Mood

静謐

読み味「静謐」に分類された 366 作品。

  1. 001 2026 舞う砂も道の実り まうすなもみちのみのり 井戸川射子 単行本・文藝春秋 『舞う砂も道の実り』は、孤児として育ったワオスリ、大家族の移住先を探すイフン、離れ離れになった子を探すダエの三人が旅に出るロードノベル。文藝春秋公式は、時代も場所も定かでない土地を進む旅人たちが、町々の出会いと別れを通じて人生の意味を手にしていく作品として紹介している。喪失を抱えた人々の移動を、詩的… 移民と越境家族死と喪失
  2. 002 2026 私的応答 してきおうとう 井戸川射子 単行本・講談社 『私的応答』は、1995年の震災を経験した銅子と、母、娘・厚美の三代に流れる時間をたどる長篇。倒れたミシン、避難所の体育館、梅田で浴びるシャワーなどの記憶は、年月を経ても日常の奥に残り続ける。忘れることと許すことの違いを、母娘の時間と震災の記憶を通して問い直す作品である。 災害記憶母と子
  3. 003 2026 満ちる街 みちるまち 山本莉会 単行本・朝日新聞出版 限界集落に住む電力会社職員の徳真が、農園の土地売却をめぐる出来事に関わっていく第12回林芙美子文学賞大賞受賞作。受賞時タイトルは「満ちる街」で、掲載時には「むこうの景色は知らない」へ改題された。地方のインフラ、土地、暮らしの持続をめぐる問題を、現代的な地域小説として読ませる。 地方労働同調圧力 第12回 林芙美子賞
  4. 004 2025 記念日 きねんび 青山七恵 単行本・集英社 『記念日』は、23歳のミナイ、42歳のソメヤ、76歳の乙部さんという年齢も境遇も違う女性三人が、奇妙なルームシェアをきっかけに交わっていく長篇です。「明日から、おばあさんになってみませんか?」という提案が、若さや老い、身体のままならなさ、他者と暮らすことの違和感を動かしていく。代わり映えしない日常を… 老い身体家族
  5. 005 2025 温泉小説 おんせんしょうせつ 朝比奈あすか 単行本・光文社 『温泉小説』は、おひとり様限定ツアー、後期高齢者のドライブ旅、母の呪縛から逃れられない娘、亡き妻との記憶をたどる男など、六つの旅路を収めた連作的な作品集です。年齢も性別も境遇も違う人物たちが、人生の苦みや迷いを抱えたまま温泉地へ向かい、湯に身体をほどかれながら自分を見つめ直す。温泉ソムリエマスターで… 老い家族身体
  6. 006 2025 細長い場所 ほそながいばしょ 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『細長い場所』は、名前・記憶・肉体を失い、気配や残存となった「わたしたち」が旅をする幻想的な小説です。生と死のあわいを舞台に、個であることをやめた心が最後に誰とどんな場所へ向かうのかを問う。筋立てよりも、声、記憶、身体の制約がほどけていく感覚をたどるところに読みどころがあります。 死と喪失記憶アイデンティティ
  7. 007 2025 帰れない探偵 かえれないたんてい 柴崎友香 単行本・講談社 『帰れない探偵』は、探偵事務所兼自宅へ突然帰れなくなった「わたし」が、世界のさまざまな街を巡る連作探偵小説です。急な坂の街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街などを歩く探偵の移動を通じて、帰る場所、知らない街と知っている街のずれ、時間と記憶の手ざわりが浮かび上がる。事件解決よりも、場所の感覚と… 記憶移民と越境言葉と言語
  8. 008 2025 曇りなく常に良く くもりなくつねによく 井戸川射子 単行本・中央公論新社 『曇りなく常に良く』は、同じ高校に通う五人の少女たちの一年間を追う青春群像劇です。よく似た声が混ざり合うという公式紹介の言葉が示すように、個々の輪郭と集団の空気が重なり、友情や同調、来年も一緒にいるだろうという予感が揺れていく。大事件よりも、学校生活の時間の流れと会話の重なりから、少女たちの関係が変… 青春同調圧力アイデンティティ
  9. 009 2025 百日と無限の夜 ひゃくにちとむげんのよる 谷崎由依 単行本・集英社 『百日と無限の夜』は、第一子の妊娠中に切迫早産で入院した「わたし」が、横たわる時間のなかで出産と生命をめぐる幻視の旅へ入っていく長篇です。能『隅田川』の女物狂いを案内人に、中世の京、駆け込み寺、若狭のお水送り、海辺の産小屋へと時空を越えて進む構成が、病室の身体感覚と神話的な想像力を結びつける。妊娠・… 母と子身体
  10. 010 2025 たのしい保育園 たのしいほいくえん 滝口悠生 単行本・河出書房新社 『たのしい保育園』は、ももちゃんと父が川べりを歩き、保育園へ向かい、連絡帳を書こうとする日々を描く連作小説です。大きな事件ではなく、育児の時間の長さ、忘れてしまう一瞬、子どもを見守る大人たちの視線を丁寧に積み重ねる。父の目線を軸にしながら、子どもの遠い時間感覚へも寄り添うところに読みどころがある。 家族父と子記憶
  11. 011 2025 遠くまで歩く とおくまであるく 柴崎友香 単行本・中央公論新社 『遠くまで歩く』は、コロナウイルス感染拡大のさなか、小説家のヤマネがある講座を担当するところから始まる長篇小説です。PC越しに語られる受講生たちの記憶、忘れられない風景や言葉が重なり、移動が制限された時期に人がどのように遠くへ届くのかを描く。柴崎友香らしい、場所・時間・記憶の細部を静かにつなぐ語りが… 記憶言葉と言語芸術と表現
  12. 012 2025 月を見に行こうよ つきをみにいこうよ 李琴峰 単行本・集英社 『月を見に行こうよ』は、アイオワ大学の国際創作プログラム IWP に招かれた経験をもとに、世界各地から集まった詩人や小説家たちの交流を描く物語です。背景も言語も異なる創作者たちが、約二か月半の滞在のなかで互いの作品観や創作への覚悟に触れていく。越境、言語、創作をめぐる李琴峰の関心が、国際的な文学共同… 芸術と表現言葉と言語移民と越境
  13. 013 2025 時の家 ときのいえ 鳥山まこと 初出・「群像」2025年8月号 『時の家』は、建築士が設計した一軒の家に暮らした三代の住人たちの記憶を、訪問者である青年のスケッチを通して呼び起こす作品。丸柱、天井、漆喰の壁といった細部に、住む人の感情と時間が蓄積している。家を単なる舞台ではなく記憶の容器として描き、家族と時間の継承を静かにたどる。 記憶家族芸術と表現 第47回 野間新人賞
  14. 014 2024 いつか、あの博物館で。 いつかあのはくぶつかんで 朝比奈あすか 単行本・東京書籍 『いつか、あの博物館で。』は、ロボット博物館への校外学習で同じ班になった中学一年生四人を描く群像劇。美しいアンドロイドの気象予報士との出会いをきっかけに、彼らはロボットと人間の違い、自分だけの心、他者との距離を考えていく。中学三年間の視点を重ね、家庭環境も性格も異なる子どもたちが自分を作り直していく… 青春テクノロジーアイデンティティ
  15. 015 2024 僕たちの保存 ぼくたちのほぞん 長嶋有 単行本・文藝春秋 『僕たちの保存』は、語り手のゲンさん、年上の武上さん、引きこもりの甥シンスケ、人気漫画家の亀谷さんらが、新幹線、自転車、バス、テスラを乗り継いで旅に出るロードノベル。震災被害者の形見であるMSXパソコンが、過去と現在、記憶と情報の保存をつないでいく。サブカルチャーとパソコン以後の時間を背景に、残るも… 記憶テクノロジー災害
  16. 016 2024 ある日の、あのタクシー あるひのあのたくしー 広小路尚祈 単行本・桜山社 『ある日の、あのタクシー』は、運転手と乗客の一期一会の出会いを通して町の姿を描く、12編からなるタクシー小説集。車内という短い時間と閉じた空間に、乗る人の生活、職業、孤独、偶然の会話が交差する。タクシー運転手経験を持つ著者の経歴も重なり、労働の現場から都市を見つめる読み味がある。 労働孤独と疎外記憶
  17. 017 2024 無形 むけい 井戸川射子 単行本・講談社 立ち退き勧告が進む海辺の団地を舞台に、年老い病を患う祖父と面倒を見る孫娘、親が失踪した姉弟、夫に先立たれた老女、友情以上の感情を育む少女たちなど、複数の生活がゆるやかに重なる群像長篇。確かにそこにあった暮らしの喜びや悲しみが、形として残らないまま季節とともに流れていく。団地という共同体の消滅を背景に… 家族記憶老い
  18. 018 2024 サンショウウオの四十九日 サンショウウオのしじゅうくにち 朝比奈秋 初出・新潮 2024年5月号 外から見ればひとりの人間にしか見えないが、その身体には杏と瞬というふたつの意識が宿っている——半身ずつを分け合って生きる29歳の結合双生児の姉妹。父もまた、胎児のまま兄の身体に取り込まれた「胎児内胎児」として摘出されて生をうけた、稀有な来歴を持つ。その父の片割れともいえる伯父の訃報が届き、四十九日ま… 身体アイデンティティ家族 第171回 芥川賞
  19. 019 2024 昏色の都 くれいろのみやこ 諏訪哲史 単行本・国書刊行会 表題作「昏色の都」に、「極光」「貸本屋うずら堂」を併録した幻想小説集。国書刊行会公式は、表題作を初出時の三倍の規模へ増補した中編として紹介し、夢と現実のあわいをさまよう旅の物語や、古い貸本漫画と幼年期の記憶をめぐる作品を収めると説明している。作品ごとに文体と世界観を変えながら、記憶、読書、幻想都市の… 記憶芸術と表現孤独と疎外
  20. 020 2024 森は盗む もりはぬすむ 大原鉄平 単行本・朝日新聞出版 第10回林芙美子文学賞大賞受賞作で、『八月のセノーテ』に収録された小原鉄平の作品。題名の通り、森という場所が単なる背景ではなく、人間の暮らしや記憶を侵食し、奪い返していくような感覚を帯びる。公開資料では受賞・収録情報が中心のため、紹介文は確認できた書誌と題名・収録文脈に基づく控えめな案内にとどめる。 地方記憶孤独と疎外 第10回 林芙美子賞
  21. 021 2024 最近 さいきん 小山田浩子 単行本・新潮社 コロナ禍の生活感覚を背景に、ある夫婦と周囲の人々の日常を精密にたどる連作長篇。救急外来の待合室、噂、家族や友人とのやりとりが、平凡な生活の外側にある不安を呼び込む。感覚と思考を細かく書き込む文体によって、パンデミック期の面倒さと責任の所在の曖昧さが立ち上がる。 夫婦身体長い息の文体
  22. 022 2024 光のそこで白くねむる ひかりの そこで しろく ねむる 待川匙 初出・「文藝」2024年冬季号 『光のそこで白くねむる』は、十年ぶりに故郷の田舎町へ戻った「わたし」が、墓地へ続く道で死んだはずの幼馴染の声を聞くところから始まるデビュー作。行方不明の母、神のような父、汚言機械のような祖母が現れ、不確かな記憶の流入によって平凡な田舎が異界へ変わっていく。語り手の性別や過去の事実が曖昧なまま進む文体… 記憶家族死と喪失 第61回 文藝賞
  23. 023 2023 あわいに開かれて あわいにひらかれて 小野正嗣 単行本・毎日新聞出版 『あわいに開かれて』は、小野正嗣が「記憶」をめぐって編んだ約40編の掌編小説集である。短い断章の連なりは、日常のなつかしさと不可思議さのあいだを行き来し、はっきりした筋よりも、ふと開く時間や感覚の隙間を読ませる。『踏み跡にたたずんで』に続く作品集として、小野作品の記憶への関心を、さらに小さな光景の集… 記憶言葉と言語孤独と疎外
  24. 024 2023 FICTION フィクション 山下澄人 単行本・新潮社 演劇する集まりを「FICTION」と名づけ、十六年続けてきた「わたし」が、仲間の死や病、自身の大病を経て回想を始める連作短篇集。収録作は「FICTION 01 象使い」から「FICTION 07 助けになる習慣」まで、演劇と小説、記憶と作り話の境界を行き来する。新潮社は芥川賞受賞作『しんせかい』に連… 芸術と表現死と喪失記憶
  25. 025 2023 幻日/木山の話 げんじつ/きやまのはなし 沼田真佑 単行本・講談社 『幻日/木山の話』は、コロナ禍を含む時間のなかで書き継がれた「木山」をめぐる連作小説集で、八つの短篇を収める。人、動植物、水や土や空気、社会が互いに影響し合う世界を、出来事の大きな起伏よりも時間の流れやまなざしの変化に沿って描く。自然や名もなき人への注意を重ねる語りは、芥川賞受賞作『影裏』以後の沼田… 孤独と疎外記憶身体
  26. 026 2023 神と黒蟹県 かみとくろがにけん 絲山秋子 単行本・文藝春秋 黒蟹山や黒蟹城、紫苑市と灯籠寺市を擁する架空の県を舞台に、土地に生きる者、赴任してきた者、帰郷した者、地元を訪れた者たちの営みを描く連作小説集。現実のどこかにありそうな地方都市の手触りに、半知半能の神が降臨するようなわずかな神秘が混じる。群像劇として土地の記憶や住民の距離感を浮かび上がらせ、絲山秋子… 信仰記憶孤独と疎外
  27. 027 2023 夜のだれかの岸辺 よるのだれかのきしべ 木村紅美 単行本・講談社 十九歳の春、茜は八十九歳のソヨミから毎晩の添い寝と朝食を頼まれ、家計を助けるためにその仕事を受ける。血縁でも介護契約でもない奇妙な近さのなかで、若さと老い、孤独、生活の手触りが交わっていく。講談社公式の本文抜粋が示すように、語りは茜の現実感に根ざし、働くことと誰かのそばにいることの境目を静かに問う作… 老いケアと介護労働
  28. 028 2023 街とその不確かな壁 まちとそのふたしかなかべ 村上春樹 単行本・新潮社 十七歳の「ぼく」は十六歳のガールフレンドから、彼女の本当の自分は高い壁に囲まれた街にいると告げられ、その後彼女は姿を消す。年月を経た語り手は、壁、望楼、図書館、古い夢、影を持たない人々のいる街と現実世界のあわいを行き来することになる。村上春樹が長く抱えてきた「壁に囲まれた街」のモチーフを、喪失、記憶… 記憶死と喪失アイデンティティ
  29. 029 2023 ラーメンカレー ラーメンカレー 滝口悠生 単行本・文藝春秋 『ラーメンカレー』は、ロンドンの結婚式やペルージャへの旅をきっかけに、高校時代の同級生たちの言葉と記憶があふれ出す連作短編集である。表題作を含む「窓目くんの手記」連作と複数の短篇を収め、食べ物の名前の軽さとは裏腹に、青春の偶然や移動、他者との出会いが時間をまたいで響く構成になっている。滝口悠生らしい… 記憶青春
  30. 030 2023 最愛の さいあいの 上田岳弘 単行本・集英社 『最愛の』は、学生時代に手紙を交わした望未を忘れられない久島が、彼女の「忘れて」という願いに向き合い、自分のためだけの文章を書き始める恋愛長編である。情報や欲望を処理する現代的な主体と、手紙という遅い言葉の形式が対置され、恋愛を記憶・忘却・書くことの問題として掘り下げる。上田岳弘が繰り返し描いてきた… 恋愛記憶言葉と言語
  31. 031 2023 トゥデイズ とぅでいず 長嶋有 単行本・講談社 子育てのため郊外の大規模マンション「Rグランハイツ」に越してきた美春と恵示、五歳の息子コースケの一家を中心に、管理組合、リモートワーク、近隣住民との関わりが描かれる。大事件ではなく、住むこと、育てること、今日を続けることの小さな揺れを積み重ねる。日常の可笑しさと共同住宅の距離感を、長嶋有らしい軽やか… 家族父と子労働
  32. 032 2023 共に明るい ともにあかるい 井戸川射子 初出・群像 2023年1月号 『共に明るい』は、早朝のバス、野鳥園、恋人の家、島への修学旅行、工場の作業部屋など、異なる場所で人が抱える痛みや不安に触れる五篇の小説集である。語られない心の内がふと漏れ出す瞬間をすくい、「他人」がつながりたい「他者」へ変わる手つきを静かに描く。『この世の喜びよ』で芥川賞を受けた後の第一作として、井… 孤独と疎外家族労働
  33. 033 2023 図書館のお夜食 としょかんのおやしょく 原田ひ香 単行本・ポプラ社 『図書館のお夜食』は、東北の書店勤務がうまくいかず仕事を辞めようとしていた樋口乙葉が、東京郊外の「夜の図書館」で働き始める長編である。そこは夕方七時から深夜まで開く特殊な図書館で、亡くなった作家の蔵書を集めた本の博物館のような場所でもある。予想外の出来事と夜食を通して、本、食、仕事、ほどよい距離で語… 労働芸術と表現
  34. 034 2023 続きと始まり つづきとはじまり 柴崎友香 単行本・集英社 東日本大震災、熊本地震、未知の病原体の出現を背景に、別々の場所で暮らす男女三人の日常が描かれる。大きな出来事の「始まり」と「続き」は個人の生活時間のなかで重なり、誰にも同じように流れたはずの月日が、それぞれ異なる記憶として蓄積していく。複数の人物の日々を並置し、災害とパンデミック以後の時間感覚を静か… 災害記憶家族 第60回 谷崎賞
  35. 035 2022 カルチャーセンター かるちゃーせんたー 松波太郎 単行本・書肆侃侃房 カルチャーセンターで共に過ごしたニシハラくんの未発表小説『万華鏡』を収録し、その小説に寄せられた作家・編集者たちのコメントまでも作品の一部として組み込む小説。松波太郎がニシハラくんへ語りかける形で、書きたいという欲望、書かれたものへの責任、そして「これは小説なのか」という問いを空白ごと立ち上げていく… 芸術と表現言葉と言語青春
  36. 036 2022 古本食堂 ふるほんしょくどう 原田ひ香 単行本・角川春樹事務所 『古本食堂』は、神保町の小さな古書店を舞台に、本と食べ物を介して人がつながり直していく長篇。国文科の学生・美希喜は、急逝した大叔父の古書店を継ぐため上京した珊瑚を手伝ううちに、古本を探す客、町の食堂、店に残された記憶に触れていく。古書の具体的な手触りとカレー、中華、寿司などの食の描写が重なり、進路の… 記憶家族
  37. 037 2022 この世の喜びよ このよのよろこびよ 井戸川射子 初出・群像 2022年7月号 ショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」は、かつて幼い娘たちとこのセンターで長い時間を過ごした。いまはフードコートに入り浸る中学生の少女と言葉を交わすようになり、彼女との関わりのなかで、子育ての日々の記憶や、言葉にならないまま積もっていた感情が少しずつよみがえってくる。全編が「あなた」への呼… 母と子家族記憶 第168回 芥川賞
  38. 038 2022 水平線 すいへいせん 滝口悠生 単行本・新潮社 硫黄島を墓参したことのある妹に見知らぬ男から電話がかかり、兄は不思議なメールに導かれて船に乗る。祖父母世代の疎開、激戦地に残された人々、現在の兄妹の時間が交差し、死者の言葉が海を越えて現在へ届く。視点や人称を変えながら、戦争の記憶と島の隆起する時間を重ねる長篇。 戦争記憶死と喪失
  39. 039 2022 月の三相 つきのさんそう 石沢麻依 単行本・講談社 旧東ドイツの小さな街で「フローラが失踪した」という噂が広がり、歴史に引き裂かれた少年と少女の物語が呼び起こされる。その街では誰もが自分の「肖像面」を持ち、面に惹かれて移り住んだ望、グエット、ディアナの三人は、失われた「顔」を探して見えない境界を越えていく。いくつもの時間が重層する街を舞台に、歴史、記… 記憶アイデンティティ死と喪失
  40. 040 2022 私の盲端 わたしのもうたん 朝比奈秋 単行本・朝日新聞出版 表題作は、大学生活や飲食店のアルバイトを楽しんでいた涼子が、人工肛門とともに生きることになり、自分の身体の変化と周囲の視線に向き合う物語である。医師でもある作者が、病や障害を医学的説明だけに閉じず、身体の境界、恥、欲望、生活の手触りとして描く。併録の「塩の道」は第7回林芙美子文学賞受賞作で、朝比奈秋… 身体障害
  41. 041 2021 母親からの小包はなぜこんなにダサいのか ははおやからのこづつみはなぜこんなにださいのか 原田ひ香 単行本・中央公論新社 『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』は、実家から届く小包をめぐって、昭和・平成・令和をまたぐ家族の思いを描く連作集。業者から買った野菜を実家からの荷物と偽る女性、父が受け取っていた小包の謎、母からの最後の荷物など、物の中にしまわれた気遣い、ずれ、寂しさが開封されていく。タイトルの軽さに対して… 家族母と子記憶
  42. 042 2021 北斗星に乗って ほくとせいにのって 広小路尚祈 単行本・桜山社 『北斗星に乗って』は、上野発の寝台特急「北斗星」を軸にした8編の短篇小説集。列車という移動空間が、乗客の記憶や人生の分岐、もう一つの世界へ向かうような感覚をつないでいく。旅情だけでなく、日常から少し離れた場所で自分の過去や孤独に触れる、静かな幻想味を持つ作品集である。 記憶孤独と疎外死と喪失
  43. 043 2021 星のように離れて雨のように散った ほしのようにはなれてあめのようにちった 島本理生 単行本・文藝春秋 行方不明の父、未完の『銀河鉄道の夜』、書きかけの小説という三つの「未完」をめぐり、人生の岐路に立つ女子大学院生の「私」が自分自身の物語を探していく長編。宮沢賢治作品の影や、消えた父の残した手紙を手がかりに、家族の記憶と創作の衝動が重なり合う。父の不在を単なる謎解きにせず、失われたものを言葉で追いかけ… 父と子記憶芸術と表現
