Mood

乾いた

読み味「乾いた」に分類された 271 作品。

  1. 001 2026 彼女のカロート かのじょのかろーと 荻世いをら 初出・すばる 2010年7月号/文學界 2013年12月号 『彼女のカロート』は、表題作「彼女のカロート」と「宦官への授業」を収める作品集。表題作では、耳が聞こえなくなった女性アナウンサーから新しい墓を依頼された主人公の日常が、彼女とのずれた応答によって静かに侵食されていく。もう一篇では、読むことに困難を抱えながら文学に向かう青年がシュールな冒険に巻き込まれ… 身体死と喪失芸術と表現
  2. 002 2025 バックミラー バックミラー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『バックミラー』は、落ち目のミュージシャン、極度の無駄嫌いのM&A会社社長、樹木伐採に生活を揺さぶられる女性など、都市でままならなさを抱える人物たちを描く短篇集です。河出書房新社公式は、シニカルな笑いと冷徹な観察力で都会の人生を写す「令和の没落小説」と紹介している。表面的な合理性や成功願望の裏側で… 孤独と疎外労働アイデンティティ
  3. 003 2025 関係のないこと かんけいのないこと 上田岳弘 単行本・新潮社 『関係のないこと』は、パンデミック後の東京で、自分とは切り離してきたはずの出来事や他者の痛みが、ふいに生活へ入り込んでくる瞬間を描く作品集です。表題作では、弁護士として世間と折り合ってきた人物が、見ないようにしてきた「壁」に取り囲まれていく。淡々とした語りの中で、社会的な出来事を自分の外側に置く態度… 孤独と疎外労働同調圧力
  4. 004 2025 運命の終い うんめいのしまい 奥田亜希子 単行本・小学館 『運命の終い』は、30代で夫を亡くした彩香が、乾いた日常の中で「運命」を信じないまま新しい関係へ踏み出していく長篇です。喪失後の生活感と、大人の恋愛に宿る衝動やためらいを扱う作品として読めます。小学館刊行の書誌とBooks/JPRO由来の内容紹介で、2025年刊・ISBN・ページ数を確認しました。 死別恋愛生活
  5. 005 2024 新しい恋愛 あたらしいれんあい 高瀬隼子 単行本・講談社 『新しい恋愛』は、「花束の夜」「お返し」「新しい恋愛」「あしたの待ち合わせ」「いくつも数える」の五篇を収める恋愛小説集。Books/JPRO掲載の講談社紹介は、ひと筋縄ではいかない五つの恋のかたちを描く作品集としている。恋愛の高揚よりも、相手に期待すること、理解したつもりになること、関係を名づけるこ… 恋愛ジェンダーアイデンティティ
  6. 006 2024 カメオ かめお 松永K三蔵 初出・群像 2021年7月号 『カメオ』は、本社命令で期日までに倉庫を建てなければならない会社員の前に、犬を連れた隣地の男・カメオが立ちはだかるデビュー作。職場の命令、土地、期限、隣人との交渉が、現実的な仕事の話でありながら不条理な可笑しみを帯びて進む。問題を片づけるはずの業務が、相手の存在によってどんどん解決不能な人間関係へ変… 労働孤独と疎外同調圧力
  7. 007 2024 ある日の、あのタクシー あるひのあのたくしー 広小路尚祈 単行本・桜山社 『ある日の、あのタクシー』は、運転手と乗客の一期一会の出会いを通して町の姿を描く、12編からなるタクシー小説集。車内という短い時間と閉じた空間に、乗る人の生活、職業、孤独、偶然の会話が交差する。移動する密室としてのタクシーが、普段はすれ違うだけの人々の事情を一時的に結びつける。タクシー運転手経験を持… 労働孤独と疎外記憶
  8. 008 2023 浮遊 ふゆう 遠野遥 単行本・河出書房新社 高校生のふうかが、年上の会社経営者の男の家で暮らし、男の元恋人を象ったマネキンの下で夜ごとホラーゲームに没入する長篇。ゲーム内の悪霊から逃げる感覚と、現実の住まい、人間関係、身体へのまなざしが重なり、現実とゲームの境界が不穏に揺れる。ホラーゲームの逃走は娯楽であると同時に、現実の関係から抜け出せない… 身体テクノロジー
  9. 009 2023 蝙蝠か燕か こうもりかつばめか 西村賢太 単行本・文藝春秋 2022年2月に急逝した西村賢太の未刊行小説集で、完結作としては最後の表題作を含む三篇を収める。北町貫多が藤澤清造資料の調査や書簡の額装をめぐって動く「廻雪出航」「黄ばんだ手蹟」と、死の前年の貫多を描く「蝙蝠か燕か」によって、師への執着と自分の文学を問い直す。私小説的な分身を通じ、歿後弟子としての覚… 芸術と表現死と喪失記憶
  10. 010 2023 れつ 中村文則 単行本・講談社 ある動物の研究者だったはずの男は、いつの間にか先も最後尾も見えない奇妙な列に並んでいる。誰もがなぜ並ぶのか分からないまま、競い合い、比べ合う社会の圧力が寓話的な状況として立ち上がる。現実の制度や欲望を抽象化した「列」から出られるのかを問い、簡潔で不穏な語りで現代の生の息苦しさを照らす作品である。設定… 同調圧力アイデンティティ孤独と疎外 第77回 野間文芸賞
  11. 011 2023 植物少女 しょくぶつしょうじょ 朝比奈秋 単行本・朝日新聞出版 『植物少女』は、出産時の脳出血で植物状態になった母の病室へ通う美桜の成長を通して、母と娘の関係がどう変わるかを描く長編である。母が「意思のある母」として応答できない状況を、単純な喪失や献身に閉じず、身体、ケア、親子関係の時間として見つめる。現役医師でもある著者の視点が、医療的な状況と家族の感情を乾い… 母と子身体ケアと介護 第36回 三島賞
  12. 012 2023 うるさいこの音の全部 うるさいこのおとのぜんぶ 高瀬隼子 単行本・文藝春秋 ゲームセンターで働く長井朝陽は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから、職場や友人との関係が少しずつ変化していく。兼業作家であることが知られ、執筆中の小説と現実の境目も揺らぎはじめる。作家デビューの舞台裏を題材にしながら、注目されること、働き続けること、他者の視線に晒され… 芸術と表現労働アイデンティティ
  13. 013 2023 ユーチューバー ユーチューバー 村上龍 単行本・幻冬舎 『ユーチューバー』は、二十代半ばでデビューし七十歳になった作家・矢崎健介が、ユーチューバーに誘われて語り始める連作小説である。矢崎は「自由である人間」について、そして半世紀にわたって出会い、消えていった女性たちについて回想する。YouTubeという現代的な語りの場を借りながら、恋愛、老い、創作の源泉… 老い芸術と表現恋愛
  14. 014 2022 荒地の家族 あれちのかぞく 佐藤厚志 初出・新潮 2022年12月号 宮城県亘理町の植木職人・坂井祐治、四十歳。あの「災厄」の二年後に妻を病で亡くし、再婚した相手も流産の後に家を出て、いまは老いた母と中学生の息子と暮らしている。津波という言葉を正面に掲げず「災厄」「海の膨張」と呼びながら、荒れた海辺の土地で黙々と木に向かう男の日常を描く。職を転々とする旧友や没落してい… 災害死と喪失家族 第168回 芥川賞
  15. 015 2022 CF しーえふ 吉村萬壱 単行本・徳間書店 罪の責任を「無化」する超巨大企業Central Factoryをめぐり、加害、被害、償いの意味が揺らいでいく群像劇。キャバクラ嬢、主婦、中学生、ホームレス、CFで働く中年、広報室長、そしてCFへのテロを企てる男など、社会の周縁と制度の内部にいる人々が交錯する。荒唐無稽な設定を通して、責任を引き受ける… 暴力テクノロジー労働
  16. 016 2022 ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉 ごじらしんぎゅらぽいんと 円城塔 単行本・集英社 TVアニメシリーズ『ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉』を、円城塔自身が小説として再構成した作品。2030年の千葉県逃尾市に未確認飛行生物が現れ、銀色のロボット「ジェットジャガー」との交戦、その怪鳥が「ラドン」と名付けられる出来事を起点に、逃尾市周辺で異変が広がっていく。怪獣、AI、時間や特異点を… テクノロジー災害身体
  17. 017 2022 引力の欠落 いんりょくのけつらく 上田岳弘 単行本・KADOKAWA 『引力の欠落』は、CFOとして企業の上場に関わり巨富を得た行先馨が、弁護士マミヤに招かれて奇妙なペントハウスへ向かう超現実的な小説。そこでは「始皇帝」や「本多維富」を自称する者たちがカードゲームに興じ、経済的充足の先に残る孤独と、何かが欠けた人間が別の段階へ移れるのかという問いが立ち上がる。現代の資… 孤独と疎外アイデンティティ労働
  18. 018 2022 君たちはしかし再び来い きみたちはしかしふたたびこい 山下澄人 単行本・文藝春秋 腹が破裂し死を告げられた「私」は、三度の入院、飼い猫の手術、コロナ禍を経て、痛みによって世界と自己の境界が変わっていくのを経験する。病の記録は歴史や宇宙、カフカ、『白鯨』、ブレイクなどへ跳躍し、私小説的な身体感覚と思想的な連想が重なる。時系列や視点を揺らしながら、病む身体から世界をもう一度呼び寄せる… 身体死と喪失
  19. 019 2022 嫌いなら呼ぶなよ きらいならよぶなよ 綿矢りさ 単行本・河出書房新社 『嫌いなら呼ぶなよ』は、表題作を含む四篇で、有毒に暴走するコミュニケーションと、その遮断を描く短篇集である。妻の親友宅に招かれた「僕」が突然ミニ裁判にかけられる表題作をはじめ、美容整形、YouTuberへの粘着的なコメント、深夜まで続く助言など、現代的なつながりの圧力がブラックユーモアを帯びて展開す… 同調圧力言葉と言語暴力
  20. 020 2022 教育 きょういく 遠野遥 単行本・河出書房新社 超能力の育成を掲げる学校を舞台に、成績向上のために性的ノルマ、身体鍛錬、勉学が制度化された長篇。成績で部屋のグレードが決まり、監視と規律のもとで生徒たちが「正しさ」に従っていく環境が、語り手の日常として淡々と提示される。学園小説、ディストピア、寓話の形式を交差させながら、教育と管理、身体、欲望、競争… 同調圧力身体
  21. 021 2022 Schoolgirl すくーるがーる 九段理江 単行本・文藝春秋 表題作は太宰治「女生徒」を現代に移し、社会派YouTuberとして活動する14歳の娘と、小説に囚われた母のすれ違いを描く。娘の投稿が「女生徒」へ向かうことで、母娘の断絶は文学の記憶と現在のメディア環境のなかで照らし返される。第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」も併録し、学校、芸術、言葉への過剰な… 母と子言葉と言語芸術と表現 第73回 芸術選奨新人賞
  22. 022 2022 信仰 しんこう 村田沙耶香 単行本・文藝春秋 『信仰』は、表題作を中心に短篇とエッセイを収めた全8篇の作品集です。表題作では、現実こそ正しいと強く信じる永岡が、同級生から新しいカルト商法を始めようと誘われます。「生存」「書かなかった小説」「最後の展覧会」などを通じて、信じること、現実、身体、創作、未来社会への違和感がさまざまな形で変奏されます… 信仰同調圧力アイデンティティ
  23. 023 2022 とんこつQ&A とんこつきゅーあんどえー 今村夏子 単行本・講談社 中華料理店「とんこつ」で働く「わたし」は、挨拶を覚えて居場所を得たかに見えるが、新人の「あの女」によって均衡を崩されていく。表題作ほか「嘘の道」「良夫婦」「冷たい大根の煮物」を収録し、普通の可笑しみの奥から人間の取り返しのつかない瞬間が顔を出す。短く平明な語りが、善意や純粋さの怖さをじわじわ見せる作… 労働孤独と疎外同調圧力
  24. 024 2022 雨滴は続く うてきはつづく 西村賢太 単行本・文藝春秋 2004年、北町貫多は同人誌発表作「けがれなき酒のへど」が同人雑誌優秀作に選ばれ、純文学誌に転載されたことで文壇デビューを果たす。藤澤清造の歿後弟子であろうとする執念、純文学誌への執筆、恋情と自尊心の揺れが、貫多らしい苛立ちと滑稽さを伴って進む。完成直前で未完となった遺作長篇であり、作家になる以前の… 芸術と表現恋愛孤独と疎外
  25. 025 2021 あなたにオススメの あなたにオススメの 本谷有希子 単行本・講談社 『あなたにオススメの』は、「推子のデフォルト」「マイイベント」の二篇からなる近未来小説集。身体に超小型電子機器を埋めて複数のコンテンツを同時に摂取する推子と、災害時の「安全」な住まいに優越感を覚える渇幸の姿を通じ、アルゴリズム化した消費、育児、階層意識が日常に入り込む怖さを描く。滑稽さを帯びた語りが… テクノロジー同調圧力災害
  26. 026 2021 オーラの発表会 オーラのはっぴょうかい 綿矢りさ 単行本・集英社 『オーラの発表会』は、大学一年生の海松子が、人を好きになる気持ちや他人の感情をうまく読めないまま、友情と恋愛未満の関係に巻き込まれていく長篇。凧揚げを趣味にし、周囲に脳内であだ名をつける彼女の少しずれた観察が、幼なじみや社会人男性からの接近を通じて揺さぶられる。綿矢りさらしい軽やかな口語感とユーモア… 恋愛孤独と疎外青春
  27. 027 2021 カード師 かーどし 中村文則 単行本・朝日新聞出版 『カード師』は、占いを信じていない占い師であり違法カジノのディーラーでもある「僕」が、ある組織から冷酷な資産家の顧問占い師になるよう命じられる長篇。カード、占い、ギャンブルをめぐる偶然と操作の感覚が、個人では抗いがたい理不尽な力と結びついていく。語りはサスペンスの推進力を持ちながら、不確かな未来を知… 暴力信仰労働
  28. 028 2021 あなたに安全な人 あなたにあんぜんなひと 木村紅美 単行本・河出書房新社 3.11直前の少年の死をめぐる出来事に苛まれる元教師の妙と、沖縄新基地建設反対デモの警備中の事故を抱える便利屋の忍が、「感染者第一号」を誰もが恐れる土地で出会う。二人は人を傷つけ、傷つけられる社会のなかで、孤独で安全な逃亡生活のような関係を築いていく。東日本大震災、沖縄、感染症下の共同体の視線を交差… 孤独と疎外災害同調圧力 第32回 ドゥマゴ文学賞
  29. 029 2021 滅私 めっし 羽田圭介 単行本・新潮社 必要最低限の物だけで暮らすライターの男が、ミニマリストの同志が集うサイト運営と投資で生計を立てながら、自由でスマートな生活を手に入れている。物だけでなく人間関係にも淡泊だった彼の前に、昔の所業を知る人物が現れ、捨てたはずの過去が生活に影を落とす。所有を減らすことの快楽と、過去や欲望は簡単には消せない… アイデンティティ労働消費社会
  30. 030 2021 Phantom ファントム 羽田圭介 単行本・文藝春秋 『Phantom』は、外資系食料品メーカーで働く元地下アイドルの華美が、株式投資によって給与収入と同じ配当を生む「分身」を作ろうとする長篇です。恋人の直幸は、使われない金を軽んじながら、オンラインコミュニティや物々交換の思想へ傾いていきます。投資、オンライン共同体、恋愛の齟齬を通して、現代の金融シス… 労働テクノロジー消費社会
  31. 031 2021 旅のない たびのない 上田岳弘 単行本・講談社 コロナ禍中の日々を映す四篇からなる、上田岳弘初の短篇集。恋人とのホテル、息子との散歩、甥を預かる夏、出張先の車中といった限られた場面を通して、移動が制限された時代の記憶、会話、自己認識を描く。大きな事件よりも、日常の小さな違和感や言葉のずれから世界の変化を浮かび上がらせる作品集。短い時間に人生の全体… 記憶孤独と疎外家族 第46回 川端賞
  32. 032 2021 恐竜時代が終わらない きょうりゅうじだいがおわらない 山野辺太郎 初出・「文學界」2021年7月号 『恐竜時代が終わらない』は、山野辺太郎が『文學界』2021年7月号に発表した中篇小説です。NDLサーチとCiNii Researchで、同誌75巻7号の100-169ページに掲載された雑誌記事として確認できます。内容紹介や選評本文を確認できる一次情報は見つからなかったため、現時点では掲載誌・発表年を… 時間科学記憶
