 イビサ イビサ 村上龍 単行本・角川書店 『イビサ』は、精神病院を退院したマチコが男に誘われてパリへ渡り、ドラッグ、セックス、アルコールに浸りながらモロッコ、バルセロナ、イビサ島へ漂流する物語です。海外の都市と身体の破滅感を通じて、自己を失いながらなお移動していく感覚を描きます。初期村上龍の暴力的な欲望と都市的な不安が濃く出た長篇です。 孤独と疎外アイデンティティ
  1062. 1062 1992 国境の南、太陽の西 こっきょうのみなみ、たいようのにし 村上春樹 単行本・講談社 『国境の南、太陽の西』は、バーを経営する主人公・始のもとに、幼なじみの謎めいた女性・島本さんが現れる恋愛長篇です。家庭と事業を持つ中年男性の安定が、過去の記憶と喪失感によって揺さぶられます。静かな一人称の語りで、欲望、後悔、取り返しのつかない時間を描きます。 恋愛記憶東京
  1063. 1063 1992 運転士 うんてんし 藤原智美 初出・「群像」1992年5月号 『運転士』は、郊外住宅地を走るバス運転士の日常を通じて、家族関係の崩壊と男性の内面を描く作品です。職業の反復的な動きと、家庭の不安定さが重なり、都市郊外の生活の閉塞感が浮かびます。藤原智美の社会観察眼が出た芥川賞受賞作です。 労働家族都市・郊外 第107回 芥川賞
  1064. 1064 1992 犬婿入り いぬむこいり 多和田葉子 初出・「群像」1992年12月号 『犬婿入り』は、塾講師の女性が犬に変身した男性と同棲する物語を軸に、言語、身体、変身の主題を展開する作品です。民話的な想像力を現代の都市生活へ持ち込み、人間と動物、女と男、日本語と外部の境界を揺らします。多和田葉子の越境的で実験的な文体がよく現れた芥川賞受賞作です。 アイデンティティ言葉と言語実験的文体 第108回 芥川賞
  1065. 1065 1992 樹木内侵入臨床士 じゅもくないしんにゅうりんしょうし 安斎あざみ 初出・「文學界」1992年6月号(第74回受賞、大島真寿美と同時受賞) 『樹木内侵入臨床士』は、架空の職業をめぐる実験的な物語です。人間の身体や治療の感覚を、樹木の内部へ侵入するという奇妙な設定に置き換えています。現実的な職業小説ではなく、身体と自然の境界をずらす寓話として読むのが近い作品です。 身体実験的文体 第74回 文學界新人賞
  1066. 1066 1992 春の手品師 はるのてじなし 大島真寿美 初出・「文學界」1992年6月号(第74回受賞、安斎あざみと同時受賞) 『春の手品師』は、大島真寿美が第74回文學界新人賞を受賞したデビュー中篇です。名古屋を舞台に、ある関係性の始まりと変化を丁寧に描いた作品として既存調査で確認されています。恋愛や都市生活の気配を、清新な文体で扱う初期作品として位置づけられます。 恋愛都市・郊外 第74回 文學界新人賞
  1067. 1067 1992 ちょっとムカつくけれど、居心地のいい場所 ちょっとむかつくけれど、いごこちのいいばしょ 伏本和代 初出・「文學界」1992年12月号(第75回受賞) 『ちょっとムカつくけれど、居心地のいい場所』は、伏本和代が第75回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1992年12月号の書誌を確認できました。タイトルが示すような、反発と居心地のよさが同居する人間関係を扱う作品と見られますが、詳細内容は未確認です。 第75回 文學界新人賞
  1068. 1068 1992 鳩を食う はとをくう 中野勝 初出・「群像」1992年6月号(第35回優秀作) 『鳩を食う』は、中野勝が第35回群像新人文学賞の小説優秀作となった作品です。NDLでは『群像』1992年6月号と受賞発表記事を確認できますが、具体的なあらすじや批評は今回確認できませんでした。題名の強い身体性を手がかりに分類は暫定補完しています。 身体孤独と疎外
  1069. 1069 1992 音符 おんぷ 三浦恵 初出・「文藝」1992年 『音符』は、三浦恵が第29回文藝賞を受賞した作品です。NDLでは1993年河出書房新社版の単行本書誌と『文藝』1992年12月号の書誌を確認しました。音楽的な題名を持つ作品ですが、内容を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できず、紹介は受賞・書誌中心です。 芸術と表現青春簡潔な文体 第29回 文藝賞
  1070. 1070 1992 チューリップの誕生日 ちゅーりっぷのたんじょうび 楡井亜木子 初出・「すばる」1992年 『チューリップの誕生日』は、女子高生がロックバンドで活動する姿を描く青春小説です。音楽を通じて学校生活や仲間との関係が動き、若い身体感覚と自己表現への欲求が前面に出ます。すばる文学賞受賞作として、1990年代初頭の若い書き手の感性を示す作品です。 青春芸術と表現学校 第16回 すばる文学賞
  1071. 1071 1992 螺旋の肖像 らせんのしょうぞう 別唐晶司 初出・「新潮」1992年11月号 『螺旋の肖像』は、別唐晶司が第24回新潮新人賞を受賞したデビュー作です。医学研究科に在籍していた著者の経歴もあり、身体や認識をめぐる知的な題材が想起されますが、今回確認できた公開資料は受賞発表と掲載誌書誌が中心です。内容面は今後の追加調査が必要です。 身体アイデンティティ実験的文体 第24回 新潮新人賞
  1072. 1072 1992 カワサキタン かわさきたん 中山幸太 初出・「新潮」1992年11月号 『カワサキタン』は、中山幸太が第24回新潮新人賞を受賞した作品です。既存調査では川崎を舞台にした作品とされ、NDLでは受賞発表記事と『新潮』1992年11月号を確認できました。詳細な筋や批評は未確認のため、都市を舞台にした新人賞受賞作として暫定紹介します。 都市・郊外 第24回 新潮新人賞
  1073. 1073 1992 星条旗の聞こえない部屋 せいじょうきの きこえない へや リービ英雄 初出・講談社1992年刊(初出:「群像」1987年に表題作を発表) 『星条旗の聞こえない部屋』は、1960年代後半の横浜で、アメリカ外交官の息子ベン・アイザックが領事館を飛び出し、東京をさまよう物語です。日英二言語の狭間で、自分がどこに属するのかを探る越境文学の先駆的作品です。日本語で書くことそのものが、主人公のアイデンティティの問いと重なっています。 アイデンティティ移民と越境言葉と言語 第14回 野間新人賞
  1074. 1074 1992 鹽壺の匙 しおつぼのさじ 車谷長吉 初出・「新潮」に収録各短編を発表(表題作は「新潮」1992年掲載)、新潮社1992年刊 『鹽壺の匙』は、「なんまんだあ絵」「白桃」「愚か者」などを収める車谷長吉の短篇集です。料理人や下足番としての経験、一族の記憶、身近な死を、私小説的で陰影の濃い文体で描きます。生活の卑近さと死の感覚が近接する、車谷文学の出発点となる作品集です。 家族死と喪失私小説的 第6回 三島賞
  1075. 1075 1992 花に問え はなにとえ 瀬戸内寂聴 初出・単行本1992年中央公論社刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 『花に問え』は、念仏聖・一遍の生涯を追いながら、彼に出会った一人の女性の視点から信仰と無常を描く宗教小説です。歴史上の宗教者を題材にしつつ、信仰へ向かう心の揺れを抒情的にたどります。瀬戸内寂聴の宗教的主題と物語性が結びついた作品です。 信仰死と喪失日本史 第28回 谷崎賞
  1076. 1076 1992 犬(影について・その一) いぬ かげについて そのいち 司修 初出・「新潮」1992年2月号初出。 『犬(影について・その一)』は、「影」というモチーフをめぐる連作の第一作です。犬を通して人間の存在の輪郭を問い直し、視覚的で幻想的なイメージを重ねます。画家・装丁家でもある司修の感覚が、寓話的な短篇の形に反映された作品です。 身体アイデンティティ寓話・幻想 第20回 川端賞
  1077. 1077 1991 自動起床装置 じどうきしょうそうち 辺見庸 初出・「文學界」1991年5月号 『自動起床装置』は、通信社の仮眠室で眠る人々を起こす「起こし屋」を主人公にした作品です。眠りを管理する仕事を通して、現代の労働、身体、文明の疲弊を問います。ジャーナリストでもある辺見庸の観察眼と、実験的な文体が交差する芥川賞受賞作です。 労働テクノロジー実験的文体 第105回 芥川賞
  1078. 1078 1991 背負い水 せおいみず 荻野アンナ 初出・「文學界」1991年6月号 『背負い水』は、荻野アンナが三年連続候補を経て芥川賞を受けた作品です。ラブレー研究者としての言語感覚を背景に、肉体、性、笑いを奔放な語りで絡ませます。湿った私小説性よりも、身体と言葉がはねるようなユーモアが前面に出る作品です。 恋愛都市・郊外 第105回 芥川賞
