Themes

死と喪失

主題「死と喪失」に分類された 180 作品。

  1. 001 2026 舞う砂も道の実り まうすなもみちのみのり 井戸川射子 単行本・文藝春秋 『舞う砂も道の実り』は、孤児として育ったワオスリ、大家族の移住先を探すイフン、離れ離れになった子を探すダエの三人が旅に出るロードノベル。文藝春秋公式は、時代も場所も定かでない土地を進む旅人たちが、町々の出会いと別れを通じて人生の意味を手にしていく作品として紹介している。喪失を抱えた人々の移動を、詩的… 移民と越境家族死と喪失
  2. 002 2026 彼女のカロート かのじょのかろーと 荻世いをら 初出・すばる 2010年7月号/文學界 2013年12月号 『彼女のカロート』は、表題作「彼女のカロート」と「宦官への授業」の二篇を収める作品集。表題作では、耳が聞こえなくなった女性アナウンサーから「自分のための新しい墓」を依頼された主人公の日常が、彼女とのずれた応答によって静かに侵食されていく。もう一篇では、読むことに困難を抱えながら文学に殉じる青年がシュ… 身体死と喪失芸術と表現
  3. 003 2025 細長い場所 ほそながいばしょ 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『細長い場所』は、名前・記憶・肉体を失い、気配や残存となった「わたしたち」が旅をする幻想的な小説です。生と死のあわいを舞台に、個であることをやめた心が最後に誰とどんな場所へ向かうのかを問う。筋立てよりも、声、記憶、身体の制約がほどけていく感覚をたどるところに読みどころがあります。 死と喪失記憶アイデンティティ
  4. 004 2025 百日と無限の夜 ひゃくにちとむげんのよる 谷崎由依 単行本・集英社 『百日と無限の夜』は、第一子の妊娠中に切迫早産で入院した「わたし」が、横たわる時間のなかで出産と生命をめぐる幻視の旅へ入っていく長篇です。能『隅田川』の女物狂いを案内人に、中世の京、駆け込み寺、若狭のお水送り、海辺の産小屋へと時空を越えて進む構成が、病室の身体感覚と神話的な想像力を結びつける。妊娠・… 母と子身体
  5. 005 2025 受け手のいない祈り うけてのいないいのり 朝比奈秋 単行本・新潮社 『受け手のいない祈り』は、感染症拡大で地域の救急医療が逼迫するなか、患者を受け入れ続ける病院で働く青年医師・公河を描く長篇です。長時間勤務と極度の疲労が、死、狂気、使命感、食欲や時間感覚の乱れをひとつの身体に押し寄せさせる。医師としての経験に支えられた具体性と、現実の歪みが幻想に近い手触りへ変わる語… 労働身体
  6. 006 2024 みんなのお墓 みんなのおはか 吉村萬壱 単行本・徳間書店 「内藤家之墓」に引き寄せられる人々を描く、共同墓地を軸にした群像劇。裸になる快感を追う主婦、「真理」がわからない小学生たち、夜のコンビニだけを日課にする引きこもり男性、宗教的な合宿に向かう若者、潔癖症の妻を持つ中年など、ばらばらの人物が悩みを抱えながら生きている。死者の場所である墓を、生きる者の傷や… 死と喪失孤独と疎外信仰
  7. 007 2024 サンショウウオの四十九日 サンショウウオのしじゅうくにち 朝比奈秋 初出・新潮 2024年5月号 外から見ればひとりの人間にしか見えないが、その身体には杏と瞬というふたつの意識が宿っている——半身ずつを分け合って生きる29歳の結合双生児の姉妹。父もまた、胎児のまま兄の身体に取り込まれた「胎児内胎児」として摘出されて生をうけた、稀有な来歴を持つ。その父の片割れともいえる伯父の訃報が届き、四十九日ま… 身体アイデンティティ家族 第171回 芥川賞
  8. 008 2024 死神 しにがみ 田中慎弥 単行本・朝日新聞出版 うまくいかない作家の人生の節目ごとに、死神が現れるという設定の長編。語り手が中学二年のときに初めて出会った「こいつ」は、長く書くことのできなかった存在として回想され、死や家族の記憶と結びついていく。死を擬人化した幻想性を使いながらも、作家の生活と記憶に根ざした語りで、ユーモアと鋭さを交えて生の輪郭を… 死と喪失家族芸術と表現
  9. 009 2024 光のそこで白くねむる ひかりの そこで しろく ねむる 待川匙 初出・「文藝」2024年冬季号 『光のそこで白くねむる』は、十年ぶりに故郷の田舎町へ戻った「わたし」が、墓地へ続く道で死んだはずの幼馴染の声を聞くところから始まるデビュー作。行方不明の母、神のような父、汚言機械のような祖母が現れ、不確かな記憶の流入によって平凡な田舎が異界へ変わっていく。語り手の性別や過去の事実が曖昧なまま進む文体… 記憶家族死と喪失 第61回 文藝賞
  10. 010 2023 FICTION フィクション 山下澄人 単行本・新潮社 演劇する集まりを「FICTION」と名づけ、十六年続けてきた「わたし」が、仲間の死や病、自身の大病を経て回想を始める連作短篇集。収録作は「FICTION 01 象使い」から「FICTION 07 助けになる習慣」まで、演劇と小説、記憶と作り話の境界を行き来する。新潮社は芥川賞受賞作『しんせかい』に連… 芸術と表現死と喪失記憶
  11. 011 2023 蝙蝠か燕か こうもりかつばめか 西村賢太 単行本・文藝春秋 2022年2月に急逝した西村賢太の未刊行小説集で、完結作としては最後の表題作を含む三篇を収める。北町貫多が藤澤清造資料の調査や書簡の額装をめぐって動く「廻雪出航」「黄ばんだ手蹟」と、死の前年の貫多を描く「蝙蝠か燕か」によって、師への執着と自分の文学を問い直す。私小説的な分身を通じ、歿後弟子としての覚… 芸術と表現死と喪失記憶
  12. 012 2023 街とその不確かな壁 まちとそのふたしかなかべ 村上春樹 単行本・新潮社 十七歳の「ぼく」は十六歳のガールフレンドから、彼女の本当の自分は高い壁に囲まれた街にいると告げられ、その後彼女は姿を消す。年月を経た語り手は、壁、望楼、図書館、古い夢、影を持たない人々のいる街と現実世界のあわいを行き来することになる。村上春樹が長く抱えてきた「壁に囲まれた街」のモチーフを、喪失、記憶… 記憶死と喪失アイデンティティ
  13. 013 2023 流れる島と海の怪物 ながれるしまとうみのかいぶつ 田中慎弥 単行本・集英社 母に連れられて行った屋敷で、「俺」は朱音と朱里という二人の姉妹に出会う。母がなぜ二人に会わせたのかという謎は、伯母から聞く出生の秘密と、姉妹の母の故郷である「流れる島」の神話へつながっていく。下関という土地、家族と血の記憶、少年と少女の出会いを、現実と神話が絡む濃密な語りで描いた長編である。 家族母と子記憶
  14. 014 2023 続きと始まり つづきとはじまり 柴崎友香 単行本・集英社 東日本大震災、熊本地震、未知の病原体の出現を背景に、別々の場所で暮らす男女三人の日常が描かれる。大きな出来事の「始まり」と「続き」は個人の生活時間のなかで重なり、誰にも同じように流れたはずの月日が、それぞれ異なる記憶として蓄積していく。複数の人物の日々を並置し、災害とパンデミック以後の時間感覚を静か… 災害記憶家族 第60回 谷崎賞
  15. 015 2022 荒地の家族 あれちのかぞく 佐藤厚志 初出・新潮 2022年12月号 宮城県亘理町の植木職人・坂井祐治、四十歳。あの「災厄」の二年後に妻を病で亡くし、再婚した相手も流産の後に家を出て、いまは老いた母と中学生の息子と暮らしている。津波という言葉を正面に掲げず「災厄」「海の膨張」と呼びながら、荒れた海辺の土地で黙々と木に向かう男の日常を描く。職を転々とする旧友や没落してい… 災害死と喪失家族 第168回 芥川賞
  16. 016 2022 君たちはしかし再び来い きみたちはしかしふたたびこい 山下澄人 単行本・文藝春秋 腹が破裂し死を告げられた「私」は、三度の入院、飼い猫の手術、コロナ禍を経て、痛みによって世界と自己の境界が変わっていくのを経験する。病の記録は歴史や宇宙、カフカ、『白鯨』、ブレイクなどへ跳躍し、私小説的な身体感覚と思想的な連想が重なる。時系列や視点を揺らしながら、病む身体から世界をもう一度呼び寄せる… 身体死と喪失
  17. 017 2022 水平線 すいへいせん 滝口悠生 単行本・新潮社 硫黄島を墓参したことのある妹に見知らぬ男から電話がかかり、兄は不思議なメールに導かれて船に乗る。祖父母世代の疎開、激戦地に残された人々、現在の兄妹の時間が交差し、死者の言葉が海を越えて現在へ届く。視点や人称を変えながら、戦争の記憶と島の隆起する時間を重ねる長篇。 戦争記憶死と喪失
  18. 018 2022 月の三相 つきのさんそう 石沢麻依 単行本・講談社 旧東ドイツの小さな街で「フローラが失踪した」という噂が広がり、歴史に引き裂かれた少年と少女の物語が呼び起こされる。その街では誰もが自分の「肖像面」を持ち、面に惹かれて移り住んだ望、グエット、ディアナの三人は、失われた「顔」を探して見えない境界を越えていく。いくつもの時間が重層する街を舞台に、歴史、記… 記憶アイデンティティ死と喪失
  19. 019 2022 ビューティフルからビューティフルへ ビューティフル から ビューティフル へ 日比野コレコ 初出・「文藝」2022年冬季号 『ビューティフルからビューティフルへ』は、絶望を抱える高校三年生の静と、ネグレクト家庭に育ち「死にたい」感覚を抱えてきたナナを中心に進むモノローグ小説。二人が通う「ことばぁ」の家、駅前で出会う若者との接触を通じて、生と死、自己否定と自己肯定が乱反射する。サンプリングのように異質な言葉を混ぜる文体が… 青春家族死と喪失 第59回 文藝賞
  20. 020 2021 北斗星に乗って ほくとせいにのって 広小路尚祈 単行本・桜山社 『北斗星に乗って』は、上野発の寝台特急「北斗星」を軸にした8編の短篇小説集。列車という移動空間が、乗客の記憶や人生の分岐、もう一つの世界へ向かうような感覚をつないでいく。旅情だけでなく、日常から少し離れた場所で自分の過去や孤独に触れる、静かな幻想味を持つ作品集である。 記憶孤独と疎外死と喪失
  21. 021 2021 星のように離れて雨のように散った ほしのようにはなれてあめのようにちった 島本理生 単行本・文藝春秋 行方不明の父、未完の『銀河鉄道の夜』、書きかけの小説という三つの「未完」をめぐり、人生の岐路に立つ女子大学院生の「私」が自分自身の物語を探していく長編。宮沢賢治作品の影や、消えた父の残した手紙を手がかりに、家族の記憶と創作の衝動が重なり合う。父の不在を単なる謎解きにせず、失われたものを言葉で追いかけ… 父と子記憶芸術と表現