  33. 033 2020 fishy フィッシー 金原ひとみ 単行本・朝日新聞出版 三十代の女性三人が、それぞれの恋愛、結婚、仕事、女友だちとの距離を抱えながら、言い切れない本音をにじませていく連作長篇。男に対する屈託や違和感を、単純な対立ではなく、関係性が少しずつ更新される過程として描く。会話と内面の揺れを重ね、友情、欲望、自立の輪郭が変わっていく読み味がある。恋愛よりも、女性同… 恋愛ジェンダー労働
  34. 034 2020 来世の記憶 らいせのきおく 藤野可織 単行本・KADOKAWA 『来世の記憶』は、前世の殺人の記憶を抱えた近未来の語り手から、眠っている間に戦争が終わってしまう世界、冷蔵庫やスマートフォンや怪獣までをめぐる奇妙な出来事までを収めた20篇の短篇集。日常の手触りを残したまま身体や物や世界の前提がずれていくため、読み手は不条理な笑いと不安のあいだに置かれる。藤野可織ら… 記憶死と喪失身体
  35. 035 2020 破局 はきょく 遠野遥 初出・文藝 2020年夏季号 主人公の陽介は、筋トレと公務員試験の勉強に励む大学4年生。母校のラグビー部でコーチも務め、政治家を目指す恋人・麻衣子がいる。やがて新入生の灯に好意を寄せられ、関係を持つようになる。陽介は常に「正しさ」やマナー、他人にどう見られるかを基準に行動するが、その整いすぎた思考と行動のあいだには、どこか空洞が… 恋愛身体 第163回 芥川賞
  36. 036 2020 一人称単数 いちにんしょうたんすう 村上春樹 単行本・文藝春秋 村上春樹の六年ぶりの短篇小説集で、「石のまくらに」から書き下ろしの表題作まで八篇を収める。音楽、野球、過去の記憶、奇妙な遭遇をめぐり、一人称の語りが自分自身の輪郭を少しずつずらしていく。公式紹介が掲げる「単眼」と「複眼」の比喩のように、私、僕、あなたという呼び名の揺れが、回想と虚構の境目を曖昧にする… 記憶芸術と表現アイデンティティ
  37. 037 2020 かきあげ家族 かきあげかぞく 中島たい子 単行本・光文社 コメディ映画監督の中井戸八郎は、老境に差しかかりながらスランプの渦中にいる。長男の失職、長女の離婚、引きこもる次男によって家族が再び一つの家に集まるなか、名監督の遺稿をめぐる騒動が起き、八郎は家族の一人ひとりと向き合わざるをえなくなる。不安を拾い集めてしまう人間の弱さを、家族喜劇の形で描く。映画制作… 家族老い芸術と表現
  38. 038 2020 完全犯罪の恋 かんぜんはんざいのこい 田中慎弥 単行本・講談社 『完全犯罪の恋』は、芥川賞受賞後も地味な暮らしを送る四十男の小説家「田中」が、新宿で初恋の相手の娘に声をかけられるところから始まる長編。物語は現在の東京と、下関の高校時代に読書を通じて近づいた才女・真木山緑との記憶を往還し、恋の独りよがりと罪悪感を掘り下げる。作家本人を思わせる語り手を置き、私小説的… 恋愛記憶芸術と表現
  39. 039 2020 小鳥、来る ことり、くる 山下澄人 単行本・中央公論新社 『小鳥、来る』は、夏休みの始まり、9歳の「おれ」が父を倒す日を待っているところから始まる長篇。周囲には、勉強のできる友人、万引きを繰り返す兄弟、学年一強い女子、何度も車にはねられる少年、動物園のゴリラがいて、子どもの日常が暴力とユーモアを帯びて浮かぶ。山下澄人らしい口語のリズムと飛躍する視点が、大人… 青春家族暴力
  40. 040 2020 日本蒙昧前史 にほんもうまいぜんし 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 大阪万博や日航機墜落事故など、戦後日本の狂騒と蒙昧を彩った出来事の陰にある無数の生を描く長篇。文藝春秋公式は、語り手を自在に換えつつ戦後日本の手触りを蘇らせる作品として紹介している。歴史的事件を単なる背景にせず、語りのリレーによって個人の記憶と時代の空気を重ねていく。年代記のようでいて、誰が語ってい… 記憶戦争死と喪失 第56回 谷崎賞
  41. 041 2020 御社のチャラ男 おんしゃのちゃらおとこ 絲山秋子 単行本・講談社 『御社のチャラ男』は、社内で「チャラ男」と呼ばれる三芳部長をめぐり、彼を見つめる周囲の人々の語りから職場の現実を照らし出す長篇。中心人物を直接つかまえるのではなく、多方向から語られる噂や距離感によって、憎らしさと愛おしさが同居する人物像が立ち上がる。会社という共同体の空気、働く人の孤独、他人を語るこ… 労働同調圧力孤独と疎外
  42. 042 2020 うつくしい羽 うつくしいはね 上村渉 初出・すばる 2019年6月号 表題作『うつくしい羽』と『あさぎり』などを収めた、上村渉の初小説集。OpenBDの版元提供情報は、食の記憶が過去を呼び覚ます作品として、離婚で心の支えを失った男と、フランス修業時代に大切な人を失った料理人の軌跡を紹介している。併録作『あさぎり』では、十五歳の少女の一時保護を通して、家族の絆と外国人労… 記憶死と喪失
  43. 043 2020 小隊 ショウタイ 砂川文次 初出・『文學界』2020年9月号 『小隊』は、元自衛官である砂川文次が、北海道へのロシア軍上陸という仮想戦場を描いた中篇です。文藝春秋公式ページでは、第164回芥川賞候補作として、日本人の知らない「戦場」の現実を描いた作品と紹介されている。自衛隊三尉の安達が小隊を率いる視点を通して、戦争を理念ではなく指揮、待機、接近、交戦の具体的な… 戦争兵士暴力
  44. 044 2019 父と私の桜尾通り商店街 ちちとわたしのさくらおどおりしょうてんがい 今村夏子 単行本・角川書店 商店街でパン屋を営む父を手伝う娘を描く表題作を中心に、「白いセーター」「ルルちゃん」「ひょうたんの精」「せとのママの誕生日」「モグラハウスの扉」を収めた短篇集。家族、店、近隣関係のごく日常的な場面から、今村夏子らしい微細なずれや不穏さが立ち上がる。平明な語り口の奥で、親しさと疎外、子どもっぽさと残酷… 家族父と子労働
  45. 045 2019 出来事 できごと 吉村萬壱 単行本・鳥影社 『季刊文科』連載「転落」を単行本化した長篇。OpenBDの出版社由来データでは、見慣れた日常世界が歪み、人間の嘘や文明の虚妄が露出していく哲学小説として紹介されている。吉村萬壱の身体感覚の強い描写と、日常を異様なものへ反転させる語りが読みどころになる。 身体暴力アイデンティティ
  46. 046 2019 DRY どらい 原田ひ香 単行本・光文社 不倫の末に二人の子を置いて家を出た北沢藍が、十年ぶりに実家へ戻るところから始まる長編。母と祖母の暮らす袋小路の家、そして祖父を一人で介護する幼馴染・馬場美代子の家を通じて、家族、介護、女性の行き場のなさが暗く絡み合う。光文社公式が示す袋小路の家に潜む罪の構図どおり、生活の現実がサスペンスへ変質してい… 家族ケアと介護母と子
  47. 047 2019 瓦礫の死角 がれきのしかく 西村賢太 初出・群像 2018年7月号・2019年2月号・2019年7月号 『瓦礫の死角』は、父の性犯罪によって解体した家族の記憶と、服役を終えようとする「あの人」の影を描く表題作を中心にした短篇集。講談社公式は、十七歳で無職の北町貫多が、刑期を終えようとする父、復讐に怯える母、消息不明の姉を抱えた家族の瓦礫に向き合う物語として紹介している。「病院裏に埋める」と表裏をなす不… 家族暴力貧困
  48. 048 2019 ひよこ太陽 ひよこたいよう 田中慎弥 単行本・新潮社 一緒に住んでいた女に去られ、切り詰めた生活のなかで小説を書こうとする40代の男を描く連作小説集。書けない日々と死への誘惑に取り憑かれた語り手は、母から頼まれた人探しをきっかけに、現実と幻想の境界が揺らぐ世界へ入っていく。書けなさ、不在、生活の索漠さを見つめる私小説的な作品。 芸術と表現孤独と疎外死と喪失
  49. 049 2019 改良 かいりょう 遠野遥 単行本・河出書房新社 女装し、美しくなることへ執着する大学生の「私」を描くデビュー作。コールセンターで働く語り手は、メイクや服装、仕草を研究し、美容や風俗に金を費やしながら、女装した自分を他者に見てほしいという欲望を強めていく。美への希求が、性をめぐる暴力と絶望へ接続される過程を、乾いた一人称で描く。 身体ジェンダー 第56回 文藝賞
  50. 050 2019 人間界の諸相 にんげんかいのしょそう 木下古栗 単行本・集英社 連絡が取れなくなった謎めいた女性・菱野時江の消息を、二人の友人がSNSを頼りに追っていくところから始まる作品。集英社公式は「トリッキーなエンタメ風小説」と紹介しており、人物相関や断片的な情報がずれながら、正体をつかもうとする読者の視線そのものを揺さぶる。奇妙なユーモアと不穏さが混ざる、木下古栗らしい… アイデンティティテクノロジー孤独と疎外
  51. 051 2019 キュー キュー 上田岳弘 初出・新潮 2017年10月号より連載 平凡な医師である「僕」が突然拉致され、世界の趨勢をめぐる暗闘の中心に、長年寝たきりだったはずの祖父がいることを知る。新潮社公式は、祖父の秘密が「人類を一つに溶かす」使命に関わるものとして紹介している。戦争、愛、運命、人類の統合という大きな主題を、現代的な技術感覚と哲学的な思考実験の語りで押し広げる作… テクノロジー戦争アイデンティティ
  52. 052 2019 人間 にんげん 又吉直樹 単行本・毎日新聞出版 『人間』は、若い日に創作を志す者たちが集ったシェアハウスの記憶と、38歳になった「僕」の現在を往還する長篇。表現者になりたいという願い、仲間と暮らす時間の高揚、その後に残る成功や挫折の差が、自己像を問い直す物語として重なっていく。又吉直樹の初の長編として、芸術への憧れだけでなく、他者と比べながら生き… 芸術と表現青春記憶
  53. 053 2019 おっぱいマンション改修争議 おっぱいまんしょんかいしゅうそうぎ 原田ひ香 単行本・新潮社 天才建築家が設計した、通称「おっぱいマンション」と呼ばれるヴィンテージマンションを舞台にした長篇。立地もデザインも人気を集める一方で重大な問題が発覚し、建築家の娘、学生運動あがりの元教師、秘密を抱えた住人たちを巻き込む改修争議が起こる。建築という表現物、住まいの記憶、共同体の利害がぶつかる騒動を、軽… 家族老い芸術と表現
  54. 054 2019 ポルシェ太郎 ポルシェたろう 羽田圭介 初出・文藝 掲載(前篇・後篇) 35歳で起業した太郎は、年収に匹敵するポルシェを買う。ところが、その自慢の車で得体の知れないものを運ばされることになり、成功者の見栄と欲望が危うい方向へ走り出す。河出書房新社の紹介は「欲望か、死か」という言葉で作品の緊張を示しており、消費、承認、成功の演出を乾いたユーモアで追う長篇として読める。単な… 労働同調圧力身体
  55. 055 2019 ウナノハテノガタ うなのはてのがた 大森兄弟 単行本・中央公論新社 海の民の少年オトガイは父からある役目を引き継ぎ、山の民の少女マダラコは生贄の儀式から逃れて山を下りる。中央公論新社の文庫版公式ページは、二人の出会いからすべてが始まる「原始の物語」として紹介している。共同体の掟、信仰、暴力、出会いによる世界の更新を、神話や寓話に近い距離感で描く作品。 信仰暴力家族
  56. 056 2018 ブルーハワイ ぶるーはわい 青山七恵 単行本・河出書房新社 『ブルーハワイ』『辰年』『聖ミクラーシュの日』『わかれ道』『山の上の春子』『わたしのおばあちゃん』を収めた短篇集。河出書房新社は、「あたりまえ」を知らない孤独が世界を撃ち抜く作品集として紹介している。日常のなかでそれぞれのことに夢中になる人々を、平明で少し乾いた語りで捉え、家族や記憶、他者との隔たり… 孤独と疎外家族記憶
  57. 057 2018 地球星人 ちきゅうせいじん 村田沙耶香 単行本・新潮社 『地球星人』は、恋愛、セックス、生殖を当然視する地球の仕組みを「人間工場」のように感じる語り手が、どう生き延びるかを問う長編です。新潮社公式紹介では、恋人と誓った魔法少女が世界と対峙する物語として位置づけられています。少女期の魔法少女的な自己像から、家族、性、生殖、暴力をめぐる社会の圧力へ進む、村田… 家族ジェンダー
  58. 058 2018 文字渦 もじうず 円城塔 単行本・新潮社 文字そのものを主役に、秦の始皇帝陵から発掘された漢字、未知の言語遊戯、プログラミング言語、AIによる『源氏物語』自動筆記、統合漢字の分離独立運動などをめぐる全12篇からなる作品集。文字の起源から未来までを、史実・字典・想像力・情報技術を交差させながら幻視する。読み物であると同時に、文字というメディア… 言葉と言語テクノロジー芸術と表現 第43回 川端賞
  59. 059 2018 5時過ぎランチ ごじすぎランチ 羽田圭介 単行本・実業之日本社 「グリーンゾーン」「内なる殺人者」「誰が為の昼食」の三篇からなる、労働と犯罪が絡み合う短篇集。ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギーを抱える殺し屋、写真週刊誌の女性記者が、それぞれ過酷な仕事の延長線上でヤクザや警察、国家権力に触れていく。ブラックな職場感覚とクライムノベルの緊張を重ね、仕事にまつわ… 労働暴力貧困
  60. 060 2018 ニムロッド ニムロッド 上田岳弘 初出・群像 2018年12月号 IT企業に勤める中本哲史は、社長から仮想通貨ビットコインの採掘(マイニング)事業を任される。彼の周りには、中絶と離婚の傷を抱える外資系勤務の恋人・田久保紀子と、小説家の夢に挫折し「駄目な飛行機コレクション」と題するメールを送ってくる同僚・荷室仁(ニムロッド)がいる。三人の日常に、天に挑んだバベルの塔… テクノロジー労働孤独と疎外 第160回 芥川賞
  61. 061 2018 落としもの おとしもの 横田創 単行本・書肆汽水域 踏切のあいだに落ちていたバッグを「わたし」が落とし主より先に奪い取ってしまう表題作をはじめ、寝たきりの祖母と過ごす夏、バイト仲間との雑魚寝で身体に触れられる夜などを収める短編集。日常のすぐ脇にある他者との距離、善意と不安、死への衝動を、乾いた手触りの短篇として立ち上げる。単行本未収録だった6作品をま… 孤独と疎外家族身体
  62. 062 2018 羅針盤は壊れても らしんばんはこわれても 西村賢太 単行本・講談社 西村賢太の分身的主人公・北町貫多が、二十三歳を迎え、日雇い暮らしのなかで人生の敗北感を濃くしていく小説集。田中英光や藤澤清造の私小説に救いを求める貫多が、自らも私小説を書き始めようとする姿を軸に、貧困、文学への執着、自己嫌悪が泥臭く絡み合う。表題作に加え「陋劣夜曲」などを収め、惨めさと不屈さが同時に… 貧困労働孤独と疎外
  63. 063 2018 その先の道に消える そのさきのみちにきえる 中村文則 単行本・朝日新聞出版 アパートの一室で発見された緊縛師の死体をめぐり、重要参考人の女性と彼女に惹かれる刑事・富樫、別の刑事たちの視線が絡み合う長編ミステリー。謎と嘘を追う捜査の形を取りながら、暴力、欲望、死者の痕跡を通じて、この世界を生きる意味を問い詰めていく。犯罪小説の緊迫感と、中村文則らしい倫理的・実存的な暗さが重な… 暴力死と喪失
  64. 064 2018 たてがみを捨てたライオンたち たてがみをすてたらいおんたち 白岩玄 単行本・集英社 専業主夫を考える30歳の出版社社員・直樹、離婚後の孤独を抱える35歳の広告マン・慎一、アイドルを追う25歳の公務員・幸太郎という三人の男性を並べる長編。仕事の評価、家事・育児、父親像、恋愛や趣味を通じて、「大人の男」らしさやプライドの重さを問い直す。軽く読ませる群像劇の形を取りながら、弱音を吐きにく… ジェンダー労働家族
