あれちのかぞく
荒地の家族
紹介 About
宮城県亘理町の植木職人・坂井祐治、四十歳。あの「災厄」の二年後に妻を病で亡くし、再婚した相手も流産の後に家を出て、いまは老いた母と中学生の息子と暮らしている。津波という言葉を正面に掲げず「災厄」「海の膨張」と呼びながら、荒れた海辺の土地で黙々と木に向かう男の日常を描く。職を転々とする旧友や没落していく幼なじみなど、誰もが何かを失い「以前の生活」には戻れないまま生きる人々の姿を、東北の風土と労働の手触りとともに、復興の美談から遠く離れた場所で刻みつける。
評価 Reception
第168回芥川賞の選考では、吉田修一が読後に熱いものが込み上げたと最も強く支持し、山田詠美は震災を題材として「便利づかい」しない誠実さを、小川洋子は文学が震災をどう記すかの道筋を示した点を評価した。島田雅彦は美談がしばしば現実の負の面を隠すと留保を付けた。仙台の丸善アエル店に勤める現役書店員の受賞として大きな話題を呼び、受賞直後から注文が殺到。勤務先書店では予約が500冊を超え、地元宮城を中心に異例の売れ行きを記録した。
出典 Sources
- 『荒地の家族』佐藤厚志|新潮社 紹介評価書誌
書誌、第168回芥川賞受賞、木村朗子による書評で舞台・災害表現・批評的評価を確認。
受賞・候補歴 Awards
佐藤厚志のほかの収録作 More
- 001 2017 蛇沼 じゃぬま 宮城県の農家に暮らす青年の鬱屈した日常と炸裂する暴力を、東北の土地の記憶と重ねながら濃密に描いた作品。書店員として働き続けた著者のデビュー作。単行本未刊(後年は別作品で単行本デビュー)。 第49回 新潮新人賞
- 002 2021 象の皮膚 ぞうのひふ 幼少時から重度のアトピー性皮膚炎に苦しんできた五十嵐凜は、仙台の書店で契約社員として働きはじめる。肌を隠し、他人と距離を取ることで日々をやり過ごす凜に、今度は接客業の理不尽な客対応や、震災後に本を求める人々の姿が重なっていく。子どもの頃の記憶と現在の職場を往還しながら、身体に刻まれた痛み、労働の疲弊…
- 003 2024 常盤団地の魔人 ときわだんちのまじん 常盤団地の三号棟に住む小学三年生の今野蓮は、喘息を抱え、学校ではまだ友人関係をつくりきれずにいる。団地に越してきた同い年のシンイチ、乱暴だが求心力をもつ年上の少年たち、老朽化した団地の池や空き地をめぐる出来事のなかで、蓮は子どもだけの社会にある憧れ、序列、暴力を少しずつ知っていく。冒険譚の軽やかさを…
- 004 2025 ジャスティス・マン じゃすてぃす・まん 『ジャスティス・マン』は、仙台の老舗ホテルに勤続30年の初老ホテルマンが、特撮ヒーローに重ねた「正義」を暴走させていく長篇です。家庭も職もある中年男性の独りよがりな正義が、職場や周囲との軋轢を深めていく。正義という言葉の快さと危うさを、地方都市の労働現場と生活者の視点から描く作品です。