Themes

芸術と表現

主題「芸術と表現」に分類された 196 作品。

  1. 001 2026 彼女のカロート かのじょのかろーと 荻世いをら 初出・すばる 2010年7月号/文學界 2013年12月号 『彼女のカロート』は、表題作「彼女のカロート」と「宦官への授業」の二篇を収める作品集。表題作では、耳が聞こえなくなった女性アナウンサーから「自分のための新しい墓」を依頼された主人公の日常が、彼女とのずれた応答によって静かに侵食されていく。もう一篇では、読むことに困難を抱えながら文学に殉じる青年がシュ… 身体死と喪失芸術と表現
  2. 002 2025 去年、本能寺で きょねんほんのうじで 円城塔 単行本・新潮社 『去年、本能寺で』は、日本史上の人物や出来事を素材にしながら、AI、ミステリ、宇宙的想像力、異世界転生までを混ぜ込む全11篇の短篇集です。新潮社公式は、軍事AIや文事AIが働く戦乱世界を掲げ、歴史とSFが交差する作品集として紹介している。史実の圧縮と改変を遊びながら、歴史を固定された過去ではなく、言… 戦争テクノロジー芸術と表現
  3. 003 2025 移動そのもの いどうそのもの 井戸川射子 単行本・筑摩書房 『移動そのもの』は、表題作を含む九篇を収めた短篇集。筑摩書房公式は、一文ごと一語ごとに世界が生まれ変化していく作品集として紹介し、言葉そのものが物語を跳躍させる読書体験を前面に出している。市場、家、旅、老いなどの場面が小さな宇宙のように開かれ、筋を追うだけでなく、言葉に導かれて世界の相貌が変わる感覚… 言葉と言語芸術と表現老い
  4. 004 2025 女の子の背骨 おんなのこのせぼね 市川沙央 単行本・文藝春秋 『女の子の背骨』は、先天性筋疾患を抱える10歳の少女ガゼルの家族旅行を描く表題作と、中篇「オフィーリア23号」を収めた第二小説集です。病気の姉、障害をもつ身体、家族、性、文学表象をめぐる言葉が、前作『ハンチバック』以後の市川沙央の問題意識をさらに広げる。身体から発せられる語りが、ケアされる側、見る側… 障害身体家族
  5. 005 2025 百日と無限の夜 ひゃくにちとむげんのよる 谷崎由依 単行本・集英社 『百日と無限の夜』は、第一子の妊娠中に切迫早産で入院した「わたし」が、横たわる時間のなかで出産と生命をめぐる幻視の旅へ入っていく長篇です。能『隅田川』の女物狂いを案内人に、中世の京、駆け込み寺、若狭のお水送り、海辺の産小屋へと時空を越えて進む構成が、病室の身体感覚と神話的な想像力を結びつける。妊娠・… 母と子身体
  6. 006 2025 ティータイム ティータイム 石井遊佳 単行本・集英社 『ティータイム』は、『百年泥』で芥川賞を受賞した石井遊佳による、奇想の強い4篇を収めた短篇集です。大人びた兄妹、インドから脱出できない日本人、電車の網棚の上で暮らす女性、恐ろしいサンタクロースなど、現実の足場を少しずつ外す人物や状況が並ぶ。なぜか笑えてどこか怖い語り口で、絶望と解放の境目を軽やかに踏… 移民と越境孤独と疎外身体
  7. 007 2025 遠くまで歩く とおくまであるく 柴崎友香 単行本・中央公論新社 『遠くまで歩く』は、コロナウイルス感染拡大のさなか、小説家のヤマネがある講座を担当するところから始まる長篇小説です。PC越しに語られる受講生たちの記憶、忘れられない風景や言葉が重なり、移動が制限された時期に人がどのように遠くへ届くのかを描く。柴崎友香らしい、場所・時間・記憶の細部を静かにつなぐ語りが… 記憶言葉と言語芸術と表現
  8. 008 2025 月を見に行こうよ つきをみにいこうよ 李琴峰 単行本・集英社 『月を見に行こうよ』は、アイオワ大学の国際創作プログラム IWP に招かれた経験をもとに、世界各地から集まった詩人や小説家たちの交流を描く物語です。背景も言語も異なる創作者たちが、約二か月半の滞在のなかで互いの作品観や創作への覚悟に触れていく。越境、言語、創作をめぐる李琴峰の関心が、国際的な文学共同… 芸術と表現言葉と言語移民と越境
  9. 009 2025 わたしハ強ク・歌ウ わたしハつよク・うたウ 山下澄人 単行本・河出書房新社 『わたしハ強ク・歌ウ』は、海へ行こうとする「わたし」が、自分の旅と母が残した旅の記録を重ねて書き始める小説です。停留所の謎の男、先住民たちとの出会い、アンネの日記や火山の町といった断片が、現実の旅行記を越えた冒険譚へ変形していく。記憶を継ぐこと、書くこと、異なる土地や人々と出会うことが、山下澄人らし… 記憶母と子移民と越境
  10. 010 2025 YABUNONAKA ヤブノナカ 金原ひとみ 単行本・文藝春秋 『YABUNONAKA』は、文芸誌元編集長への性加害告発をきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の人物たちの日常が絡み合っていく長篇です。MeToo運動、マッチングアプリ、SNSといった現代の環境を背景に、性、権力、暴力、愛、そして「わかりあえないこと」の先を群像劇として描く。文芸業界そのものを… ジェンダー暴力
  11. 011 2025 携帯遺産 けいたいいさん 鈴木結生 単行本・朝日新聞出版 「携帯遺産」は、人気ファンタジー作家・舟暮按が自伝小説の執筆を依頼され、自分の人生の記録をたどっていく長編。実家の焼失、震災、父の失踪といった記憶を背景に、作家が「自分の人生」を小説にすることの意味を問う。出版社紹介では『ゲーテはすべてを言った』に続く作品として位置づけられ、記録、蒐集、父をめぐる探… 記憶芸術と表現父と子
  12. 012 2025 時の家 ときのいえ 鳥山まこと 初出・「群像」2025年8月号 『時の家』は、建築士が設計した一軒の家に暮らした三代の住人たちの記憶を、訪問者である青年のスケッチを通して呼び起こす作品。丸柱、天井、漆喰の壁といった細部に、住む人の感情と時間が蓄積している。家を単なる舞台ではなく記憶の容器として描き、家族と時間の継承を静かにたどる。 記憶家族芸術と表現 第47回 野間新人賞