  22. 022 2021 貝に続く場所にて かいにつづくばしょにて 石沢麻依 初出・群像 2021年6月号 コロナ禍に覆われたドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす日本人留学生の「私」のもとに、東日本大震災の津波で行方不明になったはずの友人・野宮が現れる。九年前に仙台で被災した記憶と、疫病下の異国の街の現在が静かに重なり合い、惑星の名を冠した小径、聖人伝や絵画の細部、庭に埋められた様々な品をたどりながら… 死と喪失記憶災害 第165回 芥川賞
  23. 023 2021 ミトンとふびん ミトンとふびん 吉本ばなな 単行本・新潮社 大切な人の死や癒えない喪失を抱えながら生きる人々を、ヘルシンキ、ローマ、台北など複数の土地で描く全6編の短篇集。旅の風景は観光的な背景ではなく、残された人が小さな光や手触りに支えられて日々を続けるための場所として置かれている。吉本ばななが長く書き続けてきた喪失、時間、愛の主題を、静かでやわらかな語り… 死と喪失恋愛記憶 第58回 谷崎賞
  24. 024 2021 長い一日 ながいいちにち 滝口悠生 単行本・講談社 小説家の夫と妻が、住み慣れた家からの引っ越しを考え始めるところから、長くつきあってきた友人たち、日々の暮らし、失ってから気づく愛着や記憶が交差していく長編。出来事を大きな劇に仕立てるよりも、生活の中でふと立ち上がる静かな感情と、時間の伸び縮みをすくい取る。日記と小説のあわいを思わせる形式で、夫婦と住… 夫婦記憶家族
  25. 025 2021 アンソーシャル ディスタンス アンソーシャル ディスタンス 金原ひとみ 単行本・新潮社 パンデミックに閉塞する社会で、生への希望だったバンドのライブ中止をきっかけに心中旅行へ向かう若い男女を描く表題作を含む作品集。ほかに、高アルコール飲料、整形、身体、インターネット上の視線など、追い詰められた人々の臨界点を描く作品を収める。コロナ禍の距離感を単なる時事性に閉じず、依存、疎外、自己破壊の… 孤独と疎外死と喪失身体 第57回 谷崎賞
  26. 026 2020 2020年の恋人たち にせんにじゅうねんのこいびとたち 島本理生 単行本・中央公論新社 母の急死によりワインバーを継ぐかどうか選択を迫られた前原葵を中心に、同棲相手、常連客、店を手伝う人々、新たな出会いが交錯する長篇。恋愛の高揚だけでなく、会話の途切れ、依存、別れ、仕事として店を引き受けることを描き、葵が何を選び何を手放すかを追う。直木賞受賞後の長篇第一作として、喪失後の生活再建と関係… 恋愛死と喪失労働
  27. 027 2020 みがわり みがわり 青山七恵 単行本・幻冬舎 『みがわり』は、新人賞を受けながら本を出せずにいる作家・律が、自分と瓜二つだった亡き女性の伝記執筆を依頼される長編。取材の過程で、姉妹の確執や家族の秘密、依頼そのものの不穏さが浮かび、律は他人の人生を書こうとするほど自分自身の物語も揺さぶられていく。伝記を書くことと書かれることの関係を通じて、自己像… アイデンティティ家族記憶
  28. 028 2020 ピエタとトランジ〈完全版〉 ぴえたととらんじ かんぜんばん 藤野可織 単行本・講談社 ピエタを語り手に、天才的な頭脳を持つ女子高生探偵トランジと、その才能に惹かれて助手になるピエタの関係を描く長篇。周囲で次々と事件が起きるトランジの体質は、探偵小説、友情譚、終末SFの要素を巻き込み、やがて人類滅亡のスケールへ広がっていく。軽やかな語り口で、女性バディ、才能への憧れ、破滅に向かう世界を… 青春アイデンティティ死と喪失
  29. 029 2020 来世の記憶 らいせのきおく 藤野可織 単行本・KADOKAWA 『来世の記憶』は、前世の殺人の記憶を抱えた近未来の語り手から、眠っている間に戦争が終わってしまう世界、冷蔵庫やスマートフォンや怪獣までをめぐる奇妙な出来事までを収めた20篇の短篇集。日常の手触りを残したまま身体や物や世界の前提がずれていくため、読み手は不条理な笑いと不安のあいだに置かれる。藤野可織ら… 記憶死と喪失身体
  30. 030 2020 踏み跡にたたずんで ふみあとにたたずんで 小野正嗣 単行本・毎日新聞出版 『踏み跡にたたずんで』は、毎日新聞大分県版連載をもとに、土地と人々の記憶をめぐる36篇を収めた掌編小説集。掩体壕、赤い波、磨崖仏、港、道の駅、診療所など、場所や物の名を起点に、戦争の痕跡、伝説、老い、自然との遭遇が短い物語として立ち上がる。現実と幻の境目をあいまいにする語りで、土地に残る見えない記憶… 記憶戦争死と喪失
  31. 031 2020 百年と一日 ひゃくねんといちにち 柴崎友香 単行本・筑摩書房 人や店、駅、家、空港、家族の記憶が、数ページの掌編の中で十年、二十年、百年の時間へ伸びていく短篇集。個々の人物の大事件ではなく、場所に積み重なる時間、誰かが去り誰かが来る反復、忘れられていく出来事の痕跡を描く。長いタイトルと淡々とした語りが、日常の一瞬を歴史の厚みへ接続する。 記憶家族死と喪失
  32. 032 2020 木になった亜沙 きになったあさ 今村夏子 単行本・文藝春秋 『木になった亜沙』は、表題作「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」の三篇を収めた作品集。誰かに食べ物を差し出したい少女が木へ、さらに割り箸へと転じる表題作をはじめ、身体の境界や役割が奇妙にずれた状況が、純粋な願いと不穏さを同時に帯びて進む。童話のような単純さと残酷さを併せ持つ語りで… 身体孤独と疎外
  33. 033 2020 MISSING 失われているもの ミッシング うしなわれているもの 村上龍 単行本・新潮社 『MISSING 失われているもの』は、制御しがたい抑うつや不眠を抱える小説家の「わたし」が、謎めいた女優や母の声に導かれて、混乱と不安に満ちた迷宮的な世界を彷徨う長篇。章題には成瀬巳喜男映画の題名が並び、現在と過去、現実と幻想、記憶と自己分析が重なり合う。村上龍が自らの創作の源泉や老い、母の記憶に… 記憶母と子老い
  34. 034 2020 日本蒙昧前史 にほんもうまいぜんし 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 大阪万博や日航機墜落事故など、戦後日本の狂騒と蒙昧を彩った出来事の陰にある無数の生を描く長篇。文藝春秋公式は、語り手を自在に換えつつ戦後日本の手触りを蘇らせる作品として紹介している。歴史的事件を単なる背景にせず、語りのリレーによって個人の記憶と時代の空気を重ねるところに読みどころがある。 記憶戦争死と喪失 第56回 谷崎賞
  35. 035 2020 うつくしい羽 うつくしいはね 上村渉 初出・すばる 2019年6月号 表題作『うつくしい羽』と『あさぎり』などを収めた、上村渉の初小説集。OpenBDの版元提供情報は、食の記憶が過去を呼び覚ます作品として、離婚で心の支えを失った男と、フランス修業時代に大切な人を失った料理人の軌跡を紹介している。併録作『あさぎり』では、十五歳の少女の一時保護を通して、家族の絆と外国人労… 記憶死と喪失
  36. 036 2020 象牛 ぞうぎゅう 石井遊佳 単行本・新潮社 表題作は、インド・ガンジス河岸の聖地にやってきた女子大生が、謎の存在である象牛に翻弄される物語。併録の『星曝し』は大阪の淀川河岸を思わせる比ラカ駄を舞台に、恋に似た激しい熱情と死者の気配を描く。現実の痛みと法螺話めいた幻想が混ざり合う、石井遊佳の芥川賞受賞後初の作品集。 身体暴力
  37. 037 2019 ひよこ太陽 ひよこたいよう 田中慎弥 単行本・新潮社 一緒に住んでいた女に去られ、切り詰めた生活のなかで小説を書こうとする40代の男を描く連作小説集。書けない日々と死への誘惑に取り憑かれた語り手は、母から頼まれた人探しをきっかけに、現実と幻想の境界が揺らぐ世界へ入っていく。書けなさ、不在、生活の索漠さを見つめる私小説的な作品。 芸術と表現孤独と疎外死と喪失
  38. 038 2019 キュー キュー 上田岳弘 初出・新潮 2017年10月号より連載 平凡な医師である「僕」が突然拉致され、世界の趨勢をめぐる暗闘の中心に、長年寝たきりだったはずの祖父がいることを知る。新潮社公式は、祖父の秘密が「人類を一つに溶かす」使命に関わるものとして紹介している。戦争、愛、運命、人類の統合という大きな主題を、現代的な技術感覚と哲学的な思考実験の語りで押し広げる作… テクノロジー戦争アイデンティティ
  39. 039 2019 ポルシェ太郎 ポルシェたろう 羽田圭介 初出・文藝 掲載(前篇・後篇) 35歳で起業した太郎は、年収に匹敵するポルシェを買う。ところが、その自慢の車で得体の知れないものを運ばされることになり、成功者の見栄と欲望が危うい方向へ走り出す。河出書房新社の紹介は「欲望か、死か」という言葉で作品の緊張を示しており、消費、承認、成功の演出を乾いたユーモアで追う長篇として読める。単な… 労働同調圧力身体
  40. 040 2019 生命式 せいめいしき 村田沙耶香 単行本・河出書房新社 『生命式』は、死者を食べる新たな葬式を描く表題作を中心に、身体、食、家族、常識の境界を揺さぶる十二篇を収めた短篇集。河出書房新社公式の収録情報には「素敵な素材」「街を食べる」「孵化」などが並び、日常の制度や倫理を別の社会の習俗として反転させる。村田沙耶香らしい寓話的設定で、正常さそのものを問い直す読… 死と喪失身体
  41. 041 2019 飛族 ひぞく 村田喜代子 初出・「文學界」連載後、単行本2019年3月・文藝春秋。連載開始年は未確認のため単行本年を year に採用 『飛族』は、大分で魚料理店を営む六十五歳のウミ子が、長崎の国境離島を思わせる架空の島に住む九十二歳の母イオと八十八歳のソメ子を訪ねる長編。島には二人の元海女だけが残り、失われた漁師たちを鳥に重ねる「鳥踊り」や、国境離島の維持をめぐる現実的な緊張が、牧歌的な生活に不穏さを差し込む。著者インタビューでは… 老い死と喪失地方 第55回 谷崎賞
  42. 042 2018 その先の道に消える そのさきのみちにきえる 中村文則 単行本・朝日新聞出版 アパートの一室で発見された緊縛師の死体をめぐり、重要参考人の女性と彼女に惹かれる刑事・富樫、別の刑事たちの視線が絡み合う長編ミステリー。謎と嘘を追う捜査の形を取りながら、暴力、欲望、死者の痕跡を通じて、この世界を生きる意味を問い詰めていく。犯罪小説の緊迫感と、中村文則らしい倫理的・実存的な暗さが重な… 暴力死と喪失
