Setting
都市・郊外
舞台「都市・郊外」に分類された 453 作品。
- 001 2026 彼女のカロート かのじょのかろーと 『彼女のカロート』は、表題作「彼女のカロート」と「宦官への授業」の二篇を収める作品集。表題作では、耳が聞こえなくなった女性アナウンサーから「自分のための新しい墓」を依頼された主人公の日常が、彼女とのずれた応答によって静かに侵食されていく。もう一篇では、読むことに困難を抱えながら文学に殉じる青年がシュ…
- 002 2026 私的応答 してきおうとう 『私的応答』は、1995年の震災を経験した銅子と、母、娘・厚美の三代に流れる時間をたどる長篇。倒れたミシン、避難所の体育館、梅田で浴びるシャワーなどの記憶は、年月を経ても日常の奥に残り続ける。忘れることと許すことの違いを、母娘の時間と震災の記憶を通して問い直す作品である。
- 003 2025 記念日 きねんび 『記念日』は、23歳のミナイ、42歳のソメヤ、76歳の乙部さんという年齢も境遇も違う女性三人が、奇妙なルームシェアをきっかけに交わっていく長篇です。「明日から、おばあさんになってみませんか?」という提案が、若さや老い、身体のままならなさ、他者と暮らすことの違和感を動かしていく。代わり映えしない日常を…
- 004 2025 バックミラー バックミラー 『バックミラー』は、落ち目のミュージシャン、極度の無駄嫌いのM&A会社社長、樹木伐採に生活を揺さぶられる女性など、都市でままならなさを抱える人物たちを描く短篇集です。河出書房新社公式は、シニカルな笑いと冷徹な観察力で都会の人生を写す「令和の没落小説」と紹介している。後方を映す題名の通り、成功や合理性…
- 005 2025 移動そのもの いどうそのもの 『移動そのもの』は、表題作を含む九篇を収めた短篇集。筑摩書房公式は、一文ごと一語ごとに世界が生まれ変化していく作品集として紹介し、言葉そのものが物語を跳躍させる読書体験を前面に出している。市場、家、旅、老いなどの場面が小さな宇宙のように開かれ、筋を追うだけでなく、言葉に導かれて世界の相貌が変わる感覚…
- 006 2025 帰れない探偵 かえれないたんてい 『帰れない探偵』は、探偵事務所兼自宅へ突然帰れなくなった「わたし」が、世界のさまざまな街を巡る連作探偵小説です。急な坂の街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街などを歩く探偵の移動を通じて、帰る場所、知らない街と知っている街のずれ、時間と記憶の手ざわりが浮かび上がる。事件解決よりも、場所の感覚と…
- 007 2025 関係のないこと かんけいのないこと 『関係のないこと』は、パンデミック後の東京で、自分とは切り離してきたはずの出来事や他者の痛みが、ふいに生活へ入り込んでくる瞬間を描く作品集です。表題作では、弁護士として世間と折り合ってきた人物が、見ないようにしてきた「壁」に取り囲まれていく。五篇を通じて、情報や人間関係が過剰に広がる都市生活のなかで…
- 008 2025 女の子の背骨 おんなのこのせぼね 『女の子の背骨』は、先天性筋疾患を抱える10歳の少女ガゼルの家族旅行を描く表題作と、中篇「オフィーリア23号」を収めた第二小説集です。病気の姉、障害をもつ身体、家族、性、文学表象をめぐる言葉が、前作『ハンチバック』以後の市川沙央の問題意識をさらに広げる。身体から発せられる語りが、ケアされる側、見る側…
- 009 2025 その針がさすのは そのはりがさすのは 『その針がさすのは』は、再開発が進む東京・中野に住む「僕」が、街の過去と自分の身体の出来事を結びつけていく小説です。戦前に満州国と中野が電信ケーブルでつながっていたという話、不妊治療手術、時計のイメージが重なり、日常の街が歴史の深部へ沈み込む。中野ブロードウェイをはじめとする具体的な生活圏の手触りと…
- 010 2025 たのしい保育園 たのしいほいくえん 『たのしい保育園』は、ももちゃんと父が川べりを歩き、保育園へ向かい、連絡帳を書こうとする日々を描く連作小説です。大きな事件ではなく、育児の時間の長さ、忘れてしまう一瞬、子どもを見守る大人たちの視線を丁寧に積み重ねる。父の目線を軸にしながら、子どもの遠い時間感覚へも寄り添うところに読みどころがある。
- 011 2025 ティータイム ティータイム 『ティータイム』は、『百年泥』で芥川賞を受賞した石井遊佳による、奇想の強い4篇を収めた短篇集です。大人びた兄妹、インドから脱出できない日本人、電車の網棚の上で暮らす女性、恐ろしいサンタクロースなど、現実の足場を少しずつ外す人物や状況が並ぶ。なぜか笑えてどこか怖い語り口で、絶望と解放の境目を軽やかに踏…
- 012 2025 遠くまで歩く とおくまであるく 『遠くまで歩く』は、コロナウイルス感染拡大のさなか、小説家のヤマネがある講座を担当するところから始まる長篇小説です。PC越しに語られる受講生たちの記憶、忘れられない風景や言葉が重なり、移動が制限された時期に人がどのように遠くへ届くのかを描く。柴崎友香らしい、場所・時間・記憶の細部を静かにつなぐ語りが…
- 013 2025 YABUNONAKA ヤブノナカ 『YABUNONAKA』は、文芸誌元編集長への性加害告発をきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の人物たちの日常が絡み合っていく長篇です。MeToo運動、マッチングアプリ、SNSといった現代の環境を背景に、性、権力、暴力、愛、そして「わかりあえないこと」の先を群像劇として描く。文芸業界そのものを…
- 014 2024 あきらめる あきらめる 『あきらめる』は、近所の川沿いを歩く早乙女雄大が、入院中の大切な人との時間や家を出た家族のことを抱えながら、親子風の二人組と出会う長編。火星移住が身近になった近未来を背景に、彼らと「オリンポス山」を目指す展開へ進む、現実の悩みとゆるいSF的飛躍が混ざる作品である。題名の「あきらめる」を敗北ではなく「…
- 015 2024 普通の子 ふつうのこ 『普通の子』は、小学5年生の息子・晴翔が学校のベランダから転落した出来事をきっかけに、母・美保が理由を探っていく長編。息子が口を閉ざすなか、いじめの可能性を追う現在の調査と、美保自身の小学生時代の記憶が交錯する。タイトルの「普通」が示す見えにくい圧力を、家庭、学校、親子の距離から掘り下げる作品である…
- 016 2024 いつか、あの博物館で。 いつかあのはくぶつかんで 『いつか、あの博物館で。』は、ロボット博物館への校外学習で同じ班になった中学一年生四人を描く群像劇。美しいアンドロイドの気象予報士との出会いをきっかけに、彼らはロボットと人間の違い、自分だけの心、他者との距離を考えていく。中学三年間の視点を重ね、家庭環境も性格も異なる子どもたちが自分を作り直していく…
- 017 2024 新しい恋愛 あたらしいれんあい 『新しい恋愛』は、「花束の夜」「お返し」「新しい恋愛」「あしたの待ち合わせ」「いくつも数える」の五篇を収める恋愛小説集。Books/JPRO掲載の講談社紹介は、ひと筋縄ではいかない五つの恋のかたちを描く作品集としている。恋愛を自明の感情としてではなく、共感、違和感、距離、期待のずれから見直すところに…
- 018 2024 僕たちの保存 ぼくたちのほぞん 『僕たちの保存』は、語り手のゲンさん、年上の武上さん、引きこもりの甥シンスケ、人気漫画家の亀谷さんらが、新幹線、自転車、バス、テスラを乗り継いで旅に出るロードノベル。震災被害者の形見であるMSXパソコンが、過去と現在、記憶と情報の保存をつないでいく。サブカルチャーとパソコン以後の時間を背景に、残るも…
- 019 2024 カメオ かめお 『カメオ』は、本社命令で期日までに倉庫を建てなければならない会社員の前に、犬を連れた隣地の男・カメオが立ちはだかるデビュー作。職場の命令、土地、期限、隣人との交渉が、現実的な仕事の話でありながら不条理な可笑しみを帯びて進む。労働の現場にある理不尽さと、人がどうにも動かせない他者の存在を、乾いたユーモ…
- 020 2024 ある日の、あのタクシー あるひのあのたくしー 『ある日の、あのタクシー』は、運転手と乗客の一期一会の出会いを通して町の姿を描く、12編からなるタクシー小説集。車内という短い時間と閉じた空間に、乗る人の生活、職業、孤独、偶然の会話が交差する。タクシー運転手経験を持つ著者の経歴も重なり、労働の現場から都市を見つめる読み味がある。
- 021 2024 K+ICO ウーバーイーツ配達員のKと、TikTokerとして活動する女子大生ICOが、巨大な「システム」のなかで交錯していく長篇。ギグワーク、SNS、インターネットによる偶然の接続を現代的な意匠として扱いながら、カフカ『城』を象徴的な参照点にして、資本主義の抽象的な力と個人の孤独を重ねる。KとICO、それぞれ…
- 022 2024 言霊の幸う国で ことだまのさきわうくにで 芥川賞受賞後のLこと柳千慧が、ストーカー、女性差別、外国人差別、同性愛差別、トランス差別など、いくつもの災厄に襲われる大長篇。筑摩書房公式は、本作を「あらゆる差別に抗して生き延びるために言葉を紡ぐ」闘争と再生の書として紹介している。公と私、フィクションとノンフィクション、怒りと文学の境界を行き来しな…
- 023 2024 め生える めばえる 髪の毛が根こそぎ抜ける感染症によって、中高生以下を除く大人がみな髪を失った世界を描く中編。薄毛を気にしてきた真智加は開放感を覚える一方、幼少期に髪を切られた高校生・琢磨は恋人と訪れた占い師の言葉をきっかけに別の悩みに直面する。外見の差異が一見平等化された社会を通して、身体へのまなざし、コンプレックス…
- 024 2024 みんなのお墓 みんなのおはか 「内藤家之墓」に引き寄せられる人々を描く、共同墓地を軸にした群像劇。裸になる快感を追う主婦、「真理」がわからない小学生たち、夜のコンビニだけを日課にする引きこもり男性、宗教的な合宿に向かう若者、潔癖症の妻を持つ中年など、ばらばらの人物が悩みを抱えながら生きている。死者の場所である墓を、生きる者の傷や…
- 025 2024 無形 むけい 立ち退き勧告が進む海辺の団地を舞台に、年老い病を患う祖父と面倒を見る孫娘、親が失踪した姉弟、夫に先立たれた老女、友情以上の感情を育む少女たちなど、複数の生活がゆるやかに重なる群像長篇。確かにそこにあった暮らしの喜びや悲しみが、形として残らないまま季節とともに流れていく。団地という共同体の消滅を背景に…
- 026 2024 ナチュラルボーンチキン ナチュラルボーンチキン 45歳で一人暮らしの事務職・浜野文乃は、仕事、動画、ご飯という反復の生活を守ってきた。上司の指示で、捻挫を理由に在宅勤務を続ける若い編集者・平木直理の部屋を訪ねたことから、ホストクラブ通いの痕跡や奔放な価値観に触れ、忘れかけていた自分の欲望と向き合い始める。職場小説の軽さと中年の再生譚を重ね、ルーテ…
- 027 2024 セルフィの死 セルフィのし フォロワー獲得に執着するミクルを主人公に、承認欲求とSNSが身体感覚まで侵食する時代を描く長篇。自撮りを繰り返すと顔面が変容し、無人回転寿司やフォロワー急増といった奇妙な出来事が連鎖していく。日常的なスマホ文化を誇張された悪夢へずらし、笑いと不気味さのなかで「見られる私」の依存と疲弊をあぶり出す。
- 028 2024 しをかくうま しをかくうま 人が初めて馬に乗った太古の瞬間から、馬と人類の関係を壮大な歴史としてたどり直す長篇。現代で競馬実況を生業とする「わたし」は、愛する牝馬しをかくうま号へ近づくため、人類と馬のあいだに起きたすべてを知ろうとする。疾走する語りは、競馬小説や歴史小説の枠を越え、優生思想、純血主義、アニマルライツ、人間中心主… 第45回 野間新人賞
- 029 2024 死神 しにがみ うまくいかない作家の人生の節目ごとに、死神が現れるという設定の長編。語り手が中学二年のときに初めて出会った「こいつ」は、長く書くことのできなかった存在として回想され、死や家族の記憶と結びついていく。死を擬人化した幻想性を使いながらも、作家の生活と記憶に根ざした語りで、ユーモアと鋭さを交えて生の輪郭を…
- 030 2024 タブー・トラック タブー・トラック クリーンなイメージに押しつぶされそうな俳優、自分を管理しようとする脚本家、SNSで著名人を糾弾する会社員、整形と動画配信で稼ぐ女子高生など、タブーに縛られ、またタブーに惹かれる人々の人生が交錯する長篇。題名の「タブー・トラック」は、世間の目から離れて禁忌を犯せるプライベートスペースとして示される改造…
- 031 2024 多頭獣の話 たとうじゅうのはなし IT企業の幹部として働く「僕」の前に、会社員からトップYouTuberへ転身した元後輩・桜井君が再び現れる。彼は世界の危機を回避し、人類が進むべき方向を示すため、かつて存在した「完璧な文章」を取り戻そうと予言めいた言葉を発する。IT企業、YouTuber、神話、カフカ的な不条理を重ね、現代の情報環境…
- 032 2024 常盤団地の魔人 ときわだんちのまじん 常盤団地の三号棟に住む小学三年生の今野蓮は、喘息を抱え、学校ではまだ友人関係をつくりきれずにいる。団地に越してきた同い年のシンイチ、乱暴だが求心力をもつ年上の少年たち、老朽化した団地の池や空き地をめぐる出来事のなかで、蓮は子どもだけの社会にある憧れ、序列、暴力を少しずつ知っていく。冒険譚の軽やかさを…
- 033 2023 前の家族 まえのかぞく 37歳の独身小説家・猪瀬藍が、中古マンションの購入を決意するところから始まるマイホーム奇譚。理想的に見えた物件には、そこに十二年間暮らした若い夫婦と幼い姉妹の「前の家族」の気配が残り、引っ越したはずの娘たちが藍の新居へ現れる。住まいを買うことが、部屋だけでなく周囲の環境や他者の記憶まで引き受けること…
- 034 2023 ミドルノート みどるのーと 食品会社の同期でワーキングマザーの菜々と愛美、アロマデザイナーに転身した麻衣、同世代の派遣社員・彩子という四人のアラサー女性を描く仕事小説。新型肺炎の流行で社会が揺れるなか、働き方、結婚、出産、昇進、転職によって、それぞれの道は同じスタート地点から大きく分かれていく。香水の「ミドルノート」を人生の中…
- 035 2023 FICTION フィクション 演劇する集まりを「FICTION」と名づけ、十六年続けてきた「わたし」が、仲間の死や病、自身の大病を経て回想を始める連作短篇集。収録作は「FICTION 01 象使い」から「FICTION 07 助けになる習慣」まで、演劇と小説、記憶と作り話の境界を行き来する。新潮社は芥川賞受賞作『しんせかい』に連…
- 036 2023 浮遊 ふゆう 『浮遊』は、年の離れたITベンチャーCEOの男と暮らす十六歳のふうかを中心に、日常とホラーゲームの感覚が浸み合っていく長編である。男の元恋人を象ったマネキンの下で夜ごとゲームの悪霊から逃げる設定が、現実の人間関係の不気味さと重なり、身体感覚と恐怖の境界を揺らす。遠野遥らしい乾いた文体で、依存、欲望…
- 037 2023 腹を空かせた勇者ども はらをすかせたゆうしゃども コロナ禍のさなか、陽気な中学生レナレナが、「公然不倫」中の母と暮らしながら学校、友人、食べること、恋愛や家族の問題に向き合う青春長篇である。明るさと浅はかさを抱えた少女たちの日常を通して、困難が当たり前になった時代をどう生き抜くかが描かれる。従来の金原ひとみ作品の切迫した身体感覚を保ちつつ、軽やかな…
- 038 2023 いい子のあくび いいこのあくび 表題作は、公私ともに「いい子」でいる語り手が、歩きスマホの人をよけ続けるような小さな譲歩の積み重ねに「割りに合わなさ」を覚えるところから始まる。併録作「末永い幸せ」では結婚式の形式への違和感を通じて、祝福、ジェンダー、幸福の型が問い直される。社会に適応しているように見える人々の内側にあるざらつきを…
- 039 2023 かっかどるどるどぅ かっかどるどるどぅ 仕事、介護、家族、お金などの問題を抱え、孤立しながら生きる人々が、従来とは別のかたちで「共に生きる」道を探す群像劇。夢を捨てきれない60代の悦子、介護に明け暮れてきた芳江、非正規雇用を転々とする理恵、自死を考える保らが、食事をふるまう片倉吉野の古いアパートへ集まっていく。東北弁を含む声の響きと食卓の…
- 040 2023 神と黒蟹県 かみとくろがにけん 黒蟹山や黒蟹城、紫苑市と灯籠寺市を擁する架空の県を舞台に、土地に生きる者、赴任してきた者、帰郷した者、地元を訪れた者たちの営みを描く連作小説集。現実のどこかにありそうな地方都市の手触りに、半知半能の神が降臨するようなわずかな神秘が混じる。群像劇として土地の記憶や住民の距離感を浮かび上がらせ、絲山秋子…
- 041 2023 夜のだれかの岸辺 よるのだれかのきしべ 十九歳の春、茜は八十九歳のソヨミから毎晩の添い寝と朝食を頼まれ、家計を助けるためにその仕事を受ける。血縁でも介護契約でもない奇妙な近さのなかで、若さと老い、孤独、生活の手触りが交わっていく。講談社公式の本文抜粋が示すように、語りは茜の現実感に根ざし、働くことと誰かのそばにいることの境目を静かに問う作…
- 042 2023 街とその不確かな壁 まちとそのふたしかなかべ 十七歳の「ぼく」は十六歳のガールフレンドから、彼女の本当の自分は高い壁に囲まれた街にいると告げられ、その後彼女は姿を消す。年月を経た語り手は、壁、望楼、図書館、古い夢、影を持たない人々のいる街と現実世界のあわいを行き来することになる。村上春樹が長く抱えてきた「壁に囲まれた街」のモチーフを、喪失、記憶…
- 043 2023 肉を脱ぐ にくをぬぐ 新人作家の柳佳夜がエゴサーチで同姓同名のVTuberを見つけ、なりすましなのか、偶然なのか、その正体を探り始める。作家名、身体、声、オンライン上の分身がずれていく設定を通して、自己像と他者から見られる像の境界が揺さぶられる。李琴峰らしいアイデンティティへの関心を、VTuberという現代的なメディア環…
- 044 2023 パッキパキ北京 パッキパキペキン コロナ禍の北京で単身赴任中の夫に呼ばれた菖蒲が、愛犬ペイペイを連れて中国へ渡る。隔離、食、交通、春節、北京の人々のふるまいを、主人公はしぶしぶ来たはずの立場を軽々と反転させるように貪欲に観察し、味わっていく。著者自身の中国滞在経験に基づく観察力を生かし、異国の都市を「視察」する語りの勢いとユーモアで…
- 045 2023 ラーメンカレー ラーメンカレー 『ラーメンカレー』は、ロンドンの結婚式やペルージャへの旅をきっかけに、高校時代の同級生たちの言葉と記憶があふれ出す連作短編集である。表題作を含む「窓目くんの手記」連作と複数の短篇を収め、食べ物の名前の軽さとは裏腹に、青春の偶然や移動、他者との出会いが時間をまたいで響く構成になっている。滝口悠生らしい…
- 046 2023 最愛の さいあいの 『最愛の』は、学生時代に手紙を交わした望未を忘れられない久島が、彼女の「忘れて」という願いに向き合い、自分のためだけの文章を書き始める恋愛長編である。情報や欲望を処理する現代的な主体と、手紙という遅い言葉の形式が対置され、恋愛を記憶・忘却・書くことの問題として掘り下げる。上田岳弘が繰り返し描いてきた…
- 047 2023 トゥデイズ とぅでいず 子育てのため郊外の大規模マンション「Rグランハイツ」に越してきた美春と恵示、五歳の息子コースケの一家を中心に、管理組合、リモートワーク、近隣住民との関わりが描かれる。大事件ではなく、住むこと、育てること、今日を続けることの小さな揺れを積み重ねる。日常の可笑しさと共同住宅の距離感を、長嶋有らしい軽やか…
- 048 2023 共に明るい ともにあかるい 『共に明るい』は、早朝のバス、野鳥園、恋人の家、島への修学旅行、工場の作業部屋など、異なる場所で人が抱える痛みや不安に触れる五篇の小説集である。語られない心の内がふと漏れ出す瞬間をすくい、「他人」がつながりたい「他者」へ変わる手つきを静かに描く。『この世の喜びよ』で芥川賞を受けた後の第一作として、井…
- 049 2023 続きと始まり つづきとはじまり 東日本大震災、熊本地震、未知の病原体の出現を背景に、別々の場所で暮らす男女三人の日常が描かれる。大きな出来事の「始まり」と「続き」は個人の生活時間のなかで重なり、誰にも同じように流れたはずの月日が、それぞれ異なる記憶として蓄積していく。複数の人物の日々を並置し、災害とパンデミック以後の時間感覚を静か… 第60回 谷崎賞
- 050 2023 うるさいこの音の全部 うるさいこのおとのぜんぶ ゲームセンターで働く長井朝陽は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから、職場や友人との関係が少しずつ変化していく。兼業作家であることが知られ、執筆中の小説と現実の境目も揺らぎはじめる。作家デビューの舞台裏を題材にしながら、注目されること、働き続けること、他者の視線に晒され…
- 051 2023 ユーチューバー ユーチューバー 『ユーチューバー』は、二十代半ばでデビューし七十歳になった作家・矢崎健介が、ユーチューバーに誘われて語り始める連作小説である。矢崎は「自由である人間」について、そして半世紀にわたって出会い、消えていった女性たちについて回想する。YouTubeという現代的な語りの場を借りながら、恋愛、老い、創作の源泉…
- 052 2022 はぐれんぼう はぐれんぼう 『はぐれんぼう』は、あさりクリーニング店で働く優子が、長く引き取りに来られない衣服「はぐれんぼちゃん」を持ち帰ったことから始まる長編である。翌朝、衣服が体を覆うようにまとわりつき、優子は持ち主たちを訪ねるが、服は次々に受け取りを拒まれる。トレンチコート姿のユザさんに導かれながら帰るべき場所を探す道行…
- 053 2022 ななみの海 ななみのうみ 『ななみの海』は、児童養護施設で暮らす高校生ななみが、医学部進学を目指しながら自分の進路を選び取っていく青春小説である。祖母の「馬鹿にされるな」という言葉を胸に、受験勉強、ダンス部最後の発表会、初めての恋、進学費用のためのアルバイトが重なる。十代の心許なさと揺らぎをすくい、支援や家庭環境に規定される…