  13. 013 2024 DJヒロヒト ディージェイヒロヒト 高橋源一郎 単行本・新潮社 『DJヒロヒト』は、パラオ放送局のラジオ番組という奇想の形式を通して、昭和史・文学史・戦争の記憶を再構成する大長編です。中島敦、南方熊楠、森鴎外らの名が交差し、謎のDJの語りが歴史上の人物とフィクションの声をリミックスしていく。ラジオ、録音、放送というメディアの仕掛けを使いながら、天皇制と近代日本を… 戦争記憶芸術と表現
  14. 014 2024 死神 しにがみ 田中慎弥 単行本・朝日新聞出版 うまくいかない作家の人生の節目ごとに、死神が現れるという設定の長編。語り手が中学二年のときに初めて出会った「こいつ」は、長く書くことのできなかった存在として回想され、死や家族の記憶と結びついていく。死を擬人化した幻想性を使いながらも、作家の生活と記憶に根ざした語りで、ユーモアと鋭さを交えて生の輪郭を… 死と喪失家族芸術と表現
  15. 015 2024 昏色の都 くれいろのみやこ 諏訪哲史 単行本・国書刊行会 表題作「昏色の都」に、「極光」「貸本屋うずら堂」を併録した幻想小説集。国書刊行会公式は、表題作を初出時の三倍の規模へ増補した中編として紹介し、夢と現実のあわいをさまよう旅の物語や、古い貸本漫画と幼年期の記憶をめぐる作品を収めると説明している。作品ごとに文体と世界観を変えながら、記憶、読書、幻想都市の… 記憶芸術と表現孤独と疎外
  16. 016 2024 人にはどれほどの本がいるか ひとにはどれほどのほんがいるか 鈴木結生 初出・小説トリッパー 2024年春季号 「人にはどれほどの本がいるか」は、在野の文化理論家で素人作家でもある人物の蔵書と記憶をめぐって、書物が人の生をどのように支えるかを探る作品。冒頭公開部分だけでも、追悼文、地方紙記事、研究会の記憶が重なり、文学・信仰・蒐集への偏愛が語りの駆動力になっている。書物への愛を題材にしながら、知識や創作を人生… 言葉と言語芸術と表現記憶
  17. 017 2024 ゲーテはすべてを言った げーてはすべてをいった 鈴木結生 初出・小説トリッパー 2024年秋季号 「ゲーテはすべてを言った」は、ゲーテ学者・博把統一がティーバッグのタグに印字された未知の名言を追い、原典と記憶をたどっていく小説。学問の調査譚でありながら、引用、記憶、創作の境界を問い、知の確かさそのものを物語の謎にしている。出版社は本作を「アカデミック冒険譚」と紹介しており、ユーモラスな名前や知的… 言葉と言語芸術と表現記憶 第172回 芥川賞
  18. 018 2023 FICTION フィクション 山下澄人 単行本・新潮社 演劇する集まりを「FICTION」と名づけ、十六年続けてきた「わたし」が、仲間の死や病、自身の大病を経て回想を始める連作短篇集。収録作は「FICTION 01 象使い」から「FICTION 07 助けになる習慣」まで、演劇と小説、記憶と作り話の境界を行き来する。新潮社は芥川賞受賞作『しんせかい』に連… 芸術と表現死と喪失記憶
  19. 019 2023 蝙蝠か燕か こうもりかつばめか 西村賢太 単行本・文藝春秋 2022年2月に急逝した西村賢太の未刊行小説集で、完結作としては最後の表題作を含む三篇を収める。北町貫多が藤澤清造資料の調査や書簡の額装をめぐって動く「廻雪出航」「黄ばんだ手蹟」と、死の前年の貫多を描く「蝙蝠か燕か」によって、師への執着と自分の文学を問い直す。私小説的な分身を通じ、歿後弟子としての覚… 芸術と表現死と喪失記憶
  20. 020 2023 肉を脱ぐ にくをぬぐ 李琴峰 単行本・筑摩書房 新人作家の柳佳夜がエゴサーチで同姓同名のVTuberを見つけ、なりすましなのか、偶然なのか、その正体を探り始める。作家名、身体、声、オンライン上の分身がずれていく設定を通して、自己像と他者から見られる像の境界が揺さぶられる。李琴峰らしいアイデンティティへの関心を、VTuberという現代的なメディア環… アイデンティティ身体テクノロジー
  21. 021 2023 東京都同情塔 とうきょうとどうじょうとう 九段理江 初出・新潮 2023年12月号 ザハ・ハディド設計の国立競技場が実現した、もうひとつの東京。犯罪者を「同情されるべき人々(ホモ・ミゼラビリス)」と捉え直す寛容論が浸透し、新宿御苑に犯罪者が快適に暮らせる高層刑務所「シンパシータワートーキョー」の建設が計画される。設計コンペに名乗りを上げた建築家・牧名沙羅は、その理念に拭いがたい違和… 言葉と言語テクノロジー同調圧力 第170回 芥川賞
  22. 022 2023 図書館のお夜食 としょかんのおやしょく 原田ひ香 単行本・ポプラ社 『図書館のお夜食』は、東北の書店勤務がうまくいかず仕事を辞めようとしていた樋口乙葉が、東京郊外の「夜の図書館」で働き始める長編である。そこは夕方七時から深夜まで開く特殊な図書館で、亡くなった作家の蔵書を集めた本の博物館のような場所でもある。予想外の出来事と夜食を通して、本、食、仕事、ほどよい距離で語… 労働芸術と表現
  23. 023 2023 うるさいこの音の全部 うるさいこのおとのぜんぶ 高瀬隼子 単行本・文藝春秋 ゲームセンターで働く長井朝陽は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから、職場や友人との関係が少しずつ変化していく。兼業作家であることが知られ、執筆中の小説と現実の境目も揺らぎはじめる。作家デビューの舞台裏を題材にしながら、注目されること、働き続けること、他者の視線に晒され… 芸術と表現労働アイデンティティ
  24. 024 2023 ユーチューバー ユーチューバー 村上龍 単行本・幻冬舎 『ユーチューバー』は、二十代半ばでデビューし七十歳になった作家・矢崎健介が、ユーチューバーに誘われて語り始める連作小説である。矢崎は「自由である人間」について、そして半世紀にわたって出会い、消えていった女性たちについて回想する。YouTubeという現代的な語りの場を借りながら、恋愛、老い、創作の源泉… 老い芸術と表現恋愛
  25. 025 2022 カルチャーセンター かるちゃーせんたー 松波太郎 単行本・書肆侃侃房 カルチャーセンターで共に過ごしたニシハラくんの未発表小説『万華鏡』を収録し、その小説に寄せられた作家・編集者たちのコメントまでも作品の一部として組み込む小説。松波太郎がニシハラくんへ語りかける形で、書きたいという欲望、書かれたものへの責任、そして「これは小説なのか」という問いを空白ごと立ち上げていく… 芸術と表現言葉と言語青春