  43. 043 2018 つかのまのこと つかのまのこと 柴崎友香 単行本・KADOKAWA かつての住み家らしき「この家」をさまよい続ける「わたし」が、次々に入れ替わる住人たちを見守る物語。幽霊のような語り手の視点から、家に残る記憶と、誰かを待ち続ける時間が静かに積み重ねられる。柴崎友香が俳優・東出昌大をイメージして小説を書き、市橋織江の写真と組み合わされた、写真と小説の境界を意識した一冊… 記憶死と喪失家族
  44. 044 2018 ウィステリアと三人の女たち ウィステリアとさんにんのおんなたち 川上未映子 単行本・新潮社 「彼女と彼女の記憶について」「シャンデリア」「マリーの愛の証明」「ウィステリアと三人の女たち」の4篇を収める短篇集。同窓会、デパート、女子寮、廃墟となった屋敷を舞台に、女性たちが不確かな記憶と死の気配に触れていく。記憶、死、救済、自己同一性が幻想的な気配で重なり、なだらかな散文がいつのまにか現実の足… 記憶死と喪失孤独と疎外
  45. 045 2018 ゆっくりおやすみ、樹の下で ゆっくりおやすみ、きのしたで 高橋源一郎 単行本・朝日新聞出版 小学5年生のミレイが「さるすべりの館」で夏休みを過ごすうち、遠い過去の謎に触れていく児童文学寄りの長編。赤い部屋、止まっていた時計、館に隠された秘密が、子どもの視点に近い軽やかさと不思議な緊張感で語られる。今日マチ子の挿絵を多数収録し、高橋源一郎が子どもと大人の読者をつなぐ語りに挑んだ作品。 青春記憶家族
  46. 046 2017 影裏 えいり 沼田真佑 初出・文學界 2017年5月号 会社の出向で岩手に移り住んだ今野は、釣り仲間となった同僚・日浅にだけ心を許していた。二人で川に通った日々はやがて途絶え、日浅は何も告げずに会社を去る。そして東日本大震災の後、今野は日浅の行方を追ううちに、親しいと思っていた男のもう一つの顔に触れることになる。北国の自然や釣りの場面を丹念に描きながら… 災害死と喪失孤独と疎外 第157回 芥川賞
  47. 047 2017 吹上奇譚 第一話 ミミとこだち ふきあげきたん だいいちわ ミミとこだち 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』は、不思議な町・吹上町を舞台にした双子の姉妹の物語で、シリーズ第一作にあたります。町そのものが現実と幻想の境目に置かれ、家族や記憶の問題が奇譚として語られます。吉本ばなならしいやわらかな語りの中に、喪失と再生の感覚があります。 家族記憶死と喪失
  48. 048 2017 かわうそ堀怪談見習い かわうそぼりかいだんみならい 柴崎友香 単行本・KADOKAWA 『かわうそ堀怪談見習い』は、柴崎友香が怪談の形式を借りながら、場所と記憶の気配を描く小説です。怪談見習いという軽やかな言い方により、恐怖だけでなく、日常に潜む違和感を観察する姿勢が生まれます。土地の空気と語りのゆるやかさが読みどころです。 記憶死と喪失孤独と疎外
  49. 049 2017 もう生まれたくない もううまれたくない 長嶋有 単行本・講談社 『もう生まれたくない』は、長嶋有が生まれることへの拒否感を題名に掲げ、生活の倦怠や関係のずれを描く作品として整理できます。重い言葉を、日常的な会話や軽みのある文体の中に置くことで、絶望が少し奇妙な手ざわりを帯びます。生の重さをユーモアでずらす長嶋作品らしい小説です。 死と喪失家族孤独と疎外
  50. 050 2017 おらおらでひとりいぐも おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子 初出・文藝 2017年冬季号 主人公は東北出身、74歳の桃子さん。結婚を目前に故郷を飛び出して上京し、住み込みの仕事、周造との結婚、二児の子育て、そして夫との突然の死別を経て、いまは東京郊外の家にひとりで暮らす。静かな日々のなか、桃子さんの内から標準語と懐かしい東北弁の無数の「声」が湧き上がり、孤独や老い、夫への思い、これからの… 老い死と喪失孤独と疎外 第158回 芥川賞
  51. 051 2017 蛇沼 じゃぬま 佐藤厚志 初出・「新潮」2017年11月号 『蛇沼』は、宮城県の田園地帯を舞台に、少年時代の監禁事件と少女セイコの不可解な死を抱え続ける青年・恭二を描く新潮新人賞受賞作。受賞者インタビューでは、作者が宮城県亘理郡の田んぼや沼のある風景を原風景としており、主人公が「生きていてもいいのか」という答えのない問いの中でもがく人物として構想されたことが… 暴力死と喪失父と子 第49回 新潮新人賞
  52. 052 2017 日曜日の人々(サンデー・ピープル) にちようびのひとびと さんでー ぴーぷる 高橋弘希 初出・「群像」2017年6月号、2017年8月講談社より単行本刊行 『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』は、死に惹かれる心や自傷、摂食、不眠といった切迫した声を、複数の断片として響かせる青春小説。講談社は「他者に何かを伝えること」が救いになりうるのではないかという問いを掲げ、他者へ届く/届かない声を作品の中心に置いている。硬質で鋭い言葉の連なりが、孤独と希求を同時… 青春孤独と疎外身体 第39回 野間新人賞
  53. 053 2017 こことよそ ここ と よそ 保坂和志 初出・「新潮」2017年6月号掲載 『こことよそ』は、鎌倉の道を歩く場面を含む短編で、保坂和志自身の受賞のことばでは、川端康成の記憶や生者と死者の時間感覚が作品に触れられている。物語の具体的な筋は公式ページからは限定的にしか確認できないが、場所の記憶と死者との距離が読解の手がかりになる。川端康成文学賞の受賞作として、短編の凝縮された時… 記憶死と喪失地方 第44回 川端賞
  54. 054 2016 コンテクスト・オブ・ザ・デッド コンテクスト・オブ・ザ・デッド 羽田圭介 単行本・講談社 『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は、ゾンビが蔓延する世界で文学と出版業界を風刺する長編です。死者が増殖するホラー的な設定の中に、言葉が読まれる文脈や、作品が流通する仕組みへの批評が重ねられます。ジャンル小説の速度とメタフィクション的な笑いを併せ持つ作品です。 芸術と表現言葉と言語死と喪失
  55. 055 2016 美しい距離 うつくしいきょり 山崎ナオコーラ 単行本・文藝春秋 『美しい距離』は、妻の末期がんに寄り添う夫の視点から、死に向かう日常を静かに描く小説です。看病や病院での時間を、劇的な悲嘆ではなく、相手との距離を測り続ける営みとして捉えます。死を前にした夫婦の親密さと孤独を、抑えた語りで読ませる作品です。 夫婦死と喪失
  56. 056 2016 青が破れる あおがやぶれる 町屋良平 初出・「文藝」2016年冬号 ボクサーになりたいがなれない青年・秋吉を中心に、恋愛、友人関係、死の予感が交錯する青春小説。ジムでのスパーリングや不倫関係、病床の友人の恋人への見舞いを通じて、若者たちの不安定な生が描かれる。短い枚数の中で、身体の衝動と喪失感を結びつけるデビュー作。 青春恋愛死と喪失 第53回 文藝賞
  57. 057 2015 死んでいない者 しんでいないもの 滝口悠生 初出・文學界 2015年12月号 秋のある日、大往生を遂げた85歳の男の通夜に、子や孫、ひ孫まで30人ほどの親族が集まってくる。通夜振る舞いの席で酒を酌み交わす者、川辺をさまよう者、初めて会う親戚と言葉を交わす少年少女。語りは特定の人物に留まらず、出席者から出席者へと自在に移りながら、故人の記憶と一族それぞれの来し方、共有しえない日… 家族死と喪失記憶 第154回 芥川賞
  58. 058 2015 水死人の帰還 すいしにんのきかん 小野正嗣 単行本・文藝春秋 『水死人の帰還』は、小野正嗣が死者、記憶、土地の声をめぐって描く小説として整理できます。水死人という存在は、失われたものが共同体へ戻ってくる不穏な気配を帯びています。生と死の境目を揺らしながら、地方の場所に残る記憶を読む作品です。 死と喪失記憶地方
  59. 059 2014 春の庭 はるのにわ 柴崎友香 初出・文學界 2014年6月号 離婚を機に世田谷の取り壊し予定のアパートに越してきた太郎は、隣に建つ水色の洋館を熱心に観察する住人の女・西と知り合う。漫画家の西は、高校時代に魅了された写真集『春の庭』の舞台がその家であることを知り、この場所へ引っ越してきたのだった。二人は次第にその水色の家への接近を試みるようになる。再開発で消えて… 記憶死と喪失孤独と疎外 第151回 芥川賞
  60. 060 2014 鳥たち とりたち 吉本ばなな 単行本・集英社 『鳥たち』は、吉本ばななが移動、喪失、自由への感覚を鳥のイメージに重ねる小説として整理できます。鳥は、どこかへ飛び去るものとして、残された人の孤独や再生を映します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 死と喪失家族孤独と疎外
  61. 061 2014 死にたくなったら電話して しにたくなったらでんわして 李龍徳 初出・「文藝」2014年冬号 大阪・十三のキャバクラで働く初美と出会った浪人生・徳山が、外部とのつながりを失い、悪意と厭世へ引き込まれていく。河出書房新社の紹介では、初美が語る残虐史と徳山の関係の断絶が軸に置かれ、現代の「心中もの」と位置づけられている。欲望、虚無、言葉の呪術性が破滅へ向かって濃密に絡む、強い閉塞感のある作品。 孤独と疎外死と喪失 第51回 文藝賞
  62. 062 2014 アルタッドに捧ぐ あるたっどにささぐ 金子薫 初出・「文藝」2014年冬号 小説を書いている本間の原稿用紙の上で、作中の少年が死に、その少年が飼っていたトカゲのアルタッドが現れるところから始まる。現実の生活と書かれた虚構が継ぎ目なく接続され、創作することそのものが物語の中心に置かれる。青春小説でありながら、虚構の根源へ向かうメタフィクションとして読める。 芸術と表現青春死と喪失 第51回 文藝賞
  63. 063 2014 みずうみのほうへ みずうみのほうへ 上村亮平 初出・「すばる」2014年11月号(投稿時タイトル「その静かな、小さな声」を改題) 七歳の誕生日旅行で父を失った「ぼく」が、湖のある町で育ち、二十代の終わりに父との記憶に結びつく「サイモン」に似た人物と出会う。港町、水産物加工場、アイスホッケー観戦といった生活の細部が、喪失の記憶と幻想的な再会をゆっくり結びつけていく。静かな語りの中で、父の死の謎と過去への引力が持続する作品である。 父と子死と喪失記憶 第38回 すばる文学賞
