はきょく

破局

遠野遥 2020 第163回 芥川賞 受賞

紹介 About

主人公の陽介は、筋トレと公務員試験の勉強に励む大学4年生。母校のラグビー部でコーチも務め、政治家を目指す恋人・麻衣子がいる。やがて新入生の灯に好意を寄せられ、関係を持つようになる。陽介は常に「正しさ」やマナー、他人にどう見られるかを基準に行動するが、その整いすぎた思考と行動のあいだには、どこか空洞がある。淡々と進む就活や恋愛の日常の先で、抑え込まれていた暴力性が顔を出す。健全さの仮面の下にある不気味さを、簡潔で乾いた一人称の文体で描き切った作品。

評価 Reception

第163回芥川賞を高山羽根子「首里の馬」と同時受賞し、平成生まれ初の芥川賞作家の誕生として注目された。選考では平野啓一郎が、他者への共感を欠く主人公を現代的な典型として造形した点を評価し、小川洋子は「正しさへの執着が主人公を破綻させる」普遍性を、山田詠美は群像劇としての面白さを推した。一方、松浦寿輝は文体は優れるが終盤の破局に意外に衝撃がないと指摘し、吉田修一も主題への留保を示すなど評価は分かれた。

出典 Sources

受賞・候補歴 Awards

受賞 第163回 芥川龍之介賞 (2020年上半期)

遠野遥のほかの収録作 More

  1. 001 2019 改良 かいりょう 単行本・河出書房新社 女装し、美しくなることへ執着する大学生の「私」を描くデビュー作。コールセンターで働く語り手は、メイクや服装、仕草を研究し、美容や風俗に金を費やしながら、女装した自分を他者に見てほしいという欲望を強めていく。美への希求が、性をめぐる暴力と絶望へ接続される過程を、乾いた一人称で描く。 身体ジェンダー 第56回 文藝賞
  2. 002 2022 教育 きょういく 単行本・河出書房新社 超能力の育成を掲げる学校を舞台に、成績向上のために性的ノルマ、身体鍛錬、勉学が制度化された長篇。成績で部屋のグレードが決まり、監視と規律のもとで生徒たちが「正しさ」に従っていく環境が、語り手の日常として淡々と提示される。学園小説、ディストピア、寓話の形式を交差させながら、教育と管理、身体、欲望、競争… 同調圧力身体
  3. 003 2023 浮遊 ふゆう 単行本・河出書房新社 高校生のふうかが、年上の会社経営者の男の家で暮らし、男の元恋人を象ったマネキンの下で夜ごとホラーゲームに没入する長篇。ゲーム内の悪霊から逃げる感覚と、現実の住まい、人間関係、身体へのまなざしが重なり、現実とゲームの境界が不穏に揺れる。ホラーゲームの逃走は娯楽であると同時に、現実の関係から抜け出せない… 身体テクノロジー
  4. 004 2026 吸血鬼 きゅうけつき 単行本・集英社 女性が中学生になると若さや美しさで十二等級に順位付けされ、社会的地位と財産のある男性に望まれれば十五歳で結婚を強いられる架空社会を描くディストピア長篇。拒否した女性は「へびつかい」と呼ばれ迫害される世界で、中学生の有紗は友人たちと学校生活を送りながら、美術館で出会ったアナウンサーの美優と開業医の白井… ジェンダー身体同調圧力