  26. 026 2022 古本食堂 ふるほんしょくどう 原田ひ香 単行本・角川春樹事務所 『古本食堂』は、神保町の小さな古書店を舞台に、本と食べ物を介して人がつながり直していく長篇。国文科の学生・美希喜は、急逝した大叔父の古書店を継ぐため上京した珊瑚を手伝ううちに、古本を探す客、町の食堂、店に残された記憶に触れていく。古書の具体的な手触りとカレー、中華、寿司などの食の描写が重なり、進路の… 記憶家族
  27. 027 2022 ミーツ・ザ・ワールド ミーツ・ザ・ワールド 金原ひとみ 単行本・集英社 焼肉擬人化漫画を愛する腐女子の会社員・由嘉里は、合コン帰りに酔いつぶれた新宿歌舞伎町で、キャバ嬢のライと出会う。ライの「この世界から消えなきゃいけない」という言葉をきっかけに共同生活が始まり、由嘉里は推しへの愛、三次元の恋、結婚や出産への思い込みを揺さぶられていく。対照的な二人の会話と歌舞伎町の人間… 恋愛孤独と疎外ジェンダー
  28. 028 2022 Schoolgirl すくーるがーる 九段理江 単行本・文藝春秋 表題作は太宰治「女生徒」を現代に移し、社会派YouTuberとして活動する14歳の娘と、小説に囚われた母のすれ違いを描く。娘の投稿が「女生徒」へ向かうことで、母娘の断絶は文学の記憶と現在のメディア環境のなかで照らし返される。第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」も併録し、学校、芸術、言葉への過剰な… 母と子言葉と言語芸術と表現
  29. 029 2022 雨滴は続く うてきはつづく 西村賢太 単行本・文藝春秋 2004年、北町貫多は同人誌発表作「けがれなき酒のへど」が同人雑誌優秀作に選ばれ、純文学誌に転載されたことで文壇デビューを果たす。藤澤清造の歿後弟子であろうとする執念、純文学誌への執筆、恋情と自尊心の揺れが、貫多らしい苛立ちと滑稽さを伴って進む。完成直前で未完となった遺作長篇であり、作家になる以前の… 芸術と表現恋愛孤独と疎外
  30. 030 2021 星のように離れて雨のように散った ほしのようにはなれてあめのようにちった 島本理生 単行本・文藝春秋 行方不明の父、未完の『銀河鉄道の夜』、書きかけの小説という三つの「未完」をめぐり、人生の岐路に立つ女子大学院生の「私」が自分自身の物語を探していく長編。宮沢賢治作品の影や、消えた父の残した手紙を手がかりに、家族の記憶と創作の衝動が重なり合う。父の不在を単なる謎解きにせず、失われたものを言葉で追いかけ… 父と子記憶芸術と表現
  31. 031 2021 悪い音楽 わるいおんがく 九段理江 初出・「文學界」2021年5月号 『悪い音楽』は、音楽家の父を持ち、卓越した才能を持ちながら他者への共感に乏しい中学校の音楽教師・三井ソナタを描く。彼女の平穏な日常は、音楽を熱烈に愛しながら耳に障害を抱える生徒との出会いで崩れていく。芸術的才能、感受性、教育現場の関係性をブラックユーモアで問う、九段理江のデビュー作である。 芸術と表現同調圧力言葉と言語 第126回 文學界新人賞
  32. 032 2020 みがわり みがわり 青山七恵 単行本・幻冬舎 『みがわり』は、新人賞を受けながら本を出せずにいる作家・律が、自分と瓜二つだった亡き女性の伝記執筆を依頼される長編。取材の過程で、姉妹の確執や家族の秘密、依頼そのものの不穏さが浮かび、律は他人の人生を書こうとするほど自分自身の物語も揺さぶられていく。伝記を書くことと書かれることの関係を通じて、自己像… アイデンティティ家族記憶
  33. 033 2020 ピエタとトランジ〈完全版〉 ぴえたととらんじ かんぜんばん 藤野可織 単行本・講談社 ピエタを語り手に、天才的な頭脳を持つ女子高生探偵トランジと、その才能に惹かれて助手になるピエタの関係を描く長篇。周囲で次々と事件が起きるトランジの体質は、探偵小説、友情譚、終末SFの要素を巻き込み、やがて人類滅亡のスケールへ広がっていく。軽やかな語り口で、女性バディ、才能への憧れ、破滅に向かう世界を… 青春アイデンティティ死と喪失
  34. 034 2020 来世の記憶 らいせのきおく 藤野可織 単行本・KADOKAWA 『来世の記憶』は、前世の殺人の記憶を抱えた近未来の語り手から、眠っている間に戦争が終わってしまう世界、冷蔵庫やスマートフォンや怪獣までをめぐる奇妙な出来事までを収めた20篇の短篇集。日常の手触りを残したまま身体や物や世界の前提がずれていくため、読み手は不条理な笑いと不安のあいだに置かれる。藤野可織ら… 記憶死と喪失身体
  35. 035 2020 一人称単数 いちにんしょうたんすう 村上春樹 単行本・文藝春秋 村上春樹の六年ぶりの短篇小説集で、「石のまくらに」から書き下ろしの表題作まで八篇を収める。音楽、野球、過去の記憶、奇妙な遭遇をめぐり、一人称の語りが自分自身の輪郭を少しずつずらしていく。私、僕、あなたという呼び名の揺れを通して、回想と虚構が交錯する村上春樹らしい短篇世界を読むことができる。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  36. 036 2020 かきあげ家族 かきあげかぞく 中島たい子 単行本・光文社 コメディ映画監督の中井戸八郎は、老境に差しかかりながらスランプの渦中にいる。長男の失職、長女の離婚、引きこもる次男によって家族が再び一つの家に集まるなか、名監督の遺稿をめぐる騒動が起き、八郎は家族の一人ひとりと向き合わざるをえなくなる。不安を拾い集めてしまう人間の弱さを、家族喜劇の形で描く。 家族老い芸術と表現
  37. 037 2020 完全犯罪の恋 かんぜんはんざいのこい 田中慎弥 単行本・講談社 『完全犯罪の恋』は、芥川賞受賞後も地味な暮らしを送る四十男の小説家「田中」が、新宿で初恋の相手の娘に声をかけられるところから始まる長編。物語は現在の東京と、下関の高校時代に読書を通じて近づいた才女・真木山緑との記憶を往還し、恋の独りよがりと罪悪感を掘り下げる。作家本人を思わせる語り手を置き、私小説的… 恋愛記憶芸術と表現