  64. 064 2014 指の骨 ゆびのほね 高橋弘希 初出・「新潮」2014年11月号 太平洋戦争中の南方戦線で負傷した一等兵の「私」が、臨時野戦病院で過ごす日々を語る戦争小説。食料の調達、戦友の死、退避を余儀なくされる状況を通じて、戦場の空白と狂気が描かれる。身体の損傷と形見としての骨が、忘れられた戦場の記憶を呼び戻す。静かな語りのなかに、死が日常化した場所の異様さがにじむ。 戦争身体死と喪失 第46回 新潮新人賞
  65. 065 2013 愛の夢とか あいのゆめとか 川上未映子 単行本・講談社 『愛の夢とか』は、日常のなかの小さな喪失と出会いを描く川上未映子の短篇集です。恋愛や記憶は劇的な事件としてではなく、ふとした言葉や風景の変化として現れます。リアリズムの手触りのなかに、静かな痛切さが残る作品集です。 恋愛記憶死と喪失 第49回 谷崎賞
  66. 066 2013 晩年様式集(イン・レイト・スタイル) ばんねんようしきしゅう 大江健三郎 単行本・講談社 『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』は、東日本大震災後に書き継がれた大江健三郎晩年の長篇です。老いた作家の自己検証、家族、死者の記憶が重なり、作品を書くことそのものが喪失への応答として描かれます。大江の後期小説群を締めくくるように、長い息の文体で過去と現在を往還します。 死と喪失記憶芸術と表現
  67. 067 2013 銀河鉄道の彼方に ぎんがてつどうのかなたに 高橋源一郎 単行本・集英社 『銀河鉄道の彼方に』は、宮沢賢治的な銀河鉄道のイメージを踏まえながら、言葉、信仰、死者との対話を重ねる高橋源一郎の長篇です。旅の形式は、現実から逃げる装置ではなく、現代の読者が死や救いを考えるための実験的な場になります。物語の引用性と語り直しが読みどころです。 死と喪失信仰言葉と言語
  68. 068 2013 往古来今 おうこらいこん 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 『往古来今』は、古代から現代までを貫く時間と生命の往還を描く磯﨑憲一郎の長篇です。個人の人生より大きな時間の流れのなかで、記憶や土地、身体が結び直されます。題名どおり、過去と現在を同じ地平で読む感覚が作品の核になります。 記憶死と喪失身体
  69. 069 2013 スナックちどり スナックちどり 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『スナックちどり』は、吉本ばななが小さな店や旅先の空気を通じて、喪失後の再生を描く小説として整理できます。スナックという場所は、家族でも職場でもないゆるい避難所として機能します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 死と喪失家族
  70. 070 2013 忘れられたワルツ わすれられたわるつ 絲山秋子 単行本・新潮社 『忘れられたワルツ』は、絲山秋子が記憶からこぼれ落ちる感情や、日常の不意のずれを描く短篇集です。ワルツのような反復と忘却の感覚が、人物の孤独や時間の歪みを浮かび上がらせます。抑えた語りのなかで、喪失とユーモアが同居する作品です。 記憶孤独と疎外死と喪失
  71. 071 2013 歪んだ忌日 ゆがんだきじつ 西村賢太 単行本・新潮社 『歪んだ忌日』は、西村賢太が忌日と記憶をめぐる感情のねじれを描く私小説的作品です。故人への思いは清らかな追悼ではなく、怒り、屈辱、生活の停滞を含んだものとして現れます。乾いた語りで、喪失と執着の歪みを読ませます。 死と喪失記憶孤独と疎外
  72. 072 2013 想像ラジオ そうぞうらじお いとうせいこう 初出・「文藝」掲載後、2013年3月河出書房新社より単行本刊行 海沿いの町で高い杉の木のてっぺんに引っかかっているDJアークが、想像の電波を使ってリスナーに語りかける小説。届くメールやリクエストを読み上げながら、どうしても聞きたいひとつの声へ向かっていく。震災後の死者と生者、声と想像力をめぐる、ラジオ番組形式の物語である。 災害死と喪失言葉と言語 第35回 野間新人賞
  73. 073 2012 田中慎弥の掌劇場 たなかしんやのてのひらげきじょう 田中慎弥 単行本・毎日新聞出版 『田中慎弥の掌劇場』は、新聞連載から生まれた短い小説を収める掌編集です。短い形式のなかで、孤独、記憶、死の気配が圧縮され、長編とは別の鋭さで田中慎弥の暗い感触が現れます。掌編という制約が、語りの省略と余白を強くしています。 孤独と疎外記憶死と喪失
  74. 074 2011 スウィート・ヒアアフター スウィート・ヒアアフター 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 『スウィート・ヒアアフター』は、事故で恋人を失った女性が、喪失の後の時間を生き直していく吉本ばななの小説です。既存データでは震災後の再生の感覚も示されており、個人の死別と社会全体の傷が重ねて読めます。やわらかな文体のなかで、痛切さと回復への気配が共存します。 死と喪失恋愛災害
  75. 075 2011 東京ロンダリング とうきょうろんだりんぐ 原田ひ香 単行本・集英社 『東京ロンダリング』は、事故物件に一定期間住むことで部屋の履歴を洗い流す女性を描く原田ひ香の小説です。住まいは安心の場所ではなく、死や過去の痕跡を引き受ける仕事の現場になります。東京の部屋をめぐって、孤独、労働、喪失が交差します。 死と喪失労働孤独と疎外
  76. 076 2011 癌だましい がんだましい 山内令南 初出・「文學界」2011年6月号 『癌だましい』は、食道癌の患者の視点から、病と生をブラックユーモアを交えて描く山内令南のデビュー作です。看護経験を持つ作者ならではの距離感が、病を過度に美化せず、生のしぶとさとして描き出します。病院や身体の現実を、痛切さとユーモアの両方で読む作品です。 身体死と喪失 第112回 文學界新人賞
  77. 077 2011 半島へ はんとうへ 稲葉真弓 初出・単行本刊行2011年・講談社。初出誌は未確認のため単行本年を year に採用 『半島へ』は、伊勢志摩の半島地帯を舞台に、衰えゆく自然と人間の静かな対話を描く散文詩的長編です。土地の風景と老い、移ろう自然の気配が、ゆるやかな時間の中で重なります。半島という外縁の場所から、生と死の境目を見つめる作品です。 老い死と喪失地方 第47回 谷崎賞
  78. 078 2011 異郷 いきょう 津村節子 初出・「文学界」2011年1月号掲載 『異郷』は、津村節子が夫・吉村昭の死後の喪失と生者の日常を静かに描いた短篇です。身近な死を経た後の生活を、過剰な感傷ではなく抑制された語りで見つめます。配偶者の不在を抱えて生きる時間を、静謐な読み味で描く作品です。 夫婦死と喪失老い 第37回 川端賞
  79. 079 2010 お別れの音 おわかれのおと 青山七恵 単行本・文藝春秋 『お別れの音』は、別れの瞬間やその前後に残る気配を、青山七恵らしい抑制された文体で描く作品です。音という題名は、はっきりした出来事よりも、生活のなかに残響する感情を思わせます。家族や恋愛の終わりを、静かな距離感で読む小説として整理できます。 恋愛家族死と喪失
  80. 080 2010 地上で最も巨大な死骸 ちじょうでもっともきょだいなしがい 飯塚朝美 単行本・新潮社 『地上で最も巨大な死骸』は、表題作と「クロスフェーダーの曖昧な光」を収めた飯塚朝美の単行本です。巨大な死骸というイメージは、死や身体の存在感を過剰なスケールで立ち上げます。現時点では詳細な内容資料が限られるため、死と身体をめぐる不穏な作品集として暫定的に整理します。 死と喪失身体芸術と表現
  81. 081 2010 埋葬 まいそう 横田創 単行本・早川書房 『埋葬』は、死者を葬る行為を通じて、記憶、喪失、残された者の時間を描く横田創の小説です。埋葬は終わらせる儀式であると同時に、過去を地中に置いたまま忘れられない行為でもあります。静かな不穏さのなかで、死と生活の境界を読む作品です。 死と喪失記憶家族
  82. 082 2010 もしもし下北沢 もしもししもきたざわ 吉本ばなな 単行本・毎日新聞社 『もしもし下北沢』は、父の死後に母と娘が下北沢へ移り住み、喪失から少しずつ生活を立て直す吉本ばななの長篇です。街の店や人との関わりが、母娘の傷を癒やす場として機能します。死別の痛みと都市の温かさが同時に描かれる、再生の物語です。 死と喪失母と子家族
  83. 083 2010 夜よりも大きい よるよりもおおきい 小野正嗣 単行本・リトルモア 『夜よりも大きい』は、小野正嗣が土地、記憶、喪失の感覚を静かに重ねる作品です。夜という時間よりも大きなものに包まれる感覚が、人物の孤独や死者の気配を呼び込みます。公開資料では内容細部を確認しきれていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶孤独と疎外死と喪失
  84. 084 2009 犬はいつも足元にいて いぬはいつもあしもとにいて 大森兄弟 初出・文藝 2009年冬号 中学生の主人公の日常に、犬が公園の茂みから探り当てた正体不明の「肉」が入り込んでくる。誰も名指せないその物体は、思春期の鬱屈や家族のぎこちなさと響き合いながら、生き物の生々しさと死の気配を物語の中心に居座らせる。登場人物はどこか不快なのに目を離せないという独特の距離感で語られ、生命の循環を思わせる視… 身体死と喪失家族 第46回 文藝賞
  85. 085 2009 君が降る日 きみがふるひ 島本理生 単行本・幻冬舎 『君が降る日』は、失われた相手への思いと、残された人の時間を描く島本理生の恋愛小説です。題名の「降る」は、記憶が突然日常へ戻ってくる感覚を思わせます。静かな語りの中で、喪失、恋愛、再生の気配が重なります。 恋愛死と喪失記憶
  86. 086 2009 何もかも憂鬱な夜に なにもかもゆううつなよるに 中村文則 単行本・集英社 『何もかも憂鬱な夜に』は、死刑囚と向き合う若い刑務官が、自らの孤独な子供時代と現在を重ねていく中村文則の長篇です。犯罪や死刑制度の問題は、単なる社会的題材ではなく、人が他者の罪をどう受け止めるかという倫理の問いになります。暗い語りの中に、救いの可能性がかすかに残ります。 暴力死と喪失孤独と疎外
  87. 087 2009 世界の果て せかいのはて 中村文則 単行本・文藝春秋 『世界の果て』は、中村文則が世界の終端に立たされたような人物の孤独や罪の感覚を描く作品です。題名は地理的な果てというより、他者との関係や倫理が行き詰まる場所を示しているように読めます。暗い心理描写と、逃げ場のない空気が特徴です。 孤独と疎外暴力死と喪失
