Setting
地方
舞台「地方」に分類された 117 作品。
- 001 2026 舞う砂も道の実り まうすなもみちのみのり 『舞う砂も道の実り』は、孤児として育ったワオスリ、大家族の移住先を探すイフン、離れ離れになった子を探すダエの三人が旅に出るロードノベル。文藝春秋公式は、時代も場所も定かでない土地を進む旅人たちが、町々の出会いと別れを通じて人生の意味を手にしていく作品として紹介している。喪失を抱えた人々の移動を、詩的…
- 002 2025 温泉小説 おんせんしょうせつ 『温泉小説』は、おひとり様限定ツアー、後期高齢者のドライブ旅、母の呪縛から逃れられない娘、亡き妻との記憶をたどる男など、六つの旅路を収めた連作的な作品集です。年齢も性別も境遇も違う人物たちが、人生の苦みや迷いを抱えたまま温泉地へ向かい、湯に身体をほどかれながら自分を見つめ直す。温泉ソムリエマスターで…
- 003 2025 ジャスティス・マン じゃすてぃす・まん 『ジャスティス・マン』は、仙台の老舗ホテルに勤続30年の初老ホテルマンが、特撮ヒーローに重ねた「正義」を暴走させていく長篇です。家庭も職もある中年男性の独りよがりな正義が、職場や周囲との軋轢を深めていく。正義という言葉の快さと危うさを、地方都市の労働現場と生活者の視点から描く作品です。
- 004 2025 彼の左手は蛇 かれのひだりてはへび 『彼の左手は蛇』は、仕事を辞め、女性と別れて、蛇信仰の残る土地に来た男が「この手記」を書くところから展開する小説です。白蛇を祀る神社、毒蛇狩り、議員の死、刑事、謎めいた人物たちが絡み、蛇のイメージが信仰・恐怖・罪悪感・暴力の記憶を結びつけていく。手記形式の語りは、書くことそのものの危うさを含みながら…
- 005 2025 熊はどこにいるの くまはどこにいるの 『熊はどこにいるの』は、震災から7年後の地で、ショッピングモールで保護された身元不明の幼子と、暴力から逃れて山奥の家に暮らす女たちをめぐる小説です。リツ、アイ、サキ、ヒロらの視点が交錯し、保護と加害、避難場所と閉ざされた共同体の危うさを同時に浮かび上がらせる。熊という存在は、現実の脅威であると同時に… 第61回 谷崎賞
- 006 2024 僕たちの保存 ぼくたちのほぞん 『僕たちの保存』は、語り手のゲンさん、年上の武上さん、引きこもりの甥シンスケ、人気漫画家の亀谷さんらが、新幹線、自転車、バス、テスラを乗り継いで旅に出るロードノベル。震災被害者の形見であるMSXパソコンが、過去と現在、記憶と情報の保存をつないでいく。サブカルチャーとパソコン以後の時間を背景に、残るも…
- 007 2023 神と黒蟹県 かみとくろがにけん 黒蟹山や黒蟹城、紫苑市と灯籠寺市を擁する架空の県を舞台に、土地に生きる者、赴任してきた者、帰郷した者、地元を訪れた者たちの営みを描く連作小説集。現実のどこかにありそうな地方都市の手触りに、半知半能の神が降臨するようなわずかな神秘が混じる。群像劇として土地の記憶や住民の距離感を浮かび上がらせ、絲山秋子…
- 008 2023 蝙蝠か燕か こうもりかつばめか 2022年2月に急逝した西村賢太の未刊行小説集で、完結作としては最後の表題作を含む三篇を収める。北町貫多が藤澤清造資料の調査や書簡の額装をめぐって動く「廻雪出航」「黄ばんだ手蹟」と、死の前年の貫多を描く「蝙蝠か燕か」によって、師への執着と自分の文学を問い直す。私小説的な分身を通じ、歿後弟子としての覚…
- 009 2023 街とその不確かな壁 まちとそのふたしかなかべ 十七歳の「ぼく」は十六歳のガールフレンドから、彼女の本当の自分は高い壁に囲まれた街にいると告げられ、その後彼女は姿を消す。年月を経た語り手は、壁、望楼、図書館、古い夢、影を持たない人々のいる街と現実世界のあわいを行き来することになる。村上春樹が長く抱えてきた「壁に囲まれた街」のモチーフを、喪失、記憶…
- 010 2023 流れる島と海の怪物 ながれるしまとうみのかいぶつ 母に連れられて行った屋敷で、「俺」は朱音と朱里という二人の姉妹に出会う。母がなぜ二人に会わせたのかという謎は、伯母から聞く出生の秘密と、姉妹の母の故郷である「流れる島」の神話へつながっていく。下関という土地、家族と血の記憶、少年と少女の出会いを、現実と神話が絡む濃密な語りで描いた長編である。
- 011 2023 立春大吉 りっしゅんだいきち 『立春大吉』は、過疎の町で町立病院の入院ベッド全廃計画が持ち上がり、病院と町への思いを抱えた住民たちが抗う長編である。新米町議・友川あさひを中心に、主義主張や家庭事情の異なる人々が交わり、地域医療、暮らし、政治参加の問題が重なっていく。『しんぶん赤旗』連載を単行本化した作品で、若い世代の苦悩と住民運…
- 012 2022 くるまの娘 くるまのむすめ 17歳のかんこは、家族とともに車中泊をしながら祖母の葬儀へ向かう。狭い車内と旅先の景色は、父母と子のあいだに積み重なった暴力、依存、愛着を逃げ場なく浮かび上がらせる。少女の身体感覚に寄り添う濃密な語りが、家族を単純な加害と被害に分けられないものとして描き、読者に「救うなら誰を救うのか」という問いを突…
- 013 2022 まっとうな人生 まっとうなじんせい 『逃亡くそたわけ』から十数年後、花ちゃんとなごやんは富山で偶然再会する。かつて精神病院を抜け出して九州を旅した二人は、それぞれ家族を持ち、コロナ禍の同時代を生きる人として再び向き合う。富山の地名、食文化、方言、スーパーの細部までを織り込みながら、家庭を守ろうともがく花ちゃんの怒りや不安を、土地に根ざ…