  65. 065 2018 夜更けの川に落葉は流れて よふけのかわにおちばはながれて 西村賢太 初出・群像 2017年10月号 北町貫多の二十代前半を描く「寿司乞食」「夜更けの川に落葉は流れて」「青痰麺」の三篇を収める作品集。表題作では、無気力で受け身になっていた貫多が梁木野佳穂という女性との関わりによって、わずかに外の世界へ引き戻されていく。貧しさ、職場の失敗、恋愛の痛み、長く尾を引く恨みを、私小説的な乾いた筆致で読ませる… 貧困労働孤独と疎外
  66. 066 2018 前世は兎 ぜんせはうさぎ 吉村萬壱 初出・すばる 2015年11月号 表題作「前世は兎」のほか、「夢をクウバク」「宗教」「沼」「梅核」「真空土練機」「ランナー」を収める短篇集。兎だった前世の記憶を持つ女、カタログを書き写すことで不安を鎮める休職中の教員、破滅後の世界でマラソンに選ばれる姉など、現実の足場をずらす設定が並ぶ。身体、性、信仰、労働不能や破滅のイメージを通じ… 身体暴力
  67. 067 2018 いつか深い穴に落ちるまで いつかふかいあなにおちるまで 山野辺太郎 初出・「文藝」2018年冬号 日本とブラジルを直線で結ぶ穴を掘るという秘密プロジェクトをめぐる、壮大なホラ話としての会社員小説。戦後に若手官僚が思いついた計画を、大手建設会社子会社の広報係が調査することで、国家事業、会社組織、移民や国際関係が奇妙に絡み合う。真顔のユーモアで日本社会のシステムを描く点が読みどころ。 労働日本史移民と越境 第55回 文藝賞
  68. 068 2017 回遊人 かいゆうじん 吉村萬壱 単行本・徳間書店 『回遊人』は、吉村萬壱が漂流するように生きる人物や、社会の中を回り続ける身体を描く小説として整理できます。回遊という語は、目的地へ一直線に進まない移動と反復を示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 身体孤独と疎外労働
  69. 069 2017 生成不純文学 せいせいふじゅんぶんがく 木下古栗 単行本・集英社 『生成不純文学』は、木下古栗が純文学という制度や言葉の純度を、題名から揺さぶる作品として整理できます。生成される文学が「不純」であるという発想は、既存の文学観への皮肉として読めます。実験的でメタ的な語りを通じて、書くことそのものを笑いと違和感にさらす作品です。 芸術と表現言葉と言語同調圧力
  70. 070 2017 もう生まれたくない もううまれたくない 長嶋有 単行本・講談社 『もう生まれたくない』は、長嶋有が生まれることへの拒否感を題名に掲げ、生活の倦怠や関係のずれを描く作品として整理できます。重い言葉を、日常的な会話や軽みのある文体の中に置くことで、絶望が少し奇妙な手ざわりを帯びます。生の重さをユーモアでずらす長嶋作品らしい小説です。 死と喪失家族孤独と疎外
  71. 071 2017 茄子の輝き なすのかがやき 滝口悠生 単行本・新潮社 『茄子の輝き』は、「お茶の時間」「わすれない顔」「高田馬場の馬鹿」「茄子の輝き」などを収める連作短篇集です。Books/JPROの紹介では、別れた妻の面影、震災後の不安、同僚との会話など、不確かな記憶をめぐる場面を扱う作品として示されています。大きな事件よりも、日常の会話や街の断片に残る熱を拾い、滝… 労働夫婦孤独と疎外
  72. 072 2017 成功者K せいこうしゃケー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『成功者K』は、芥川賞受賞とメディア露出で人生が変貌していく作家Kを描く、私小説的メタフィクションです。成功は幸福ではなく、視線、消費、自己演出の圧力として人物にまとわりつきます。作家が商品化される現代の文芸状況を、皮肉と自虐で読ませる作品です。 芸術と表現労働同調圧力
  73. 073 2017 芝公園六角堂跡 しばこうえんろっかくどうあと 西村賢太 単行本・文藝春秋 『芝公園六角堂跡』は、「芝公園六角堂跡」「終われなかった夜の彼方で」「深更の巡礼」「十二月に泣く」を収める作品集です。文藝春秋BOOKSは、北町貫多が師・藤澤清造の終焉地に佇む場面と、私小説を書く理由を問う作品集として紹介しています。藤澤清造への執着、夜の東京、作家としての惑いが重なり、西村賢太の私… 芸術と表現孤独と疎外労働
  74. 074 2017 岩塩の女王 がんえんのじょおう 諏訪哲史 単行本・新潮社 『岩塩の女王』は、諏訪哲史が硬質なイメージと言葉遊びを重ねる小説として整理できます。岩塩という結晶と女王という権威の組み合わせは、身体、鉱物、支配の幻想を呼び込みます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌と初出確認に基づく暫定的な紹介です。 身体言葉と言語信仰
  75. 075 2017 美しい国への旅 うつくしいくにへのたび 田中慎弥 単行本・集英社 『美しい国への旅』は、田中慎弥が「美しい国」という政治的・理念的な言葉を旅の物語へずらして扱う小説として整理できます。旅は理想の場所へ向かう行為である一方、現実の醜さや暴力を見せる過程にもなります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 同調圧力暴力孤独と疎外
  76. 076 2017 エーゲ海に強がりな月が えーげかいにつよがりなつきが 楊逸 単行本・潮出版社 大学時代の同級生との失恋後、仕事優先の恋人とも別れた「私」が、OLの桂子に親密な感情を寄せ、自身の恋愛経験を語る。証券会社で投資家として出会った桂子と年上男性「カレチ」の駆け引きを軸に、現代女性の恋愛、孤独、幸福のかたちを描く。語り手が友人の恋を見つめながら自分の夫婦関係にも向き合う構図が読みどころ… 恋愛ジェンダー孤独と疎外
  77. 077 2016 月刊「小説」 げっかんしょうせつ 松波太郎 単行本・河出書房新社 『月刊「小説」』は、松波太郎が小説という媒体や制度そのものを題名に取り込み、書くことと読むことの場を扱う作品として整理できます。月刊誌のような周期性や掲載の感覚が、文学の生産と消費を意識させます。物語だけでなく、小説が置かれる文芸誌の文脈も読む作品です。 芸術と表現言葉と言語労働
  78. 078 2016 ホモサピエンスの瞬間 ほもさぴえんすのしゅんかん 松波太郎 単行本・文藝春秋 『ホモサピエンスの瞬間』は、松波太郎が人間を生物種として捉える視野と、個人の瞬間的な感覚を重ねる作品として整理できます。タイトルは、人間であることを大きな分類から眺める一方、生活の一瞬へも焦点を合わせます。既存データには芥川賞候補作とあるが、今回の調査では公式候補出典を確認できていません。 身体アイデンティティ孤独と疎外
  79. 079 2016 壁抜けの谷 かべぬけのたに 山下澄人 単行本・中央公論新社 『壁抜けの谷』は、山下澄人が壁を抜けるという幻想的な身振りと、谷という地形を組み合わせて描く小説として整理できます。壁は境界を、谷は落ち込みや隔たりを思わせ、人物の身体感覚を通常の現実からずらします。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 身体孤独と疎外記憶
  80. 080 2016 天才 てんさい 石原慎太郎 単行本・幻冬舎 『天才』は、田中角栄の一人称で語られる石原慎太郎の政治小説です。実在の政治家の生涯を、本人が語る形式に置き換えることで、戦後政治、権力、地方から中央へ向かう上昇の物語を描きます。史実を素材にしつつ、語りの強さで人物像を押し出す作品です。 日本史労働同調圧力
  81. 081 2016 蠕動で渉れ、汚泥の川を ぜんどうでわたれ、おでいのかわを 西村賢太 単行本・集英社 『蠕動で渉れ、汚泥の川を』は、17歳の北町貫多が新聞専売所で働く日々を描く長編私小説です。労働の単調さ、貧しさ、屈辱感が、身体を引きずるような題名の感覚と重なります。西村賢太らしい苛立ちと自己嫌悪を、青年期の労働現場から読む作品です。 労働貧困孤独と疎外
  82. 082 2016 かがやき かがやき 馳平啓樹 初出・「文學界」2016年1月号(第70巻第1号) 『かがやき』は、馳平啓樹が『文學界』2016年1月号に発表した作品で、2019年刊の初作品集の表題作です。Books出版書誌データベースでは、2011年に文學界新人賞を受賞し、兼業作家として創作活動を続けてきた馳平の初作品集として紹介されています。単行本には表題作のほか「梨の味」「クチナシ」「きんの… 労働日常孤独と疎外
  83. 083 2016 市街戦 しがいせん 砂川文次 初出・「文學界」2016年5月号 『市街戦』は、砂川文次のデビュー作であり、第121回文學界新人賞受賞作です。NDLサーチでは『文學界』2016年5月号掲載、文藝春秋公式ページでは後年の単行本『戦場のレビヤタン』に著者デビュー作として併録されたことを確認できます。公開されている出版社・書誌情報だけでは単独作品としての詳しい梗概までは… 戦争暴力簡潔な文体 第121回 文學界新人賞
  84. 084 2016 五つ星をつけてよ いつつぼしをつけてよ 奥田亜希子 単行本・新潮社 『五つ星をつけてよ』は、奥田亜希子が2016年10月に新潮社から刊行した連作集です。ディスプレイに並ぶ口コミの星や「いいね!」を手がかりに、服や家電だけでなく人間関係まで選ぼうとする人々を描きます。ブログ、SNS、写真共有サイトなど、手のひらサイズのインターネットが知らず知らずに心と心の距離を伸び縮… インターネット承認欲求家族
  85. 085 2016 のろい男 俳優・亀岡拓次 のろいおとこ はいゆう かめおかたくじ 戌井昭人 単行本・文藝春秋 脇役俳優・亀岡拓次を主人公にした連作短篇集で、全国のロケ地を転々としながら仕事相手との淡い縁を紡ぐ日々を描く。続編として、職業俳優の孤独、現場ごとの仮のつながり、生活の滑稽さが積み重なる。諦観とユーモアを交え、主役ではない人物の時間を照らす作品。 芸術と表現労働孤独と疎外 第38回 野間新人賞
  86. 086 2015 愛のようだ あいのようだ 長嶋有 単行本・リトル・モア 『愛のようだ』は、長嶋有が「愛」と断言しきれない関係の曖昧さを描く長篇です。題名の「ようだ」は、感情を確定せず、似ているもの、ずれているものとして捉える姿勢を示します。軽やかな語りのなかに、親密さの不確かさが残る作品です。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  87. 087 2015 痴者の食卓 ちしゃのしょくたく 西村賢太 単行本・新潮社 『痴者の食卓』は、西村賢太が食卓という生活の場に、屈辱や欲望、関係のこじれを持ち込む小説として整理できます。食べる場は穏やかな家庭の象徴ではなく、人物の弱さや執着が露出する場所になります。私小説的な語りで、生活の荒れと孤立を読ませる作品です。 孤独と疎外家族
  88. 088 2015 復讐屋成海慶介の事件簿 ふくしゅうやなるみけいすけのじけんぼ 原田ひ香 単行本・双葉社 『復讐屋成海慶介の事件簿』は、原田ひ香が復讐を請け負う人物を軸に、事件と人間関係を描く小説として整理できます。復讐は単なる解決ではなく、依頼者や加害者の生活のゆがみを浮かび上がらせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 暴力労働孤独と疎外
  89. 089 2015 ギリギリ ぎりぎり 原田ひ香 単行本・KADOKAWA 『ギリギリ』は、原田ひ香が生活の余裕のなさや、関係の危うい境界を描く小説として整理できます。題名は金銭、時間、感情のいずれも限界に近い状態を示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働貧困家族
  90. 090 2015 薄情 はくじょう 絲山秋子 単行本・新潮社 『薄情』は、群馬の地方都市に生きる男を通して、土地への愛着と冷淡さを描く絲山秋子の長篇です。故郷や人間関係は温かいものとしてだけでなく、切り捨てたり距離を置いたりするものとして現れます。地方の生活感と、人の薄情さを見つめる乾いた文体が読みどころです。 地方孤独と疎外記憶 第52回 谷崎賞
  91. 091 2015 反人生 はんじんせい 山崎ナオコーラ 単行本・集英社 『反人生』は、山崎ナオコーラが「人生を作る」という発想そのものから距離を取る小説です。社会が求める進路や物語化された生き方に対し、人物は別の速度で存在しようとします。人生を肯定的に組み立てる物語への違和感を、軽やかな語りで扱う作品です。 アイデンティティ労働孤独と疎外
  92. 092 2015 ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス 滝口悠生 単行本・新潮社 『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』は、滝口悠生が音楽の名を冠した表題作を中心に、記憶と現在のずれをたどる作品です。固有名や文化的記憶が、人物の生活感覚に入り込み、出来事を一直線の筋ではなく断片的な時間として浮かび上がらせます。日常の会話や回想の揺れから、過去を語り直すことの不確かさを読む小説で… 記憶芸術と表現アイデンティティ
  93. 093 2015 無銭横町 むせんよこちょう 西村賢太 単行本・文藝春秋 『無銭横町』は、西村賢太が北町貫多の生活、金銭、鬱屈を私小説的に描く作品集として整理できます。横町という場は、貧しさや人づきあいの狭さを抱えた生活圏として機能します。金のなさ、怒り、屈辱を乾いた語りで押し出すところに読みどころがあります。 貧困孤独と疎外労働
  94. 094 2015 スクラップ・アンド・ビルド スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介 初出・文學界 2015年 無職で資格試験の勉強と転職活動を続ける28歳の健斗は、母と、87歳の祖父との三人暮らし。「早う死にたか」と口癖のように繰り返す祖父に対し、健斗は介護職の友人の助言をひねって解釈し、あえて何もかも世話を焼いて自立の機会を奪う「足し算の介護」によって、祖父の望む穏やかな死を後押ししようと思い立つ。同時に… 家族老いケアと介護 第153回 芥川賞
  95. 095 2015 消滅世界 しょうめつせかい 村田沙耶香 単行本・河出書房新社 『消滅世界』は、人工授精が発達し、夫婦間のセックスが近親相姦のようにタブー視されるもう一つの日本を描く長編です。主人公・雨音は、父母の性行為によって生まれたことを抱えながら、セックスのない清潔な家族を作ろうとします。やがて夫の朔とともに実験都市「楽園」へ移り、家族によらない繁殖システムと向き合うこと… ジェンダー家族
  96. 096 2015 匿名芸術家 とくめいげいじゅつか 青木淳悟 単行本・講談社 『匿名芸術家』は、青木淳悟が芸術家の名、作品、評価の仕組みをめぐって実験的に書く小説です。匿名性は作者の消去であると同時に、芸術と制度の関係を露出させる装置になります。物語を読むだけでなく、作品が「芸術」として扱われる条件を考えさせる作品です。 芸術と表現アイデンティティ言葉と言語
  97. 097 2015 鳥の会議 とりのかいぎ 山下澄人 単行本・河出書房新社 『鳥の会議』は、山下澄人が鳥という非人間的な視点や集まりのイメージを通して、人間の言葉と身体をずらして描く作品として整理できます。会議という形式は共同性を示す一方、意味が共有されない不穏さも帯びています。断片的な語りと身体感覚から、日常の秩序が崩れる感触を読む小説です。 身体言葉と言語孤独と疎外
  98. 098 2015 十七八より じゅうななはちより 乗代雄介 初出・「群像」2015年6月号 塾講師として働く作者の経験も背景に、十代後半の言葉やリズムをすくい取るデビュー作。若者の会話や身振りを手がかりに、青春の不安定さと都市生活の距離感を描く。のちの乗代作品につながる、観察と文体への関心が見える作品として位置づけられる。 青春言葉と言語労働 第58回 群像新人賞