  1079. 1079 1991 至高聖所(アバトーン) しこうせいしょ あばとーん 松村栄子 初出・「海燕」1991年10月号(福武書店) 『至高聖所(アバトーン)』は、大学生活と若者の精神的な苦闘を叙情的に描く松村栄子の芥川賞受賞作です。親密な関係と孤独、学びの場での息苦しさを、若い語りの感覚で立ち上げます。『海燕』掲載作として芥川賞を受けた点でも、1990年代初頭の文芸誌環境を示す作品です。 孤独と疎外青春一人称 第106回 芥川賞
  1080. 1080 1991 海を渡る植物群 うみをわたるしょくぶつぐん みどりゆうこ 初出・「文學界」1991年6月号(第72回受賞) 『海を渡る植物群』は、みどりゆうこが第72回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLで受賞作発表記事と『文學界』1991年6月号の書誌を確認できました。題名から越境や移動のイメージがうかがえますが、物語内容を具体的に確認できる公開資料は今回見つからず、紹介は書誌中心です。 移民と越境記憶簡潔な文体 第72回 文學界新人賞
  1081. 1081 1991 名前のない表札 なまえのないひょうさつ 市村薫 初出・「文學界」1991年12月号(第73回受賞) 『名前のない表札』は、市村薫が第73回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1991年12月号の書誌を確認できますが、詳細な内容紹介は今回確認できませんでした。題名が示す匿名性や住まいの感覚に関わる作品と見られますが、内容面は低確信です。 第73回 文學界新人賞
  1082. 1082 1991 かかとを失くして かかとをなくして 多和田葉子 初出・「群像」1991年6月号(第34回当選) 『かかとを失くして』は、ドイツ語圏に渡った日本人女性の言語と身体の変容を、夢幻的な語りで描く多和田葉子のデビュー作です。足元の感覚を失うというイメージが、母語の外へ出る不安や、身体の境界の揺らぎにつながっていきます。越境文学・エクソフォニーの出発点として重要な作品です。 アイデンティティ言葉と言語身体 第34回 群像新人賞
  1083. 1083 1991 rose ローズ 川本俊二 初出・「文藝」1991年 『rose』は、大阪を舞台に、優柔不断な青年ノボルと二人の女性との関係を回想的に描く恋愛小説です。穏やかに接するケイコと、サディスティックな朱理という対照的な人物を通じて、欲望と受け身の関係が揺れます。バラの赤が象徴する感情の強さが、都市の恋愛の乾いた感覚と結びついています。 恋愛関西 第28回 文藝賞
  1084. 1084 1991 撃壌歌 げきじょうか 吉野光 初出・「文藝」1991年 『撃壌歌』は、戦後の信州の農村を舞台に、少年の成長と土地の変化を描く二部構成の作品です。封建的な地主制度の残滓と高度成長期の足音が交差し、個人の青春が村の時間の変化と重なります。歴史美術を専門とする著者らしい、土地と記憶へのまなざしが特徴です。 青春記憶地方 第28回 文藝賞
  1085. 1085 1991 予感 よかん 釉木淑乃 初出・「すばる」1991年 『予感』は、釉木淑乃が第15回すばる文学賞を受賞した作品です。NDLでは『すばる』1991年12月号の受賞作発表記事と、1992年集英社版の単行本書誌を確認できます。詳細なあらすじは今回確認できなかったため、紹介は新人賞受賞作としての位置づけに留めます。 恋愛記憶簡潔な文体 第15回 すばる文学賞
  1086. 1086 1991 十二階 じゅうにかい 小口正明 初出・「新潮」1991年11月号 『十二階』は、小口正明が第23回新潮新人賞を受賞した作品です。NDLでは『新潮』1991年11月号と受賞作発表記事を確認できる一方、詳細なあらすじや批評は今回確認できませんでした。作品内容の断定は避け、現時点では新人賞受賞作としての書誌情報を中心に扱います。 記憶簡潔な文体都市・郊外 第23回 新潮新人賞
  1087. 1087 1991 ア・ルース・ボーイ あ るーす ぼーい 佐伯一麦 初出・新潮社1991年刊 『ア・ルース・ボーイ』は、名門進学校を中退した十七歳の少年が、恋人と暮らしながら肉体労働の現場へ入っていく青春小説です。学校から外れた少年が、働く身体と他者との関係を通じて自分の輪郭をつかんでいきます。佐伯一麦の自伝的要素を感じさせる、労働と成長の物語です。 青春労働私小説的 第4回 三島賞
  1088. 1088 1991 なにもしてない なにもしてない 笙野頼子 初出・講談社1991年刊 『なにもしてない』は、生きている実感を求めて現実と幻想のあいだを往還するモノローグの世界を描く作品です。日常の停滞を、単なる無為ではなく、身体と意識がずれていく感覚として押し広げます。笙野頼子の前衛的な私小説性が強く現れた初期代表作です。 孤独と疎外身体私小説的 第13回 野間新人賞
  1089. 1089 1991 やすらかに今はねむり給え やすらかにいまはねむりたまえ 林京子 初出・各短篇は1980年代後半に複数誌に発表。単行本1991年講談社刊。初出連載年の特定が困難なため単行本刊行年を year とした。 『やすらかに今はねむり給え』は、長崎、上海、アメリカを背景に、被爆者としての記憶と海外体験を重ねる短篇集です。戦争の傷を大きな声で告発するだけでなく、戦後を生き続ける人物の静かな時間に沈めて描きます。林京子の原爆文学の系譜にあり、移動と記憶が響き合う一冊です。 戦争記憶死と喪失 第26回 谷崎賞
  1090. 1090 1991 西行花伝 さいぎょうかでん 辻邦生 初出・「新潮」1991年1月号〜1993年6月号(断続連載・全24回)。単行本1995年新潮社刊。初出連載開始年(1991年)を year とした。 『西行花伝』は、平安末期の歌人・西行の生涯を、架空の弟子・藤原秋実の視点から描く大作歴史小説です。出家の謎、和歌、信仰、絶対美への希求が、貴族社会の精緻な描写の中で重なっていきます。歴史小説でありながら、芸術とは何かを問う思索小説として読めます。 芸術と表現信仰三人称・多視点 第31回 谷崎賞
  1091. 1091 1991 伯父の墓地 おじのぼち 安岡章太郎 初出・「新潮」1991年掲載。 『伯父の墓地』は、亡くなった伯父の墓参を題材に、生と死、記憶の連鎖を老境から見つめる短篇です。大きな事件を置かず、親族の記憶と墓地という場所から、時間の堆積を静かに浮かび上がらせます。安岡章太郎晩年の私小説的な成熟が感じられる作品です。 死と喪失記憶老い 第18回 川端賞
  1092. 1092 1991 お供え おそなえ 吉田知子 初出・「海燕」1991年7月号初出。単行本1993年4月福武書店刊。 『お供え』は、盆棚の供え物をめぐって、生者と死者の境界が奇妙に揺らぐ幻想的な短篇です。家庭内の儀礼を起点に、死者への記憶、ユーモア、薄気味悪さが同居します。吉田知子らしい、日常のリアリズムを少しずつ異界へずらしていく語りが読みどころです。 死と喪失寓話・幻想 第19回 川端賞
  1093. 1093 1990 N・P エヌ・ピー 吉本ばなな 単行本・角川書店 『N・P』は、未完の遺作小説をめぐって、翻訳者の死の影に引き寄せられる若者たちを描く長篇です。小説内のテキストと現実の人間関係が絡み合い、恋愛、近親性、喪失の感覚が静かに濃くなっていきます。吉本ばなならしい平明な一人称の語りで、危うい関係の重さを軽やかな文体に沈めています。 死と喪失恋愛言葉と言語
  1094. 1094 1990 静かな生活 しずかなせいかつ 大江健三郎 単行本・講談社 『静かな生活』は、父の不在中、障害を持つ兄イーヨーと妹マーちゃんが暮らす日々を描く連作です。家族のケア、創作、日常の小さな秩序が、妹の視点を通して穏やかに語られます。大江健三郎の家族をめぐる作品群のなかでも、家庭内の静けさと緊張を同時に感じさせる一冊です。 家族障害一人称
  1095. 1095 1990 TVピープル てれびぴーぷる 村上春樹 単行本・文藝春秋 『TVピープル』は、表題作を中心に、都市生活の中へ説明のつかない存在や出来事が入り込む短篇集です。テレビ、飛行機、眠りといった日常的なモチーフが、孤独や現実感のずれを浮かび上がらせます。村上春樹の短篇らしく、平易な一人称の語りが不穏な寓話性へ滑っていく感覚が読みどころです。 テクノロジー孤独と疎外一人称
  1096. 1096 1990 わが人生の時の時 わがじんせいのときのとき 石原慎太郎 単行本・新潮社 『わが人生の時の時』は、石原慎太郎が自身の人生の節目を小説として組み直した自伝的長篇です。作家・政治家としての自己像を、記憶をたどる私小説的な語りで扱います。NDLで新潮社1990年版の書誌を確認でき、紹介文は書誌と既存の短い概要に基づいています。 記憶私小説的
  1097. 1097 1990 惑星P-13の秘密 わくせいピーじゅうさんのひみつ 高橋源一郎 単行本・角川書店 『惑星P-13の秘密』は、二台の壊れたロボットが読み漁る架空の書物を集めたという体裁の作品集です。音楽、スポーツ、文学などの言説を断片化し、偽書やパロディとして再構成するメタフィクションになっています。高橋源一郎らしい、世界文学を遊びながら解体するユーモアが前面に出た一冊です。 芸術と表現メタフィクション架空社会