  88. 088 2009 空に唄う そらにうたう 白岩玄 単行本・河出書房新社 『空に唄う』は、通夜に現れた死んだはずの女子大生と、新米の坊主が寺で同居を始めるという設定の作品です。死者がいる日常をユーモラスに扱いながら、生者が死や信仰とどう向き合うかを描きます。寺という場所が、現実と非現実、生と死のあわいを支えています。 死と喪失信仰恋愛
  89. 089 2009 霊降ろし れいおろし 田山朔美 単行本・文藝春秋 『霊降ろし』は、死者や見えないものの気配を通じて、生者の記憶と喪失を描く田山朔美の小説です。霊的な題材は怪異そのものよりも、残された人が過去とどう向き合うかという問題に結びつきます。静かな不穏さのなかで、家族や信仰に近い感覚をたどる作品として整理できます。 死と喪失記憶信仰
  90. 090 2008 射手座 いてざ 上村渉 初出・文學界 2008年12月号 日系ブラジル人の語り手が、妹ルシアに関わる謎めいた男・加賀芳明と向き合う。妹の万引きに関わった加賀は、やがて妹が遺棄した赤ん坊について語り出し、赤ん坊を運んで山道をひとりさまよう。語り手が加賀から聞いた話を伝聞のかたちで重ねていく重層的な構造により、何が真実かは最後まで曖昧なまま、登場人物の誰ひとり… 移民と越境孤独と疎外死と喪失 第107回 文學界新人賞
  91. 091 2008 彼女について かのじょについて 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『彼女について』は、ひとりの女性をめぐる記憶と語りから、失われたものや届かなかった感情をたどる作品です。よしもとばなならしい透明感のある文体で、死や喪失の気配をやわらかく包みます。誰かについて語ることが、自分自身を語り直すことにもなる小説です。 記憶恋愛死と喪失
  92. 092 2008 切れた鎖 きれたくさり 田中慎弥 単行本・新潮社 『切れた鎖』は、地方の閉ざされた土地に生きる血族を描く三篇を収めた作品集です。家族や土地の結びつきは守りではなく、逃れがたい暴力や因縁として迫ってきます。簡潔で硬い語りが、血縁の鎖が切れる瞬間の不穏さを際立たせます。 家族暴力死と喪失 第21回 三島賞
  93. 093 2007 あなたの呼吸が止まるまで あなたのこきゅうがとまるまで 島本理生 単行本・新潮社 『あなたの呼吸が止まるまで』は、息をすること、生き延びること、他者と関わることを強い身体感覚で描く島本理生の小説です。恋愛や依存の感情が、相手の呼吸を意識するほど近い距離で語られます。親密さの美しさだけでなく、そこに潜む苦しさを読む作品です。 恋愛身体死と喪失
  94. 094 2007 救済の彼岸 きゅうさいのひがん 朝倉祐弥 単行本・集英社 『救済の彼岸』は、救いを求める感覚と、その先にある孤独を題名から強く意識させる作品です。信仰や倫理をめぐる問いが、現代の生活のなかでどのように立ち上がるかを読む切り口があります。書誌以外の資料はまだ少ないため、今後は掲載誌や書評で主題を精査したい作品です。 信仰孤独と疎外死と喪失
  95. 095 2007 バイバイ ばいばい 望月あんね 単行本・光文社 『バイバイ』は、別れを告げる言葉の軽さと重さを、恋愛や生活の終わりの感覚に重ねる作品です。望月あんねの作品として、人物が関係を断ち切るときに残る記憶や孤独に焦点を置いて読めます。大きな事件よりも、去ることと残されることの温度差が読みどころになります。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  96. 096 2007 最後の命 さいごのいのち 中村文則 単行本・講談社 『最後の命』は、少年時代の傷と再会、罪の記憶をめぐって、人が最後に何を拠りどころに生きるのかを問う作品です。中村文則らしい暗い心理描写が、暴力や孤独を抽象化せず、身体に残る感覚として描きます。過去に囚われた人物が他者との関係を回復できるのかが、緊張を生みます。 暴力記憶死と喪失
  97. 097 2006 風化する女 ふうかするおんな 木村紅美 初出・文學界 2006年6月号 突然死んだ会社の先輩れい子には、職場で見せていたのとは別の顔があった。「私」はその謎をたどって東京から地方へと旅をし、死んだ女の生の痕跡に自分を重ねていく。日々がたえず「風化」していく都会の生活感覚を背景に、死者をなぞることでしか確かめられない自分の輪郭を、抑制された筆致で描いたデビュー作。 死と喪失孤独と疎外労働 第102回 文學界新人賞
  98. 098 2006 沖で待つ おきでまつ 絲山秋子 単行本・文藝春秋 『沖で待つ』は、同期入社の男女の友情と、死後に残された約束をめぐる作品です。恋愛に回収されない親密さを、職場の記憶と喪失の感覚を通して描きます。絲山秋子の簡潔で乾いた語りが、死者との距離を過度に sentimental にせず保つところが読みどころです。 労働死と喪失記憶 第134回 芥川賞
  99. 099 2005 100回泣くこと ひゃっかいなくこと 中村航 単行本・小学館 恋人を失った男性が、新たな出会いや日々の出来事を通して、悲しみから少しずつ立ち上がる純愛長篇。題名の強さに対して語り口は穏やかで、泣くことそのものよりも、喪失を抱えながら生活を続ける時間が描かれる。中村航の読者層を広げた、切なさと読みやすさを併せ持つ作品である。 恋愛死と喪失記憶
  100. 100 2005 悪意の手記 あくいのてき 中村文則 単行本・新潮社 悪意や罪の意識を抱えた人物の内面を、手記という形式に近い暗い語りで追う中村文則の初期作品。出来事の派手さよりも、語り手が自分の中の暴力や孤独をどう正当化し、どう崩れていくかが中心になる。後の中村作品に続く、犯罪、自己嫌悪、倫理の揺らぎが濃く表れた一作。 暴力孤独と疎外死と喪失
  101. 101 2005 みずうみ みずうみ 吉本ばなな 単行本・フォイル 母を亡くした女性と、過去に深い傷を抱えた青年の恋を描く長編。湖の静けさは、癒やしの場所であると同時に、人物が抱える記憶の暗さを映す場所にもなる。吉本ばななの柔らかな語りが、トラウマと恋愛を過剰に説明しすぎず、余韻として残す。 恋愛死と喪失記憶
  102. 102 2005 さりぎわの歩き方 さりぎわのあるきかた 中山智幸 初出・文學界 2005年12月号 29歳の「僕」は、青春の終わりを記念するかのように一泊の合コンに参加する。怪しげな新事業の話、旧友の転落と自殺——若さの賞味期限が切れかかった男たちの周りで起こる出来事を、「こういうのがお望みのドラマなんだろう?」と斜に構えた語りで突き放しながら、それでも去り際の身の処し方を探っていく。まっとうな成… 青春孤独と疎外死と喪失 第101回 文學界新人賞
  103. 103 2005 スモールトーク すもーるとーく 絲山秋子 単行本・二玄社 『スモールトーク』は、六台の車をめぐる連作として、移動、修復、喪失の感覚を描く作品です。車という具体物が、登場人物の距離感や回復の速度を測る装置になっています。絲山秋子らしい抑制された会話と乾いた文体が、傷ついた人々のささやかな再出発を浮かび上がらせます。 記憶死と喪失恋愛
  104. 104 2005 東京奇譚集 とうきょうきたんしゅう 村上春樹 単行本・新潮社 『東京奇譚集』は、「偶然の旅人」などを収め、都市の日常にふと入り込む不可思議な出来事を描く短編集です。村上春樹の抑制された語りが、偶然、喪失、記憶のずれを静かに増幅します。東京という現実的な地名を持ちながら、物語は現実の向こう側に開く寓話性を帯びています。 記憶死と喪失孤独と疎外
  105. 105 2005 土の中の子供 つちのなかのこども 中村文則 単行本・新潮社 『土の中の子供』は、幼少期の虐待の記憶を抱えた青年が、暴力と性のただなかで自分の生を測り直す作品です。語りは身体感覚に近く、外から説明するよりも、壊れた自己認識の内側から世界を見せます。暗い題材を扱いながら、傷の再演とそこからの微かな抵抗を描く点に緊張があります。 暴力身体孤独と疎外 第133回 芥川賞
  106. 106 2005 冷たい水の羊 つめたいみずのひつじ 田中慎弥 初出・新潮 2005年11月号 級友たちの生け贄のようにいじめの標的にされた中学生の少年。彼は「いじめられたと感じたらそれがいじめ」という定義を逆手に取り、「自分はいじめられていない」という独自の論理に立てこもって、陰惨な仕打ちを受け続ける。いじめを告発した同級生の少女・水原里子との心中の計画が、物語に暗い水脈のように流れる。羊の… 暴力同調圧力孤独と疎外 第37回 新潮新人賞
  107. 107 2004 介護入門 かいごにゅうもん モブ・ノリオ 初出・文學界 2004年6月号 寝たきりの祖母を在宅で介護する無職の「俺」が、深夜のおむつ替えや褥瘡のケアといった介護の現実を、ヒップホップのライムを思わせる呼びかけと畳みかける長文で語る。「ヨォ、と俺は呼びかける」という挑発的な語りは、介護を美談にも悲劇にも回収せず、祖母への愛と世間への呪詛を同じ熱量で吐き出していく。介護文学に… ケアと介護家族老い 第98回 文學界新人賞
  108. 108 2004 サージウスの死神 さーじうすのしにがみ 佐藤憲胤 初出・群像 2004年6月号 徹夜明けの帰り道、ビルから飛び降りてきた男と目が合い、その死を目撃した主人公は、同僚に誘われた地下カジノ「freeze」でルーレットにのめり込む。預金を失い借金を重ねるうち、「頭の中に数字を飼っている」という感覚が芽生え、精神の破滅と引き換えに当たりの数字が見えるようになっていく。賭博と死の観念を硬… 死と喪失孤独と疎外身体
  109. 109 2004 遮光 しゃこう 中村文則 単行本・新潮社 死んだ恋人の「残骸」を持ち歩き続ける青年が、嘘と妄想の境目を失っていく。喪失を受け止めるのではなく、異様な執着として保存しようとする心理が、硬く暗い文体で描かれる。中村文則の初期作品らしい、罪悪感、孤独、身体への嫌悪が凝縮された一作。 死と喪失恋愛記憶 第26回 野間新人賞
  110. 110 2004 生まれる森 うまれるもり 島本理生 単行本・講談社 恋愛や喪失のあとに残る空白を、森というイメージに重ねて描く島本理生の初期長篇。人物の内面は激しく揺れながらも、語り口は抑制され、痛みが静かな風景の中に置かれる。青春小説の瑞々しさと、取り返しのつかない記憶を抱える重さが同居している。 恋愛死と喪失記憶
  111. 111 2004 海の仙人 うみのせんにん 絲山秋子 単行本・新潮社 海辺で暮らす人物の孤独に、現実から少しずれた存在や関係が入り込んでくる絲山秋子の長篇。日常的な会話の軽さと、死や喪失の気配が同じ平面に置かれ、海辺の時間が寓話のように広がる。恋愛小説でも幻想小説でもあるが、どちらにも収まりきらない余白が読みどころになる。 孤独と疎外恋愛死と喪失