  38. 038 2020 サピエンス前戯 さぴえんすぜんぎ 木下古栗 単行本・河出書房新社 『サピエンス前戯』は、表題作「サピエンス前戯」に「オナニーサンダーバード藤沢」「酷暑不刊行会」を加えた長編小説集。身長、寿命、インターネット、ポルノ文化など、21世紀の人間の能力や欲望が極点に達した世界を、人類史のまだ前戯にすぎないものとして誇張してみせる。シンギュラリティSF、下世話な身体感覚、過… テクノロジー身体
  39. 039 2020 丸の内魔法少女ミラクリーナ まるのうちまほうしょうじょミラクリーナ 村田沙耶香 単行本・KADOKAWA 表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』に、『秘密の花園』『無性教室』『変容』を加えた四篇の短篇集。魔法少女、秘密の領域、無性化、変容といった設定を通じて、社会が当然視する性別、年齢、役割、自己像をずらして見せる。村田沙耶香らしい寓話的な発想と日常の手ざわりが同居し、軽やかさの奥に規範への違和感が残る。 アイデンティティジェンダー
  40. 040 2020 MISSING 失われているもの ミッシング うしなわれているもの 村上龍 単行本・新潮社 『MISSING 失われているもの』は、制御しがたい抑うつや不眠を抱える小説家の「わたし」が、謎めいた女優や母の声に導かれて、混乱と不安に満ちた迷宮的な世界を彷徨う長篇。章題には成瀬巳喜男映画の題名が並び、現在と過去、現実と幻想、記憶と自己分析が重なり合う。村上龍が自らの創作の源泉や老い、母の記憶に… 記憶母と子老い
  41. 041 2020 日本蒙昧前史 にほんもうまいぜんし 磯﨑憲一郎 単行本・文藝春秋 大阪万博や日航機墜落事故など、戦後日本の狂騒と蒙昧を彩った出来事の陰にある無数の生を描く長篇。文藝春秋公式は、語り手を自在に換えつつ戦後日本の手触りを蘇らせる作品として紹介している。歴史的事件を単なる背景にせず、語りのリレーによって個人の記憶と時代の空気を重ねるところに読みどころがある。 記憶戦争死と喪失 第56回 谷崎賞
  42. 042 2019 ひよこ太陽 ひよこたいよう 田中慎弥 単行本・新潮社 一緒に住んでいた女に去られ、切り詰めた生活のなかで小説を書こうとする40代の男を描く連作小説集。書けない日々と死への誘惑に取り憑かれた語り手は、母から頼まれた人探しをきっかけに、現実と幻想の境界が揺らぐ世界へ入っていく。書けなさ、不在、生活の索漠さを見つめる私小説的な作品。 芸術と表現孤独と疎外死と喪失
  43. 043 2019 変半身 かわりみ 村田沙耶香 単行本・筑摩書房 『変半身』は、劇作家・松井周と練り上げた千久世島ワールドを舞台に、人間の身体や歴史、信仰が別のかたちへ変わっていく悪夢的な中篇。秘祭モドリ、ポピ原人、ポーポー様、遺伝子退行手術といった奇妙な要素が、共同体の常識と身体観を揺さぶる。併録の「満潮」とあわせ、村田沙耶香らしい「正常」を疑う想像力が、演劇的… 身体信仰アイデンティティ
  44. 044 2019 人間 にんげん 又吉直樹 単行本・毎日新聞出版 『人間』は、若い日に創作を志す者たちが集ったシェアハウスの記憶と、38歳になった「僕」の現在を往還する長篇。表現者になりたいという願い、仲間と暮らす時間の高揚、その後に残る成功や挫折の差が、自己像を問い直す物語として重なっていく。又吉直樹の初の長編として、芸術への憧れだけでなく、他者と比べながら生き… 芸術と表現青春記憶
  45. 045 2019 おっぱいマンション改修争議 おっぱいまんしょんかいしゅうそうぎ 原田ひ香 単行本・新潮社 天才建築家が設計した、通称「おっぱいマンション」と呼ばれるヴィンテージマンションを舞台にした長篇。立地もデザインも人気を集める一方で重大な問題が発覚し、建築家の娘、学生運動あがりの元教師、秘密を抱えた住人たちを巻き込む改修争議が起こる。建築という表現物、住まいの記憶、共同体の利害がぶつかる騒動を、軽… 家族老い芸術と表現
  46. 046 2019 趣味で腹いっぱい しゅみではらいっぱい 山崎ナオコーラ 単行本・河出書房新社 『趣味で腹いっぱい』は、結婚後に絵手紙、家庭菜園、小説などの趣味に興じる鞠子と、仕事一筋で生きてきた銀行員・小太郎をめぐる長篇。上達や成果を急がない趣味の時間が、仕事中心の価値観や夫婦の距離を少しずつ揺らしていく。生活のなかの小さな楽しみを通して、役に立つことだけでは測れない生き方を描く。 夫婦労働芸術と表現
  47. 047 2019 遠の眠りの とおのねむりの 谷崎由依 単行本・集英社 大正末期、貧しい農家に生まれた絵子は本を読むことを支えにしていたが、女学校には進めず、家を追い出されて女工として働く。市内に初めて開業した百貨店「えびす屋」で、付属劇場の少女歌劇団に関わる「お話係」として雇われ、娘役のキヨと親しくなる。集英社公式は、福井市に実在した百貨店の少女歌劇部に着想を得た長篇… 労働青春芸術と表現
  48. 048 2019 藁の王 わらのおう 谷崎由依 単行本・新潮社 小説家として一冊だけ本を出した語り手が、巨大私立大学で創作を教えることになり、学生たちの苦悩と自身の行き詰まりに向き合う表題作を含む作品集。新潮社公式は、文学の迷宮や小説の樹海を彷徨う人々を描く作品集として紹介している。書くこと、読むこと、他者の言葉に侵されることの怖さを、静かな幻想性と記憶の反復で… 芸術と表現記憶孤独と疎外
  49. 049 2018 星ヶ丘高校料理部 偏差値68の目玉焼き ほしがおかこうこうりょうりぶ へんさちろくじゅうはちのめだまやき 樋口直哉 単行本・講談社 廃部寸前の私立星ヶ丘高校料理部に、篠原皐月が友人に誘われて入部する連作料理ミステリ。目玉焼き、オムレツ、ハンバーグ、カレーなどの料理を通じて、皐月たちは調理の理屈と、身近な出来事に潜む謎を少しずつ解いていく。学校小説の軽やかさに、料理の知識と日常の推理を重ねた読み味が特徴。 青春芸術と表現