  99. 099 2014 コルバトントリ コルバトントリ 山下澄人 単行本・文藝春秋 『コルバトントリ』は、山下澄人が意味をすぐには回収しにくい言葉と、身体の記憶を結びつける小説として整理できます。題名の異物感そのものが、人物の経験を通常の物語に収めない姿勢を示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 身体記憶孤独と疎外
  100. 100 2014 メタモルフォシス メタモルフォシス 羽田圭介 単行本・新潮社 『メタモルフォシス』は、SMの快楽へ深入りしていく証券マンを描く羽田圭介の小説です。仕事で求められる合理性と、身体が求める変容の欲望がずれていきます。性と労働を結びつけながら、自己像が変質していく過程を乾いた文体で追う作品です。 身体労働
  101. 101 2014 寝相 ねぞう 滝口悠生 単行本・新潮社 『寝相』は、滝口悠生の最初期作品を収める小説集で、睡眠や身体の姿勢のような無意識の領域に、人物の記憶や関係がにじみます。既存データでは新潮新人賞受賞作「楽器」を含む最初の小説集とされています。日常の細部がゆっくりずれていく語りが読みどころです。 記憶身体孤独と疎外
  102. 102 2014 男一代之改革 おとこいちだいのかいかく 青木淳悟 単行本・河出書房新社 『男一代之改革』は、江戸の改革者・松平定信を『源氏物語』の読み手として描く青木淳悟の異色の歴史小説です。歴史上の人物を、政治の主体であると同時に読者として捉える点に特徴があります。史実と読書行為を重ね、過去の人物像を現代的にずらして読む作品です。 日本史芸術と表現言葉と言語
  103. 103 2014 ルンタ ルンタ 山下澄人 単行本・講談社 『ルンタ』は、山下澄人が土地、身体、記憶の断片を独特の語りでつなぐ小説です。題名の音の響きは意味をすぐには固定せず、人物の経験を通常の筋からずらしていきます。身体に残る感覚を、乾いたユーモアと不穏さで読ませる作品です。 身体記憶孤独と疎外
  104. 104 2014 殺人出産 さつじんしゅっさん 村田沙耶香 単行本・講談社 『殺人出産』は、十人産めば一人殺してもよい「殺人出産制度」が認められた世界を描く表題作を中心とする作品集です。Amazonの商品紹介では、「産み人」が尊い存在として崇められる社会で、職場の同僚が産み人になっていくなか、主人公・育子が複雑な思いを抱える物語として説明されています。OpenBDでは「トリ… 身体ジェンダー
  105. 105 2014 疒の歌 やまいだれのうた 西村賢太 単行本・新潮社 『疒の歌』は、北町貫多の青年期を描く西村賢太の長篇私小説です。病だれを含む題名が示すように、身体の不調、生活の荒み、内面の歪みが語りの中心になります。自己嫌悪と執着を、乾いた文体で押し出し、青年期の孤立を生活の手ざわりから読ませる作品です。 孤独と疎外労働
  106. 106 2014 熊の結婚 くまのけっこん 諸隈元 初出・「文學界」2014年6月号 『熊の結婚』は、諸隈元の第118回文學界新人賞受賞作です。年収の低いアルバイトとして絵を描く夫と、弁護士として働く妻の奇妙な夫婦関係を、体外受精や離婚、息子の成長を含む長い時間の流れのなかで描きます。断定しては打ち消すような反復的な語りと言葉遊びが、夫婦小説でありながら寓話めいた読後感を生んでいます… 夫婦家族 第118回 文學界新人賞
  107. 107 2014 トレイス とれいす 板垣真任 初出・「文學界」2014年12月号 『トレイス』は、山形出身の大学院生だった著者が、地方都市と高齢化社会の現実を扱ったデビュー作として紹介された作品です。若い書き手の視点から、地方で生きることや老いが迫る社会の輪郭をたどる。文藝春秋の号ページとNDLサーチで受賞・掲載は確認できるが、詳細な筋は公開資料では限定的である。 地方老い生活 第119回 文學界新人賞
  108. 108 2013 快楽 かいらく 青山七恵 単行本・講談社 『快楽』は、欲望の不平等を題材に、身体、性、他者からの評価を大胆に描く青山七恵の小説です。快楽は単純な喜びではなく、誰が欲望を持つことを許されるのかという社会的な問いへ広がります。静かな文体の奥で、性とジェンダーの不均衡が不穏に浮かびます。 ジェンダー同調圧力
  109. 109 2013 ギッちょん ギッちょん 山下澄人 単行本・文藝春秋 『ギッちょん』は、山下澄人が身体の記憶や言葉になりにくい経験を、断片的な語りで立ち上げる小説です。題名の音の感触そのものが、人物の不器用さや世界とのずれを示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 身体記憶孤独と疎外
  110. 110 2013 棺に跨がる かんにまたがる 西村賢太 単行本・文藝春秋 『棺に跨がる』は、北町貫多ものの系譜に属し、秋恵との同棲の終わりを軸にする西村賢太の連作集です。語りは私小説的で、屈辱、執着、生活の破綻がむき出しの文体で綴られます。恋愛や家族の物語というより、自己破壊的な男の孤立を読む作品です。 恋愛孤独と疎外暴力
  111. 111 2013 ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 ぴんざきゃっとのゆうびなはんらん 荻世いをら 初出・文藝 2011年秋号・2013年春号/群像 2011年5月 『ピン・ザ・キャットの優美な叛乱』は、飼い猫と生まれた息子の境界が揺らぐ感覚を核に、家族・身体・動物的な気配を奇妙な寓話へ変形させる小説。河出書房新社は、猫をめぐるかつてない小説として紹介し、現実の秩序が少しずつずれていく不穏さを前面に出している。語りのユーモアと不安が同時に立ち上がる、荻世いをらら… 身体家族暴力
  112. 112 2013 砂漠ダンス さばくダンス 山下澄人 単行本・河出書房新社 『砂漠ダンス』は、山下澄人が乾いた場所の感覚と身体の動きを結びつける小説です。砂漠とダンスという組み合わせは、孤立した空間でなお身体が反応し続けるイメージを作ります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌と創作合評に基づく暫定的な紹介です。 身体孤独と疎外記憶
  113. 113 2013 問いのない答え といのないこたえ 長嶋有 単行本・文藝春秋 『問いのない答え』は、長嶋有が問いと答えの関係をずらし、日常の会話や共同性の空白を描く長篇です。正解を求める物語ではなく、答えだけが先にあるような感覚のなかで人物たちがつながります。軽やかな文体の奥に、震災後の不確かさや言葉の扱いにくさが残ります。 言葉と言語同調圧力孤独と疎外
  114. 114 2013 忘れられたワルツ わすれられたわるつ 絲山秋子 単行本・新潮社 『忘れられたワルツ』は、絲山秋子が記憶からこぼれ落ちる感情や、日常の不意のずれを描く短篇集です。ワルツのような反復と忘却の感覚が、人物の孤独や時間の歪みを浮かび上がらせます。抑えた語りのなかで、喪失とユーモアが同居する作品です。 記憶孤独と疎外死と喪失
  115. 115 2013 歪んだ忌日 ゆがんだきじつ 西村賢太 単行本・新潮社 『歪んだ忌日』は、西村賢太が忌日と記憶をめぐる感情のねじれを描く私小説的作品です。故人への思いは清らかな追悼ではなく、怒り、屈辱、生活の停滞を含んだものとして現れます。乾いた語りで、喪失と執着の歪みを読ませます。 死と喪失記憶孤独と疎外
  116. 116 2013 すなまわり すなまわり 鶴川健吉 初出・「文學界」2013年6月号(第67巻第6号) 『すなまわり』は、相撲好きの少年が自分の体格に見切りをつけ、行司の道を選ぶ青春小説です。文藝春秋公式ページでは、激しい稽古、間延びする自由時間、やめていく若手など、角界の裏方の生態を描く作品として紹介されています。元大相撲行司という鶴川健吉自身の経歴を背景にしながらも、作者は主人公との距離を意識した… 青春労働身体
  117. 117 2013 アフリカ鯰 あふりかなまず 前田隆壱 初出・「文學界」2013年12月号 『アフリカ鯰』は、静岡で暮らす男性の日常に、アフリカ大陸をめぐる記憶が重なるデビュー作として登録されている。旅の記憶と現在の停滞を対置し、遠い土地の経験が生活の感覚を揺らす作品として読める。NDLサーチと文藝春秋の号ページで受賞・掲載情報は確認できるが、詳細な筋や選評本文は今回十分に確認できていない… 記憶地方移民と越境 第117回 文學界新人賞
  118. 118 2013 息子の逸楽 むすこのいつらく 守島邦明 初出・「文學界」2013年12月号 『息子の逸楽』は、『文學界』2013年12月号に第117回文學界新人賞受賞作として掲載された守島邦明のデビュー作。既存梗概では、息子の放逸な生き方と家族の関係を描く作品として整理されている。NDLサーチと文藝春秋の号ページで受賞・掲載は確認できるが、詳細な内容紹介や選評本文は今回確認できていない。 家族父と子生活 第117回 文學界新人賞
  119. 119 2012 関東平野 かんとうへいや 北野道夫 初出・文學界 2012年9月号(第66巻第9号) 『関東平野』は、第106回文學界新人賞受賞作『逃げ道』の作者・北野道夫が「文學界」2012年9月号に発表した短篇です。NDLサーチで掲載誌・巻号・ページを確認でき、芥川賞候補作家の群像では第148回芥川賞候補作として整理されています。今回確認できた公開情報では単行本化は見当たらず、書誌と候補歴を中心… 土地記憶孤独と疎外
  120. 120 2012 愛について あいについて 白岩玄 単行本・河出書房新社 『愛について』は、今の恋人、元恋人、忘れられない相手をめぐり、愛の身勝手さや未練を描く白岩玄の恋愛短編集です。恋愛は理想化されず、相手を求める気持ちと自己防衛のあいだで揺れます。軽さのなかに、親密さの不公平さが残る作品です。 恋愛アイデンティティ孤独と疎外
  121. 121 2012 パトロネ ぱとろね 藤野可織 単行本・集英社 『パトロネ』は、支援者や庇護者を意味する語を手がかりに、芸術、労働、他者への依存を描く藤野可織の小説として整理できます。誰かに支えられることは、保護であると同時に支配や不自由も生みます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現労働孤独と疎外
  122. 122 2012 百年の憂鬱 ひゃくねんのゆううつ 伏見憲明 単行本・ポット出版 『百年の憂鬱』は、伏見憲明が長い時間の憂鬱を、性、ジェンダー、孤独の問題と結びつけて描く作品として整理できます。百年という誇張された時間は、個人の悩みを社会的な制度や歴史の重さへ広げます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 ジェンダー孤独と疎外
  123. 123 2012 隠し事 かくしごと 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『隠し事』は、秘密を抱えた人間関係を通じて、家族や恋愛の見えない緊張を描く羽田圭介の小説です。隠すことは単なる嘘ではなく、自分を守るための姿勢であり、同時に他者との距離を生みます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 家族記憶孤独と疎外
  124. 124 2012 LOVE & SYSTEMS らぶあんどしすてむず 中島たい子 単行本・幻冬舎 『LOVE & SYSTEMS』は、恋愛を感情だけでなく、社会や制度の仕組みとして見つめる中島たい子の小説です。愛とシステムという並置は、親密な関係が個人の気持ちだけで成立しないことを示します。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 恋愛同調圧力労働
  125. 125 2012 マリアージュ・マリアージュ マリアージュ・マリアージュ 金原ひとみ 単行本・新潮社 『マリアージュ・マリアージュ』は、結婚をめぐる複数の男女関係を描く金原ひとみの短篇集です。結婚は安定したゴールではなく、身体、欲望、制度が絡む不安定な関係として扱われます。華やかな題名の反復の奥に、夫婦や恋愛への違和感が残ります。 夫婦恋愛ジェンダー
  126. 126 2012 緑のさる みどりのさる 山下澄人 単行本・平凡社 『緑のさる』は、山下澄人の最初の単行本で、演劇的な会話と現実から少し外れる感覚を持つ小説です。人物の言葉は説明よりもリズムを生み、家族や孤独の問題が不意に立ち上がります。寓話的な題名と簡潔な場面の連なりが、独特の不穏さを作ります。 家族孤独と疎外言葉と言語 第34回 野間新人賞
  127. 127 2012 盗まれた顔 ぬすまれたかお 羽田圭介 単行本・幻冬舎 『盗まれた顔』は、指名手配犯の顔を記憶して追う見当たり捜査班の刑事を描く羽田圭介の小説です。顔を覚える仕事は、他者のアイデンティティを管理する労働であると同時に、見る側の自己認識も揺さぶります。警察小説の形を取りながら、身体、記憶、監視の問題へ広がります。 アイデンティティ労働テクノロジー
  128. 128 2012 しょうがの味は熱い しょうがのあじはあつい 綿矢りさ 単行本・文藝春秋 『しょうがの味は熱い』は、煮え切らない男と煮詰まった女の同棲生活を描く綿矢りさの二篇を収めた作品です。食べものの熱さは、恋愛や生活の中で小さく蓄積する苛立ちと結びつきます。夫婦未満の親密さと倦怠を、口語的で乾いた文体で描きます。 夫婦恋愛
  129. 129 2012 田中慎弥の掌劇場 たなかしんやのてのひらげきじょう 田中慎弥 単行本・毎日新聞出版 『田中慎弥の掌劇場』は、新聞連載から生まれた短い小説を収める掌編集です。短い形式のなかで、孤独、記憶、死の気配が圧縮され、長編とは別の鋭さで田中慎弥の暗い感触が現れます。掌編という制約が、語りの省略と余白を強くしています。 孤独と疎外記憶死と喪失
  130. 130 2012 私の中の男の子 わたしのなかのおとこのこ 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『私の中の男の子』は、自分の内側にある「男の子」という感覚を通じて、ジェンダーと身体の境界を描く山崎ナオコーラの小説です。性別は固定された属性ではなく、語り手の内面で動き続ける違和感として現れます。軽やかな文体で、自己認識と社会の分類のずれを読む作品です。 ジェンダー身体アイデンティティ
  131. 131 2012 おしかくさま おしかくさま 谷川直子 初出・「文藝」2012年冬号 四十九歳でバツイチ、子どものいないミナミが、「おしかくさま」というお金の神様を信じる女たちに出会い、その正体を追っていく。奇妙な信仰を入り口に、将来不安、生活、共同幻想としてのお金を問う作品。怪異譚のような設定を現代日本の経済感覚へ接続する点が読みどころである。 信仰貧困孤独と疎外 第49回 文藝賞
  132. 132 2012 狭小邸宅 きょうしょうていたく 新庄耕 初出・「すばる」2012年11月号 不動産営業会社で働く若い社員を主人公に、ノルマ、叱責、顧客対応に追われる日々を描く職場小説。狭い住宅を売る仕事の具体性が、労働の過酷さと都市生活の息苦しさを結びつける。成長譚の枠組みを持ちながら、ブラックな職場環境を乾いたリアリズムで読ませる作品である。 労働貧困同調圧力 第36回 すばる文学賞
  133. 133 2012 黙って喰え だまってくえ 門脇大祐 初出・「新潮」2012年11月号 食べることをめぐる欲望と暴力性を扱うデビュー短篇。身体的な行為としての食事を、人間関係や支配の感覚へ結びつける作品として登録されている。新潮新人賞公式ページで受賞事実は確認できるが、今回確認できた公式ページでは梗概までは示されていないため、内容紹介は既存梗概に基づく限定的な整理である。 身体暴力 第44回 新潮新人賞