  112. 112 2003 デッドエンドの思い出 デッドエンドのおもいで 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 失恋や裏切りからの小さな回復を描く五篇の短篇集。傷ついた人物が、行き止まりに見える場所から少しずつ生活を取り戻す過程を、吉本ばなならしいやわらかい語りで描く。大きな救済ではなく、日常の中にある小さな光を読む作品集である。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  113. 113 2003 ハゴロモ ハゴロモ 吉本ばなな 単行本・新潮社 恋愛や喪失で傷ついた人物が、都会から少し距離を置いた土地で静かに時間を取り戻していく吉本ばななの長篇。水辺や町の気配、記憶の手触りを重ねながら、壊れた心がすぐに治るのではなく、生活のリズムの中でゆっくりほどけていく過程を描く。幻想味を帯びたやわらかな文体が、再生の物語を日常の側に引き寄せている。 恋愛死と喪失記憶
  114. 114 2003 ハンゴンタン はんごんたん 由真直人 初出・文學界 2003年12月号 タイトルの「ハンゴンタン(反魂丹)」は、死者の魂を呼び戻すという伝承を持つ富山の伝統的な丸薬の名。哲学科出身の27歳の新人が、第95回・第96回と受賞作が1作以下の状態が続いた文學界新人賞の2003年下期に単独受賞した。選考委員は浅田彰・奥泉光・島田雅彦・辻原登・山田詠美。単行本化されておらず、内容… 死と喪失記憶一人称 第97回 文學界新人賞
  115. 115 2003 火薬と愛の星 かやくとあいのほし 森健 初出・群像 2003年6月号 女たらしの「おれ」は、さまざまな女性たちを渡り歩きながら何度も生を重ね、やがて一人の恋人に出会って初めて「ここで死のう」と思う——絵本『100万回生きたねこ』を下敷きに、軽薄な恋愛遍歴の語りの底へ、愛と死の寓話を沈めた一作。決定的なはずの「最後の恋人との出会い」をあえて正面から語らず、別のかたちで小… 恋愛死と喪失孤独と疎外 第46回 群像新人賞
  116. 116 2002 飴玉が三つ あめだまがみっつ 蒔岡雪子 初出・文學界 2002年6月号 アルコール依存症者の自助グループ「断酒会」に母と通う既婚の娘が、死を前に断酒を誓った医師の父との歳月を振り返る。父から受けた一度きりの暴力すら幸福の記憶として抱え込み、会で告白する他の依存症者を見下す主人公は、自身もまた高校時代から酒に頼ってきた。父への愛と自己への愛が分かちがたく絡まり、その呪縛か… 父と子家族 第94回 文學界新人賞
  117. 117 2002 アルゼンチンババア アルゼンチンババア 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 母の死後、「アルゼンチンババア」と呼ばれる女性と暮らし始めた父をめぐる物語。奇妙な人物や場所への戸惑いを通して、家族の喪失を別の関係へ開いていく。吉本ばなならしい、死後の時間をやわらかく生き直す物語。 家族死と喪失孤独と疎外
  118. 118 2002 ハミザベス はみざべす 栗田有起 初出・すばる 2002年11月号 二十歳の誕生日を前に、死んだと思っていた父が本当に死んだ。まちるが遺産として受け取ったのは、高層マンションの一室とハムスターの「ハミザベス」。母と暮らした家を出て、地上33階で始まる一人と一匹の生活に、元恋人の幼なじみや父の同居人だった女性が出入りし、奇妙な距離感の友情が育っていく。喪失から始まる物… 父と子死と喪失家族 第26回 すばる文学賞
  119. 119 2002 じゅう 中村文則 初出・新潮 2002年11月号 雨の夜、大学生の「私」は河原で死体のそばに落ちていた拳銃を拾う。磨き、眺め、持ち歩くうちに、銃は退屈な日常に輪郭を与える唯一の存在となり、「撃つ」ことへの欲望が抗いがたく膨らんでいく——。一挺の銃という即物的なモチーフだけで青年の内面の崩壊を追い詰めていく構成と、乾いた硬質な一人称は、ドストエフスキ… 暴力孤独と疎外死と喪失 第34回 新潮新人賞
  120. 120 2002 にぎやかな湾に背負われた船 にぎやかなわんにせおわれたふね 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 九州の海辺の集落「浦」を舞台に、土地の人々の記憶と語りを紡ぐ長編。個人の物語が、海辺の共同体、死者、土地の歴史と重なり合う。小野正嗣らしい、声の重なりと土地の記憶を読む作品。 記憶死と喪失移民と越境 第15回 三島賞
  121. 121 2002 憂い顔の童子 うれいがおのどうじ 大江健三郎 単行本・講談社 大江健三郎の「おかしな二人組」三部作に連なる後期長編。作家・古義人を中心に、家族史、過去の暴力、共同体の記憶が重なり合う。晩年の大江が、自身の文学的記憶と死者との対話を小説化していく流れの中で読む作品である。 記憶家族死と喪失
  122. 122 2001 クチュクチュバーン くちゅくちゅばーん 吉村萬壱 初出・文學界 2001年6月号 ある時から人間たちが異形のものへと変容しはじめ、世界そのものが崩壊へ向かう過程を、複数の人物のエピソードを束ねて描く黙示録的な中篇。グロテスクで生々しい身体描写を畳みかけながら、悲惨さの中に奇妙な可笑しさと祝祭性が同居するのが特徴で、「世界の破壊か、新しい人類の始まりか」という終末イメージを正面から… 身体暴力死と喪失 第92回 文學界新人賞
  123. 123 2001 水に埋もれる墓 みずにうもれるはか 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 小野正嗣のデビュー作で、既存データでは朝日新人文学賞受賞作とされる。水や墓のイメージが示すように、土地、記憶、死者との関係をめぐる作品として位置づけられる。後の小野作品に続く、共同体の記憶と語りへの関心の出発点として読みたい。 記憶死と喪失孤独と疎外
  124. 124 2000 ひな菊の人生 ひなぎくのじんせい 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 吉本ばななが2000年に刊行した作品で、ロッキング・オン版と後年の幻冬舎版の書誌が確認できる。公開情報は限定的だが、タイトルの柔らかさとは裏腹に、人生の記憶や痛みをすくい上げる吉本作品の系譜に置ける。現段階では内容細部の確認を次回課題として残す。 記憶死と喪失孤独と疎外
  125. 125 2000 神の子どもたちはみな踊る かみのこどもたちはみなおどる 村上春樹 単行本・新潮社 阪神・淡路大震災後の空気を背景にした六篇の連作短編集。大きな災害を直接描き尽くすのではなく、喪失や不安を抱えた人々の生活に、寓話や偶然の形で揺れを響かせる。「かえるくん、東京を救う」など、現実と幻想の境目を軽やかに越える短篇が含まれる。 災害死と喪失孤独と疎外
  126. 126 2000 取り替え子(チェンジリング) とりかえこ 大江健三郎 単行本・講談社 義兄・吾良の自死をきっかけに、作家・古義人が過去の謎をたどる長編。録音された声や記憶を通して死者と対話し、家族史、映画、芸術、自己の来歴が絡み合う。大江後期の「おかしな二人組」三部作へつながる、喪失と再生の作品。 死と喪失家族記憶
  127. 127 1999 ハードボイルド/ハードラック ハードボイルド/ハードラック 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 「ハードボイルド」と「ハードラック」2篇からなる短編集。前者は別れた同性の恋人を思いながらの不思議なひとり旅、後者は植物人間となった姉の看病を通して芽生える愛を描く。死と喪失を核に据えながら癒しと前進を模索する。 死と喪失恋愛
  128. 128 1999 透光の樹 とうこうのき 高樹のぶ子 初出・単行本1999年1月文藝春秋刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 加賀平野・鶴来を舞台に、テレビ業界の中年男性と老父の看護に戻った女性が25年の時を経て再会し、深まる愛を描く恋愛長篇。後に映画化された。単行本刊行年を year に採用。 恋愛老い死と喪失 第35回 谷崎賞
  129. 129 1998 日蝕 にっしょく 平野啓一郎 初出・「新潮」1998年8月号 15世紀フランスを舞台に、若い修道士が異端の哲学者を追い求め日蝕の瞬間に神秘的な体験をする中編。三島由紀夫を彷彿させる文語的な格調高い文体で書かれ、デビュー作にして40万部のベストセラーとなった。23歳の最年少(当時)受賞作。 信仰死と喪失長い息の文体 第120回 芥川賞
  130. 130 1997 ハネムーン ハネムーン 吉本ばなな 単行本・中央公論社 18歳で結婚した主人公まなかと幼なじみの裕志が、祖父の死をきっかけに夫の抱える過去(宗教に絡む父の死)と向き合い、喪失の痛みを支え合いながら成長していく長編。ブリスベンへのハネムーンが旅として心の整理を果たす。 夫婦死と喪失一人称
  131. 131 1997 水滴 すいてき 目取真俊 初出・「文學界」1997年4月号 ある日突然足がはれて指先から水が流れ出した沖縄の老人を主人公に、沖縄戦の死者たちの記憶が現実に浸食してくる幻想譚。ユーモアとペーソスが共存する目取真俊の代表作。 戦争死と喪失寓話・幻想 第117回 芥川賞
  132. 132 1996 レキシントンの幽霊 れきしんとんのゆうれい 村上春樹 単行本・文藝春秋 「レキシントンの幽霊」「めくらやなぎと眠る女」など7篇を収録した短編集。 孤独と疎外記憶死と喪失
  133. 133 1996 おとうと 石原慎太郎 単行本・幻冬舎 弟・石原裕次郎の生涯を兄の視点から描いた伝記的長編小説。 家族死と喪失芸術と表現
  134. 134 1996 SLY スライ 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 HIVに感染した元彼・喬を励ますため、語り手の女性と元彼氏の日出雄が彼を連れてエジプトへ旅立つ。複雑な三角関係と死の影の中で展開する恋愛小説。 恋愛死と喪失海外
  135. 135 1995 ジェロニモの十字架 じぇろにものじゅうじか 青来有一 初出・「文學界」1995年6月号(第80回受賞) 長崎を舞台に、カトリックの信仰と歴史的暴力の記憶が交差する世界を描いたデビュー作。 信仰死と喪失家族 第80回 文學界新人賞