  50. 050 2018 公園へ行かないか?火曜日に こうえんへいかないか?かようびに 柴崎友香 単行本・新潮社 2016年、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、世界各国の作家・詩人たちと過ごした3か月をもとに描く11篇の連作小説集。英語で議論し、街を歩き、アメリカ大統領選挙の瞬間にも居合わせる経験を通じて、そこにいること/いないこと、知りたいのに届かないことを考え続ける… 移民と越境言葉と言語芸術と表現
  51. 051 2018 今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇 こんやはひとりぼっちかい? にほんぶんがくせいすいし せんごぶんがくへん 高橋源一郎 単行本・講談社 『日本文学盛衰史』の続編として、戦後文学そのものを小説の素材にする長編。大岡昇平や小林秀雄らを思わせる文学史上の存在が、ロック、パンク、ラップ、ブログ、Twitter、YouTubeまで巻き込みながら、読まれなくなった戦後文学を現在の言葉へ揉みほぐしていく。文学史講義、パロディ、メタフィクションが交… 芸術と表現言葉と言語戦争
  52. 052 2018 ニムロッド ニムロッド 上田岳弘 初出・群像 2018年12月号 IT企業に勤める中本哲史は、社長から仮想通貨ビットコインの採掘(マイニング)事業を任される。彼の周りには、中絶と離婚の傷を抱える外資系勤務の恋人・田久保紀子と、小説家の夢に挫折し「駄目な飛行機コレクション」と題するメールを送ってくる同僚・荷室仁(ニムロッド)がいる。三人の日常に、天に挑んだバベルの塔… テクノロジー労働孤独と疎外 第160回 芥川賞
  53. 053 2018 羅針盤は壊れても らしんばんはこわれても 西村賢太 単行本・講談社 西村賢太の分身的主人公・北町貫多が、二十三歳を迎え、日雇い暮らしのなかで人生の敗北感を濃くしていく小説集。田中英光や藤澤清造の私小説に救いを求める貫多が、自らも私小説を書き始めようとする姿を軸に、貧困、文学への執着、自己嫌悪が泥臭く絡み合う。表題作に加え「陋劣夜曲」などを収め、惨めさと不屈さが同時に… 貧困労働孤独と疎外
  54. 054 2018 鏡のなかのアジア かがみのなかのあじあ 谷崎由依 単行本・集英社 チベット、台湾、クアラルンプール、京都など、アジアの土地をモチーフにした全5篇の幻想短篇集。集英社公式は、少年僧が経典の歴史に触れる「……そしてまた文字を記していると」、台湾・九份の村を舞台にする「Jiufenの村は九つぶん」、熱帯雨林の巨樹であった過去を持つ男を描く「天蓋歩行」などを挙げている。翻… 移民と越境言葉と言語記憶
  55. 055 2018 つかのまのこと つかのまのこと 柴崎友香 単行本・KADOKAWA かつての住み家らしき「この家」をさまよい続ける「わたし」が、次々に入れ替わる住人たちを見守る物語。幽霊のような語り手の視点から、家に残る記憶と、誰かを待ち続ける時間が静かに積み重ねられる。柴崎友香が俳優・東出昌大をイメージして小説を書き、市橋織江の写真と組み合わされた、写真と小説の境界を意識した一冊… 記憶死と喪失家族
  56. 056 2018 私に付け足されるもの わたしにつけたされるもの 長嶋有 単行本・徳間書店 「四十歳」「白竜」「Mr.セメントによろしく」「瀬名川蓮子に付け足されるもの」など十二篇を収める短篇集。虎に襲われたい、くっつけたい、あきらめたい、移動したいといった、くだらなくも切実な願望を起点に、日常のずれや欲望の不可思議さを軽やかに描く。長嶋有らしいユーモアと観察眼が、平凡な生活に付け足される… アイデンティティ記憶芸術と表現
  57. 057 2018 ウィステリアと三人の女たち ウィステリアとさんにんのおんなたち 川上未映子 単行本・新潮社 「彼女と彼女の記憶について」「シャンデリア」「マリーの愛の証明」「ウィステリアと三人の女たち」の4篇を収める短篇集。同窓会、デパート、女子寮、廃墟となった屋敷を舞台に、女性たちが不確かな記憶と死の気配に触れていく。記憶、死、救済、自己同一性が幻想的な気配で重なり、なだらかな散文がいつのまにか現実の足… 記憶死と喪失孤独と疎外
  58. 058 2018 ゆっくりおやすみ、樹の下で ゆっくりおやすみ、きのしたで 高橋源一郎 単行本・朝日新聞出版 小学5年生のミレイが「さるすべりの館」で夏休みを過ごすうち、遠い過去の謎に触れていく児童文学寄りの長編。赤い部屋、止まっていた時計、館に隠された秘密が、子どもの視点に近い軽やかさと不思議な緊張感で語られる。今日マチ子の挿絵を多数収録し、高橋源一郎が子どもと大人の読者をつなぐ語りに挑んだ作品。 青春記憶家族
  59. 059 2017 鳥獣戯画 ちょうじゅうぎが 磯﨑憲一郎 単行本・講談社 『鳥獣戯画』は、磯﨑憲一郎が古典的な絵巻の名を借り、人間と動物、現実と表象の境目を揺らす作品として整理できます。鳥獣のイメージは、人間社会を戯画化する視点として働きます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌と『群像』掲載候補に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現身体言葉と言語
  60. 060 2017 劇場 げきじょう 又吉直樹 単行本・新潮社 『劇場』は、売れない劇作家・永田と、彼を支える沙希の恋愛を描く長編です。演劇を作ることと恋愛で相手を傷つけることが重なり、表現者の自意識と未熟さが露出します。恋愛小説であると同時に、創作の場にしがみつく人物の痛みを読む作品です。 恋愛芸術と表現孤独と疎外
  61. 061 2017 生成不純文学 せいせいふじゅんぶんがく 木下古栗 単行本・集英社 『生成不純文学』は、木下古栗が純文学という制度や言葉の純度を、題名から揺さぶる作品として整理できます。生成される文学が「不純」であるという発想は、既存の文学観への皮肉として読めます。実験的でメタ的な語りを通じて、書くことそのものを笑いと違和感にさらす作品です。 芸術と表現言葉と言語同調圧力
