ひゃくねんどろ
百年泥
紹介 About
恋人の借金を肩代わりして多重債務に陥った「私」は、返済のため南インド・チェンナイのIT企業で日本語教師として働き始める。着任三か月半で百年に一度の大洪水が街を襲い、水が引いたアダイヤール川には百年分の泥が残された。泥の中からは死んだはずの人や記憶の品々が次々と現れ、橋を渡る数十分のあいだに、語り手の想念はインドと日本、現在と過去を自在に行き来する。著者自身の日本語教師としての体験を下敷きに、マジックリアリズム的な奇想とユーモアで人生の不思議を掬い上げるデビュー作。
評価 Reception
第158回芥川賞を「おらおらでひとりいぐも」と同時受賞(新潮新人賞とのダブル受賞)。選考では山田詠美が、外国暮らしの日本人によるよくある自分探し小説ではない独創性を評価し、宮本輝はマジックリアリズムの手法でインドの混沌と精神性を活写した点を推した。一方、高樹のぶ子は後半の奇想が「インドの情報」に流れたことを惜しんだ。チェンナイで実際に起きた2015年の大洪水と、著者の現地での日本語教師経験が背景にあることも注目を集めた。
出典 Sources
- 『百年泥』石井遊佳|新潮社 紹介評価書誌
作品紹介、書誌情報、第49回新潮新人賞・第158回芥川賞受賞、掲載書評を確認。
- 芥川賞受賞者一覧|公益財団法人日本文学振興会 評価
第158回芥川賞(2017年下半期)受賞と掲載誌「新潮」を確認。
受賞・候補歴 Awards
石井遊佳のほかの収録作 More
- 001 2020 象牛 ぞうぎゅう 表題作は、インド・ガンジス河岸の聖地にやってきた女子大生が、謎の存在である象牛に翻弄される物語。併録の『星曝し』は大阪の淀川河岸を思わせる比ラカ駄を舞台に、恋に似た激しい熱情と死者の気配を描く。現実の痛みと法螺話めいた幻想が混ざり合う、石井遊佳の芥川賞受賞後初の作品集。
- 002 2025 ティータイム ティータイム 『ティータイム』は、『百年泥』で芥川賞を受賞した石井遊佳による、奇想の強い4篇を収めた短篇集です。大人びた兄妹、インドから脱出できない日本人、電車の網棚の上で暮らす女性、恐ろしいサンタクロースなど、現実の足場を少しずつ外す人物や状況が並ぶ。なぜか笑えてどこか怖い語り口で、絶望と解放の境目を軽やかに踏…