- 054 2022 CF しーえふ 罪の責任を「無化」する超巨大企業Central Factoryをめぐり、加害、被害、償いの意味が揺らいでいく群像劇。キャバクラ嬢、主婦、中学生、ホームレス、CFで働く中年、広報室長、そしてCFへのテロを企てる男など、社会の周縁と制度の内部にいる人々が交錯する。荒唐無稽な設定を通して、責任を引き受ける…
- 055 2022 カルチャーセンター かるちゃーせんたー カルチャーセンターで共に過ごしたニシハラくんの未発表小説『万華鏡』を収録し、その小説に寄せられた作家・編集者たちのコメントまでも作品の一部として組み込む小説。松波太郎がニシハラくんへ語りかける形で、書きたいという欲望、書かれたものへの責任、そして「これは小説なのか」という問いを空白ごと立ち上げていく…
- 056 2022 デクリネゾン デクリネゾン 二度の離婚を経て中学生の娘・理子と暮らす小説家の志絵が、年下の大学生・蒼葉との同居を娘に告げるところから、母であることと恋愛することの緊張が露わになる長篇。仕事、家庭、恋愛のすべてを求める女性たちと、その周囲に生まれる家族的なつながりを描く。母子、ステップファミリー、欲望、生活の配分をめぐる会話が…
- 057 2022 ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉 ごじらしんぎゅらぽいんと TVアニメシリーズ『ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉』を、円城塔自身が小説として再構成した作品。2030年の千葉県逃尾市に未確認飛行生物が現れ、銀色のロボット「ジェットジャガー」との交戦、その怪鳥が「ラドン」と名付けられる出来事を起点に、逃尾市周辺で異変が広がっていく。怪獣、AI、時間や特異点を…
- 058 2022 青木きららのちょっとした冒険 あおききらら のちょっとしたぼうけん 「きらら」という名を手がかりに、人気モデル兼女優の偽物、痴漢された女子高生、特別な日を撮影するカメラマン、若いアイドルの死を願う会社員など、八つの人生を照らす連作的な作品集。無責任な暴力、すれ違う意識、他者への思い込みが、日常の少しずれた場面から立ち上がる。誰かであり誰でもない存在として生きる人々を…
- 059 2022 引力の欠落 いんりょくのけつらく 『引力の欠落』は、CFOとして企業の上場に関わり巨富を得た行先馨が、弁護士マミヤに招かれて奇妙なペントハウスへ向かう超現実的な小説。そこでは「始皇帝」や「本多維富」を自称する者たちがカードゲームに興じ、経済的充足の先に残る孤独と、何かが欠けた人間が別の段階へ移れるのかという問いが立ち上がる。現代の資…
- 060 2022 君たちはしかし再び来い きみたちはしかしふたたびこい 腹が破裂し死を告げられた「私」は、三度の入院、飼い猫の手術、コロナ禍を経て、痛みによって世界と自己の境界が変わっていくのを経験する。病の記録は歴史や宇宙、カフカ、『白鯨』、ブレイクなどへ跳躍し、私小説的な身体感覚と思想的な連想が重なる。時系列や視点を揺らしながら、病む身体から世界をもう一度呼び寄せる…
- 061 2022 嫌いなら呼ぶなよ きらいならよぶなよ 『嫌いなら呼ぶなよ』は、表題作を含む四篇で、有毒に暴走するコミュニケーションと、その遮断を描く短篇集である。妻の親友宅に招かれた「僕」が突然ミニ裁判にかけられる表題作をはじめ、美容整形、YouTuberへの粘着的なコメント、深夜まで続く助言など、現代的なつながりの圧力がブラックユーモアを帯びて展開す…
- 062 2022 この世の喜びよ このよのよろこびよ ショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」は、かつて幼い娘たちとこのセンターで長い時間を過ごした。いまはフードコートに入り浸る中学生の少女と言葉を交わすようになり、彼女との関わりのなかで、子育ての日々の記憶や、言葉にならないまま積もっていた感情が少しずつよみがえってくる。全編が「あなた」への呼… 第168回 芥川賞
- 063 2022 くるまの娘 くるまのむすめ 17歳のかんこは、家族とともに車中泊をしながら祖母の葬儀へ向かう。狭い車内と旅先の景色は、父母と子のあいだに積み重なった暴力、依存、愛着を逃げ場なく浮かび上がらせる。少女の身体感覚に寄り添う濃密な語りが、家族を単純な加害と被害に分けられないものとして描き、読者に「救うなら誰を救うのか」という問いを突…
- 064 2022 おいしいごはんが食べられますように おいしいごはんがたべられますように 食品会社の支店を舞台に、三人の社員の関係を描く。そつなく働くが食への関心が薄い二谷、体が弱く周囲に守られ、手作り菓子を職場に持ってくる芦川、芦川の分の仕事まで引き受けてしまう押尾。二谷は芦川と付き合いながら、「おいしいごはん」を大切にする価値観への苛立ちを募らせ、押尾は守られる芦川への反感を二谷とひ… 第167回 芥川賞
- 065 2022 プリテンド・ファーザー ぷりてんど・ふぁーざー シングルファーザーとして四歳の娘を育てる恭平と、シッターとして働きながら一歳半の息子を育てる章吾が、互いの事情から四人で暮らし始める物語。高校の同級生だった二人の共同生活は、家事・育児・仕事の負担を分かち合う試みであると同時に、ケアとキャリアをめぐるひずみを可視化していく。血縁や恋愛関係だけではない…
- 066 2022 憐憫 れんびん 『憐憫』は、かつて子役だった沙良が、芸能界で伸び悩み、自分の正体を知らない相手を求めるところから始まる小説。酒場で出会った柏木に抱く感情は、愛しさであり憐憫でもあり、恋愛と呼び切れない関係の輪郭を曖昧にしていく。見られる側として生きてきた女性の孤独、承認、満たされなさを、短く張りつめた語りで追う。
- 067 2022 老人ホテル ろうじんほてる 埼玉県の大家族で育った日村天使は、テレビに出る大家族の一員だったが、16歳で家を出て大宮のキャバクラで働く。生活保護を受けながら流されるように暮らしていた彼女は、かつて店で出会ったビルのオーナー・綾小路光子と、訳あり老人が長逗留する古びたビジネスホテルで再会する。光子の投資や生活の指南を通じて、天使…
- 068 2022 財布は踊る さいふはおどる 専業主婦の葉月みづほは、ある夢のために生活費を切り詰め、毎月二万円を貯金してきた。努力の末に夢を実現した直後、夫に二百万円以上の借金があることが発覚し、彼女の生活は大きく動き始める。ひとつの財布をめぐる六話を通じて、節約、借金、投資、奨学金、老後資金など、「今より少し、お金がほしい」人々の切実さと再…
- 069 2022 Schoolgirl すくーるがーる 表題作は太宰治「女生徒」を現代に移し、社会派YouTuberとして活動する14歳の娘と、小説に囚われた母のすれ違いを描く。娘の投稿が「女生徒」へ向かうことで、母娘の断絶は文学の記憶と現在のメディア環境のなかで照らし返される。第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」も併録し、学校、芸術、言葉への過剰な…
- 070 2022 信仰 しんこう 表題作は、「現実を生きろ」を口癖にする永岡が、同級生からカルト商法を始めようと誘われる短篇。現実こそ正しいと信じる態度そのものを信仰として照らし返し、信じることの危うさと切実さを問う。『生存』『書かなかった小説』『最後の展覧会』など短篇とエッセイを収め、日常の常識が少しずつ異形化する村田作品らしい読…
- 071 2022 月の三相 つきのさんそう 旧東ドイツの小さな街で「フローラが失踪した」という噂が広がり、歴史に引き裂かれた少年と少女の物語が呼び起こされる。その街では誰もが自分の「肖像面」を持ち、面に惹かれて移り住んだ望、グエット、ディアナの三人は、失われた「顔」を探して見えない境界を越えていく。いくつもの時間が重層する街を舞台に、歴史、記…
- 072 2021 あなたにオススメの あなたにオススメの 『あなたにオススメの』は、「推子のデフォルト」「マイイベント」の二篇からなる近未来小説集。身体に超小型電子機器を埋めて複数のコンテンツを同時に摂取する推子と、災害時の「安全」な住まいに優越感を覚える渇幸の姿を通じ、アルゴリズム化した消費、育児、階層意識が日常に入り込む怖さを描く。滑稽さを帯びた語りが…
- 073 2021 翼の翼 つばさのつばさ 『翼の翼』は、小学二年生の息子・翼が進学塾の全国テストをきっかけに中学受験へ向かい、母・円佳が塾、ライバル、保護者、家族の期待に巻き込まれていく長篇。子を思う気持ちが、親のプライドや世間の噂、家族内の力学と結びつき、愛情と支配の境目が見えにくくなる過程を描く。中学受験という制度の熱を通じて、家族の内…
- 074 2021 オーラの発表会 オーラのはっぴょうかい 『オーラの発表会』は、大学一年生の海松子が、人を好きになる気持ちや他人の感情をうまく読めないまま、友情と恋愛未満の関係に巻き込まれていく長篇。凧揚げを趣味にし、周囲に脳内であだ名をつける彼女の少しずれた観察が、幼なじみや社会人男性からの接近を通じて揺さぶられる。綿矢りさらしい軽やかな口語感とユーモア…
- 075 2021 カード師 かーどし 『カード師』は、占いを信じていない占い師であり違法カジノのディーラーでもある「僕」が、ある組織から冷酷な資産家の顧問占い師になるよう命じられる長篇。カード、占い、ギャンブルをめぐる偶然と操作の感覚が、個人では抗いがたい理不尽な力と結びついていく。語りはサスペンスの推進力を持ちながら、不確かな未来を知…
- 076 2021 母親からの小包はなぜこんなにダサいのか ははおやからのこづつみはなぜこんなにださいのか 『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』は、実家から届く小包をめぐって、昭和・平成・令和をまたぐ家族の思いを描く連作集。業者から買った野菜を実家からの荷物と偽る女性、父が受け取っていた小包の謎、母からの最後の荷物など、物の中にしまわれた気遣い、ずれ、寂しさが開封されていく。タイトルの軽さに対して…
- 077 2021 北斗星に乗って ほくとせいにのって 『北斗星に乗って』は、上野発の寝台特急「北斗星」を軸にした8編の短篇小説集。列車という移動空間が、乗客の記憶や人生の分岐、もう一つの世界へ向かうような感覚をつないでいく。旅情だけでなく、日常から少し離れた場所で自分の過去や孤独に触れる、静かな幻想味を持つ作品集である。
- 078 2021 滅私 めっし 必要最低限の物だけで暮らすライターの男が、ミニマリストの同志が集うサイト運営と投資で生計を立てながら、自由でスマートな生活を手に入れている。物だけでなく人間関係にも淡泊だった彼の前に、昔の所業を知る人物が現れ、捨てたはずの過去が生活に影を落とす。所有を減らすことの快楽と、過去や欲望は簡単には消せない…
- 079 2021 ミトンとふびん ミトンとふびん 大切な人の死や癒えない喪失を抱えながら生きる人々を、ヘルシンキ、ローマ、台北など複数の土地で描く全6編の短篇集。旅の風景は観光的な背景ではなく、残された人が小さな光や手触りに支えられて日々を続けるための場所として置かれている。吉本ばななが長く書き続けてきた喪失、時間、愛の主題を、静かでやわらかな語り… 第58回 谷崎賞
- 080 2021 長い一日 ながいいちにち 小説家の夫と妻が、住み慣れた家からの引っ越しを考え始めるところから、長くつきあってきた友人たち、日々の暮らし、失ってから気づく愛着や記憶が交差していく長編。出来事を大きな劇に仕立てるよりも、生活の中でふと立ち上がる静かな感情と、時間の伸び縮みをすくい取る。日記と小説のあわいを思わせる形式で、夫婦と住…
- 081 2021 Phantom ファントム 外資系食料品メーカーで働く元地下アイドルの華美は、生活費を切り詰めて株式投資を続け、給与収入と同じ配当を生む「分身」の構築を目指している。恋人の直幸は、使われない金を軽んじながら、ある人物が率いるオンラインコミュニティにのめり込み、物々交換や集団生活の思想へ傾いていく。投資、オンライン共同体、恋愛の…
- 082 2021 ルーティーンズ るーてぃーんず 2020年春の緊急事態宣言下、保育園が休園した二歳の娘を、作家の夫と漫画家の妻が交替で見ながら過ごす日々を描く家族小説。社会が止まったように見える時間の中でも、子どもの成長や生活の反復は続いていく。短篇「願いのコリブリ、ロレックス」と表題作を収め、非常時の日常を長嶋有らしい軽やかな観察とユーモアで描…
- 083 2021 旅のない たびのない コロナ禍中の日々を映す四篇からなる、上田岳弘初の短篇集。恋人とのホテル、息子との散歩、甥を預かる夏、出張先の車中といった限られた場面を通して、移動が制限された時代の記憶、会話、自己認識を描く。大きな事件よりも、日常の小さな違和感や言葉のずれから世界の変化を浮かび上がらせる作品集。 第46回 川端賞
- 084 2021 アンソーシャル ディスタンス アンソーシャル ディスタンス パンデミックに閉塞する社会で、生への希望だったバンドのライブ中止をきっかけに心中旅行へ向かう若い男女を描く表題作を含む作品集。ほかに、高アルコール飲料、整形、身体、インターネット上の視線など、追い詰められた人々の臨界点を描く作品を収める。コロナ禍の距離感を単なる時事性に閉じず、依存、疎外、自己破壊の… 第57回 谷崎賞
- 085 2021 小島 こじま 2014〜2021年に発表した13篇を収めた短篇集。「小島」(「新潮」2019年1月号)「ヒヨドリ」(「群像」2018年10月号)「卵男」(「文藝」2019年秋季号)など、身近な生き物・風景との境界が溶け始める場面を描く。「異郷」「継承」「点点」の3篇は「早稲田文学」発表のシリーズ的連作。単行本は2…
- 086 2020 2020年の恋人たち にせんにじゅうねんのこいびとたち 母の急死によりワインバーを継ぐかどうか選択を迫られた前原葵を中心に、同棲相手、常連客、店を手伝う人々、新たな出会いが交錯する長篇。恋愛の高揚だけでなく、会話の途切れ、依存、別れ、仕事として店を引き受けることを描き、葵が何を選び何を手放すかを追う。直木賞受賞後の長篇第一作として、喪失後の生活再建と関係…
- 087 2020 みがわり みがわり 『みがわり』は、新人賞を受けながら本を出せずにいる作家・律が、自分と瓜二つだった亡き女性の伝記執筆を依頼される長編。取材の過程で、姉妹の確執や家族の秘密、依頼そのものの不穏さが浮かび、律は他人の人生を書こうとするほど自分自身の物語も揺さぶられていく。伝記を書くことと書かれることの関係を通じて、自己像…
- 088 2020 地に這うものの記録 ちにはうもののきろく 再開発計画に揺れる駅前ビルに現れた、言葉を話すネズミのポールを主人公にした寓話的長篇。市議会議員の浦田さんの助けを得て、ポールは欲望や利害が渦巻く人間社会へ踏み込み、やがて市議会で語るところまで進む。人間とネズミの古い因縁を、都市再開発、政治、他者への嫌悪と共存の問題に重ねて描く。
- 089 2020 fishy フィッシー 三十代の女性三人が、それぞれの恋愛、結婚、仕事、女友だちとの距離を抱えながら、言い切れない本音をにじませていく連作長篇。男に対する屈託や違和感を、単純な対立ではなく、関係性が少しずつ更新される過程として描く。会話と内面の揺れを重ね、友情、欲望、自立の輪郭が変わっていく読み味がある。
- 090 2020 ピエタとトランジ〈完全版〉 ぴえたととらんじ かんぜんばん ピエタを語り手に、天才的な頭脳を持つ女子高生探偵トランジと、その才能に惹かれて助手になるピエタの関係を描く長篇。周囲で次々と事件が起きるトランジの体質は、探偵小説、友情譚、終末SFの要素を巻き込み、やがて人類滅亡のスケールへ広がっていく。軽やかな語り口で、女性バディ、才能への憧れ、破滅に向かう世界を…
- 091 2020 来世の記憶 らいせのきおく 『来世の記憶』は、前世の殺人の記憶を抱えた近未来の語り手から、眠っている間に戦争が終わってしまう世界、冷蔵庫やスマートフォンや怪獣までをめぐる奇妙な出来事までを収めた20篇の短篇集。日常の手触りを残したまま身体や物や世界の前提がずれていくため、読み手は不条理な笑いと不安のあいだに置かれる。藤野可織ら…
- 092 2020 破局 はきょく 主人公の陽介は、筋トレと公務員試験の勉強に励む大学4年生。母校のラグビー部でコーチも務め、政治家を目指す恋人・麻衣子がいる。やがて新入生の灯に好意を寄せられ、関係を持つようになる。陽介は常に「正しさ」やマナー、他人にどう見られるかを基準に行動するが、その整いすぎた思考と行動のあいだには、どこか空洞が… 第163回 芥川賞
- 093 2020 一橋桐子(76)の犯罪日記 ひとつばしとうこのはんざいにっき 76歳で一人暮らしの一橋桐子は、親友トモを亡くし、年金と清掃パートだけでは先行きの見えない老後に追い詰められる。孤独死で人に迷惑をかけるくらいなら刑務所に入ればよいのではないかと考え、万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人と、より長く収監される方法を真剣に調べ始める。犯罪計画の滑稽さの奥に、貧困、老い…
- 094 2020 星月夜 ほしつきよる 日本の大学で日本語を教える台湾出身の柳凝月と、新疆ウイグル自治区出身で大学院進学を目指す玉麗吐孜の恋を描く長篇。二人は日本語という共通語で近づくが、家族、国家、在留資格、セクシュアリティをめぐる負荷は同じ形では共有できない。親密さの甘さよりも、相手を分かっていると思うことの危うさを静かな語りで照らす…
- 095 2020 百年と一日 ひゃくねんといちにち 人や店、駅、家、空港、家族の記憶が、数ページの掌編の中で十年、二十年、百年の時間へ伸びていく短篇集。個々の人物の大事件ではなく、場所に積み重なる時間、誰かが去り誰かが来る反復、忘れられていく出来事の痕跡を描く。長いタイトルと淡々とした語りが、日常の一瞬を歴史の厚みへ接続する。
- 096 2020 一人称単数 いちにんしょうたんすう 村上春樹の六年ぶりの短篇小説集で、「石のまくらに」から書き下ろしの表題作まで八篇を収める。音楽、野球、過去の記憶、奇妙な遭遇をめぐり、一人称の語りが自分自身の輪郭を少しずつずらしていく。私、僕、あなたという呼び名の揺れを通して、回想と虚構が交錯する村上春樹らしい短篇世界を読むことができる。
- 097 2020 今も未来も変わらない いまもみらいもかわらない 『今も未来も変わらない』は、40代のシングルマザーで小説家の星子を主人公にした長編。大学受験を控える娘を見守り、親友とカラオケやスーパー銭湯を楽しみ、元夫や20代の男性との関係にも揺れながら、星子の日常は静かににぎやかに続いていく。大きな事件よりも、娯楽、恋、親子、仕事の小さな重なりを通じて、大人が…
- 098 2020 犬のかたちをしているもの いぬのかたちをしているもの 間橋薫は卵巣の手術を経て、恋人の郁也とも性交渉から距離を置いて暮らしている。そこへ郁也の子を妊娠したという女性が現れ、子どもを育ててくれないかと唐突に持ちかける。愛をどう証明するのか、子どもを産むことと持つことは何を意味するのかを、薫の身体感覚と故郷の家族への思いを通じて問うデビュー作。 第43回 すばる文学賞
- 099 2020 サピエンス前戯 さぴえんすぜんぎ 『サピエンス前戯』は、表題作「サピエンス前戯」に「オナニーサンダーバード藤沢」「酷暑不刊行会」を加えた長編小説集。身長、寿命、インターネット、ポルノ文化など、21世紀の人間の能力や欲望が極点に達した世界を、人類史のまだ前戯にすぎないものとして誇張してみせる。シンギュラリティSF、下世話な身体感覚、過…
- 100 2020 丸の内魔法少女ミラクリーナ まるのうちまほうしょうじょミラクリーナ 表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』に、『秘密の花園』『無性教室』『変容』を加えた四篇の短篇集。魔法少女、秘密の領域、無性化、変容といった設定を通じて、社会が当然視する性別、年齢、役割、自己像をずらして見せる。村田沙耶香らしい寓話的な発想と日常の手ざわりが同居し、軽やかさの奥に規範への違和感が残る。
- 101 2020 日本蒙昧前史 にほんもうまいぜんし 大阪万博や日航機墜落事故など、戦後日本の狂騒と蒙昧を彩った出来事の陰にある無数の生を描く長篇。文藝春秋公式は、語り手を自在に換えつつ戦後日本の手触りを蘇らせる作品として紹介している。歴史的事件を単なる背景にせず、語りのリレーによって個人の記憶と時代の空気を重ねるところに読みどころがある。 第56回 谷崎賞
- 102 2020 肉体のジェンダーを笑うな にくたいのじぇんだーをわらうな 『肉体のジェンダーを笑うな』は、夫の胸から「父乳」が出る話や、PMSを体験できるサーフボードの話などを収めた小説集。身体に結びつけられた性別役割を、SF的な設定や軽やかなユーモアでずらし、家族・ケア・労働の当たり前を問い直す。現実の制度を直接論じるより、ありえたかもしれない身体の可能性を想像すること…
- 103 2020 御社のチャラ男 おんしゃのちゃらおとこ 『御社のチャラ男』は、社内で「チャラ男」と呼ばれる三芳部長をめぐり、彼を見つめる周囲の人々の語りから職場の現実を照らし出す長篇。中心人物を直接つかまえるのではなく、多方向から語られる噂や距離感によって、憎らしさと愛おしさが同居する人物像が立ち上がる。会社という共同体の空気、働く人の孤独、他人を語るこ…