  62. 062 2017 騎士団長殺し きしだんちょうごろし 村上春樹 単行本・新潮社 『騎士団長殺し』は、肖像画家の「私」が小田原の山荘で謎の絵と「イデア」に遭遇する長編二部作です。絵画、地下空間、戦争の記憶が重なり、現実と寓話の境界がゆっくり崩れていきます。村上春樹の長編らしく、喪失と創作、歴史の暗部が大きな物語として展開します。 芸術と表現記憶戦争
  63. 063 2017 万次郎茶屋 まんじろうちゃや 中島たい子 単行本・光文社 『万次郎茶屋』は、老いたイノシシ万次郎と画家志望の女性をめぐる、不思議でじんわりする短編集です。茶屋という場は、人と動物、現実と幻想がゆるやかに交わる場所として働きます。老い、芸術、ケアの感覚を、あたたかい寓話として読ませる作品です。 老い芸術と表現ケアと介護
  64. 064 2017 ラジオ・ガガガ らじおががが 原田ひ香 単行本・双葉社 『ラジオ・ガガガ』は、実在するラジオ番組に耳を傾ける人々の人生模様を描いた連作短篇集です。ラジオは遠くの声を受け取るメディアであり、孤独な時間に他者の存在を届ける装置として働きます。日常の中の小さな聞く経験から、記憶や再生を描く作品です。 記憶孤独と疎外芸術と表現
  65. 065 2017 成功者K せいこうしゃケー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『成功者K』は、芥川賞受賞とメディア露出で人生が変貌していく作家Kを描く、私小説的メタフィクションです。成功は幸福ではなく、視線、消費、自己演出の圧力として人物にまとわりつきます。作家が商品化される現代の文芸状況を、皮肉と自虐で読ませる作品です。 芸術と表現労働同調圧力
  66. 066 2017 芝公園六角堂跡 しばこうえんろっかくどうあと 西村賢太 単行本・文藝春秋 『芝公園六角堂跡』は、私小説家としての現在地を見つめる「狂折檻」など四篇を収めた連作集です。藤澤清造への執着や、作家としての自己像が、生活の荒れと結びついて語られます。西村賢太の私小説的世界を、文学史への偏愛と現在の屈託から読む作品です。 芸術と表現孤独と疎外労働
  67. 067 2017 無限の玄 むげんのくろ 古谷田奈月 初出・「早稲田文学」増刊女性号(2017年) 男性だけのストリングバンドを舞台に、絶対的な父の死と反復する再生のような出来事を軸に、共同体の変容を描く中篇。バンドの規律や父権をめぐる物語を、音楽と身体性を帯びた寓話として展開する。芸術の場が家族、共同体、権威の問題へ反転していく点が読みどころ。 父と子芸術と表現同調圧力 第31回 三島賞
  68. 068 2016 コンテクスト・オブ・ザ・デッド コンテクスト・オブ・ザ・デッド 羽田圭介 単行本・講談社 『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は、ゾンビが蔓延する世界で文学と出版業界を風刺する長編です。死者が増殖するホラー的な設定の中に、言葉が読まれる文脈や、作品が流通する仕組みへの批評が重ねられます。ジャンル小説の速度とメタフィクション的な笑いを併せ持つ作品です。 芸術と表現言葉と言語死と喪失
  69. 069 2016 月刊「小説」 げっかんしょうせつ 松波太郎 単行本・河出書房新社 『月刊「小説」』は、松波太郎が小説という媒体や制度そのものを題名に取り込み、書くことと読むことの場を扱う作品として整理できます。月刊誌のような周期性や掲載の感覚が、文学の生産と消費を意識させます。物語だけでなく、小説が置かれる文芸誌の文脈も読む作品です。 芸術と表現言葉と言語労働
  70. 070 2016 しんせかい しんせかい 山下澄人 初出・新潮 2016年7月号 19歳のスミトは、神戸からフェリーと汽車を乗り継ぎ、北海道の【谷】で脚本家の【先生】が主宰する私塾に二期生として入る。俳優や脚本家を志す年齢も経歴も様々な仲間たちとの共同生活は、しかし稽古よりも、施設造りや農作業、馬の世話といった肉体労働に明け暮れるものだった。倉本聰主宰の富良野塾での著者自身の体験… 青春芸術と表現労働 第156回 芥川賞
  71. 071 2016 太陽の側の島 たいようのそばのしま 高山羽根子 単行本・朝日新聞出版 『太陽の側の島』は、戦時中を背景に、女性と兵士の関係を架空の日記や手紙の連なりでたどる中篇。第2回林芙美子文学賞の大賞受賞作として発表され、のちに短篇集『オブジェクタム』に収録された。戦争の記憶、記録の不確かさ、島という隔絶した場所を、SF的・幻想的な想像力で結びつける作品として位置づけられる。 戦争記憶芸術と表現 第2回 林芙美子賞
  72. 072 2016 伯爵夫人 はくしゃくふじん 蓮實重彦 初出・「新潮」2016年4月号、同年6月新潮社より単行本刊行 帝大入試を控えた二朗が謎めいた伯爵夫人に誘われ、性の昂ぶりと戦争前夜の不穏な空気に巻き込まれていく長篇。伯爵夫人、従妹、和製ルイーズ・ブルックスら魅力的な女性たちが二朗を挑発し、個人の感情教育と時代の破滅が交錯する。エロス、映画的記憶、戦争の気配が入れ子状に重なる作品である。 戦争芸術と表現 第29回 三島賞
  73. 073 2016 のろい男 俳優・亀岡拓次 のろいおとこ はいゆう かめおかたくじ 戌井昭人 単行本・文藝春秋 脇役俳優・亀岡拓次を主人公にした連作短篇集で、全国のロケ地を転々としながら仕事相手との淡い縁を紡ぐ日々を描く。続編として、職業俳優の孤独、現場ごとの仮のつながり、生活の滑稽さが積み重なる。諦観とユーモアを交え、主役ではない人物の時間を照らす作品。 芸術と表現労働孤独と疎外 第38回 野間新人賞
  74. 074 2016 本物の読書家 ほんものの どくしょか 乗代雄介 初出・「群像」2016年9月号、2017年11月講談社より単行本刊行 『本物の読書家』は、書物への耽溺、言葉の探求、読むことへの畏怖をめぐる中編二作を収める作品集。表題作では、老人ホームへ向かう大叔父と同行する語り手が、川端康成からの手紙の噂と車内で出会う謎めいた読書家を通じて、読書と記憶の秘密に巻き込まれる。もう一編「未熟な同感者」では文学講義、引用、師弟関係が絡み… 言葉と言語芸術と表現記憶 第40回 野間新人賞