- 014 2022 雨滴は続く うてきはつづく 2004年、北町貫多は同人誌発表作「けがれなき酒のへど」が同人雑誌優秀作に選ばれ、純文学誌に転載されたことで文壇デビューを果たす。藤澤清造の歿後弟子であろうとする執念、純文学誌への執筆、恋情と自尊心の揺れが、貫多らしい苛立ちと滑稽さを伴って進む。完成直前で未完となった遺作長篇であり、作家になる以前の…
- 015 2021 母親からの小包はなぜこんなにダサいのか ははおやからのこづつみはなぜこんなにださいのか 『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』は、実家から届く小包をめぐって、昭和・平成・令和をまたぐ家族の思いを描く連作集。業者から買った野菜を実家からの荷物と偽る女性、父が受け取っていた小包の謎、母からの最後の荷物など、物の中にしまわれた気遣い、ずれ、寂しさが開封されていく。タイトルの軽さに対して…
- 016 2021 北斗星に乗って ほくとせいにのって 『北斗星に乗って』は、上野発の寝台特急「北斗星」を軸にした8編の短篇小説集。列車という移動空間が、乗客の記憶や人生の分岐、もう一つの世界へ向かうような感覚をつないでいく。旅情だけでなく、日常から少し離れた場所で自分の過去や孤独に触れる、静かな幻想味を持つ作品集である。
- 017 2021 あなたに安全な人 あなたにあんぜんなひと 3.11直前の少年の死をめぐる出来事に苛まれる元教師の妙と、沖縄新基地建設反対デモの警備中の事故を抱える便利屋の忍が、「感染者第一号」を誰もが恐れる土地で出会う。二人は人を傷つけ、傷つけられる社会のなかで、孤独で安全な逃亡生活のような関係を築いていく。東日本大震災、沖縄、感染症下の共同体の視線を交差…
- 018 2021 ここはとても速い川 ここはとてもはやいかわ 児童養護施設で暮らす小学五年生の集と、園での年下の親友・ひじりの日々を描く表題作を中心にした小説集。近くの淀川にいる亀を見に行く楽しみなど、子どもたちの時間が、温もりを含んだ繊細な言葉でたどられる。詩人として出発した著者の初めての小説集で、表題作と小説第一作「膨張」を収録する。 第43回 野間新人賞
- 019 2021 満天の花 まんてんのはな 幕末の長崎・出島に生まれ、青い目を隠して育った花が、勝海舟との出会いを経て通詞として外交の渦中に入る歴史長篇。咸臨丸、ロシア艦、大政奉還、江戸無血開城へと続く時代の転換点を、女性通訳の視点からたどる。西欧列強、幕府、身分秩序に抗し、言葉と意思で生きる人物像が読みどころになる。
- 020 2021 水たまりで息をする みずたまりでいきをする ある日、衣津実は夫が風呂に入らなくなったことに気づく。夫は水が臭く、体につくと痒くなると言って入浴を拒み、やがて雨に濡れに外へ出るようになり、職場で体臭が問題にされる。退職と移住を経て、夫が川で水浴びをする生活へ向かう過程を、夫婦の問題として押し返される妻の視点から描き、身体、清潔、共同生活の境界を…
- 021 2021 死者にこそふさわしいその場所 ししゃにこそふさわしいそのばしょ 折口山に暮らす奇妙でどこか壊れた人々が、町はずれの植物園へ引き寄せられていく連作短篇集。介護、欲望、病、善意の暴走といった日常の歪みを、グロテスクで滑稽な筆致で少しずつ現実からずらしていく。表題作を含む六篇を通じて、怖さと可笑しさが同居する吉村萬壱の寓話的な人間観察が前面に出る。
- 022 2021 小島 こじま 2014〜2021年に発表した13篇を収めた短篇集。「小島」(「新潮」2019年1月号)「ヒヨドリ」(「群像」2018年10月号)「卵男」(「文藝」2019年秋季号)など、身近な生き物・風景との境界が溶け始める場面を描く。「異郷」「継承」「点点」の3篇は「早稲田文学」発表のシリーズ的連作。単行本は2…
- 023 2020 踏み跡にたたずんで ふみあとにたたずんで 『踏み跡にたたずんで』は、毎日新聞大分県版連載をもとに、土地と人々の記憶をめぐる36篇を収めた掌編小説集。掩体壕、赤い波、磨崖仏、港、道の駅、診療所など、場所や物の名を起点に、戦争の痕跡、伝説、老い、自然との遭遇が短い物語として立ち上がる。現実と幻の境目をあいまいにする語りで、土地に残る見えない記憶…
- 024 2020 百年と一日 ひゃくねんといちにち 人や店、駅、家、空港、家族の記憶が、数ページの掌編の中で十年、二十年、百年の時間へ伸びていく短篇集。個々の人物の大事件ではなく、場所に積み重なる時間、誰かが去り誰かが来る反復、忘れられていく出来事の痕跡を描く。長いタイトルと淡々とした語りが、日常の一瞬を歴史の厚みへ接続する。
- 025 2020 かきあげ家族 かきあげかぞく コメディ映画監督の中井戸八郎は、老境に差しかかりながらスランプの渦中にいる。長男の失職、長女の離婚、引きこもる次男によって家族が再び一つの家に集まるなか、名監督の遺稿をめぐる騒動が起き、八郎は家族の一人ひとりと向き合わざるをえなくなる。不安を拾い集めてしまう人間の弱さを、家族喜劇の形で描く。
- 026 2020 完全犯罪の恋 かんぜんはんざいのこい 『完全犯罪の恋』は、芥川賞受賞後も地味な暮らしを送る四十男の小説家「田中」が、新宿で初恋の相手の娘に声をかけられるところから始まる長編。物語は現在の東京と、下関の高校時代に読書を通じて近づいた才女・真木山緑との記憶を往還し、恋の独りよがりと罪悪感を掘り下げる。作家本人を思わせる語り手を置き、私小説的…
- 027 2020 小鳥、来る ことり、くる 『小鳥、来る』は、夏休みの始まり、9歳の「おれ」が父を倒す日を待っているところから始まる長篇。周囲には、勉強のできる友人、万引きを繰り返す兄弟、学年一強い女子、何度も車にはねられる少年、動物園のゴリラがいて、子どもの日常が暴力とユーモアを帯びて浮かぶ。山下澄人らしい口語のリズムと飛躍する視点が、大人…