  1098. 1098 1990 村の名前 むらのなまえ 辻原登 初出・「文學界」1990年6月号 『村の名前』は、中国奥地を舞台に、ある村の名をめぐる記憶と謎を追う中篇です。旅と聞き書きのような手触りを持ちながら、地名が個人や共同体の歴史をどのように抱え込むかを幻想的に描きます。辻原登のデビュー期の越境感覚と、語りの迷宮性が読みどころです。 記憶移民と越境実験的文体 第103回 芥川賞
  1099. 1099 1990 妊娠カレンダー にんしんかれんだー 小川洋子 初出・「文學界」1990年9月号 『妊娠カレンダー』は、妊娠した姉とその夫と同居する「私」が、妊娠の経過を日々観察していく短篇です。生命の誕生を祝福だけでなく、匂い、食べ物、身体への嫌悪や違和感として描く点が際立ちます。淡々とした一人称の記録が、家族の親密さの裏にある不穏さを増幅します。 家族身体母と子 第104回 芥川賞
  1100. 1100 1990 渇水 かっすい 河林満 初出・「文學界」1990年6月号 『渇水』は、水道料金を滞納した家庭の給水停止に向かう水道局員・岩切俊作と、その家の子どもたちをめぐる中篇です。行政の仕事としての「停止」と、生活の水を断たれる人々の現実がぶつかります。乾いた社会派リアリズムで、貧困、労働、家庭の孤立を描く作品です。 労働貧困家族 第70回 文學界新人賞
  1101. 1101 1990 狂いバチ、迷いバチ くるいバチ、まよいバチ 竹野昌代 初出・「文學界」1990年12月号(第71回受賞) 『狂いバチ、迷いバチ』は、竹野昌代が第71回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1990年12月号の書誌を確認できますが、公開された詳細なあらすじ・書評は今回確認できませんでした。題名の不穏さを含め、現時点では新人賞受賞作としての書誌的紹介を中心に扱います。 孤独と疎外身体簡潔な文体 第71回 文學界新人賞
  1102. 1102 1990 コンビニエンス ロゴス こんびにえんす ろごす 高野亘 初出・「群像」1990年6月号(第33回当選) 『コンビニエンス ロゴス』は、コンビニエンスストアを舞台に、商品・看板・会話が記号として氾濫する現代社会を描く作品です。労働の現場を扱いながら、消費社会の言葉が人間関係をどのように組み替えるかをポップに見せます。群像新人文学賞受賞作らしく、都市の日常を言語実験へ接続する点が読みどころです。 言葉と言語労働店・施設 第33回 群像新人賞
  1103. 1103 1990 青春デンデケデケデケ せいしゅんでんでけでけでけ 芦原すなお 初出・「文藝」1990年秋号 『青春デンデケデケデケ』は、1960年代の四国・観音寺で、ベンチャーズに憧れた高校生たちがバンドを組む青春小説です。方言まじりの軽快な語りと音楽への熱中が、地方の高校生活を明るく立ち上げます。懐かしさに寄りかかりすぎず、仲間と音を出す時間の高揚を描くところに魅力があります。 青春地方清新 第27回 文藝賞
  1104. 1104 1990 スプラッシュ すぷらっしゅ 大鶴義丹 初出・「すばる」1990年12月号 『スプラッシュ』は、大鶴義丹が大学在学中に発表し、第14回すばる文学賞を受けたデビュー小説です。NDLでは単行本と受賞作発表記事を確認できますが、作品内容を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できませんでした。現時点では、若い書き手の登場を示す新人賞受賞作として紹介します。 青春 第14回 すばる文学賞
  1105. 1105 1990 革命のためのサウンドトラック かくめいのためのさうんどとらっく 清水アリカ 初出・「すばる」1990年12月号 『革命のためのサウンドトラック』は、言葉が相手に届かず、ノイズのように増殖していく感覚を描く清水アリカのデビュー作です。筋を一直線に追わせるよりも、音、言葉、退廃的な気分を重ねて、都市の閉塞感を前景化します。言語への不信と終末的なムードが交差する、実験色の強い新人賞受賞作です。 孤独と疎外言葉と言語実験的文体 第14回 すばる文学賞
  1106. 1106 1990 キャプテンの星座 きゃぷてんのせいざ 山室一広 初出・「すばる」1990年12月号 『キャプテンの星座』は、市立動物園にゾウがやって来るという出来事をめぐり、動物園に関わる人々の思いと施設の歴史を描く作品です。動物園という公共的な場所を舞台に、働く人々や来園者の記憶が交差します。受賞発表記事と単行本書誌を確認できる一方、詳細な書評は今回確認できていません。 都市・郊外店・施設 第14回 すばる文学賞
  1107. 1107 1990 ランタナの花の咲く頃に らんたなのはなのさくころに 長堂英吉 初出・「新潮」1990年11月号 『ランタナの花の咲く頃に』は、知的障害を持つ甥に見合い話が来るという設定から、家族と地域の関係を描く表題作を含む短篇集です。沖縄出身の長堂英吉が、障害者の結婚や家族の戸惑いを、硬い告発ではなくユーモアと温かみを交えて描きます。受賞時58歳という遅い文壇デビューも、作品の受け止められ方を特徴づけていま… 家族障害地方 第22回 新潮新人賞
  1108. 1108 1990 ドッグ・デイズ どっぐ・でいず 藤枝和則 初出・「新潮」1990年11月号 『ドッグ・デイズ』は、『新潮』1990年11月号に掲載された藤枝和則の新潮新人賞受賞作です。NDLでは受賞作発表記事と掲載誌の書誌を確認できる一方、筋や語り口を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できませんでした。そのため、現時点の紹介は受賞作・デビュー作としての位置づけを中心に留めます。 孤独と疎外簡潔な文体都市・郊外 第22回 新潮新人賞
  1109. 1109 1990 世紀末鯨鯢記 せいきまつ げいげいき 久間十義 初出・河出書房新社1990年3月刊(書き下ろし) 『世紀末鯨鯢記』は、南氷洋の捕鯨船を舞台に、悪夢と現実がせめぎ合う奇想の長篇です。白鯨のモチーフを思わせる巨大な生きものへの執着を通じて、バブル期の狂騒や身体感覚の不安を寓話的に浮かび上がらせます。海上の閉じた空間が、現実離れした不穏さを強めています。 身体寓話・幻想島・海辺 第3回 三島賞
  1110. 1110 1990 ショート・サーキット しょーと さーきっと 佐伯一麦 初出・福武書店1990年刊 『ショート・サーキット』は、電気工として働く人物の日常と内面を描く、佐伯一麦の初期連作短篇集です。肉体労働の現場、工具、疲労、生活の細部を通じて、働くことと自己を保つことの関係を見つめます。私小説的な語りのなかに、都市の労働者の孤独が乾いた手触りで残ります。 労働私小説的職場 第12回 野間新人賞
  1111. 1111 1990 じねんじょ じねんじょ 三浦哲郎 初出・「新潮」1990年掲載。短篇集『みちづれ(短篇集モザイク 1)』(新潮社、1991年)に収録。 『じねんじょ』は、老いた農夫が山芋を掘る日常を通じて、土地への愛着と家族の距離を描く短篇です。大きな事件ではなく、手仕事と沈黙のなかに人生の時間を滲ませるところに味わいがあります。三浦哲郎らしい地方の生活感覚と、老いの静けさが凝縮されています。 家族老い地方 第17回 川端賞
  1112. 1112 1989 人生の親戚 じんせいのしんせき 大江健三郎 単行本・新潮社 二人の息子を失った女性まり恵の苦難と魂の遍歴を描く大江健三郎の長編。喪失を抱えた人物が、宗教的・共同体的な問いに触れながら生を組み替えていく。大江後期の、家族の痛みと救済への希求が結びつく作品として読める。 死と喪失家族信仰
  1113. 1113 1989 ペンギン村に陽は落ちて ペンギンむらにひはおちて 高橋源一郎 単行本・集英社 高橋源一郎が1989年に刊行した、ポップカルチャーの記号と小説の語りを交差させる作品。題名からも分かるように、既存の文化記号をずらして使い、文学とメディアの境目を揺さぶる。筋よりも、引用、冗談、語りの脱線が作る運動を読む作品。 芸術と表現言葉と言語実験的文体
  1114. 1114 1989 ラッフルズホテル ラッフルズホテル 村上龍 単行本・集英社 シンガポールの名門ホテルを思わせる空間を舞台に、旅、欲望、演技する自己を描く村上龍の作品。ホテルという非日常の場所が、登場人物の孤独や消費社会の空虚さを浮かび上がらせる。都市的で乾いた感触の中に、海外への視線と身体感覚が重なる。 孤独と疎外身体
  1115. 1115 1989 白河夜船 しらかわよふね 吉本ばなな 単行本・福武書店 眠りに沈んでいく女性たちを描く三篇を収めた作品集。恋愛、喪失、孤独が、眠りという身体の状態を通じて静かに語られる。吉本ばなな初期の透明な語りと、生死の境目に触れる感覚がよく表れた一冊。 恋愛死と喪失身体