  44. 044 2021 貝に続く場所にて かいにつづくばしょにて 石沢麻依 初出・群像 2021年6月号 コロナ禍に覆われたドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす日本人留学生の「私」のもとに、東日本大震災の津波で行方不明になったはずの友人・野宮が現れる。九年前に仙台で被災した記憶と、疫病下の異国の街の現在が静かに重なり合い、惑星の名を冠した小径、聖人伝や絵画の細部、庭に埋められた様々な品をたどりながら… 死と喪失記憶災害 第165回 芥川賞
  45. 045 2021 ここはとても速い川 ここはとてもはやいかわ 井戸川射子 単行本・講談社 児童養護施設で暮らす小学五年生の集と、園での年下の親友・ひじりの日々を描く表題作を中心にした小説集。近くの淀川にいる亀を見に行く楽しみなど、子どもたちの時間が、温もりを含んだ繊細な言葉でたどられる。詩人として出発した著者の初めての小説集で、表題作と小説第一作「膨張」を収録する。 青春家族ケアと介護 第43回 野間新人賞
  46. 046 2021 ミトンとふびん ミトンとふびん 吉本ばなな 単行本・新潮社 大切な人の死や癒えない喪失を抱えながら生きる人々を、ヘルシンキ、ローマ、台北など複数の土地で描く全6編の短篇集。旅の風景は観光的な背景ではなく、残された人が小さな光や手触りに支えられて日々を続けるための場所として置かれている。吉本ばななが長く書き続けてきた喪失、時間、愛の主題を、静かでやわらかな語り… 死と喪失恋愛記憶 第58回 谷崎賞
  47. 047 2021 長い一日 ながいいちにち 滝口悠生 単行本・講談社 小説家の夫と妻が、住み慣れた家からの引っ越しを考え始めるところから、長くつきあってきた友人たち、日々の暮らし、失ってから気づく愛着や記憶が交差していく長編。出来事を大きな劇に仕立てるよりも、生活の中でふと立ち上がる静かな感情と、時間の伸び縮みをすくい取る。日記と小説のあわいを思わせる形式で、夫婦と住… 夫婦記憶家族
  48. 048 2021 ルーティーンズ るーてぃーんず 長嶋有 単行本・講談社 2020年春の緊急事態宣言下、保育園が休園した二歳の娘を、作家の夫と漫画家の妻が交替で見ながら過ごす日々を描く家族小説。社会が止まったように見える時間の中でも、子どもの成長や生活の反復は続いていく。短篇「願いのコリブリ、ロレックス」と表題作を収め、非常時の日常を長嶋有らしい軽やかな観察とユーモアで描… 家族ケアと介護労働
  49. 049 2021 旅のない たびのない 上田岳弘 単行本・講談社 コロナ禍中の日々を映す四篇からなる、上田岳弘初の短篇集。恋人とのホテル、息子との散歩、甥を預かる夏、出張先の車中といった限られた場面を通して、移動が制限された時代の記憶、会話、自己認識を描く。大きな事件よりも、日常の小さな違和感や言葉のずれから世界の変化を浮かび上がらせる作品集。 記憶孤独と疎外家族 第46回 川端賞
  50. 050 2021 塩の道 しおのみち 朝比奈秋 単行本・朝日新聞出版 第7回林芙美子文学賞大賞受賞作で、のちに朝比奈秋のデビュー単行本『私の盲端』に収録された作品。医療や身体をめぐる著者の関心に連なる短篇として、移動や土地の感覚を手がかりに、人が抱える見えにくい欠落を描く。受賞作としての書誌は確認できるが、作品本文に踏み込んだ公開資料はまだ限られる。 身体地方孤独と疎外 第7回 林芙美子賞
  51. 051 2020 2020年の恋人たち にせんにじゅうねんのこいびとたち 島本理生 単行本・中央公論新社 母の急死によりワインバーを継ぐかどうか選択を迫られた前原葵を中心に、同棲相手、常連客、店を手伝う人々、新たな出会いが交錯する長篇。恋愛の高揚だけでなく、会話の途切れ、依存、別れ、仕事として店を引き受けることを描き、葵が何を選び何を手放すかを追う。直木賞受賞後の長篇第一作として、喪失後の生活再建と関係… 恋愛死と喪失労働
  52. 052 2020 踏み跡にたたずんで ふみあとにたたずんで 小野正嗣 単行本・毎日新聞出版 『踏み跡にたたずんで』は、毎日新聞大分県版連載をもとに、土地と人々の記憶をめぐる36篇を収めた掌編小説集。掩体壕、赤い波、磨崖仏、港、道の駅、診療所など、場所や物の名を起点に、戦争の痕跡、伝説、老い、自然との遭遇が短い物語として立ち上がる。現実と幻の境目をあいまいにする語りで、土地に残る見えない記憶… 記憶戦争死と喪失
  53. 053 2020 星月夜 ほしつきよる 李琴峰 単行本・集英社 日本の大学で日本語を教える台湾出身の柳凝月と、新疆ウイグル自治区出身で大学院進学を目指す玉麗吐孜の恋を描く長篇。二人は日本語という共通語で近づくが、家族、国家、在留資格、セクシュアリティをめぐる負荷は同じ形では共有できない。親密さの甘さよりも、相手を分かっていると思うことの危うさを静かな語りで照らす… 恋愛移民と越境ジェンダー
  54. 054 2020 百年と一日 ひゃくねんといちにち 柴崎友香 単行本・筑摩書房 人や店、駅、家、空港、家族の記憶が、数ページの掌編の中で十年、二十年、百年の時間へ伸びていく短篇集。個々の人物の大事件ではなく、場所に積み重なる時間、誰かが去り誰かが来る反復、忘れられていく出来事の痕跡を描く。長いタイトルと淡々とした語りが、日常の一瞬を歴史の厚みへ接続する。 記憶家族死と喪失
  55. 055 2020 一人称単数 いちにんしょうたんすう 村上春樹 単行本・文藝春秋 村上春樹の六年ぶりの短篇小説集で、「石のまくらに」から書き下ろしの表題作まで八篇を収める。音楽、野球、過去の記憶、奇妙な遭遇をめぐり、一人称の語りが自分自身の輪郭を少しずつずらしていく。私、僕、あなたという呼び名の揺れを通して、回想と虚構が交錯する村上春樹らしい短篇世界を読むことができる。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  56. 056 2020 今も未来も変わらない いまもみらいもかわらない 長嶋有 単行本・中央公論新社 『今も未来も変わらない』は、40代のシングルマザーで小説家の星子を主人公にした長編。大学受験を控える娘を見守り、親友とカラオケやスーパー銭湯を楽しみ、元夫や20代の男性との関係にも揺れながら、星子の日常は静かににぎやかに続いていく。大きな事件よりも、娯楽、恋、親子、仕事の小さな重なりを通じて、大人が… 家族恋愛労働
  57. 057 2020 口福のレシピ こうふくのれしぴ 原田ひ香 単行本・小学館 『口福のレシピ』は、フリーのSE兼料理研究家として働く留希子と、昭和二年の品川料理教習所で働くしずえの時間を行き来する家族小説。留希子は老舗料理学校を営む家の後継者であることに抵抗を抱きながらも、SNS発信をきっかけに料理研究家として認知されていく。簡単でおいしい献立企画をめぐる問題を通じて、家庭の… 家族労働
  58. 058 2020 MISSING 失われているもの ミッシング うしなわれているもの 村上龍 単行本・新潮社 『MISSING 失われているもの』は、制御しがたい抑うつや不眠を抱える小説家の「わたし」が、謎めいた女優や母の声に導かれて、混乱と不安に満ちた迷宮的な世界を彷徨う長篇。章題には成瀬巳喜男映画の題名が並び、現在と過去、現実と幻想、記憶と自己分析が重なり合う。村上龍が自らの創作の源泉や老い、母の記憶に… 記憶母と子老い
  59. 059 2020 ポラリスが降り注ぐ夜 ぽらりすがふりそそぐよる 李琴峰 初出・早稲田文学 第十次 第22号 新宿二丁目のバー「ポラリス」に集う、多様な性的アイデンティティを持つ女性たちを描く七つの恋の物語。筑摩書房公式とOpenBDは、国や歴史を越えて思い合う気持ちがつながっていく連作として紹介している。都市の夜の親密さを起点に、セクシュアリティ、移動、言語や歴史の記憶を交差させるところが読みどころ。 ジェンダー恋愛移民と越境
  60. 060 2020 うつくしい羽 うつくしいはね 上村渉 初出・すばる 2019年6月号 表題作『うつくしい羽』と『あさぎり』などを収めた、上村渉の初小説集。OpenBDの版元提供情報は、食の記憶が過去を呼び覚ます作品として、離婚で心の支えを失った男と、フランス修業時代に大切な人を失った料理人の軌跡を紹介している。併録作『あさぎり』では、十五歳の少女の一時保護を通して、家族の絆と外国人労… 記憶死と喪失
  61. 061 2019 私の家 わたしのいえ 青山七恵 単行本・集英社 祖母の法要で一堂に会した親戚たちを起点に、三世代にわたる一族の記憶と秘密をたどる連作短編集。同棲相手に追い出されて戻る梓、過去にこだわる母、孤独を愛する大叔母らの章が重なり、家族であっても他人のように分かり合えない距離を描く。家という場所を、帰る場所であると同時に逃れがたい記憶の容器として読ませる。 家族記憶孤独と疎外
  62. 062 2019 五つ数えれば三日月が いつつかぞえればみかづきが 李琴峰 初出・文學界 2019年6月号 表題作は、日本で働く台湾人の「私」と、台湾人と結婚して台湾へ移った友人・実桜が、平成最後の夏に東京で五年ぶりに再会する物語。話す言葉、住む国、選び取った人生の差異が、再会の会話のなかで静かに立ち上がる。収録作「セイナイト」とあわせて、移動、言語、親密さ、記憶のずれを、越境する人のアイデンティティとし… 移民と越境言葉と言語恋愛
  63. 063 2019 駒音高く こまおとたかく 佐川光晴 単行本・実業之日本社 『駒音高く』は、将棋の勝負の世界に関わる七人の青春と人生を描く短篇集。プロを志す中学生や引退間際の棋士だけでなく、将棋会館の清掃員など周辺にいる人々にも視線を向け、勝敗の外側にある家族、仕事、誇りを浮かび上がらせる。実業之日本社公式が「青春・家族小説の名手」の温かなまなざしと紹介する通り、競技小説で… 青春家族労働
  64. 064 2019 待ち遠しい まちどおしい 柴崎友香 単行本・毎日新聞出版 北川春子、夫を亡くした青木ゆかり、新婚の遠藤沙希という世代も立場も異なる三人の女性が、ご近所付き合いを通じて少しずつ関わる長編。住まいの距離の近さと、価値観や人生段階のずれが生む噛み合わなさを、柴崎友香らしい生活の手触りのなかで描く。年齢、結婚、独居、見えにくい困難をめぐり、人はどこまで互いを判断せ… 家族老い孤独と疎外
  65. 065 2019 まずはこれ食べて まずはこれたべて 原田ひ香 単行本・双葉社 池内胡雪は、散らかった社内と不規則な生活に疲れながらベンチャー企業で働く三十歳。社長が会社に家政婦を雇ったことで、無愛想な筧みのりが作る料理が、殺伐とした職場に小さな休息をもたらしていく。食べることを通じて、労働の疲れ、ケアの手触り、人と人が同じ場にいることの温度を描く連作短編集。料理の題名を冠した… 労働ケアと介護
  66. 066 2019 リボンの男 りぼんのおとこ 山崎ナオコーラ 初出・文藝 掲載 主人公の常雄は、自分を「ヒモ」ではなく「リボン」と言い換える専業主夫。三歳のタロウと野川沿いを歩く日常のなかで、家事や育児に値段をつけにくい社会、父であること、働くことの意味が静かに問い直される。山崎ナオコーラらしい平明な言葉で、家族の役割分担やジェンダー規範を大げさな対立ではなく生活の手触りから描… 家族労働ジェンダー
  67. 067 2019 サバティカル さばてぃかる 中村航 初出・小説トリッパー 連載 33歳のエンジニア梶くんは、転職先への入社までに空いた五カ月を「サバティカル」と名づけ、自分にさまざまな宿題を課す。プロジェクト管理ツールで課題を片付けるうち、将棋の師匠が生き別れた娘を探すという思いがけない宿題に向き合うことになる。仕事の切れ目に生まれた時間を、単なる休暇ではなく自分の結びつきや恋… 労働恋愛青春
  68. 068 2019 趣味で腹いっぱい しゅみではらいっぱい 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 『趣味で腹いっぱい』は、結婚後に絵手紙、家庭菜園、小説などの趣味に興じる鞠子と、仕事一筋で生きてきた銀行員・小太郎をめぐる長篇。上達や成果を急がない趣味の時間が、仕事中心の価値観や夫婦の距離を少しずつ揺らしていく。生活のなかの小さな楽しみを通して、役に立つことだけでは測れない生き方を描く。 夫婦労働芸術と表現
  69. 069 2019 遠の眠りの とおのねむりの 谷崎由依 単行本・集英社 大正末期、貧しい農家に生まれた絵子は本を読むことを支えにしていたが、女学校には進めず、家を追い出されて女工として働く。市内に初めて開業した百貨店「えびす屋」で、付属劇場の少女歌劇団に関わる「お話係」として雇われ、娘役のキヨと親しくなる。集英社公式は、福井市に実在した百貨店の少女歌劇部に着想を得た長篇… 労働青春芸術と表現
  70. 070 2019 藁の王 わらのおう 谷崎由依 単行本・新潮社 小説家として一冊だけ本を出した語り手が、巨大私立大学で創作を教えることになり、学生たちの苦悩と自身の行き詰まりに向き合う表題作を含む作品集。新潮社公式は、文学の迷宮や小説の樹海を彷徨う人々を描く作品集として紹介している。書くこと、読むこと、他者の言葉に侵されることの怖さを、静かな幻想性と記憶の反復で… 芸術と表現記憶孤独と疎外
  71. 071 2019 夜はおしまい よるはおしまい 島本理生 単行本・講談社 「夜のまっただなか」「サテライトの女たち」「雪ト逃ゲル」「静寂」を収めた短篇集。夜、逃避、静けさといった収録作名が示すように、関係の余白や孤独を抱えた人物たちの時間を描く。島本理生の恋愛や家族関係をめぐる繊細な筆致を、より暗く静かなトーンで味わえる作品集として位置づけられる。 恋愛家族孤独と疎外
  72. 072 2019 夢も見ずに眠った。 ゆめもみずにねむった 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『夢も見ずに眠った。』は、夫を熊谷に残して札幌へ単身赴任した沙和子が、夫婦のすれ違いと離別を経て、新しい愛と信頼の形へ向かう長篇。岡山、札幌、熊谷など土地の記憶や物語が、二人の関係の変化と響き合う。移動する生活のなかで、結婚や家族の安定ではなく、相手を信じ直す距離を探るところが読みどころになる。 夫婦恋愛記憶
  73. 073 2019 背高泡立草 せいたかあわだちそう 古川真人 初出・「すばる」2019年10月号 草に覆われた納屋をめぐる作業を起点に、土地に積もった記憶と家族史が立ち上がる作品。島の一族をめぐる複数の声や時間が重なり、目の前の草刈りが過去を掘り起こす行為へと変わっていく。方言や多層的な語りによって、地方の生活と歴史が静かに接続される。 家族記憶地方 第162回 芥川賞
  74. 074 2018 あなたの愛人の名前は あなたのあいじんのなまえは 島本理生 単行本・集英社 『あなたの愛人の名前は』は、すれ違う大人の恋愛を描く六篇の作品集。集英社公式が示す「あなたは知らない」と「俺だけが知らない」は、同じ関係を別々の視点から照らし、同じ部屋にいても互いの心が決定的にずれていく痛みを描く。欲望、秘密、婚約、浮気、世間の価値観に揺れる心を、島本理生らしい繊細な心理の動きとし… 恋愛夫婦
  75. 075 2018 ブルーハワイ ぶるーはわい 青山七恵 単行本・河出書房新社 『ブルーハワイ』『辰年』『聖ミクラーシュの日』『わかれ道』『山の上の春子』『わたしのおばあちゃん』を収めた短篇集。河出書房新社は、「あたりまえ」を知らない孤独が世界を撃ち抜く作品集として紹介している。日常のなかでそれぞれのことに夢中になる人々を、平明で少し乾いた語りで捉え、家族や記憶、他者との隔たり… 孤独と疎外家族記憶
  76. 076 2018 日の出 ひので 佐川光晴 単行本・集英社 明治の終わり、13歳の清作は徴兵から逃れて故郷を飛び出し、北陸から九州、横浜へ移りながら鍛冶職人として生きる。もう一つの軸として、清作を曾祖父にもつ現代の女子大生・あさひが、教職免許取得のために学ぶ姿が置かれる。時代を隔てた二人を並行させ、労働、逃走、家系の記憶、希望の継承を描く長編。 労働家族記憶
  77. 077 2018 星ヶ丘高校料理部 偏差値68の目玉焼き ほしがおかこうこうりょうりぶ へんさちろくじゅうはちのめだまやき 樋口直哉 単行本・講談社 廃部寸前の私立星ヶ丘高校料理部に、篠原皐月が友人に誘われて入部する連作料理ミステリ。目玉焼き、オムレツ、ハンバーグ、カレーなどの料理を通じて、皐月たちは調理の理屈と、身近な出来事に潜む謎を少しずつ解いていく。学校小説の軽やかさに、料理の知識と日常の推理を重ねた読み味が特徴。 青春芸術と表現
  78. 078 2018 雪子さんの足音 ゆきこさんのあしおと 木村紅美 単行本・講談社 東京出張中の薫は、大学時代を過ごした高円寺のアパートの大家・雪子さんが熱中症でひとり亡くなったことを新聞記事で知り、20年ぶりにその場所へ向かう。アパートへ近づく道のりと回想を重ねながら、大家と下宿人、若者と年長者、好意と負担の境目が少しずつ浮かび上がる。日常の会話や距離感の微細な違和を通して、人間… 記憶老い孤独と疎外
  79. 079 2018 公園へ行かないか?火曜日に こうえんへいかないか?かようびに 柴崎友香 単行本・新潮社 2016年、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、世界各国の作家・詩人たちと過ごした3か月をもとに描く11篇の連作小説集。英語で議論し、街を歩き、アメリカ大統領選挙の瞬間にも居合わせる経験を通じて、そこにいること/いないこと、知りたいのに届かないことを考え続ける… 移民と越境言葉と言語芸術と表現
  80. 080 2018 三千円の使いかた さんぜんえんのつかいかた 原田ひ香 単行本・中央公論新社 御厨家の女性たちが、結婚、子育て、入院、離婚、老後といった局面でお金の使い方に向き合う連作短篇集。節約や貯金のノウハウに寄せつつ、家族の役割、将来不安、生活を立て直す知恵を物語として読ませる。具体的な金額や家計の話が、女性たちの選択と自立をめぐる現実的なドラマになっている。 家族老いケアと介護
  81. 081 2018 鏡のなかのアジア かがみのなかのあじあ 谷崎由依 単行本・集英社 チベット、台湾、クアラルンプール、京都など、アジアの土地をモチーフにした全5篇の幻想短篇集。集英社公式は、少年僧が経典の歴史に触れる「……そしてまた文字を記していると」、台湾・九份の村を舞台にする「Jiufenの村は九つぶん」、熱帯雨林の巨樹であった過去を持つ男を描く「天蓋歩行」などを挙げている。翻… 移民と越境言葉と言語記憶
  82. 082 2018 つかのまのこと つかのまのこと 柴崎友香 単行本・KADOKAWA かつての住み家らしき「この家」をさまよい続ける「わたし」が、次々に入れ替わる住人たちを見守る物語。幽霊のような語り手の視点から、家に残る記憶と、誰かを待ち続ける時間が静かに積み重ねられる。柴崎友香が俳優・東出昌大をイメージして小説を書き、市橋織江の写真と組み合わされた、写真と小説の境界を意識した一冊… 記憶死と喪失家族
  83. 083 2018 私に付け足されるもの わたしにつけたされるもの 長嶋有 単行本・徳間書店 「四十歳」「白竜」「Mr.セメントによろしく」「瀬名川蓮子に付け足されるもの」など十二篇を収める短篇集。虎に襲われたい、くっつけたい、あきらめたい、移動したいといった、くだらなくも切実な願望を起点に、日常のずれや欲望の不可思議さを軽やかに描く。長嶋有らしいユーモアと観察眼が、平凡な生活に付け足される… アイデンティティ記憶芸術と表現
  84. 084 2018 ウィステリアと三人の女たち ウィステリアとさんにんのおんなたち 川上未映子 単行本・新潮社 「彼女と彼女の記憶について」「シャンデリア」「マリーの愛の証明」「ウィステリアと三人の女たち」の4篇を収める短篇集。同窓会、デパート、女子寮、廃墟となった屋敷を舞台に、女性たちが不確かな記憶と死の気配に触れていく。記憶、死、救済、自己同一性が幻想的な気配で重なり、なだらかな散文がいつのまにか現実の足… 記憶死と喪失孤独と疎外
  85. 085 2018 ゆっくりおやすみ、樹の下で ゆっくりおやすみ、きのしたで 高橋源一郎 単行本・朝日新聞出版 小学5年生のミレイが「さるすべりの館」で夏休みを過ごすうち、遠い過去の謎に触れていく児童文学寄りの長編。赤い部屋、止まっていた時計、館に隠された秘密が、子どもの視点に近い軽やかさと不思議な緊張感で語られる。今日マチ子の挿絵を多数収録し、高橋源一郎が子どもと大人の読者をつなぐ語りに挑んだ作品。 青春記憶家族
  86. 086 2017 踊る星座 おどるせいざ 青山七恵 単行本・中央公論新社 『踊る星座』は、青山七恵が人と人の距離や、日常の中の小さな変化を星座のように配置する小説として整理できます。星座は離れた点を線で結ぶ見方であり、人物たちの孤独や関係もそのように読み替えられます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 孤独と疎外記憶恋愛
  87. 087 2017 鳥獣戯画 ちょうじゅうぎが 磯﨑憲一郎 単行本・講談社 『鳥獣戯画』は、磯﨑憲一郎が古典的な絵巻の名を借り、人間と動物、現実と表象の境目を揺らす作品として整理できます。鳥獣のイメージは、人間社会を戯画化する視点として働きます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌と『群像』掲載候補に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現身体言葉と言語