- 104 2020 推し、燃ゆ おし、もゆ 「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という一文から始まる。高校生のあかりは、学校でも家庭でも周囲の求める「普通」をうまくこなせず、アイドルグループの一員である「推し」上野真幸を解釈し応援することだけを生活の軸、自らの「背骨」として生きている。推しの炎上をきっかけに、彼の芸能活動もあかりの日常も少… 第164回 芥川賞
- 105 2020 ポラリスが降り注ぐ夜 ぽらりすがふりそそぐよる 新宿二丁目のバー「ポラリス」に集う、多様な性的アイデンティティを持つ女性たちを描く七つの恋の物語。筑摩書房公式とOpenBDは、国や歴史を越えて思い合う気持ちがつながっていく連作として紹介している。都市の夜の親密さを起点に、セクシュアリティ、移動、言語や歴史の記憶を交差させるところが読みどころ。
- 106 2019 私の家 わたしのいえ 祖母の法要で一堂に会した親戚たちを起点に、三世代にわたる一族の記憶と秘密をたどる連作短編集。同棲相手に追い出されて戻る梓、過去にこだわる母、孤独を愛する大叔母らの章が重なり、家族であっても他人のように分かり合えない距離を描く。家という場所を、帰る場所であると同時に逃れがたい記憶の容器として読ませる。
- 107 2019 アタラクシア アタラクシア 結婚生活の苦しさや不倫、家庭内の苛立ちを抱える複数の男女を描く群像長編。翻訳者の由依、シェフの瑛人、パティシエの英美、作家の桂らの視点を通じて、望んで結婚したはずなのに救われない人々の孤独と愛情への渇望が交錯する。倫理や制度では割り切れない親密さの痛みを、金原ひとみらしい熱量で描く。
- 108 2019 父と私の桜尾通り商店街 ちちとわたしのさくらおどおりしょうてんがい 商店街でパン屋を営む父を手伝う娘を描く表題作を中心に、「白いセーター」「ルルちゃん」「ひょうたんの精」「せとのママの誕生日」「モグラハウスの扉」を収めた短篇集。家族、店、近隣関係のごく日常的な場面から、今村夏子らしい微細なずれや不穏さが立ち上がる。平明な語り口の奥で、親しさと疎外、子どもっぽさと残酷…
- 109 2019 出来事 できごと 『季刊文科』連載「転落」を単行本化した長篇。OpenBDの出版社由来データでは、見慣れた日常世界が歪み、人間の嘘や文明の虚妄が露出していく哲学小説として紹介されている。吉村萬壱の身体感覚の強い描写と、日常を異様なものへ反転させる語りが読みどころになる。
- 110 2019 DRY どらい 不倫の末に二人の子を置いて家を出た北沢藍が、十年ぶりに実家へ戻るところから始まる長編。母と祖母の暮らす袋小路の家、そして祖父を一人で介護する幼馴染・馬場美代子の家を通じて、家族、介護、女性の行き場のなさが暗く絡み合う。光文社公式が示す袋小路の家に潜む罪の構図どおり、生活の現実がサスペンスへ変質してい…
- 111 2019 ひよこ太陽 ひよこたいよう 一緒に住んでいた女に去られ、切り詰めた生活のなかで小説を書こうとする40代の男を描く連作小説集。書けない日々と死への誘惑に取り憑かれた語り手は、母から頼まれた人探しをきっかけに、現実と幻想の境界が揺らぐ世界へ入っていく。書けなさ、不在、生活の索漠さを見つめる私小説的な作品。
- 112 2019 改良 かいりょう 女装し、美しくなることに執着する大学生の「私」を描くデビュー作。コールセンターのアルバイト収入を美容やデリヘルに費やす私は、メイクや服装、仕草を研究し、やがて女装した自分を他人に認められたいという欲望を抱く。その望みは、性をめぐる理不尽な暴力と絶望へ向かっていく。 第56回 文藝賞
- 113 2019 生のみ生のままで きのみきのままで 『生のみ生のままで』は、逢衣が恋人との旅行先で彩夏と出会い、東京に戻ってから急速に惹かれていく上下巻の恋愛長篇。互いに男性の恋人がいる状況から、彩夏の告白と身体的な引力をきっかけに、二人は恋と生活を選び直していく。女性同士の恋愛を、社会的な枠組みや世間体、身体の感覚をはぎ取るように正面から描く。
- 114 2019 人間界の諸相 にんげんかいのしょそう 連絡が取れなくなった謎めいた女性・菱野時江の消息を、二人の友人がSNSを頼りに追っていくところから始まる作品。集英社公式は「トリッキーなエンタメ風小説」と紹介しており、人物相関や断片的な情報がずれながら、正体をつかもうとする読者の視線そのものを揺さぶる。奇妙なユーモアと不穏さが混ざる、木下古栗らしい…
- 115 2019 キュー キュー 平凡な医師である「僕」が突然拉致され、世界の趨勢をめぐる暗闘の中心に、長年寝たきりだったはずの祖父がいることを知る。新潮社公式は、祖父の秘密が「人類を一つに溶かす」使命に関わるものとして紹介している。戦争、愛、運命、人類の統合という大きな主題を、現代的な技術感覚と哲学的な思考実験の語りで押し広げる作…
- 116 2019 待ち遠しい まちどおしい 北川春子、夫を亡くした青木ゆかり、新婚の遠藤沙希という世代も立場も異なる三人の女性が、ご近所付き合いを通じて少しずつ関わる長編。住まいの距離の近さと、価値観や人生段階のずれが生む噛み合わなさを、柴崎友香らしい生活の手触りのなかで描く。年齢、結婚、独居、見えにくい困難をめぐり、人はどこまで互いを判断せ…
- 117 2019 むらさきのスカートの女 むらさきのスカートのおんな 語り手「わたし」の近所には、いつも紫色のスカートをはき「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女がいる。週に一度パン屋でクリームパンを買い、公園の決まったベンチに座る彼女を、「わたし」は毎日観察し続けている。友達になりたい一心で、「わたし」は求人誌をベンチに置くなどして、彼女が自分と同じホテルの清掃の職… 第161回 芥川賞
- 118 2019 夏物語 なつものがたり 『乳と卵』の世界を引き継ぎ、作家となった夏子が、パートナーなしで妊娠・出産し子どもを持つ可能性を考え始める長篇。姉・巻子や姪・緑子の身体をめぐる物語を背後に、生まれること、産むこと、産まないこと、家族の形をめぐる声が重なっていく。文藝春秋公式が掲げる「生まれること」と「産むこと」の非対称性の問いを中…
- 119 2019 人間 にんげん 『人間』は、若い日に創作を志す者たちが集ったシェアハウスの記憶と、38歳になった「僕」の現在を往還する長篇。表現者になりたいという願い、仲間と暮らす時間の高揚、その後に残る成功や挫折の差が、自己像を問い直す物語として重なっていく。又吉直樹の初の長編として、芸術への憧れだけでなく、他者と比べながら生き…
- 120 2019 おっぱいマンション改修争議 おっぱいまんしょんかいしゅうそうぎ 天才建築家が設計した、通称「おっぱいマンション」と呼ばれるヴィンテージマンションを舞台にした長篇。立地もデザインも人気を集める一方で重大な問題が発覚し、建築家の娘、学生運動あがりの元教師、秘密を抱えた住人たちを巻き込む改修争議が起こる。建築という表現物、住まいの記憶、共同体の利害がぶつかる騒動を、軽…
- 121 2019 ポルシェ太郎 ポルシェたろう 35歳で起業した太郎は、年収に匹敵するポルシェを買う。ところが、その自慢の車で得体の知れないものを運ばされることになり、成功者の見栄と欲望が危うい方向へ走り出す。河出書房新社の紹介は「欲望か、死か」という言葉で作品の緊張を示しており、消費、承認、成功の演出を乾いたユーモアで追う長篇として読める。単な…
- 122 2019 リボンの男 りぼんのおとこ 主人公の常雄は、自分を「ヒモ」ではなく「リボン」と言い換える専業主夫。三歳のタロウと野川沿いを歩く日常のなかで、家事や育児に値段をつけにくい社会、父であること、働くことの意味が静かに問い直される。山崎ナオコーラらしい平明な言葉で、家族の役割分担やジェンダー規範を大げさな対立ではなく生活の手触りから描…
- 123 2019 サバティカル さばてぃかる 33歳のエンジニア梶くんは、転職先への入社までに空いた五カ月を「サバティカル」と名づけ、自分にさまざまな宿題を課す。プロジェクト管理ツールで課題を片付けるうち、将棋の師匠が生き別れた娘を探すという思いがけない宿題に向き合うことになる。仕事の切れ目に生まれた時間を、単なる休暇ではなく自分の結びつきや恋…
- 124 2019 趣味で腹いっぱい しゅみではらいっぱい 『趣味で腹いっぱい』は、結婚後に絵手紙、家庭菜園、小説などの趣味に興じる鞠子と、仕事一筋で生きてきた銀行員・小太郎をめぐる長篇。上達や成果を急がない趣味の時間が、仕事中心の価値観や夫婦の距離を少しずつ揺らしていく。生活のなかの小さな楽しみを通して、役に立つことだけでは測れない生き方を描く。
- 125 2019 藁の王 わらのおう 小説家として一冊だけ本を出した語り手が、巨大私立大学で創作を教えることになり、学生たちの苦悩と自身の行き詰まりに向き合う表題作を含む作品集。新潮社公式は、文学の迷宮や小説の樹海を彷徨う人々を描く作品集として紹介している。書くこと、読むこと、他者の言葉に侵されることの怖さを、静かな幻想性と記憶の反復で…
- 126 2019 夜はおしまい よるはおしまい 「夜のまっただなか」「サテライトの女たち」「雪ト逃ゲル」「静寂」を収めた短篇集。夜、逃避、静けさといった収録作名が示すように、関係の余白や孤独を抱えた人物たちの時間を描く。島本理生の恋愛や家族関係をめぐる繊細な筆致を、より暗く静かなトーンで味わえる作品集として位置づけられる。
- 127 2019 夢も見ずに眠った。 ゆめもみずにねむった 『夢も見ずに眠った。』は、夫を熊谷に残して札幌へ単身赴任した沙和子が、夫婦のすれ違いと離別を経て、新しい愛と信頼の形へ向かう長篇。岡山、札幌、熊谷など土地の記憶や物語が、二人の関係の変化と響き合う。移動する生活のなかで、結婚や家族の安定ではなく、相手を信じ直す距離を探るところが読みどころになる。
- 128 2018 あなたの愛人の名前は あなたのあいじんのなまえは 『あなたの愛人の名前は』は、すれ違う大人の恋愛を描く六篇の作品集。集英社公式が示す「あなたは知らない」と「俺だけが知らない」は、同じ関係を別々の視点から照らし、同じ部屋にいても互いの心が決定的にずれていく痛みを描く。欲望、秘密、婚約、浮気、世間の価値観に揺れる心を、島本理生らしい繊細な心理の動きとし…
- 129 2018 ブルーハワイ ぶるーはわい 『ブルーハワイ』『辰年』『聖ミクラーシュの日』『わかれ道』『山の上の春子』『わたしのおばあちゃん』を収めた短篇集。河出書房新社は、「あたりまえ」を知らない孤独が世界を撃ち抜く作品集として紹介している。日常のなかでそれぞれのことに夢中になる人々を、平明で少し乾いた語りで捉え、家族や記憶、他者との隔たり…
- 130 2018 人生のピース じんせいのぴーす 中高一貫の女子校で過ごした潤子、みさ緒、礼香が、34歳になって結婚や恋愛、仕事との向き合い方を揺らす物語。礼香の突然の結婚をきっかけに、潤子は結婚相談所へ、みさ緒は腐れ縁の相手との関係を見直し、それぞれが自分の人生の欠けたピースを探す。婚活を題材にしながら、同調圧力や友情の距離、女性が自分の選択を引…
- 131 2018 みなさんの爆弾 みなさんのばくだん 「初恋」「譲治のために」「メアリーとセッツ」など六篇を収め、女性たちの内部に抱え込まれた欲望や怒り、関係の歪みを描く短篇集。同性への欲望、母と息子の倒錯的な結びつき、創作や日常に潜む衝動が、それぞれの「爆弾」として立ち上がる。平穏に見える生活の奥で感情が臨界に近づく瞬間を、鋭くも読みやすい語りで追う…
- 132 2018 5時過ぎランチ ごじすぎランチ 「グリーンゾーン」「内なる殺人者」「誰が為の昼食」の三篇からなる、労働と犯罪が絡み合う短篇集。ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギーを抱える殺し屋、写真週刊誌の女性記者が、それぞれ過酷な仕事の延長線上でヤクザや警察、国家権力に触れていく。ブラックな職場感覚とクライムノベルの緊張を重ね、仕事にまつわ…
- 133 2018 日の出 ひので 明治の終わり、13歳の清作は徴兵から逃れて故郷を飛び出し、北陸から九州、横浜へ移りながら鍛冶職人として生きる。もう一つの軸として、清作を曾祖父にもつ現代の女子大生・あさひが、教職免許取得のために学ぶ姿が置かれる。時代を隔てた二人を並行させ、労働、逃走、家系の記憶、希望の継承を描く長編。
- 134 2018 独り舞 ひとりまい 台湾出身のレズビアン女性が、過去の痛みと孤独を抱えながら日本で生き直そうとするデビュー作。著者公式プロフィールでは、李琴峰が第二言語である日本語で初めて書いた小説とされており、移動と言語のずれ、性的マイノリティとしての孤立、自己回復の時間が重なる。内面に寄り添う一人称の語りが、越境する身体と言葉の不…
- 135 2018 雪子さんの足音 ゆきこさんのあしおと 東京出張中の薫は、大学時代を過ごした高円寺のアパートの大家・雪子さんが熱中症でひとり亡くなったことを新聞記事で知り、20年ぶりにその場所へ向かう。アパートへ近づく道のりと回想を重ねながら、大家と下宿人、若者と年長者、好意と負担の境目が少しずつ浮かび上がる。日常の会話や距離感の微細な違和を通して、人間…
- 136 2018 公園へ行かないか?火曜日に こうえんへいかないか?かようびに 2016年、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、世界各国の作家・詩人たちと過ごした3か月をもとに描く11篇の連作小説集。英語で議論し、街を歩き、アメリカ大統領選挙の瞬間にも居合わせる経験を通じて、そこにいること/いないこと、知りたいのに届かないことを考え続ける…
- 137 2018 偽姉妹 にせしまい 宝くじで3億円を当てた正子が、風変わりな「屋根だけの家」を建て、離婚後に姉妹との共同生活へ入っていく家族小説。血縁や結婚に縛られた関係に息苦しさを覚えた正子は、姉妹もまた別れたり新しく作ったりできるのではないかと考え始める。山崎ナオコーラらしい軽やかな語りで、家族制度の当たり前、女性同士の距離、暮ら…
- 138 2018 三千円の使いかた さんぜんえんのつかいかた 御厨家の女性たちが、結婚、子育て、入院、離婚、老後といった局面でお金の使い方に向き合う連作短篇集。節約や貯金のノウハウに寄せつつ、家族の役割、将来不安、生活を立て直す知恵を物語として読ませる。具体的な金額や家計の話が、女性たちの選択と自立をめぐる現実的なドラマになっている。
- 139 2018 静かに、ねぇ、静かに しずかに、ねぇ、しずかに 「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」「でぶのハッピーバースデー」の3篇を収める作品集。海外旅行の写真投稿、ネットショッピング依存、動画撮影で自分たちだけの印を残そうとする夫婦など、SNSやスマートフォン越しにしか確かめられない現実感を描く。軽妙な語りの底に、承認欲求、支配、親密さの不安がにじみ…
- 140 2018 その先の道に消える そのさきのみちにきえる アパートの一室で発見された緊縛師の死体をめぐり、重要参考人の女性と彼女に惹かれる刑事・富樫、別の刑事たちの視線が絡み合う長編ミステリー。謎と嘘を追う捜査の形を取りながら、暴力、欲望、死者の痕跡を通じて、この世界を生きる意味を問い詰めていく。犯罪小説の緊迫感と、中村文則らしい倫理的・実存的な暗さが重な…
- 141 2018 たてがみを捨てたライオンたち たてがみをすてたらいおんたち 専業主夫を考える30歳の出版社社員・直樹、離婚後の孤独を抱える35歳の広告マン・慎一、アイドルを追う25歳の公務員・幸太郎という三人の男性を並べる長編。仕事の評価、家事・育児、父親像、恋愛や趣味を通じて、「大人の男」らしさやプライドの重さを問い直す。軽く読ませる群像劇の形を取りながら、弱音を吐きにく…
- 142 2018 つかのまのこと つかのまのこと かつての住み家らしき「この家」をさまよい続ける「わたし」が、次々に入れ替わる住人たちを見守る物語。幽霊のような語り手の視点から、家に残る記憶と、誰かを待ち続ける時間が静かに積み重ねられる。柴崎友香が俳優・東出昌大をイメージして小説を書き、市橋織江の写真と組み合わされた、写真と小説の境界を意識した一冊…
- 143 2018 私に付け足されるもの わたしにつけたされるもの 「四十歳」「白竜」「Mr.セメントによろしく」「瀬名川蓮子に付け足されるもの」など十二篇を収める短篇集。虎に襲われたい、くっつけたい、あきらめたい、移動したいといった、くだらなくも切実な願望を起点に、日常のずれや欲望の不可思議さを軽やかに描く。長嶋有らしいユーモアと観察眼が、平凡な生活に付け足される…
- 144 2018 庭 にわ 2013〜2018年に各文芸誌・アンソロジーに発表した15篇を収めた短篇集。「うらぎゅう」(「群像」2013年4月号)「庭声」(「文學界」2015年8月号)「名犬」(「新潮」2016年1月号)など、日常空間に動物や植物が静かに侵入する情景を積み重ねる。収録作「彼岸花」(「GRANTA JAPAN w…
- 145 2017 ハッチとマーロウ はっちとまーろう 11歳の誕生日に母から「大人を卒業する」と告げられた双子のハッチとマーロウが、突然自分たちの生活を引き受けることになる長編。料理や服選び、双子であることの個性、父の不在といった日常の問いを通じて、子どもから大人へ向かう時間を軽やかに描く。かわいらしい双子の語り口の奥に、母子関係や自立の痛みが少しずつ…
- 146 2017 おらおらでひとりいぐも おらおらでひとりいぐも 主人公は東北出身、74歳の桃子さん。結婚を目前に故郷を飛び出して上京し、住み込みの仕事、周造との結婚、二児の子育て、そして夫との突然の死別を経て、いまは東京郊外の家にひとりで暮らす。静かな日々のなか、桃子さんの内から標準語と懐かしい東北弁の無数の「声」が湧き上がり、孤独や老い、夫への思い、これからの… 第158回 芥川賞
- 147 2015 異類婚姻譚 いるいこんいんたん 結婚して4年になる専業主婦の「私」は、家ではテレビとゲームに没頭するだけの夫と、波風のない生活を送っている。ある日ふと、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気づいた「私」。やがて夫の顔は緩み、溶け、人間の形を失っていくように見え始める。捨てられた飼い猫の行方や、揚げ物に異常に執着する夫の変容… 第154回 芥川賞
- 148 2015 スクラップ・アンド・ビルド スクラップ・アンド・ビルド 無職で資格試験の勉強と転職活動を続ける28歳の健斗は、母と、87歳の祖父との三人暮らし。「早う死にたか」と口癖のように繰り返す祖父に対し、健斗は介護職の友人の助言をひねって解釈し、あえて何もかも世話を焼いて自立の機会を奪う「足し算の介護」によって、祖父の望む穏やかな死を後押ししようと思い立つ。同時に… 第153回 芥川賞
- 149 2010 苦役列車 くえきれっしゃ 中卒で家を出た19歳の北町貫多は、東京の埠頭で冷凍倉庫から荷を運び出す日雇い仕事でその日暮らしを続けている。日当はすぐに酒と風俗に消え、家賃は滞納し、人付き合いもない。そんな彼が職場で専門学校生の日下部と知り合い、初めて友人と呼べそうな存在を得るが、劣等感と過剰な自意識がその関係に影を落としていく… 第144回 芥川賞
- 150 2009 あの子の考えることは変 あのこのかんがえることはへん 『あの子の考えることは変』は、他人から見れば奇妙に見える思考や感情を、関係性の歪みとして描く本谷有希子の小説です。人物たちは互いを理解したいのではなく、しばしば相手の「変さ」を足場にして自分を保とうとします。会話の毒と笑いが、同調できない孤独を浮かび上がらせます。
- 151 2009 かけら かけら 『かけら』は、日常の小さな破片のような出来事から、若い人物の孤独や関係の変化をすくい上げる青山七恵の作品です。簡潔な語りは感情を説明しすぎず、読者に余白を残します。家族や恋愛のはっきりしない揺れを、静かな手ざわりで読む小説です。
- 152 2009 魔法使いクラブ まほうつかいくらぶ 『魔法使いクラブ』は、若い人びとの小さな結びつきや願望を、魔法という言葉の軽やかさで包む作品です。現実を大きく変える力ではなく、日々を少しだけ違って見せる想像力が中心になります。青山七恵らしい静かな文体で、青春と孤独のあいだを描きます。
- 153 2009 あたしはビー玉 あたしはびーだま 『あたしはビー玉』は、山崎ナオコーラが一人称の感覚を通して、自己像の丸さや転がりやすさを描く作品です。題名の比喩は、主体が固定されず、他者との関係の中で動いてしまうことを示しているように読めます。軽やかな文体の奥に、孤独と自己認識の問題が残ります。
- 154 2009 ブルーシート ぶるーしーと 『ブルーシート』は、デビュー作「家畜の朝」を含む第一創作集として、底辺労働や生活の現場を描く作品です。都市の表面では見えにくい働く身体と貧困の感覚が、青いシートの仮設性と重なります。社会的な題材を、個人の孤独と身体感覚に引き寄せて読むことができます。
- 155 2009 ぼくたちは大人になる ぼくたちはおとなになる 『ぼくたちは大人になる』は、成長することの期待と重さを、若い人物の生活感覚から描く佐川光晴の作品です。題名はまっすぐですが、そこには家族や社会の中で大人にならざるをえない苦さも含まれます。青春を懐かしむより、労働や家族へ向かう時間として捉える作品です。
- 156 2009 独居45 どっきょしじゅうご 『独居45』は、四十五歳で独り暮らしをする人物の生活を通して、身体、欲望、孤独を露悪的に描く吉村萬壱の作品です。平凡な住まいの内側に、社会から切り離された感覚と不穏な衝動が溜まっていきます。ユーモアと気味悪さが同居する読み味が特徴です。
- 157 2009 ドリーマーズ ドリーマーズ 『ドリーマーズ』は、夢を見ることと現実を生きることのずれを、柴崎友香らしい都市の時間感覚で描く作品です。人物たちの関係は劇的に変わるというより、会話や移動のなかで少しずつ輪郭を変えます。淡い題名に対して、日常の底に残る孤独も読みどころになります。