  1116. 1116 1989 TUGUMI つぐみ 吉本ばなな 単行本・中央公論社 海辺の町を舞台に、語り手まりあと、病弱で美しいが激しい気性を持つ少女つぐみの最後の夏を描く長編。家族経営の宿、海辺の時間、恋の予感、病と別れの気配が重なり、青春のまぶしさと残酷さが同時に立ち上がる。吉本ばなならしい平明な一人称で、親密な関係が永遠には続かないことを痛切に描く。 青春家族身体
  1117. 1117 1988 ダンス・ダンス・ダンス だんす・だんす・だんす 村上春樹 単行本・講談社 『羊をめぐる冒険』の後日談として、「僕」が札幌のイルカホテルを再訪し、失われた女性や過去の気配を追っていく長編。現実のホテル、芸能界、ハワイ、羊男のいる異界がつながり、踊り続けることだけが世界との接続の方法として示される。1980年代の都市的な消費社会を背景に、喪失、記憶、孤独を冒険小説のリズムでた… 記憶死と喪失孤独と疎外
  1118. 1118 1988 哀しい予感 かなしいよかん 吉本ばなな 単行本・角川書店 記憶の空白を抱えた少女が、風変わりな親族の家で自分の過去へ近づいていく長編。家族の秘密、喪失、直感のような感覚が、吉本ばなな初期作らしい静かな語りで結びつく。大きな事件よりも、眠りや気配に近い感情の変化を読む作品。 記憶家族死と喪失
  1119. 1119 1988 キルプの軍団 キルプのぐんだん 大江健三郎 単行本・岩波書店 大江健三郎が1988年前後に発表した作品で、寓話的な構図と共同体への問いを含む後期作品群の一つ。公開書誌では全小説・小説集への収録も確認でき、単独作としてだけでなく大江の長い創作系列の中で読む必要がある。内容細部の公開情報は限定的なため、紹介は現段階では主題の方向づけにとどめる。 家族孤独と疎外記憶
  1120. 1120 1988 村上龍料理小説集 むらかみりゅうりょうりしょうせつしゅう 村上龍 単行本・集英社 料理を軸に、欲望、記憶、身体感覚を結びつける村上龍の短篇集。食べることが単なる生活描写ではなく、性、旅、階層、感覚の鋭さを呼び出す装置として働く。村上龍の官能的な文体を、暴力よりも味覚と記憶の側から読める作品集。 身体
  1121. 1121 1988 トパーズ トパーズ 村上龍 単行本・角川書店 SMクラブで働く女性たちの身体、欲望、孤独を都市の夜の中に描く村上龍の作品。性の描写は刺激としてだけでなく、支配、痛み、金銭、自己感覚をめぐる問いとして機能する。乾いた文体で、バブル期都市の消費と身体の商品化を突きつける。 身体暴力
  1122. 1122 1988 うたかた/サンクチュアリ うたかた/サンクチュアリ 吉本ばなな 単行本・福武書店 吉本ばななの初期作品集で、「うたかた」と「サンクチュアリ」を併録する。喪失や恋愛、居場所をめぐる不安を、柔らかく透明な語り口で描く。日常の小さな違和感から、生死のあわいや心の避難場所へ入っていく初期吉本作品らしさがある。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  1123. 1123 1988 優雅で感傷的な日本野球 ゆうがでかんしょうてきなにほんやきゅう 高橋源一郎 初出・海 1986年〜(連作) 「ぼくは野球を知らなかった」――野球が忘れ去られた世界で、語り手は「日本野球」の神髄を教わろうとする。断片的な7つの章で構成され、実在の選手や球団の記憶、「1985年、阪神タイガースは本当に優勝したのだろうか」という問いをめぐって、パロディとパスティーシュ(既存作品の文体模倣)を駆使した物語が時空を… 言葉と言語芸術と表現記憶 第1回 三島賞
  1124. 1124 1987 愛と幻想のファシズム あいとげんそうのファシズム 村上龍 単行本・講談社 経済危機に揺れる日本を舞台に、狩猟者トウジがカリスマ的な政治運動を率いていく長編。金融、メディア、暴力、共同体の欲望が絡み合い、個人の野性や身体性が国家的な幻想へ接続されていく過程を描く。近未来政治小説の形を取りながら、1980年代末の消費社会と権力への不安を大きなスケールで物語化した作品。 暴力アイデンティティテクノロジー
  1125. 1125 1987 キッチン キッチン 吉本ばなな 初出・海燕 1987年11月号 唯一の肉親だった祖母を亡くし、天涯孤独となった大学生の桜井みかげ。眠れるのは冷蔵庫のそばだけ――そんな彼女に、祖母と親しかった青年・田辺雄一が同居を申し出る。雄一の家には、女性として生きる「母」えり子さん(実は父親)がいて、奇妙であたたかい三人の暮らしが始まる。台所と食べることを心の拠り所に、喪失の… 死と喪失家族
  1126. 1126 1987 懐かしい年への手紙 なつかしいとしへのてがみ 大江健三郎 単行本・講談社 語り手が導き手である「ギー兄さん」との関係をたどりながら、自分の文学的半生と故郷の森の記憶を再構成する自伝的長編。私小説の形式を借りながら、実際には作家自身と架空の人物をずらし、記憶・読書・共同体の物語を重ねていく。ダンテを媒介に、帰郷できない作家が森の村と文学の場所を問い直す。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  1127. 1127 1987 ノルウェイの森 のるうぇいのもり 村上春樹 単行本・講談社 1960年代末の学生運動期を背景に、ワタナベと直子、緑の関係を通じて、喪失、恋愛、死者への記憶を描く長編。村上作品としては幻想性を抑えたリアリズム寄りの語りで、音楽、読書、寮生活、療養所の細部が青春の傷を浮かび上がらせる。読みやすい恋愛小説の形を取りながら、親しい死をどう抱えて生きるかという痛切な問… 恋愛死と喪失青春
  1128. 1128 1987 69 sixty nine シックスティナイン 村上龍 単行本・集英社 1969年の佐世保を舞台に、高校生ケンの反乱と文化祭騒動を描く自伝的青春小説。政治の季節、ロック、映画、性への憧れが混ざり合い、重い時代背景を祝祭的な語りで駆け抜ける。村上龍作品の中では、暴力や破滅よりも若者のエネルギーとユーモアが前面に出る。 青春芸術と表現
  1129. 1129 1986 M/Tと森のフシギの物語 エムティーともりのフシギのものがたり 大江健三郎 単行本・岩波書店 四国の森に伝わる物語を、M=母権的な存在とT=トリックスター的な存在の対立・変奏として語る長編。村の伝承、神話、人類学的な型を組み合わせ、作家の幼年期の森を大きな物語装置へ変えていく。短い断章を積み重ねる構成で、個人の記憶と共同体の神話が互いに照らし合う。 記憶アイデンティティ家族
  1130. 1130 1986 パン屋再襲撃 ぱんやさいしゅうげき 村上春樹 単行本・文藝春秋 表題作は、深夜に激しい空腹に襲われた夫婦が、過去の「パン屋襲撃」の呪いを解くため再び街へ出る奇妙な短篇。文春文庫公式ページでは「象の消滅」や“ねじまき鳥”の原型となる作品を含む初期短篇集として紹介されており、食欲、結婚生活、都市の空白が寓話的に結びつく。軽い会話と不穏な空気が同時に進む、初期村上短篇… 孤独と疎外家族
  1131. 1131 1985 ジョン・レノン対火星人 ジョン・レノンたいかせいじん 高橋源一郎 単行本・角川書店 高橋源一郎の初期作品で、音楽、SF的な想像力、文学の制度を横断するような題名の通り、ジャンルの境界を遊びながら崩していく。物語の筋だけでなく、固有名やサブカルチャーの断片が語りを動かす点に読みどころがある。実験的な笑いと不穏さが同居する、ポストモダン文学の入口に置ける作品。 芸術と表現言葉と言語アイデンティティ
  1132. 1132 1985 河馬に嚙まれる かばにかまれる 大江健三郎 単行本・文藝春秋 連合赤軍事件の記憶や、その後を生きる人々の傷を背景にした連作短篇集。表題作では、政治的暴力の記憶と個人の身体感覚が奇妙に結びつき、過去を説明しきれないまま抱え続ける人間の多義性が浮かび上がる。寓話的な動物イメージと自己照射的な語りを通して、1970年代の事件の残響を1980年代の生へ引き寄せる。 暴力記憶身体 第11回 川端賞
  1133. 1133 1985 回転木馬のデッド・ヒート かいてんもくばのでっどひーと 村上春樹 単行本・講談社 実際に聞いた話を小説の形に組み替えた、都市生活者たちの短いスケッチ集。表題の「回転木馬」は、同じ場所を巡り続けながら誰も抜け出せない人生の比喩として働き、各篇の人物は小さな違和感や疲労を抱えたまま日常を走り続ける。事実と虚構の境界をあいまいにしながら、村上春樹の乾いた観察眼と抑制されたユーモアが前面… 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  1134. 1134 1985 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド せかいのおわりとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹 初出・書き下ろし 二つの物語が交互に進む40章構成の長編。〔ハードボイルド・ワンダーランド〕では、老科学者によって意識の核に特殊な思考回路を組み込まれた計算士の「私」が、地下の闇に潜む「やみくろ」や組織の抗争に巻き込まれながら、回路に隠された秘密を追う。〔世界の終り〕では、高い壁に囲まれた静かな街で、「僕」が一角獣の… アイデンティティ記憶テクノロジー 第21回 谷崎賞