  88. 088 2017 影裏 えいり 沼田真佑 初出・文學界 2017年5月号 会社の出向で岩手に移り住んだ今野は、釣り仲間となった同僚・日浅にだけ心を許していた。二人で川に通った日々はやがて途絶え、日浅は何も告げずに会社を去る。そして東日本大震災の後、今野は日浅の行方を追ううちに、親しいと思っていた男のもう一つの顔に触れることになる。北国の自然や釣りの場面を丹念に描きながら… 災害死と喪失孤独と疎外 第157回 芥川賞
  89. 089 2017 吹上奇譚 第一話 ミミとこだち ふきあげきたん だいいちわ ミミとこだち 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』は、不思議な町・吹上町を舞台にした双子の姉妹の物語で、シリーズ第一作にあたります。町そのものが現実と幻想の境目に置かれ、家族や記憶の問題が奇譚として語られます。吉本ばなならしいやわらかな語りの中に、喪失と再生の感覚があります。 家族記憶死と喪失
  90. 090 2017 いつか来る季節 名古屋タクシー物語 いつかくるきせつ なごやたくしーものがたり 広小路尚祈 単行本・桜山社 『いつか来る季節 名古屋タクシー物語』は、名古屋のタクシー運転手や乗客をめぐる物語として整理できます。タクシーは都市を移動する仕事の場であり、偶然出会う人びとの会話を運ぶ装置でもあります。地方都市の生活と労働を、移動の視点から読ませる作品です。 労働地方孤独と疎外
  91. 091 2017 星の子 ほしのこ 今村夏子 初出・小説トリッパー 2017年夏季号 中学3年生の林ちひろは、優しい両親に愛されて育った。だが両親は、生まれつき病弱だったちひろが「あやしい宗教」の水で救われたと信じて以来、その教団に深くのめり込んでいる。緑のジャージ姿で頭に濡れタオルを載せる両親は周囲の目を引き、姉は家を出て、親戚との関係も軋んでいく。一目惚れした新任の先生に、夜の公… 信仰家族青春 第39回 野間新人賞
  92. 092 2017 ほしのこ ほしのこ 山下澄人 単行本・文藝春秋 『ほしのこ』は、山下澄人が星や子どものイメージを通して、記憶と身体の感覚をずらして描く小説として整理できます。題名のひらがな表記は、幼さと遠さを同時に感じさせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶身体家族
  93. 093 2017 かわうそ堀怪談見習い かわうそぼりかいだんみならい 柴崎友香 単行本・KADOKAWA 『かわうそ堀怪談見習い』は、柴崎友香が怪談の形式を借りながら、場所と記憶の気配を描く小説です。怪談見習いという軽やかな言い方により、恐怖だけでなく、日常に潜む違和感を観察する姿勢が生まれます。土地の空気と語りのゆるやかさが読みどころです。 記憶死と喪失孤独と疎外
  94. 094 2017 騎士団長殺し きしだんちょうごろし 村上春樹 単行本・新潮社 『騎士団長殺し』は、肖像画家の「私」が小田原の山荘で謎の絵と「イデア」に遭遇する長編二部作です。絵画、地下空間、戦争の記憶が重なり、現実と寓話の境界がゆっくり崩れていきます。村上春樹の長編らしく、喪失と創作、歴史の暗部が大きな物語として展開します。 芸術と表現記憶戦争
  95. 095 2017 幸福な水夫 こうふくなすいへい 木村友祐 単行本・未來社 『幸福な水夫』は、木村友祐が水夫という移動する労働者の像を通じて、幸福と漂流の関係を描く作品として整理できます。海や船のイメージは、生活の不安定さと越境の感覚を呼び込みます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働移民と越境孤独と疎外
  96. 096 2017 高架線 こうかせん 滝口悠生 単行本・講談社 『高架線』は、東京の古いアパートの住人たちの来歴を、語り手を替えながらたどる長編です。高架線の下や周辺にある生活圏が、移動する都市とそこに留まる人びとの時間を結びます。複数の語りが重なり、場所に蓄積する記憶を立体的に読む作品です。 記憶家族孤独と疎外
  97. 097 2017 ランチ酒 らんちざけ 原田ひ香 単行本・祥伝社 『ランチ酒』は、夜に子どもを預け昼間に働くシングルマザーが、仕事後の一人ランチに酒を飲む連作です。食事と酒は、労働の疲れをほどき、自分だけの時間を取り戻すための小さな儀式になります。母であること、働くこと、孤独を、店の風景から読ませる作品です。 労働母と子
  98. 098 2017 茄子の輝き なすのかがやき 滝口悠生 単行本・新潮社 『茄子の輝き』は、会社の倒産と離婚を経た市瀬の日々を描く連作小説集です。失われた仕事や家族の後に残る生活が、茄子のような身近なものの光に照らされます。大きな転落を静かな日常に引き戻し、再出発以前の時間を読む作品です。 労働夫婦孤独と疎外
  99. 099 2017 ラジオ・ガガガ らじおががが 原田ひ香 単行本・双葉社 『ラジオ・ガガガ』は、実在するラジオ番組に耳を傾ける人々の人生模様を描いた連作短篇集です。ラジオは遠くの声を受け取るメディアであり、孤独な時間に他者の存在を届ける装置として働きます。日常の中の小さな聞く経験から、記憶や再生を描く作品です。 記憶孤独と疎外芸術と表現
  100. 100 2017 千の扉 せんのとびら 柴崎友香 単行本・中央公論新社 『千の扉』は、新宿の巨大な都営団地を舞台に、そこで暮らした人々の記憶と時間をたどる長編です。団地の多数の扉は、それぞれ異なる生活史への入口として機能します。都市の住宅を通して、共同体、老い、場所の記憶を静かに掘り起こす作品です。 記憶老い家族
  101. 101 2017 こことよそ ここ と よそ 保坂和志 初出・「新潮」2017年6月号掲載 『こことよそ』は、鎌倉の道を歩く場面を含む短編で、保坂和志自身の受賞のことばでは、川端康成の記憶や生者と死者の時間感覚が作品に触れられている。物語の具体的な筋は公式ページからは限定的にしか確認できないが、場所の記憶と死者との距離が読解の手がかりになる。川端康成文学賞の受賞作として、短編の凝縮された時… 記憶死と喪失地方 第44回 川端賞
  102. 102 2016 あひる あひる 今村夏子 単行本・書肆侃侃房 『あひる』は、飼いあひる「のりたま」をめぐる家族の不穏な日常を描く表題作ほかを収めた作品集です。かわいらしい動物の存在が、家族の関係や家の空気を少しずつ変えていきます。今村夏子らしい平明な語りの奥で、日常の裂け目が静かに広がる作品です。 家族身体孤独と疎外
  103. 103 2016 小松とうさちゃん こまつとうさちゃん 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『小松とうさちゃん』は、絲山秋子が人物の距離感と、うさぎのような柔らかなイメージを組み合わせて描く小説として整理できます。固有名と愛称が並ぶ題名から、親密さとずれたコミュニケーションが立ち上がります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 恋愛孤独と疎外言葉と言語
  104. 104 2016 虫たちの家 むしたちのいえ 原田ひ香 単行本・光文社 『虫たちの家』は、九州の孤島にあるグループホームで、インターネットで傷ついた女性たちが共同生活を送る物語です。家という避難所は、保護の場であると同時に、傷ついた人びとの距離を測り直す場所になります。現代的な孤立とケアの問題を、共同生活の細部から読ませる作品です。 ケアと介護ジェンダー孤独と疎外
  105. 105 2016 三の隣は五号室 さんのとなりはごごうしつ 長嶋有 単行本・中央公論新社 『三の隣は五号室』は、ひとつのアパートの部屋に住んだ人々の時間を描く連作長篇です。部屋という固定された場所を軸に、入居者の生活、恋愛、仕事、記憶が時代をまたいで入れ替わります。個人よりも場所の記憶を前に出す構成が読みどころで、淡々とした語りの中に時間の厚みがあります。 記憶家族孤独と疎外 第52回 谷崎賞
  106. 106 2016 手のひらの京 てのひらのみやこ 綿矢りさ 単行本・新潮社 『手のひらの京』は、京都に暮らす奥沢家の三姉妹それぞれの恋愛や仕事、旅立ちを描く長編です。京都という歴史ある街を、観光的な風景ではなく、家族が日々を重ねる生活の場所として扱います。姉妹の視点を通して、土地への愛着と外へ出ていく感覚が並行して描かれます。 家族恋愛アイデンティティ
  107. 107 2016 美しい距離 うつくしいきょり 山崎ナオコーラ 単行本・文藝春秋 『美しい距離』は、妻の末期がんに寄り添う夫の視点から、死に向かう日常を静かに描く小説です。看病や病院での時間を、劇的な悲嘆ではなく、相手との距離を測り続ける営みとして捉えます。死を前にした夫婦の親密さと孤独を、抑えた語りで読ませる作品です。 夫婦死と喪失
  108. 108 2016 太陽の側の島 たいようのそばのしま 高山羽根子 単行本・朝日新聞出版 『太陽の側の島』は、戦時中を背景に、女性と兵士の関係を架空の日記や手紙の連なりでたどる中篇。第2回林芙美子文学賞の大賞受賞作として発表され、のちに短篇集『オブジェクタム』に収録された。戦争の記憶、記録の不確かさ、島という隔絶した場所を、SF的・幻想的な想像力で結びつける作品として位置づけられる。 戦争記憶芸術と表現 第2回 林芙美子賞
  109. 109 2016 縫わんばならん ぬわんばならん 古川真人 初出・「新潮」2016年11月号 九州長崎の漁村の島を舞台に、一族をめぐる四世代の来歴を女性の語りで編む作品。ほころびていく意識から湧き出る声を拾い、記憶の断片を縫い合わせるように家族史を立ち上げる。方言と声の流れが、過去・記憶・語り継ぎの主題を支えている。島の生活と老いの身体感覚が、個人史を超えた時間の厚みを生む。 家族記憶老い 第48回 新潮新人賞
  110. 110 2016 カブールの園 かぶーるのその 宮内悠介 初出・「文學界」2016年10月号、2017年1月文藝春秋より単行本刊行 日系アメリカ人三世の女性が、IT企業を立ち上げた友人とヨセミテへ向かい、日系人強制収容所の記憶に触れていく表題作を中心とする作品集。移民、戦争の記憶、アメリカ社会の周縁に置かれた人々を、作者らしい構成意識で扱う。収録作「半地下」とあわせ、越境するアイデンティティと継承されにくい記憶が主題となる。 移民と越境記憶日本史 第30回 三島賞
  111. 111 2015 まゆ 青山七恵 単行本・新潮社 『繭』は、青山七恵が閉じた空間や保護される感覚を手がかりに、女性の内面を描く小説として整理できます。繭は守るものでもあり、外へ出る前の窮屈な状態でもあります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 身体ジェンダー孤独と疎外
  112. 112 2015 自画像 じがぞう 朝比奈あすか 単行本・双葉社 『自画像』は、朝比奈あすかが自己像と他者からの視線をめぐる不安を描く小説として整理できます。自画像は自分を描く行為であると同時に、見られる自分を作る行為でもあります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 アイデンティティ芸術と表現孤独と疎外
  113. 113 2015 天使はここに てんしはここに 朝比奈あすか 単行本・朝日新聞出版 『天使はここに』は、朝比奈あすかが救いを求める人物たちの孤独を描く小説として整理できます。天使という言葉は超越的な存在であると同時に、身近な誰かへの希望にも読めます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 信仰孤独と疎外家族
  114. 114 2015 電車道 でんしゃみち 磯﨑憲一郎 単行本・新潮社 『電車道』は、磯﨑憲一郎が移動、時間、反復をめぐって構成する長篇です。電車の軌道は、予想できる進行であると同時に、思いがけない記憶や時代の反復を呼び込みます。刊行記念インタビューの題名にもあるように、時代を超えて繰り返されるものを読む作品です。 記憶労働テクノロジー
  115. 115 2015 学校の近くの家 がっこうのちかくのいえ 青木淳悟 単行本・新潮社 『学校の近くの家』は、青木淳悟が学校と家という近接した場所から、子どもや地域の記憶を描く小説として整理できます。近いはずの場所同士の間に、共同体の視線や距離が生まれます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 青春記憶同調圧力
  116. 116 2015 院内カフェ いんないかふぇ 中島たい子 単行本・朝日新聞出版 『院内カフェ』は、中島たい子が病院内のカフェという場から、病やケア、日常の会話を描く小説として整理できます。病院という非日常の空間に、カフェのような日常的な場所が挟まることで、人と人の距離が変わります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 ケアと介護孤独と疎外
  117. 117 2015 ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス 滝口悠生 単行本・新潮社 『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』は、滝口悠生が音楽の名を冠した表題作を中心に、記憶と現在のずれをたどる作品です。固有名や文化的記憶が、人物の生活感覚に入り込み、出来事を一直線の筋ではなく断片的な時間として浮かび上がらせます。日常の会話や回想の揺れから、過去を語り直すことの不確かさを読む小説で… 記憶芸術と表現アイデンティティ
  118. 118 2015 暗号のポラリス あんごうのぽらりす 中山智幸 単行本・NHK出版 『暗号のポラリス』は、中山智幸が暗号と北極星のイメージを重ね、読解や方角をめぐる物語として構成した作品と整理できます。暗号は言葉の届かなさを、ポラリスは迷った先の指標を示す題名です。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 言葉と言語記憶アイデンティティ
  119. 119 2015 ペンギンのバタフライ ぺんぎんのばたふらい 中山智幸 単行本・PHP研究所 『ペンギンのバタフライ』は、中山智幸が異質なものの組み合わせから想像力を広げる小説として整理できます。飛べない鳥であるペンギンと、羽ばたく蝶の対比が、変身や移動への願望を思わせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 アイデンティティ身体孤独と疎外
  120. 120 2015 残された者たち のこされたものたち 小野正嗣 単行本・集英社文庫 『残された者たち』は、過疎の集落・潮の浦の分校を舞台に、代用教員アンナと生徒たちの日常をユーモラスに描く文庫オリジナル作品です。小さな共同体に残る人びとの生活から、地方、教育、記憶の問題が見えてきます。大きな事件よりも、場に残る声や関係の細部を読む作品です。 地方青春孤独と疎外
  121. 121 2015 パノララ パノララ 柴崎友香 単行本・講談社 『パノララ』は、柴崎友香が視線、場所、移動の感覚を広く開く長編です。タイトルはパノラマ的に広がる世界と、どこか音のずれた感覚を同時に含んでいます。人物の移動や会話を通して、都市と記憶の見え方が少しずつ変わる作品です。 記憶芸術と表現孤独と疎外
  122. 122 2015 死んでいない者 しんでいないもの 滝口悠生 初出・文學界 2015年12月号 秋のある日、大往生を遂げた85歳の男の通夜に、子や孫、ひ孫まで30人ほどの親族が集まってくる。通夜振る舞いの席で酒を酌み交わす者、川辺をさまよう者、初めて会う親戚と言葉を交わす少年少女。語りは特定の人物に留まらず、出席者から出席者へと自在に移りながら、故人の記憶と一族それぞれの来し方、共有しえない日… 家族死と喪失記憶 第154回 芥川賞
  123. 123 2015 水死人の帰還 すいしにんのきかん 小野正嗣 単行本・文藝春秋 『水死人の帰還』は、小野正嗣が死者、記憶、土地の声をめぐって描く小説として整理できます。水死人という存在は、失われたものが共同体へ戻ってくる不穏な気配を帯びています。生と死の境目を揺らしながら、地方の場所に残る記憶を読む作品です。 死と喪失記憶地方
  124. 124 2015 匿名者のためのスピカ とくめいしゃのためのすぴか 島本理生 単行本・祥伝社 『匿名者のためのスピカ』は、島本理生が名前を持たない/名乗れない存在へのまなざしを扱う小説として整理できます。スピカという星の名は、匿名性の闇の中にある小さな指標のように働きます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 アイデンティティ孤独と疎外恋愛
  125. 125 2015 地の底の記憶 ちのそこのきおく 畠山丑雄 初出・「文藝」2015年冬号 電波塔に見守られる架空の町を舞台に、百年を超える時間をたどる壮大なデビュー作。ラピス・ラズリ、電波、川の流れといったモチーフが、町と人物の記憶を深い層へ導く。現実と非現実、過去と現在が交錯する長い時間の物語として読むことができる。架空の町の歴史を掘り下げる構成が、記憶そのものの地層を読む感覚を生む。 記憶日本史地方 第52回 文藝賞
  126. 126 2014 かぜ 青山七恵 単行本・河出書房新社 『風』は、青山七恵が移ろいやすい感情や生活の変化を、静かな文体で扱う小説として整理できます。風という題名は、人物の内面を直接説明するよりも、周囲の空気や関係の揺れとして読ませます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 孤独と疎外恋愛記憶
  127. 127 2014 春の庭 はるのにわ 柴崎友香 初出・文學界 2014年6月号 離婚を機に世田谷の取り壊し予定のアパートに越してきた太郎は、隣に建つ水色の洋館を熱心に観察する住人の女・西と知り合う。漫画家の西は、高校時代に魅了された写真集『春の庭』の舞台がその家であることを知り、この場所へ引っ越してきたのだった。二人は次第にその水色の家への接近を試みるようになる。再開発で消えて… 記憶死と喪失孤独と疎外 第151回 芥川賞
  128. 128 2014 スープの国のお姫様 すーぷのくにのおひめさま 樋口直哉 単行本・小学館 『スープの国のお姫様』は、食べることや料理をめぐる感覚から、家族やケアのあり方を描く樋口直哉の小説として整理できます。スープという身近な料理は、身体を温めるだけでなく、関係を結び直す媒介になります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 家族ケアと介護
  129. 129 2014 清とこの夜 きよとこのよる 広小路尚祈 単行本・中央公論新社 『清とこの夜』は、夜の時間を背景に、人物の孤独や記憶を描く広小路尚祈の小説として整理できます。題名は人名と「この夜」を結び、特定の一夜に凝縮される関係や感情を思わせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 孤独と疎外記憶家族
  130. 130 2014 星よりひそかに ほしよりひそかに 柴崎友香 単行本・幻冬舎 『星よりひそかに』は、柴崎友香が身近な生活のなかにある気配や感情を静かに追う小説として整理できます。大きな事件よりも、視線や場所の移ろい、言葉にならない思いが重視されます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 恋愛孤独と疎外記憶
  131. 131 2014 彼女の家計簿 かのじょのかけいぼ 原田ひ香 単行本・光文社 『彼女の家計簿』は、戦前から三世代にわたる女性たちを、家計簿という生活記録で結ぶ原田ひ香の長篇です。数字や支出の記録は、家族史、労働、ジェンダーの記憶を読み解く手がかりになります。日々の細部から女性の生の選択をたどる作品です。 家族ジェンダー労働
  132. 132 2014 九年前の祈り くねんまえのいのり 小野正嗣 初出・群像 2014年9月号 35歳のさなえは、カナダ人の夫に去られたあと、激しい癇癪を起こす幼い息子・希敏を連れて、故郷である大分の海辺の小さな集落に帰ってくる。育児に疲弊する彼女の脳裏には、九年前、集落の女たちとカナダを旅した際、世話役の「みっちゃん姉」が異国の教会で見せた祈りの姿が繰り返し蘇る。そのみっちゃん姉の息子がいま… 母と子信仰記憶 第152回 芥川賞
  133. 133 2014 きょうのできごと、十年後 きょうのできごと、じゅうねんご 柴崎友香 単行本・河出書房新社 『きょうのできごと、十年後』は、柴崎友香のデビュー作『きょうのできごと』の登場人物たちの十年後を描く続篇です。若さの一日の空気は、時間を経た生活、仕事、関係の変化として戻ってきます。大事件ではなく、都市のなかで少しずつ変わる人間関係を読む作品です。 青春記憶労働