  134. 134 2011 赤の他人の瓜二つ あかのたにんのうりふたつ 磯﨑憲一郎 単行本・講談社 『赤の他人の瓜二つ』は、血縁のない他人が瓜二つであるという設定から、労働、移動、世界史を交差させる磯﨑憲一郎の長編です。写し鏡のような人物配置は、個人の固有性と歴史の反復を同時に揺さぶります。寓話的な設定を取りながら、近代的な労働と身体の問題へ広がる作品です。 労働アイデンティティ記憶 第21回 ドゥマゴ文学賞
  135. 135 2011 わたしの彼氏 わたしのかれし 青山七恵 単行本・講談社 『わたしの彼氏』は、恋人という近しい存在を通じて、自己認識と他者への期待のずれを描く青山七恵の小説です。平明な語りのなかで、恋愛の甘さよりも、人が関係に名前を与えようとするぎこちなさが目立ちます。若い人物の感情を、淡い距離感で読む作品です。 恋愛アイデンティティ同調圧力
  136. 136 2011 不愉快な本の続編 ふゆかいなほんのぞくへん 絲山秋子 単行本・新潮社 『不愉快な本の続編』は、既にある物語の「続編」という発想から、読むこと、語り直すこと、他者の物語を引き受けることを問う絲山秋子の作品です。既存データでは『異邦人』を思わせる文脈が示されており、文学的参照を通じて孤独と違和感が描かれます。廃墟や続きの感覚が、乾いた不穏さを生みます。 芸術と表現孤独と疎外アイデンティティ
  137. 137 2011 人生オークション じんせいおーくしょん 原田ひ香 単行本・講談社 『人生オークション』は、人生を売りに出すような題名を通じて、家族、労働、お金の感覚を描く原田ひ香の作品です。価値がつくものとつかないものの差が、人物の生活の切実さを照らします。日常的な語りのなかに、貧困や関係の再配置が見えてきます。 労働貧困家族
  138. 138 2011 寒灯 かんとう 西村賢太 単行本・新潮社 『寒灯』は、西村賢太の北町貫多ものの系譜にある私小説的な作品です。既存データでは、貫多と秋恵の同棲生活が崩れていく過程が中心に置かれています。貧しさ、恋愛の破綻、自己嫌悪を、乾いた語りで露出させる作品です。 貧困恋愛孤独と疎外
  139. 139 2011 ニキの屈辱 にきのくつじょく 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 『ニキの屈辱』は、山崎ナオコーラが女性の自己像、身体、他者からの評価を描く小説です。屈辱という強い語は、社会的な視線や恋愛関係のなかで、人物が自分の輪郭を傷つけられる感覚を示します。軽い語り口の背後に、ジェンダーと身体の痛みが残ります。 ジェンダー身体同調圧力
  140. 140 2011 領土 りょうど 諏訪哲史 単行本・新潮社 『領土』は、諏訪哲史が土地、言葉、所有の感覚を問い直す作品です。領土という政治的な語は、国家だけでなく、身体や記憶、語りが占める場所の問題にも広がります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 言葉と言語アイデンティティ記憶
  141. 141 2011 「ワタクシハ」 ワタクシハ 羽田圭介 単行本・講談社 『「ワタクシハ」』は、就職活動に翻弄される元バンドマンの大学生を描く羽田圭介の就活小説です。自己PRや面接の言葉が、主人公の音楽への未練や自己像をゆがめていきます。労働へ入る前の儀礼としての就活を、乾いた違和感とともに読む作品です。 労働青春アイデンティティ
  142. 142 2010 地上で最も巨大な死骸 ちじょうでもっともきょだいなしがい 飯塚朝美 単行本・新潮社 『地上で最も巨大な死骸』は、表題作と「クロスフェーダーの曖昧な光」を収めた飯塚朝美の単行本です。巨大な死骸というイメージは、死や身体の存在感を過剰なスケールで立ち上げます。現時点では詳細な内容資料が限られるため、死と身体をめぐる不穏な作品集として暫定的に整理します。 死と喪失身体芸術と表現
  143. 143 2010 人もいない春 ひともいないはる 西村賢太 単行本・角川書店 『人もいない春』は、西村賢太の私小説的な語りで、孤独、貧困、生活の荒みを描く作品です。春という明るい季節の言葉に対して、人のいなさが強調され、取り残された感覚が前面に出ます。乾いた自己暴露の文体が、生活の行き詰まりを読ませます。 貧困孤独と疎外労働
  144. 144 2010 見知らぬ人へ、おめでとう みしらぬひとへおめでとう 木村紅美 単行本・講談社 『見知らぬ人へ、おめでとう』は、見知らぬ相手に向けた祝福という奇妙な距離感から、他者との関係を描く木村紅美の作品です。直接の親密さではなく、社会のなかですれ違う人びとへの想像が物語を動かします。都市的な孤独と、言葉によって関係を作ることの危うさが読みどころです。 孤独と疎外言葉と言語家族
  145. 145 2010 この世は二人組ではできあがらない このよはふたりぐみではできあがらない 山崎ナオコーラ 単行本・新潮社 『この世は二人組ではできあがらない』は、恋愛や結婚を二人組の単位で考える社会の前提を問い直す山崎ナオコーラの小説です。親密さは一対一の完成形ではなく、複数の関係や距離の取り方のなかで揺れます。ジェンダー、恋愛、共同性を、軽やかな文体で考える作品です。 恋愛ジェンダー同調圧力
  146. 146 2010 苦役列車 くえきれっしゃ 西村賢太 初出・新潮 2010年12月号 中卒で家を出た19歳の北町貫多は、東京の埠頭で冷凍倉庫から荷を運び出す日雇い仕事でその日暮らしを続けている。日当はすぐに酒と風俗に消え、家賃は滞納し、人付き合いもない。そんな彼が職場で専門学校生の日下部と知り合い、初めて友人と呼べそうな存在を得るが、劣等感と過剰な自意識がその関係に影を落としていく… 労働貧困孤独と疎外 第144回 芥川賞
  147. 147 2010 ミート・ザ・ビート ミート・ザ・ビート 羽田圭介 単行本・文藝春秋 『ミート・ザ・ビート』は、郊外で暮らすフリーターの青年の日常を、音楽的なリズムを持つ文体で描く羽田圭介の小説です。労働と無為のあいだを揺れる生活に、ビートのような反復と焦燥が重なります。若い身体、貧困、郊外の閉塞を読む作品です。 労働青春貧困
  148. 148 2010 マイルド生活スーパーライト まいるどせいかつすーぱーらいと 丹下健太 単行本・河出書房新社 『マイルド生活スーパーライト』は、軽く薄い生活感を題名に掲げながら、日常の疲労や空虚さを描く丹下健太の小説です。強い事件よりも、生活の温度が下がっていくような感覚が中心にあります。公開資料では内容細部が限られるため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働孤独と疎外貧困
  149. 149 2010 妻の超然 つまのちょうぜん 絲山秋子 単行本・新潮社 『妻の超然』は、夫婦や男女の関係を、絲山秋子らしい乾いた距離感で描く作品です。身近な関係のなかにある理解不能さを、過度に説明せず、会話と沈黙の間から浮かび上がらせます。夫婦という制度、恋愛の疲れ、生活の違和感を読む小説です。 夫婦ジェンダー恋愛
  150. 150 2010 自由高さH じゆうたかさH 穂田川洋山 初出・「文學界」2010年6月号 『自由高さH』は、建築的な視点から人間の空間認識と自由の関係を探る保高洋三のデビュー作です。空間、身体、自由という抽象的な主題を、建築の語彙に近い感覚で小説化している点が特徴です。第143回芥川賞候補作にもなり、形式意識の強い新人作として位置づけられます。 身体芸術と表現孤独と疎外 第110回 文學界新人賞
  151. 151 2009 あたしはビー玉 あたしはびーだま 山崎ナオコーラ 単行本・幻冬舎 『あたしはビー玉』は、山崎ナオコーラが一人称の感覚を通して、自己像の丸さや転がりやすさを描く作品です。題名の比喩は、主体が固定されず、他者との関係の中で動いてしまうことを示しているように読めます。軽やかな文体の奥に、孤独と自己認識の問題が残ります。 アイデンティティ恋愛孤独と疎外
  152. 152 2009 ブルーシート ぶるーしーと 浅尾大輔 単行本・朝日新聞出版 『ブルーシート』は、デビュー作「家畜の朝」を含む第一創作集として、底辺労働や生活の現場を描く作品です。都市の表面では見えにくい働く身体と貧困の感覚が、青いシートの仮設性と重なります。社会的な題材を、個人の孤独と身体感覚に引き寄せて読むことができます。 労働貧困身体
  153. 153 2009 犬と鴉 いぬとからす 田中慎弥 単行本・講談社 『犬と鴉』は、田中慎弥の硬質な文体で、人間の生の暗さや動物的な感覚を前面に出す作品です。犬と鴉という題名の組み合わせは、従順さと不吉さ、近さと遠さを同時に呼び込みます。閉じた生活の中で、身体と孤独がざらついた手触りで描かれます。 身体孤独と疎外暴力
  154. 154 2009 犬はいつも足元にいて いぬはいつもあしもとにいて 大森兄弟 初出・文藝 2009年冬号 中学生の主人公の日常に、犬が公園の茂みから探り当てた正体不明の「肉」が入り込んでくる。誰も名指せないその物体は、思春期の鬱屈や家族のぎこちなさと響き合いながら、生き物の生々しさと死の気配を物語の中心に居座らせる。登場人物はどこか不快なのに目を離せないという独特の距離感で語られ、生命の循環を思わせる視… 身体死と喪失家族 第46回 文藝賞
  155. 155 2009 JOHNNY TOO BAD 内田裕也 じょにーとぅーばっど うちだゆうや モブ・ノリオ 単行本・文藝春秋 『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』は、小説「ゲットーミュージック」と内田裕也のロックン・トークを合わせた書籍として確認できる作品です。モブ・ノリオの小説的な語りと、ロック文化への接近が一冊の中で並置されています。純文学とサブカルチャー、発話とパフォーマンスの境界を見る資料としても読めます。 芸術と表現言葉と言語アイデンティティ
  156. 156 2009 ここに消えない会話がある ここにきえないかいわがある 山崎ナオコーラ 単行本・集英社 『ここに消えない会話がある』は、会話の断片が人間関係の記憶として残ることを描く山崎ナオコーラの作品です。話したことは流れて消えるようでいて、相手との距離や自分の輪郭を決めてしまいます。言葉の軽さと残酷さを、日常の関係から考えさせる小説です。 言葉と言語恋愛アイデンティティ
  157. 157 2009 このあいだ東京でね このあいだとうきょうでね 青木淳悟 単行本・新潮社 『このあいだ東京でね』は、東京という場所で交わされる会話や記憶を、青木淳悟の観察的な文体でたどる作品です。題名のくだけた語りかけは、都市の出来事が誰かへの報告として残る感覚を示します。大きな筋よりも、場所と言葉のズレを読む小説です。 言葉と言語記憶孤独と疎外
  158. 158 2009 東京借景 とうきょうしゃっけい 荻世いをら 初出・文藝 2008年秋号 『東京借景』は、恩師らしき男、義眼の隣人、巨大な友人Qなど、距離の取りにくい人物たちとの関係を東京の風景に重ねる作品。河出書房新社は、いらだちを誘う相手との距離を描く「文藝賞受賞第一作」として紹介している。都市を単なる背景ではなく、他者への違和感や孤独を映し出す借景として扱うところに読みどころがある… 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  159. 159 2009 男と点と線 おとこととてんとせん 山崎ナオコーラ 単行本・新潮社 『男と点と線』は、山崎ナオコーラが男という属性や、人と人を結ぶ線の引き方を考える作品です。人物の関係は直線的に結ばれるのではなく、点のように散らばりながら、言葉によって仮につながります。ジェンダーと関係性を、軽い語り口で問い直す一冊です。 ジェンダー恋愛言葉と言語
  160. 160 2009 瘡瘢旅行 そうはんりょこう 西村賢太 単行本・講談社 『瘡瘢旅行』は、藤澤清造の墓参と女性との旅を描く、北町貫多ものの作品集です。私小説的な語りは、文学への執着、貧しさ、対人関係のこじれを隠さずに差し出します。旅の形を取りながら、過去の傷や屈辱を抱え直す作品として読めます。 貧困芸術と表現孤独と疎外
  161. 161 2009 ソードリッカー そーどりっかー 佐藤憲胤 単行本・講談社 『ソードリッカー』は、題名の剣や舌の感触が示すように、身体感覚と暴力のイメージを強く帯びた佐藤憲胤の小説です。講談社刊の単行本として確認できるが、今回の公開資料では詳細な内容紹介までは確認できませんでした。現時点では、身体、攻撃性、孤立した人物像を軸に読む作品として暫定的に整理します。 身体暴力孤独と疎外
  162. 162 2009 山崎ナオコーラ 単行本・文藝春秋 『手』は、身体の一部である手をめぐって、触れること、働くこと、他者との距離を考えさせる山崎ナオコーラの作品です。日常的な言葉づかいのなかに、ジェンダーや家族関係、親密さへの違和感が差し込まれます。軽く見える語りが、身体を通じた関係の非対称さを浮かび上がらせます。 身体ジェンダー家族
  163. 163 2009 終の住処 ついのすみか 磯﨑憲一郎 単行本・新潮社 『終の住処』は、妻が突然口をきかなくなる朝から始まり、ある夫婦の二十年を描く磯﨑憲一郎の小説です。大きな事件よりも、時間の経過そのものが関係を変えていく様子に重心があります。淡々とした語りの背後で、夫婦、家、老い、記憶の問題が静かに積み重なります。 夫婦家族老い 第141回 芥川賞
  164. 164 2009 今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇 こんやはひとりぼっちかい? にほんぶんがくせいすいし せんごぶんがくへん 高橋源一郎 初出・群像 2009年10月号〜2012年6月号(連載) 『日本文学盛衰史』の続編として、戦後文学そのものを小説の素材にする長編。大岡昇平や小林秀雄らを思わせる文学史上の存在が、ロック、パンク、ラップ、ブログ、Twitter、YouTubeまで巻き込みながら、読まれなくなった戦後文学を現在の言葉へ揉みほぐしていく。文学史講義、パロディ、メタフィクションが交… 芸術と表現言葉と言語戦争
  165. 165 2009 身の上話 ミノウエバナシ 佐藤正午 単行本・光文社 2009年に光文社から刊行された単著図書。佐藤正午の中期以降の長篇候補として追加余地がある。 真実と虚構犯罪関係性
  166. 166 2008 ばかもの ばかもの 絲山秋子 単行本・新潮社 『ばかもの』は、大学生の恋愛の終わりから十年後の再会までをたどり、アルコール依存を抱える男の時間を描く作品です。恋愛の失敗は単なる思い出ではなく、生活の崩れや病と結びついて残ります。絲山秋子の乾いた文体が、不器用な愛情と回復の難しさを抑制して描きます。 恋愛孤独と疎外
  167. 167 2008 廃車 はいしゃ 松波太郎 初出・文學界 2008年12月号 車検切れが迫る壊れかけの車を、主人公は中国人留学生に無償で譲り渡す。ところが期限を過ぎても相手は約束した廃車手続きをせず、それどころか、わけのわからないまま主人公のほうが怨まれていく。日常の小さな親切が言葉も論理も通じない泥沼へ転がり落ちる過程を、乾いたユーモアで描いた不条理劇。受賞作は『文學界』2… 移民と越境孤独と疎外言葉と言語 第107回 文學界新人賞
  168. 168 2008 神様のいない日本シリーズ かみさまのいないにほんシリーズ 田中慎弥 単行本・文藝春秋 『神様のいない日本シリーズ』は、「江夏の21球」で知られる1979年の日本シリーズを背景に、父と子の時間を描く中篇です。野球の記憶は、家族の記憶や時代の空気を呼び戻す装置になります。田中慎弥の乾いた語りが、父子関係の近さと断絶を浮かび上がらせます。 父と子記憶芸術と表現