  136. 136 1995 夏至祭 なつしさい 佐藤洋二郎 初出・講談社1995年刊 九州の小さな漁港を舞台に、土地の祭りや共同体の記憶と個人の喪失を交錯させた抒情的な長編。佐藤洋二郎の代表作のひとつ。第17回野間文芸新人賞受賞(水村美苗と同時)。 死と喪失記憶島・海辺 第17回 野間新人賞
  137. 137 1994 ハチ公の最後の恋人 ハチこうのさいごのこいびと 吉本ばなな 単行本・中央公論社 祖母の予言通りに出会った青年ハチの「最後の恋人」となった私の恋を描く長編。 恋愛死と喪失一人称
  138. 138 1994 虹の岬 にじのみさき 辻井喬 初出・単行本1994年1月中央公論社刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 大企業の要職を辞した男とその恋人である京都大学教授夫人との25年越しの情愛を描く恋愛長篇。加賀平野の鶴来を主な舞台とし、人生の決断と喪失を静謐な文体で綴る。単行本刊行年を year に採用。 恋愛死と喪失長い息の文体 第30回 谷崎賞
  139. 139 1993 骸骨山脈 がいこつさんみゃく 野間井淳 初出・「新潮」1993年11月号 『骸骨山脈』は、野間井淳が第25回新潮新人賞を受賞した作品です。NDLでは『新潮』1993年11月号と受賞作発表記事を確認できますが、具体的な筋や書評は今回確認できませんでした。題名の死や山岳のイメージを手がかりにした分類は暫定です。 死と喪失身体簡潔な文体 第25回 新潮新人賞
  140. 140 1993 ノヴァーリスの引用 のゔぁーりすのいんよう 奥泉光 初出・新潮社1993年刊 恩師の葬儀で集まった旧大学仲間4人が、22年前に亡くなった研究仲間の死の謎を巡って推理を重ねるメタミステリー。文学・哲学的引用を多用した知的な構成が特徴。第15回野間文芸新人賞受賞(保坂和志と同時)。 記憶死と喪失メタフィクション 第15回 野間新人賞
  141. 141 1993 マシアス・ギリの失脚 ましあす・ぎりのしっきゃく 池澤夏樹 初出・書き下ろし。1993年6月新潮社刊(純文学書下ろし特別作品)。 赤道近くの架空の島国ナビダード諸島を舞台に、絶大な権力を集める大統領マシアス・ギリをめぐる政治的陰謀と、日本からの慰霊団行方不明事件を重ね合わせて描く長篇。 戦争死と喪失三人称・多視点 第29回 谷崎賞
  142. 142 1993 セミの追憶 せみのついおく 古山高麗雄 初出・「新潮」1993年5月号初出。 戦時中の記憶とセミの声を結びつけた老境の短篇。従軍体験を持つ古山高麗雄が、生き残った者の罪責感と記憶の透明な残像を繊細に描く。 戦争記憶死と喪失 第21回 川端賞
  143. 143 1992 鹽壺の匙 しおつぼのさじ 車谷長吉 初出・「新潮」に収録各短編を発表(表題作は「新潮」1992年掲載)、新潮社1992年刊 『鹽壺の匙』は、「なんまんだあ絵」「白桃」「愚か者」などを収める車谷長吉の短篇集です。料理人や下足番としての経験、一族の記憶、身近な死を、私小説的で陰影の濃い文体で描きます。生活の卑近さと死の感覚が近接する、車谷文学の出発点となる作品集です。 家族死と喪失私小説的 第6回 三島賞
  144. 144 1992 花に問え はなにとえ 瀬戸内寂聴 初出・単行本1992年中央公論社刊。連載誌の特定ができないため単行本刊行年を year とした。 『花に問え』は、念仏聖・一遍の生涯を追いながら、彼に出会った一人の女性の視点から信仰と無常を描く宗教小説です。歴史上の宗教者を題材にしつつ、信仰へ向かう心の揺れを抒情的にたどります。瀬戸内寂聴の宗教的主題と物語性が結びついた作品です。 信仰死と喪失日本史 第28回 谷崎賞
  145. 145 1991 やすらかに今はねむり給え やすらかにいまはねむりたまえ 林京子 初出・各短篇は1980年代後半に複数誌に発表。単行本1991年講談社刊。初出連載年の特定が困難なため単行本刊行年を year とした。 『やすらかに今はねむり給え』は、長崎、上海、アメリカを背景に、被爆者としての記憶と海外体験を重ねる短篇集です。戦争の傷を大きな声で告発するだけでなく、戦後を生き続ける人物の静かな時間に沈めて描きます。林京子の原爆文学の系譜にあり、移動と記憶が響き合う一冊です。 戦争記憶死と喪失 第26回 谷崎賞
  146. 146 1991 伯父の墓地 おじのぼち 安岡章太郎 初出・「新潮」1991年掲載。 『伯父の墓地』は、亡くなった伯父の墓参を題材に、生と死、記憶の連鎖を老境から見つめる短篇です。大きな事件を置かず、親族の記憶と墓地という場所から、時間の堆積を静かに浮かび上がらせます。安岡章太郎晩年の私小説的な成熟が感じられる作品です。 死と喪失記憶老い 第18回 川端賞
  147. 147 1991 お供え おそなえ 吉田知子 初出・「海燕」1991年7月号初出。単行本1993年4月福武書店刊。 『お供え』は、盆棚の供え物をめぐって、生者と死者の境界が奇妙に揺らぐ幻想的な短篇です。家庭内の儀礼を起点に、死者への記憶、ユーモア、薄気味悪さが同居します。吉田知子らしい、日常のリアリズムを少しずつ異界へずらしていく語りが読みどころです。 死と喪失寓話・幻想 第19回 川端賞
  148. 148 1990 N・P エヌ・ピー 吉本ばなな 単行本・角川書店 『N・P』は、未完の遺作小説をめぐって、翻訳者の死の影に引き寄せられる若者たちを描く長篇です。小説内のテキストと現実の人間関係が絡み合い、恋愛、近親性、喪失の感覚が静かに濃くなっていきます。吉本ばなならしい平明な一人称の語りで、危うい関係の重さを軽やかな文体に沈めています。 死と喪失恋愛言葉と言語
  149. 149 1989 人生の親戚 じんせいのしんせき 大江健三郎 単行本・新潮社 二人の息子を失った女性まり恵の苦難と魂の遍歴を描く大江健三郎の長編。喪失を抱えた人物が、宗教的・共同体的な問いに触れながら生を組み替えていく。大江後期の、家族の痛みと救済への希求が結びつく作品として読める。 死と喪失家族信仰
  150. 150 1989 白河夜船 しらかわよふね 吉本ばなな 単行本・福武書店 眠りに沈んでいく女性たちを描く三篇を収めた作品集。恋愛、喪失、孤独が、眠りという身体の状態を通じて静かに語られる。吉本ばなな初期の透明な語りと、生死の境目に触れる感覚がよく表れた一冊。 恋愛死と喪失身体
  151. 151 1989 TUGUMI つぐみ 吉本ばなな 単行本・中央公論社 海辺の町を舞台に、語り手まりあと、病弱で美しいが激しい気性を持つ少女つぐみの最後の夏を描く長編。家族経営の宿、海辺の時間、恋の予感、病と別れの気配が重なり、青春のまぶしさと残酷さが同時に立ち上がる。吉本ばなならしい平明な一人称で、親密な関係が永遠には続かないことを痛切に描く。 青春家族身体
  152. 152 1988 ダンス・ダンス・ダンス だんす・だんす・だんす 村上春樹 単行本・講談社 『羊をめぐる冒険』の後日談として、「僕」が札幌のイルカホテルを再訪し、失われた女性や過去の気配を追っていく長編。現実のホテル、芸能界、ハワイ、羊男のいる異界がつながり、踊り続けることだけが世界との接続の方法として示される。1980年代の都市的な消費社会を背景に、喪失、記憶、孤独を冒険小説のリズムでた… 記憶死と喪失孤独と疎外
  153. 153 1988 哀しい予感 かなしいよかん 吉本ばなな 単行本・角川書店 記憶の空白を抱えた少女が、風変わりな親族の家で自分の過去へ近づいていく長編。家族の秘密、喪失、直感のような感覚が、吉本ばなな初期作らしい静かな語りで結びつく。大きな事件よりも、眠りや気配に近い感情の変化を読む作品。 記憶家族死と喪失
  154. 154 1988 うたかた/サンクチュアリ うたかた/サンクチュアリ 吉本ばなな 単行本・福武書店 吉本ばななの初期作品集で、「うたかた」と「サンクチュアリ」を併録する。喪失や恋愛、居場所をめぐる不安を、柔らかく透明な語り口で描く。日常の小さな違和感から、生死のあわいや心の避難場所へ入っていく初期吉本作品らしさがある。 恋愛死と喪失孤独と疎外
  155. 155 1988 尋ね人の時間 たずねびとのじかん 新井満 初出・「文學界」1988年6月号(第42巻第6号) 『尋ね人の時間』は、別れた妻子や死別した妹、好意を寄せる女性との距離を抱えたカメラマンの意識を追う作品です。都会で自分を見失った人物の感覚が、詩的で短い文の連なりとして表現されます。喪失を過剰に劇化せず、削ぎ落とした言葉で浮遊感を残す点が特徴です。 孤独と疎外死と喪失恋愛 第99回 芥川賞
  156. 156 1988 ダイヤモンドダスト だいやもんどだすと 南木佳士 初出・「文學界」1988年9月号(第42巻第9号) 『ダイヤモンドダスト』は、信州の病院に勤務する医師が末期患者の死と向き合う日々を描く短篇です。医療現場の現実を過度に説明せず、死のそばにある静けさや、凍った水蒸気が光る表題のイメージを重ねていきます。病と死を扱いながら、情緒に流されない抑制された文体が印象に残ります。 死と喪失病院 第100回 芥川賞
  157. 157 1987 キッチン キッチン 吉本ばなな 初出・海燕 1987年11月号 唯一の肉親だった祖母を亡くし、天涯孤独となった大学生の桜井みかげ。眠れるのは冷蔵庫のそばだけ――そんな彼女に、祖母と親しかった青年・田辺雄一が同居を申し出る。雄一の家には、女性として生きる「母」えり子さん(実は父親)がいて、奇妙であたたかい三人の暮らしが始まる。台所と食べることを心の拠り所に、喪失の… 死と喪失家族
  158. 158 1987 ノルウェイの森 のるうぇいのもり 村上春樹 単行本・講談社 1960年代末の学生運動期を背景に、ワタナベと直子、緑の関係を通じて、喪失、恋愛、死者への記憶を描く長編。村上作品としては幻想性を抑えたリアリズム寄りの語りで、音楽、読書、寮生活、療養所の細部が青春の傷を浮かび上がらせる。読みやすい恋愛小説の形を取りながら、親しい死をどう抱えて生きるかという痛切な問… 恋愛死と喪失青春
  159. 159 1987 カワセミ かわせみ 図子英雄 初出・「新潮」1987年11月号(新潮社) 戦時下の四国を舞台に、飛ぶ宝石とも呼ばれるカワセミの生命に魅せられた少年の日々を描く表題作を含む短篇集。紀伊國屋の内容説明では、無頼の道を歩む幼なじみの苛烈な生を写す「牙」なども収録される。自然へのまなざし、少年の感受性、戦時下の地方の時間が静かに重なっていく。 戦争青春死と喪失 第19回 新潮新人賞