  134. 134 2014 寝相 ねぞう 滝口悠生 単行本・新潮社 『寝相』は、滝口悠生の最初期作品を収める小説集で、睡眠や身体の姿勢のような無意識の領域に、人物の記憶や関係がにじみます。既存データでは新潮新人賞受賞作「楽器」を含む最初の小説集とされています。日常の細部がゆっくりずれていく語りが読みどころです。 記憶身体孤独と疎外
  135. 135 2014 女のいない男たち おんなのいないおとこたち 村上春樹 単行本・文藝春秋 『女のいない男たち』は、「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「木野」などを収める村上春樹の短篇集です。女性を失った、あるいは理解できなかった男性たちの孤独が、語り直しや回想を通じて浮かび上がります。恋愛小説でありながら、喪失後に残る空白そのものを読む作品集です。 恋愛孤独と疎外記憶
  136. 136 2014 離陸 りりく 絲山秋子 単行本・文藝春秋 『離陸』は、絲山秋子が時間と空間を大きく動かしながら、人の移動と記憶を描く長篇です。タイトルどおり、地上の生活から浮き上がるように物語が進み、現実の距離感が変わっていきます。旅や移動の小説であると同時に、記憶の重力をめぐる作品です。 記憶移民と越境孤独と疎外
  137. 137 2014 聖地Cs せいちしーず 木村友祐 単行本・新潮社 『聖地Cs』は、木村友祐が聖地と名づけられる場所の力や、土地をめぐる記憶を扱う小説として整理できます。場所は信仰や観光の対象であるだけでなく、共同体の傷や欲望を集めるものとして読めます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌と創作合評記録に基づく暫定的な紹介です。 信仰記憶地方
  138. 138 2014 鳥たち とりたち 吉本ばなな 単行本・集英社 『鳥たち』は、吉本ばななが移動、喪失、自由への感覚を鳥のイメージに重ねる小説として整理できます。鳥は、どこかへ飛び去るものとして、残された人の孤独や再生を映します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 死と喪失家族孤独と疎外
  139. 139 2014 あなたへの歌 あなたへのうた 楊逸 単行本・中央公論新社 『あなたへの歌』は、楊逸が他者へ向ける言葉と、移動する人びとの記憶を扱う小説として整理できます。歌という形式は、直接届かない思いを誰かへ送るための媒介になります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境家族言葉と言語
  140. 140 2014 みずうみのほうへ みずうみのほうへ 上村亮平 初出・「すばる」2014年11月号(投稿時タイトル「その静かな、小さな声」を改題) 七歳の誕生日旅行で父を失った「ぼく」が、湖のある町で育ち、二十代の終わりに父との記憶に結びつく「サイモン」に似た人物と出会う。港町、水産物加工場、アイスホッケー観戦といった生活の細部が、喪失の記憶と幻想的な再会をゆっくり結びつけていく。静かな語りの中で、父の死の謎と過去への引力が持続する作品である。 父と子死と喪失記憶 第38回 すばる文学賞
  141. 141 2014 レールの向こう れーる の むこう 大城立裕 初出・「新潮」2014年5月号。単行本は2015年8月、新潮社刊。 沖縄に生きて創作を続けてきた老年の作家が、妻の入院をきっかけに日常と記憶を往還する作品集。表題作では、病院や家族との現在の生活と、レールの向こうにある創作の記憶が重ねられる。老いと死を含む生活を慈しみながら、作家として切り捨てられない不穏な領域を見つめる。 老い記憶地方 第41回 川端賞
  142. 142 2013 愛の夢とか あいのゆめとか 川上未映子 単行本・講談社 『愛の夢とか』は、日常のなかの小さな喪失と出会いを描く川上未映子の短篇集です。恋愛や記憶は劇的な事件としてではなく、ふとした言葉や風景の変化として現れます。リアリズムの手触りのなかに、静かな痛切さが残る作品集です。 恋愛記憶死と喪失 第49回 谷崎賞
  143. 143 2013 めぐり糸 めぐりいと 青山七恵 単行本・集英社 『めぐり糸』は、糸がめぐるように人と人の縁や記憶が結び直される青山七恵の小説です。関係は一直線に進まず、ほどけたり絡まったりしながら人物の現在を形づくります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないが、連載レコードと単行本書誌から、時間をかけて展開した作品であることが分かります。 家族記憶恋愛
  144. 144 2013 憧れの女の子 あこがれのおんなのこ 朝比奈あすか 単行本・双葉社 『憧れの女の子』は、朝比奈あすかが女性同士の視線や自己像の揺れを扱う小説として整理できます。題名の「憧れ」は、好意や羨望だけでなく、自分との差異を意識させる感情として働きます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 ジェンダーアイデンティティ孤独と疎外
  145. 145 2013 晩年様式集(イン・レイト・スタイル) ばんねんようしきしゅう 大江健三郎 単行本・講談社 『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』は、東日本大震災後に書き継がれた大江健三郎晩年の長篇です。老いた作家の自己検証、家族、死者の記憶が重なり、作品を書くことそのものが喪失への応答として描かれます。大江の後期小説群を締めくくるように、長い息の文体で過去と現在を往還します。 死と喪失記憶芸術と表現
  146. 146 2013 銀河鉄道の彼方に ぎんがてつどうのかなたに 高橋源一郎 単行本・集英社 『銀河鉄道の彼方に』は、宮沢賢治的な銀河鉄道のイメージを踏まえながら、言葉、信仰、死者との対話を重ねる高橋源一郎の長篇です。旅の形式は、現実から逃げる装置ではなく、現代の読者が死や救いを考えるための実験的な場になります。物語の引用性と語り直しが読みどころです。 死と喪失信仰言葉と言語
  147. 147 2013 昼田とハッコウ ひるたとはっこう 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『昼田とハッコウ』は、二つの名前が並ぶ題名どおり、人物同士の距離や関係の変化を追う山崎ナオコーラの小説です。親密さは劇的にではなく、会話や生活の小さな差異として描かれるタイプの作品として読めます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 家族恋愛孤独と疎外
  148. 148 2013 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 しきさいをもたないたざきつくると、かれのじゅんれいのとし 村上春樹 単行本・文藝春秋 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、36歳の多崎つくるが高校時代の突然の絶交の謎をたどる長篇です。名古屋、東京、フィンランドへ向かう旅は、記憶の欠落と自己像の空白を埋める巡礼として進みます。抑制された語りで、友情、喪失、回復不能な時間を扱います。 記憶孤独と疎外青春
  149. 149 2013 往古来今 おうこらいこん 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 『往古来今』は、古代から現代までを貫く時間と生命の往還を描く磯﨑憲一郎の長篇です。個人の人生より大きな時間の流れのなかで、記憶や土地、身体が結び直されます。題名どおり、過去と現在を同じ地平で読む感覚が作品の核になります。 記憶死と喪失身体
  150. 150 2013 獅子渡り鼻 ししわたりばな 小野正嗣 単行本・講談社 『獅子渡り鼻』は、親の事情で海辺の集落に預けられた少年・尊の日々を描く小野正嗣の小説です。土地の記憶、祈り、共同体の気配が、少年の視界を通じて静かに立ち上がります。海辺の集落を舞台に、家族から離された子どもの孤独と場所への感受性を描きます。 家族信仰孤独と疎外
  151. 151 2013 スナックちどり スナックちどり 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『スナックちどり』は、吉本ばななが小さな店や旅先の空気を通じて、喪失後の再生を描く小説として整理できます。スナックという場所は、家族でも職場でもないゆるい避難所として機能します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 死と喪失家族
  152. 152 2013 忘れられたワルツ わすれられたわるつ 絲山秋子 単行本・新潮社 『忘れられたワルツ』は、絲山秋子が記憶からこぼれ落ちる感情や、日常の不意のずれを描く短篇集です。ワルツのような反復と忘却の感覚が、人物の孤独や時間の歪みを浮かび上がらせます。抑えた語りのなかで、喪失とユーモアが同居する作品です。 記憶孤独と疎外死と喪失
  153. 153 2013 想像ラジオ そうぞうらじお いとうせいこう 初出・「文藝」掲載後、2013年3月河出書房新社より単行本刊行 海沿いの町で高い杉の木のてっぺんに引っかかっているDJアークが、想像の電波を使ってリスナーに語りかける小説。届くメールやリクエストを読み上げながら、どうしても聞きたいひとつの声へ向かっていく。震災後の死者と生者、声と想像力をめぐる、ラジオ番組形式の物語である。 災害死と喪失言葉と言語 第35回 野間新人賞
  154. 154 2012 花嫁 はなよめ 青山七恵 単行本・幻冬舎 『花嫁』は、結婚や家族のイメージを手がかりに、若い女性の自己像と周囲の期待を描く青山七恵の小説です。花嫁という役割は幸福の記号である一方、人物を一つの型に押し込める圧力としても読めます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 恋愛家族ジェンダー
  155. 155 2012 すみれ すみれ 青山七恵 単行本・文藝春秋 『すみれ』は、青山七恵が若い女性の日常と、名づけがたい違和感を静かに描く小説です。すみれという小さな花の像は、華やかさよりも、身近な場所に残る感情の気配を思わせます。抑えた語りのなかで、家族や恋愛に回収されない孤独が見えてきます。 恋愛家族孤独と疎外
  156. 156 2012 プールサイドの彼方 ぷーるさいどのかなた 朝比奈あすか 単行本・実業之日本社 『プールサイドの彼方』は、水辺の境界性を背景に、若い人物の距離感や将来への不安を描く朝比奈あすかの小説です。プールサイドは日常と非日常、身体と視線が交差する場所として機能します。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 青春身体孤独と疎外
  157. 157 2012 仮り住まい かりずまい 丹下健太 単行本・河出書房新社 『仮り住まい』は、住まいが一時的であることの不安を通じて、生活、記憶、孤独を描く丹下健太の作品です。家は安定した場所ではなく、いつか離れる前提の仮の居場所として立ち上がります。文芸誌掲載作として、移動する生活の感覚を読む作品です。 家族記憶孤独と疎外
  158. 158 2012 夜の隅のアトリエ よるのすみのあとりえ 木村紅美 単行本・文藝春秋 『夜の隅のアトリエ』は、アトリエという創作の場を手がかりに、芸術、孤独、記憶を描く木村紅美の小説です。夜の隅という場所は、誰にも見えない作業や感情が残る領域を思わせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現孤独と疎外記憶
  159. 159 2012 惑いの森 まどいのもり 中村文則 単行本・イースト・プレス 『惑いの森』は、バーに現れる男や手紙を待つ郵便局員など、日常の人物たちを連鎖させる中村文則の50篇の短編集です。森は現実の場所というより、迷い込んだ人びとの記憶と孤独が交差する比喩として働きます。短い形式のなかで、不穏さと愛おしさが同居します。 孤独と疎外記憶恋愛
  160. 160 2012 七緒のために ななおのために 島本理生 単行本・講談社 『七緒のために』は、誰かのために生きることと、自分の感情を保つことの境界を描く島本理生の小説として整理できます。題名の「ために」は、献身であると同時に、関係への囚われも示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 恋愛家族記憶
  161. 161 2012 佐渡の三人 さどのさんにん 長嶋有 単行本・講談社 『佐渡の三人』は、佐渡という島の土地性を背景に、三人の人物の関係や記憶を描く長嶋有の小説です。島は閉じた場所でありながら、外から来る者と土地に残るものを結びつけます。長嶋作品らしい抑えたユーモアのなかで、家族や共同体への距離が見えてきます。 家族記憶孤独と疎外
  162. 162 2012 週末カミング しゅうまつカミング 柴崎友香 単行本・角川書店 『週末カミング』は、週末という限られた時間を通じて、都市で暮らす人物の移動や感情の変化を描く柴崎友香の小説です。来るものを待つ感覚は、恋愛や記憶、生活のリズムと重なります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶恋愛孤独と疎外
  163. 163 2012 わたしがいなかった街で わたしがいなかったまちで 柴崎友香 単行本・新潮社 『わたしがいなかった街で』は、柴崎友香が、経験していない戦争や過去の映像と、現在の都市生活を重ねる小説です。自分がいなかった場所や時間をどう想像するかが、記憶と責任の問いになります。静かな語りのなかで、戦争の記録と個人の日常が交差します。 戦争記憶孤独と疎外
  164. 164 2012 abさんご えーびーさんご 黒田夏子 初出・「早稲田文学」5号(2012年9月)。第24回早稲田文学新人賞受賞作 『abさんご』は、昭和の知的家庭に生まれた子どもが成長し、父母を看取るまでを描く作品です。全文横書き、固有名詞を用いない文体など、形式上の実験が大きな特徴です。家族史を扱いながら、言葉の配置そのものによって記憶のあり方を問い直します。 家族老い言葉と言語 第148回 芥川賞
  165. 165 2012 隙間 すきま 守山忍 初出・「文學界」2012年12月号 『隙間』は、人と人の間にある見えない距離を主題にした森山忍のデビュー作です。具体的な筋は限られていますが、題名どおり、関係の裂け目や沈黙の余白を読む作品として整理できます。親密さの中にある距離感を、静かな語りで描く作品です。 孤独と疎外家族私小説的 第115回 文學界新人賞
  166. 166 2012 最後のうるう年 さいごのうるうどし 二瓶哲也 初出・「文學界」2012年12月号 『最後のうるう年』は、新潟弁の語りが印象的な仁瓶哲也のデビュー作です。うるう年という特別な時間のずれを用いて、人間の孤独とつながりを描く作品として整理されています。方言の語りが、土地の感覚と時間の違和を結びつけます。 地方孤独と疎外記憶 第115回 文學界新人賞
  167. 167 2012 螺法四千年記 らほうよんせんねんき 日和聡子 単行本・幻戯書房 古代から現代までを四千年の時間幅でたどり、神、人、ちいさな生き物たちの気配が現在の地平に重なっていく長篇。詩人でもある日和聡子の文体が、此岸と彼岸、私と彼方を行き来する神話的な感触を生み出す。直線的な歴史小説というより、螺旋状に時間と声が響き合う幻想性が読みどころである。 信仰日本史記憶 第34回 野間新人賞
  168. 168 2012 給水塔と亀 きゅうすいとう と かめ 津村記久子 初出・「文学界」2012年3月号掲載 定年後に幼いころ暮らした土地へ戻ってきた独身男性を主人公に、給水塔の記憶と前住人が残した亀をめぐって老いと孤独を見つめる短篇。大きな事件ではなく、製麺所の排水、古い団地、ベランダからの風景といった細部が、人生の時間の流れを静かに立ち上げる。津村記久子らしい抑制された語りが、再出発のかすかな意欲を読み… 老い孤独と疎外記憶 第39回 川端賞
  169. 169 2011 あかりの湖畔 あかりのこはん 青山七恵 単行本・中央公論新社 『あかりの湖畔』は、湖畔という静かな場所を背景に、家族や記憶の揺らぎを描く青山七恵の小説です。人物の感情は大きく叫ばれるよりも、風景や会話の間ににじみます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌と題名に基づく暫定的な紹介です。 家族記憶孤独と疎外
  170. 170 2011 春待ち海岸カルナヴァル はるまちかいがんかるなゔぁる 木村紅美 単行本・新潮社 『春待ち海岸カルナヴァル』は、海辺の土地と春を待つ時間を重ね、記憶や人間関係の揺れを描く木村紅美の小説です。カルナヴァルという祝祭的な語は、静かな海岸の風景に非日常の気配を差し込みます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶孤独と疎外家族
  171. 171 2011 黒うさぎたちのソウル くろうさぎたちのそうる 木村紅美 単行本・集英社 『黒うさぎたちのソウル』は、ソウルという海外都市を舞台に、移動と孤独の感覚を描く木村紅美の作品です。黒いうさぎという像は、かわいらしさだけでなく、夜や不安の気配も帯びています。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境記憶孤独と疎外
  172. 172 2011 末裔 まつえい 絲山秋子 単行本・講談社 『末裔』は、血筋や受け継がれるものをめぐって、家族と記憶の問題を描く絲山秋子の小説です。題名は、人物が自分の始まりではなく、誰かの後に続く存在として生きている感覚を示します。乾いた文体のなかに、家の歴史と自己認識の不穏さが漂います。 家族記憶アイデンティティ
  173. 173 2011 虹色と幸運 にじいろとこううん 柴崎友香 単行本・筑摩書房 『虹色と幸運』は、柴崎友香らしい観察の文体で、都市の日常に差す色や偶然を拾う小説です。虹色や幸運は大きな救済ではなく、人物の生活のなかにふと現れて消える感覚として読めます。恋愛、記憶、孤独が、静かな風景描写のなかに沈んでいます。 恋愛記憶孤独と疎外
  174. 174 2011 すべて真夜中の恋人たち すべてまよなかのこいびとたち 川上未映子 単行本・講談社 『すべて真夜中の恋人たち』は、孤独な校閲者・冬子と年上の物理教師・三束さんの出会いを描く川上未映子の長編です。真夜中の光や静けさは、都市で働く女性の孤独と、他者に近づこうとする繊細な感情を照らします。恋愛小説でありながら、労働、孤独、自己認識の物語として読めます。 恋愛孤独と疎外労働
  175. 175 2011 ビリジアン ビリジアン 柴崎友香 単行本・毎日新聞社 『ビリジアン』は、色彩、風景、記憶の手ざわりを、柴崎友香らしい観察の文体で描く小説です。ビリジアンという色名は、人物の感情を説明するのではなく、視覚的な印象として残します。都市や郊外の日常のなかで、孤独と芸術的な感受性が静かに重なります。 記憶芸術と表現孤独と疎外
  176. 176 2011 私のいない高校 わたしのいないこうこう 青木淳悟 単行本・講談社 『私のいない高校』は、1992年の小学校を舞台に、校舎から見える家に住む子供の視点で綴られる青木淳悟の連作です。学校という共同体のなかにいるようでいない感覚が、記憶と観察のずれとして積み上がります。子供の視界を通じて、同調圧力と孤立が静かに浮かぶ作品です。 青春記憶同調圧力 第25回 三島賞
  177. 177 2011 獅子頭 しーずとう 楊逸 単行本・朝日新聞出版 『獅子頭』は、獅子舞を思わせる題名を通じて、移動する人びとの記憶や家族のつながりを描く楊逸の小説です。中国語圏の文化的な記憶と日本語で書く現在が重なり、越境の感覚が作品の核になります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境家族記憶
  178. 178 2011 きんのじ きんのじ 馳平啓樹 初出・「文學界」2011年12月号 『きんのじ』は、大阪文学学校在籍中に書かれた長谷原宏己のデビュー作です。製造業で働く人物の日常と内面を静かな文体で描く作品として整理されています。労働の反復の中にある孤独や尊厳を、派手な事件ではなく生活の手触りから読む作品です。 労働孤独と疎外私小説的 第113回 文學界新人賞
  179. 179 2011 楽器 がっき 滝口悠生 初出・「新潮」2011年11月号 『楽器』は、記憶と語りの重なりを繊細に扱った滝口悠生のデビュー短篇です。音や楽器のイメージを通じて、過去の出来事や人の声が現在の語りに響きます。のちに芥川賞・野間文芸新人賞を受賞する作者の、時間感覚と語りの特徴を示す出発点です。 記憶芸術と表現言葉と言語 第43回 新潮新人賞
  180. 180 2011 半島へ はんとうへ 稲葉真弓 初出・単行本刊行2011年・講談社。初出誌は未確認のため単行本年を year に採用 『半島へ』は、伊勢志摩の半島地帯を舞台に、衰えゆく自然と人間の静かな対話を描く散文詩的長編です。土地の風景と老い、移ろう自然の気配が、ゆるやかな時間の中で重なります。半島という外縁の場所から、生と死の境目を見つめる作品です。 老い死と喪失地方 第47回 谷崎賞
