こくれいすい

黒冷水

羽田圭介 2003 第40回 文藝賞 受賞

紹介 About

弟の修作は兄・正気の部屋を毎日執拗に「家捜し」し、兄はそれに気づいて巧妙な罠と報復を仕掛ける。家庭内の些細な悪意の応酬は、黒く冷たい水のような憎悪へと際限なくエスカレートしていく——。思春期の自意識と家族間の生理的な憎しみを、17歳の現役高校生がここまで執拗に書き切ったという事実そのものが衝撃を与えた。インターネット時代の少年の内面を覗き込むような、デビュー作にして異様な熱量を持つ兄弟小説。

評価 Reception

第40回文藝賞を当時17歳で受賞し、綿矢りさと並ぶ同賞最年少級の受賞として話題になった。著者は5度の芥川賞候補を経て、2015年「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞した。

受賞・候補歴 Awards

受賞 第40回 文藝賞 (2003年)

羽田圭介のほかの収録作 More

  1. 001 2006 不思議の国のペニス ふしぎのくにのペニス 単行本・河出書房新社 『不思議の国のペニス』は、性欲に振り回される男子高校生の日常を、露骨さと滑稽さを交えて描く作品です。青春小説の枠組みを使いながら、身体の変化や欲望を制御できない不安を前面に出しています。題名の挑発性に対して、語りは若い自意識のぎこちなさを追うところに読みどころがあります。 青春身体
  2. 002 2008 走ル はしる 単行本・河出書房新社 『走ル』は、高校生が自転車で北へ向かい続けるロードノベルです。走る身体の疲労と速度が、若い自意識や孤独をそのまま運んでいきます。目的地よりも、移動し続ける時間のなかで自分の輪郭が変わるところが読みどころです。 青春身体孤独と疎外
  3. 003 2010 御不浄バトル ごふじょうバトル 単行本・集英社 ブラック企業で働く男がトイレを唯一の避難所として戦う様を描く職場小説。
  4. 004 2010 ミート・ザ・ビート ミート・ザ・ビート 単行本・文藝春秋 郊外で暮らすフリーターの青年の日常を音楽的な文体で描き、芥川賞候補となった。
  5. 005 2011 「ワタクシハ」 ワタクシハ 単行本・講談社 就職活動に翻弄される元バンドマンの大学生を描く就活小説。
  6. 006 2012 隠し事 かくしごと 単行本・河出書房新社 隠し事は、羽田圭介による2012年発表の作品です。単行本は河出書房新社(2012年)。
  7. 007 2012 盗まれた顔 ぬすまれたかお 単行本・幻冬舎 指名手配犯の顔を記憶して追う「見当たり捜査班」の刑事を描く警察小説。
  8. 008 2014 メタモルフォシス メタモルフォシス 単行本・新潮社 SMの快楽に深入りしていく証券マンを描き、芥川賞候補となった。
  9. 009 2015 スクラップ・アンド・ビルド スクラップ・アンド・ビルド 初出・文學界 2015年 無職で資格試験の勉強と転職活動を続ける28歳の健斗は、母と、87歳の祖父との三人暮らし。「早う死にたか」と口癖のように繰り返す祖父に対し、健斗は介護職の友人の助言をひねって解釈し、あえて何もかも世話を焼いて自立の機会を奪う「足し算の介護」によって、祖父の望む穏やかな死を後押ししようと思い立つ。同時に… 家族老いケアと介護 第153回 芥川賞
  10. 010 2016 コンテクスト・オブ・ザ・デッド コンテクスト・オブ・ザ・デッド 単行本・講談社 ゾンビが蔓延する世界で文学と出版業界を風刺する長編。
  11. 011 2017 成功者K せいこうしゃケー 単行本・河出書房新社 芥川賞受賞とメディア露出で人生が変貌していく作家Kを描く、私小説的メタフィクション。
  12. 012 2018 5時過ぎランチ ごじすぎランチ 単行本・実業之日本社 「グリーンゾーン」「内なる殺人者」「誰が為の昼食」の三篇からなる、労働と犯罪が絡み合う短篇集。ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギーを抱える殺し屋、写真週刊誌の女性記者が、それぞれ過酷な仕事の延長線上でヤクザや警察、国家権力に触れていく。ブラックな職場感覚とクライムノベルの緊張を重ね、仕事にまつわ… 労働暴力貧困
  13. 013 2019 ポルシェ太郎 ポルシェたろう 初出・文藝 掲載(前篇・後篇) 35歳で起業した太郎は、年収に匹敵するポルシェを買う。ところが、その自慢の車で得体の知れないものを運ばされることになり、成功者の見栄と欲望が危うい方向へ走り出す。河出書房新社の紹介は「欲望か、死か」という言葉で作品の緊張を示しており、消費、承認、成功の演出を乾いたユーモアで追う長篇として読める。単な… 労働同調圧力身体
  14. 014 2021 滅私 めっし 単行本・新潮社 必要最低限の物だけで暮らすライターの男が、ミニマリストの同志が集うサイト運営と投資で生計を立てながら、自由でスマートな生活を手に入れている。物だけでなく人間関係にも淡泊だった彼の前に、昔の所業を知る人物が現れ、捨てたはずの過去が生活に影を落とす。所有を減らすことの快楽と、過去や欲望は簡単には消せない… アイデンティティ労働記憶
  15. 015 2021 Phantom ファントム 単行本・文藝春秋 外資系食料品メーカーで働く元地下アイドルの華美は、生活費を切り詰めて株式投資を続け、給与収入と同じ配当を生む「分身」の構築を目指している。恋人の直幸は、使われない金を軽んじながら、ある人物が率いるオンラインコミュニティにのめり込み、物々交換や集団生活の思想へ傾いていく。投資、オンライン共同体、恋愛の… 労働テクノロジー恋愛
  16. 016 2024 タブー・トラック タブー・トラック 単行本・講談社 クリーンなイメージに押しつぶされそうな俳優、自分を管理しようとする脚本家、SNSで著名人を糾弾する会社員、整形と動画配信で稼ぐ女子高生など、タブーに縛られ、またタブーに惹かれる人々の人生が交錯する長篇。題名の「タブー・トラック」は、世間の目から離れて禁忌を犯せるプライベートスペースとして示される改造… 同調圧力身体テクノロジー
  17. 017 2025 バックミラー バックミラー 単行本・河出書房新社 『バックミラー』は、落ち目のミュージシャン、極度の無駄嫌いのM&A会社社長、樹木伐採に生活を揺さぶられる女性など、都市でままならなさを抱える人物たちを描く短篇集です。河出書房新社公式は、シニカルな笑いと冷徹な観察力で都会の人生を写す「令和の没落小説」と紹介している。後方を映す題名の通り、成功や合理性… 孤独と疎外労働アイデンティティ
  18. 018 2025 その針がさすのは そのはりがさすのは 単行本・新潮社 『その針がさすのは』は、再開発が進む東京・中野に住む「僕」が、街の過去と自分の身体の出来事を結びつけていく小説です。戦前に満州国と中野が電信ケーブルでつながっていたという話、不妊治療手術、時計のイメージが重なり、日常の街が歴史の深部へ沈み込む。中野ブロードウェイをはじめとする具体的な生活圏の手触りと… 記憶身体テクノロジー