- 158 2009 ヘヴン ヘヴン 『ヘヴン』は、いじめを受ける「僕」と同級生コジマの連帯を通じて、暴力と倫理を問う長篇です。弱さを共有する二人の関係は救いに見えますが、暴力を意味づけて耐えることの危うさも浮かび上がります。身体の痛みと思想的な問いが同時に迫る、川上未映子の代表的長篇の一つです。
- 159 2009 ヒマワリのキス ひまわりのきす 『ヒマワリのキス』は、明るい題名の裏側に、恋愛や記憶の痛みを抱えた人物を置く樋口直哉の作品です。ひまわりのイメージは夏や若さを連想させますが、そこには過ぎ去った時間を取り戻せない感覚も重なります。今回の確認は書誌中心のため、細かな筋は追加調査が必要です。
- 160 2009 犬はいつも足元にいて いぬはいつもあしもとにいて 中学生の主人公の日常に、犬が公園の茂みから探り当てた正体不明の「肉」が入り込んでくる。誰も名指せないその物体は、思春期の鬱屈や家族のぎこちなさと響き合いながら、生き物の生々しさと死の気配を物語の中心に居座らせる。登場人物はどこか不快なのに目を離せないという独特の距離感で語られ、生命の循環を思わせる視… 第46回 文藝賞
- 161 2009 JOHNNY TOO BAD 内田裕也 じょにーとぅーばっど うちだゆうや 『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』は、小説「ゲットーミュージック」と内田裕也のロックン・トークを合わせた書籍として確認できる作品です。モブ・ノリオの小説的な語りと、ロック文化への接近が一冊の中で並置されています。純文学とサブカルチャー、発話とパフォーマンスの境界を見る資料としても読めます。
- 162 2009 結婚小説 けっこんしょうせつ 『結婚小説』は、結婚をゴールではなく、生活と関係を組み替える出来事として描く中島たい子の作品です。日常的なユーモアのなかに、夫婦になることへの不安や違和感が置かれます。軽やかな語りで、制度としての結婚と個人の感情のずれを読ませます。
- 163 2009 君が降る日 きみがふるひ 『君が降る日』は、失われた相手への思いと、残された人の時間を描く島本理生の恋愛小説です。題名の「降る」は、記憶が突然日常へ戻ってくる感覚を思わせます。静かな語りの中で、喪失、恋愛、再生の気配が重なります。
- 164 2009 月食の日 げっしょくのひ 『月食の日』は、日常のなかに差し込む陰りを、月食という天体現象のイメージと重ねる木村紅美の作品です。人との距離や生活の変化が、明るさを一時的に失う感覚として描かれます。静かで観察的な文体が、家族や孤独の輪郭を浮かび上がらせます。
- 165 2009 ポジティヴシンキングの末裔 ぽじてぃう゛しんきんぐのまつえい 『ポジティヴシンキングの末裔』は、前向きさという社会的な合言葉を、木下古栗らしい不条理な笑いでずらす作品です。人物の考え方や言葉は一見軽いのに、そこから身体や生活の気味悪さがにじみます。明るい自己啓発的な語彙を反転させる、乾いたユーモアが読みどころです。
- 166 2009 ここに消えない会話がある ここにきえないかいわがある 『ここに消えない会話がある』は、会話の断片が人間関係の記憶として残ることを描く山崎ナオコーラの作品です。話したことは流れて消えるようでいて、相手との距離や自分の輪郭を決めてしまいます。言葉の軽さと残酷さを、日常の関係から考えさせる小説です。
- 167 2009 何もかも憂鬱な夜に なにもかもゆううつなよるに 『何もかも憂鬱な夜に』は、死刑囚と向き合う若い刑務官が、自らの孤独な子供時代と現在を重ねていく中村文則の長篇です。犯罪や死刑制度の問題は、単なる社会的題材ではなく、人が他者の罪をどう受け止めるかという倫理の問いになります。暗い語りの中に、救いの可能性がかすかに残ります。
- 168 2009 ねたあとに ねたあとに 『ねたあとに』は、眠った後、起きた後に残る気配のようなものを、長嶋有らしい淡いユーモアで描く作品です。日常の会話や場面は軽く見えますが、人物同士の距離は少しずつ変化します。生活の小さな時間を、静かなずれとして読む小説です。
- 169 2009 ぬかるみに注意 ぬかるみにちゅうい 『ぬかるみに注意』は、足を取られる場所の感覚を、生活や人間関係の抜け出しにくさと重ねる生田紗代の作品です。題名は注意を促す標識のようですが、人物はむしろそのぬかるみに近づいてしまいます。恋愛や家族の問題を、湿った不安として読む作品です。
- 170 2009 男と点と線 おとこととてんとせん 『男と点と線』は、山崎ナオコーラが男という属性や、人と人を結ぶ線の引き方を考える作品です。人物の関係は直線的に結ばれるのではなく、点のように散らばりながら、言葉によって仮につながります。ジェンダーと関係性を、軽い語り口で問い直す一冊です。
- 171 2009 世紀の発見 せいきのはっけん 『世紀の発見』は、巨大な機関車と大きな鯉の記憶、そして消えた友人をめぐって語りが展開する長篇です。現実の出来事と記憶の像が入り混じり、世界の見え方そのものが少しずつ変わっていきます。磯﨑憲一郎らしい、夢のようで乾いた語りの運動が読みどころです。
- 172 2009 世界の果て せかいのはて 『世界の果て』は、中村文則が世界の終端に立たされたような人物の孤独や罪の感覚を描く作品です。題名は地理的な果てというより、他者との関係や倫理が行き詰まる場所を示しているように読めます。暗い心理描写と、逃げ場のない空気が特徴です。
- 173 2009 瘡瘢旅行 そうはんりょこう 『瘡瘢旅行』は、藤澤清造の墓参と女性との旅を描く、北町貫多ものの作品集です。私小説的な語りは、文学への執着、貧しさ、対人関係のこじれを隠さずに差し出します。旅の形を取りながら、過去の傷や屈辱を抱え直す作品として読めます。
- 174 2009 掏摸 スリ 『掏摸』は、天才的なスリ師が闇の組織に支配され、逃げ場のない選択へ追い込まれていく中村文則の長篇です。犯罪小説の緊張を持ちながら、偶然、宿命、倫理の問題が強く前面に出ます。都市の雑踏と孤独な身体技術が結びつく、暗く硬質な作品です。
- 175 2009 ロンバルディア遠景 ろんばるでぃあえんけい 『ロンバルディア遠景』は、遠景という距離の感覚を通して、記憶、場所、言葉の変形を描く諏訪哲史の作品です。現実の土地はそのまま写されるのではなく、語りの中でずれ、遠ざかり、別の像になります。『りすん』同様、言葉そのものが主題化される実験的な小説として読めます。
- 176 2008 やさしいため息 やさしいためいき 『やさしいため息』は、芥川賞受賞後第一作として発表され、日常のなかで揺れる若い人物の息づかいを静かに描く作品です。家族や生活の小さな変化が、はっきりした事件よりも大きく人物の感情を動かします。青山七恵らしい簡潔な文体が、孤独と自立のあいだの時間をすくい取ります。
- 177 2008 声を聴かせて こえをきかせて 『声を聴かせて』は、声を聞くこと、聞かれないことを通して、他者との距離を描く朝比奈あすかの作品です。親しい関係であっても届かない言葉があり、そのもどかしさが人物の孤独を形づくります。題名通り、声と言葉が関係をつなぐ細い線として働きます。
- 178 2008 ばかもの ばかもの 『ばかもの』は、大学生の恋愛の終わりから十年後の再会までをたどり、アルコール依存を抱える男の時間を描く作品です。恋愛の失敗は単なる思い出ではなく、生活の崩れや病と結びついて残ります。絲山秋子の乾いた文体が、不器用な愛情と回復の難しさを抑制して描きます。
- 179 2008 僕の好きな人が、よく眠れますように ぼくのすきなひとが、よくねむれますように 『僕の好きな人が、よく眠れますように』は、好きな人の眠りを願うという柔らかな感情から、恋愛と不安を描く中村航の小説です。眠ることは身体の平穏であり、相手を思う距離の象徴でもあります。若い恋愛のまぶしさと、相手に触れきれない切なさを併せ持つ作品です。
- 180 2008 クロスフェーダーの曖昧な光 くろすふぇーだーのあいまいなひかり 三島由紀夫『金閣寺』をモチーフとし、宗教というテーマを現代の感覚で引き受けようとした意欲作。DJ機材の「クロスフェーダー」を題名に掲げ、ふたつの音源のあいだを行き来するように、聖なるものと現実のあいだで揺れる意識の「曖昧な光」を掬い取ろうとする。10代で文學界新人賞奨励賞を受けた早熟の書き手による… 第40回 新潮新人賞
- 181 2008 ギンイロノウタ ギンイロノウタ 『ギンイロノウタ』は、歪んだ自意識を抱えた少女の性と暴力の衝動を描く表題作を含む作品です。村田沙耶香らしく、学校や身体をめぐる「普通」の感覚が鋭く異化されます。痛ましい題材を、過剰な説明ではなく、人物の感覚の切迫として読ませる作品です。 第31回 野間新人賞
- 182 2008 灰色猫のフィルム はいいろねこのふぃるむ 母親を殺した「僕」は、動機も経緯も語らないまま町を放浪する。公園での野宿を経てホームレスの「ハタさん」と出会い、河川敷の小屋でともに暮らしはじめるが、ハタさんが大切にしていた灰色の猫が殺される日まで、束の間の安らぎは続かない。公衆トイレなどの不潔で醜悪な細部が彷徨う心理を映し出す一方、動物や迷子の少… 第32回 すばる文学賞
- 183 2008 廃車 はいしゃ 車検切れが迫る壊れかけの車を、主人公は中国人留学生に無償で譲り渡す。ところが期限を過ぎても相手は約束した廃車手続きをせず、それどころか、わけのわからないまま主人公のほうが怨まれていく。日常の小さな親切が言葉も論理も通じない泥沼へ転がり落ちる過程を、乾いたユーモアで描いた不条理劇。応募時の題名「革命」… 第107回 文學界新人賞
- 184 2008 星空の下のひなた。 ほしぞらのしたのひなた 『星空の下のひなた。』は、星空とひなたという対照的なイメージを重ね、若い人物の恋愛や孤独を描く作品として整理できます。明るさと暗さが同じ場面に同居し、日常のなかで見落とされがちな感情をすくいます。書誌以外の資料は少なく、今後は紹介記事・書評で精度を上げたい作品です。
- 185 2008 ほんたにちゃん ほんたにちゃん 『ほんたにちゃん』は、本谷有希子自身を思わせるキャラクターや語りを通して、作者像と作品の境界を遊ぶ一冊として読めます。自己紹介のようでいて、虚構化された「ほんたにちゃん」が前面に出るため、メタフィクション的な楽しさがあります。小説、演劇、エッセイ的な感覚が混じる軽やかな作品です。
- 186 2008 星のしるし ほしのしるし 『星のしるし』は、日常の風景のなかに残る小さな兆しを、柴崎友香らしい観察で描く作品です。星という遠いもののイメージが、都市の生活や人との距離に静かな奥行きを与えます。歩くような文体で、恋愛や記憶が大きな劇ではなく生活のなかに滲みます。
- 187 2008 いつかソウル・トレインに乗る日まで いつかソウル・トレインにのるひまで 『いつかソウル・トレインに乗る日まで』は、音楽の記憶と個人史を重ねる高橋源一郎の小説です。ソウル・トレインという題名が示すように、音楽は単なる背景ではなく、語りと記憶を運ぶ乗り物になります。ポップカルチャーと私的な痛みを接続する読みどころがあります。
- 188 2008 神様のいない日本シリーズ かみさまのいないにほんシリーズ 『神様のいない日本シリーズ』は、「江夏の21球」で知られる1979年の日本シリーズを背景に、父と子の時間を描く中篇です。野球の記憶は、家族の記憶や時代の空気を呼び戻す装置になります。田中慎弥の乾いた語りが、父子関係の近さと断絶を浮かび上がらせます。
- 189 2008 彼女について かのじょについて 『彼女について』は、ひとりの女性をめぐる記憶と語りから、失われたものや届かなかった感情をたどる作品です。よしもとばなならしい透明感のある文体で、死や喪失の気配をやわらかく包みます。誰かについて語ることが、自分自身を語り直すことにもなる小説です。
- 190 2008 けちゃっぷ けちゃっぷ 言いたいことを相手に直接言わず、何もかもブログにアップしてしまう──そんなヴァーチャル化した現代のコミュニケーションを、ネットの文体と口語をなだれ込ませた語りで写し取った作品。書き込みと現実のあいだでずれていく自意識を通して、ゼロ年代後半のウェブ社会に生きる若者の孤独と滑稽さを軽やかにすくい上げる… 第45回 文藝賞
- 191 2008 花束 はなたば 『花束』は、贈り物としての花束が持つ親密さと儀礼性を手がかりに、人と人の関係を描く作品です。美しいものを差し出す行為の裏に、言えなかった感情や生活の痛みが潜みます。静かな語りのなかで、家族や恋愛の距離が少しずつ見えてきます。
- 192 2008 金色のゆりかご きんいろのゆりかご 『金色のゆりかご』は、ゆりかごのイメージが示す家族や子どもの時間を、現実の生活のなかで見つめる作品です。佐川光晴らしい社会への視線が、保護されるべき場所とそこから漏れる不安を描きます。家族の温かさと脆さを同時に読む小説として整理できます。
- 193 2008 蟋蟀 こおろぎ 『蟋蟀』は、虫の声や小さな気配を思わせる題名のもと、日常の奥に潜む不安や孤独を描く栗田有起の作品です。目立たないものに耳を澄ませるような語りが、家や都市の生活を少し奇妙なものに変えます。静かな現実感と寓話性の境目を読む小説です。
- 194 2008 小銭をかぞえる こぜにをかぞえる 『小銭をかぞえる』は、金欠と痴話喧嘩にまみれた同棲生活を、私小説的な露悪と乾いた笑いで描く作品です。小銭を数える行為が、貧しさ、欲望、関係の行き詰まりを象徴します。西村賢太の作品らしく、金と性と屈辱が分かちがたく結びつきます。
- 195 2008 眼と太陽 めとたいよう 『眼と太陽』は、視線と光のイメージを軸に、複数の視点や時間が交差する短篇集です。見ること、見られることが、人物の記憶や世界の捉え方を変えていきます。磯﨑憲一郎らしい抽象度の高い構成が、現実を少しずつ別の角度から照らします。
- 196 2008 長い終わりが始まる ながいおわりがはじまる 『長い終わりが始まる』は、終わりが一瞬ではなく長く続いていく感覚を、恋愛や生活の変化に重ねる作品です。山崎ナオコーラらしい平明な語りが、別れや変化を大げさにせず日常の速度で見せます。終わりを迎えるまでの時間そのものを読む小説です。
- 197 2008 ありったけの話 ありったけのはなし 『ありったけの話』は、話すこと、語り尽くそうとすることを通して、人と人の関係を描く作品です。題名の通り、言葉を差し出すことが親密さの表現である一方、語っても残る距離も浮かび上がります。中山智幸の作品として、会話と記憶の密度を読む一冊です。
- 198 2008 空で歌う そらでうたう 『空で歌う』は、歌うことや空を見上げる感覚を通して、若い人物の孤独と希望を描く作品として整理できます。芸術や声は、現実から逃げるためだけでなく、誰かに届くための手段になります。書誌以外の資料は少なく、今後は掲載誌・書評で主題を精査したい作品です。
- 199 2008 波打ち際の蛍 なみうちぎわのほたる 『波打ち際の蛍』は、傷を抱えた人物が、波打ち際のように揺れる場所で他者との距離を測り直す島本理生の作品です。蛍の光のようなかすかな希望と、身体に残る痛みが同時に描かれます。恋愛や回復を単純に美化せず、触れ合うことの怖さまで含めて読ませます。
- 200 2008 逃げ道 にげみち シャワートイレ業者に雇われ、一般人のふりをして製品を試す「モニター工作員」として働く若い女性が主人公。アルバイト先の不祥事を機に、彼女は営業担当の田尻とともに街を離れ、千葉の屛風ヶ浦へと車を走らせる。隣人が全裸で現れるなどのノンセンスな場面や、エクセルの表を組み込む形式の実験を織り交ぜながら、どこに… 第106回 文學界新人賞
- 201 2008 おひるのたびにさようなら おひるのたびにさようなら 会社の昼休み、外階段で繰り広げられる主人公・真司と先輩女子社員たちの秘密の遊び。真司の役目は、近くの病院で音声を消した昼ドラを眺め、想像で補った物語を先輩に報告することだ。見ることと聞くことのずれ、語り直された物語と現実の重なりを入れ子状に組み上げ、ささやかな昼の儀式の終わりをせつなく描く。メディア… 第45回 文藝賞
- 202 2008 ラジ&ピース らじあんどぴーす 『ラジ&ピース』は、ラジオや言葉の届き方を思わせる題名のもと、人と人がどのように声を受け渡すかを描く作品です。絲山秋子らしい乾いた会話と距離感が、親密さと孤独を同時に浮かび上がらせます。平和やつながりを軽く言い切れないところに、作品の手触りがあります。
- 203 2008 乱暴と待機 らんぼうとたいき 『乱暴と待機』は、奇妙な共同生活のなかで、加害と被害、依存と復讐がねじれていく本谷有希子の小説です。閉じた生活空間にいる人物たちの言葉は、笑えるほど過剰でありながら、相手を縛る力を持っています。戯曲的な会話のテンポと、待ち続けることの不穏さが読みどころです。
- 204 2008 論理と感性は相反しない ろんりとかんせいはあいはんしない 『論理と感性は相反しない』は、山崎ナオコーラの思考する文体が前面に出る作品集です。題名の通り、感情をただ情緒として扱うのではなく、考えること、名づけること、他人と距離を取ることの問題として描きます。軽い会話の奥に、ジェンダーや関係性への問いが残る作品です。
- 205 2008 主題歌 しゅだいか 『主題歌』は、都市で暮らす人物たちの時間や感情を、音楽のように反復する記憶と結びつけて描く柴崎友香の作品です。大きな事件よりも、会話、移動、見えた風景の差異が人物の心の変化を形づくります。語りは静かですが、誰かの人生に流れている旋律を探すような読み味があります。
- 206 2008 りすん りすん 『りすん』は、『アサッテの人』以後の諏訪哲史が、聞くこと、話すこと、言葉のずれをさらに押し広げる実験的な作品です。タイトルの響きそのものが、意味に届く前の音や聞き間違いを思わせます。言語への執着と、他者へ届かない感覚が重なった小説として読めます。
- 207 2007 あなたの呼吸が止まるまで あなたのこきゅうがとまるまで 『あなたの呼吸が止まるまで』は、息をすること、生き延びること、他者と関わることを強い身体感覚で描く島本理生の小説です。恋愛や依存の感情が、相手の呼吸を意識するほど近い距離で語られます。親密さの美しさだけでなく、そこに潜む苦しさを読む作品です。
- 208 2007 青色讃歌 あおいろさんか 28歳の高橋は、同棲する彼女の収入で暮らしている。いなくなった猫を探し、気の進まない仕事を探す——その二つの「探しもの」をめぐるだけの日々が、妙な可笑しみとともに流れていく。働かない男のだめさを断罪も美化もせず、脱力したユーモアで肯定してみせる青春小説で、「読ませる、笑わせる、唸らせる」と選考委員の… 第44回 文藝賞
- 209 2007 ひとり日和 ひとりびより 『ひとり日和』は、二十歳の知寿が高齢の遠縁・吟子さんと同居し、働きながら自立の感覚を少しずつ探る作品です。老いと若さ、家族ではない同居、ひとりでいることの自由と寂しさが、淡々とした語りで描かれます。大きな成長物語ではなく、日々の観察から生活の輪郭が変わるところが読みどころです。 第136回 芥川賞
- 210 2007 アサッテの人 あさってのひと 吃音を抱えていた叔父は、いつしか「ポンパ!」などの意味を持たない言葉=アサッテの言葉を突発的に口にするようになり、やがて失踪した。「私」はその叔父をめぐる小説を書こうとするが、語りは草稿、叔父の日記、回想が混在するまま進んでいく。言葉の規範から「アサッテ」の方向へ逸脱したいという渇望を、小説の形式そ… 第50回 群像新人賞
- 211 2007 クローバー くろーばー 『クローバー』は、島本理生らしく、恋愛や記憶の細部から若い人物の揺れを描く作品です。幸運を連想させる題名に対して、語りは関係の不安定さや選び取れない気持ちにも目を向けます。淡い感情を、日常の光景のなかで少しずつ変化させる読み味があります。
- 212 2007 ダーティ・ワーク だーてぃ・わーく 『ダーティ・ワーク』は、仕事や関係のなかで避けられない面倒さを、絲山秋子らしい乾いた文体で描く作品です。労働をきれいごとにせず、そこで生まれる距離、疲労、親密さを淡々と見つめます。人と人の関係を、会話と行動のずれから読ませるところに魅力があります。
- 213 2007 はじまらないティータイム はじまらないてぃーたいむ 子どものいない30代の専業主婦・奈都子は、母ミツエから従弟・博昭の離婚と再婚の顛末を聞かされる。博昭は部下を妊娠させ、子を産まない妻・佐智子と別れて再婚したのだった。奈都子、ミツエ、元妻の佐智子、再婚相手の里美——4人の女性の視点を切り替えながら、家族という制度の内側の風通しの悪さを描く。他人の家に… 第31回 すばる文学賞
- 214 2007 星へ落ちる ほしへおちる 『星へ落ちる』は、恋愛や身体の感覚を、落下するような不安定さのなかで描く金原ひとみの作品です。きらびやかな題名とは対照的に、登場人物の感情は孤独や衝動に強く引かれます。短く鋭い語りが、関係の熱と冷えを同時に伝えます。
- 215 2007 ハイドラ ハイドラ 『ハイドラ』は、身体、欲望、恋愛の結びつきを、金原ひとみらしい鋭い感覚で描く作品です。複数の頭を持つ怪物を思わせる題名のように、感情や関係は一つにまとまらず分岐していきます。自己破壊的な衝動と生への執着が同時に読める、不穏な恋愛小説です。
- 216 2007 いい子は家で いいこはいえで 『いい子は家で』は、家という閉じた場所と「いい子」であることの圧力をめぐる青木淳悟の作品です。日常の言葉や振る舞いが少しずつずれ、家族や共同体の規範が不穏なものとして見えてきます。実験的な文体が、従順さの裏側にある違和感を浮かび上がらせます。