  181. 181 2011 異郷 いきょう 津村節子 初出・「文学界」2011年1月号掲載 『異郷』は、津村節子が夫・吉村昭の死後の喪失と生者の日常を静かに描いた短篇です。身近な死を経た後の生活を、過剰な感傷ではなく抑制された語りで見つめます。配偶者の不在を抱えて生きる時間を、静謐な読み味で描く作品です。 夫婦死と喪失老い 第37回 川端賞
  182. 182 2011 犬とハモニカ いぬ と はもにか 江國香織 初出・「新潮」2011年6月号掲載 『犬とハモニカ』は、孤独、記憶、男女の間に生じる微妙な感情を描く江國香織の短篇です。身近な事物である犬とハモニカのイメージが、語りの中で人と人の距離をやわらかく照らします。大きな事件よりも、感情のかすかな揺れを読む作品です。 恋愛記憶孤独と疎外 第38回 川端賞
  183. 183 2010 あのとき始まったことのすべて あのときはじまったことのすべて 中村航 単行本・角川書店 『あのとき始まったことのすべて』は、過去のある瞬間から始まった感情や関係を振り返る中村航の小説です。恋愛や青春の出来事は、後になって意味を変え、現在の語りのなかで再構成されます。平易な文体で、記憶のなかの始まりをたどる読み味があります。 恋愛青春記憶
  184. 184 2010 お別れの音 おわかれのおと 青山七恵 単行本・文藝春秋 『お別れの音』は、別れの瞬間やその前後に残る気配を、青山七恵らしい抑制された文体で描く作品です。音という題名は、はっきりした出来事よりも、生活のなかに残響する感情を思わせます。家族や恋愛の終わりを、静かな距離感で読む小説として整理できます。 恋愛家族死と喪失
  185. 185 2010 彼女のしあわせ かのじょのしあわせ 朝比奈あすか 単行本・光文社 『彼女のしあわせ』は、女性にとっての幸福が何によって測られるのかを、家族、恋愛、仕事の文脈から描く朝比奈あすかの小説です。題名の「彼女」は、誰かに見られる存在であると同時に、自分で幸福を選び直す存在でもあります。日常的な場面から、同調圧力と自己決定の問題が見えてきます。 ジェンダー恋愛家族
  186. 186 2010 アクアノートとクラゲの涙 あくあのーととくらげのなみだ 樋口直哉 単行本・メディアファクトリー 『アクアノートとクラゲの涙』は、水中を思わせるイメージとクラゲの浮遊感を通じて、記憶や孤独を描く樋口直哉の小説です。題名の柔らかい幻想性は、現実から少し離れた視界を与えます。公開資料で内容細部を確認できていないため、書誌と題名から確実に言える範囲での暫定紹介です。 記憶孤独と疎外青春
  187. 187 2010 うちに帰ろう うちにかえろう 広小路尚祈 単行本・文藝春秋 『うちに帰ろう』は、家へ帰るという素朴な動作を通じて、家族や生活の拠点を見つめ直す広小路尚祈の小説です。帰る場所は安心だけでなく、過去や関係の重さを引き受ける場所でもあります。平明な題名のなかに、家族と地方的な生活感への問いが込められています。 家族記憶孤独と疎外
  188. 188 2010 見知らぬ人へ、おめでとう みしらぬひとへおめでとう 木村紅美 単行本・講談社 『見知らぬ人へ、おめでとう』は、見知らぬ相手に向けた祝福という奇妙な距離感から、他者との関係を描く木村紅美の作品です。直接の親密さではなく、社会のなかですれ違う人びとへの想像が物語を動かします。都市的な孤独と、言葉によって関係を作ることの危うさが読みどころです。 孤独と疎外言葉と言語家族
  189. 189 2010 コトリトマラズ ことりとまらず 栗田有起 単行本・集英社 『コトリトマラズ』は、止まらずに動き続ける小鳥のような感覚を通じて、人物の落ち着かなさや生活の変化を描く栗田有起の小説です。定住できない心の動きと、日常の小さなずれが物語の軸になります。軽やかな題名の奥に、孤独と移動の感覚が見えます。 孤独と疎外家族記憶
  190. 190 2010 埋葬 まいそう 横田創 単行本・早川書房 『埋葬』は、死者を葬る行為を通じて、記憶、喪失、残された者の時間を描く横田創の小説です。埋葬は終わらせる儀式であると同時に、過去を地中に置いたまま忘れられない行為でもあります。静かな不穏さのなかで、死と生活の境界を読む作品です。 死と喪失記憶家族
  191. 191 2010 真綿荘の住人たち まわたそうのじゅうにんたち 島本理生 単行本・文藝春秋 『真綿荘の住人たち』は、下宿や共同住宅を思わせる場所に集まる人びとの孤独とつながりを描く島本理生の作品です。住人たちは近くにいながら、それぞれの痛みや幸福の基準を抱えています。真綿のような柔らかさと息苦しさが同居する、関係性の小説です。 恋愛家族孤独と疎外
  192. 192 2010 寝ても覚めても ねてもさめても 柴崎友香 単行本・河出書房新社 『寝ても覚めても』は、突然姿を消した恋人と瓜二つの顔を持つ男に出会った朝子の長い恋を描く柴崎友香の長篇です。恋愛の選択は、過去の記憶と現在の生活がどのように重なるかという問題として描かれます。大阪や東京を行き来する時間のなかで、同じ顔と違う人生をめぐる不穏な感覚が残ります。 恋愛記憶アイデンティティ 第32回 野間新人賞
  193. 193 2010 祝福 しゅくふく 長嶋有 単行本・河出書房新社 『祝福』は、長嶋有らしい抑えたユーモアで、日常の会話や記憶のずれをすくう作品です。大きな事件よりも、人が誰かを祝う、あるいは祝福できない瞬間の微妙な距離に焦点があります。平明な語りのなかで、家族や友人関係に残る孤独が静かに見えてきます。 家族記憶孤独と疎外
  194. 194 2010 それいゆ それいゆ 生田紗代 単行本・角川書店 『それいゆ』は、題名が示す光や明るさとは対照的に、若い人物の自己認識や恋愛の揺れをたどる小説として整理できます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌情報と作者の同時期作品の文脈に基づく暫定的な紹介です。明るさに向かう感覚と、都市的な孤独のあいだに読みどころがあります。 青春恋愛アイデンティティ
  195. 195 2010 陽だまり幻想曲 ひだまりげんそうきょく 楊逸 単行本・講談社 『陽だまり幻想曲』は、楊逸が日本語で描く移動者の生活感覚を、光のある場所への憧れと結びつける作品です。家族や言葉のずれは、異国で暮らす人物の孤独と希望を同時に映します。日常の会話に潜む違和感が、越境文学としての読みどころになります。 移民と越境家族言葉と言語
  196. 196 2010 夜よりも大きい よるよりもおおきい 小野正嗣 単行本・リトルモア 『夜よりも大きい』は、小野正嗣が土地、記憶、喪失の感覚を静かに重ねる作品です。夜という時間よりも大きなものに包まれる感覚が、人物の孤独や死者の気配を呼び込みます。公開資料では内容細部を確認しきれていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶孤独と疎外死と喪失
  197. 197 2010 きことわ きことわ 朝吹真理子 初出・「新潮」2010年9月号 『きことわ』は、葉山の別荘で幼少期を共にした貴子と永遠子が、二十五年後に別荘の解体を機に再会する作品です。夢と記憶が重なり、現在の時間の中にかつての少女時代が静かに蘇ります。大きな事件よりも、時間の層と二人の距離を繊細に読む作品です。 記憶青春家族 第144回 芥川賞
  198. 198 2010 朝が止まる あさがとまる 淺川継太 初出・「群像」2010年6月号 『朝が止まる』は、ある朝の停止をめぐる内省的な物語として登録されている浅川圭太のデビュー作です。日常の時間が止まるという設定を通じて、個人の意識や世界との距離を見つめます。静かな異常事態を扱うことで、日常の輪郭を浮かび上がらせる作品です。 記憶孤独と疎外一人称
  199. 199 2009 かけら かけら 青山七恵 単行本・新潮社 『かけら』は、日常の小さな破片のような出来事から、若い人物の孤独や関係の変化をすくい上げる青山七恵の作品です。簡潔な語りは感情を説明しすぎず、読者に余白を残します。家族や恋愛のはっきりしない揺れを、静かな手ざわりで読む小説です。 青春家族孤独と疎外
  200. 200 2009 魔法使いクラブ まほうつかいくらぶ 青山七恵 単行本・幻冬舎 『魔法使いクラブ』は、若い人びとの小さな結びつきや願望を、魔法という言葉の軽やかさで包む作品です。現実を大きく変える力ではなく、日々を少しだけ違って見せる想像力が中心になります。青山七恵らしい静かな文体で、青春と孤独のあいだを描きます。 青春孤独と疎外芸術と表現
  201. 201 2009 ドリーマーズ ドリーマーズ 柴崎友香 単行本・講談社 『ドリーマーズ』は、夢を見ることと現実を生きることのずれを、柴崎友香らしい都市の時間感覚で描く作品です。人物たちの関係は劇的に変わるというより、会話や移動のなかで少しずつ輪郭を変えます。淡い題名に対して、日常の底に残る孤独も読みどころになります。 記憶恋愛孤独と疎外
  202. 202 2009 君が降る日 きみがふるひ 島本理生 単行本・幻冬舎 『君が降る日』は、失われた相手への思いと、残された人の時間を描く島本理生の恋愛小説です。題名の「降る」は、記憶が突然日常へ戻ってくる感覚を思わせます。静かな語りの中で、喪失、恋愛、再生の気配が重なります。 恋愛死と喪失記憶
  203. 203 2009 月食の日 げっしょくのひ 木村紅美 単行本・文藝春秋 『月食の日』は、日常のなかに差し込む陰りを、月食という天体現象のイメージと重ねる木村紅美の作品です。人との距離や生活の変化が、明るさを一時的に失う感覚として描かれます。静かで観察的な文体が、家族や孤独の輪郭を浮かび上がらせます。 家族記憶孤独と疎外
  204. 204 2009 ねたあとに ねたあとに 長嶋有 単行本・朝日新聞出版 『ねたあとに』は、眠った後、起きた後に残る気配のようなものを、長嶋有らしい淡いユーモアで描く作品です。日常の会話や場面は軽く見えますが、人物同士の距離は少しずつ変化します。生活の小さな時間を、静かなずれとして読む小説です。 家族記憶孤独と疎外
  205. 205 2009 東京借景 とうきょうしゃっけい 荻世いをら 初出・文藝 2008年秋号 『東京借景』は、東京という都市を背景ではなく、人物の感情を借りて映す景色として扱う荻世いをらの作品です。既存データでは初出が『文藝』2008年秋号と確認され、都市の移動や視線が中心になる作品として位置づけられます。街の細部を通じて、孤独と生活の断片を読む小説です。 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  206. 206 2009 世紀の発見 せいきのはっけん 磯﨑憲一郎 単行本・河出書房新社 『世紀の発見』は、巨大な機関車と大きな鯉の記憶、そして消えた友人をめぐって語りが展開する長篇です。現実の出来事と記憶の像が入り混じり、世界の見え方そのものが少しずつ変わっていきます。磯﨑憲一郎らしい、夢のようで乾いた語りの運動が読みどころです。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  207. 207 2009 線路と川と母のまじわるところ せんろとかわとははのまじわるところ 小野正嗣 単行本・朝日新聞出版 『線路と川と母のまじわるところ』は、線路と川という移動のイメージを、母の記憶や土地の感覚と重ねる小野正嗣の作品です。場所の記憶は個人の家族史と結びつき、語りは土地をたどるように進みます。母と子、故郷、移動の主題を静かに読む小説です。 母と子記憶家族
  208. 208 2009 白い紙 しろいかみ シリン・ネザマフィ 初出・文學界 2009年6月号 イラン・イラク戦争下のイランの地方都市。成績優秀な高校生の男女が、勉強を口実に心を通わせていく。だが前線が近づくにつれ、家族の事情と戦争の影がふたりの未来を静かに引き裂いていく。日本語を母語としない書き手が、平易で簡潔な日本語によって戦時下の日常と若い恋の痛みを描き、戦争文学と青春小説を重ねてみせた… 戦争恋愛青春 第108回 文學界新人賞
  209. 209 2009 空に唄う そらにうたう 白岩玄 単行本・河出書房新社 『空に唄う』は、通夜に現れた死んだはずの女子大生と、新米の坊主が寺で同居を始めるという設定の作品です。死者がいる日常をユーモラスに扱いながら、生者が死や信仰とどう向き合うかを描きます。寺という場所が、現実と非現実、生と死のあわいを支えています。 死と喪失信仰恋愛
  210. 210 2009 水死 すいし 大江健三郎 単行本・講談社 『水死』は、父の死の記憶と「水死小説」の構想をめぐる、大江健三郎晩年の古義人もの長篇です。家族史、戦後史、文学を書くことが複層的に絡み、個人の記憶は国家や天皇制の問題にも接続します。長い息の文体で、作家自身の過去を再検討する作品です。 父と子記憶戦争
  211. 211 2009 ロンバルディア遠景 ろんばるでぃあえんけい 諏訪哲史 単行本・講談社 『ロンバルディア遠景』は、遠景という距離の感覚を通して、記憶、場所、言葉の変形を描く諏訪哲史の作品です。現実の土地はそのまま写されるのではなく、語りの中でずれ、遠ざかり、別の像になります。『りすん』同様、言葉そのものが主題化される実験的な小説として読めます。 言葉と言語記憶芸術と表現
  212. 212 2009 永遠のかけら えいえんのかけら 高瀬ちひろ 単行本・講談社 『永遠のかけら』は、失われた時間や記憶の断片を、恋愛や人間関係の揺れと重ねて読むことのできる高瀬ちひろの小説です。題名の「かけら」は、完全な永遠ではなく、人物の手元に残る小さな感情の痕跡を思わせます。公開資料で内容細部を十分に確認できていないため、書誌と題名から確実に言える範囲に絞って紹介します。 記憶恋愛孤独と疎外
  213. 213 2009 霊降ろし れいおろし 田山朔美 単行本・文藝春秋 『霊降ろし』は、死者や見えないものの気配を通じて、生者の記憶と喪失を描く田山朔美の小説です。霊的な題材は怪異そのものよりも、残された人が過去とどう向き合うかという問題に結びつきます。静かな不穏さのなかで、家族や信仰に近い感覚をたどる作品として整理できます。 死と喪失記憶信仰
  214. 214 2009 終の住処 ついのすみか 磯﨑憲一郎 単行本・新潮社 『終の住処』は、妻が突然口をきかなくなる朝から始まり、ある夫婦の二十年を描く磯﨑憲一郎の小説です。大きな事件よりも、時間の経過そのものが関係を変えていく様子に重心があります。淡々とした語りの背後で、夫婦、家、老い、記憶の問題が静かに積み重なります。 夫婦家族老い 第141回 芥川賞
  215. 215 2009 金魚生活 きんぎょせいかつ 楊逸 単行本・文藝春秋 『金魚生活』は、楊逸が日本語で描く生活の細部を通して、移動する人びとの感覚や家族の距離をすくう小説です。金魚という題名は、限られた水槽のなかで動く存在のように、環境に制約されながら生きる人物像を思わせます。異文化の間で暮らす日常のささやかな揺れが読みどころです。 移民と越境家族アイデンティティ
  216. 216 2008 やさしいため息 やさしいためいき 青山七恵 単行本・河出書房新社 『やさしいため息』は、芥川賞受賞後第一作として発表され、日常のなかで揺れる若い人物の息づかいを静かに描く作品です。家族や生活の小さな変化が、はっきりした事件よりも大きく人物の感情を動かします。青山七恵らしい簡潔な文体が、孤独と自立のあいだの時間をすくい取ります。 家族青春孤独と疎外
  217. 217 2008 声を聴かせて こえをきかせて 朝比奈あすか 単行本・光文社 『声を聴かせて』は、声を聞くこと、聞かれないことを通して、他者との距離を描く朝比奈あすかの作品です。親しい関係であっても届かない言葉があり、そのもどかしさが人物の孤独を形づくります。題名通り、声と言葉が関係をつなぐ細い線として働きます。 家族恋愛言葉と言語
  218. 218 2008 僕の好きな人が、よく眠れますように ぼくのすきなひとが、よくねむれますように 中村航 単行本・角川書店 『僕の好きな人が、よく眠れますように』は、好きな人の眠りを願うという柔らかな感情から、恋愛と不安を描く中村航の小説です。眠ることは身体の平穏であり、相手を思う距離の象徴でもあります。若い恋愛のまぶしさと、相手に触れきれない切なさを併せ持つ作品です。 恋愛身体青春
  219. 219 2008 星空の下のひなた。 ほしぞらのしたのひなた 樋口直哉 単行本・光文社 『星空の下のひなた。』は、星空とひなたという対照的なイメージを重ね、若い人物の恋愛や孤独を描く作品として整理できます。明るさと暗さが同じ場面に同居し、日常のなかで見落とされがちな感情をすくいます。書誌以外の資料は少なく、今後は紹介記事・書評で精度を上げたい作品です。 青春恋愛孤独と疎外
  220. 220 2008 星のしるし ほしのしるし 柴崎友香 単行本・文藝春秋 『星のしるし』は、日常の風景のなかに残る小さな兆しを、柴崎友香らしい観察で描く作品です。星という遠いもののイメージが、都市の生活や人との距離に静かな奥行きを与えます。歩くような文体で、恋愛や記憶が大きな劇ではなく生活のなかに滲みます。 記憶恋愛孤独と疎外
  221. 221 2008 彼女について かのじょについて 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『彼女について』は、ひとりの女性をめぐる記憶と語りから、失われたものや届かなかった感情をたどる作品です。よしもとばなならしい透明感のある文体で、死や喪失の気配をやわらかく包みます。誰かについて語ることが、自分自身を語り直すことにもなる小説です。 記憶恋愛死と喪失
  222. 222 2008 花束 はなたば 木村紅美 単行本・朝日新聞出版 『花束』は、贈り物としての花束が持つ親密さと儀礼性を手がかりに、人と人の関係を描く作品です。美しいものを差し出す行為の裏に、言えなかった感情や生活の痛みが潜みます。静かな語りのなかで、家族や恋愛の距離が少しずつ見えてきます。 家族恋愛孤独と疎外
  223. 223 2008 イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集 いぎりすかいがん いーはとーう たんぺんしゅう 木村紅美 単行本・メディアファクトリー 『イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集』は、宮沢賢治のイーハトーヴを思わせる場所の記憶や文学的想像力を、短篇のかたちでたどる作品集です。実在の土地と架空の地名が重なり、読むこと、訪ねること、思い出すことがひとつにつながります。静かな幻想性と地方の手触りが読みどころです。 芸術と表現記憶言葉と言語
  224. 224 2008 金色のゆりかご きんいろのゆりかご 佐川光晴 単行本・光文社 『金色のゆりかご』は、ゆりかごのイメージが示す家族や子どもの時間を、現実の生活のなかで見つめる作品です。佐川光晴らしい社会への視線が、保護されるべき場所とそこから漏れる不安を描きます。家族の温かさと脆さを同時に読む小説として整理できます。 家族青春孤独と疎外
  225. 225 2008 蟋蟀 こおろぎ 栗田有起 単行本・筑摩書房 『蟋蟀』は、虫の声や小さな気配を思わせる題名のもと、日常の奥に潜む不安や孤独を描く栗田有起の作品です。目立たないものに耳を澄ませるような語りが、家や都市の生活を少し奇妙なものに変えます。静かな現実感と寓話性の境目を読む小説です。 孤独と疎外家族記憶
  226. 226 2008 マイクロバス マイクロバス 小野正嗣 単行本・新潮社 『マイクロバス』は、移動する小さな乗り物を通して、地方の場所や人々の距離を描く小野正嗣の作品です。バスという共有空間は、共同体に属することと、そこから外れることの両方を見せます。静かな語りのなかで、土地の記憶と孤独がゆっくり浮かび上がります。 記憶孤独と疎外移民と越境
  227. 227 2008 長い終わりが始まる ながいおわりがはじまる 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『長い終わりが始まる』は、終わりが一瞬ではなく長く続いていく感覚を、恋愛や生活の変化に重ねる作品です。山崎ナオコーラらしい平明な語りが、別れや変化を大げさにせず日常の速度で見せます。終わりを迎えるまでの時間そのものを読む小説です。 恋愛青春孤独と疎外
  228. 228 2008 ありったけの話 ありったけのはなし 中山智幸 単行本・光文社 『ありったけの話』は、話すこと、語り尽くそうとすることを通して、人と人の関係を描く作品です。題名の通り、言葉を差し出すことが親密さの表現である一方、語っても残る距離も浮かび上がります。中山智幸の作品として、会話と記憶の密度を読む一冊です。 言葉と言語孤独と疎外恋愛
  229. 229 2008 波打ち際の蛍 なみうちぎわのほたる 島本理生 単行本・角川書店 『波打ち際の蛍』は、傷を抱えた人物が、波打ち際のように揺れる場所で他者との距離を測り直す島本理生の作品です。蛍の光のようなかすかな希望と、身体に残る痛みが同時に描かれます。恋愛や回復を単純に美化せず、触れ合うことの怖さまで含めて読ませます。 暴力恋愛身体