- 028 2020 幼な子の聖戦 おさなごのせいせん 第162回芥川賞候補作の表題作と、ビルの窓拭きを描く『天空の絵描きたち』を収める作品集。表題作では、青森の小さな村で村議をしている「おれ」が、人妻との関係を県議に握られ、同級生候補への選挙妨害を強いられる。地方政治の閉塞、個人の弱み、労働現場の緊張を、怒りと諦めのあわいにかすかな希望を探る語りで描く…
- 029 2020 月の客 つきのきゃく 親や社会から守られなかった少年トシと少女サナ、そして犬の時間をたどる長編。集英社公式は、どこから読んでもよい構成と通読の呪いを解く書として紹介しており、山下澄人の文体実験が物語そのものの主題になっている。暴力、死、災害、老いをめぐる生の断片が、直線的なあらすじよりも体験の積み重なりとして読ませる。
- 030 2019 遠の眠りの とおのねむりの 大正末期、貧しい農家に生まれた絵子は本を読むことを支えにしていたが、女学校には進めず、家を追い出されて女工として働く。市内に初めて開業した百貨店「えびす屋」で、付属劇場の少女歌劇団に関わる「お話係」として雇われ、娘役のキヨと親しくなる。集英社公式は、福井市に実在した百貨店の少女歌劇部に着想を得た長篇…
- 031 2019 夢も見ずに眠った。 ゆめもみずにねむった 『夢も見ずに眠った。』は、夫を熊谷に残して札幌へ単身赴任した沙和子が、夫婦のすれ違いと離別を経て、新しい愛と信頼の形へ向かう長篇。岡山、札幌、熊谷など土地の記憶や物語が、二人の関係の変化と響き合う。移動する生活のなかで、結婚や家族の安定ではなく、相手を信じ直す距離を探るところが読みどころになる。
- 032 2018 ブルーハワイ ぶるーはわい 『ブルーハワイ』『辰年』『聖ミクラーシュの日』『わかれ道』『山の上の春子』『わたしのおばあちゃん』を収めた短篇集。河出書房新社は、「あたりまえ」を知らない孤独が世界を撃ち抜く作品集として紹介している。日常のなかでそれぞれのことに夢中になる人々を、平明で少し乾いた語りで捉え、家族や記憶、他者との隔たり…
- 033 2018 5時過ぎランチ ごじすぎランチ 「グリーンゾーン」「内なる殺人者」「誰が為の昼食」の三篇からなる、労働と犯罪が絡み合う短篇集。ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギーを抱える殺し屋、写真週刊誌の女性記者が、それぞれ過酷な仕事の延長線上でヤクザや警察、国家権力に触れていく。ブラックな職場感覚とクライムノベルの緊張を重ね、仕事にまつわ…
- 034 2018 日の出 ひので 明治の終わり、13歳の清作は徴兵から逃れて故郷を飛び出し、北陸から九州、横浜へ移りながら鍛冶職人として生きる。もう一つの軸として、清作を曾祖父にもつ現代の女子大生・あさひが、教職免許取得のために学ぶ姿が置かれる。時代を隔てた二人を並行させ、労働、逃走、家系の記憶、希望の継承を描く長編。
- 035 2018 ゆっくりおやすみ、樹の下で ゆっくりおやすみ、きのしたで 小学5年生のミレイが「さるすべりの館」で夏休みを過ごすうち、遠い過去の謎に触れていく児童文学寄りの長編。赤い部屋、止まっていた時計、館に隠された秘密が、子どもの視点に近い軽やかさと不思議な緊張感で語られる。今日マチ子の挿絵を多数収録し、高橋源一郎が子どもと大人の読者をつなぐ語りに挑んだ作品。
- 036 2016 しんせかい しんせかい 19歳のスミトは、神戸からフェリーと汽車を乗り継ぎ、北海道の【谷】で脚本家の【先生】が主宰する私塾に二期生として入る。俳優や脚本家を志す年齢も経歴も様々な仲間たちとの共同生活は、しかし稽古よりも、施設造りや農作業、馬の世話といった肉体労働に明け暮れるものだった。倉本聰主宰の富良野塾での著者自身の体験… 第156回 芥川賞
- 037 2015 死んでいない者 しんでいないもの 秋のある日、大往生を遂げた85歳の男の通夜に、子や孫、ひ孫まで30人ほどの親族が集まってくる。通夜振る舞いの席で酒を酌み交わす者、川辺をさまよう者、初めて会う親戚と言葉を交わす少年少女。語りは特定の人物に留まらず、出席者から出席者へと自在に移りながら、故人の記憶と一族それぞれの来し方、共有しえない日… 第154回 芥川賞
- 038 2014 九年前の祈り くねんまえのいのり 35歳のさなえは、カナダ人の夫に去られたあと、激しい癇癪を起こす幼い息子・希敏を連れて、故郷である大分の海辺の小さな集落に帰ってくる。育児に疲弊する彼女の脳裏には、九年前、集落の女たちとカナダを旅した際、世話役の「みっちゃん姉」が異国の教会で見せた祈りの姿が繰り返し蘇る。そのみっちゃん姉の息子がいま… 第152回 芥川賞
- 039 2013 穴 あな 非正規雇用の職を辞して夫の田舎に引っ越した主人公が、夏に黒い獣を追って土手の穴に落ちる。義祖父・義兄を名乗る見知らぬ男・甘い香りの老女など奇妙な人々との出会いを経て、日常と異界の境界が静かに溶けていく。 第150回 芥川賞
- 040 2011 共喰い ともぐい 昭和63年夏、川辺の町に暮らす17歳の遠馬は、父・円とその愛人琴子との三人暮らし。父は性交の際に女を殴る男で、遠馬の実母・仁子はその暴力ゆえに家を出て、川向こうで魚屋を営んでいる。恋人の千種との関係が深まるにつれ、遠馬は自分の中にも父と同じ暴力の血が流れているのではないかという恐れに苛まれていく。鰻… 第146回 芥川賞