  1135. 1135 1985 テニスボーイの憂鬱 テニスボーイのゆううつ 村上龍 単行本・集英社 村上龍が1985年に刊行した長編。テニスや消費文化の明るい表層を背景に、若者の空虚さ、身体感覚、欲望の行き場のなさを描く作品として読める。初期村上龍の過剰な都市感覚を、暴力だけでなく遊戯性や倦怠から見るための一冊。 青春身体孤独と疎外
  1136. 1136 1984 螢・納屋を焼く・その他の短編 ほたる・なやをやく・そのたのたんぺん 村上春樹 単行本・新潮社 「螢」「納屋を焼く」などを収めた初期短編集。新潮社の紹介では「螢」が『ノルウェイの森』の原点とされ、学生時代の喪失と届かない温もりが抑制された一人称で描かれる。「納屋を焼く」は日常会話の奥に説明されない空白を置き、静かな恋愛小説と不穏な幻想が同じ冊子のなかで並ぶ構成になっている。 死と喪失記憶恋愛
  1137. 1137 1984 虹の彼方に にじのかなたに 高橋源一郎 単行本・中央公論社 高橋源一郎の初期長編で、ポップカルチャーの速度と文学的な実験が混ざり合う作品。既成の小説らしさをずらしながら、語りの軽さ、引用、遊びの感覚で現代の気分を立ち上げる。筋を追うだけでなく、言葉やジャンルがほどけていく過程を読む作品として扱いたい。 芸術と表現言葉と言語青春
  1138. 1138 1983 新しい人よ眼ざめよ あたらしいひとよめざめよ 大江健三郎 単行本・講談社 障害を持つ息子イーヨーとの日常を、ウィリアム・ブレイクの詩を媒介に見つめ直す連作小説。語り手は息子の成長、死や性への問い、家族のなかの不安を受け止めながら、文学の言葉が現実のケアとどのように結びつくかを探る。私小説的な素材を思想的な読解と重ねることで、父と子の関係を閉じた家族の物語にせず、他者と共に… 家族身体芸術と表現
  1139. 1139 1983 中国行きのスロウ・ボート ちゅうごくゆきのすろうぼーと 村上春樹 単行本・中央公論社 村上春樹の最初の短篇小説集で、表題作をはじめ、初期作品に特徴的な一人称の軽さ、記憶の空白、都市生活の孤独が並ぶ。長編の「僕」の世界から少し距離を取り、短篇ごとに日常の違和感、すれ違う他者、説明されない幻想を試している。淡いユーモアと乾いた喪失感が共存し、初期村上短篇の実験場として読むことができる。 記憶孤独と疎外アイデンティティ
  1140. 1140 1983 だいじょうぶマイ・フレンド だいじょうぶマイ・フレンド 村上龍 単行本・集英社 村上龍が1983年に刊行した、映画化とも接続するポップな幻想小説。現実の都市感覚に、異質な存在との遭遇や友情のモチーフを重ね、初期村上龍の暴力的なリアリズムとは別の軽さを見せる。サブカルチャー、映像、音楽的な速度感を小説へ持ち込む読みどころがある。 青春芸術と表現孤独と疎外
  1141. 1141 1983 カンガルー日和 かんがるーびより 村上春樹 単行本・平凡社 村上春樹の初期短編集で、ショートショートを含む短い物語が並ぶ。日常の手ざわりからふいに幻想へ滑り込む語り口が特徴で、軽いユーモアの奥に孤独や関係の不確かさが残る。後年の長編へ続く比喩、欠落、都市生活者の感覚をコンパクトに読むことができる。 孤独と疎外恋愛芸術と表現
  1142. 1142 1983 若者たちの悲歌 わかものたちのひか 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1983年に刊行した作品。公開情報では詳細な梗概や批評が限定的なため、題名が示す若者像と悲劇性を手がかりに、世代の違和や社会との摩擦を扱う後期作として暫定整理する。内容の精査は現物・書評確認の優先候補として残す。 青春孤独と疎外同調圧力
  1143. 1143 1982 羊をめぐる冒険 ひつじをめぐるぼうけん 村上春樹 単行本・講談社 広告代理店で働く「僕」は、耳に星形の斑紋を持つ謎の羊を探すよう依頼され、ガールフレンドとともに北海道へ向かう。右派の大物、秘書、羊男、そして姿を消した鼠の痕跡が重なり、探偵小説めいた筋立ては次第に幻想と喪失の物語へ変質していく。初期の軽やかな一人称の語りを保ちながら、政治的な力、戦後の記憶、個人の空… 記憶孤独と疎外アイデンティティ 第4回 野間新人賞
  1144. 1144 1982 「雨の木」を聴く女たち 「レイン・ツリー」をきくおんなたち 大江健三郎 単行本・新潮社 「雨の木」という象徴的なイメージを核に、死者の記憶、喪失、救いの可能性をめぐる連作短篇集。マルカム・ラウリーなど西洋文学への参照と、樹木・音・女性たちの声が重なり、現実の痛みを神話的な想像力へ押し広げていく。大江健三郎の1980年代の作品群のなかでも、個人的な死生観と文学的引用が静かに響き合う作品と… 死と喪失記憶芸術と表現
  1145. 1145 1982 さようなら、ギャングたち さようならギャングたち 高橋源一郎 単行本・講談社 詩の学校で教える「僕」と、名前や物語のルールがずれていくギャングたちの世界を、断章・引用・言葉遊びで組み上げるデビュー長編。ギャングたちは犯罪集団というより、言語と記憶のなかで生成される虚構の仲間として現れ、物語は詩、ポップカルチャー、メタフィクションを軽やかに横断する。青春小説の形式を借りながら… 芸術と表現青春アイデンティティ
  1146. 1146 1981 星空 ほしぞら 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1981年に刊行した後期作品。公開データでは梗概・批評の確認が薄く、まずは新潮社刊行作としての書誌を押さえる段階にある。作家後期の視点から、記憶や老い、社会の中での孤立を読む軸を仮に与えておく。 記憶老い孤独と疎外
  1147. 1147 1980 1973年のピンボール せんきゅうひゃくななじゅうさんねんのぴんぼーる 村上春樹 単行本・講談社 『風の歌を聴け』に続く「鼠三部作」第二作で、翻訳事務所を営む「僕」の生活と、故郷に残る鼠の停滞が並行して語られる。「僕」はかつて通ったバーにあったピンボール台を探し、双子の女性との奇妙な同居や電話配電盤の葬送を経て、失われた時間の手触りに近づいていく。軽い会話と乾いたユーモアの背後に、青春の終わり… 記憶孤独と疎外青春
  1148. 1148 1980 コインロッカー・ベイビーズ コインロッカー・ベイビーズ 村上龍 単行本・講談社 1972年夏、コインロッカーに遺棄されたキクとハシは、施設と養家を経て、それぞれ異なるかたちで母の不在と都市への怒りを抱え込む。ハシは歌声とショービジネスに、キクはアネモネや毒物ダチュラをめぐる破壊衝動に引き寄せられ、東京は欲望と暴力が増殖する異様な空間として立ち上がる。棄児、身体、都市、音の記憶を… 暴力身体家族 第3回 野間新人賞
  1149. 1149 1980 七人の敵が居た しちにんのてきがいた 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1980年に刊行した後期長編。公開情報では内容紹介や主要書評が乏しいため、現時点では同時期の石川作品群の一冊として書誌を確定し、詳細な筋や評価は保留する。社会と個人の摩擦を描いてきた石川の作家的関心に照らし、孤立や対立の構図を読むための候補作として位置づける。 孤独と疎外アイデンティティ三人称・多視点
  1150. 1150 1979 同時代ゲーム どうじだいゲーム 大江健三郎 単行本・新潮社 四国の森の谷間にある「村=国家=小宇宙」を、手紙・神話・歴史の断片を重ねて語り直す実験的長編。語り手は村の起源、反乱、血縁、移住の記憶を再編し、個人の物語ではなく共同体が自分自身を語る仕組みそのものを小説化する。大江の森の神話と戦後政治への問いが、濃密な語りの構造として展開される。 記憶アイデンティティ暴力
  1151. 1151 1979 風の歌を聴け かぜのうたをきけ 村上春樹 単行本・講談社 1970年の夏、「僕」と友人「鼠」の9日間を描いた村上春樹のデビュー作。短い章、乾いた会話、音楽や翻訳文学の気配によって、青春の終わりと喪失感が軽やかに語られる。後の「鼠三部作」へ続く、村上春樹の文体と世界観の出発点である。 青春記憶孤独と疎外 第22回 群像新人賞
  1152. 1152 1977 独りきりの世界 ひとりきりのせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1970年代後半に刊行した作品。題名が示す孤独を中心に、社会や家族から切り離された人物の世界を描く作品として暫定整理する。公開情報が少ないため、内容細部は未確認だが、後期石川の個人の孤立への関心を読む候補作である。 孤独と疎外老いアイデンティティ
  1153. 1153 1977 海の向こうで戦争が始まる うみのむこうでせんそうがはじまる 村上龍 単行本・講談社 村上龍が『限りなく透明に近いブルー』後に発表した初期長編。題名の通り、戦争が遠くで始まるという感覚を、若者の身体や都市的な不安と接続する。暴力、メディア、距離感のずれを通じて、初期村上龍の社会への鋭い視線を読む作品である。 戦争青春暴力