  230. 230 2008 主題歌 しゅだいか 柴崎友香 単行本・講談社 『主題歌』は、都市で暮らす人物たちの時間や感情を、音楽のように反復する記憶と結びつけて描く柴崎友香の作品です。大きな事件よりも、会話、移動、見えた風景の差異が人物の心の変化を形づくります。語りは静かですが、誰かの人生に流れている旋律を探すような読み味があります。 記憶恋愛芸術と表現
  231. 231 2008 サウスポイント サウスポイント 吉本ばなな 単行本・中央公論新社 『サウスポイント』は、よしもとばななが南の島の気配や移動の感覚を通じて、恋愛と家族の記憶を描く長篇です。明るい場所に向かう題名とは裏腹に、人物の内側には喪失や過去の影が残ります。土地の光や空気を、心の回復の過程と重ねて読む作品です。 恋愛家族記憶
  232. 232 2007 ひとり日和 ひとりびより 青山七恵 単行本・河出書房新社 『ひとり日和』は、二十歳の知寿が高齢の遠縁・吟子さんと同居し、働きながら自立の感覚を少しずつ探る作品です。老いと若さ、家族ではない同居、ひとりでいることの自由と寂しさが、淡々とした語りで描かれます。大きな成長物語ではなく、日々の観察から生活の輪郭が変わるところが読みどころです。 老い家族青春 第136回 芥川賞
  233. 233 2007 クローバー くろーばー 島本理生 単行本・角川書店 『クローバー』は、島本理生らしく、恋愛や記憶の細部から若い人物の揺れを描く作品です。幸運を連想させる題名に対して、語りは関係の不安定さや選び取れない気持ちにも目を向けます。淡い感情を、日常の光景のなかで少しずつ変化させる読み味があります。 恋愛青春記憶
  234. 234 2007 肝心の子供 かんじんのこども 磯﨑憲一郎 初出・文藝 2007年冬号 出家して悟りを開く前のブッダ、その息子のラーフラ、さらにその子へ——インドを舞台に親子三代の生をたどる。偉人の伝記ではなく、川の流れや樹木、身体の感覚といった即物的な描写を長い呼吸の文体で積み重ね、人の一生を超えて流れる時間そのものを小説に写し取ろうとする。商社マンとして働きながら書かれた42歳の遅… 父と子家族信仰 第44回 文藝賞
  235. 235 2007 島の夜 しまのよる 木村紅美 単行本・角川書店 『島の夜』は、島という隔てられた場所と夜の時間を背景に、孤独や記憶の濃度を描く作品として整理できます。閉じた地理は、人間関係を近づける一方で、逃げ場のなさも作ります。静かな語りのなかに、不安と親密さが同時に漂う読み味があります。 孤独と疎外記憶恋愛
  236. 236 2007 舞い落ちる村 まいおちるむら 谷崎由依 初出・文學界 2007年6月号 生まれ育った女系の村では、時間の進み方や年齢の重ね方が定まらず、ものの数も曖昧で、人々は個々の名前すらめったに持たない。「わたし」はその「言葉を信じない」村のあり方に違和感を抱き、村と大学のある街とを行き来するうち、言葉を信じ言葉で武装した人物に強く惹かれていく。土俗的な幻想と言語への意識を重ね合わ… 言葉と言語記憶家族 第104回 文學界新人賞
  237. 237 2007 また会う日まで またあうひまで 柴崎友香 単行本・河出書房新社 『また会う日まで』は、再会と別れをめぐる時間の感覚を、柴崎友香らしい日常の観察で描く作品です。人と人が会う場所、離れる場所、そのあいだに流れる記憶が物語の中心になります。関西の街を歩くような語りが、恋愛や孤独を過度に劇化せずに映し出します。 恋愛記憶孤独と疎外
  238. 238 2007 バイバイ ばいばい 望月あんね 単行本・光文社 『バイバイ』は、別れを告げる言葉の軽さと重さを、恋愛や生活の終わりの感覚に重ねる作品です。望月あんねの作品として、人物が関係を断ち切るときに残る記憶や孤独に焦点を置いて読めます。大きな事件よりも、去ることと残されることの温度差が読みどころになります。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  239. 239 2006 エスケイプ/アブセント えすけいぷ/あぶせんと 絲山秋子 単行本・新潮社 『エスケイプ/アブセント』は、逃避と不在という二つの言葉を軸に、関係のなかで空白を抱える人物を描く作品です。絲山秋子らしい簡潔な文体が、説明しすぎないまま感情の距離を保ちます。逃げること、いないこと、忘れられないことが重なり合う静かな読後感があります。 孤独と疎外記憶恋愛
  240. 240 2006 風化する女 ふうかするおんな 木村紅美 初出・文學界 2006年6月号 突然死んだ会社の先輩れい子には、職場で見せていたのとは別の顔があった。「私」はその謎をたどって東京から地方へと旅をし、死んだ女の生の痕跡に自分を重ねていく。日々がたえず「風化」していく都会の生活感覚を背景に、死者をなぞることでしか確かめられない自分の輪郭を、抑制された筆致で描いたデビュー作。 死と喪失孤独と疎外労働 第102回 文學界新人賞
  241. 241 2006 銀色の翼 ぎんいろのつばさ 佐川光晴 単行本・文藝春秋 『銀色の翼』は、生活の現場にいる人々の視線から、家族、労働、社会的な孤立を描く佐川光晴の小説です。派手な事件よりも、日々の選択や関係のほころびを通して人物を立ち上げるタイプの作品として位置づけられます。現実に踏みとどまる語りが、傷や希望を過度に美化しない点が読みどころです。 家族労働孤独と疎外
  242. 242 2006 ヘンリエッタ へんりえった 中山咲 初出・文藝 2006年冬号 みーさん、あきえさん、そして「わたし」。女3人は「ヘンリエッタ」に守られながら、ちょっと奇妙な共同生活を送っている。血縁とも友情ともつかない女たちの暮らしのディテールを、幼さの残るまっすぐな言葉でつづり、閉じた生活圏のやわらかさと危うさを同時に感じさせる。高校在学中の17歳が書いたデビュー作として注… 家族孤独と疎外青春 第43回 文藝賞
  243. 243 2006 イルカ イルカ 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『イルカ』は、よしもとばななの小説らしく、親密な関係と心身の変化をやわらかな語りで扱う作品です。題名が示す水辺のイメージは、閉じた日常から別の感覚へ移るための入口として働きます。喪失や不安を強く断定せず、ゆるやかな回復の気配を読む作品として位置づけられます。 恋愛家族身体
  244. 244 2006 幻をなぐる まぼろしをなぐる 瀬戸良枝 初出・すばる 2006年11月号 失恋の痛手を抱えた女性が、目の前にいない相手=「幻」をシャドーボクシングのように殴るという身体的な行為を通して、行き場のない感情と折り合いをつけようとする。応募時の題「新しい歌」を改題して受賞した作品で、感情を言葉ではなく身体の運動で処理しようとするヒロインの姿が印象を残す。2007年1月に集英社か… 恋愛身体孤独と疎外 第30回 すばる文学賞
  245. 245 2006 愛の島 あいのしま 望月あんね 単行本・講談社 『愛の島』は、島という閉じた場所を背景に、愛や孤独をめぐる関係の揺れを描く作品として整理できます。遠く離れた場所である島は、人物の逃避先であると同時に、自分の感情と向き合う場にもなります。書誌情報以外の詳細資料はまだ少ないため、今後の批評・紹介資料で精度を上げたい作品です。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  246. 246 2006 森のはずれで もりのはずれで 小野正嗣 単行本・文藝春秋 『森のはずれで』は、共同体の中心ではなく「はずれ」に立つ人物の感覚を、小野正嗣らしい静かな語りで描く作品です。森や周縁の場所は、記憶、土地、言葉の違いを考えるための舞台になります。中心から外れた場所で人がどう他者と出会うかを読む作品として位置づけられます。 移民と越境孤独と疎外記憶
  247. 247 2006 沖で待つ おきでまつ 絲山秋子 単行本・文藝春秋 『沖で待つ』は、同期入社の男女の友情と、死後に残された約束をめぐる作品です。恋愛に回収されない親密さを、職場の記憶と喪失の感覚を通して描きます。絲山秋子の簡潔で乾いた語りが、死者との距離を過度に sentimental にせず保つところが読みどころです。 労働死と喪失記憶 第134回 芥川賞
  248. 248 2006 ポータブル・パレード ぽーたぶる・ぱれーど 吉田直美 初出・新潮 2006年11月号 第38回新潮新人賞(小説部門)受賞作。同回の評論部門は受賞作なしだった。日本大学芸術学部出身で当時27歳の吉田直美のデビュー作で、「新潮」2006年11月号に全文掲載された。受賞後に単行本化されることはなく、著者のその後の作品発表の記録も乏しいため、雑誌掲載のみで読まれた「幻の受賞作」に近い存在とな… 孤独と疎外青春一人称 第38回 新潮新人賞
  249. 249 2006 その街の今は そのまちのいまは 柴崎友香 単行本・新潮社 『その街の今は』は、カフェで働く歌ちゃんが古い写真に写る大阪に惹かれ、街の過去と現在を行き来する作品です。写真という媒体が、個人の記憶だけでなく都市の時間をたどる装置になります。柴崎友香らしい歩くような文体で、街を見ることと自分の現在を確かめることが重なります。 記憶芸術と表現青春
  250. 250 2006 裏庭の穴 うらにわのあな 田山朔美 初出・文學界 2006年12月号 主婦の朝子は、幼い頃に母親が裏庭に何かを埋めるのを目撃したという記憶を、大人になっても抱え続けている。掘り返されないまま家族の足元に空いた「穴」のような記憶を軸に、平穏に見える家庭の日常の底に沈む鬱屈と、母と娘のあいだのほどけない結び目を描く。受賞作は2009年刊の作品集『霊降ろし』(文藝春秋)に収… 家族母と子記憶 第103回 文學界新人賞
  251. 251 2006 夕子ちゃんの近道 ゆうこちゃんのちかみち 長嶋有 単行本・新潮社 『夕子ちゃんの近道』は、商店街の人々をめぐる連作短篇集として、日常の小さな移動や出会いを描く作品です。大きな事件よりも、店、道、会話の連なりから人物の距離が変わる様子を見せます。長嶋有らしいユーモラスで少しずれた観察が、生活のなかの寂しさを軽く照らします。 労働家族記憶
  252. 252 2005 BGM びーじーえむ 岡田智彦 単行本・河出書房新社 現役教師として文藝賞を受賞した岡田智彦の、受賞後第一作として発表された作品。題名の「BGM」は、人物の感情を大きな事件で説明するのではなく、日常の背後で鳴り続ける気配として捉える読みを誘う。若い感覚と学校・生活の現場が交差する、2000年代文藝賞周辺の一作である。 青春芸術と表現孤独と疎外
  253. 253 2005 永遠の誓い えいえんのちかい 佐川光晴 単行本・講談社 佐川光晴の2005年刊行作で、約束や誓いが人間関係を支える一方、重荷にもなる局面を描く作品として整理できる。生活者の視点を離れず、家族や恋愛、働くことの中で、言葉だけでは保てない関係を見つめる。佐川作品らしい、過度に装飾しない文体が読みどころになる。 家族恋愛労働
  254. 254 2005 一千一秒の日々 いっせんいちびょうのひび 島本理生 単行本・マガジンハウス 恋愛や日常の短い時間を、きらめくような細部として集めた島本理生の作品集。大きな物語へ急がず、一瞬の表情や会話のずれが、人物の孤独や期待を浮かび上がらせる。若い恋の瑞々しさと、時間が過ぎていくことへの切なさが題名に重なる。 恋愛青春記憶
  255. 255 2005 まぼろし まぼろし 生田紗代 単行本・新潮社 母娘の確執を描く表題作と、実家に戻った娘の日常を描く「十八階ビジョン」を収める作品集。見えているはずの家族や故郷が、どこか「まぼろし」のように掴めなくなる感覚を、若い女性の視点から描く。日常の薄い不安と、過去から離れきれない心理が静かに重なる。 母と子家族記憶
  256. 256 2005 窓の灯 まどのひ 青山七恵 初出・文藝 2005年冬季号 大学を辞めた「私」は、時代に取り残されたような喫茶店の二階に住み込み、店を営む奔放な女主人のもとで働いている。日課は、向かいの部屋の窓の中の生活を覗き見ること。やがて視線は夜の街の散歩で垣間見える家々の窓へと広がっていく。覗くことのうしろめたさとゆるやかな官能を、抑制の効いた静かな文体でつづり、他人… 孤独と疎外青春 第42回 文藝賞
  257. 257 2005 みずうみ みずうみ 吉本ばなな 単行本・フォイル 母を亡くした女性と、過去に深い傷を抱えた青年の恋を描く長編。湖の静けさは、癒やしの場所であると同時に、人物が抱える記憶の暗さを映す場所にもなる。吉本ばななの柔らかな語りが、トラウマと恋愛を過剰に説明しすぎず、余韻として残す。 恋愛死と喪失記憶
  258. 258 2005 泣かない女はいない なかないおんなはいない 長嶋有 単行本・河出書房新社 泣かない、あるいは泣けない女性の姿を、恋愛や仕事の日常の中から描く長嶋有の中篇。感情を大きく説明せず、会話や行動の端に表れる違和感で、人物の孤独を浮かび上がらせる。ユーモラスな題名の裏に、強がりと弱さが同時にある作品である。 恋愛労働孤独と疎外
  259. 259 2005 ナラタージュ なら​たーじゅ 島本理生 単行本・角川書店 かつての恩師への思いを断ち切れない女子大生が、過去の記憶と現在の恋の間で揺れる長篇。恋愛の美しさよりも、戻れない時間に縛られる痛みが中心に置かれている。語りは静かだが、人物の未練や罪悪感が長く尾を引き、島本理生の代表的な恋愛小説として読まれてきた。 恋愛記憶青春
  260. 260 2005 踊るナマズ おどるなまず 高瀬ちひろ 初出・すばる 2005年11月号 ナマズにまつわる民話や伝説が数多く残る田多間町。弥生は中学の同級生・一真と民話のレポートを作るうち、「ナマズの番人」と呼ばれる元図書館司書・水口さんから古い伝説を聞き、ナマズの幻を見たという叔母・小夜子の記憶にも触れていく。やがて母となった弥生が胎児に語りかけるという入れ子の構成で、土地の記憶と性… 記憶母と子 第29回 すばる文学賞
  261. 261 2005 オテルモル おてるもる 栗田有起 単行本・集英社 『オテルモル』は、奇妙なホテルをめぐる幻想的な設定を手がかりに、旅先で宙づりになる感覚や、日常から少し外れた場所にいる人の孤独を描く作品です。栗田有起らしい軽やかな導入の奥に、記憶や帰属の揺らぎが潜む読み味があります。舞台の閉じた空間が、登場人物の不安と期待を増幅する点が読みどころです。 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  262. 262 2005 スモールトーク すもーるとーく 絲山秋子 単行本・二玄社 『スモールトーク』は、六台の車をめぐる連作として、移動、修復、喪失の感覚を描く作品です。車という具体物が、登場人物の距離感や回復の速度を測る装置になっています。絲山秋子らしい抑制された会話と乾いた文体が、傷ついた人々のささやかな再出発を浮かび上がらせます。 記憶死と喪失恋愛
  263. 263 2005 東京奇譚集 とうきょうきたんしゅう 村上春樹 単行本・新潮社 『東京奇譚集』は、「偶然の旅人」などを収め、都市の日常にふと入り込む不可思議な出来事を描く短編集です。村上春樹の抑制された語りが、偶然、喪失、記憶のずれを静かに増幅します。東京という現実的な地名を持ちながら、物語は現実の向こう側に開く寓話性を帯びています。 記憶死と喪失孤独と疎外
  264. 264 2004 アフターダーク あふたーだーく 村上春樹 単行本・講談社 深夜0時過ぎから夜明けまでの東京を舞台に、ファミリーレストラン、ホテル、オフィス、眠り続ける部屋がゆるく接続される。視点はカメラのように人物の間を移動し、姉妹、孤独な青年、暴力の痕跡を、夜の都市の断片として映し出す。長大な物語ではなく、時間を区切った構成と映像的な語りで、村上春樹作品の都市感覚を凝縮… 孤独と疎外暴力身体
  265. 265 2004 袋小路の男 ふくろこうじのおとこ 絲山秋子 単行本・講談社 何も与えない男に、三年間片思いし続ける女の静かな恋愛小説。恋が進展しないこと、相手が応えないことを、単純な不幸ではなく、関係が袋小路のまま続いていく時間として描く。大きな事件を抑えた文体の中に、絲山秋子らしい乾いた痛みと可笑しさが残る。 恋愛孤独と疎外記憶 第30回 川端賞
  266. 266 2004 灰色の瞳 はいいろのひとみ 佐川光晴 単行本・講談社 佐川光晴の2004年刊行作で、NDLには第一部・第二部として雑誌掲載記事が確認できる。人間関係や家族の記憶を、明るく割り切れない「灰色」の領域として見つめる作品として整理できる。佐川作品に通底する、生活の手触りと関係の痛みを追う読みに向いている。 家族記憶孤独と疎外
  267. 267 2004 初子さん はつこさん 赤染晶子 初出・文學界 2004年12月号 あんパンとクリームパンしか売らないパン屋の二階で、ひたすらミシンを踏む洋裁職人の初子さん。一枚の布が誰かの身体を待つ服になることに魅せられて職人になったものの、夢を叶えた先に広がるのは単調な日々だった。京都の田舎町のよどんだ空気と、そこで生きる女性の手仕事の時間を、とぼけたユーモアと正確な観察で描く… 労働孤独と疎外芸術と表現 第99回 文學界新人賞
  268. 268 2004 High and dry(はつ恋) ハイ・アンド・ドライ(はつこい) 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 14歳の少女・夕子の、年上の男性への初恋を描く長編。年齢差のある関係を、危うさよりも、少女の感覚が外界へ開かれていく時間として追っていく。吉本ばななの作品らしく、恋の痛みと透明な夢見心地が同じ調子で語られる。 恋愛青春芸術と表現
  269. 269 2004 人のセックスを笑うな ひとのせっくすをわらうな 山崎ナオコーラ 初出・文藝 2004年冬季号 美術専門学校に通う19歳の「オレ」は、20歳年上の講師・ユリと恋に落ちる。年の差も、ユリに夫がいることも、ふたりの関係のゆるさを変えはしないが、恋はやがて静かに終わっていく。性愛を声高に語らず、軽くやわらかい口語の文体で、若さの側から見た年上の女性のかわいさと残酷さをすくいとる。タイトルの挑発性と中… 恋愛青春 第41回 文藝賞
  270. 270 2004 パラレル ぱられる 長嶋有 単行本・文藝春秋 長嶋有の2004年刊行作で、複数の関係や時間が「パラレル」に並んでいく感覚をもつ長編。日常の会話やちょっとしたすれ違いを淡々と積み重ね、劇的な和解よりも、近くにいるのに重なりきらない人間関係を描く。脱力したユーモアの中に、現代的な孤独がにじむ。 夫婦恋愛孤独と疎外
  271. 271 2004 ショートカット ショートカット 柴崎友香 単行本・河出書房新社 柴崎友香が、都市の移動や人との距離を軽いタッチで描いた2004年刊行作。道を短く抜ける「ショートカット」の感覚は、場所だけでなく、関係や記憶へ近道を探す若い人物たちの姿にも重なる。淡い会話と細部の観察によって、日常の中にある変化の瞬間をすくう。 青春恋愛孤独と疎外
  272. 272 2004 タイムカプセル たいむかぷせる 生田紗代 単行本・河出書房新社 過去にしまいこんだ感情や記憶を、現在の自分が開け直すようにたどる作品。若い人物の時間感覚を、懐かしさだけでなく、未来へ残してしまったものへの不安として描く。生田紗代のデビュー後の文脈では、青春の明るさと居場所のなさを同時に読む入口になる。 記憶青春家族
  273. 273 2004 生まれる森 うまれるもり 島本理生 単行本・講談社 恋愛や喪失のあとに残る空白を、森というイメージに重ねて描く島本理生の初期長篇。人物の内面は激しく揺れながらも、語り口は抑制され、痛みが静かな風景の中に置かれる。青春小説の瑞々しさと、取り返しのつかない記憶を抱える重さが同居している。 恋愛死と喪失記憶
  274. 274 2004 海のふた うみのふた 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 故郷の海辺の町でかき氷屋を始めた女性のひと夏を描く長編。海、店、訪れる人々とのやりとりを通じて、傷ついた心が生活の手触りを取り戻していく。吉本ばなならしいやさしい幻想味が、地方の小さな商いと再生の感覚に結びついている。 労働家族記憶
  275. 275 2004 海の仙人 うみのせんにん 絲山秋子 単行本・新潮社 海辺で暮らす人物の孤独に、現実から少しずれた存在や関係が入り込んでくる絲山秋子の長篇。日常的な会話の軽さと、死や喪失の気配が同じ平面に置かれ、海辺の時間が寓話のように広がる。恋愛小説でも幻想小説でもあるが、どちらにも収まりきらない余白が読みどころになる。 孤独と疎外恋愛死と喪失