- 041 2009 犬と鴉 いぬとからす 『犬と鴉』は、田中慎弥の硬質な文体で、人間の生の暗さや動物的な感覚を前面に出す作品です。犬と鴉という題名の組み合わせは、従順さと不吉さ、近さと遠さを同時に呼び込みます。閉じた生活の中で、身体と孤独がざらついた手触りで描かれます。
- 042 2009 神キチ かみきち 屋根屋として建築現場で働く主人公を、不条理な出来事が次々と襲う。だが彼や登場人物たちが本当に悩むのは、世界の理不尽そのものではなく、〈真剣に神に祈れない〉という一点だ。奇妙で黒い笑劇の合間に、切り刻まれた宗教性の断片が乱舞し、信じることが壊れてしまった時代の労働者の魂のありかを照らし出す。地方の建築… 第41回 新潮新人賞
- 043 2009 糞神 くそがみ 『糞神』は、身体の排泄や汚れのイメージを前面に出しながら、人間の信仰や共同体の感覚を揺さぶる作品です。喜多ふありの題名は挑発的ですが、そこには身体を持って生きることの逃れがたさがあるように読めます。神聖さと汚穢が接近する、不穏な寓話として分類しました。
- 044 2009 世紀の発見 せいきのはっけん 『世紀の発見』は、巨大な機関車と大きな鯉の記憶、そして消えた友人をめぐって語りが展開する長篇です。現実の出来事と記憶の像が入り混じり、世界の見え方そのものが少しずつ変わっていきます。磯﨑憲一郎らしい、夢のようで乾いた語りの運動が読みどころです。
- 045 2009 線路と川と母のまじわるところ せんろとかわとははのまじわるところ 『線路と川と母のまじわるところ』は、線路と川という移動のイメージを、母の記憶や土地の感覚と重ねる小野正嗣の作品です。場所の記憶は個人の家族史と結びつき、語りは土地をたどるように進みます。母と子、故郷、移動の主題を静かに読む小説です。
- 046 2009 瘡瘢旅行 そうはんりょこう 『瘡瘢旅行』は、藤澤清造の墓参と女性との旅を描く、北町貫多ものの作品集です。私小説的な語りは、文学への執着、貧しさ、対人関係のこじれを隠さずに差し出します。旅の形を取りながら、過去の傷や屈辱を抱え直す作品として読めます。
- 047 2009 水死 すいし 『水死』は、父の死の記憶と「水死小説」の構想をめぐる、大江健三郎晩年の古義人もの長篇です。家族史、戦後史、文学を書くことが複層的に絡み、個人の記憶は国家や天皇制の問題にも接続します。長い息の文体で、作家自身の過去を再検討する作品です。
- 048 2008 走ル はしる 『走ル』は、高校生が自転車で北へ向かい続けるロードノベルです。走る身体の疲労と速度が、若い自意識や孤独をそのまま運んでいきます。目的地よりも、移動し続ける時間のなかで自分の輪郭が変わるところが読みどころです。
- 049 2008 射手座 いてざ 日系ブラジル人の語り手が、妹ルシアに関わる謎めいた男・加賀芳明と向き合う。妹の万引きに関わった加賀は、やがて妹が遺棄した赤ん坊について語り出し、赤ん坊を運んで山道をひとりさまよう。語り手が加賀から聞いた話を伝聞のかたちで重ねていく重層的な構造により、何が真実かは最後まで曖昧なまま、登場人物の誰ひとり… 第107回 文學界新人賞
- 050 2008 神様のいない日本シリーズ かみさまのいないにほんシリーズ 『神様のいない日本シリーズ』は、「江夏の21球」で知られる1979年の日本シリーズを背景に、父と子の時間を描く中篇です。野球の記憶は、家族の記憶や時代の空気を呼び戻す装置になります。田中慎弥の乾いた語りが、父子関係の近さと断絶を浮かび上がらせます。
- 051 2008 イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集 いぎりすかいがん いーはとーう たんぺんしゅう 『イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集』は、宮沢賢治のイーハトーヴを思わせる場所の記憶や文学的想像力を、短篇のかたちでたどる作品集です。実在の土地と架空の地名が重なり、読むこと、訪ねること、思い出すことがひとつにつながります。静かな幻想性と地方の手触りが読みどころです。
- 052 2008 切れた鎖 きれたくさり 『切れた鎖』は、地方の閉ざされた土地に生きる血族を描く三篇を収めた作品集です。家族や土地の結びつきは守りではなく、逃れがたい暴力や因縁として迫ってきます。簡潔で硬い語りが、血縁の鎖が切れる瞬間の不穏さを際立たせます。 第21回 三島賞
- 053 2008 子守唄しか聞こえない こもりうたしかきこえない 田舎町に暮らす女子高生・美里は、男友達4人に囲まれた一見満ち足りた日々を送っている。だが「愚鈍な真沙子」と見下していた同級生が自分に執着し、つきまとうようになると、保っていたはずのエゴの均衡が崩れはじめる。幼い日の海の記憶や謎めいた老婆との出会いを織り込みながら、思春期の自意識の残酷さと出口のなさを… 第51回 群像新人賞
- 054 2008 マイクロバス マイクロバス 『マイクロバス』は、移動する小さな乗り物を通して、地方の場所や人々の距離を描く小野正嗣の作品です。バスという共有空間は、共同体に属することと、そこから外れることの両方を見せます。静かな語りのなかで、土地の記憶と孤独がゆっくり浮かび上がります。
- 055 2007 だだだな町、ぐぐぐなおれ だだだなまち、ぐぐぐなおれ 第50回群像新人文学賞優秀作に選ばれたデビュー作。タイトルの擬音めいた口語が示すとおり、ぱっとしない地方の町でくすぶる「おれ」の日々を、脱力した語り口で描く。ホテルマン、タクシー運転手、消費者金融など10以上の職を転々とした作者の経歴がにじむ、働く男の鬱屈とおかしみは、のちに芥川賞候補となる「うちに…