  1154. 1154 1976 限りなく透明に近いブルー かぎりなくとうめいにちかいブルー 村上龍 初出・群像 1976年6月号 米軍基地の街・福生のハウスを舞台に、19歳のリュウとその仲間たちの日々を描く。ドラッグとロック、黒人兵たちとの乱痴気騒ぎ、セックスと暴力に明け暮れる若者たちの退廃を、感傷を排した即物的な描写と、ガラスの破片や雨に濡れた滑走路といった鮮烈なイメージの連なりで定着させる。荒廃の只中にいながらどこか透明な… 暴力孤独と疎外 第75回 芥川賞
  1155. 1155 1976 ピンチランナー調書 ピンチランナーちょうしょ 大江健三郎 単行本・新潮社 大江健三郎が1976年に刊行した実験的長編。父子関係、身体、記録や調書の形式を通して、現実と幻想の境界を揺らす。障害のある子をめぐる大江の継続的主題が、メタフィクション的な構成と結びつく作品である。 父と子障害身体
  1156. 1156 1974 その最後の世界 そのさいごのせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1970年代に刊行した後期作品。題名は終末や閉ざされた世界を想起させ、社会の行き詰まりと個人の孤独を読む手がかりになる。公開情報が限られるため、後期石川の社会観・人生観を示す作品として暫定紹介する。 孤独と疎外老い記憶
  1157. 1157 1973 洪水はわが魂に及び こうずいはわがたましいにおよび 大江健三郎 単行本・新潮社 核シェルターに籠る父子と「自由航海団」の若者たちの交流と破局を描く長編。核時代の不安、障害のある子との関係、共同体への希求が、大江らしい寓話的な構図で結びつく。個人の魂の危機を、世界的な破局の想像力へ接続する作品。 障害父と子戦争
  1158. 1158 1972 みずから我が涙をぬぐいたまう日 みずからわがなみだをぬぐいたまうひ 大江健三郎 単行本・講談社 大江健三郎の1970年代の作品で、個人的な記憶や家族の傷が、天皇制や戦後史への問いと重なっていく。題名の荘重さに対し、語りは自己の痛みを過剰なほど意識化する。大江の私的主題と政治的主題が強く結びつく作品である。 記憶父と子戦争
  1159. 1159 1971 解放された世界 かいほうされたせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1971年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。「解放」という語が示す自由への期待と、その後に残る孤独や責任を読む軸がある。公開梗概が薄いため、戦後社会の価値観の変化を扱う作品として暫定的に分類する。 アイデンティティ孤独と疎外同調圧力
  1160. 1160 1970 化石の森 かせきのもり 石原慎太郎 単行本・新潮社 政界・財界の腐敗を描いた石原慎太郎の長編政治小説。若者の感覚を描いた初期作とは違い、権力の硬直と社会の閉塞を「化石」のイメージで捉える。篠田正浩監督による映画化もあり、政治小説としての石原を確認できる作品。 同調圧力労働アイデンティティ
  1161. 1161 1969 愉しかりし年月 たのしかりしとしつき 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1969年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。題名は過ぎ去った年月への回想を示し、記憶と老い、生活の時間を扱う作品として読める。公開情報が限られるため、後期へ向かう石川の回想的な小説として暫定整理する。 記憶老い家族
  1162. 1162 1969 われらの狂気を生き延びる道を教えよ われらのきょうきをいきのびるみちをおしえよ 大江健三郎 単行本・新潮社 父と障害のある息子、狂気や暴力にさらされた若者たちをめぐる中短篇を束ねた作品集。表題作では家族の内部にある痛みと外部世界の不穏が結びつき、個人的な危機が時代の狂気をどう生き延びるかという問いへ広がる。大江が1960年代に深めた身体・父性・責任の主題を、寓話性と切迫した心理描写で展開する。 家族身体孤独と疎外
  1163. 1163 1968 青春の蹉跌 せいしゅんのさてつ 石川達三 単行本・新潮社 夢を持つ青年が挫折と欲望に追い詰められていく過程を描いた長編。青春の理想が、社会的成功への欲望や恋愛、罪の意識によって崩れていく。ベストセラーとなり映画化もされた、石川達三の通俗性と社会批評が接続する作品である。 青春恋愛アイデンティティ
  1164. 1164 1967 万延元年のフットボール まんえんがんねんのフットボール 大江健三郎 単行本・講談社 友人の死と家族の危機を抱えた蜜三郎が、弟の鷹四とともに四国の谷間の村へ戻り、百年前の一揆の記憶と向き合う長編。兄弟の対立、障害をもつ子の存在、共同体に残る暴力の記憶が、過去と現在を重ねる構成の中で展開する。閉ざされた村落を神話的な舞台として、個人史と共同体史、政治的熱狂と責任の問題を絡み合わせた大江… 家族記憶暴力 第3回 谷崎賞
  1165. 1165 1967 約束された世界 やくそくされたせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1967年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。題名は理想や未来への約束を示す一方、それが現実の社会で損なわれる可能性も含む。公開情報が少ないため、戦後社会の期待と挫折をめぐる作品として暫定紹介する。 アイデンティティ同調圧力孤独と疎外
  1166. 1166 1966 金環蝕 きんかんしょく 石川達三 単行本・新潮社 政界と財界の癒着を描いた石川達三の政治小説。ダム利権をめぐる汚職を告発的に扱い、個人の倫理よりも制度と権力の腐敗を前景化する。社会派作家としての石川の問題意識が、政治経済の構造へ向けられた作品である。 労働同調圧力貧困
  1167. 1167 1964 傷だらけの山河 きずだらけのさんが 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1960年代半ばに刊行した社会小説。題名の「山河」は個人だけでなく社会全体の傷を想起させ、戦後復興の陰にある矛盾や疲弊を読む軸を与える。公開梗概は薄いが、政治・経済・生活の歪みを扱う作品として暫定的に整理する。 労働同調圧力貧困
  1168. 1168 1964 個人的な体験 こじんてきなたいけん 大江健三郎 単行本・新潮社 脳に重い障害をもつ子の誕生に直面した青年バードが、父になることへの恐怖と逃避願望に追い詰められていく長編。酒、性、アフリカへの空想に逃げ込むバードの混乱を追いながら、私的な出来事が責任、倫理、家族の問題へ変わっていく過程を描く。滑稽さと残酷さが同居する語り口で、父性を美談にせず、引き受けることの困難… 家族身体死と喪失
  1169. 1169 1964 日常生活の冒険 にちじょうせいかつのぼうけん 大江健三郎 単行本・文藝春秋新社 大江健三郎の1960年代の長編で、「日常生活」と「冒険」という相反する語を重ねる題名が印象的な作品。平凡な生活の内部に、暴力、性、幻想的な逸脱が入り込む大江らしい構図を持つ。日常の足場が崩れていく不穏さを読む作品である。 孤独と疎外暴力
  1170. 1170 1963 叫び声 さけびごえ 大江健三郎 単行本・講談社 大江健三郎が1963年に刊行した作品で、切迫した題名の通り、若者の不安や社会的暴力を強い声として立ち上げる。公開情報では細部の梗概は限定的だが、初期大江の身体性、政治性、孤立感を読む作品として整理できる。全小説・作品集への収録も確認できる。 青春暴力孤独と疎外
  1171. 1171 1963 性的人間 せいてきにんげん 大江健三郎 単行本・新潮社 大江健三郎が性と人間存在を正面から扱った初期作品。性を単なる欲望としてではなく、身体、羞恥、孤独、社会への反抗が交差する場として描く。初期大江の挑発的な主題設定と、重くねじれた文体を読む作品である。 身体孤独と疎外
  1172. 1172 1962 遅れてきた青年 おくれてきたせいねん 大江健三郎 単行本・新潮社 大江健三郎の初期長編で、「遅れてきた」若者の屈折した自己意識を描く作品。戦後の政治的・性的な不安を背景に、青年が自分の時代に乗り遅れた感覚を抱える。初期大江らしい、青春小説でありながら痛切で不穏な読み味を持つ。 青春アイデンティティ孤独と疎外
  1173. 1173 1961 充たされた生活 みたされたせいかつ 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1960年代初頭に刊行した生活小説。題名の「充たされた」が逆説的に響くように、安定した生活の中にある不満や空虚を扱う作品として読める。公開情報が限られるため、家族、階層、生活倫理の揺らぎを主題にした暫定紹介とする。 家族夫婦孤独と疎外
