かいにつづくばしょにて
貝に続く場所にて
紹介 About
コロナ禍に覆われたドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす日本人留学生の「私」のもとに、東日本大震災の津波で行方不明になったはずの友人・野宮が現れる。九年前に仙台で被災した記憶と、疫病下の異国の街の現在が静かに重なり合い、惑星の名を冠した小径、聖人伝や絵画の細部、庭に埋められた様々な品をたどりながら、生者とも死者ともつかない存在との交流が続いていく。震災の喪失を直接の被災者ではない者の位置から見つめ、記憶と鎮魂のかたちを問う、濃密なイメージに満ちた静謐な物語。著者のデビュー作。
評価 Reception
デビュー作で第64回群像新人文学賞と第165回芥川賞をあわせて受賞した。芥川賞選考では、島田雅彦が曖昧な記憶を丹念に言葉のオブジェへ加工していく手法を文学者独自の鎮魂の儀式と呼んで高く評価し、吉田修一は完成度の高さと複数の時間軸を言葉で捉える意欲を支持、小川洋子は生者と死者を等しく扱う手つきを「小説にしかできないやり方」と称賛した。一方、川上弘美は引用や教養という「よそからの声」に頼り作者自身の声が聞こえにくい点を懸念し、平野啓一郎は結末における死者の他者性の扱いに疑問を残すなど、評価には濃淡があった。
出典 Sources
- 芥川賞受賞者一覧|公益財団法人日本文学振興会 評価
第165回芥川賞(2021年上半期)受賞と掲載誌「群像」を確認。