- 056 2007 大人ドロップ おとなどろっぷ 『大人ドロップ』は、若者が大人になる前後の感情を、学校や地方の時間のなかで描く青春小説です。恋愛や友情の明るさだけでなく、過ぎてしまう時間への痛みが語りの底にあります。簡潔な文体で、思い出になる直前の出来事をすくい取る作品として読めます。
- 057 2007 島の夜 しまのよる 『島の夜』は、島という隔てられた場所と夜の時間を背景に、孤独や記憶の濃度を描く作品として整理できます。閉じた地理は、人間関係を近づける一方で、逃げ場のなさも作ります。静かな語りのなかに、不安と親密さが同時に漂う読み味があります。
- 058 2007 舞い落ちる村 まいおちるむら 生まれ育った女系の村では、時間の進み方や年齢の重ね方が定まらず、ものの数も曖昧で、人々は個々の名前すらめったに持たない。「わたし」はその「言葉を信じない」村のあり方に違和感を抱き、村と大学のある街とを行き来するうち、言葉を信じ言葉で武装した人物に強く惹かれていく。土俗的な幻想と言語への意識を重ね合わ… 第104回 文學界新人賞
- 059 2007 二度はゆけぬ町の地図 にどはゆけぬまちのちず 『二度はゆけぬ町の地図』は、戻れない場所への執着と、貧しい生活の記憶を私小説的な語りでたどる作品です。西村賢太らしい露悪的な自己凝視が、地図に残る町と、もう行けない過去を重ねます。労働、金銭、孤独が乾いた笑いと屈辱の感覚で結びついています。
- 060 2007 ワンちゃん わんちゃん 日本に渡って暮らす中国人女性「ワンちゃん」は、中国の女性たちと日本の男たちを引き合わせる見合いツアーの世話役を務めている。国境をまたぐ結婚の斡旋という生々しい現場を通して、経済格差のなかを生きる女たちのたくましさと哀感を、来日20年の作者がよどみのない日本語で描いた。日本語を母語としない書き手が日本… 第105回 文學界新人賞
- 061 2006 風化する女 ふうかするおんな 突然死んだ会社の先輩れい子には、職場で見せていたのとは別の顔があった。「私」はその謎をたどって東京から地方へと旅をし、死んだ女の生の痕跡に自分を重ねていく。日々がたえず「風化」していく都会の生活感覚を背景に、死者をなぞることでしか確かめられない自分の輪郭を、抑制された筆致で描いたデビュー作。 第102回 文學界新人賞
- 062 2006 銀色の翼 ぎんいろのつばさ 『銀色の翼』は、生活の現場にいる人々の視線から、家族、労働、社会的な孤立を描く佐川光晴の小説です。派手な事件よりも、日々の選択や関係のほころびを通して人物を立ち上げるタイプの作品として位置づけられます。現実に踏みとどまる語りが、傷や希望を過度に美化しない点が読みどころです。
- 063 2006 森のはずれで もりのはずれで 『森のはずれで』は、共同体の中心ではなく「はずれ」に立つ人物の感覚を、小野正嗣らしい静かな語りで描く作品です。森や周縁の場所は、記憶、土地、言葉の違いを考えるための舞台になります。中心から外れた場所で人がどう他者と出会うかを読む作品として位置づけられます。
- 064 2006 裏庭の穴 うらにわのあな 主婦の朝子は、幼い頃に母親が裏庭に何かを埋めるのを目撃したという記憶を、大人になっても抱え続けている。掘り返されないまま家族の足元に空いた「穴」のような記憶を軸に、平穏に見える家庭の日常の底に沈む鬱屈と、母と娘のあいだのほどけない結び目を描く。受賞作は2009年刊の作品集『霊降ろし』(文藝春秋)に収… 第103回 文學界新人賞
- 065 2005 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ ふぬけども、かなしみのあいをみせろ 両親の事故死をきっかけに、女優を夢見る自己中心的な姉・澄伽が田舎の実家へ戻ってくる。妹、兄夫婦、家族内の記憶と嫉妬が、痛烈な喜劇として噴き出す。本谷有希子の戯曲的な会話と、家族を安全な場所として描かない毒の強さが読みどころである。
- 066 2005 半島を出よ はんとうをでよ 北朝鮮の特殊部隊が福岡を占拠するという危機を、政治、軍事、若者たちの暴力性を絡めて描く大部の長編。現実の東アジア情勢を踏まえながら、国家の危機管理と個人の生存感覚を同時に扱う。村上龍らしい社会不安への感度と、エンターテインメント的な速度が結びついた作品である。
- 067 2005 みずうみ みずうみ 母を亡くした女性と、過去に深い傷を抱えた青年の恋を描く長編。湖の静けさは、癒やしの場所であると同時に、人物が抱える記憶の暗さを映す場所にもなる。吉本ばななの柔らかな語りが、トラウマと恋愛を過剰に説明しすぎず、余韻として残す。
- 068 2005 踊るナマズ おどるなまず ナマズにまつわる民話や伝説が数多く残る田多間町。弥生は中学の同級生・一真と民話のレポートを作るうち、「ナマズの番人」と呼ばれる元図書館司書・水口さんから古い伝説を聞き、ナマズの幻を見たという叔母・小夜子の記憶にも触れていく。やがて母となった弥生が胎児に語りかけるという入れ子の構成で、土地の記憶と性… 第29回 すばる文学賞
- 069 2005 逃亡くそたわけ とうぼうくそたわけ 『逃亡くそたわけ』は、精神病院を抜け出した二人の若者が、博多から九州を北へ進む逃避行を描く小説です。方言を含む勢いのある語りが、病や孤立を重く固定せず、滑稽さと切実さの両方で走らせます。逃げることが同時に自分の輪郭を確かめることになる、青春ロードノベルとして読めます。