  276. 276 2003 デッドエンドの思い出 デッドエンドのおもいで 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 失恋や裏切りからの小さな回復を描く五篇の短篇集。傷ついた人物が、行き止まりに見える場所から少しずつ生活を取り戻す過程を、吉本ばなならしいやわらかい語りで描く。大きな救済ではなく、日常の中にある小さな光を読む作品集である。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  277. 277 2003 ハゴロモ ハゴロモ 吉本ばなな 単行本・新潮社 恋愛や喪失で傷ついた人物が、都会から少し距離を置いた土地で静かに時間を取り戻していく吉本ばななの長篇。水辺や町の気配、記憶の手触りを重ねながら、壊れた心がすぐに治るのではなく、生活のリズムの中でゆっくりほどけていく過程を描く。幻想味を帯びたやわらかな文体が、再生の物語を日常の側に引き寄せている。 恋愛死と喪失記憶
  278. 278 2003 ジャージの二人 じゃーじのふたり 長嶋有 単行本・集英社 仕事や家庭から少し離れた父と息子が、山の別荘で同じようなジャージを着て夏を過ごす。大きな事件の代わりに、食事、虫、テレビ、会話の間合いといった細部が積み重なり、親子でありながらどこか他人同士でもある二人の距離が浮かび上がる。長嶋有らしい、脱力したユーモアと静かな寂しさが同居する作品。 家族父と子労働
  279. 279 2003 夏休み なつやすみ 中村航 単行本・河出書房新社 就職も進路も決まりきらない青年が、夏の時間の中で宙ぶらりんの自分を抱えたまま過ごす。中村航らしい軽い会話と瑞々しい感覚で、何者にもなれない時期の切なさを描く。大きな転機よりも、季節の空気や友人関係の揺れが、青春の停滞と再生の気配を作っている。 青春労働孤独と疎外
  280. 280 2003 四十日と四十夜のメルヘン よんじゅうにちとよんじゅうやのめるへん 青木淳悟 初出・新潮 2003年11月号 チラシ配りをして暮らす「私」が書きつける日記。しかしその日付は素直に進まず、記述は反復と書き換えを繰り返しながら円環構造を描き、日常の風景がいつのまにか変容していく。「書くこと」自体を小説の駆動装置にした構成は、選考会で保坂和志が「これはピンチョンなんだ」と断言して強く推したことで知られる。単行本化… 言葉と言語記憶労働 第35回 新潮新人賞
  281. 281 2002 アルゼンチンババア アルゼンチンババア 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 母の死後、「アルゼンチンババア」と呼ばれる女性と暮らし始めた父をめぐる物語。奇妙な人物や場所への戸惑いを通して、家族の喪失を別の関係へ開いていく。吉本ばなならしい、死後の時間をやわらかく生き直す物語。 家族死と喪失孤独と疎外
  282. 282 2002 リトル・バイ・リトル りとる・ばい・りとる 島本理生 単行本・講談社 母の不在と継父との関係に揺れる少女の成長を描く島本理生の初期長編。十代の語り手が、家族への違和感、恋愛以前の孤独、日常の不安を少しずつ言葉にしていく。静かな文体で、傷つきやすい感情の変化を丁寧に追う作品。 家族青春孤独と疎外 第25回 野間新人賞
  283. 283 2002 にぎやかな湾に背負われた船 にぎやかなわんにせおわれたふね 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 九州の海辺の集落「浦」を舞台に、土地の人々の記憶と語りを紡ぐ長編。個人の物語が、海辺の共同体、死者、土地の歴史と重なり合う。小野正嗣らしい、声の重なりと土地の記憶を読む作品。 記憶死と喪失移民と越境 第15回 三島賞
  284. 284 2002 王国 その1 アンドロメダ・ハイツ おうこく そのいち アンドロメダ・ハイツ 吉本ばなな 単行本・新潮社 山奥で祖母と暮らした雫石が、都会で占い師の助手となる「王国」シリーズ第一作。自然の記憶、都市での仕事、スピリチュアルな感受性が交差し、傷ついた人が別の居場所を作る過程を描く。吉本ばなならしい癒やしと不思議さが、生活の手ざわりと結びつく。 記憶労働孤独と疎外
  285. 285 2002 リレキショ りれきしょ 中村航 初出・文藝 2002年冬季号 過去を捨てた19歳の「僕」は、「姉さん」と名乗る女性に拾われ、「半沢良」という新しい名前と居場所をもらう。深夜のガソリンスタンドでアルバイトをしながら、白紙に「どこへでもいける切符」を持つ自分の履歴書を書いてみる——。何者でもなくなった青年が、淡い人間関係のなかでもう一度自分の輪郭をなぞり直していく… アイデンティティ家族青春 第39回 文藝賞
  286. 286 2002 死せる魂の幻想 しせるたましいのげんそう 寺村朋輝 初出・群像 2002年6月号 お節介な祖母と二人暮らしで、アパートと大学を往復するだけの真面目な女子大生・千明。女友達はいても恋人はいない彼女の日常に潜む孤独感と、他者との関係への切実な渇望を描く。後半、奇妙な雨宿りの場面で物語は一変し、卑近な日常が途方もない神々しさへと接続される。現役京大生だった22歳の作者によるデビュー作で… 孤独と疎外家族青春 第45回 群像新人賞
  287. 287 2002 タンノイのエジンバラ たんのいのえじんばら 長嶋有 単行本・文藝春秋 長嶋有の2002年の作品で、オーディオ機器を思わせる題名が、生活の中の音や記憶への感度を示す。公開情報は限定的だが、日常の小さな違和感や人間関係の距離を、静かでユーモラスな筆致で捉える長嶋作品の系譜に置ける。内容細部は追加確認が必要。 記憶家族孤独と疎外
  288. 288 2002 海辺のカフカ うみべのかふか 村上春樹 単行本・新潮社 15歳の少年・田村カフカと老人ナカタの物語が並行して進む長編。家出、父と子、予言、暴力、異界的な出来事が絡み合い、現実と神話が重なる場所へ読者を導く。村上春樹の長編の中でも、寓話性と物語性が大きく広がった作品である。 父と子記憶暴力
  289. 289 2002 憂い顔の童子 うれいがおのどうじ 大江健三郎 単行本・講談社 大江健三郎の「おかしな二人組」三部作に連なる後期長編。作家・古義人を中心に、家族史、過去の暴力、共同体の記憶が重なり合う。晩年の大江が、自身の文学的記憶と死者との対話を小説化していく流れの中で読む作品である。 記憶家族死と喪失
  290. 290 2001 水に埋もれる墓 みずにうもれるはか 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 小野正嗣のデビュー作で、既存データでは朝日新人文学賞受賞作とされる。水や墓のイメージが示すように、土地、記憶、死者との関係をめぐる作品として位置づけられる。後の小野作品に続く、共同体の記憶と語りへの関心の出発点として読みたい。 記憶死と喪失孤独と疎外
  291. 291 2001 次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? つぎのまちまで、きみはどんなうたをうたうの 柴崎友香 単行本・河出書房新社 柴崎友香の初期作品で、次の町へ向かう移動の感覚と、若い人々の会話や音楽の気配を描く。大きなドラマではなく、場所が変わるときの心の揺れ、友人関係の距離、都市の日常の質感が中心になる。後の柴崎作品に通じる、移動と観察の文学として読める。 青春芸術と表現孤独と疎外
  292. 292 2000 ひな菊の人生 ひなぎくのじんせい 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 吉本ばななが2000年に刊行した作品で、ロッキング・オン版と後年の幻冬舎版の書誌が確認できる。公開情報は限定的だが、タイトルの柔らかさとは裏腹に、人生の記憶や痛みをすくい上げる吉本作品の系譜に置ける。現段階では内容細部の確認を次回課題として残す。 記憶死と喪失孤独と疎外
  293. 293 2000 神の子どもたちはみな踊る かみのこどもたちはみなおどる 村上春樹 単行本・新潮社 阪神・淡路大震災後の空気を背景にした六篇の連作短編集。大きな災害を直接描き尽くすのではなく、喪失や不安を抱えた人々の生活に、寓話や偶然の形で揺れを響かせる。「かえるくん、東京を救う」など、現実と幻想の境目を軽やかに越える短篇が含まれる。 災害死と喪失孤独と疎外
  294. 294 2000 看板屋の恋 かんばんやのこい 都築隆広 初出・文學界 2000年12月号 受賞作なしが続いた時期の文學界新人賞で、2000年下期に単独で選ばれた短篇。『文學界』2000年12月号に掲載されたが単行本未収録のままで、今日では掲載誌でしか読めない。作者の都築隆広は当時22歳の若さでデビューしたものの、その後は脚本家・放送作家として映像分野へ活動の軸を移した。新人賞受賞が必ずし… 恋愛労働簡潔な文体 第91回 文學界新人賞
  295. 295 2000 体は全部知っている からだはぜんぶしっている 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 身体の記憶をモチーフにした吉本ばななの掌篇集。心では整理できない痛みや違和感が、身体の感覚として先に反応する瞬間をすくう。短い形式の中で、病、恋愛、喪失、生活の手ざわりを静かに重ねる。 身体記憶
  296. 296 2000 きょうのできごと きょうのできごと 柴崎友香 単行本・河出書房新社 京都で開かれた引っ越し祝いの飲み会に集まった若者たちの一夜を、複数の視点から描く柴崎友香のデビュー作。大きな事件よりも、会話、部屋の空気、街への移動が作る微細なずれを積み重ねる。日常の時間をそのまま文学の中心に置く、後の柴崎作品へつながる出発点。 青春孤独と疎外記憶
  297. 297 2000 肉触 にくしょく 佐藤智加 初出・文藝 2000年冬季号 「精神か肉体かいずれかを捨てるなら、私は迷うことなく精神を捨てる」という挑発的な一文から始まり、姉への追憶に支えられた「私」の内的世界が静かに崩れていく過程を描く。観念と肉体感覚が分かちがたく絡み合う濃密な文章を、当時17歳の高校生が書いたことが衝撃をもって受け止められた。詩で受賞歴のある作者らしく… 身体記憶孤独と疎外
  298. 298 2000 取り替え子(チェンジリング) とりかえこ 大江健三郎 単行本・講談社 義兄・吾良の自死をきっかけに、作家・古義人が過去の謎をたどる長編。録音された声や記憶を通して死者と対話し、家族史、映画、芸術、自己の来歴が絡み合う。大江後期の「おかしな二人組」三部作へつながる、喪失と再生の作品。 死と喪失家族記憶
  299. 299 1999 ハードボイルド/ハードラック ハードボイルド/ハードラック 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 「ハードボイルド」と「ハードラック」2篇からなる短編集。前者は別れた同性の恋人を思いながらの不思議なひとり旅、後者は植物人間となった姉の看病を通して芽生える愛を描く。死と喪失を核に据えながら癒しと前進を模索する。 死と喪失恋愛
  300. 300 1999 蔭の棲みか かげのすみか 玄月 初出・「文學界」1999年11月号 在日朝鮮人が暮らす大阪の下町を舞台に、戦争で手首を失った最古参の住人ソバンの68年間の人生と、集落で起きる事件や日常を描く。在日文学の系譜に連なりつつ独自の土着性を持つ作品。藤野千夜「夏の約束」と同時受賞。 移民と越境戦争家族 第122回 芥川賞
  301. 301 1999 クレア、冬の音 くれあ、ふゆのおと 遠藤純子 初出・「新潮」1999年11月号 元都立高校教員・大学准教授が59歳でのデビュー。 家族移民と越境簡潔な文体 第31回 新潮新人賞
  302. 302 1998 おぱらばん おぱらばん 堀江敏幸 初出・青土社1998年刊 フランスの郊外に暮らす「私」が時代に忘れられた文学への愛惜と結びつきながら書いた15篇。表題作は、中国人が「以前(オーパラバン)」と発音すると外国人には「おぱらばん」と聞こえるという着想から卓球名人の肖像を描く。エッセイと純文学の境界を横断する形式が新鮮な小説集。第12回三島由紀夫賞受賞(鈴木清剛と… 言葉と言語記憶芸術と表現 第12回 三島賞
  303. 303 1998 望潮 もちしお 村田喜代子 初出・「新潮」1998年6月号初出。 潮の満ち引きを軸に、老年期の女性の意識と記憶が揺れ動く短篇。村田喜代子の南九州的な感性と幻視的な文体が際立つ代表的な短篇作品。 老い記憶島・海辺 第25回 川端賞
  304. 304 1997 ハネムーン ハネムーン 吉本ばなな 単行本・中央公論社 18歳で結婚した主人公まなかと幼なじみの裕志が、祖父の死をきっかけに夫の抱える過去(宗教に絡む父の死)と向き合い、喪失の痛みを支え合いながら成長していく長編。ブリスベンへのハネムーンが旅として心の整理を果たす。 夫婦死と喪失一人称
  305. 305 1997 叶えられた祈り かなえられたいのり 萱野葵 初出・「新潮」1997年11月号 『叶えられた祈り』は、萱野葵のデビュー作にあたる新潮新人賞受賞作です。既存情報では、後に映画化される『段ボールハウス・ガール』へつながる作者の出発点として整理されています。祈りという題名が示す願望と現実のずれを軸に、都市的な孤独を読む作品として位置づけました。 孤独と疎外信仰私小説的 第29回 新潮新人賞
  306. 306 1996 季節の記憶 きせつのきおく 保坂和志 初出・「群像」等に発表後、単行本1996年講談社刊。連載誌の詳細は特定できないため単行本刊行年を year とした。 鎌倉・稲村ヶ崎を舞台に、父と息子が過ごす初秋から冬の日々を断片的に描いた長篇。出来事ではなく意識の流れと時間の質感そのものを書こうとした保坂文学の代表作。平林たい子文学賞とのW受賞。単行本刊行年を year に採用。 家族記憶長い息の文体 第33回 谷崎賞
  307. 307 1996 赤い満月 あかいまんげつ 大庭みな子 初出・掲載誌・号の詳細は特定できなかった。 大庭みな子が晩年に書いた短篇。1996年に脳梗塞で倒れた年の受賞作で、赤い満月のイメージをめぐりながら女性の意識と身体をテーマとして描く幻視的な作品。 身体記憶寓話・幻想 第23回 川端賞
  308. 308 1996 台所 だいどころ 坂上弘 初出・「新潮」1996年9月号初出。 サラリーマン作家・坂上弘が夕暮れの台所という日常の場に立ちながら、過去と現在を静かに往還する短篇。小田実「「アボジ」を踏む」との同時受賞。 記憶家族 第24回 川端賞
  309. 309 1995 この人の閾 このひとのいき 保坂和志 初出・「新潮」1995年3月号 近隣に住む人々の日常の会話や時間の流れを、思索的かつ穏やかな視点でたどった短編。保坂和志の「日常の哲学」が凝縮された作品で、芥川賞選考委員から高く評価された。 簡潔な文体都市・郊外静謐 第113回 芥川賞
  310. 310 1995 路地 ろじ 三木卓 初出・「群像」1995年1月号〜1997年1月号に「鎌倉」の通しタイトルで断続掲載。単行本1997年6月講談社刊。初出連載開始年(1995年)を year とした。 鎌倉の路地と古書肆を舞台とした7篇からなる連作短篇集。廃業した店、老いた人々、去りゆく時間を小津安二郎的な視点で丁寧に掬い取る。単行本化にあたり「鎌倉」から「路地」に改題。 老い記憶地方 第33回 谷崎賞
  311. 311 1994 緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道 みどりいろのにごったおちゃあるいはこうふくのさんぽみち 山本昌代 初出・河出書房新社1994年刊 難病で下半身が不自由な鱈子と、書き物をする姉・定年後にウォーキングをする父・メニエル病の母という4人家族の穏やかな日常を淡々と描く詩的中編小説。父の癌発見が家族に暗雲をもたらす。第8回三島由紀夫賞受賞。 家族 第8回 三島賞
  312. 312 1994 虹の岬 にじのみさき 辻井喬 初出・単行本1994年1月中央公論社刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 大企業の要職を辞した男とその恋人である京都大学教授夫人との25年越しの情愛を描く恋愛長篇。加賀平野の鶴来を主な舞台とし、人生の決断と喪失を静謐な文体で綴る。単行本刊行年を year に採用。 恋愛死と喪失長い息の文体 第30回 谷崎賞
  313. 313 1994 みのむし みのむし 三浦哲郎 初出・「新潮」等1994年頃掲載。短篇集『ふなうた(短篇集モザイク 2)』(新潮社、1994年)に収録。初出誌・号の詳細は特定できないため収録単行本刊行年を year とした。 農家の老いた夫婦が蓑虫を題材にした短い会話を通して、生命の儚さと互いへの愛着を静かに語らう短篇。三浦哲郎の短篇集モザイクシリーズの一作で、川端賞の2度目の受賞作。単行本年を year に採用。 老い家族簡潔な文体 第22回 川端賞
  314. 314 1993 とかげ とかげ 吉本ばなな 単行本・新潮社 癒しと時間をテーマにした六篇の短篇集。 恋愛記憶簡潔な文体
  315. 315 1993 冗談関係のメモリアル じょうだんかんけいのめもりある 中村邦生 初出・「文學界」1993年12月号(第77回受賞、篠原一と同時受賞) 『冗談関係のメモリアル』は、中村邦生が第77回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLでは受賞作発表記事と『文學界』1993年12月号の書誌を確認できます。題名から、冗談や記憶をめぐる人間関係を扱う作品と見られますが、内容の詳細は未確認です。 記憶家族孤独と疎外 第77回 文學界新人賞
  316. 316 1993 日本の家郷 にほんのかきょう 福田和也 初出・新潮社1993年2月刊 近代日本の精神史・文化史を批評的に読み解いた論考集。保守主義的な視座から日本的なものの本質を問い、車谷長吉と同時に第6回三島由紀夫賞を受賞した(小説・評論の同時受賞という異例のケース)。 記憶言葉と言語日本史 第6回 三島賞
  317. 317 1993 草の上の朝食 くさのうえのちょうしょく 保坂和志 初出・「群像」1993年3月号、講談社1993年8月刊 デビュー作「プレーンソング」の続編。鎌倉を舞台に、だらだらとした日常の時間の流れと複数の登場人物の意識の交錯を丁寧に描く。保坂和志が「小説は何を描くべきか」という問いを実践した初期の代表作。第15回野間文芸新人賞受賞(奥泉光と同時)。 実験的文体都市・郊外静謐 第15回 野間新人賞
  318. 318 1993 セミの追憶 せみのついおく 古山高麗雄 初出・「新潮」1993年5月号初出。 戦時中の記憶とセミの声を結びつけた老境の短篇。従軍体験を持つ古山高麗雄が、生き残った者の罪責感と記憶の透明な残像を繊細に描く。 戦争記憶死と喪失 第21回 川端賞
  319. 319 1992 花に問え はなにとえ 瀬戸内寂聴 初出・単行本1992年中央公論社刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 『花に問え』は、念仏聖・一遍の生涯を追いながら、彼に出会った一人の女性の視点から信仰と無常を描く宗教小説です。歴史上の宗教者を題材にしつつ、信仰へ向かう心の揺れを抒情的にたどります。瀬戸内寂聴の宗教的主題と物語性が結びついた作品です。 信仰死と喪失日本史 第28回 谷崎賞
  320. 320 1991 至高聖所(アバトーン) しこうせいしょ あばとーん 松村栄子 初出・「海燕」1991年10月号(福武書店) 『至高聖所(アバトーン)』は、大学生活と若者の精神的な苦闘を叙情的に描く松村栄子の芥川賞受賞作です。親密な関係と孤独、学びの場での息苦しさを、若い語りの感覚で立ち上げます。『海燕』掲載作として芥川賞を受けた点でも、1990年代初頭の文芸誌環境を示す作品です。 孤独と疎外青春一人称 第106回 芥川賞
  321. 321 1991 海を渡る植物群 うみをわたるしょくぶつぐん みどりゆうこ 初出・「文學界」1991年6月号(第72回受賞) 『海を渡る植物群』は、みどりゆうこが第72回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLで受賞作発表記事と『文學界』1991年6月号の書誌を確認できました。題名から越境や移動のイメージがうかがえますが、物語内容を具体的に確認できる公開資料は今回見つからず、紹介は書誌中心です。 移民と越境記憶簡潔な文体 第72回 文學界新人賞
  322. 322 1991 予感 よかん 釉木淑乃 初出・「すばる」1991年 『予感』は、釉木淑乃が第15回すばる文学賞を受賞した作品です。NDLでは『すばる』1991年12月号の受賞作発表記事と、1992年集英社版の単行本書誌を確認できます。詳細なあらすじは今回確認できなかったため、紹介は新人賞受賞作としての位置づけに留めます。 恋愛記憶簡潔な文体 第15回 すばる文学賞
  323. 323 1991 やすらかに今はねむり給え やすらかにいまはねむりたまえ 林京子 初出・各短篇は1980年代後半に複数誌に発表。単行本1991年講談社刊。初出連載年の特定が困難なため単行本刊行年を year とした。 『やすらかに今はねむり給え』は、長崎、上海、アメリカを背景に、被爆者としての記憶と海外体験を重ねる短篇集です。戦争の傷を大きな声で告発するだけでなく、戦後を生き続ける人物の静かな時間に沈めて描きます。林京子の原爆文学の系譜にあり、移動と記憶が響き合う一冊です。 戦争記憶死と喪失 第26回 谷崎賞