  160. 160 1985 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド せかいのおわりとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹 初出・書き下ろし 二つの物語が交互に進む40章構成の長編。〔ハードボイルド・ワンダーランド〕では、老科学者によって意識の核に特殊な思考回路を組み込まれた計算士の「私」が、地下の闇に潜む「やみくろ」や組織の抗争に巻き込まれながら、回路に隠された秘密を追う。〔世界の終り〕では、高い壁に囲まれた静かな街で、「僕」が一角獣の… アイデンティティ記憶テクノロジー 第21回 谷崎賞
  161. 161 1985 ゼロはん ぜろはん 李起昇 初出・「群像」1985年 第28回群像新人文学賞当選作。李起昇のデビュー作。詳細は未確認。 アイデンティティ移民と越境死と喪失
  162. 162 1984 螢・納屋を焼く・その他の短編 ほたる・なやをやく・そのたのたんぺん 村上春樹 単行本・新潮社 「螢」「納屋を焼く」などを収めた初期短編集。新潮社の紹介では「螢」が『ノルウェイの森』の原点とされ、学生時代の喪失と届かない温もりが抑制された一人称で描かれる。「納屋を焼く」は日常会話の奥に説明されない空白を置き、静かな恋愛小説と不穏な幻想が同じ冊子のなかで並ぶ構成になっている。 死と喪失記憶恋愛
  163. 163 1984 青桐 あおぎり 木崎さと子 初出・「文學界」1984年11月号(第38巻第11号) 『青桐』は、乳癌に冒されながら医療を拒む叔母を、姪・充江の視点から見つめる作品です。看取りの時間に、北陸の旧家、幼時の火傷、叔母との愛憎が重なり、家族の記憶と身体の傷がゆっくり露出していきます。死をめぐる静けさの奥に、親密さの暴力性を感じさせる点が読みどころです。 死と喪失家族 第92回 芥川賞
  164. 164 1983 新しい人よ眼ざめよ あたらしいひとよめざめよ 大江健三郎 単行本・講談社 障害を持つ息子イーヨーとの日常を、ウィリアム・ブレイクの詩を媒介に見つめ直す連作小説。語り手は息子の成長、死や性への問い、家族のなかの不安を受け止めながら、文学の言葉が現実のケアとどのように結びつくかを探る。私小説的な素材を思想的な読解と重ねることで、父と子の関係を閉じた家族の物語にせず、他者と共に… 家族身体芸術と表現
  165. 165 1983 杢二の世界 もくじのせかい 笠原淳 初出・「海燕」1983年11月号(第2巻第11号)。「海燕」掲載作としては初の芥川賞受賞作として知られる 『杢二の世界』は、仕事場のビル屋上から墜落死した弟・杢二の記憶を、兄の視点からたどる短篇です。社会の速度や規範からずれた弟の感性を通して、家族の距離、都市で生きることの危うさ、死者の残す違和感を浮かび上がらせます。悲劇を説明しすぎず、残された者の語りに不穏な余白を残す作品です。 家族孤独と疎外死と喪失 第90回 芥川賞
  166. 166 1983 犬のように死にましょう いぬのようにしにましょう 高橋一起 初出・「文學界」1983年4月号 『犬のように死にましょう』は、コピーライター出身の高橋一起のデビュー作にあたる文學界新人賞受賞作です。題名からも死や自己否定のイメージが強く、既存情報では受賞・初出確認が中心です。詳細な筋は未確認のため、作品紹介はデビュー作としての位置づけと題名が喚起する不穏さに留めています。 死と喪失孤独と疎外一人称 第56回 文學界新人賞
  167. 167 1982 羊をめぐる冒険 ひつじをめぐるぼうけん 村上春樹 単行本・講談社 広告代理店で働く「僕」は、耳に星形の斑紋を持つ謎の羊を探すよう依頼され、ガールフレンドとともに北海道へ向かう。右派の大物、秘書、羊男、そして姿を消した鼠の痕跡が重なり、探偵小説めいた筋立ては次第に幻想と喪失の物語へ変質していく。初期の軽やかな一人称の語りを保ちながら、政治的な力、戦後の記憶、個人の空… 記憶孤独と疎外アイデンティティ 第4回 野間新人賞
  168. 168 1982 「雨の木」を聴く女たち 「レイン・ツリー」をきくおんなたち 大江健三郎 単行本・新潮社 「雨の木」という象徴的なイメージを核に、死者の記憶、喪失、救いの可能性をめぐる連作短篇集。マルカム・ラウリーなど西洋文学への参照と、樹木・音・女性たちの声が重なり、現実の痛みを神話的な想像力へ押し広げていく。大江健三郎の1980年代の作品群のなかでも、個人的な死生観と文学的引用が静かに響き合う作品と… 死と喪失記憶芸術と表現
  169. 169 1982 佐川君からの手紙 さがわくんからのてがみ 唐十郎 初出・「文藝」1982年秋季号。複数の情報源から「文藝」1982年掲載と確認。単行本は1983年河出書房新社刊 『佐川君からの手紙』は、1981年のパリ人肉事件を下敷きに、犯人から届く手紙と映画化をめぐる交渉を通して事件へ接近していく作品です。唐十郎らしいアングラ演劇的な誇張と越境感が、小説の形で犯罪、欲望、表現の倫理を揺さぶります。実在事件を扱うため、読後には不穏さと表現上の危うさが強く残ります。 暴力死と喪失実験的文体 第88回 芥川賞
  170. 170 1982 浮上 ふじょう 田野武裕 初出・「文學界」1982年 『浮上』は、医師・田野武裕のデビュー作にあたる第55回文學界新人賞受賞作です。既存梗概では、病や死を背景にした青春の痛みを扱う作品として整理されています。文學界新人賞から芥川賞候補へ進んだ作品で、1980年代前半の新人賞と芥川賞の接続を示す一作です。 青春死と喪失 第55回 文學界新人賞
  171. 171 1981 小さな貴婦人 ちいさなきふじん 吉行理恵 初出・「新潮」1981年2月号(第78巻第2号) 『小さな貴婦人』は、死んだ猫〈雲〉への愛惜を抱える女性と老いた女流詩人Gの対話を中心に、喪失と幻想の境界を静かに描く作品です。猫という身近な存在を媒介に、孤独、死者への執着、言葉では届ききらない感情が詩的に立ち上がります。現実の事件よりも、声や気配が醸す幻想性を読む作品です。 死と喪失孤独と疎外静謐 第85回 芥川賞
  172. 172 1981 破水 はすい 南木佳士 初出・「文學界」1981年 『破水』は、医師・南木佳士のデビュー作にあたる第53回文學界新人賞受賞作です。病院や身体に近い場所から、生と死の境界を見つめる作者の関心が初期から現れています。後の芥川賞受賞作『ダイヤモンドダスト』へつながる、医療と死をめぐる文学の起点として読めます。 死と喪失病院 第53回 文學界新人賞
  173. 173 1980 1973年のピンボール せんきゅうひゃくななじゅうさんねんのぴんぼーる 村上春樹 単行本・講談社 『風の歌を聴け』に続く「鼠三部作」第二作で、翻訳事務所を営む「僕」の生活と、故郷に残る鼠の停滞が並行して語られる。「僕」はかつて通ったバーにあったピンボール台を探し、双子の女性との奇妙な同居や電話配電盤の葬送を経て、失われた時間の手触りに近づいていく。軽い会話と乾いたユーモアの背後に、青春の終わり… 記憶孤独と疎外青春
  174. 174 1969 われらの狂気を生き延びる道を教えよ われらのきょうきをいきのびるみちをおしえよ 大江健三郎 単行本・新潮社 父と障害のある息子、狂気や暴力にさらされた若者たちをめぐる中短篇を束ねた作品集。表題作では家族の内部にある痛みと外部世界の不穏が結びつき、個人的な危機が時代の狂気をどう生き延びるかという問いへ広がる。大江が1960年代に深めた身体・父性・責任の主題を、寓話性と切迫した心理描写で展開する。 家族身体孤独と疎外
  175. 175 1964 個人的な体験 こじんてきなたいけん 大江健三郎 単行本・新潮社 脳に重い障害をもつ子の誕生に直面した青年バードが、父になることへの恐怖と逃避願望に追い詰められていく長編。酒、性、アフリカへの空想に逃げ込むバードの混乱を追いながら、私的な出来事が責任、倫理、家族の問題へ変わっていく過程を描く。滑稽さと残酷さが同居する語り口で、父性を美談にせず、引き受けることの困難… 家族身体死と喪失
  176. 176 1958 飼育 しいく 大江健三郎 初出・文學界 1958年1月号 戦争末期、外界から隔てられた山間の寒村に米軍機が墜落し、生き残った黒人兵が捕虜として捕らえられる。県の指示が出るまで村で「飼う」ことになった黒人兵に食事を運ぶ役を担った少年「僕」は、言葉の通じない相手とのあいだに、獣を飼い馴らすような、しかし確かな親密さを育てていく。子どもたちの祝祭めいた共生の日々… 戦争暴力青春 第39回 芥川賞
  177. 177 1958 死者の奢り ししゃのおごり 大江健三郎 単行本・文藝春秋新社 大学の死体処理室でアルバイトをする若者たちを描く、初期大江の代表的な短篇。死者は畏怖の対象であると同時に、運搬され、数えられ、処理される物質として現れ、生と死の境界が事務的な労働の場に引き寄せられる。若い語り手の冷えた感覚と不安を通して、戦後の身体感覚、死への距離、社会の片隅に置かれた労働の異様さが… 死と喪失身体労働
  178. 178 1957 硫黄島 いおうじま 菊村到 初出・「文學界」1957年6月号 『硫黄島』は、太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島を題材にした戦争小説です。戦闘の記憶を扱いながら、兵士個人の生と死が国家や軍事の物語に回収されていく重さを描きます。公開出典から確認できる内容紹介は限られるため、ここでは受賞・書誌情報を中心に整理しています。 戦争死と喪失暴力 第37回 芥川賞
  179. 179 1955 白い人 しろいひと 遠藤周作 初出・「近代文學」1955年5〜6月号(第33回芥川賞受賞) 『白い人』は、ナチ占領下のフランスを舞台に、拷問と背徳を通して悪の問題を問う遠藤周作の中篇です。信仰の有無を単純に裁くのではなく、人間が悪へ傾く瞬間を内面から探ります。カトリック作家としての遠藤の問題意識が、以後の『沈黙』などへつながる出発点として読めます。 信仰暴力戦争 第33回 芥川賞
  180. 180 1949 山の音 やまのおと 川端康成 初出・1949〜1954年にかけて複数誌(「群像」「新潮」「別冊文藝春秋」など)に連載。単行本は1954年4月、筑摩書房刊。 『山の音』は、鎌倉に暮らす老齢の会社重役・信吾を中心に、家族の崩れと老いの気配を見つめる連作長篇です。嫁の菊子への静かな愛着、息子夫婦の不和、死の予感が、抑制された三人称の語りで重なっていきます。戦後の家庭小説でありながら、川端康成らしい感覚的な細部が、老いと記憶の陰影を際立たせます。 家族老い記憶