- 217 2007 カツラ美容室別室 かつらびようしつべっしつ 『カツラ美容室別室』は、美容室という場所を通して、働く人や訪れる人の関係を描く山崎ナオコーラの作品です。髪や見た目を整える場が、ジェンダー、労働、自己像を考える舞台になります。軽やかな会話のなかに、他人と同じ空間にいることの気まずさと楽しさが同居しています。
- 218 2007 この人と結婚するかも このひととけっこんするかも 『この人と結婚するかも』は、結婚を予感する瞬間の期待と違和感を、軽い語り口で追う中島たい子の作品です。恋愛の延長にある制度や生活を、決断の物語としてではなく、揺れる気分として描きます。ユーモラスな題名のなかに、親密さへの不安と自己確認の主題があります。
- 219 2007 救済の彼岸 きゅうさいのひがん 『救済の彼岸』は、救いを求める感覚と、その先にある孤独を題名から強く意識させる作品です。信仰や倫理をめぐる問いが、現代の生活のなかでどのように立ち上がるかを読む切り口があります。書誌以外の資料はまだ少ないため、今後は掲載誌や書評で主題を精査したい作品です。
- 220 2007 また会う日まで またあうひまで 『また会う日まで』は、再会と別れをめぐる時間の感覚を、柴崎友香らしい日常の観察で描く作品です。人と人が会う場所、離れる場所、そのあいだに流れる記憶が物語の中心になります。関西の街を歩くような語りが、恋愛や孤独を過度に劇化せずに映し出します。
- 221 2007 バイバイ ばいばい 『バイバイ』は、別れを告げる言葉の軽さと重さを、恋愛や生活の終わりの感覚に重ねる作品です。望月あんねの作品として、人物が関係を断ち切るときに残る記憶や孤独に焦点を置いて読めます。大きな事件よりも、去ることと残されることの温度差が読みどころになります。
- 222 2007 二度はゆけぬ町の地図 にどはゆけぬまちのちず 『二度はゆけぬ町の地図』は、戻れない場所への執着と、貧しい生活の記憶を私小説的な語りでたどる作品です。西村賢太らしい露悪的な自己凝視が、地図に残る町と、もう行けない過去を重ねます。労働、金銭、孤独が乾いた笑いと屈辱の感覚で結びついています。
- 223 2007 オブ・ザ・ベースボール おぶ・ざ・べーすぼーる 年に一度くらいの割合で空から人が降ってくる町、ファウルズ。「私」はユニフォームとバットを支給されたレスキュー・チームの一員として、落ちてくる人をフルスイングで打ち返すべく日々待機している。およそ役に立たない職務をめぐる思弁が、乾いた論理の積み重ねでどこまでも転がっていく。不条理な設定を理詰めで駆動す… 第104回 文學界新人賞
- 224 2007 大きな熊が来る前に、おやすみ。 おおきなくまがくるまえに、おやすみ。 『大きな熊が来る前に、おやすみ。』は、二人暮らしの親密さと不安を、熊という不穏なイメージをまとわせて描く作品です。恋愛や同居の幸福だけでなく、同じ部屋にいることの圧迫感や、相手を完全にはわからない怖さが前面に出ます。柔らかな題名の奥に、関係の危うさを読む小説です。
- 225 2007 パワー系181 ぱわーけいいちはちいち 身長181センチ、強靭な肉体を持つ女性リカが開いた個人サロンには、身体測定マニア、張り手を浴びたいマゾヒスト、衣類フェチなど、それぞれ奇妙な性癖を抱えた男たちが通ってくる。彼らが求める「本物のエクスタシー」を、湿った官能ではなく即物的でドライな筆致で記録していく。身体とマゾヒズムという題材を真っ向か… 第31回 すばる文学賞
- 226 2007 臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ ろうたしアナベル・リイ そうけだちつみまかりつ 『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』は、文学作品や映画的想像力を下敷きに、老い、成熟、欲望を晩年の大江健三郎が再構成する作品です。語りは引用や記憶を重ねながら、ひとつの恋愛譚に収まらないメタフィクション的な広がりを持ちます。文学を読み直すこと自体が、過去の自己を組み替える行為として描かれま…
- 227 2007 最後の命 さいごのいのち 『最後の命』は、少年時代の傷と再会、罪の記憶をめぐって、人が最後に何を拠りどころに生きるのかを問う作品です。中村文則らしい暗い心理描写が、暴力や孤独を抽象化せず、身体に残る感覚として描きます。過去に囚われた人物が他者との関係を回復できるのかが、緊張を生みます。
- 228 2007 建てて、いい? たてていい 『建てて、いい?』は、家を建てるという具体的な行為を通して、生活、結婚、将来への迷いを描く作品です。中島たい子らしい軽い語り口で、住まいを選ぶことが自分の生き方を選ぶことに変わっていきます。日常的な題材から、家族や関係の設計図を考えさせる小説です。
- 229 2007 たとえば、世界が無数にあるとして たとえばせかいがむすうにあるとして 『たとえば、世界が無数にあるとして』は、別の可能性としての世界を想像しながら、自分の選択や関係を見つめる作品です。現実の生活に、もしも別の自分がいたらという寓話的な問いが差し込まれます。恋愛や孤独を、ひとつの世界だけでは説明しきれない揺れとして読むことができます。
- 230 2007 うつつ・うつら うつつうつら 『うつつ・うつら』は、現実とうつつの境目を揺らしながら、人物の記憶や自己像の不確かさを描く作品集です。赤染晶子の作品らしく、日常の言葉や振る舞いが少しずつ奇妙なものへ変わっていきます。軽いユーモアと不穏さが同居する語りが読みどころです。
- 231 2007 わたくし率 イン 歯ー、または世界 わたくしりつ イン はー、またはせかい 『わたくし率 イン 歯ー、または世界』は、「わたし」は奥歯にあると考える女性の独白を、大阪弁のリズムで疾走させるデビュー作です。身体の一部に自己を置く発想が、アイデンティティと言葉の関係を奇妙に拡張します。文体の勢いそのものが主題になっている、川上未映子初期の重要作として読めます。
- 232 2007 夢を与える ゆめをあたえる 『夢を与える』は、子役からCMタレントとして成長する少女・夕子の栄光と転落を描く長編です。芸能の世界が、家族、欲望、消費される身体を映す場所として機能します。若さや人気が商品化される過程を、綿矢りさらしい鋭い観察で追う作品です。
- 233 2006 暗渠の宿 あんきょのやど 『暗渠の宿』は、粗暴で不器用な私小説的主人公・北町貫多の同棲生活と生活感情を描く作品集です。貧困、労働、性的な執着が、露悪的な自己観察と乾いたユーモアのなかで語られます。暗渠という見えない水路の比喩のように、日常の底を流れる屈辱と欲望が読みどころになります。 第29回 野間新人賞
- 234 2006 オートフィクション オートフィクション 『オートフィクション』は、作家リンの現在から過去へさかのぼる構成で、愛、嫉妬、自己像の形成をたどる長編です。自分を書くことと自分を作ることが重なり、タイトル通り「私小説」と「作り物」の境界が揺れます。時間を逆行する構成が、感情の根を探る読み方を促します。
- 235 2006 エスケイプ/アブセント えすけいぷ/あぶせんと 『エスケイプ/アブセント』は、逃避と不在という二つの言葉を軸に、関係のなかで空白を抱える人物を描く作品です。絲山秋子らしい簡潔な文体が、説明しすぎないまま感情の距離を保ちます。逃げること、いないこと、忘れられないことが重なり合う静かな読後感があります。
- 236 2006 不思議の国のペニス ふしぎのくにのペニス 『不思議の国のペニス』は、性欲に振り回される男子高校生の日常を、露骨さと滑稽さを交えて描く作品です。青春小説の枠組みを使いながら、身体の変化や欲望を制御できない不安を前面に出しています。題名の挑発性に対して、語りは若い自意識のぎこちなさを追うところに読みどころがあります。
- 237 2006 銀色の翼 ぎんいろのつばさ 『銀色の翼』は、生活の現場にいる人々の視線から、家族、労働、社会的な孤立を描く佐川光晴の小説です。派手な事件よりも、日々の選択や関係のほころびを通して人物を立ち上げるタイプの作品として位置づけられます。現実に踏みとどまる語りが、傷や希望を過度に美化しない点が読みどころです。
- 238 2006 月とアルマジロ つきとあるまじろ 『月とアルマジロ』は、現実的な日常に奇妙なイメージを差し込み、若い人物の孤独や自己意識を照らす作品です。月とアルマジロという取り合わせが示すように、遠いものと身近なものの距離感が作品の手ざわりを作っています。簡潔な語りの奥に、寓話的なずれを読む楽しさがあります。
- 239 2006 生きてるだけで、愛。 いきてるだけで、あい。 『生きてるだけで、愛。』は、鬱と過眠に苦しむ寧子と、同棲相手・津奈木の関係を描く恋愛小説です。感情の爆発と生活の停滞が同時に描かれ、病や孤独が恋愛のなかでどう噴き出すかを見せます。荒さを残した一人称的な距離感が、登場人物の息苦しさを直接伝えます。
- 240 2006 イルカ イルカ 『イルカ』は、よしもとばななの小説らしく、親密な関係と心身の変化をやわらかな語りで扱う作品です。題名が示す水辺のイメージは、閉じた日常から別の感覚へ移るための入口として働きます。喪失や不安を強く断定せず、ゆるやかな回復の気配を読む作品として位置づけられます。
- 241 2006 いやしい鳥 いやしいとり 飲み会で初めて会った学生を家に連れ帰るはめになった非常勤の大学講師。その夜を発端に、男が鳥へと変身していく惨劇が起こる。講師の視点と隣に住む専業主婦の視点を交互に置き、時系列を少しずつずらす構成で、日常に走る裂け目をグロテスクな滑稽さとともに見せる。藤野の出発点となった変身譚で、奇想と冷静な観察眼の… 第103回 文學界新人賞
- 242 2006 幻をなぐる まぼろしをなぐる 失恋の痛手を抱えた女性が、目の前にいない相手=「幻」をシャドーボクシングのように殴るという身体的な行為を通して、行き場のない感情と折り合いをつけようとする。応募時の題「新しい歌」を改題して受賞した作品で、感情を言葉ではなく身体の運動で処理しようとするヒロインの姿が印象を残す。2007年1月に集英社か… 第30回 すばる文学賞
- 243 2006 無限のしもべ むげんのしもべ 早く目覚めすぎた休日の朝、稔がマンションから見下ろすと、駐車場に円卓を持ち込んでティーパーティーに興じる4人の男女がいた。そのなかの美人に目をつけた稔は、パーティーに加わりあわよくば濃密な性愛を、という淫靡な考えに取り憑かれ作戦を練り始める。性的妄想の無意味な暴走を生真面目な文体で押し切る、木下古栗… 第49回 群像新人賞
- 244 2006 沖で待つ おきでまつ 『沖で待つ』は、同期入社の男女の友情と、死後に残された約束をめぐる作品です。恋愛に回収されない親密さを、職場の記憶と喪失の感覚を通して描きます。絲山秋子の簡潔で乾いた語りが、死者との距離を過度に sentimental にせず保つところが読みどころです。 第134回 芥川賞
- 245 2006 ポータブル・パレード ぽーたぶる・ぱれーど 第38回新潮新人賞(小説部門)受賞作。同回の評論部門は受賞作なしだった。日本大学芸術学部出身で当時27歳の吉田直美のデビュー作で、「新潮」2006年11月号に全文掲載された。受賞後に単行本化されることはなく、著者のその後の作品発表の記録も乏しいため、雑誌掲載のみで読まれた「幻の受賞作」に近い存在とな… 第38回 新潮新人賞
- 246 2006 その街の今は そのまちのいまは 『その街の今は』は、カフェで働く歌ちゃんが古い写真に写る大阪に惹かれ、街の過去と現在を行き来する作品です。写真という媒体が、個人の記憶だけでなく都市の時間をたどる装置になります。柴崎友香らしい歩くような文体で、街を見ることと自分の現在を確かめることが重なります。
- 247 2006 そろそろくる そろそろくる 『そろそろくる』は、日常のなかで身体や感情の変化を待ち受ける感覚を描く作品として整理できます。中島たい子の小説に特徴的な、身近な生活の違和感をユーモアに変える語りが読みどころです。大きな事件よりも、心身のリズムが崩れる瞬間に焦点が置かれます。
- 248 2006 浮世でランチ うきよでらんち 『浮世でランチ』は、食事や仕事場の場面を通して、現代の若い人物が社会とどう折り合うかを描く作品です。山崎ナオコーラらしい軽い会話と観察が、日常の居心地の悪さを柔らかく浮かび上がらせます。ランチという身近な行為が、関係や労働を見直す入口になっています。
- 249 2006 夕子ちゃんの近道 ゆうこちゃんのちかみち 『夕子ちゃんの近道』は、商店街の人々をめぐる連作短篇集として、日常の小さな移動や出会いを描く作品です。大きな事件よりも、店、道、会話の連なりから人物の距離が変わる様子を見せます。長嶋有らしいユーモラスで少しずれた観察が、生活のなかの寂しさを軽く照らします。
- 250 2006 ぜつぼう ぜつぼう 『ぜつぼう』は、題名の強い感情をそのまま扱いながら、本谷有希子らしい不穏さと滑稽さで日常のずれを描く作品です。人物の思い込みや関係の歪みが、現実を少しずつ奇妙なものに変えていきます。絶望を重苦しいだけでなく、笑いと怖さの境目に置く読み味があります。
- 251 2006 絶対、最強の恋のうた ぜったい、さいきょうのこいのうた 『絶対、最強の恋のうた』は、恋愛の高揚と自意識のまぶしさを正面から扱う中村航の小説です。強い題名とは裏腹に、語りは若い人物の不安や不器用さにも寄り添います。恋を歌や物語として信じたい気持ちと、現実の揺らぎの間を読む作品です。
- 252 2005 100回泣くこと ひゃっかいなくこと 恋人を失った男性が、新たな出会いや日々の出来事を通して、悲しみから少しずつ立ち上がる純愛長篇。題名の強さに対して語り口は穏やかで、泣くことそのものよりも、喪失を抱えながら生活を続ける時間が描かれる。中村航の読者層を広げた、切なさと読みやすさを併せ持つ作品である。
- 253 2005 悪意の手記 あくいのてき 悪意や罪の意識を抱えた人物の内面を、手記という形式に近い暗い語りで追う中村文則の初期作品。出来事の派手さよりも、語り手が自分の中の暴力や孤独をどう正当化し、どう崩れていくかが中心になる。後の中村作品に続く、犯罪、自己嫌悪、倫理の揺らぎが濃く表れた一作。
- 254 2005 AMEBIC アミービック 拒食やアルコールに蝕まれた女性ライターの意識を、断片的で揺らぐ独白として描く長編。身体の輪郭が崩れ、言葉や記憶がアメーバのように変形していく感覚が、タイトルどおり作品の構造にも入り込む。金原ひとみの身体感覚と実験的な語りが強く出た作品である。
- 255 2005 BGM びーじーえむ 現役教師として文藝賞を受賞した岡田智彦の、受賞後第一作として発表された作品。題名の「BGM」は、人物の感情を大きな事件で説明するのではなく、日常の背後で鳴り続ける気配として捉える読みを誘う。若い感覚と学校・生活の現場が交差する、2000年代文藝賞周辺の一作である。
- 256 2005 バースト・ゾーン 爆裂地区 ばーすと・ぞーん ばくれつちく 吉村萬壱が、暴力と管理の気配を強めた架空的な地区を描く長編。純文学の枠を越えて、SFやディストピア小説に近い想像力で、身体が制度や集団にさらされる状況を押し広げる。『ハリガネムシ』の閉じた暴力とは別方向に、社会全体が不穏化していく読み味がある。
- 257 2005 永遠の誓い えいえんのちかい 佐川光晴の2005年刊行作で、約束や誓いが人間関係を支える一方、重荷にもなる局面を描く作品として整理できる。生活者の視点を離れず、家族や恋愛、働くことの中で、言葉だけでは保てない関係を見つめる。佐川作品らしい、過度に装飾しない文体が読みどころになる。
- 258 2005 フルタイムライフ フルタイムライフ 新社会人として働きはじめた春子の日常を、会社の時間、疲れ、同僚との距離感から等身大に描く長編。仕事が劇的な自己実現になるのではなく、生活の大半を占める時間として淡々と積み上がる。柴崎友香らしい心情に寄りすぎない文体で、働きはじめの戸惑いと観察が描かれる。
- 259 2005 グルメな女と優しい男 ぐるめなおんなとやさしいおとこ 「人を好きになることは極上の料理より美味しい」——食べることに貪欲なりん子は、優しい男・一郎に純粋な恋心を抱くようになり、クリスマスの夜、ふたりは濃密なデートに繰り出す。食欲と恋愛感情というふたつの「おいしさ」を重ね合わせ、欲望に素直な女と受け止める男の関係をコミカルに描く。群像新人文学賞の優秀作と…
- 260 2005 半島を出よ はんとうをでよ 北朝鮮の特殊部隊が福岡を占拠するという危機を、政治、軍事、若者たちの暴力性を絡めて描く大部の長編。現実の東アジア情勢を踏まえながら、国家の危機管理と個人の生存感覚を同時に扱う。村上龍らしい社会不安への感度と、エンターテインメント的な速度が結びついた作品である。
- 261 2005 一千一秒の日々 いっせんいちびょうのひび 恋愛や日常の短い時間を、きらめくような細部として集めた島本理生の作品集。大きな物語へ急がず、一瞬の表情や会話のずれが、人物の孤独や期待を浮かび上がらせる。若い恋の瑞々しさと、時間が過ぎていくことへの切なさが題名に重なる。
- 262 2005 家族芝居 かぞくしばい 家族を、血縁だけでなく、互いに役を演じ合う小さな舞台として捉える佐川光晴の作品。親密であるはずの関係の中にある見栄、遠慮、傷つけ合いを、生活の目線から描く。タイトルどおり、家族の会話や振る舞いが芝居めいて見える瞬間が読みどころになる。
- 263 2005 まぼろし まぼろし 母娘の確執を描く表題作と、実家に戻った娘の日常を描く「十八階ビジョン」を収める作品集。見えているはずの家族や故郷が、どこか「まぼろし」のように掴めなくなる感覚を、若い女性の視点から描く。日常の薄い不安と、過去から離れきれない心理が静かに重なる。
- 264 2005 窓の灯 まどのひ 大学を辞めた「私」は、時代に取り残されたような喫茶店の二階に住み込み、店を営む奔放な女主人のもとで働いている。日課は、向かいの部屋の窓の中の生活を覗き見ること。やがて視線は夜の街の散歩で垣間見える家々の窓へと広がっていく。覗くことのうしろめたさとゆるやかな官能を、抑制の効いた静かな文体でつづり、他人… 第42回 文藝賞
- 265 2005 マルコの夢 まるこのゆめ 栗田有起が、夢や空想の気配を日常のずれの中に置いた作品。人物たちは現実から大きく逃げ出すのではなく、少しだけ別の見方を差し込むことで、自分の居場所を探っていく。軽やかな題名の裏に、他人とわかり合えない孤独がにじむ。
- 266 2005 泣かない女はいない なかないおんなはいない 泣かない、あるいは泣けない女性の姿を、恋愛や仕事の日常の中から描く長嶋有の中篇。感情を大きく説明せず、会話や行動の端に表れる違和感で、人物の孤独を浮かび上がらせる。ユーモラスな題名の裏に、強がりと弱さが同時にある作品である。
- 267 2005 ナラタージュ ならたーじゅ かつての恩師への思いを断ち切れない女子大生が、過去の記憶と現在の恋の間で揺れる長篇。恋愛の美しさよりも、戻れない時間に縛られる痛みが中心に置かれている。語りは静かだが、人物の未練や罪悪感が長く尾を引き、島本理生の代表的な恋愛小説として読まれてきた。
- 268 2005 ニート にーと 「ニート」という言葉が社会的に広まった時期に、働くことから外れた人物の時間を描く絲山秋子の作品。無職であることを単純な問題や説教にせず、生活の細部、会話、周囲とのずれとして描く。乾いたユーモアの中に、労働規範から外れた人間の居場所のなさが見える。
- 269 2005 さりぎわの歩き方 さりぎわのあるきかた 29歳の「僕」は、青春の終わりを記念するかのように一泊の合コンに参加する。怪しげな新事業の話、旧友の転落と自殺——若さの賞味期限が切れかかった男たちの周りで起こる出来事を、「こういうのがお望みのドラマなんだろう?」と斜に構えた語りで突き放しながら、それでも去り際の身の処し方を探っていく。まっとうな成… 第101回 文學界新人賞
- 270 2005 さよなら アメリカ さよなら あめりか 「ぼく」は頭から袋を被って生活している。袋の後ろには「SAYONARAアメリカ」のロゴ。噂に聞いた同じ袋族の少女に会うために街をさまよい、突然現れた異母弟を名乗る男との奇妙な共同生活が始まる。袋で社会から自分を隔てながら、袋の仲間との出会いだけは求めてしまう——その矛盾を、深刻ぶらないオフビートなユ… 第48回 群像新人賞
- 271 2005 さようなら、私の本よ! さようならわたしのほんよ 『さようなら、私の本よ!』は、老作家・長江古義人と建築家・塙吾良を軸に、文学、暴力、記憶の継承を問い直す長編です。作中人物と作者像が重なり合うメタフィクション的な構えのなかで、晩年の作家が自作と時代にどう別れを告げるかが描かれます。会話と回想を積み重ねる長い息の文体が、個人史と政治的記憶を結びつけて…
- 272 2005 性交と恋愛にまつわるいくつかの物語 せいこうとれんあいにまつわるいくつかのものがたり 『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』は、性と恋愛をめぐる語りを、物語そのものへの問いと重ねて扱う作品です。高橋源一郎の小説らしく、露骨な題材を単純な告白にせず、言葉が欲望をどう作り替えるかを意識させます。恋愛小説の形式をずらしながら、身体、関係、語りの自由度を探る読みどころがあります。
- 273 2005 スモールトーク すもーるとーく 『スモールトーク』は、六台の車をめぐる連作として、移動、修復、喪失の感覚を描く作品です。車という具体物が、登場人物の距離感や回復の速度を測る装置になっています。絲山秋子らしい抑制された会話と乾いた文体が、傷ついた人々のささやかな再出発を浮かび上がらせます。