- 070 2005 冷たい水の羊 つめたいみずのひつじ 級友たちの生け贄のようにいじめの標的にされた中学生の少年。彼は「いじめられたと感じたらそれがいじめ」という定義を逆手に取り、「自分はいじめられていない」という独自の論理に立てこもって、陰惨な仕打ちを受け続ける。いじめを告発した同級生の少女・水原里子との心中の計画が、物語に暗い水脈のように流れる。羊の… 第37回 新潮新人賞
- 071 2004 青空感傷ツアー あおぞらかんしょうツアー 身勝手で魅力的な親友・音生に振り回されながら、「私」が各地を巡るロードノベル。旅は爽快な逃避であると同時に、親友への憧れや苛立ち、自分の輪郭の曖昧さを映し出す時間でもある。柴崎友香らしい移動の感覚と会話のリズムで、若い女性同士の距離を軽やかに描く。
- 072 2004 介護入門 かいごにゅうもん 寝たきりの祖母を在宅で介護する無職の「俺」が、深夜のおむつ替えや褥瘡のケアといった介護の現実を、ヒップホップのライムを思わせる呼びかけと畳みかける長文で語る。「ヨォ、と俺は呼びかける」という挑発的な語りは、介護を美談にも悲劇にも回収せず、祖母への愛と世間への呪詛を同じ熱量で吐き出していく。介護文学に… 第98回 文學界新人賞
- 073 2004 海のふた うみのふた 故郷の海辺の町でかき氷屋を始めた女性のひと夏を描く長編。海、店、訪れる人々とのやりとりを通じて、傷ついた心が生活の手触りを取り戻していく。吉本ばなならしいやさしい幻想味が、地方の小さな商いと再生の感覚に結びついている。
- 074 2004 海の仙人 うみのせんにん 海辺で暮らす人物の孤独に、現実から少しずれた存在や関係が入り込んでくる絲山秋子の長篇。日常的な会話の軽さと、死や喪失の気配が同じ平面に置かれ、海辺の時間が寓話のように広がる。恋愛小説でも幻想小説でもあるが、どちらにも収まりきらない余白が読みどころになる。
- 075 2003 ハゴロモ ハゴロモ 恋愛や喪失で傷ついた人物が、都会から少し距離を置いた土地で静かに時間を取り戻していく吉本ばななの長篇。水辺や町の気配、記憶の手触りを重ねながら、壊れた心がすぐに治るのではなく、生活のリズムの中でゆっくりほどけていく過程を描く。幻想味を帯びたやわらかな文体が、再生の物語を日常の側に引き寄せている。
- 076 2003 ハンゴンタン はんごんたん タイトルの「ハンゴンタン(反魂丹)」は、死者の魂を呼び戻すという伝承を持つ富山の伝統的な丸薬の名。哲学科出身の27歳の新人が、第95回・第96回と受賞作が1作以下の状態が続いた文學界新人賞の2003年下期に単独受賞した。選考委員は浅田彰・奥泉光・島田雅彦・辻原登・山田詠美。単行本化されておらず、内容… 第97回 文學界新人賞
- 077 2003 家畜の朝 かちくのあさ 中卒で道路工事などの日雇い仕事をしながら日銭を稼ぐ主人公と、その仲間たちのうだつの上がらない日々。労働と競艇と愚行で埋まる時間の隙間に、父親の自殺、学習障害、友人の堕胎といった出来事が断片として挟み込まれ、貧困が人と土地をどう蝕むかが一人称の語りで立ち上がる。労働運動の現場にいた作者が、「ワーキング… 第35回 新潮新人賞
- 078 2003 夏休み なつやすみ 就職も進路も決まりきらない青年が、夏の時間の中で宙ぶらりんの自分を抱えたまま過ごす。中村航らしい軽い会話と瑞々しい感覚で、何者にもなれない時期の切なさを描く。大きな転機よりも、季節の空気や友人関係の揺れが、青春の停滞と再生の気配を作っている。
- 079 2002 アルゼンチンババア アルゼンチンババア 母の死後、「アルゼンチンババア」と呼ばれる女性と暮らし始めた父をめぐる物語。奇妙な人物や場所への戸惑いを通して、家族の喪失を別の関係へ開いていく。吉本ばなならしい、死後の時間をやわらかく生き直す物語。
- 080 2002 にぎやかな湾に背負われた船 にぎやかなわんにせおわれたふね 九州の海辺の集落「浦」を舞台に、土地の人々の記憶と語りを紡ぐ長編。個人の物語が、海辺の共同体、死者、土地の歴史と重なり合う。小野正嗣らしい、声の重なりと土地の記憶を読む作品。 第15回 三島賞
- 081 2002 海辺のカフカ うみべのかふか 15歳の少年・田村カフカと老人ナカタの物語が並行して進む長編。家出、父と子、予言、暴力、異界的な出来事が絡み合い、現実と神話が重なる場所へ読者を導く。村上春樹の長編の中でも、寓話性と物語性が大きく広がった作品である。
- 082 2002 憂い顔の童子 うれいがおのどうじ 大江健三郎の「おかしな二人組」三部作に連なる後期長編。作家・古義人を中心に、家族史、過去の暴力、共同体の記憶が重なり合う。晩年の大江が、自身の文学的記憶と死者との対話を小説化していく流れの中で読む作品である。
- 083 2001 水に埋もれる墓 みずにうもれるはか 小野正嗣のデビュー作で、既存データでは朝日新人文学賞受賞作とされる。水や墓のイメージが示すように、土地、記憶、死者との関係をめぐる作品として位置づけられる。後の小野作品に続く、共同体の記憶と語りへの関心の出発点として読みたい。
- 084 1999 宙返り ちゅうがえり かつて教団を解散した「師匠」と「案内人」の十年後の再出発を描く長編。
- 085 1999 透光の樹 とうこうのき 加賀平野・鶴来を舞台に、テレビ業界の中年男性と老父の看護に戻った女性が25年の時を経て再会し、深まる愛を描く恋愛長篇。後に映画化された。単行本刊行年を year に採用。 第35回 谷崎賞
- 086 1998 ブエノスアイレス午前零時 ぶえのすあいれすごぜんれいじ 雪深い故郷の温泉旅館に戻った青年が、かつて横浜で娼婦をしていた盲目の老婆と出会い、深夜にタンゴを踊るという抒情的でハードボイルドな短編。花村萬月「ゲルマニウムの夜」と同時受賞。 第119回 芥川賞