  75. 075 2015 愛と人生 あいとじんせい 滝口悠生 単行本・講談社 『愛と人生』は、映画『男はつらいよ』の世界を下敷きに、かつて子役として出演した青年を描く滝口悠生の長篇です。映画の記憶と現実の生活が重なり、個人の人生が既存の物語にどう影響されるかが問われます。軽やかな語りの奥で、愛と人生という大きな言葉を日常へ引き戻す作品です。 芸術と表現記憶アイデンティティ 第37回 野間新人賞
  76. 076 2015 自画像 じがぞう 朝比奈あすか 単行本・双葉社 『自画像』は、朝比奈あすかが自己像と他者からの視線をめぐる不安を描く小説として整理できます。自画像は自分を描く行為であると同時に、見られる自分を作る行為でもあります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 アイデンティティ芸術と表現孤独と疎外
  77. 077 2015 動物記 どうぶつき 高橋源一郎 単行本・河出書房新社 『動物記』は、高橋源一郎が動物という他者を通じて、人間社会や言葉のあり方を問い直す小説として整理できます。動物はかわいらしい存在ではなく、人間中心の物語をずらす視点として現れます。寓話と批評が交差する作品です。 言葉と言語身体芸術と表現
  78. 078 2015 エピローグ えぴろーぐ 円城塔 単行本・早川書房 『エピローグ』は、円城塔が物語の終わりのあとを起点にするSF的・実験的長篇です。終わったはずの物語が、情報や言語の連鎖としてなお続く構造を持ちます。題名と逆向きに、終わりから世界を組み立てる読み味が特徴です。 テクノロジー言葉と言語芸術と表現
  79. 079 2015 プロローグ ぷろろーぐ 円城塔 単行本・文藝春秋 『プロローグ』は、円城塔が物語の始まりをめぐって、言語と構造を実験する長篇です。始まりの前提が揺らぐことで、読者は物語がどう発生するのかを読むことになります。『エピローグ』と対になる題名も含め、メタフィクション的に楽しめる作品です。 言葉と言語テクノロジー芸術と表現
  80. 080 2015 シャッフル航法 しゃっふるこうほう 円城塔 単行本・河出書房新社 『シャッフル航法』は、円城塔が航法や移動のイメージを、情報の組み替えと結びつける作品集として整理できます。シャッフルという語が示すように、順序や因果は固定されず、読者は断片の配置をたどることになります。SF的な発想と実験的文体が前面に出る作品です。 テクノロジー言葉と言語芸術と表現
  81. 081 2015 火花 ひばな 又吉直樹 初出・文學界 2015年2月号 売れない若手漫才師の徳永は、熱海の花火大会の営業で出会った先輩芸人・神谷の才能と破天荒な生き方に惹かれ、弟子にしてほしいと申し出る。神谷の伝記を書くという条件で交流が始まり、二人は東京の街を飲み歩きながら笑いの本質をめぐる対話を重ねていく。やがて徳永のコンビは少しずつ世に出る一方、笑いに純粋すぎる神… 芸術と表現青春孤独と疎外 第153回 芥川賞
  82. 082 2015 ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス 滝口悠生 単行本・新潮社 『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』は、滝口悠生が音楽の名を冠した表題作を中心に、記憶と現在のずれをたどる作品です。固有名や文化的記憶が、人物の生活感覚に入り込み、出来事を一直線の筋ではなく断片的な時間として浮かび上がらせます。日常の会話や回想の揺れから、過去を語り直すことの不確かさを読む小説で… 記憶芸術と表現アイデンティティ
  83. 083 2015 夏の裁断 なつのさいだん 島本理生 単行本・文藝春秋 『夏の裁断』は、執筆を辞めた女性小説家のもとに若い男性が現れ、破綻した恋愛が始まる長編です。書くことを断った人物が、恋愛や身体の関係を通じてもう一度言葉に絡め取られていきます。夏の熱と「裁断」という語の冷たさが、恋愛の高揚と自己破壊の感覚を並置しています。 恋愛芸術と表現
  84. 084 2015 パノララ パノララ 柴崎友香 単行本・講談社 『パノララ』は、柴崎友香が視線、場所、移動の感覚を広く開く長編です。タイトルはパノラマ的に広がる世界と、どこか音のずれた感覚を同時に含んでいます。人物の移動や会話を通して、都市と記憶の見え方が少しずつ変わる作品です。 記憶芸術と表現孤独と疎外
  85. 085 2015 宰相A さいしょうエー 田中慎弥 単行本・新潮社 『宰相A』は、「平和主義」を掲げる独裁国家と化したもう一つの日本に迷い込んだ小説家Tを描くディストピア長編です。政治的な言葉が現実を覆い隠す世界で、作家の存在と語ることの意味が問われます。架空社会を通じて、権力、同調、文学の無力さを読む作品です。 同調圧力言葉と言語芸術と表現
  86. 086 2015 匿名芸術家 とくめいげいじゅつか 青木淳悟 単行本・講談社 『匿名芸術家』は、青木淳悟が芸術家の名、作品、評価の仕組みをめぐって実験的に書く小説です。匿名性は作者の消去であると同時に、芸術と制度の関係を露出させる装置になります。物語を読むだけでなく、作品が「芸術」として扱われる条件を考えさせる作品です。 芸術と表現アイデンティティ言葉と言語
  87. 087 2014 春の庭 はるのにわ 柴崎友香 初出・文學界 2014年6月号 離婚を機に世田谷の取り壊し予定のアパートに越してきた太郎は、隣に建つ水色の洋館を熱心に観察する住人の女・西と知り合う。漫画家の西は、高校時代に魅了された写真集『春の庭』の舞台がその家であることを知り、この場所へ引っ越してきたのだった。二人は次第にその水色の家への接近を試みるようになる。再開発で消えて… 記憶死と喪失孤独と疎外 第151回 芥川賞
  88. 088 2014 男一代之改革 おとこいちだいのかいかく 青木淳悟 単行本・河出書房新社 『男一代之改革』は、江戸の改革者・松平定信を『源氏物語』の読み手として描く青木淳悟の異色の歴史小説です。歴史上の人物を、政治の主体であると同時に読者として捉える点に特徴があります。史実と読書行為を重ね、過去の人物像を現代的にずらして読む作品です。 日本史芸術と表現言葉と言語