- 274 2005 東京奇譚集 とうきょうきたんしゅう 『東京奇譚集』は、「偶然の旅人」などを収め、都市の日常にふと入り込む不可思議な出来事を描く短編集です。村上春樹の抑制された語りが、偶然、喪失、記憶のずれを静かに増幅します。東京という現実的な地名を持ちながら、物語は現実の向こう側に開く寓話性を帯びています。
- 275 2005 土の中の子供 つちのなかのこども 『土の中の子供』は、幼少期の虐待の記憶を抱えた青年が、暴力と性のただなかで自分の生を測り直す作品です。語りは身体感覚に近く、外から説明するよりも、壊れた自己認識の内側から世界を見せます。暗い題材を扱いながら、傷の再演とそこからの微かな抵抗を描く点に緊張があります。 第133回 芥川賞
- 276 2004 アフターダーク あふたーだーく 深夜0時過ぎから夜明けまでの東京を舞台に、ファミリーレストラン、ホテル、オフィス、眠り続ける部屋がゆるく接続される。視点はカメラのように人物の間を移動し、姉妹、孤独な青年、暴力の痕跡を、夜の都市の断片として映し出す。長大な物語ではなく、時間を区切った構成と映像的な語りで、村上春樹作品の都市感覚を凝縮…
- 277 2004 青空感傷ツアー あおぞらかんしょうツアー 身勝手で魅力的な親友・音生に振り回されながら、「私」が各地を巡るロードノベル。旅は爽快な逃避であると同時に、親友への憧れや苛立ち、自分の輪郭の曖昧さを映し出す時間でもある。柴崎友香らしい移動の感覚と会話のリズムで、若い女性同士の距離を軽やかに描く。
- 278 2004 アッシュベイビー アッシュベイビー 『蛇にピアス』後の第二作で、同居人の男と赤ん坊をめぐる歪んだ関係に巻き込まれる女性を描く。身体、依存、母性への違和感が、金原ひとみらしい硬い感覚の文体で押し出される。家庭的な題材を扱いながら、安心できる家族像を反転させる不穏な作品である。
- 279 2004 袋小路の男 ふくろこうじのおとこ 何も与えない男に、三年間片思いし続ける女の静かな恋愛小説。恋が進展しないこと、相手が応えないことを、単純な不幸ではなく、関係が袋小路のまま続いていく時間として描く。大きな事件を抑えた文体の中に、絲山秋子らしい乾いた痛みと可笑しさが残る。 第30回 川端賞
- 280 2004 ぐるぐるまわるすべり台 ぐるぐるまわるすべりだい 失意の青年が、バンドや仲間との関係の中で少しずつ再生へ向かう連作短篇集。若者の閉塞感を、深刻さだけでなく、音楽や会話の軽さ、少しずつ回り続ける遊具のような時間感覚で描く。中村航の青春小説としての明るさと、何者にもなれない痛みが並走する。 第26回 野間新人賞
- 281 2004 灰色の瞳 はいいろのひとみ 佐川光晴の2004年刊行作で、NDLには第一部・第二部として雑誌掲載記事が確認できる。人間関係や家族の記憶を、明るく割り切れない「灰色」の領域として見つめる作品として整理できる。佐川作品に通底する、生活の手触りと関係の痛みを追う読みに向いている。
- 282 2004 High and dry(はつ恋) ハイ・アンド・ドライ(はつこい) 14歳の少女・夕子の、年上の男性への初恋を描く長編。年齢差のある関係を、危うさよりも、少女の感覚が外界へ開かれていく時間として追っていく。吉本ばななの作品らしく、恋の痛みと透明な夢見心地が同じ調子で語られる。
- 283 2004 人のセックスを笑うな ひとのせっくすをわらうな 美術専門学校に通う19歳の「オレ」は、20歳年上の講師・ユリと恋に落ちる。年の差も、ユリに夫がいることも、ふたりの関係のゆるさを変えはしないが、恋はやがて静かに終わっていく。性愛を声高に語らず、軽くやわらかい口語の文体で、若さの側から見た年上の女性のかわいさと残酷さをすくいとる。タイトルの挑発性と中… 第41回 文藝賞
- 284 2004 狐寝入夢虜 きつねねいりゆめのとりこ 三週間前に職を失った上岡鳥子は、空腹を抱えて神社へ散歩に出かけ、帰り道に迷い、年下の古本屋の倅と茶飲み話をして花札に興じる。働かないこと自体は気にしないが、仕事に存在理由を求める世間様の考え方には反感を覚える——そんな鳥子の「高潔なる怠惰」を、現代の話なのにわざと落語のような古風な語りで聞かせる。語… 第47回 群像新人賞
- 285 2004 お縫い子テルミー おぬいこてるみー 夜間の縫製工場で働く女性たちをめぐる連作短篇集。針仕事、夜勤、同僚との距離が、働くことの孤独と可笑しさを浮かび上がらせる。栗田有起の柔らかいユーモアが、職場小説を重くなりすぎない読後感へ導いている。
- 286 2004 パラレル ぱられる 長嶋有の2004年刊行作で、複数の関係や時間が「パラレル」に並んでいく感覚をもつ長編。日常の会話やちょっとしたすれ違いを淡々と積み重ね、劇的な和解よりも、近くにいるのに重なりきらない人間関係を描く。脱力したユーモアの中に、現代的な孤独がにじむ。
- 287 2004 サージウスの死神 さーじうすのしにがみ 徹夜明けの帰り道、ビルから飛び降りてきた男と目が合い、その死を目撃した主人公は、同僚に誘われた地下カジノ「freeze」でルーレットにのめり込む。預金を失い借金を重ねるうち、「頭の中に数字を飼っている」という感覚が芽生え、精神の破滅と引き換えに当たりの数字が見えるようになっていく。賭博と死の観念を硬…
- 288 2004 遮光 しゃこう 死んだ恋人の「残骸」を持ち歩き続ける青年が、嘘と妄想の境目を失っていく。喪失を受け止めるのではなく、異様な執着として保存しようとする心理が、硬く暗い文体で描かれる。中村文則の初期作品らしい、罪悪感、孤独、身体への嫌悪が凝縮された一作。 第26回 野間新人賞
- 289 2004 真空が流れる しんくうがながれる 図書印刷株式会社に勤める23歳の会社員だった佐藤弘のデビュー作で、第36回新潮新人賞(小説部門)受賞作。同年の評論部門は該当作なしで、本作が単独の受賞となった。単行本には収録されておらず、初出の『新潮』2004年11月号でしか読めないため、今日では参照の難しい「幻の受賞作」となっている。著者はその後… 第36回 新潮新人賞
- 290 2004 白の咆哮 しろのほうこう 経済の衰退が止まらない近未来の日本で、「土踊り」と呼ばれる踊りが国全体を覆い尽くしていく。荒唐無稽ともいえる世界の変容を、改行の少ない硬く生真面目な文体で延々と語り続けるという、設定と語り口の落差そのものが読みどころの異色作。寓話的な世界設定によって、不況下の日本社会に広がる集団的な熱狂と閉塞を照ら… 第28回 すばる文学賞
- 291 2004 ショートカット ショートカット 柴崎友香が、都市の移動や人との距離を軽いタッチで描いた2004年刊行作。道を短く抜ける「ショートカット」の感覚は、場所だけでなく、関係や記憶へ近道を探す若い人物たちの姿にも重なる。淡い会話と細部の観察によって、日常の中にある変化の瞬間をすくう。
- 292 2004 タイムカプセル たいむかぷせる 過去にしまいこんだ感情や記憶を、現在の自分が開け直すようにたどる作品。若い人物の時間感覚を、懐かしさだけでなく、未来へ残してしまったものへの不安として描く。生田紗代のデビュー後の文脈では、青春の明るさと居場所のなさを同時に読む入口になる。
- 293 2004 生まれる森 うまれるもり 恋愛や喪失のあとに残る空白を、森というイメージに重ねて描く島本理生の初期長篇。人物の内面は激しく揺れながらも、語り口は抑制され、痛みが静かな風景の中に置かれる。青春小説の瑞々しさと、取り返しのつかない記憶を抱える重さが同居している。
- 294 2003 ダンボールボートで海岸 だんぼーるぼーとでかいがん 自分を「ボク」と呼ぶ女性アオイ(あだ名はドラ)は、母が借金を残して突然失踪したため大学を休学する。女装が趣味のクロ、自称アーティストのハナら、周縁を漂う人々と関わりながら、ドラはダンボール製のボートで海=外の世界へ漕ぎ出すことを夢想する。濡れればすぐ沈む紙のボートというイメージに、前にも後ろにも進め… 第27回 すばる文学賞
- 295 2003 デッドエンドの思い出 デッドエンドのおもいで 失恋や裏切りからの小さな回復を描く五篇の短篇集。傷ついた人物が、行き止まりに見える場所から少しずつ生活を取り戻す過程を、吉本ばなならしいやわらかい語りで描く。大きな救済ではなく、日常の中にある小さな光を読む作品集である。
- 296 2003 江利子と絶対 本谷有希子文学大全集 えりことぜったい ほんたにゆきこぶんがくだいぜんしゅう 劇作家として活動していた本谷有希子が、小説家として最初にまとめた短篇集。表題の「江利子と絶対」を含む諸篇では、過剰な自意識、対人関係のずれ、舞台劇のような会話の圧が前面に出る。後年の本谷作品に続く、痛さと可笑しさを同時に押し出す語りの出発点として読める。
- 297 2003 ハリガネムシ はりがねむし 中学教師の男が、教え子の母親との関係をきっかけに、性と暴力の泥沼へ落ちていく芥川賞受賞作。語りは冷たく湿っており、主人公の欲望や嫌悪が、昆虫的・寄生的なイメージと重なって増殖していく。家族や学校という制度の薄い膜の下にある衝動を、読後感の悪さごと突きつける作品である。 第129回 芥川賞
- 298 2003 火薬と愛の星 かやくとあいのほし 女たらしの「おれ」は、さまざまな女性たちを渡り歩きながら何度も生を重ね、やがて一人の恋人に出会って初めて「ここで死のう」と思う——絵本『100万回生きたねこ』を下敷きに、軽薄な恋愛遍歴の語りの底へ、愛と死の寓話を沈めた一作。決定的なはずの「最後の恋人との出会い」をあえて正面から語らず、別のかたちで小… 第46回 群像新人賞
- 299 2003 壊れるほど近くにある心臓 こわれるほどちかくにあるしんぞう 身体と精神の境界がゆるみ、恋愛の近さがそのまま危うさへ変わっていく第二作。親密さを求めるほど相手との距離が測れなくなる感覚を、肉体的なイメージと内面の揺れを重ねて描く。恋愛小説でありながら、愛の甘さよりも依存、痛み、自己の輪郭が崩れる怖さを読む作品である。
- 300 2003 極東アングラ正伝 きょくとうあんぐらせいでん 佐川光晴が、都市の周縁や表舞台の外側にある生の感覚へ目を向けた2003年の作品。題名が示す「アングラ」は、文化や労働や生活が公的な語りからこぼれ落ちる場所を思わせる。デビュー期から一貫する、きれいごとでは済まない生活への視線をたどる一冊として位置づけられる。
- 301 2003 夏休み なつやすみ 就職も進路も決まりきらない青年が、夏の時間の中で宙ぶらりんの自分を抱えたまま過ごす。中村航らしい軽い会話と瑞々しい感覚で、何者にもなれない時期の切なさを描く。大きな転機よりも、季節の空気や友人関係の揺れが、青春の停滞と再生の気配を作っている。
- 302 2003 鼠と肋骨 ねずみとろっこつ 第46回群像新人文学賞で、村田沙耶香「授乳」と並んで優秀作に選ばれた作品。テレビ局勤務のかたわら小説を書いていた30歳の作者が、旧姓・神宮綾の頃の経験を経て発表した一篇で、鼠と肋骨という即物的で不穏なイメージを組み合わせた題名が目を引く。単行本化されておらず、内容を確認できる資料は乏しい。同期の村田…
- 303 2003 オアシス おあしす 愛用の青い自転車を盗まれたフリーターの「私」は、呆然としたままそれを探す日々を送る。家には家事を放棄してしまった母と、その母に「パラサイト」されているOLの姉・サキ。女三人の奇妙な家族の均衡が、自転車の喪失を起点に少しずつあらわになっていく。母を疎みながら捨てられない娘たちの姿は「現代の新種の姥捨て… 第40回 文藝賞
- 304 2003 四十日と四十夜のメルヘン よんじゅうにちとよんじゅうやのめるへん チラシ配りをして暮らす「私」が書きつける日記。しかしその日付は素直に進まず、記述は反復と書き換えを繰り返しながら円環構造を描き、日常の風景がいつのまにか変容していく。「書くこと」自体を小説の駆動装置にした構成は、選考会で保坂和志が「これはピンチョンなんだ」と断言して強く推したことで知られる。単行本化… 第35回 新潮新人賞
- 305 2002 縮んだ愛 ちぢんだあい 佐川光晴の作品で、既存データでは野間文芸新人賞受賞作とされる。家族や親密な関係に潜む痛みを、小さく「縮む」感覚として捉える作品として整理できる。佐川作品らしい生活への視線と、関係の中で変形していく愛のかたちを読む入口になる。 第24回 野間新人賞
- 306 2002 フェイク ふぇいく 第34回新潮新人賞を中村文則「銃」と分け合った受賞作。タイトルの「フェイク」は偽物・まがいものの意で、本物と偽物のあわいを生きる人物像をうかがわせるが、単行本化されておらず、内容を確認できる資料は乏しい。選考委員は川上弘美・沼野充義・福田和也・保坂和志・町田康。同時受賞の中村文則がその後芥川賞作家と… 第34回 新潮新人賞
- 307 2002 ジャイロ! じゃいろ 「僕」と友人・猟平が繰り返す「危険なキャッチボール」が、ついに猟平の家を全焼させてしまう——少年たちの遊びと暴力が地続きになった世界を、熱を孕んだ文体で一気に語る。選考では、世界へのルサンチマン(鬱屈した恨み)を呪詛のような語りで繋ぎ留めた「現代の悪童日記」と評された。受賞の翌年まで『群像』に短篇を… 第45回 群像新人賞
- 308 2002 裸のカフェ はだかのかふぇ 横田創が2002年に刊行した作品で、公開情報では詳細な梗概がまだ薄い。カフェという開かれた場所と「裸」のイメージから、人間関係や自己露出の不穏さを扱う作品として暫定整理する。内容細部と批評上の評価は、現物・書評確認を優先したい。
- 309 2002 ハミザベス はみざべす 二十歳の誕生日を前に、死んだと思っていた父が本当に死んだ。まちるが遺産として受け取ったのは、高層マンションの一室とハムスターの「ハミザベス」。母と暮らした家を出て、地上33階で始まる一人と一匹の生活に、元恋人の幼なじみや父の同居人だった女性が出入りし、奇妙な距離感の友情が育っていく。喪失から始まる物… 第26回 すばる文学賞
- 310 2002 銃 じゅう 雨の夜、大学生の「私」は河原で死体のそばに落ちていた拳銃を拾う。磨き、眺め、持ち歩くうちに、銃は退屈な日常に輪郭を与える唯一の存在となり、「撃つ」ことへの欲望が抗いがたく膨らんでいく——。一挺の銃という即物的なモチーフだけで青年の内面の崩壊を追い詰めていく構成と、乾いた硬質な一人称は、ドストエフスキ… 第34回 新潮新人賞
- 311 2002 官能小説家 かんのうしょうせつか 永井荷風と森鷗外を軸に、「官能」と文学の歴史をめぐって展開する高橋源一郎の長編。近代文学の作家を素材にしながら、性、表現、文学史をメタフィクションとして組み替える。日本文学を読むこと自体を小説の快楽へ変える作品。
- 312 2002 キッズ アー オールライト きっず あー おーるらいと やくざの愛人の息子として育った「オレ」は、親父の失脚をきっかけに組織同士の闘いへと足を踏み入れてしまう。手当たり次第に何でも破壊するビリィの右手など、過剰でマンガ的なイメージを叩きつけながら、暴力の世界のただなかにいる子どもたちの姿を疾走感のある語りで描く。現役の小学校教師が書いたアウトロー小説とい… 第39回 文藝賞
- 313 2002 君が代は千代に八千代に きみがよはちよにやちよに 「君が代」という強い公共的記号を題名に据え、国家、記憶、言葉の働きを小説の場で問い直す高橋源一郎の作品。政治的な主題を直接の主張に閉じず、語りの実験や文学的なずらしによって扱う。近代日本の制度と言語をめぐるメタフィクションとして読める。
- 314 2002 リトル・バイ・リトル りとる・ばい・りとる 母の不在と継父との関係に揺れる少女の成長を描く島本理生の初期長編。十代の語り手が、家族への違和感、恋愛以前の孤独、日常の不安を少しずつ言葉にしていく。静かな文体で、傷つきやすい感情の変化を丁寧に追う作品。
- 315 2002 猛スピードで母は もうすぴーどでははは 芥川賞受賞作「猛スピードで母は」と、デビュー作「サイドカーに犬」を収める短篇集。子どもの視点から、奔放な母や家族の変化を、過度に説明せず鮮やかな場面で捉える。ユーモアと痛切さが同居し、家族小説を軽やかな速度で更新した作品。 第126回 芥川賞
- 316 2002 王国 その1 アンドロメダ・ハイツ おうこく そのいち アンドロメダ・ハイツ 山奥で祖母と暮らした雫石が、都会で占い師の助手となる「王国」シリーズ第一作。自然の記憶、都市での仕事、スピリチュアルな感受性が交差し、傷ついた人が別の居場所を作る過程を描く。吉本ばなならしい癒やしと不思議さが、生活の手ざわりと結びつく。
- 317 2002 リレキショ りれきしょ 過去を捨てた19歳の「僕」は、「姉さん」と名乗る女性に拾われ、「半沢良」という新しい名前と居場所をもらう。深夜のガソリンスタンドでアルバイトをしながら、白紙に「どこへでもいける切符」を持つ自分の履歴書を書いてみる——。何者でもなくなった青年が、淡い人間関係のなかでもう一度自分の輪郭をなぞり直していく… 第39回 文藝賞
- 318 2002 世界がはじまる朝 せかいがはじまるあさ 黒田晶が2002年に刊行した作品で、河出書房新社版の書誌が確認できる。公開情報が限られるため内容細部は保留するが、デビュー期の若い書き手による、世界が開ける瞬間や関係の始まりをめぐる作品として暫定整理する。文藝賞周辺の2000年代初頭の感覚を追う上で補完的な一冊。
- 319 2002 タンノイのエジンバラ たんのいのえじんばら 長嶋有の2002年の作品で、オーディオ機器を思わせる題名が、生活の中の音や記憶への感度を示す。公開情報は限定的だが、日常の小さな違和感や人間関係の距離を、静かでユーモラスな筆致で捉える長嶋作品の系譜に置ける。内容細部は追加確認が必要。
- 320 2002 わたしの好きなハンバーガー わたしのすきなはんばーがー 広告会社を定年まで勤め上げた67歳の新人が、蒔岡雪子「飴玉が三つ」と同時に第94回文學界新人賞を射止めた作品。新人賞の受賞者が軒並み若返っていく2000年代初頭にあって、企業社会を生き切った世代の書き手の登場は異彩を放った。選考委員は浅田彰・奥泉光・島田雅彦・辻原登・山田詠美。単行本化されておらず… 第94回 文學界新人賞
- 321 2002 よしわら よしわら 新潮新人賞受賞作「グラウンド」を、単行本化に際して『よしわら』と改題した中篇。風俗雑誌編集などの職歴を持つ作者の経歴とも重なり、労働、都市の周縁、学歴や階層から外れた人物の感覚を描く。新人賞受賞作が芥川賞候補にもなった、2000年代初頭の新潮新人賞系譜の一作。 第33回 新潮新人賞
- 322 2001 ゴヂラ ゴヂラ 高橋源一郎が2001年に刊行した作品で、怪獣映画を思わせる表記を小説の入口に置く。戦後日本の記憶、メディアの記号、文学の語りを重ね、現実とフィクションの境界を揺さぶるタイプの作品として読める。内容細部は追加確認が必要だが、実験的な社会批評性を持つ作品として分類する。
- 323 2001 グラウンド ぐらうんど 第33回新潮新人賞の受賞作で、『新潮』2001年11月号に掲載された。作者の鈴木弘樹は中学卒業後に風俗雑誌の編集をはじめ様々な職を渡り歩いた経歴の持ち主で、学歴エリートではない叩き上げの書き手の登場として注目された。発表直後に第126回芥川賞候補となり、同回で芥川賞を受賞した長嶋有「猛スピードで母は… 第33回 新潮新人賞
- 324 2001 インストール いんすとーる 高校生活から突然降りてしまった17歳の朝子が、部屋の荷物を全部捨てたことをきっかけに、マンションの押入れに住み着くような小学生・かずよしと知り合い、拾った中古パソコンで風俗チャットの「バイト」を代行するようになる。インターネット黎明期の風俗チャットという際どい題材を扱いながら、筆致はあくまで軽やかで… 第38回 文藝賞
- 325 2001 クチュクチュバーン くちゅくちゅばーん ある時から人間たちが異形のものへと変容しはじめ、世界そのものが崩壊へ向かう過程を、複数の人物のエピソードを束ねて描く黙示録的な中篇。グロテスクで生々しい身体描写を畳みかけながら、悲惨さの中に奇妙な可笑しさと祝祭性が同居するのが特徴で、「世界の破壊か、新しい人類の始まりか」という終末イメージを正面から… 第92回 文學界新人賞
- 326 2001 日本文学盛衰史 にほんぶんがくせいすいし 明治の文学者たちを現代の事物と混在させて描く、高橋源一郎の長編。日本文学史そのものを小説の材料にし、正典や文学制度をパロディと批評の対象に変える。文学をめぐる知識が物語の中で揺さぶられる、メタフィクション性の高い作品。
- 327 2001 蚤の心臓ファンクラブ のみのしんぞうふぁんくらぶ 「誰にも“蚤の心臓”はあるのです。ちょっと引き抜いてみましょう。今より自由になれますよ」という惹句が示すとおり、人が抱える臆病さや気弱さを「蚤の心臓」という具体物のイメージに転化し、そこからの解放を軽みのある筆致で描いた作品。深刻な内面告白に向かいがちな新人文学賞応募作の中で、ユーモアと寓意で心の問… 第44回 群像新人賞
- 328 2001 サイドカーに犬 さいどかーにいぬ 小学四年生の夏、母が家出した薫の家に、父の知り合いである洋子さんが入り込んでくる。自転車を教えてくれ、缶コーヒーを飲み、堂々と振る舞う洋子さんと過ごしたひと夏を、大人になった薫が淡々と回想する。家庭の危機という湿りがちな題材を、軽やかでユーモラスな距離感と即物的なディテールで描き、深刻にならないのに… 第92回 文學界新人賞
- 329 2001 途中下車 とちゅうげしゃ 高橋文樹のデビュー作で、既存データでは幻冬舎NET学生文学賞大賞受賞作とされる。移動や途中下車のモチーフから、若い語り手が日常の経路を外れ、自分の居場所を探る作品として暫定整理する。公開情報が少ないため、内容紹介は今後の現物確認で補強したい。
- 330 2001 次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? つぎのまちまで、きみはどんなうたをうたうの 柴崎友香の初期作品で、次の町へ向かう移動の感覚と、若い人々の会話や音楽の気配を描く。大きなドラマではなく、場所が変わるときの心の揺れ、友人関係の距離、都市の日常の質感が中心になる。後の柴崎作品に通じる、移動と観察の文学として読める。