  1174. 1174 1959 人間の壁 にんげんのかべ 石川達三 単行本・新潮社 教育現場を舞台に、教師たちの苦闘と理想を描いた石川達三の大河社会小説。学校という制度を通じて、戦後社会の矛盾、労働、政治的な圧力を広く描く。個人の善意だけでは越えられない「壁」を、複数の人物の視点で見せる作品である。 労働同調圧力貧困
  1175. 1175 1959 われらの時代 われらのじだい 大江健三郎 単行本・中央公論社 大江健三郎が1959年に刊行した初期長編。敗戦後世代の若者たちの閉塞、政治感覚、性や暴力への傾斜を通じて、「われら」と呼べる時代の不安を描く。初期大江の実存的な焦燥と社会への違和感が前面に出る作品。 青春孤独と疎外
  1176. 1176 1959 山塔 さんとう 斯波四郎 初出・「早稲田文学」1959年5月号(第41回芥川賞受賞) 『山塔』は、斯波四郎が第41回芥川賞を受賞した短篇集の表題作です。公開資料で詳しい筋を確認できる範囲は限られますが、生活の厚みと人間の時間を描く作品として評価されました。既存調査にある選評の要点からは、技巧よりも「人生」が感じられる点が評価されたことがわかります。 記憶家族老い 第41回 芥川賞
  1177. 1177 1959 死の棘(初期連作) しのとげ(しょきれんさく) 島尾敏雄 初出・「文學界」「群像」1959〜1960年に連作短篇として分載開始(「家の中」「家の外で」など)。初刊単行本は1960年講談社、完結版は1977年新潮社刊。 『死の棘(初期連作)』は、妻の精神疾患と夫婦生活の崩壊を、逃げ場のない一人称で書き継いだ私小説的連作です。家庭という最も近い場所が病と疑念によって変質していく過程を、苛烈な自己凝視で描きます。のちに完結版へ至る島尾敏雄文学の中心的モチーフが、初期の連作段階からすでに現れています。 夫婦家族
  1178. 1178 1958 完全な遊戯 かんぜんなゆうぎ 石原慎太郎 単行本・新潮社 若者たちの倦怠と残虐な「遊び」を描いた石原慎太郎の中篇。遊戯の名の下に暴力がエスカレートしていく構図は、戦後若者文化への不安と反発を強く帯びる。太陽族文学の享楽性の裏側にある空虚さを読む作品である。 青春暴力
  1179. 1179 1958 亀裂 きれつ 石原慎太郎 単行本・新潮社 石原慎太郎が1950年代に刊行した作品で、戦後社会の価値観のひび割れを思わせる題名を持つ。公開情報では細部の梗概が少ないため、初期石原の若者像や社会への挑発を含む作品として暫定整理する。個人と社会、欲望と規範の間に走る亀裂を読む軸を置く。 青春同調圧力アイデンティティ
  1180. 1180 1958 芽むしり仔撃ち めむしりこうち 大江健三郎 単行本・講談社 戦争末期、感化院の少年たちが山村へ移送され、疫病を恐れた村人たちに置き去りにされる初長編。少年たちは閉ざされた村で短い自治と連帯を作ろうとするが、共同体の暴力と大人たちの保身によってその世界は崩れていく。少年の身体感覚に近い切迫した語りで、戦時下の排除、無垢の破壊、周縁に追いやられた者たちの一瞬の自… 戦争暴力青春
  1181. 1181 1958 飼育 しいく 大江健三郎 初出・文學界 1958年1月号 戦争末期、外界から隔てられた山間の寒村に米軍機が墜落し、生き残った黒人兵が捕虜として捕らえられる。県の指示が出るまで村で「飼う」ことになった黒人兵に食事を運ぶ役を担った少年「僕」は、言葉の通じない相手とのあいだに、獣を飼い馴らすような、しかし確かな親密さを育てていく。子どもたちの祝祭めいた共生の日々… 戦争暴力青春 第39回 芥川賞
  1182. 1182 1958 死者の奢り ししゃのおごり 大江健三郎 単行本・文藝春秋新社 大学の死体処理室でアルバイトをする若者たちを描く、初期大江の代表的な短篇。死者は畏怖の対象であると同時に、運搬され、数えられ、処理される物質として現れ、生と死の境界が事務的な労働の場に引き寄せられる。若い語り手の冷えた感覚と不安を通して、戦後の身体感覚、死への距離、社会の片隅に置かれた労働の異様さが… 死と喪失身体労働
  1183. 1183 1957 硫黄島 いおうじま 菊村到 初出・「文學界」1957年6月号 『硫黄島』は、太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島を題材にした戦争小説です。戦闘の記憶を扱いながら、兵士個人の生と死が国家や軍事の物語に回収されていく重さを描きます。公開出典から確認できる内容紹介は限られるため、ここでは受賞・書誌情報を中心に整理しています。 戦争死と喪失暴力 第37回 芥川賞
  1184. 1184 1957 裸の王様 はだかのおうさま 開高健 初出・「文學界」1957年12月号(第38回芥川賞受賞) 『裸の王様』は、企業の付設美術教室で働く主人公が、子どもたちの表現を管理しようとする組織と向き合う短篇です。子どもの自由な絵と大人の制度的な論理を対比させ、個人が組織に取り込まれていく過程を批評します。開高健の社会批評性と寓話性が、読みやすい構図のなかに収まった出世作です。 芸術と表現同調圧力労働 第38回 芥川賞
  1185. 1185 1956 処刑の部屋 しょけいのへや 石原慎太郎 単行本・新潮社 大学生の性的奔放と暴力を描いた石原慎太郎の初期代表短篇。若者の身体感覚、退屈、残酷さを挑発的に描き、「太陽族」文学の衝撃を広げる作品となった。戦後の新しい若者像を、道徳的な安定ではなく暴力と欲望の側から提示する。 青春暴力
  1186. 1186 1956 四十八歳の抵抗 よんじゅうはっさいのていこう 石川達三 単行本・新潮社 中年男性が若い女性に惹かれ、家庭と欲望の間で揺れる姿を描いた長編。年齢、性、家庭内の役割が絡み合い、戦後の中産階級的生活の安定が揺らぐ。映画化もされた話題作で、石川達三が家族と欲望を社会的に描いた一作。 夫婦家族
  1187. 1187 1956 海人舟 かいとぶね 近藤啓太郎 初出・「文學界」1956年2月号(第35回芥川賞受賞) 『海人舟』は、千葉・鴨川の海辺を背景に、漁師たちの労働と土地に根ざした生活を描く短篇です。近藤啓太郎自身の漁業体験に近い素材を、海と身体の感覚を伴うリアリズムで扱っています。都市の内面劇とは違う、海辺の共同体と労働の重さが読みどころです。 労働身体家族 第35回 芥川賞
  1188. 1188 1956 金閣寺 きんかくじ 三島由紀夫 初出・「新潮」1956年1〜10月号連載。単行本は1956年10月、新潮社刊。 『金閣寺』は、1950年の金閣寺放火事件に着想を得て、吃音と自己嫌悪を抱える若い僧が美に囚われていく過程を描く長篇です。金閣の絶対的な美が主人公の現実感を侵食し、破壊衝動へ変わるまでを緊密な心理描写で追います。三島由紀夫の美意識とニヒリズムが最も鋭く結びついた戦後文学の代表作です。 芸術と表現身体暴力
  1189. 1189 1955 太陽の季節 たいようのきせつ 石原慎太郎 初出・文學界 1955年7月号 裕福な家庭に育ち、拳闘に打ち込む高校生・津川竜哉が主人公。湘南の海やヨット、盛り場を舞台に、既成の倫理や大人の価値観を軽蔑し、喧嘩や女性関係を遊戯のように楽しむ戦後世代の若者たちの生態を描く。竜哉は英子という女性と出会い、互いに駆け引きめいた恋愛を続けるうちに、欲望と愛情の間で関係は思わぬ方向へ傾い… 青春恋愛 第34回 芥川賞
  1190. 1190 1955 白い人 しろいひと 遠藤周作 初出・「近代文學」1955年5〜6月号(第33回芥川賞受賞) 『白い人』は、ナチ占領下のフランスを舞台に、拷問と背徳を通して悪の問題を問う遠藤周作の中篇です。信仰の有無を単純に裁くのではなく、人間が悪へ傾く瞬間を内面から探ります。カトリック作家としての遠藤の問題意識が、以後の『沈黙』などへつながる出発点として読めます。 信仰暴力戦争 第33回 芥川賞
  1191. 1191 1954 驟雨 しゅうう 吉行淳之介 初出・「文學界」1954年2月号(第31回芥川賞受賞) 『驟雨』は、料亭の女との短い逢瀬を軸に、中年男の倦怠と孤独を描く短篇です。感情を大きく説明せず、会話や身振りの細部から男女の距離を読ませるところに特徴があります。吉行淳之介の乾いた都市的感覚が、第三の新人の作風を代表するかたちで現れています。 恋愛孤独と疎外 第31回 芥川賞
  1192. 1192 1954 プールサイド小景 ぷーるさいどしょうけい 庄野潤三 初出・「群像」1954年12月号(第32回芥川賞受賞) 『プールサイド小景』は、社員旅行の一日を舞台に、家庭を持つ男の欲望と罪悪感を細密に描く短篇です。劇的事件よりも視線、沈黙、気まずさの変化を追うことで、都市生活者の不安を浮かび上がらせます。庄野潤三の静かな日常描写のなかに、戦後の家庭と個人の距離感が滲む作品です。 夫婦家族恋愛 第32回 芥川賞