- 087 1996 季節の記憶 きせつのきおく 鎌倉・稲村ヶ崎を舞台に、父と息子が過ごす初秋から冬の日々を断片的に描いた長篇。出来事ではなく意識の流れと時間の質感そのものを書こうとした保坂文学の代表作。平林たい子文学賞とのW受賞。単行本刊行年を year に採用。 第33回 谷崎賞
- 088 1996 火の山―山猿記 ひのやま やまざるき 富士山麓を舞台に、山梨の地質学者の家系をモデルとした有森家5代の歴史を書簡・日記を織り交ぜて描く大作。野間文芸賞との同時受賞。後にNHK連続テレビ小説「純情きらり」の原案となった。 第34回 谷崎賞
- 089 1995 ジェロニモの十字架 じぇろにものじゅうじか 長崎を舞台に、カトリックの信仰と歴史的暴力の記憶が交差する世界を描いたデビュー作。 第80回 文學界新人賞
- 090 1995 夏至祭 なつしさい 九州の小さな漁港を舞台に、土地の祭りや共同体の記憶と個人の喪失を交錯させた抒情的な長編。佐藤洋二郎の代表作のひとつ。第17回野間文芸新人賞受賞(水村美苗と同時)。 第17回 野間新人賞
- 091 1995 路地 ろじ 鎌倉の路地と古書肆を舞台とした7篇からなる連作短篇集。廃業した店、老いた人々、去りゆく時間を小津安二郎的な視点で丁寧に掬い取る。単行本化にあたり「鎌倉」から「路地」に改題。 第33回 谷崎賞
- 092 1994 首飾り くびかざり 文藝時評で「カポーティを思わせる才能」と絶賛されたデビュー作。山形県文学全集にも収録された。 第31回 文藝賞
- 093 1994 虹の岬 にじのみさき 大企業の要職を辞した男とその恋人である京都大学教授夫人との25年越しの情愛を描く恋愛長篇。加賀平野の鶴来を主な舞台とし、人生の決断と喪失を静謐な文体で綴る。単行本刊行年を year に採用。 第30回 谷崎賞
- 094 1994 みのむし みのむし 農家の老いた夫婦が蓑虫を題材にした短い会話を通して、生命の儚さと互いへの愛着を静かに語らう短篇。三浦哲郎の短篇集モザイクシリーズの一作で、川端賞の2度目の受賞作。単行本年を year に採用。 第22回 川端賞
- 095 1993 燃えあがる緑の木 もえあがるみどりのき 四国の森の村で「救い主」と呼ばれる青年をめぐる魂の救済を描く三部作(1993〜95年刊)。
- 096 1991 撃壌歌 げきじょうか 『撃壌歌』は、戦後の信州の農村を舞台に、少年の成長と土地の変化を描く二部構成の作品です。封建的な地主制度の残滓と高度成長期の足音が交差し、個人の青春が村の時間の変化と重なります。歴史美術を専門とする著者らしい、土地と記憶へのまなざしが特徴です。 第28回 文藝賞
- 097 1990 青春デンデケデケデケ せいしゅんでんでけでけでけ 『青春デンデケデケデケ』は、1960年代の四国・観音寺で、ベンチャーズに憧れた高校生たちがバンドを組む青春小説です。方言まじりの軽快な語りと音楽への熱中が、地方の高校生活を明るく立ち上げます。懐かしさに寄りかかりすぎず、仲間と音を出す時間の高揚を描くところに魅力があります。 第27回 文藝賞
- 098 1990 ランタナの花の咲く頃に らんたなのはなのさくころに 『ランタナの花の咲く頃に』は、知的障害を持つ甥に見合い話が来るという設定から、家族と地域の関係を描く表題作を含む短篇集です。沖縄出身の長堂英吉が、障害者の結婚や家族の戸惑いを、硬い告発ではなくユーモアと温かみを交えて描きます。受賞時58歳という遅い文壇デビューも、作品の受け止められ方を特徴づけていま… 第22回 新潮新人賞
- 099 1990 じねんじょ じねんじょ 『じねんじょ』は、老いた農夫が山芋を掘る日常を通じて、土地への愛着と家族の距離を描く短篇です。大きな事件ではなく、手仕事と沈黙のなかに人生の時間を滲ませるところに味わいがあります。三浦哲郎らしい地方の生活感覚と、老いの静けさが凝縮されています。 第17回 川端賞
- 100 1989 TUGUMI つぐみ 海辺の町を舞台に、語り手まりあと、病弱で美しいが激しい気性を持つ少女つぐみの最後の夏を描く長編。家族経営の宿、海辺の時間、恋の予感、病と別れの気配が重なり、青春のまぶしさと残酷さが同時に立ち上がる。吉本ばなならしい平明な一人称で、親密な関係が永遠には続かないことを痛切に描く。
- 101 1988 ダンス・ダンス・ダンス だんす・だんす・だんす 『羊をめぐる冒険』の後日談として、「僕」が札幌のイルカホテルを再訪し、失われた女性や過去の気配を追っていく長編。現実のホテル、芸能界、ハワイ、羊男のいる異界がつながり、踊り続けることだけが世界との接続の方法として示される。1980年代の都市的な消費社会を背景に、喪失、記憶、孤独を冒険小説のリズムでた…
- 102 1987 懐かしい年への手紙 なつかしいとしへのてがみ 語り手が導き手である「ギー兄さん」との関係をたどりながら、自分の文学的半生と故郷の森の記憶を再構成する自伝的長編。私小説の形式を借りながら、実際には作家自身と架空の人物をずらし、記憶・読書・共同体の物語を重ねていく。ダンテを媒介に、帰郷できない作家が森の村と文学の場所を問い直す。
- 103 1987 69 sixty nine シックスティナイン 1969年の佐世保を舞台に、高校生ケンの反乱と文化祭騒動を描く自伝的青春小説。政治の季節、ロック、映画、性への憧れが混ざり合い、重い時代背景を祝祭的な語りで駆け抜ける。村上龍作品の中では、暴力や破滅よりも若者のエネルギーとユーモアが前面に出る。
