サンショウウオのしじゅうくにち
サンショウウオの四十九日
紹介 About
外から見ればひとりの人間にしか見えないが、その身体には杏と瞬というふたつの意識が宿っている——半身ずつを分け合って生きる29歳の結合双生児の姉妹。父もまた、胎児のまま兄の身体に取り込まれた「胎児内胎児」として摘出されて生をうけた、稀有な来歴を持つ。その父の片割れともいえる伯父の訃報が届き、四十九日までの日々のなかで、姉妹は「私」と「わたし」の境界、意識はどこから生まれるのか、生と死を分かつものは何かという問いに身体の内側から向き合っていく。医師出身の著者が、意識と身体の謎を家族の物語として描く。
評価 Reception
第171回芥川賞を「バリ山行」と同時受賞。選考では、川上弘美が「自己とは何か」という問いをめぐり、わからなさを隠さない姿勢を評価して最も強く推し、松浦寿輝は意識や欲望の生成をめぐる思考実験をありきたりの家族の物語に溶かし込む手際を、奥泉光はふたりの語り手がひとつの身体を共有する形式の面白さと知性の輝きを称賛した。一方、平野啓一郎はふたつの特異な設定が相殺し詰めが甘いと批判し、川上未映子も説明の繰り返しによる語りの強度の低さを指摘するなど、評価ははっきり分かれた。
出典 Sources
- 『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋|新潮社 紹介評価書誌
書誌、第171回芥川賞受賞、市川沙央による書評、萩尾望都との対談を確認。
受賞・候補歴 Awards
朝比奈秋のほかの収録作 More
- 001 2021 塩の道 しおのみち 第7回林芙美子文学賞大賞受賞作。「小説トリッパー」掲載後、デビュー単行本『私の盲端』(朝日新聞出版、2022年2月)に収録。 第7回 林芙美子賞
- 002 2022 私の盲端 わたしのもうたん 表題作は、大学生活や飲食店のアルバイトを楽しんでいた涼子が、人工肛門とともに生きることになり、自分の身体の変化と周囲の視線に向き合う物語である。医師でもある作者が、病や障害を医学的説明だけに閉じず、身体の境界、恥、欲望、生活の手触りとして描く。併録の「塩の道」は第7回林芙美子文学賞受賞作で、朝比奈秋…
- 003 2023 あなたの燃える左手で あなたのもえるひだりてで ハンガリーの病院で左手の移植手術を受けたアサトは、目覚めると自分の身体に見知らぬ白人の手がつながれていることを知る。身体の一部が他者のものになる違和感から、国境、民族、所有、故郷の喪失へと思考が広がっていく中篇である。医師でもある作者の冷静な筆致が、身体の境界と自己同一性の揺らぎを切実な問題として立… 第45回 野間新人賞
- 004 2023 植物少女 しょくぶつしょうじょ 『植物少女』は、出産時の脳出血で植物状態になった母の病室へ通う美桜の成長を通して、母と娘の関係がどう変わるかを描く長編である。母が「意思のある母」として応答できない状況を、単純な喪失や献身に閉じず、身体、ケア、親子関係の時間として見つめる。現役医師でもある著者の視点が、医療的な状況と家族の感情を乾い… 第36回 三島賞
- 005 2025 受け手のいない祈り うけてのいないいのり 『受け手のいない祈り』は、感染症拡大で地域の救急医療が逼迫するなか、患者を受け入れ続ける病院で働く青年医師・公河を描く長篇です。長時間勤務と極度の疲労が、死、狂気、使命感、食欲や時間感覚の乱れをひとつの身体に押し寄せさせる。医師としての経験に支えられた具体性と、現実の歪みが幻想に近い手触りへ変わる語…