  1193. 1193 1954 アメリカン・スクール あめりかん・すくーる 小島信夫 初出・「文學界」1954年9月号(第32回芥川賞受賞、庄野潤三「プールサイド小景」と同時受賞) 『アメリカン・スクール』は、占領下日本の英語教師たちがアメリカ人学校を見学する一日を描く短篇です。英語を教えながら英語に怯える教師たちの滑稽さを通して、敗戦後の対米感情と自意識のゆがみが浮かびます。小島信夫らしいユーモアと違和感のある会話が、戦後日本の心理的占領状態を照らします。 戦争言葉と言語同調圧力 第32回 芥川賞
  1194. 1194 1954 潮騒 しおさい 三島由紀夫 初出・書き下ろし長篇。1954年6月10日、新潮社刊。 『潮騒』は、三重県の孤島を舞台に、若い漁夫と海女の恋を明るく端正に描く長篇です。古代ギリシャの牧歌的恋愛物語を思わせる構成を、日本の海辺の共同体に置き換えています。三島由紀夫作品のなかでは例外的に清明な青春小説として読まれ、自然と身体の健やかさが強く印象に残ります。 青春恋愛身体
  1195. 1195 1953 最後の共和国 さいごのきょうわこく 石川達三 単行本・中央公論社 石川達三が1950年代に刊行した政治性の強い題名を持つ作品。共同体や国家の理念がどのように崩れ、個人の生活へ影を落とすのかを考える社会小説として読める。公開梗概が少ないため、政治的寓意と戦後社会批判を中心に暫定整理する。 同調圧力労働アイデンティティ
  1196. 1196 1952 真空地帯 しんくうちたい 野間宏 初出・書き下ろし長篇。1952年2月、河出書房刊。 『真空地帯』は、軍隊内務班という閉じた空間で、暴力と服従が日常化していく構造を描いた長篇です。野間宏自身の軍隊経験を背景に、命令・階級・沈黙が個人を追い詰める過程を厚いリアリズムで追います。戦争を前線の英雄譚ではなく、組織の非人間性として描いたところに作品の強さがあります。 戦争暴力同調圧力
  1197. 1197 1952 或る「小倉日記」伝 あるこくらにっきでん 松本清張 初出・「三田文学」1952年9月号(第28回芥川賞受賞) 『或る「小倉日記」伝』は、森鷗外の小倉時代を記録することに生涯を傾けた人物を主人公にする短篇です。文学史の周縁にいる無名の調査者の執念をたどり、資料を追う行為そのものを物語化しています。史実と想像を接続する構成が、のちの松本清張の記録性・推理性を予告します。 記憶芸術と表現障害 第28回 芥川賞
  1198. 1198 1951 風にそよぐ葦 かぜにそよぐあし 石川達三 単行本・新潮社 戦後の混乱期を生き抜く民衆の姿を、新聞社を舞台に描いた長編社会小説。報道、政治、生活の不安が交差する場として新聞社を置き、戦後民主主義の理想と現実のずれを描く。複数の人物を通じて社会全体を見渡す、大河的な読み味がある。 労働同調圧力戦争
  1199. 1199 1951 かべ 安部公房 初出・「近代文学」1951年2月号(第25回芥川賞受賞) 『壁』は、ある朝突然に名前を失った男S・カルマ氏の不条理な遍歴を描く安部公房の前衛的中篇です。現実の制度や所有の感覚がずれていく過程を、寓話的で実験的な文体によって追い詰めます。戦後日本文学に不条理文学・シュールレアリスムの感覚を持ち込んだ、安部公房の出発点となる作品です。 アイデンティティ孤独と疎外言葉と言語 第25回 芥川賞
  1200. 1200 1951 春の草 はるのくさ 石川利光 初出・「近代文学」1951年(第25回芥川賞受賞、安部公房「壁」と同時受賞) 『春の草』は、石川利光が第25回芥川賞を安部公房『壁』と同時受賞した作品です。詳しい筋を確認できる公開資料は少ないものの、戦後まもない文学場で、生活の手触りと内面の揺れを描くリアリズム系の短篇として受け止められました。現時点では、書誌・受賞情報を中心に紹介しています。 記憶家族私小説的 第25回 芥川賞
  1201. 1201 1951 広場の孤独 ひろばのこどく 堀田善衛 初出・「中央公論」1951年(第26回芥川賞受賞) 『広場の孤独』は、朝鮮戦争下の東京を舞台に、新聞社に勤める在日中国人の知識人が戦争と民族のあいだで引き裂かれていく姿を描く作品です。政治状況を背景にしながら、個人の倫理と所属の不安を前景化する点に読みどころがあります。戦後文学の中でも、国際政治と内面の孤独を同時に扱った作品として位置づけられます。 戦争移民と越境孤独と疎外 第26回 芥川賞
  1202. 1202 1951 悪い仲間・陰気な愉しみ わるいなかま・いんきなたのしみ 安岡章太郎 初出・「群像」1951年6月号(「悪い仲間」)、「群像」1953年(「陰気な愉しみ」)。第29回芥川賞はこの2篇への授賞。 『悪い仲間・陰気な愉しみ』は、病と貧しさ、青年期の停滞を背景にした安岡章太郎の初期短篇群です。結核療養や日常の挫折をめぐる内省を、過剰な劇化を避けた私小説的な語りで描きます。第三の新人と呼ばれる世代の、戦後の日常感覚と弱さへのまなざしがよく出た作品です。 青春貧困 第29回 芥川賞
  1203. 1203 1950 神坂四郎の犯罪 かみさかしろうのはんざい 石川達三 単行本・新潮社 犯罪を題名に据えた石川達三の長編。個人の罪を社会の中でどう見るかという、石川の社会派的な問題意識に連なる作品として読める。公開情報では細部の筋が限定的なため、犯罪、責任、共同体の視線を主題に持つ作品として暫定分類する。 暴力同調圧力孤独と疎外
  1204. 1204 1949 異邦人 いほうじん 辻亮一 初出・「新小説」1949年(1950年上半期 第23回芥川賞受賞) 『異邦人』は、敗戦後の中国で中国共産党軍に徴用された日本人の体験を描く短篇です。異国の軍事・政治状況に投げ込まれた人物を通して、戦後直後の日本人が抱えた疎外感と帰属の不安を切り取ります。物語の細部については公開出典が限られるため、ここでは受賞作として確認できる範囲を中心に紹介します。 戦争移民と越境孤独と疎外 第23回 芥川賞
  1205. 1205 1949 山の音 やまのおと 川端康成 初出・1949〜1954年にかけて複数誌(「群像」「新潮」「別冊文藝春秋」など)に連載。単行本は1954年4月、筑摩書房刊。 『山の音』は、鎌倉に暮らす老齢の会社重役・信吾を中心に、家族の崩れと老いの気配を見つめる連作長篇です。嫁の菊子への静かな愛着、息子夫婦の不和、死の予感が、抑制された三人称の語りで重なっていきます。戦後の家庭小説でありながら、川端康成らしい感覚的な細部が、老いと記憶の陰影を際立たせます。 家族老い記憶
  1206. 1206 1947 望みなきに非ず のぞみなきにあらず 石川達三 単行本・読売新聞社 石川達三が戦後間もない時期に刊行した作品で、新潮社版などの書誌が確認できる。題名には敗戦後の絶望と、それでも残る可能性への視線が併存している。公開情報が少ないため、戦後社会を背景にした再出発と倫理の小説として暫定的に整理する。 戦争記憶孤独と疎外
  1207. 1207 1945 生きてゐる兵隊 いきてゐるへいたい 石川達三 単行本・河出書房 南京攻略戦に従軍した日本兵の実態を描いた戦争小説。戦場の兵士を英雄化せず、加害と疲弊のただ中に置くことで、戦争が人間の身体と倫理をどう壊すかを見つめる。発売直後に発禁処分を受けた問題作として知られ、石川達三の社会的リアリズムを代表する重要作である。 戦争暴力身体
  1208. 1208 1940 転落の詩集 てんらくのしいしゅ 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が戦前から戦後にかけて読まれた作品で、八雲書店版や作品集収録が確認できる。題名の「転落」が示すように、社会的な地位や精神の崩れをめぐる小説として位置づけられる。内容細部は追加確認が必要だが、社会派の視線で人間の弱さを追う作品として分類する。 孤独と疎外貧困アイデンティティ
  1209. 1209 1938 結婚の生態 けっこんのせいたい 石川達三 単行本・新潮社 結婚という制度と生活の内側を観察する石川達三の長編。家庭や男女関係を社会の縮図として見る作家の関心がうかがえ、私的な感情と制度的な役割のずれが主題になる。公開梗概は薄いが、家族・夫婦・生活倫理をめぐる作品として暫定整理する。 夫婦家族同調圧力
  1210. 1210 1936 深海魚 しんかいぎょ 石川達三 単行本・改造社 石川達三が1930年代に発表した初期作品で、改造社版などの書誌が確認できる。公開情報では細部の梗概や同時代評が限られるため、現段階では初期社会派作家としての石川が、人間の暗部や社会の圧力へ視線を向けていた時期の一作として整理する。題名の「深海魚」が示す閉塞感を手がかりに、孤立した人物像を読む候補作と… 孤独と疎外アイデンティティ三人称・多視点
  1211. 1211 1935 蒼氓 そうぼう 石川達三 初出・同人誌「星座」1935年 昭和初頭、国策としてブラジル移民に応じた人々を描く三部構成の群像劇。第一部では神戸の国立移民収容所で出港を待つ数日間が、東北の寒村から一家で海を渡ろうとする者たちを中心に描かれ、続いて移民船での45日間の航海、ブラジル到着後に過酷な労働へ踏み出す姿へと続く。貧しさゆえに故郷を棄てざるをえない名もなき… 移民と越境貧困労働 第1回 芥川賞