- 104 1986 M/Tと森のフシギの物語 エムティーともりのフシギのものがたり 四国の森に伝わる物語を、M=母権的な存在とT=トリックスター的な存在の対立・変奏として語る長編。村の伝承、神話、人類学的な型を組み合わせ、作家の幼年期の森を大きな物語装置へ変えていく。短い断章を積み重ねる構成で、個人の記憶と共同体の神話が互いに照らし合う。
- 105 1982 羊をめぐる冒険 ひつじをめぐるぼうけん 広告代理店で働く「僕」は、耳に星形の斑紋を持つ謎の羊を探すよう依頼され、ガールフレンドとともに北海道へ向かう。右派の大物、秘書、羊男、そして姿を消した鼠の痕跡が重なり、探偵小説めいた筋立ては次第に幻想と喪失の物語へ変質していく。初期の軽やかな一人称の語りを保ちながら、政治的な力、戦後の記憶、個人の空… 第4回 野間新人賞
- 106 1980 コインロッカー・ベイビーズ コインロッカー・ベイビーズ 1972年夏、コインロッカーに遺棄されたキクとハシは、施設と養家を経て、それぞれ異なるかたちで母の不在と都市への怒りを抱え込む。ハシは歌声とショービジネスに、キクはアネモネや毒物ダチュラをめぐる破壊衝動に引き寄せられ、東京は欲望と暴力が増殖する異様な空間として立ち上がる。棄児、身体、都市、音の記憶を… 第3回 野間新人賞
- 107 1979 同時代ゲーム どうじだいゲーム 四国の森の谷間にある「村=国家=小宇宙」を、手紙・神話・歴史の断片を重ねて語り直す実験的長編。語り手は村の起源、反乱、血縁、移住の記憶を再編し、個人の物語ではなく共同体が自分自身を語る仕組みそのものを小説化する。大江の森の神話と戦後政治への問いが、濃密な語りの構造として展開される。
- 108 1979 風の歌を聴け かぜのうたをきけ 1970年の夏、「僕」と友人「鼠」の9日間を描いた村上春樹のデビュー作。短い章、乾いた会話、音楽や翻訳文学の気配によって、青春の終わりと喪失感が軽やかに語られる。後の「鼠三部作」へ続く、村上春樹の文体と世界観の出発点である。 第22回 群像新人賞
- 109 1967 万延元年のフットボール まんえんがんねんのフットボール 友人の死と家族の危機を抱えた蜜三郎が、弟の鷹四とともに四国の谷間の村へ戻り、百年前の一揆の記憶と向き合う長編。兄弟の対立、障害をもつ子の存在、共同体に残る暴力の記憶が、過去と現在を重ねる構成の中で展開する。閉ざされた村落を神話的な舞台として、個人史と共同体史、政治的熱狂と責任の問題を絡み合わせた大江… 第3回 谷崎賞
- 110 1959 山塔 さんとう 『山塔』は、斯波四郎が第41回芥川賞を受賞した短篇集の表題作です。公開資料で詳しい筋を確認できる範囲は限られますが、生活の厚みと人間の時間を描く作品として評価されました。既存調査にある選評の要点からは、技巧よりも「人生」が感じられる点が評価されたことがわかります。 第41回 芥川賞
- 111 1958 芽むしり仔撃ち めむしりこうち 戦争末期、感化院の少年たちが山村へ移送され、疫病を恐れた村人たちに置き去りにされる初長編。少年たちは閉ざされた村で短い自治と連帯を作ろうとするが、共同体の暴力と大人たちの保身によってその世界は崩れていく。少年の身体感覚に近い切迫した語りで、戦時下の排除、無垢の破壊、周縁に追いやられた者たちの一瞬の自…
- 112 1958 飼育 しいく 戦争末期、外界から隔てられた山間の寒村に米軍機が墜落し、生き残った黒人兵が捕虜として捕らえられる。県の指示が出るまで村で「飼う」ことになった黒人兵に食事を運ぶ役を担った少年「僕」は、言葉の通じない相手とのあいだに、獣を飼い馴らすような、しかし確かな親密さを育てていく。子どもたちの祝祭めいた共生の日々… 第39回 芥川賞
- 113 1956 海人舟 かいとぶね 『海人舟』は、千葉・鴨川の海辺を背景に、漁師たちの労働と土地に根ざした生活を描く短篇です。近藤啓太郎自身の漁業体験に近い素材を、海と身体の感覚を伴うリアリズムで扱っています。都市の内面劇とは違う、海辺の共同体と労働の重さが読みどころです。 第35回 芥川賞
- 114 1956 金閣寺 きんかくじ 『金閣寺』は、1950年の金閣寺放火事件に着想を得て、吃音と自己嫌悪を抱える若い僧が美に囚われていく過程を描く長篇です。金閣の絶対的な美が主人公の現実感を侵食し、破壊衝動へ変わるまでを緊密な心理描写で追います。三島由紀夫の美意識とニヒリズムが最も鋭く結びついた戦後文学の代表作です。
- 115 1954 潮騒 しおさい 『潮騒』は、三重県の孤島を舞台に、若い漁夫と海女の恋を明るく端正に描く長篇です。古代ギリシャの牧歌的恋愛物語を思わせる構成を、日本の海辺の共同体に置き換えています。三島由紀夫作品のなかでは例外的に清明な青春小説として読まれ、自然と身体の健やかさが強く印象に残ります。
- 116 1952 或る「小倉日記」伝 あるこくらにっきでん 『或る「小倉日記」伝』は、森鷗外の小倉時代を記録することに生涯を傾けた人物を主人公にする短篇です。文学史の周縁にいる無名の調査者の執念をたどり、資料を追う行為そのものを物語化しています。史実と想像を接続する構成が、のちの松本清張の記録性・推理性を予告します。 第28回 芥川賞
- 117 1951 春の草 はるのくさ 『春の草』は、石川利光が第25回芥川賞を安部公房『壁』と同時受賞した作品です。詳しい筋を確認できる公開資料は少ないものの、戦後まもない文学場で、生活の手触りと内面の揺れを描くリアリズム系の短篇として受け止められました。現時点では、書誌・受賞情報を中心に紹介しています。 第25回 芥川賞