  169. 169 2008 けちゃっぷ けちゃっぷ 喜多ふあり 初出・文藝 2008年冬号 言いたいことを相手に直接言わず、何もかもブログにアップしてしまう──そんなヴァーチャル化した現代のコミュニケーションを、ネットの文体と口語をなだれ込ませた語りで写し取った作品。書き込みと現実のあいだでずれていく自意識を通して、ゼロ年代後半のウェブ社会に生きる若者の孤独と滑稽さを軽やかにすくい上げる… 言葉と言語テクノロジー孤独と疎外 第45回 文藝賞
  170. 170 2008 小銭をかぞえる こぜにをかぞえる 西村賢太 単行本・文藝春秋 『小銭をかぞえる』は、金欠と痴話喧嘩にまみれた同棲生活を、私小説的な露悪と乾いた笑いで描く作品です。小銭を数える行為が、貧しさ、欲望、関係の行き詰まりを象徴します。西村賢太の作品らしく、金と性と屈辱が分かちがたく結びつきます。 貧困恋愛労働
  171. 171 2008 ラジ&ピース らじあんどぴーす 絲山秋子 単行本・講談社 『ラジ&ピース』は、ラジオや言葉の届き方を思わせる題名のもと、人と人がどのように声を受け渡すかを描く作品です。絲山秋子らしい乾いた会話と距離感が、親密さと孤独を同時に浮かび上がらせます。平和やつながりを軽く言い切れないところに、作品の手触りがあります。 言葉と言語労働孤独と疎外
  172. 172 2008 論理と感性は相反しない ろんりとかんせいはあいはんしない 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『論理と感性は相反しない』は、山崎ナオコーラの思考する文体が前面に出る作品集です。題名の通り、感情をただ情緒として扱うのではなく、考えること、名づけること、他人と距離を取ることの問題として描きます。軽い会話の奥に、ジェンダーや関係性への問いが残る作品です。 恋愛ジェンダー言葉と言語
  173. 173 2008 りすん りすん 諏訪哲史 単行本・講談社 『りすん』は、『アサッテの人』以後の諏訪哲史が、聞くこと、話すこと、言葉のずれをさらに押し広げる実験的な作品です。タイトルの響きそのものが、意味に届く前の音や聞き間違いを思わせます。言語への執着と、他者へ届かない感覚が重なった小説として読めます。 言葉と言語アイデンティティ孤独と疎外
  174. 174 2007 青色讃歌 あおいろさんか 丹下健太 初出・文藝 2007年冬号 28歳の高橋は、同棲する彼女の収入で暮らしている。いなくなった猫を探し、気の進まない仕事を探す——その二つの「探しもの」をめぐるだけの日々が、妙な可笑しみとともに流れていく。働かない男のだめさを断罪も美化もせず、脱力したユーモアで肯定してみせる青春小説。NDLサーチでは第44回文藝賞受賞作としての掲… 労働恋愛青春 第44回 文藝賞
  175. 175 2007 だだだな町、ぐぐぐなおれ だだだなまち、ぐぐぐなおれ 広小路尚祈 初出・群像 2007年6月号 第50回群像新人文学賞優秀作に選ばれ、『群像』2007年6月号に掲載された作品。タイトルの擬音めいた口語と「おれ」を前面に出した造形から、停滞した町でくすぶる人物の感覚を、脱力した一人称で描く作品として整理できる。単行本書誌は今回確認できず、内容紹介は雑誌掲載情報と既存分類に基づく低確信の暫定記述に… 労働孤独と疎外方言・口語
  176. 176 2007 ダーティ・ワーク だーてぃ・わーく 絲山秋子 単行本・集英社 『ダーティ・ワーク』は、仕事や関係のなかで避けられない面倒さを、絲山秋子らしい乾いた文体で描く作品です。労働をきれいごとにせず、そこで生まれる距離、疲労、親密さを淡々と見つめます。人と人の関係を、会話と行動のずれから読ませるところに魅力があります。 労働恋愛孤独と疎外
  177. 177 2007 エロマンガ島の三人 えろまんがじまのさんにん 長嶋有 単行本・エンターブレイン 『エロマンガ島の三人』は、長嶋有の異色作品集として、奇妙な地名や設定から日常の感覚をずらしていく作品です。旅行記や冒険譚のような外見を借りながら、人と場所の距離感をユーモラスに扱います。題名の軽さの奥に、どこにも完全には属せない感覚が残ります。 芸術と表現孤独と疎外移民と越境
  178. 178 2007 いい子は家で いいこはいえで 青木淳悟 単行本・新潮社 『いい子は家で』は、家という閉じた場所と「いい子」であることの圧力をめぐる青木淳悟の作品です。日常の言葉や振る舞いが少しずつずれ、家族や共同体の規範が不穏なものとして見えてきます。実験的な文体が、従順さの裏側にある違和感を浮かび上がらせます。 家族同調圧力孤独と疎外
  179. 179 2007 二度はゆけぬ町の地図 にどはゆけぬまちのちず 西村賢太 単行本・角川書店 『二度はゆけぬ町の地図』は、戻れない場所への執着と、貧しい生活の記憶を私小説的な語りでたどる作品です。西村賢太らしい露悪的な自己凝視が、地図に残る町と、もう行けない過去を重ねます。労働、金銭、孤独が乾いた笑いと屈辱の感覚で結びついています。 貧困記憶孤独と疎外
  180. 180 2007 オブ・ザ・ベースボール おぶ・ざ・べーすぼーる 円城塔 初出・文學界 2007年6月号 年に一度くらいの割合で空から人が降ってくる町、ファウルズ。「私」はユニフォームとバットを支給されたレスキュー・チームの一員として、落ちてくる人をフルスイングで打ち返すべく日々待機している。およそ役に立たない職務をめぐる思弁が、乾いた論理の積み重ねでどこまでも転がっていく。不条理な設定を理詰めで駆動す… 労働孤独と疎外言葉と言語 第104回 文學界新人賞
  181. 181 2007 パワー系181 ぱわーけいいちはちいち 墨谷渉 初出・すばる 2007年11月号 身長181センチ、強靭な肉体を持つ女性リカが開いた個人サロンには、身体測定マニア、張り手を浴びたいマゾヒスト、衣類フェチなど、それぞれ奇妙な性癖を抱えた男たちが通ってくる。彼らが求める「本物のエクスタシー」を、湿った官能ではなく即物的でドライな筆致で記録していく。身体とマゾヒズムという題材を真っ向か… 身体孤独と疎外 第31回 すばる文学賞
  182. 182 2007 図書準備室 としょじゅんびしつ 田中慎弥 単行本・新潮社 『図書準備室』は、高校卒業後にひきこもり続ける男の独白を中心に、閉じた場所と停滞する時間を描く第一作品集です。図書準備室という学校の余白のような場所が、社会へ出られない人物の内面と重なります。田中慎弥の硬質な語りが、青春の後に残った孤独を乾いた感触で示します。 孤独と疎外青春労働
  183. 183 2007 ワンちゃん わんちゃん 楊逸 初出・文學界 2007年12月号 日本に渡って暮らす中国人女性「ワンちゃん」は、中国の女性たちと日本の男たちを引き合わせる見合いツアーの世話役を務めている。国境をまたぐ結婚の斡旋という生々しい現場を通して、経済格差のなかを生きる女たちのたくましさと哀感を、来日20年の作者がよどみのない日本語で描いた。日本語を母語としない書き手が日本… 移民と越境ジェンダー貧困 第105回 文學界新人賞
  184. 184 2006 暗渠の宿 あんきょのやど 西村賢太 単行本・新潮社 『暗渠の宿』は、粗暴で不器用な私小説的主人公・北町貫多の同棲生活と生活感情を描く作品集です。貧困、労働、性的な執着が、露悪的な自己観察と乾いたユーモアのなかで語られます。暗渠という見えない水路の比喩のように、日常の底を流れる屈辱と欲望が読みどころになります。 労働恋愛貧困 第29回 野間新人賞
  185. 185 2006 どうで死ぬ身の一踊り どうでしぬみのひとおどり 西村賢太 単行本・講談社 『どうで死ぬ身の一踊り』は、大正期の私小説家・藤澤清造の「歿後弟子」を自任する男をめぐる、西村賢太初期の作品集です。文学への執着、貧しい生活、対人関係の不器用さが、露悪的でありながら妙に律儀な語りで押し出されます。私小説の系譜を現代に引き寄せる作品として読めます。 芸術と表現労働貧困
  186. 186 2006 エスケイプ/アブセント えすけいぷ/あぶせんと 絲山秋子 単行本・新潮社 『エスケイプ/アブセント』は、逃避と不在という二つの言葉を軸に、関係のなかで空白を抱える人物を描く作品です。絲山秋子らしい簡潔な文体が、説明しすぎないまま感情の距離を保ちます。逃げること、いないこと、忘れられないことが重なり合う静かな読後感があります。 孤独と疎外記憶恋愛
  187. 187 2006 公園 こうえん 荻世いをら 初出・文藝 2006年冬号 『公園』は、世界の縮図のような公園から下田、ニューヨーク、グラウンド・ゼロへと移動していく大学生の「ぼく」と友人オノサを描くデビュー作。河出書房新社の紹介では、目的のはっきりしない移動と9.11後の世界感覚が結びつけられており、場面を飛躍させる語りが若者の浮遊感を生む。青春小説の軽さと、世界の暴力を… 青春孤独と疎外移民と越境 第43回 文藝賞
  188. 188 2006 無限のしもべ むげんのしもべ 木下古栗 初出・群像 2006年6月号 早く目覚めすぎた休日の朝、稔がマンションから見下ろすと、駐車場に円卓を持ち込んでティーパーティーに興じる4人の男女がいた。そのなかの美人に目をつけた稔は、パーティーに加わりあわよくば濃密な性愛を、という淫靡な考えに取り憑かれ作戦を練り始める。性的妄想の無意味な暴走を生真面目な文体で押し切る、木下古栗… 身体孤独と疎外 第49回 群像新人賞
  189. 189 2006 憂鬱なハスビーン ゆううつなはすびーん 朝比奈あすか 初出・群像 2006年6月号 東大を卒業して外資系企業で順調に出世したのち、弁護士の夫との結婚を機に退職した29歳の凛子を描く。安定した結婚生活の中でも満たされず怒りを抱える彼女は、かつて神童と呼ばれた熊沢くんとの再会をきっかけに、自分や他者への期待、優越感と劣等感、社会的成功と自己評価の空洞に向き合っていく。has-beenと… ジェンダーアイデンティティ労働 第49回 群像新人賞
  190. 190 2006 八月の路上に捨てる 伊藤たかみ 初出・「文學界」2006年6月号掲載。単行本は文藝春秋から2006年8月刊行。 『八月の路上に捨てる』は、伊藤たかみの中篇小説です。文藝春秋BOOKSでは、暑い夏の一日、30歳を目前に離婚しようとしている主人公を通して、現代の若者を覆う社会のひずみと生態を軽やかに描く作品として紹介されています。初出は『文學界』2006年6月号で、2006年8月に文藝春秋から単行本化されました。 離婚労働若者 第135回 芥川賞
  191. 191 2005 ニート にーと 絲山秋子 単行本・角川書店 「ニート」という言葉が社会的に広まった時期に、働くことから外れた人物の時間を描く絲山秋子の作品。無職であることを単純な問題や説教にせず、生活の細部、会話、周囲とのずれとして描く。乾いたユーモアの中に、労働規範から外れた人間の居場所のなさが見える。 労働孤独と疎外家族
  192. 192 2005 さりぎわの歩き方 さりぎわのあるきかた 中山智幸 初出・文學界 2005年12月号 29歳の「僕」は、青春の終わりを記念するかのように一泊の合コンに参加する。怪しげな新事業の話、旧友の転落と自殺——若さの賞味期限が切れかかった男たちの周りで起こる出来事を、「こういうのがお望みのドラマなんだろう?」と斜に構えた語りで突き放しながら、それでも去り際の身の処し方を探っていく。まっとうな成… 青春孤独と疎外死と喪失 第101回 文學界新人賞
  193. 193 2005 二人乗り ふたりのり 平田俊子 初出・単行本(講談社、2005年)。初出誌は未確認。 『二人乗り』は、詩人としても知られる平田俊子の小説作品で、嵐子、不治子、道彦をめぐる三篇からなる連作です。関係のずれや恋愛の気配を、詩的な感覚と乾いた距離感で捉える構成が特徴です。複数の人物を行き来する語りによって、二人でいることの親密さと危うさが浮かびます。 恋愛三人称・多視点都市・郊外 第27回 野間新人賞
  194. 194 2004 狐寝入夢虜 きつねねいりゆめのとりこ 十文字実香 初出・群像 2004年6月号 三週間前に職を失った上岡鳥子は、空腹を抱えて神社へ散歩に出かけ、帰り道に迷い、年下の古本屋の倅と茶飲み話をして花札に興じる。働かないこと自体は気にしないが、仕事に存在理由を求める世間様の考え方には反感を覚える——そんな鳥子の「高潔なる怠惰」を、現代の話なのにわざと落語のような古風な語りで聞かせる。語… 労働孤独と疎外ジェンダー 第47回 群像新人賞
  195. 195 2004 野ブタ。をプロデュース のぶた。をぷろでゅーす 白岩玄 初出・文藝 2004年冬季号 クラスの人気者を巧みに「演じる」高校生・桐谷修二は、いじめの標的になっている転校生・小谷信太=野ブタを人気者にプロデュースする計画を始める。教室という市場でキャラクターを売り出すゲームは成功していくが、演じることでしか居場所を作れない修二自身の空虚が次第に露わになる。スクールカーストと自己演出の時代… 青春同調圧力アイデンティティ 第41回 文藝賞
  196. 196 2004 サージウスの死神 さーじうすのしにがみ 佐藤憲胤 初出・群像 2004年6月号 徹夜明けの帰り道、ビルから飛び降りてきた男と目が合い、その死を目撃した主人公は、同僚に誘われた地下カジノ「freeze」でルーレットにのめり込む。預金を失い借金を重ねるうち、「頭の中に数字を飼っている」という感覚が芽生え、精神の破滅と引き換えに当たりの数字が見えるようになっていく。賭博と死の観念を硬… 死と喪失孤独と疎外身体
  197. 197 2004 真空が流れる しんくうがながれる 佐藤弘 初出・新潮 2004年11月号 第36回新潮新人賞受賞作として『新潮』2004年11月号に掲載された、佐藤弘のデビュー作。公開書誌で確認できる情報は掲載号と受賞発表にほぼ限られるため、具体的な筋の断定は避ける。単行本書誌は今回のNDL検索では確認できず、雑誌掲載作として記録しておくべき作品である。 労働孤独と疎外簡潔な文体 第36回 新潮新人賞
  198. 198 2003 ダンボールボートで海岸 だんぼーるぼーとでかいがん 千頭ひなた 初出・すばる 2003年11月号 母の失踪と借金をきっかけに大学を休学したアオイが、周縁的な人々との関わりのなかで、ダンボールのボートで海へ出るという危うい夢想を抱く物語。紙のボートという壊れやすいイメージが、生活の足場を失った若者の閉塞感と、外へ向かいたい衝動を重ねて見せる。公開Webで確認できる公式情報は書誌と受賞掲載が中心のた… 母と子貧困青春 第27回 すばる文学賞
  199. 199 2003 イッツ・オンリー・トーク いっつ・おんりー・とーく 絲山秋子 初出・文學界 2003年6月号 躁鬱病を抱えた30代半ばの独身女性「私」は、東京・蒲田の町に引っ越してくる。彼女の周りには、病や性、仕事や家族の事情を抱えた人々が集まり、深く結びつきすぎない会話が日常をつないでいく。出版社公式が強調する「しんどい事情」を抱えた人々の生き方を、自己憐憫に寄せず、乾いたユーモアと距離感のある一人称で描… 孤独と疎外 第96回 文學界新人賞
  200. 200 2003 極東アングラ正伝 きょくとうあんぐらせいでん 佐川光晴 単行本・双葉社 佐川光晴が、都市の周縁や表舞台の外側にある生の感覚へ目を向けた2003年の作品。題名が示す「アングラ」は、文化や労働や生活が公的な語りからこぼれ落ちる場所を思わせる。デビュー期から一貫する、きれいごとでは済まない生活への視線をたどる一冊として位置づけられる。 労働芸術と表現孤独と疎外
  201. 201 2003 オアシス おあしす 生田紗代 初出・文藝 2003年冬季号 愛用の青い自転車を盗まれたフリーターの「私」は、呆然としたままそれを探す日々を送る。家には家事を放棄してしまった母と、その母に「パラサイト」されているOLの姉・サキ。女三人の奇妙な家族の均衡が、自転車の喪失を起点に少しずつあらわになっていく。母を疎みながら捨てられない娘たちの姿は「現代の新種の姥捨て… 家族母と子青春 第40回 文藝賞