  324. 324 1991 西行花伝 さいぎょうかでん 辻邦生 初出・「新潮」1991年1月号〜1993年6月号(断続連載・全24回)。単行本1995年新潮社刊。初出連載開始年(1991年)を year とした。 『西行花伝』は、平安末期の歌人・西行の生涯を、架空の弟子・藤原秋実の視点から描く大作歴史小説です。出家の謎、和歌、信仰、絶対美への希求が、貴族社会の精緻な描写の中で重なっていきます。歴史小説でありながら、芸術とは何かを問う思索小説として読めます。 芸術と表現信仰三人称・多視点 第31回 谷崎賞
  325. 325 1991 伯父の墓地 おじのぼち 安岡章太郎 初出・「新潮」1991年掲載。 『伯父の墓地』は、亡くなった伯父の墓参を題材に、生と死、記憶の連鎖を老境から見つめる短篇です。大きな事件を置かず、親族の記憶と墓地という場所から、時間の堆積を静かに浮かび上がらせます。安岡章太郎晩年の私小説的な成熟が感じられる作品です。 死と喪失記憶老い 第18回 川端賞
  326. 326 1990 静かな生活 しずかなせいかつ 大江健三郎 単行本・講談社 『静かな生活』は、父の不在中、障害を持つ兄イーヨーと妹マーちゃんが暮らす日々を描く連作です。家族のケア、創作、日常の小さな秩序が、妹の視点を通して穏やかに語られます。大江健三郎の家族をめぐる作品群のなかでも、家庭内の静けさと緊張を同時に感じさせる一冊です。 家族障害一人称
  327. 327 1990 じねんじょ じねんじょ 三浦哲郎 初出・「新潮」1990年掲載。短篇集『みちづれ(短篇集モザイク 1)』(新潮社、1991年)に収録。 『じねんじょ』は、老いた農夫が山芋を掘る日常を通じて、土地への愛着と家族の距離を描く短篇です。大きな事件ではなく、手仕事と沈黙のなかに人生の時間を滲ませるところに味わいがあります。三浦哲郎らしい地方の生活感覚と、老いの静けさが凝縮されています。 家族老い地方 第17回 川端賞
  328. 328 1989 人生の親戚 じんせいのしんせき 大江健三郎 単行本・新潮社 二人の息子を失った女性まり恵の苦難と魂の遍歴を描く大江健三郎の長編。喪失を抱えた人物が、宗教的・共同体的な問いに触れながら生を組み替えていく。大江後期の、家族の痛みと救済への希求が結びつく作品として読める。 死と喪失家族信仰
  329. 329 1989 白河夜船 しらかわよふね 吉本ばなな 単行本・福武書店 眠りに沈んでいく女性たちを描く三篇を収めた作品集。恋愛、喪失、孤独が、眠りという身体の状態を通じて静かに語られる。吉本ばなな初期の透明な語りと、生死の境目に触れる感覚がよく表れた一冊。 恋愛死と喪失身体
  330. 330 1989 ネコババのいる町で ねこばばのいるまちで 瀧澤美恵子 初出・「文學界」1989年12月号(第43巻第12号)。同号で文學界新人賞受賞作として掲載 『ネコババのいる町で』は、ロサンゼルスから一人で日本に送られた少女・恵里子が、祖母と叔母のもとで育つ姿を描く作品です。場面緘黙症を抱える少女にとって、隣家の猫たちとの関係が、言葉にならない孤独の受け皿になっていきます。移動、家族、言語化できない傷を、子どもの視界に近い静けさで描く点が読みどころです。 家族孤独と疎外移民と越境 第69回 文學界新人賞
  331. 331 1988 哀しい予感 かなしいよかん 吉本ばなな 単行本・角川書店 記憶の空白を抱えた少女が、風変わりな親族の家で自分の過去へ近づいていく長編。家族の秘密、喪失、直感のような感覚が、吉本ばなな初期作らしい静かな語りで結びつく。大きな事件よりも、眠りや気配に近い感情の変化を読む作品。 記憶家族死と喪失
  332. 332 1988 うたかた/サンクチュアリ うたかた/サンクチュアリ 吉本ばなな 単行本・福武書店 吉本ばななの初期作品集で、「うたかた」と「サンクチュアリ」を併録する。喪失や恋愛、居場所をめぐる不安を、柔らかく透明な語り口で描く。日常の小さな違和感から、生死のあわいや心の避難場所へ入っていく初期吉本作品らしさがある。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  333. 333 1988 尋ね人の時間 たずねびとのじかん 新井満 初出・「文學界」1988年6月号(第42巻第6号) 『尋ね人の時間』は、別れた妻子や死別した妹、好意を寄せる女性との距離を抱えたカメラマンの意識を追う作品です。都会で自分を見失った人物の感覚が、詩的で短い文の連なりとして表現されます。喪失を過剰に劇化せず、削ぎ落とした言葉で浮遊感を残す点が特徴です。 孤独と疎外死と喪失恋愛 第99回 芥川賞
  334. 334 1988 ダイヤモンドダスト だいやもんどだすと 南木佳士 初出・「文學界」1988年9月号(第42巻第9号) 『ダイヤモンドダスト』は、信州の病院に勤務する医師が末期患者の死と向き合う日々を描く短篇です。医療現場の現実を過度に説明せず、死のそばにある静けさや、凍った水蒸気が光る表題のイメージを重ねていきます。病と死を扱いながら、情緒に流されない抑制された文体が印象に残ります。 死と喪失病院 第100回 芥川賞
  335. 335 1987 キッチン キッチン 吉本ばなな 初出・海燕 1987年11月号 唯一の肉親だった祖母を亡くし、天涯孤独となった大学生の桜井みかげ。眠れるのは冷蔵庫のそばだけ――そんな彼女に、祖母と親しかった青年・田辺雄一が同居を申し出る。雄一の家には、女性として生きる「母」えり子さん(実は父親)がいて、奇妙であたたかい三人の暮らしが始まる。台所と食べることを心の拠り所に、喪失の… 死と喪失家族
  336. 336 1987 懐かしい年への手紙 なつかしいとしへのてがみ 大江健三郎 単行本・講談社 語り手が導き手である「ギー兄さん」との関係をたどりながら、自分の文学的半生と故郷の森の記憶を再構成する自伝的長編。私小説の形式を借りながら、実際には作家自身と架空の人物をずらし、記憶・読書・共同体の物語を重ねていく。ダンテを媒介に、帰郷できない作家が森の村と文学の場所を問い直す。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  337. 337 1987 ノルウェイの森 のるうぇいのもり 村上春樹 単行本・講談社 1960年代末の学生運動期を背景に、ワタナベと直子、緑の関係を通じて、喪失、恋愛、死者への記憶を描く長編。村上作品としては幻想性を抑えたリアリズム寄りの語りで、音楽、読書、寮生活、療養所の細部が青春の傷を浮かび上がらせる。読みやすい恋愛小説の形を取りながら、親しい死をどう抱えて生きるかという痛切な問… 恋愛死と喪失青春
  338. 338 1987 スティル・ライフ すてぃる・らいふ 池澤夏樹 初出・「中央公論」1987年10月特大号(第102年第12号)。単行本は1988年・中央公論社刊 『スティル・ライフ』は、染色工場で働く「ぼく」と、世界を少し離れた位置から見ている佐々井との交流を描く短篇です。大きな事件よりも、労働、会話、都市の時間の中で、世界が静かにつながって存在している感覚を描きます。透明感のある文体と、孤独を否定しない清澄な肯定感が読みどころです。 孤独と疎外芸術と表現一人称 第98回 芥川賞
  339. 339 1987 遠方より えんぽうより 谷口哲秋 初出・「文學界」1987年 『遠方より』は、谷口哲秋のデビュー作にあたる第65回文學界新人賞受賞作です。遠くから届くもの、遠くへ向かう視線を題名に持つ作品として、距離と記憶を主題化する初期作として整理しました。後に芥川賞候補にもなっており、文學界新人賞から純文学の選考圏へ進んだ作品です。 記憶孤独と疎外私小説的 第65回 文學界新人賞
  340. 340 1987 カワセミ かわせみ 図子英雄 初出・「新潮」1987年11月号(新潮社) 戦時下の四国を舞台に、飛ぶ宝石とも呼ばれるカワセミの生命に魅せられた少年の日々を描く表題作を含む短篇集。紀伊國屋の内容説明では、無頼の道を歩む幼なじみの苛烈な生を写す「牙」なども収録される。自然へのまなざし、少年の感受性、戦時下の地方の時間が静かに重なっていく。 戦争青春死と喪失 第19回 新潮新人賞
  341. 341 1986 M/Tと森のフシギの物語 エムティーともりのフシギのものがたり 大江健三郎 単行本・岩波書店 四国の森に伝わる物語を、M=母権的な存在とT=トリックスター的な存在の対立・変奏として語る長編。村の伝承、神話、人類学的な型を組み合わせ、作家の幼年期の森を大きな物語装置へ変えていく。短い断章を積み重ねる構成で、個人の記憶と共同体の神話が互いに照らし合う。 記憶アイデンティティ家族
  342. 342 1986 しずかにわたすこがねのゆびわ しずかにわたすこがねのゆびわ 干刈あがた 初出・単行本(福武書店、1986年)。初出誌は未確認。 家族、育児、夫婦をめぐる日常を、抑えた感触で描いた干刈あがたの作品。家庭の内側にある親密さと疲労、母と子の時間、夫婦の距離が、静かな生活描写の中から浮かび上がる。大きな事件よりも、日々の関係が少しずつ人を変えていく感触を読む作品。 家族夫婦母と子 第8回 野間新人賞
  343. 343 1985 回転木馬のデッド・ヒート かいてんもくばのでっどひーと 村上春樹 単行本・講談社 実際に聞いた話を小説の形に組み替えた、都市生活者たちの短いスケッチ集。表題の「回転木馬」は、同じ場所を巡り続けながら誰も抜け出せない人生の比喩として働き、各篇の人物は小さな違和感や疲労を抱えたまま日常を走り続ける。事実と虚構の境界をあいまいにしながら、村上春樹の乾いた観察眼と抑制されたユーモアが前面… 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  344. 344 1985 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド せかいのおわりとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹 初出・書き下ろし 二つの物語が交互に進む40章構成の長編。〔ハードボイルド・ワンダーランド〕では、老科学者によって意識の核に特殊な思考回路を組み込まれた計算士の「私」が、地下の闇に潜む「やみくろ」や組織の抗争に巻き込まれながら、回路に隠された秘密を追う。〔世界の終り〕では、高い壁に囲まれた静かな街で、「僕」が一角獣の… アイデンティティ記憶テクノロジー 第21回 谷崎賞
  345. 345 1985 ダックスフントのワープ だっくすふんとのわーぷ 藤原伊織 初出・「すばる」1985年12月号(集英社) 大学の心理学科に通う「僕」が、心を閉ざした少女の家庭教師を引き受け、異空間にワープしたダックスフントの物語を語り聞かせる。文春文庫の紹介では、物語への興味と対話を通じて少女が変化していくが、その先に不穏な展開があることが示されている。語ること、聞くこと、他者の心に近づこうとする試みが中心にあるデビュ… 障害青春言葉と言語 第9回 すばる文学賞
  346. 346 1985 午後の祠り ごごのまつり 江場秀志 初出・「すばる」1985年12月号(集英社) 沖縄を舞台に、暑熱の中で樹木、草、石までもが息をつめるような自然と、老婆の心象が一体化していく作品。既存梗概では沖縄赴任中の医師が触れる民俗的世界として位置づけられており、土地の自然と信仰的感覚が物語の中心にある。外から来た者が出会う沖縄の時間と、老いの内面が静かに重なる読み味を持つ。 信仰老い地方 第9回 すばる文学賞
  347. 347 1984 螢・納屋を焼く・その他の短編 ほたる・なやをやく・そのたのたんぺん 村上春樹 単行本・新潮社 「螢」「納屋を焼く」などを収めた初期短編集。新潮社の紹介では「螢」が『ノルウェイの森』の原点とされ、学生時代の喪失と届かない温もりが抑制された一人称で描かれる。「納屋を焼く」は日常会話の奥に説明されない空白を置き、静かな恋愛小説と不穏な幻想が同じ冊子のなかで並ぶ構成になっている。 死と喪失記憶恋愛
  348. 348 1983 新しい人よ眼ざめよ あたらしいひとよめざめよ 大江健三郎 単行本・講談社 障害を持つ息子イーヨーとの日常を、ウィリアム・ブレイクの詩を媒介に見つめ直す連作小説。語り手は息子の成長、死や性への問い、家族のなかの不安を受け止めながら、文学の言葉が現実のケアとどのように結びつくかを探る。私小説的な素材を思想的な読解と重ねることで、父と子の関係を閉じた家族の物語にせず、他者と共に… 家族身体芸術と表現
  349. 349 1982 羊をめぐる冒険 ひつじをめぐるぼうけん 村上春樹 単行本・講談社 広告代理店で働く「僕」は、耳に星形の斑紋を持つ謎の羊を探すよう依頼され、ガールフレンドとともに北海道へ向かう。右派の大物、秘書、羊男、そして姿を消した鼠の痕跡が重なり、探偵小説めいた筋立ては次第に幻想と喪失の物語へ変質していく。初期の軽やかな一人称の語りを保ちながら、政治的な力、戦後の記憶、個人の空… 記憶孤独と疎外アイデンティティ 第4回 野間新人賞
  350. 350 1982 「雨の木」を聴く女たち 「レイン・ツリー」をきくおんなたち 大江健三郎 単行本・新潮社 「雨の木」という象徴的なイメージを核に、死者の記憶、喪失、救いの可能性をめぐる連作短篇集。マルカム・ラウリーなど西洋文学への参照と、樹木・音・女性たちの声が重なり、現実の痛みを神話的な想像力へ押し広げていく。大江健三郎の1980年代の作品群のなかでも、個人的な死生観と文学的引用が静かに響き合う作品と… 死と喪失記憶芸術と表現
  351. 351 1982 夢の壁 ゆめのかべ 加藤幸子 初出・「新潮」1982年9月号(第79巻第9号) 『夢の壁』は、北京での幼少期の記憶を背景に、異文化の中で形成された自己感覚と現在のまなざしを重ねる作品です。人間と自然、記憶と現実の境目を探る語りには、生態学的な観察と越境の感覚が混ざっています。歴史や国境を大きく語るより、個人の記憶の層から世界を見直すところに読みどころがあります。 記憶移民と越境アイデンティティ 第88回 芥川賞
  352. 352 1981 星空 ほしぞら 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1981年に刊行した後期作品。公開データでは梗概・批評の確認が薄く、まずは新潮社刊行作としての書誌を押さえる段階にある。作家後期の視点から、記憶や老い、社会の中での孤立を読む軸を仮に与えておく。 記憶老い孤独と疎外
  353. 353 1981 小さな貴婦人 ちいさなきふじん 吉行理恵 初出・「新潮」1981年2月号(第78巻第2号) 『小さな貴婦人』は、死んだ猫〈雲〉への愛惜を抱える女性と老いた女流詩人Gの対話を中心に、喪失と幻想の境界を静かに描く作品です。猫という身近な存在を媒介に、孤独、死者への執着、言葉では届ききらない感情が詩的に立ち上がります。現実の事件よりも、声や気配が醸す幻想性を読む作品です。 死と喪失孤独と疎外静謐 第85回 芥川賞
  354. 354 1980 1973年のピンボール せんきゅうひゃくななじゅうさんねんのぴんぼーる 村上春樹 単行本・講談社 『風の歌を聴け』に続く「鼠三部作」第二作で、翻訳事務所を営む「僕」の生活と、故郷に残る鼠の停滞が並行して語られる。「僕」はかつて通ったバーにあったピンボール台を探し、双子の女性との奇妙な同居や電話配電盤の葬送を経て、失われた時間の手触りに近づいていく。軽い会話と乾いたユーモアの背後に、青春の終わり… 記憶孤独と疎外青春
  355. 355 1980 裸足 はだし 木崎さと子 初出・「文學界」1980年 『裸足』は、木崎さと子のデビュー作にあたる第51回文學界新人賞受賞作です。旧満洲生まれという作者の背景を踏まえると、戦後の移動経験や身体感覚を抱えた初期作品として位置づけられます。詳細な筋は今回確認できていないため、作品紹介は受賞・作家史上の位置づけを中心にしています。 移民と越境記憶私小説的 第51回 文學界新人賞
  356. 356 1977 独りきりの世界 ひとりきりのせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1970年代後半に刊行した作品。題名が示す孤独を中心に、社会や家族から切り離された人物の世界を描く作品として暫定整理する。公開情報が少ないため、内容細部は未確認だが、後期石川の個人の孤立への関心を読む候補作である。 孤独と疎外老いアイデンティティ
  357. 357 1974 その最後の世界 そのさいごのせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1970年代に刊行した後期作品。題名は終末や閉ざされた世界を想起させ、社会の行き詰まりと個人の孤独を読む手がかりになる。公開情報が限られるため、後期石川の社会観・人生観を示す作品として暫定紹介する。 孤独と疎外老い記憶
  358. 358 1971 解放された世界 かいほうされたせかい 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1971年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。「解放」という語が示す自由への期待と、その後に残る孤独や責任を読む軸がある。公開梗概が薄いため、戦後社会の価値観の変化を扱う作品として暫定的に分類する。 アイデンティティ孤独と疎外同調圧力
  359. 359 1969 愉しかりし年月 たのしかりしとしつき 石川達三 単行本・新潮社 石川達三が1969年に刊行した作品で、新潮社版の書誌が確認できる。題名は過ぎ去った年月への回想を示し、記憶と老い、生活の時間を扱う作品として読める。公開情報が限られるため、後期へ向かう石川の回想的な小説として暫定整理する。 記憶老い家族
  360. 360 1959 山塔 さんとう 斯波四郎 初出・「早稲田文学」1959年5月号(第41回芥川賞受賞) 『山塔』は、斯波四郎が第41回芥川賞を受賞した短篇集の表題作です。公開資料で詳しい筋を確認できる範囲は限られますが、生活の厚みと人間の時間を描く作品として評価されました。既存調査にある選評の要点からは、技巧よりも「人生」が感じられる点が評価されたことがわかります。 記憶家族老い 第41回 芥川賞
  361. 361 1956 海人舟 かいとぶね 近藤啓太郎 初出・「文學界」1956年2月号(第35回芥川賞受賞) 『海人舟』は、千葉・鴨川の海辺を背景に、漁師たちの労働と土地に根ざした生活を描く短篇です。近藤啓太郎自身の漁業体験に近い素材を、海と身体の感覚を伴うリアリズムで扱っています。都市の内面劇とは違う、海辺の共同体と労働の重さが読みどころです。 労働身体家族 第35回 芥川賞
  362. 362 1954 驟雨 しゅうう 吉行淳之介 初出・「文學界」1954年2月号(第31回芥川賞受賞) 『驟雨』は、料亭の女との短い逢瀬を軸に、中年男の倦怠と孤独を描く短篇です。感情を大きく説明せず、会話や身振りの細部から男女の距離を読ませるところに特徴があります。吉行淳之介の乾いた都市的感覚が、第三の新人の作風を代表するかたちで現れています。 恋愛孤独と疎外 第31回 芥川賞
  363. 363 1954 プールサイド小景 ぷーるさいどしょうけい 庄野潤三 初出・「群像」1954年12月号(第32回芥川賞受賞) 『プールサイド小景』は、社員旅行の一日を舞台に、家庭を持つ男の欲望と罪悪感を細密に描く短篇です。劇的事件よりも視線、沈黙、気まずさの変化を追うことで、都市生活者の不安を浮かび上がらせます。庄野潤三の静かな日常描写のなかに、戦後の家庭と個人の距離感が滲む作品です。 夫婦家族恋愛 第32回 芥川賞
  364. 364 1952 或る「小倉日記」伝 あるこくらにっきでん 松本清張 初出・「三田文学」1952年9月号(第28回芥川賞受賞) 『或る「小倉日記」伝』は、森鷗外の小倉時代を記録することに生涯を傾けた人物を主人公にする短篇です。文学史の周縁にいる無名の調査者の執念をたどり、資料を追う行為そのものを物語化しています。史実と想像を接続する構成が、のちの松本清張の記録性・推理性を予告します。 記憶芸術と表現障害 第28回 芥川賞
  365. 365 1951 春の草 はるのくさ 石川利光 初出・「近代文学」1951年(第25回芥川賞受賞、安部公房「壁」と同時受賞) 『春の草』は、石川利光が第25回芥川賞を安部公房『壁』と同時受賞した作品です。詳しい筋を確認できる公開資料は少ないものの、戦後まもない文学場で、生活の手触りと内面の揺れを描くリアリズム系の短篇として受け止められました。現時点では、書誌・受賞情報を中心に紹介しています。 記憶家族私小説的 第25回 芥川賞
  366. 366 1949 山の音 やまのおと 川端康成 初出・1949〜1954年にかけて複数誌(「群像」「新潮」「別冊文藝春秋」など)に連載。単行本は1954年4月、筑摩書房刊。 『山の音』は、鎌倉に暮らす老齢の会社重役・信吾を中心に、家族の崩れと老いの気配を見つめる連作長篇です。嫁の菊子への静かな愛着、息子夫婦の不和、死の予感が、抑制された三人称の語りで重なっていきます。戦後の家庭小説でありながら、川端康成らしい感覚的な細部が、老いと記憶の陰影を際立たせます。 家族老い記憶