- 331 2000 フリースタイルのいろんな話 ふりーすたいるのいろんなはなし 第43回群像新人文学賞(2000年)で、横田創「(世界記録)」の当選と並んで優秀作に選ばれた作品。『群像』2000年6月号に掲載されたが、単行本化はされておらず、作者・中井佑治のその後の著書も確認できないため、今日では掲載誌でしか読むことができない。「フリースタイル」を掲げる題名が示すとおり、定型に…
- 332 2000 ひな菊の人生 ひなぎくのじんせい 吉本ばななが2000年に刊行した作品で、ロッキング・オン版と後年の幻冬舎版の書誌が確認できる。公開情報は限定的だが、タイトルの柔らかさとは裏腹に、人生の記憶や痛みをすくい上げる吉本作品の系譜に置ける。現段階では内容細部の確認を次回課題として残す。
- 333 2000 神の子どもたちはみな踊る かみのこどもたちはみなおどる 阪神・淡路大震災後の空気を背景にした六篇の連作短編集。大きな災害を直接描き尽くすのではなく、喪失や不安を抱えた人々の生活に、寓話や偶然の形で揺れを響かせる。「かえるくん、東京を救う」など、現実と幻想の境目を軽やかに越える短篇が含まれる。
- 334 2000 体は全部知っている からだはぜんぶしっている 身体の記憶をモチーフにした吉本ばななの掌篇集。心では整理できない痛みや違和感が、身体の感覚として先に反応する瞬間をすくう。短い形式の中で、病、恋愛、喪失、生活の手ざわりを静かに重ねる。
- 335 2000 共生虫 きょうせいちゅう 引きこもりの青年ウエハラが、「共生虫」という妄想に取り憑かれていく長編。ネット、孤立、身体への不安が結びつき、社会から退いた人物の内側が危うく膨張していく。2000年前後のテクノロジーと精神の不穏な接続を描く村上龍作品。 第36回 谷崎賞
- 336 2000 メイドインジャパン めいどいんじゃぱん 「この国にしか起こりえない少年犯罪」を題材に、リアルで残酷な殺人描写を、グルーヴ感のあるクールな文体で押し切った問題作。応募時の原題は「YOU LOVE US」で、単行本化に際して『メイドインジャパン』と改題された。1990年代末の少年犯罪報道の記憶が生々しい時期に、暴力を内側から描く若い書き手が現… 第37回 文藝賞
- 337 2000 ロマンティック ろまんてぃっく 末弘喜久「塔」と並んで第24回すばる文学賞に選ばれた中篇。作者の大久秀憲は早稲田大学在学中の1996年に「葛西夏休み日記帳」で早稲田文学新人賞を受賞しており、本作は文芸誌の公募新人賞としては二度目の受賞となる、当時28歳の再デビュー作だった。『すばる』2000年11月号に掲載され、2001年1月に集… 第24回 すばる文学賞
- 338 2000 (世界記録) せかいきろく 括弧でくくられた題名がすでに仕掛けになっている、劇作家出身の新人による実験的なデビュー作。世界を「写生=記録」しサンプリングするような手つきで、書くことと現実のあいだのずれを執拗に往復する。単行本には小説とあわせて戯曲二篇が収められ、演劇の言葉と小説の言葉を行き来してきた作者の出自がそのまま本の形に… 第43回 群像新人賞
- 339 2000 取り替え子(チェンジリング) とりかえこ 義兄・吾良の自死をきっかけに、作家・古義人が過去の謎をたどる長編。録音された声や記憶を通して死者と対話し、家族史、映画、芸術、自己の来歴が絡み合う。大江後期の「おかしな二人組」三部作へつながる、喪失と再生の作品。
- 340 2000 塔 とう 「果たして妻は同僚と関係があったのか」という疑念に取り憑かれた男が、絶望から精神の彷徨へ、さらに錯乱と覚醒へと沈み込んでいく過程を描く。現実の輪郭が次第に溶け、悪夢的・幻想的な世界へ滑り込んでいく筆致が特徴で、嫉妬という卑近な感情を入口に、人がどこまで暗がりへ降りていけるかを試すような作品になってい… 第24回 すばる文学賞
- 341 1999 ハードボイルド/ハードラック ハードボイルド/ハードラック 「ハードボイルド」と「ハードラック」2篇からなる短編集。前者は別れた同性の恋人を思いながらの不思議なひとり旅、後者は植物人間となった姉の看病を通して芽生える愛を描く。死と喪失を核に据えながら癒しと前進を模索する。
- 342 1999 夏の約束 なつのやくそく ゲイのカップルを中心に、性転換した美容師、売れない小説家とその女友達といった「ゆるやか」な人々のある夏の日常を描いた短編。性的マイノリティを自然体で描いた1990年代末の問題作。玄月「蔭の棲みか」と同時受賞。 第122回 芥川賞
- 343 1999 ロックンロールミシン ろっくんろーる みしん 会社員の主人公が高校時代の友人が旗揚げしたインディーズファッションブランド「ストロボ・ラッシュ」に関わるうち服作りに巻き込まれていく物語。ファッション業界経験を持つ作者の実感が生きた軽快な青春小説。第12回三島由紀夫賞受賞(堀江敏幸と同時)。 第12回 三島賞
- 344 1999 無情の世界 むじょうのせかい 「トライアングルズ」「無情の世界」「鏖(みなごろし)」の3短編を収録。表題作は深夜の公園で死体を発見した高校生の物語で、若者の鬱屈した暴力衝動と現代社会の無情を描く。阿部和重の前衛的・批評的な初期作風が凝縮されている。第21回野間文芸新人賞受賞(伊藤比呂美と同時)。 第21回 野間新人賞
- 345 1998 カブキの日 かぶきのひ 歌舞伎の世界を舞台にメタフィクション的なユーモアと批評性を盛り込んだ小説。「小説伝」以来の実験的な語りの手法が成熟した作品。第11回三島由紀夫賞受賞。 第11回 三島賞
- 346 1998 おしゃべり怪談 おしゃべりかいだん ゲイや性的マイノリティを自然体で描く藤野千夜の作風が凝縮されたユーモラスな小説。日常の隙間にある「怪談的なもの」を軽やかに描く。第20回野間文芸新人賞受賞。 第20回 野間新人賞
- 347 1997 オーディション オーディション 再婚相手を探す男が映画オーディションで出会った女の狂気に巻き込まれる長編。三池崇史により映画化。
- 348 1997 最後の息子 さいごのむすこ 長崎から上京した若者が、新宿の中年ゲイ男性と同居するうちに互いの孤独と依存を見つめ合う中編。吉田修一のデビュー作であり、芥川賞候補ともなった。 第84回 文學界新人賞
- 349 1997 ラジオデイズ らじおでいず ファッション業界に身を置いた経験を持つ作者によるデビュー小説。続作「ロックンロールミシン」は三島由紀夫賞受賞・映画化された。 第34回 文藝賞
- 350 1997 街の座標 まちのざひょう 下北沢を舞台に、文学系女子大生が「S区S街」を描いた女性作家を追いながら、書くことと読むことの関係を問うデビュー作。2001年「処方箋」で野間文芸新人賞を受賞した。 第21回 すばる文学賞
- 351 1996 弟 おとうと 弟・石原裕次郎の生涯を兄の視点から描いた伝記的長編小説。
- 352 1996 まどろむ夜のUFO まどろむよるのゆーふぉー 「まどろむ夜のUFO」「もう一つの扉」「ギャングの夜」の3篇を収録する短編集。少女と日常の小さな異変を捉える角田光代の初期の作風が凝縮されている。第18回野間文芸新人賞受賞(柳美里と同時)。 第18回 野間新人賞
- 353 1995 この人の閾 このひとのいき 近隣に住む人々の日常の会話や時間の流れを、思索的かつ穏やかな視点でたどった短編。保坂和志の「日常の哲学」が凝縮された作品で、芥川賞選考委員から高く評価された。 第113回 芥川賞
- 354 1995 デッドエンド・スカイ でっどえんど・すかい 都市の音楽シーンと若者の閉塞感を描いたデビュー作。DJでもある著者の感性が横溢する。 第81回 文學界新人賞
- 355 1994 ハチ公の最後の恋人 ハチこうのさいごのこいびと 祖母の予言通りに出会った青年ハチの「最後の恋人」となった私の恋を描く長編。
- 356 1994 ピアッシング ピアッシング 強迫観念に駆られた男がコールガールを殺す計画を立てるが、幼少期に虐待を受けた女との奇妙な一夜が予期せぬ方向へと転がっていくサイコスリラー。
- 357 1994 昭和歌謡大全集 しょうわかようだいぜんしゅう 昭和歌謡を愛する青年グループと中年女性グループの殺し合いをブラックユーモアで描く長編。
- 358 1994 タイムスリップ・コンビナート たいむすりっぷ・こんびなーと 自宅から海芝浦駅までの道程で時間が前後にスリップしていく幻想的な作品。笙野頼子の自由奔放な文体と独自の時間感覚が凝縮されており、三島賞・野間新人賞との三冠をなした。 第111回 芥川賞
- 359 1993 とかげ とかげ 癒しと時間をテーマにした六篇の短篇集。
- 360 1993 冗談関係のメモリアル じょうだんかんけいのめもりある 『冗談関係のメモリアル』は、中村邦生が第77回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1993年12月号の書誌を確認できます。題名から、冗談や記憶をめぐる人間関係を扱う作品と見られますが、内容の詳細は未確認です。 第77回 文學界新人賞
- 361 1993 19分25秒 じゅうきゅうふんにじゅうごびょう 競歩の選手を題材にした小説。義足の競歩選手との出会いを通じて、自分の人生を問い直す青年を描く。続く「地下鉄の軍曹」で芥川賞候補となった。 第17回 すばる文学賞
- 362 1993 草の上の朝食 くさのうえのちょうしょく デビュー作「プレーンソング」の続編。鎌倉を舞台に、だらだらとした日常の時間の流れと複数の登場人物の意識の交錯を丁寧に描く。保坂和志が「小説は何を描くべきか」という問いを実践した初期の代表作。第15回野間文芸新人賞受賞(奥泉光と同時)。 第15回 野間新人賞
- 363 1992 運転士 うんてんし 『運転士』は、郊外住宅地を走るバス運転士の日常を通じて、家族関係の崩壊と男性の内面を描く作品です。職業の反復的な動きと、家庭の不安定さが重なり、都市郊外の生活の閉塞感が浮かびます。藤原智美の社会観察眼が出た芥川賞受賞作です。 第107回 芥川賞
- 364 1992 犬婿入り いぬむこいり 『犬婿入り』は、塾講師の女性が犬に変身した男性と同棲する物語を軸に、言語、身体、変身の主題を展開する作品です。民話的な想像力を現代の都市生活へ持ち込み、人間と動物、女と男、日本語と外部の境界を揺らします。多和田葉子の越境的で実験的な文体がよく現れた芥川賞受賞作です。 第108回 芥川賞
- 365 1992 春の手品師 はるのてじなし 『春の手品師』は、大島真寿美が第74回文學界新人賞を受賞したデビュー中篇です。名古屋を舞台に、ある関係性の始まりと変化を丁寧に描いた作品として既存調査で確認されています。恋愛や都市生活の気配を、清新な文体で扱う初期作品として位置づけられます。 第74回 文學界新人賞
- 366 1992 鳩を食う はとをくう 『鳩を食う』は、中野勝が第35回群像新人文学賞の小説優秀作となった作品です。NDLでは『群像』1992年6月号と受賞発表記事を確認できますが、具体的なあらすじや批評は今回確認できませんでした。題名の強い身体性を手がかりに分類は暫定補完しています。
- 367 1992 音符 おんぷ 『音符』は、三浦恵が第29回文藝賞を受賞した作品です。NDLでは1993年河出書房新社版の単行本書誌と『文藝』1992年12月号の書誌を確認しました。音楽的な題名を持つ作品ですが、内容を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できず、紹介は受賞・書誌中心です。 第29回 文藝賞
- 368 1992 チューリップの誕生日 ちゅーりっぷのたんじょうび 『チューリップの誕生日』は、女子高生がロックバンドで活動する姿を描く青春小説です。音楽を通じて学校生活や仲間との関係が動き、若い身体感覚と自己表現への欲求が前面に出ます。すばる文学賞受賞作として、1990年代初頭の若い書き手の感性を示す作品です。 第16回 すばる文学賞
- 369 1992 螺旋の肖像 らせんのしょうぞう 『螺旋の肖像』は、別唐晶司が第24回新潮新人賞を受賞したデビュー作です。医学研究科に在籍していた著者の経歴もあり、身体や認識をめぐる知的な題材が想起されますが、今回確認できた公開資料は受賞発表と掲載誌書誌が中心です。内容面は今後の追加調査が必要です。 第24回 新潮新人賞
- 370 1992 カワサキタン かわさきたん 『カワサキタン』は、中山幸太が第24回新潮新人賞を受賞した作品です。既存調査では川崎を舞台にした作品とされ、NDLでは受賞発表記事と『新潮』1992年11月号を確認できました。詳細な筋や批評は未確認のため、都市を舞台にした新人賞受賞作として暫定紹介します。 第24回 新潮新人賞
- 371 1992 星条旗の聞こえない部屋 せいじょうきの きこえない へや 『星条旗の聞こえない部屋』は、1960年代後半の横浜で、アメリカ外交官の息子ベン・アイザックが領事館を飛び出し、東京をさまよう物語です。日英二言語の狭間で、自分がどこに属するのかを探る越境文学の先駆的作品です。日本語で書くことそのものが、主人公のアイデンティティの問いと重なっています。 第14回 野間新人賞
- 372 1991 背負い水 せおいみず 『背負い水』は、荻野アンナが三年連続候補を経て芥川賞を受けた作品です。ラブレー研究者としての言語感覚を背景に、肉体、性、笑いを奔放な語りで絡ませます。湿った私小説性よりも、身体と言葉がはねるようなユーモアが前面に出る作品です。 第105回 芥川賞
- 373 1991 予感 よかん 『予感』は、釉木淑乃が第15回すばる文学賞を受賞した作品です。NDLでは『すばる』1991年12月号の受賞作発表記事と、1992年集英社版の単行本書誌を確認できます。詳細なあらすじは今回確認できなかったため、紹介は新人賞受賞作としての位置づけに留めます。 第15回 すばる文学賞
- 374 1991 十二階 じゅうにかい 『十二階』は、小口正明が第23回新潮新人賞を受賞した作品です。NDLでは『新潮』1991年11月号と受賞作発表記事を確認できる一方、詳細なあらすじや批評は今回確認できませんでした。作品内容の断定は避け、現時点では新人賞受賞作としての書誌情報を中心に扱います。 第23回 新潮新人賞
- 375 1991 ア・ルース・ボーイ あ るーす ぼーい 『ア・ルース・ボーイ』は、名門進学校を中退した十七歳の少年が、恋人と暮らしながら肉体労働の現場へ入っていく青春小説です。学校から外れた少年が、働く身体と他者との関係を通じて自分の輪郭をつかんでいきます。佐伯一麦の自伝的要素を感じさせる、労働と成長の物語です。 第4回 三島賞
- 376 1990 N・P エヌ・ピー 『N・P』は、未完の遺作小説をめぐって、翻訳者の死の影に引き寄せられる若者たちを描く長篇です。小説内のテキストと現実の人間関係が絡み合い、恋愛、近親性、喪失の感覚が静かに濃くなっていきます。吉本ばなならしい平明な一人称の語りで、危うい関係の重さを軽やかな文体に沈めています。
- 377 1990 静かな生活 しずかなせいかつ 『静かな生活』は、父の不在中、障害を持つ兄イーヨーと妹マーちゃんが暮らす日々を描く連作です。家族のケア、創作、日常の小さな秩序が、妹の視点を通して穏やかに語られます。大江健三郎の家族をめぐる作品群のなかでも、家庭内の静けさと緊張を同時に感じさせる一冊です。
- 378 1990 TVピープル てれびぴーぷる 『TVピープル』は、表題作を中心に、都市生活の中へ説明のつかない存在や出来事が入り込む短篇集です。テレビ、飛行機、眠りといった日常的なモチーフが、孤独や現実感のずれを浮かび上がらせます。村上春樹の短篇らしく、平易な一人称の語りが不穏な寓話性へ滑っていく感覚が読みどころです。
- 379 1990 妊娠カレンダー にんしんかれんだー 『妊娠カレンダー』は、妊娠した姉とその夫と同居する「私」が、妊娠の経過を日々観察していく短篇です。生命の誕生を祝福だけでなく、匂い、食べ物、身体への嫌悪や違和感として描く点が際立ちます。淡々とした一人称の記録が、家族の親密さの裏にある不穏さを増幅します。 第104回 芥川賞
- 380 1990 渇水 かっすい 『渇水』は、水道料金を滞納した家庭の給水停止に向かう水道局員・岩切俊作と、その家の子どもたちをめぐる中篇です。行政の仕事としての「停止」と、生活の水を断たれる人々の現実がぶつかります。乾いた社会派リアリズムで、貧困、労働、家庭の孤立を描く作品です。 第70回 文學界新人賞
- 381 1990 狂いバチ、迷いバチ くるいバチ、まよいバチ 『狂いバチ、迷いバチ』は、竹野昌代が第71回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1990年12月号の書誌を確認できますが、公開された詳細なあらすじ・書評は今回確認できませんでした。題名の不穏さを含め、現時点では新人賞受賞作としての書誌的紹介を中心に扱います。 第71回 文學界新人賞
- 382 1990 コンビニエンス ロゴス こんびにえんす ろごす 『コンビニエンス ロゴス』は、コンビニエンスストアを舞台に、商品・看板・会話が記号として氾濫する現代社会を描く作品です。労働の現場を扱いながら、消費社会の言葉が人間関係をどのように組み替えるかをポップに見せます。群像新人文学賞受賞作らしく、都市の日常を言語実験へ接続する点が読みどころです。 第33回 群像新人賞
- 383 1990 革命のためのサウンドトラック かくめいのためのさうんどとらっく 『革命のためのサウンドトラック』は、言葉が相手に届かず、ノイズのように増殖していく感覚を描く清水アリカのデビュー作です。筋を一直線に追わせるよりも、音、言葉、退廃的な気分を重ねて、都市の閉塞感を前景化します。言語への不信と終末的なムードが交差する、実験色の強い新人賞受賞作です。 第14回 すばる文学賞
- 384 1990 キャプテンの星座 きゃぷてんのせいざ 『キャプテンの星座』は、市立動物園にゾウがやって来るという出来事をめぐり、動物園に関わる人々の思いと施設の歴史を描く作品です。動物園という公共的な場所を舞台に、働く人々や来園者の記憶が交差します。受賞発表記事と単行本書誌を確認できる一方、詳細な書評は今回確認できていません。 第14回 すばる文学賞
- 385 1990 ドッグ・デイズ どっぐ・でいず 『ドッグ・デイズ』は、『新潮』1990年11月号に掲載された藤枝和則の新潮新人賞受賞作です。NDLでは受賞作発表記事と掲載誌の書誌を確認できる一方、筋や語り口を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できませんでした。そのため、現時点の紹介は受賞作・デビュー作としての位置づけを中心に留めます。 第22回 新潮新人賞
- 386 1989 人生の親戚 じんせいのしんせき 二人の息子を失った女性まり恵の苦難と魂の遍歴を描く大江健三郎の長編。喪失を抱えた人物が、宗教的・共同体的な問いに触れながら生を組み替えていく。大江後期の、家族の痛みと救済への希求が結びつく作品として読める。
- 387 1989 ペンギン村に陽は落ちて ペンギンむらにひはおちて 高橋源一郎が1989年に刊行した、ポップカルチャーの記号と小説の語りを交差させる作品。題名からも分かるように、既存の文化記号をずらして使い、文学とメディアの境目を揺さぶる。筋よりも、引用、冗談、語りの脱線が作る運動を読む作品。
- 388 1989 白河夜船 しらかわよふね 眠りに沈んでいく女性たちを描く三篇を収めた作品集。恋愛、喪失、孤独が、眠りという身体の状態を通じて静かに語られる。吉本ばなな初期の透明な語りと、生死の境目に触れる感覚がよく表れた一冊。
- 389 1988 ダンス・ダンス・ダンス だんす・だんす・だんす 『羊をめぐる冒険』の後日談として、「僕」が札幌のイルカホテルを再訪し、失われた女性や過去の気配を追っていく長編。現実のホテル、芸能界、ハワイ、羊男のいる異界がつながり、踊り続けることだけが世界との接続の方法として示される。1980年代の都市的な消費社会を背景に、喪失、記憶、孤独を冒険小説のリズムでた…
- 390 1988 哀しい予感 かなしいよかん 記憶の空白を抱えた少女が、風変わりな親族の家で自分の過去へ近づいていく長編。家族の秘密、喪失、直感のような感覚が、吉本ばなな初期作らしい静かな語りで結びつく。大きな事件よりも、眠りや気配に近い感情の変化を読む作品。
- 391 1988 キルプの軍団 キルプのぐんだん 大江健三郎が1988年前後に発表した作品で、寓話的な構図と共同体への問いを含む後期作品群の一つ。公開書誌では全小説・小説集への収録も確認でき、単独作としてだけでなく大江の長い創作系列の中で読む必要がある。内容細部の公開情報は限定的なため、紹介は現段階では主題の方向づけにとどめる。
- 392 1988 村上龍料理小説集 むらかみりゅうりょうりしょうせつしゅう 料理を軸に、欲望、記憶、身体感覚を結びつける村上龍の短篇集。食べることが単なる生活描写ではなく、性、旅、階層、感覚の鋭さを呼び出す装置として働く。村上龍の官能的な文体を、暴力よりも味覚と記憶の側から読める作品集。
- 393 1988 トパーズ トパーズ SMクラブで働く女性たちの身体、欲望、孤独を都市の夜の中に描く村上龍の作品。性の描写は刺激としてだけでなく、支配、痛み、金銭、自己感覚をめぐる問いとして機能する。乾いた文体で、バブル期都市の消費と身体の商品化を突きつける。
- 394 1988 うたかた/サンクチュアリ うたかた/サンクチュアリ 吉本ばななの初期作品集で、「うたかた」と「サンクチュアリ」を併録する。喪失や恋愛、居場所をめぐる不安を、柔らかく透明な語り口で描く。日常の小さな違和感から、生死のあわいや心の避難場所へ入っていく初期吉本作品らしさがある。