  202. 202 2003 ららら科學の子 らららかがくのこ 矢作俊彦 単行本・文藝春秋 『ららら科學の子』は、中国で長く生きた男の帰国を軸に、戦後日本、学生運動、中国との関係をたどる長篇です。ハードボイルド的な乾いた視線を持ちながら、政治と個人史のずれを大きな時間幅で描く。帰ってきた場所としての日本を、外部から見直す作品です。 戦後政治中国 第17回 三島賞
  203. 203 2002 ジャイロ! じゃいろ 早川大介 初出・群像 2002年6月号 「僕」と友人・猟平が繰り返す「危険なキャッチボール」が、ついに猟平の家を全焼させてしまう——少年たちの遊びと暴力が地続きになった世界を、熱を孕んだ文体で一気に語る。選考では、世界へのルサンチマン(鬱屈した恨み)を呪詛のような語りで繋ぎ留めた「現代の悪童日記」と評された。受賞の翌年まで『群像』に短篇を… 青春暴力孤独と疎外 第45回 群像新人賞
  204. 204 2002 わたしの好きなハンバーガー わたしのすきなはんばーがー 北岡耕二 初出・文學界 2002年6月号 広告会社を定年まで勤め上げた67歳の新人が、蒔岡雪子「飴玉が三つ」と同時に第94回文學界新人賞を射止めた作品。新人賞の受賞者が軒並み若返っていく2000年代初頭にあって、企業社会を生き切った世代の書き手の登場は異彩を放った。選考委員は浅田彰・奥泉光・島田雅彦・辻原登・山田詠美。単行本化されておらず… 老い孤独と疎外 第94回 文學界新人賞
  205. 205 2002 よしわら よしわら 鈴木弘樹 単行本・新潮社 新潮新人賞受賞作「グラウンド」を、単行本化に際して『よしわら』と改題した中篇。風俗雑誌編集などの職歴を持つ作者の経歴とも重なり、労働、都市の周縁、学歴や階層から外れた人物の感覚を描く。新人賞受賞作が芥川賞候補にもなった、2000年代初頭の新潮新人賞系譜の一作。 労働孤独と疎外アイデンティティ 第33回 新潮新人賞
  206. 206 2002 南へ下る道 みなみへくだるみち 岡崎祥久 初出・同題の雑誌掲載記録あり(NDL記事書誌で確認)。 2002年刊。NDLで単著として確認できる。 移動日常都市
  207. 207 2001 ジャムの空壜 じゃむのあきびん 佐川光晴 単行本・新潮社 屠畜の現場を舞台にした短篇集で、労働、身体、動物の死を生活の近くから描く。清潔な消費の背後にある仕事を見つめることで、社会の見えにくい暴力と人間の尊厳を浮かび上がらせる。佐川光晴の労働への視線がよく表れる作品。 労働身体暴力
  208. 208 2001 サイドカーに犬 さいどかーにいぬ 長嶋有 初出・文學界 2001年6月号 小学四年生の夏、母が家出した薫の家に、父の知り合いである洋子さんが入り込んでくる。自転車を教えてくれ、缶コーヒーを飲み、堂々と振る舞う洋子さんと過ごしたひと夏を、大人になった薫が淡々と回想する。家庭の危機という湿りがちな題材を、軽やかでユーモラスな距離感と即物的なディテールで描き、深刻にならないのに… 家族記憶青春 第92回 文學界新人賞
  209. 209 2001 ラブリー らぶりー 濱田順子 初出・書き下ろし単行本(河出書房新社、2001年2月刊行)。 『ラブリー』は、濱田順子の書き下ろし小説単行本です。河出書房新社公式ページでは、高校生たちと阪神大震災を描く作品で、『Tiny, tiny』の裏バージョンにあたる書き下ろしとして紹介されています。NDLサーチでは2001年2月に河出書房新社から刊行された141ページの図書、NDC9 913.6として… 青春暴力震災
  210. 210 2000 メイドインジャパン めいどいんじゃぱん 黒田晶 初出・文藝 2000年冬季号 『メイドインジャパン』は、第37回文藝賞を受賞し、応募時の題「YOU LOVE US」で『文藝』2000年冬季号に掲載された黒田晶の作品です。河出書房新社公式ページでは、少年犯罪、残酷な殺人描写、グルーヴ感のあるクールな文体を前面に出した問題作として紹介されています。単行本化時には現在の題名で刊行さ… 暴力青春文芸誌掲載 第37回 文藝賞
  211. 211 2000 楽天屋 らくてんや 岡崎祥久 初出・「群像」2000年2月号ほか(同誌掲載の三篇を収録) 『楽天屋』は、「なゆた」「孤独のみちかけ」「楽天屋」の三篇を収める小説集です。講談社の商品紹介は、三十歳を過ぎても無為徒食のまま漂う男と周囲の女性たちのさすらいを、独自のユーモアと繊細な感覚で描く作品として紹介している。どこにも落ち着けない人物の感覚を、乾いた笑いと時代の空気の中で読む一冊です。 孤独と疎外私小説的都市・郊外 第22回 野間新人賞
  212. 212 1999 あ・だ・る・と あ・だ・る・と 高橋源一郎 単行本・主婦と生活社 1999年に主婦と生活社から刊行された高橋源一郎の小説。「AVのゴダール」と呼ばれるAV監督・ピンを中心に、撮影現場の描写を主軸に置きながら、性と愛の問いを追う異色作。さまざまな女性を相手にAVを完成させようとするピンの現場を描き、エピローグでは業界から忽然と姿を消した先輩がインドから送ってきたフィ… 身体アイデンティティ
  213. 213 1999 夏の約束 なつのやくそく 藤野千夜 初出・「群像」1999年12月号 ゲイのカップル、性転換した美容師、売れない小説家と女友達など、ゆるやかにつながる人々の夏の一日を描く短編です。大きな事件よりも、性的マイノリティを含む人物たちの日常の距離感を自然体で描くことに力点があります。軽やかな会話と静かな関係性の描写を通じて、1990年代末の都市生活と親密さのあり方を読ませる… 恋愛アイデンティティ 第122回 芥川賞
  214. 214 1999 Tiny, tiny たいにー たいにー 濱田順子 初出・「文藝」1999年 「わたし」「ぼく」「オレ」という三人の高校生のひと夏を描く青春小説です。視点を分けながら、派手な事件よりも、夏の時間の中で揺れる関係や自意識を淡々と追っていきます。文藝賞受賞作として、乾いた感覚で十代の不安定さをすくい取るところに特色があります。 青春乾いた 第36回 文藝賞
  215. 215 1998 二匹 にひき 鹿島田真希 初出・「文藝」1998年 『二匹』は、鹿島田真希が第35回文藝賞を受賞してデビューした学園小説です。河出書房新社公式ページでは、22歳の女子大生ファイターが独特の荒れた日本語で放つ「学園ハードボイルド」として紹介されている。青春小説の形式を借りつつ、言葉の破格さと暴力的な感覚で、鹿島田作品の実験性の出発点を示す作品です。 青春暴力実験的文体 第35回 文藝賞
  216. 216 1997 最後の息子 さいごのむすこ 吉田修一 初出・「文學界」1997年6月号(第84回受賞) 『最後の息子』は、長崎から上京した若者が新宿で中年のゲイ男性と同居し、親密さと依存のあわいを見つめていく中篇です。都市の片隅で居場所を探す人物たちを、乾いた一人称の感覚で追い、性と孤独が生活の細部に染み出す様子を描きます。吉田修一のデビュー作として、以後の都市と人間関係への関心の出発点に位置づけられ… 孤独と疎外青春 第84回 文學界新人賞
  217. 217 1997 秒速10センチの越冬 びょうそくじっせんちのえっとう 岡崎祥久 初出・「群像」1997年6月号(第40回当選) 『秒速10センチの越冬』は、工場労働者の日々と停滞感を、ゆっくり進む時間の感覚とともに描くデビュー作です。公開Webで詳細な梗概は多く確認できないため、ここでは労働の反復、季節を越す身体感覚、動きにくい生活時間を主題とする作品として整理します。第40回群像新人文学賞の小説当選作で、岡崎祥久の出発点と… 労働乾いた 第40回 群像新人賞
  218. 218 1997 ラジオデイズ らじおでいず 鈴木清剛 初出・「文藝」1997年 『ラジオデイズ』は、鈴木清剛が第34回文藝賞を受賞したデビュー小説です。河出書房新社公式ページでは、主人公の部屋に10年ぶりに現れた同級生が居つき、追い払うことも親しくなることもできないまま過ごす気まずい一週間を描く作品として紹介されています。一人称の距離感と、やるせなさを抱えた若者同士の関係が読み… 孤独と疎外青春一人称 第34回 文藝賞
  219. 219 1996 ラブ&ポップ ラブアンドポップ 村上龍 単行本・幻冬舎 『ラブ&ポップ』は、1996年に幻冬舎から刊行された村上龍の長編で、援助交際をめぐる若者の性と消費を主題化した作品です。NDLで確認できる石川巧の論考タイトルからも、同作が「援助交際」という当時的な語をめぐる小説として読まれていたことが分かります。庵野秀明監督による実写映画化も確認でき、90年代後半… 青春東京
  220. 220 1996 漂流物 ひょうりゅうぶつ 車谷長吉 単行本・新潮社 NDLサーチで1996年12月刊の新潮社版単行本、および1999年11月刊の新潮文庫版が確認できる。全集収録ではなく初刊単行本を根拠に、車谷長吉の私小説的な短篇集として候補化する。 私小説身体孤独と疎外
  221. 221 1995 テロリストのパラソル てろりすとのぱらそる 藤原伊織 単行本・講談社 『テロリストのパラソル』は、新宿中央公園で起きた爆弾テロ事件に巻き込まれたバーテンダー・島村を主人公にした長篇です。過去を隠して生きてきた男のもとへ、かつての関係者や死んだ恋人の娘が現れ、事件の真相と主人公自身の記憶が重なっていきます。都市の暴力、過去から逃げること、ハードボイルド的な孤独を軸にした… 過去都市暴力
  222. 222 1993 19分25秒 じゅうきゅうふんにじゅうごびょう 引間徹 初出・「すばる」1993年 『19分25秒』は、引間徹が第17回すばる文学賞を受賞した作品です。既存データでは競歩の選手を題材に、義足の競歩選手との出会いを通じて青年が自分の人生を問い直す小説として整理されています。確認できた公開出典は賞歴・候補歴が中心で、内容紹介は既存調査に基づくため、分類の根拠は限定的です。 障害孤独と疎外都市・郊外 第17回 すばる文学賞
  223. 223 1993 私の自叙伝前篇 わたしのじじょでん ぜんぺん 竹野雅人 初出・「群像」1993年7月号、講談社1994年刊 『私の自叙伝前篇』は、テレビアニメ制作の現場に関わる若者を主人公に、自伝的色彩の強い素材を小説化した作品です。仕事への逡巡、創作の現場、自己像の揺らぎが、乾いた私小説的な語りで結びつきます。講談社公式で野間文芸新人賞受賞は確認できますが、内容説明は既存梗概と二次情報に依拠しています。 アイデンティティ芸術と表現労働 第16回 野間新人賞
  224. 224 1993 デッドシティ・レイディオ 清水アリカ 初出・単行本(集英社、1993年9月刊行)。 『デッドシティ・レイディオ』は、清水アリカの小説単行本です。NDLサーチでは1993年9月に集英社から刊行された197ページの図書、NDC8 913.6として確認できます。出版書誌データベースでも、ISBN 9784087740271、4-6判、200ページ、1993年発行の書誌が確認できます。 都市言葉と言語孤独と疎外
  225. 225 1992 国境の南、太陽の西 こっきょうのみなみ、たいようのにし 村上春樹 単行本・講談社 『国境の南、太陽の西』は、バーを経営する主人公・始のもとに、幼なじみの謎めいた女性・島本さんが現れる恋愛長篇です。家庭と事業を持つ中年男性の安定が、過去の記憶と喪失感によって揺さぶられます。静かな一人称の語りで、欲望、後悔、取り返しのつかない時間を描きます。 恋愛記憶東京
  226. 226 1990 ドッグ・デイズ どっぐ・でいず 藤枝和則 初出・「新潮」1990年11月号 『ドッグ・デイズ』は、『新潮』1990年11月号に掲載された藤枝和則の新潮新人賞受賞作です。NDLでは受賞作発表記事と掲載誌の書誌を確認できる一方、筋や語り口を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できませんでした。そのため、現時点の紹介は受賞作・デビュー作としての位置づけを中心に留めます。 孤独と疎外簡潔な文体都市・郊外 第22回 新潮新人賞
  227. 227 1990 ショート・サーキット しょーと さーきっと 佐伯一麦 初出・福武書店1990年刊 『ショート・サーキット』は、電気工として働く人物の日常と内面を描く、佐伯一麦の初期連作短篇集です。肉体労働の現場、工具、疲労、生活の細部を通じて、働くことと自己を保つことの関係を見つめます。私小説的な語りのなかに、都市の労働者の孤独が乾いた手触りで残ります。 労働私小説的職場 第12回 野間新人賞
  228. 228 1989 ラッフルズホテル ラッフルズホテル 村上龍 単行本・集英社 シンガポールの名門ホテルを思わせる空間を舞台に、旅、欲望、演技する自己を描く村上龍の作品。ホテルという非日常の場所が、登場人物の孤独や消費社会の空虚さを浮かび上がらせる。都市的で乾いた感触の中に、海外への視線と身体感覚が重なる。 孤独と疎外身体
  229. 229 1989 表層生活 ひょうそうせいかつ 大岡玲 初出・「文學界」1989年12月号(第43巻第12号) 『表層生活』は、都市に生きる現代人の浮遊した意識と、薄く接続された人間関係を描く中篇です。言葉や情報、自己意識が「表層」として流れていく感覚を通じて、実存の手応えのなさを問い直します。都市的な乾きと、テクノロジー時代の言語感覚が前面に出た作品です。 テクノロジー言葉と言語アイデンティティ 第102回 芥川賞
  230. 230 1988 ダンス・ダンス・ダンス だんす・だんす・だんす 村上春樹 単行本・講談社 『羊をめぐる冒険』の後日談として、「僕」が札幌のイルカホテルを再訪し、失われた女性や過去の気配を追っていく長編。現実のホテル、芸能界、ハワイ、羊男のいる異界がつながり、踊り続けることだけが世界との接続の方法として示される。1980年代の都市的な消費社会を背景に、喪失、記憶、孤独を冒険小説のリズムでた… 記憶死と喪失孤独と疎外
  231. 231 1988 村上龍料理小説集 むらかみりゅうりょうりしょうせつしゅう 村上龍 単行本・集英社 料理を軸に、欲望、記憶、身体感覚を結びつける村上龍の短篇集。食べることが単なる生活描写ではなく、性、旅、階層、感覚の鋭さを呼び出す装置として働く。村上龍の官能的な文体を、暴力よりも味覚と記憶の側から読める作品集。 身体
  232. 232 1988 トパーズ トパーズ 村上龍 単行本・角川書店 SMクラブで働く女性たちの身体、欲望、孤独を都市の夜の中に描く村上龍の作品。性の描写は刺激としてだけでなく、支配、痛み、金銭、自己感覚をめぐる問いとして機能する。乾いた文体で、バブル期都市の消費と身体の商品化を突きつける。 身体暴力
  233. 233 1988 尋ね人の時間 たずねびとのじかん 新井満 初出・「文學界」1988年6月号(第42巻第6号) 『尋ね人の時間』は、別れた妻子や死別した妹、好意を寄せる女性との距離を抱えたカメラマンの意識を追う作品です。都会で自分を見失った人物の感覚が、詩的で短い文の連なりとして表現されます。喪失を過剰に劇化せず、削ぎ落とした言葉で浮遊感を残す点が特徴です。 孤独と疎外死と喪失恋愛 第99回 芥川賞
  234. 234 1987 愛と幻想のファシズム あいとげんそうのファシズム 村上龍 単行本・講談社 経済危機に揺れる日本を舞台に、狩猟者トウジがカリスマ的な政治運動を率いていく長編。金融、メディア、暴力、共同体の欲望が絡み合い、個人の野性や身体性が国家的な幻想へ接続されていく過程を描く。近未来政治小説の形を取りながら、1980年代末の消費社会と権力への不安を大きなスケールで物語化した作品。 暴力アイデンティティテクノロジー
  235. 235 1986 十六歳のマリンブルー じゅうろくさいのまりんぶるー 本城美智子 初出・「すばる」1986年12月号(集英社) 『十六歳のマリンブルー』は、本城美智子が第10回すばる文学賞を受賞した作品です。既存の弱い出典では16歳の女子高生の青春を描く作品とされていますが、出版社公式の紹介は今回確認できませんでした。内容分類はnote記事に依存するため、受賞情報と出典の限界を併記します。 青春家族島・海辺 第10回 すばる文学賞
  236. 236 1985 回転木馬のデッド・ヒート かいてんもくばのでっどひーと 村上春樹 単行本・講談社 実際に聞いた話を小説の形に組み替えた、都市生活者たちの短いスケッチ集。表題の「回転木馬」は、同じ場所を巡り続けながら誰も抜け出せない人生の比喩として働き、各篇の人物は小さな違和感や疲労を抱えたまま日常を走り続ける。事実と虚構の境界をあいまいにしながら、村上春樹の乾いた観察眼と抑制されたユーモアが前面… 孤独と疎外記憶アイデンティティ
  237. 237 1985 テニスボーイの憂鬱 テニスボーイのゆううつ 村上龍 単行本・集英社 村上龍が1985年に刊行した長編。テニスや消費文化の明るい表層を背景に、若者の空虚さ、身体感覚、欲望の行き場のなさを描く作品として読める。初期村上龍の過剰な都市感覚を、暴力だけでなく遊戯性や倦怠から見るための一冊。 青春身体孤独と疎外
  238. 238 1985 ダックスフントのワープ だっくすふんとのわーぷ 藤原伊織 初出・「すばる」1985年12月号(集英社) 大学の心理学科に通う「僕」が、心を閉ざした少女の家庭教師を引き受け、異空間にワープしたダックスフントの物語を語り聞かせる。文春文庫の紹介では、物語への興味と対話を通じて少女が変化していくが、その先に不穏な展開があることが示されている。語ること、聞くこと、他者の心に近づこうとする試みが中心にあるデビュ… 孤独と疎外青春一人称 第9回 すばる文学賞
  239. 239 1983 中国行きのスロウ・ボート ちゅうごくゆきのすろうぼーと 村上春樹 単行本・中央公論社 村上春樹の最初の短篇小説集で、表題作をはじめ、初期作品に特徴的な一人称の軽さ、記憶の空白、都市生活の孤独が並ぶ。長編の「僕」の世界から少し距離を取り、短篇ごとに日常の違和感、すれ違う他者、説明されない幻想を試している。淡いユーモアと乾いた喪失感が共存し、初期村上短篇の実験場として読むことができる。 記憶孤独と疎外アイデンティティ
  240. 240 1983 永遠の1/2 えいえんのにぶんのいち 佐藤正午 初出・「すばる」1983年12月号(集英社) 『永遠の1/2』は、佐藤正午が第7回すばる文学賞を受賞したデビュー長編です。既存データでは、軽みのある語り口で、埋まらない空白を抱えた人間関係を描く作品として整理されています。内容紹介はWikipedia中心のため、分類は低確信として扱います。 アイデンティティ恋愛一人称 第7回 すばる文学賞
  241. 241 1981 さようなら、ギャングたち さようならギャングたち 高橋源一郎 初出・群像 1981年12月号 1982年に講談社から刊行された高橋源一郎のデビュー長編。詩の学校で教える「僕」と、犯罪集団というより言語と記憶のなかで生成される虚構の仲間として現れるギャングたちの世界を、断章・引用・固有名の遊びで組み上げる。物語は詩、ポップカルチャー、メタフィクションを軽やかに横断し、青春小説の形式を借りながら… 芸術と表現青春アイデンティティ
  242. 242 1980 1973年のピンボール せんきゅうひゃくななじゅうさんねんのぴんぼーる 村上春樹 単行本・講談社 『風の歌を聴け』に続く「鼠三部作」第二作で、翻訳事務所を営む「僕」の生活と、故郷に残る鼠の停滞が並行して語られる。「僕」はかつて通ったバーにあったピンボール台を探し、双子の女性との奇妙な同居や電話配電盤の葬送を経て、失われた時間の手触りに近づいていく。軽い会話と乾いたユーモアの背後に、青春の終わり… 記憶孤独と疎外青春
  243. 243 1980 なんとなく、クリスタル なんとなく、くりすたる 田中康夫 初出・「文藝」1980年冬季号(河出書房新社) 『なんとなく、クリスタル』は、東京の女子大生・由利の学業、モデル活動、恋愛、消費生活を、膨大な注釈とともに描くデビュー作です。物語そのものより、ブランド名や都市風俗を含む表層的な記号の連なりが、1980年前後の若者文化を浮かび上がらせます。軽さを武器に、消費社会の感覚を小説の形式へ取り込んだ作品です… 青春恋愛東京 第17回 文藝賞
  244. 244 1980 ストレイ・シープ すとれい・しーぷ 中平まみ 初出・「文藝」1980年冬季号(河出書房新社) 『ストレイ・シープ』は、幼くして映画監督の父を失ったテレビ局勤務の女性が、喪失を抱えたまま年上の既婚男性との関係に入り込む私小説的作品です。父への思慕と恋愛、仕事の失敗が重なり、娘から女へと移行する過程の痛みが描かれます。都市で働く女性の孤独を、感情の揺れに寄せて読む作品です。 父と子恋愛孤独と疎外 第17回 文藝賞
  245. 245 1980 海を越えた者たち うみをこえたものたち 笹倉明 初出・「すばる」1980年12月号(集英社) 『海を越えた者たち』は、笹倉明が第4回すばる文学賞佳作となった作品です。Prizesworldで受賞区分と掲載情報を確認できますが、公開Webで信頼できる梗概や選評本文は確認できませんでした。既存記述にあった海外放浪・青春の分類は題名や二次情報からの推測が残るため、現時点では保留します。 移民と越境青春孤独と疎外
  246. 246 1979 風の歌を聴け かぜのうたをきけ 村上春樹 単行本・講談社 1970年の夏、「僕」と友人「鼠」の9日間を描いた村上春樹のデビュー作。短い章、乾いた会話、音楽や翻訳文学の気配によって、青春の終わりと喪失感が軽やかに語られる。後の「鼠三部作」へ続く、村上春樹の文体と世界観の出発点である。 青春記憶孤独と疎外 第22回 群像新人賞
  247. 247 1977 海の向こうで戦争が始まる うみのむこうでせんそうがはじまる 村上龍 単行本・講談社 村上龍が『限りなく透明に近いブルー』後に発表した初期長編。題名の通り、戦争が遠くで始まるという感覚を、若者の身体や都市的な不安と接続する。暴力、メディア、距離感のずれを通じて、初期村上龍の社会への鋭い視線を読む作品である。 戦争青春暴力
  248. 248 1976 限りなく透明に近いブルー かぎりなくとうめいにちかいブルー 村上龍 初出・群像 1976年6月号 米軍基地の街・福生のハウスを舞台に、19歳のリュウとその仲間たちの日々を描く。ドラッグとロック、黒人兵たちとの乱痴気騒ぎ、セックスと暴力に明け暮れる若者たちの退廃を、感傷を排した即物的な描写と、ガラスの破片や雨に濡れた滑走路といった鮮烈なイメージの連なりで定着させる。荒廃の只中にいながらどこか透明な… 暴力孤独と疎外 第75回 芥川賞
  249. 249 1970 化石の森 かせきのもり 石原慎太郎 単行本・新潮社 政界・財界の腐敗を描いた石原慎太郎の長編政治小説。若者の感覚を描いた初期作とは違い、権力の硬直と社会の閉塞を「化石」のイメージで捉える。篠田正浩監督による映画化もあり、政治小説としての石原を確認できる作品。 同調圧力労働アイデンティティ
  250. 250 1967 燃えつきた地図 もえつきたちず 安部公房 単行本・新潮社 新潮社1967年刊。現行新潮文庫ページ、NDL、Books/JPROで確認できる代表的長篇。 アイデンティティ孤独と疎外都市
  251. 251 1966 金環蝕 きんかんしょく 石川達三 単行本・新潮社 政界と財界の癒着を描いた石川達三の政治小説。ダム利権をめぐる汚職を告発的に扱い、個人の倫理よりも制度と権力の腐敗を前景化する。社会派作家としての石川の問題意識が、政治経済の構造へ向けられた作品である。 労働同調圧力貧困
  252. 252 1964 海の虹 うみのにじ 近藤啓太郎 単行本・学習研究社 『海の虹』は、1964年に学習研究社の芥川賞作家シリーズとして刊行された近藤啓太郎の作品集。NDLサーチで表題作のほか、第35回芥川賞受賞作「海人舟」、「飛魚」「黒南風」などを収録する書誌として確認できる。公開Web上で確認できた内容紹介は限られるため、詳細な筋は推測せず、近藤の海辺・漁業をめぐる作… 労働地域社会
  253. 253 1964 砂の上の植物群 スナ ノ ウエ ノ ショクブツグン 吉行淳之介 単行本・文芸春秋新社 『暗室』以前の長篇・中篇系作品として、吉行の性と孤独の主題を補う候補。 恋愛孤独と疎外
  254. 254 1959 娼婦の部屋 ショウフ ノ ヘヤ 吉行淳之介 単行本・文芸春秋新社 吉行の都市・性・孤独の主題を代表的に補う候補。のち新潮文庫で再刊。 孤独と疎外都市生活
  255. 255 1958 完全な遊戯 かんぜんなゆうぎ 石原慎太郎 単行本・新潮社 若者たちの倦怠と残虐な「遊び」を描いた石原慎太郎の中篇。遊戯の名の下に暴力がエスカレートしていく構図は、戦後若者文化への不安と反発を強く帯びる。太陽族文学の享楽性の裏側にある空虚さを読む作品である。 青春暴力
  256. 256 1958 死者の奢り ししゃのおごり 大江健三郎 単行本・文藝春秋新社 大学の死体処理室でアルバイトをする若者たちを描く、初期大江の代表的な短篇。死者は畏怖の対象であると同時に、運搬され、数えられ、処理される物質として現れ、生と死の境界が事務的な労働の場に引き寄せられる。若い語り手の冷えた感覚と不安を通して、戦後の身体感覚、死への距離、社会の片隅に置かれた労働の異様さが… 死と喪失身体労働
  257. 257 1958 男と女の子 オトコ ト オンナノコ 吉行淳之介 単行本・講談社 既収録『驟雨』と同時期の初期作品として追加候補。後年P+D BOOKSでも再刊あり。 恋愛都市生活
  258. 258 1957 裸の王様 はだかのおうさま 開高健 初出・「文學界」1957年12月号(第38回芥川賞受賞) 『裸の王様』は、企業の付設美術教室で働く主人公が、子どもたちの表現を管理しようとする組織と向き合う短篇です。子どもの自由な絵と大人の制度的な論理を対比させ、個人が組織に取り込まれていく過程を批評します。開高健の社会批評性と寓話性が、読みやすい構図のなかに収まった出世作です。 芸術と表現同調圧力労働 第38回 芥川賞
  259. 259 1956 処刑の部屋 しょけいのへや 石原慎太郎 単行本・新潮社 大学生の性的奔放と暴力を描いた石原慎太郎の初期代表短篇。若者の身体感覚、退屈、残酷さを挑発的に描き、「太陽族」文学の衝撃を広げる作品となった。戦後の新しい若者像を、道徳的な安定ではなく暴力と欲望の側から提示する。 青春暴力
  260. 260 1956 海人舟 かいとぶね 近藤啓太郎 初出・「文學界」1956年2月号(第35回芥川賞受賞) 『海人舟』は、千葉・鴨川の海辺を背景に、漁師たちの労働と土地に根ざした生活を描く短篇です。近藤啓太郎自身の漁業体験に近い素材を、海と身体の感覚を伴うリアリズムで扱っています。都市の内面劇とは違う、海辺の共同体と労働の重さが読みどころです。 労働身体家族 第35回 芥川賞
  261. 261 1956 ガラスの靴・愛玩 がらすのくつ・あいがん 安岡章太郎 単行本・角川書店 NDLで角川書店1956年刊『ガラスの靴・愛玩』を確認。後年の『ガラスの靴』単体版とは区別する。 青春孤独と疎外恋愛
  262. 262 1956 原色の街 ゲンショク ノ マチ 吉行淳之介 単行本・新潮社 既収録『驟雨』とあわせて初期代表作を補う候補。のち『原色の街・驟雨』として文庫化。 都市生活恋愛
  263. 263 1955 太陽の季節 たいようのきせつ 石原慎太郎 初出・文學界 1955年7月号 裕福な家庭に育ち、拳闘に打ち込む高校生・津川竜哉が主人公。湘南の海やヨット、盛り場を舞台に、既成の倫理や大人の価値観を軽蔑し、喧嘩や女性関係を遊戯のように楽しむ戦後世代の若者たちの生態を描く。竜哉は英子という女性と出会い、互いに駆け引きめいた恋愛を続けるうちに、欲望と愛情の間で関係は思わぬ方向へ傾い… 青春恋愛 第34回 芥川賞
  264. 264 1954 驟雨 しゅうう 吉行淳之介 初出・「文學界」1954年2月号(第31回芥川賞受賞) 『驟雨』は、料亭の女との短い逢瀬を軸に、中年男の倦怠と孤独を描く短篇です。感情を大きく説明せず、会話や身振りの細部から男女の距離を読ませるところに特徴があります。吉行淳之介の乾いた都市的感覚が、第三の新人の作風を代表するかたちで現れています。 恋愛孤独と疎外 第31回 芥川賞
  265. 265 1954 プールサイド小景 ぷーるさいどしょうけい 庄野潤三 初出・「群像」1954年12月号(第32回芥川賞受賞) 『プールサイド小景』は、社員旅行の一日を舞台に、家庭を持つ男の欲望と罪悪感を細密に描く短篇です。劇的事件よりも視線、沈黙、気まずさの変化を追うことで、都市生活者の不安を浮かび上がらせます。庄野潤三の静かな日常描写のなかに、戦後の家庭と個人の距離感が滲む作品です。 夫婦家族恋愛 第32回 芥川賞
  266. 266 1954 アメリカン・スクール あめりかん・すくーる 小島信夫 初出・「文學界」1954年9月号(第32回芥川賞受賞、庄野潤三「プールサイド小景」と同時受賞) 『アメリカン・スクール』は、占領下日本の英語教師たちがアメリカ人学校を見学する一日を描く短篇です。英語を教えながら英語に怯える教師たちの滑稽さを通して、敗戦後の対米感情と自意識のゆがみが浮かびます。小島信夫らしいユーモアと違和感のある会話が、戦後日本の心理的占領状態を照らします。 戦争言葉と言語同調圧力 第32回 芥川賞
  267. 267 1951 かべ 安部公房 初出・「近代文学」1951年2月号(第25回芥川賞受賞) 『壁』は、ある朝突然に名前を失った男S・カルマ氏の不条理な遍歴を描く安部公房の前衛的中篇です。現実の制度や所有の感覚がずれていく過程を、寓話的で実験的な文体によって追い詰めます。戦後日本文学に不条理文学・シュールレアリスムの感覚を持ち込んだ、安部公房の出発点となる作品です。 アイデンティティ孤独と疎外言葉と言語 第25回 芥川賞
  268. 268 1951 広場の孤独 ひろばのこどく 堀田善衛 初出・「中央公論」1951年(第26回芥川賞受賞) 『広場の孤独』は、朝鮮戦争下の東京を舞台に、新聞社に勤める在日中国人の知識人が戦争と民族のあいだで引き裂かれていく姿を描く作品です。政治状況を背景にしながら、個人の倫理と所属の不安を前景化する点に読みどころがあります。戦後文学の中でも、国際政治と内面の孤独を同時に扱った作品として位置づけられます。 戦争移民と越境孤独と疎外 第26回 芥川賞
  269. 269 1951 悪い仲間・陰気な愉しみ わるいなかま・いんきなたのしみ 安岡章太郎 初出・「群像」1951年6月号(「悪い仲間」)、「群像」1953年(「陰気な愉しみ」)。第29回芥川賞はこの2篇への授賞。 『悪い仲間・陰気な愉しみ』は、病と貧しさ、青年期の停滞を背景にした安岡章太郎の初期短篇群です。結核療養や日常の挫折をめぐる内省を、過剰な劇化を避けた私小説的な語りで描きます。第三の新人と呼ばれる世代の、戦後の日常感覚と弱さへのまなざしがよく出た作品です。 青春貧困 第29回 芥川賞
  270. 270 1949 異邦人 いほうじん 辻亮一 初出・「新小説」1949年(1950年上半期 第23回芥川賞受賞) 『異邦人』は、敗戦後の中国で中国共産党軍に徴用された日本人の体験を描く短篇です。異国の軍事・政治状況に投げ込まれた人物を通して、戦後直後の日本人が抱えた疎外感と帰属の不安を切り取ります。物語の細部については公開出典が限られるため、ここでは受賞作として確認できる範囲を中心に紹介します。 戦争移民と越境孤独と疎外 第23回 芥川賞
  271. 271 1935 蒼氓 そうぼう 石川達三 初出・同人誌「星座」1935年 昭和初頭、国策としてブラジル移民に応じた人々を描く三部構成の群像劇。第一部では神戸の国立移民収容所で出港を待つ数日間が、東北の寒村から一家で海を渡ろうとする者たちを中心に描かれ、続いて移民船での45日間の航海、ブラジル到着後に過酷な労働へ踏み出す姿へと続く。貧しさゆえに故郷を棄てざるをえない名もなき… 移民と越境貧困労働 第1回 芥川賞