- 395 1988 優雅で感傷的な日本野球 ゆうがでかんしょうてきなにほんやきゅう 「ぼくは野球を知らなかった」――野球が忘れ去られた世界で、語り手は「日本野球」の神髄を教わろうとする。断片的な7つの章で構成され、実在の選手や球団の記憶、「1985年、阪神タイガースは本当に優勝したのだろうか」という問いをめぐって、パロディとパスティーシュ(既存作品の文体模倣)を駆使した物語が時空を… 第1回 三島賞
- 396 1987 愛と幻想のファシズム あいとげんそうのファシズム 経済危機に揺れる日本を舞台に、狩猟者トウジがカリスマ的な政治運動を率いていく長編。金融、メディア、暴力、共同体の欲望が絡み合い、個人の野性や身体性が国家的な幻想へ接続されていく過程を描く。近未来政治小説の形を取りながら、1980年代末の消費社会と権力への不安を大きなスケールで物語化した作品。
- 397 1987 ノルウェイの森 のるうぇいのもり 1960年代末の学生運動期を背景に、ワタナベと直子、緑の関係を通じて、喪失、恋愛、死者への記憶を描く長編。村上作品としては幻想性を抑えたリアリズム寄りの語りで、音楽、読書、寮生活、療養所の細部が青春の傷を浮かび上がらせる。読みやすい恋愛小説の形を取りながら、親しい死をどう抱えて生きるかという痛切な問…
- 398 1986 パン屋再襲撃 ぱんやさいしゅうげき 表題作は、深夜に激しい空腹に襲われた夫婦が、過去の「パン屋襲撃」の呪いを解くため再び街へ出る奇妙な短篇。文春文庫公式ページでは「象の消滅」や“ねじまき鳥”の原型となる作品を含む初期短篇集として紹介されており、食欲、結婚生活、都市の空白が寓話的に結びつく。軽い会話と不穏な空気が同時に進む、初期村上短篇…
- 399 1985 ジョン・レノン対火星人 ジョン・レノンたいかせいじん 高橋源一郎の初期作品で、音楽、SF的な想像力、文学の制度を横断するような題名の通り、ジャンルの境界を遊びながら崩していく。物語の筋だけでなく、固有名やサブカルチャーの断片が語りを動かす点に読みどころがある。実験的な笑いと不穏さが同居する、ポストモダン文学の入口に置ける作品。
- 400 1985 河馬に嚙まれる かばにかまれる 連合赤軍事件の記憶や、その後を生きる人々の傷を背景にした連作短篇集。表題作では、政治的暴力の記憶と個人の身体感覚が奇妙に結びつき、過去を説明しきれないまま抱え続ける人間の多義性が浮かび上がる。寓話的な動物イメージと自己照射的な語りを通して、1970年代の事件の残響を1980年代の生へ引き寄せる。 第11回 川端賞
- 401 1985 回転木馬のデッド・ヒート かいてんもくばのでっどひーと 実際に聞いた話を小説の形に組み替えた、都市生活者たちの短いスケッチ集。表題の「回転木馬」は、同じ場所を巡り続けながら誰も抜け出せない人生の比喩として働き、各篇の人物は小さな違和感や疲労を抱えたまま日常を走り続ける。事実と虚構の境界をあいまいにしながら、村上春樹の乾いた観察眼と抑制されたユーモアが前面…
- 402 1985 テニスボーイの憂鬱 テニスボーイのゆううつ 村上龍が1985年に刊行した長編。テニスや消費文化の明るい表層を背景に、若者の空虚さ、身体感覚、欲望の行き場のなさを描く作品として読める。初期村上龍の過剰な都市感覚を、暴力だけでなく遊戯性や倦怠から見るための一冊。
- 403 1984 螢・納屋を焼く・その他の短編 ほたる・なやをやく・そのたのたんぺん 「螢」「納屋を焼く」などを収めた初期短編集。新潮社の紹介では「螢」が『ノルウェイの森』の原点とされ、学生時代の喪失と届かない温もりが抑制された一人称で描かれる。「納屋を焼く」は日常会話の奥に説明されない空白を置き、静かな恋愛小説と不穏な幻想が同じ冊子のなかで並ぶ構成になっている。
- 404 1984 虹の彼方に にじのかなたに 高橋源一郎の初期長編で、ポップカルチャーの速度と文学的な実験が混ざり合う作品。既成の小説らしさをずらしながら、語りの軽さ、引用、遊びの感覚で現代の気分を立ち上げる。筋を追うだけでなく、言葉やジャンルがほどけていく過程を読む作品として扱いたい。
- 405 1983 新しい人よ眼ざめよ あたらしいひとよめざめよ 障害を持つ息子イーヨーとの日常を、ウィリアム・ブレイクの詩を媒介に見つめ直す連作小説。語り手は息子の成長、死や性への問い、家族のなかの不安を受け止めながら、文学の言葉が現実のケアとどのように結びつくかを探る。私小説的な素材を思想的な読解と重ねることで、父と子の関係を閉じた家族の物語にせず、他者と共に…
- 406 1983 中国行きのスロウ・ボート ちゅうごくゆきのすろうぼーと 村上春樹の最初の短篇小説集で、表題作をはじめ、初期作品に特徴的な一人称の軽さ、記憶の空白、都市生活の孤独が並ぶ。長編の「僕」の世界から少し距離を取り、短篇ごとに日常の違和感、すれ違う他者、説明されない幻想を試している。淡いユーモアと乾いた喪失感が共存し、初期村上短篇の実験場として読むことができる。
- 407 1983 だいじょうぶマイ・フレンド だいじょうぶマイ・フレンド 村上龍が1983年に刊行した、映画化とも接続するポップな幻想小説。現実の都市感覚に、異質な存在との遭遇や友情のモチーフを重ね、初期村上龍の暴力的なリアリズムとは別の軽さを見せる。サブカルチャー、映像、音楽的な速度感を小説へ持ち込む読みどころがある。
- 408 1983 カンガルー日和 かんがるーびより 村上春樹の初期短編集で、ショートショートを含む短い物語が並ぶ。日常の手ざわりからふいに幻想へ滑り込む語り口が特徴で、軽いユーモアの奥に孤独や関係の不確かさが残る。後年の長編へ続く比喩、欠落、都市生活者の感覚をコンパクトに読むことができる。
- 409 1983 若者たちの悲歌 わかものたちのひか 石川達三が1983年に刊行した作品。公開情報では詳細な梗概や批評が限定的なため、題名が示す若者像と悲劇性を手がかりに、世代の違和や社会との摩擦を扱う後期作として暫定整理する。内容の精査は現物・書評確認の優先候補として残す。
- 410 1982 羊をめぐる冒険 ひつじをめぐるぼうけん 広告代理店で働く「僕」は、耳に星形の斑紋を持つ謎の羊を探すよう依頼され、ガールフレンドとともに北海道へ向かう。右派の大物、秘書、羊男、そして姿を消した鼠の痕跡が重なり、探偵小説めいた筋立ては次第に幻想と喪失の物語へ変質していく。初期の軽やかな一人称の語りを保ちながら、政治的な力、戦後の記憶、個人の空… 第4回 野間新人賞
- 411 1982 さようなら、ギャングたち さようならギャングたち 詩の学校で教える「僕」と、名前や物語のルールがずれていくギャングたちの世界を、断章・引用・言葉遊びで組み上げるデビュー長編。ギャングたちは犯罪集団というより、言語と記憶のなかで生成される虚構の仲間として現れ、物語は詩、ポップカルチャー、メタフィクションを軽やかに横断する。青春小説の形式を借りながら…
- 412 1981 星空 ほしぞら 石川達三が1981年に刊行した後期作品。公開データでは梗概・批評の確認が薄く、まずは新潮社刊行作としての書誌を押さえる段階にある。作家後期の視点から、記憶や老い、社会の中での孤立を読む軸を仮に与えておく。
- 413 1980 1973年のピンボール せんきゅうひゃくななじゅうさんねんのぴんぼーる 『風の歌を聴け』に続く「鼠三部作」第二作で、翻訳事務所を営む「僕」の生活と、故郷に残る鼠の停滞が並行して語られる。「僕」はかつて通ったバーにあったピンボール台を探し、双子の女性との奇妙な同居や電話配電盤の葬送を経て、失われた時間の手触りに近づいていく。軽い会話と乾いたユーモアの背後に、青春の終わり…
- 414 1980 コインロッカー・ベイビーズ コインロッカー・ベイビーズ 1972年夏、コインロッカーに遺棄されたキクとハシは、施設と養家を経て、それぞれ異なるかたちで母の不在と都市への怒りを抱え込む。ハシは歌声とショービジネスに、キクはアネモネや毒物ダチュラをめぐる破壊衝動に引き寄せられ、東京は欲望と暴力が増殖する異様な空間として立ち上がる。棄児、身体、都市、音の記憶を… 第3回 野間新人賞
- 415 1980 七人の敵が居た しちにんのてきがいた 石川達三が1980年に刊行した後期長編。公開情報では内容紹介や主要書評が乏しいため、現時点では同時期の石川作品群の一冊として書誌を確定し、詳細な筋や評価は保留する。社会と個人の摩擦を描いてきた石川の作家的関心に照らし、孤立や対立の構図を読むための候補作として位置づける。
- 416 1979 風の歌を聴け かぜのうたをきけ 1970年の夏、「僕」と友人「鼠」の9日間を描いた村上春樹のデビュー作。短い章、乾いた会話、音楽や翻訳文学の気配によって、青春の終わりと喪失感が軽やかに語られる。後の「鼠三部作」へ続く、村上春樹の文体と世界観の出発点である。 第22回 群像新人賞
- 417 1977 独りきりの世界 ひとりきりのせかい 石川達三が1970年代後半に刊行した作品。題名が示す孤独を中心に、社会や家族から切り離された人物の世界を描く作品として暫定整理する。公開情報が少ないため、内容細部は未確認だが、後期石川の個人の孤立への関心を読む候補作である。
- 418 1977 海の向こうで戦争が始まる うみのむこうでせんそうがはじまる 村上龍が『限りなく透明に近いブルー』後に発表した初期長編。題名の通り、戦争が遠くで始まるという感覚を、若者の身体や都市的な不安と接続する。暴力、メディア、距離感のずれを通じて、初期村上龍の社会への鋭い視線を読む作品である。
- 419 1976 限りなく透明に近いブルー かぎりなくとうめいにちかいブルー 米軍基地の街・福生のハウスを舞台に、19歳のリュウとその仲間たちの日々を描く。ドラッグとロック、黒人兵たちとの乱痴気騒ぎ、セックスと暴力に明け暮れる若者たちの退廃を、感傷を排した即物的な描写と、ガラスの破片や雨に濡れた滑走路といった鮮烈なイメージの連なりで定着させる。荒廃の只中にいながらどこか透明な… 第75回 芥川賞
- 420 1976 ピンチランナー調書 ピンチランナーちょうしょ 大江健三郎が1976年に刊行した実験的長編。父子関係、身体、記録や調書の形式を通して、現実と幻想の境界を揺らす。障害のある子をめぐる大江の継続的主題が、メタフィクション的な構成と結びつく作品である。
- 421 1974 その最後の世界 そのさいごのせかい 石川達三が1970年代に刊行した後期作品。題名は終末や閉ざされた世界を想起させ、社会の行き詰まりと個人の孤独を読む手がかりになる。公開情報が限られるため、後期石川の社会観・人生観を示す作品として暫定紹介する。
- 422 1971 解放された世界 かいほうされたせかい 石川達三が1971年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。「解放」という語が示す自由への期待と、その後に残る孤独や責任を読む軸がある。公開梗概が薄いため、戦後社会の価値観の変化を扱う作品として暫定的に分類する。
- 423 1970 化石の森 かせきのもり 政界・財界の腐敗を描いた石原慎太郎の長編政治小説。若者の感覚を描いた初期作とは違い、権力の硬直と社会の閉塞を「化石」のイメージで捉える。篠田正浩監督による映画化もあり、政治小説としての石原を確認できる作品。
- 424 1969 愉しかりし年月 たのしかりしとしつき 石川達三が1969年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。題名は過ぎ去った年月への回想を示し、記憶と老い、生活の時間を扱う作品として読める。公開情報が限られるため、後期へ向かう石川の回想的な小説として暫定整理する。
- 425 1969 われらの狂気を生き延びる道を教えよ われらのきょうきをいきのびるみちをおしえよ 父と障害のある息子、狂気や暴力にさらされた若者たちをめぐる中短篇を束ねた作品集。表題作では家族の内部にある痛みと外部世界の不穏が結びつき、個人的な危機が時代の狂気をどう生き延びるかという問いへ広がる。大江が1960年代に深めた身体・父性・責任の主題を、寓話性と切迫した心理描写で展開する。
- 426 1968 青春の蹉跌 せいしゅんのさてつ 夢を持つ青年が挫折と欲望に追い詰められていく過程を描いた長編。青春の理想が、社会的成功への欲望や恋愛、罪の意識によって崩れていく。ベストセラーとなり映画化もされた、石川達三の通俗性と社会批評が接続する作品である。
- 427 1967 約束された世界 やくそくされたせかい 石川達三が1967年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。題名は理想や未来への約束を示す一方、それが現実の社会で損なわれる可能性も含む。公開情報が少ないため、戦後社会の期待と挫折をめぐる作品として暫定紹介する。
- 428 1966 金環蝕 きんかんしょく 政界と財界の癒着を描いた石川達三の政治小説。ダム利権をめぐる汚職を告発的に扱い、個人の倫理よりも制度と権力の腐敗を前景化する。社会派作家としての石川の問題意識が、政治経済の構造へ向けられた作品である。
- 429 1964 傷だらけの山河 きずだらけのさんが 石川達三が1960年代半ばに刊行した社会小説。題名の「山河」は個人だけでなく社会全体の傷を想起させ、戦後復興の陰にある矛盾や疲弊を読む軸を与える。公開梗概は薄いが、政治・経済・生活の歪みを扱う作品として暫定的に整理する。
- 430 1964 個人的な体験 こじんてきなたいけん 脳に重い障害をもつ子の誕生に直面した青年バードが、父になることへの恐怖と逃避願望に追い詰められていく長編。酒、性、アフリカへの空想に逃げ込むバードの混乱を追いながら、私的な出来事が責任、倫理、家族の問題へ変わっていく過程を描く。滑稽さと残酷さが同居する語り口で、父性を美談にせず、引き受けることの困難…
- 431 1964 日常生活の冒険 にちじょうせいかつのぼうけん 大江健三郎の1960年代の長編で、「日常生活」と「冒険」という相反する語を重ねる題名が印象的な作品。平凡な生活の内部に、暴力、性、幻想的な逸脱が入り込む大江らしい構図を持つ。日常の足場が崩れていく不穏さを読む作品である。
- 432 1963 叫び声 さけびごえ 大江健三郎が1963年に刊行した作品で、切迫した題名の通り、若者の不安や社会的暴力を強い声として立ち上げる。公開情報では細部の梗概は限定的だが、初期大江の身体性、政治性、孤立感を読む作品として整理できる。全小説・作品集への収録も確認できる。
- 433 1963 性的人間 せいてきにんげん 大江健三郎が性と人間存在を正面から扱った初期作品。性を単なる欲望としてではなく、身体、羞恥、孤独、社会への反抗が交差する場として描く。初期大江の挑発的な主題設定と、重くねじれた文体を読む作品である。
- 434 1962 遅れてきた青年 おくれてきたせいねん 大江健三郎の初期長編で、「遅れてきた」若者の屈折した自己意識を描く作品。戦後の政治的・性的な不安を背景に、青年が自分の時代に乗り遅れた感覚を抱える。初期大江らしい、青春小説でありながら痛切で不穏な読み味を持つ。
- 435 1961 充たされた生活 みたされたせいかつ 石川達三が1960年代初頭に刊行した生活小説。題名の「充たされた」が逆説的に響くように、安定した生活の中にある不満や空虚を扱う作品として読める。公開情報が限られるため、家族、階層、生活倫理の揺らぎを主題にした暫定紹介とする。
- 436 1959 われらの時代 われらのじだい 大江健三郎が1959年に刊行した初期長編。敗戦後世代の若者たちの閉塞、政治感覚、性や暴力への傾斜を通じて、「われら」と呼べる時代の不安を描く。初期大江の実存的な焦燥と社会への違和感が前面に出る作品。
- 437 1958 完全な遊戯 かんぜんなゆうぎ 若者たちの倦怠と残虐な「遊び」を描いた石原慎太郎の中篇。遊戯の名の下に暴力がエスカレートしていく構図は、戦後若者文化への不安と反発を強く帯びる。太陽族文学の享楽性の裏側にある空虚さを読む作品である。
- 438 1958 亀裂 きれつ 石原慎太郎が1950年代に刊行した作品で、戦後社会の価値観のひび割れを思わせる題名を持つ。公開情報では細部の梗概が少ないため、初期石原の若者像や社会への挑発を含む作品として暫定整理する。個人と社会、欲望と規範の間に走る亀裂を読む軸を置く。
- 439 1958 死者の奢り ししゃのおごり 大学の死体処理室でアルバイトをする若者たちを描く、初期大江の代表的な短篇。死者は畏怖の対象であると同時に、運搬され、数えられ、処理される物質として現れ、生と死の境界が事務的な労働の場に引き寄せられる。若い語り手の冷えた感覚と不安を通して、戦後の身体感覚、死への距離、社会の片隅に置かれた労働の異様さが…
- 440 1956 処刑の部屋 しょけいのへや 大学生の性的奔放と暴力を描いた石原慎太郎の初期代表短篇。若者の身体感覚、退屈、残酷さを挑発的に描き、「太陽族」文学の衝撃を広げる作品となった。戦後の新しい若者像を、道徳的な安定ではなく暴力と欲望の側から提示する。
- 441 1955 太陽の季節 たいようのきせつ 裕福な家庭に育ち、拳闘に打ち込む高校生・津川竜哉が主人公。湘南の海やヨット、盛り場を舞台に、既成の倫理や大人の価値観を軽蔑し、喧嘩や女性関係を遊戯のように楽しむ戦後世代の若者たちの生態を描く。竜哉は英子という女性と出会い、互いに駆け引きめいた恋愛を続けるうちに、欲望と愛情の間で関係は思わぬ方向へ傾い… 第34回 芥川賞
- 442 1954 驟雨 しゅうう 『驟雨』は、料亭の女との短い逢瀬を軸に、中年男の倦怠と孤独を描く短篇です。感情を大きく説明せず、会話や身振りの細部から男女の距離を読ませるところに特徴があります。吉行淳之介の乾いた都市的感覚が、第三の新人の作風を代表するかたちで現れています。 第31回 芥川賞
- 443 1954 プールサイド小景 ぷーるさいどしょうけい 『プールサイド小景』は、社員旅行の一日を舞台に、家庭を持つ男の欲望と罪悪感を細密に描く短篇です。劇的事件よりも視線、沈黙、気まずさの変化を追うことで、都市生活者の不安を浮かび上がらせます。庄野潤三の静かな日常描写のなかに、戦後の家庭と個人の距離感が滲む作品です。 第32回 芥川賞
- 444 1954 アメリカン・スクール あめりかん・すくーる 『アメリカン・スクール』は、占領下日本の英語教師たちがアメリカ人学校を見学する一日を描く短篇です。英語を教えながら英語に怯える教師たちの滑稽さを通して、敗戦後の対米感情と自意識のゆがみが浮かびます。小島信夫らしいユーモアと違和感のある会話が、戦後日本の心理的占領状態を照らします。 第32回 芥川賞
- 445 1953 最後の共和国 さいごのきょうわこく 石川達三が1950年代に刊行した政治性の強い題名を持つ作品。共同体や国家の理念がどのように崩れ、個人の生活へ影を落とすのかを考える社会小説として読める。公開梗概が少ないため、政治的寓意と戦後社会批判を中心に暫定整理する。
- 446 1951 風にそよぐ葦 かぜにそよぐあし 戦後の混乱期を生き抜く民衆の姿を、新聞社を舞台に描いた長編社会小説。報道、政治、生活の不安が交差する場として新聞社を置き、戦後民主主義の理想と現実のずれを描く。複数の人物を通じて社会全体を見渡す、大河的な読み味がある。
- 447 1951 壁 かべ 『壁』は、ある朝突然に名前を失った男S・カルマ氏の不条理な遍歴を描く安部公房の前衛的中篇です。現実の制度や所有の感覚がずれていく過程を、寓話的で実験的な文体によって追い詰めます。戦後日本文学に不条理文学・シュールレアリスムの感覚を持ち込んだ、安部公房の出発点となる作品です。 第25回 芥川賞
- 448 1951 悪い仲間・陰気な愉しみ わるいなかま・いんきなたのしみ 『悪い仲間・陰気な愉しみ』は、病と貧しさ、青年期の停滞を背景にした安岡章太郎の初期短篇群です。結核療養や日常の挫折をめぐる内省を、過剰な劇化を避けた私小説的な語りで描きます。第三の新人と呼ばれる世代の、戦後の日常感覚と弱さへのまなざしがよく出た作品です。 第29回 芥川賞
- 449 1950 神坂四郎の犯罪 かみさかしろうのはんざい 犯罪を題名に据えた石川達三の長編。個人の罪を社会の中でどう見るかという、石川の社会派的な問題意識に連なる作品として読める。公開情報では細部の筋が限定的なため、犯罪、責任、共同体の視線を主題に持つ作品として暫定分類する。
- 450 1949 山の音 やまのおと 『山の音』は、鎌倉に暮らす老齢の会社重役・信吾を中心に、家族の崩れと老いの気配を見つめる連作長篇です。嫁の菊子への静かな愛着、息子夫婦の不和、死の予感が、抑制された三人称の語りで重なっていきます。戦後の家庭小説でありながら、川端康成らしい感覚的な細部が、老いと記憶の陰影を際立たせます。
- 451 1947 望みなきに非ず のぞみなきにあらず 石川達三が戦後間もない時期に刊行した作品で、新潮社版などの書誌が確認できる。題名には敗戦後の絶望と、それでも残る可能性への視線が併存している。公開情報が少ないため、戦後社会を背景にした再出発と倫理の小説として暫定的に整理する。
- 452 1940 転落の詩集 てんらくのしいしゅ 石川達三が戦前から戦後にかけて読まれた作品で、八雲書店版や作品集収録が確認できる。題名の「転落」が示すように、社会的な地位や精神の崩れをめぐる小説として位置づけられる。内容細部は追加確認が必要だが、社会派の視線で人間の弱さを追う作品として分類する。
- 453 1936 深海魚 しんかいぎょ 石川達三が1930年代に発表した初期作品で、改造社版などの書誌が確認できる。公開情報では細部の梗概や同時代評が限られるため、現段階では初期社会派作家としての石川が、人間の暗部や社会の圧力へ視線を向けていた時期の一作として整理する。題名の「深海魚」が示す閉塞感を手がかりに、孤立した人物像を読む候補作と…