  89. 089 2014 アルタッドに捧ぐ あるたっどにささぐ 金子薫 初出・「文藝」2014年冬号 小説を書いている本間の原稿用紙の上で、作中の少年が死に、その少年が飼っていたトカゲのアルタッドが現れるところから始まる。現実の生活と書かれた虚構が継ぎ目なく接続され、創作することそのものが物語の中心に置かれる。青春小説でありながら、虚構の根源へ向かうメタフィクションとして読める。 芸術と表現青春死と喪失 第51回 文藝賞
  90. 090 2014 島と人類 しまとじんるい 足立陽 初出・「すばる」2014年11月号 ヌーディストの人類学者・河鍋未來夫が停職処分を受け、その仲間たちや週刊誌記者を巻き込みながら、妻マリアが待つ島へ向かう奇想的な長篇。裸体主義、人類学、ボノボ、新人類構想といった要素が、知的な冗談と壮大な実験のあいだで展開する。人間の身体、共同性、進化をめぐる思索を、明るいナンセンスと実験小説の形式で… 身体芸術と表現 第38回 すばる文学賞
  91. 091 2013 晩年様式集(イン・レイト・スタイル) ばんねんようしきしゅう 大江健三郎 単行本・講談社 『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』は、東日本大震災後に書き継がれた大江健三郎晩年の長篇です。老いた作家の自己検証、家族、死者の記憶が重なり、作品を書くことそのものが喪失への応答として描かれます。大江の後期小説群を締めくくるように、長い息の文体で過去と現在を往還します。 死と喪失記憶芸術と表現
  92. 092 2013 去年の冬、きみと別れ きょねんのふゆきみとわかれ 中村文則 単行本・幻冬舎 『去年の冬、きみと別れ』は、猟奇事件をめぐる取材と記録の迷路を描く中村文則の長篇です。人物の語る真実は次々に反転し、取材する側もまた物語に巻き込まれていきます。犯罪小説の外形を使いながら、欲望、表現、他者を所有する暴力を問う作品です。 暴力芸術と表現孤独と疎外
  93. 093 2013 ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 ぴんざきゃっとのゆうびなはんらん 荻世いをら 初出・文藝 2011年秋号・2013年春号/群像 2011年5月 『ピン・ザ・キャットの優美な叛乱』は、猫の名を含む奇妙な題名が示すように、現実の秩序からずれた出来事を扱う荻世いをらの作品集です。優美さと叛乱という相反する語が並び、日常に潜む暴力や逸脱を寓話的に読ませます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 暴力芸術と表現孤独と疎外
  94. 094 2013 教授と少女と錬金術師 きょうじゅとしょうじょとれんきんじゅつし 金城孝祐 初出・「すばる」2013年11月号(投稿時タイトル「完全な銀」を改題) 教授、少女、錬金術師という奇妙な組み合わせを中心に、断片的で出鱈目にも見える出来事を積み重ねていく第37回すばる文学賞受賞作。写実的な筋を追うより、異様な熱や飛躍する連想、キッチュな笑いを楽しむタイプの作品である。演劇的な発想と実験的な構成が、デビュー作らしい危うさと勢いを生んでいる。 芸術と表現アイデンティティ実験的文体 第37回 すばる文学賞
  95. 095 2012 バナナ剥きには最適の日々 ばなながきにはさいてきのひびと 円城塔 単行本・早川書房 『バナナ剥きには最適の日々』は、円城塔のSF的・実験的な短篇を収める作品集です。日常的な動作を奇妙な論理や言語の操作へ接続し、世界の見え方そのものをずらします。軽い題名の奥で、テクノロジー、言葉、物語の組み立て方が問われます。 言葉と言語テクノロジー芸術と表現
  96. 096 2012 道化師の蝶 どうけしのちょう 円城塔 初出・「群像」2011年8月号 『道化師の蝶』は、言語、記憶、翻訳、移動をめぐる円城塔の実験的な作品集です。表題作は、物語が別の言語や媒体へ渡るたびに輪郭を変えるような構造を持ちます。読みどころは、難解さそのものではなく、言葉が世界を作り替える過程を小説として体験できる点にあります。 言葉と言語記憶芸術と表現 第146回 芥川賞
  97. 097 2012 パトロネ ぱとろね 藤野可織 単行本・集英社 『パトロネ』は、支援者や庇護者を意味する語を手がかりに、芸術、労働、他者への依存を描く藤野可織の小説として整理できます。誰かに支えられることは、保護であると同時に支配や不自由も生みます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現労働孤独と疎外
  98. 098 2012 夜の隅のアトリエ よるのすみのあとりえ 木村紅美 単行本・文藝春秋 『夜の隅のアトリエ』は、アトリエという創作の場を手がかりに、芸術、孤独、記憶を描く木村紅美の小説です。夜の隅という場所は、誰にも見えない作業や感情が残る領域を思わせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現孤独と疎外記憶
  99. 099 2012 ブラスデイズ ぶらすでいず 中山智幸 単行本・NHK出版 『ブラスデイズ』は、吹奏楽や音楽活動を思わせる題名を通じて、青春と集団の時間を描く中山智幸の小説です。音を合わせる行為は、個人の感情と共同体の規律を同時に浮かび上がらせます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 青春芸術と表現同調圧力
  100. 100 2012 さよならクリストファー・ロビン さよならクリストファー・ロビン 高橋源一郎 単行本・新潮社 『さよならクリストファー・ロビン』は、物語の登場人物たちが消滅の予感に脅かされる高橋源一郎の連作です。児童文学的な名前を呼び込みながら、物語そのものが壊れ、別の語りへ変わる過程を描きます。メタフィクションとして、文学の記憶と現代の不安を同時に扱う作品です。 芸術と表現言葉と言語記憶 第48回 谷崎賞
  101. 101 2012 架空列車 かくうれっしゃ 岡本学 初出・「群像」2012年6月号 『架空列車』は、情報工学の博士号を持つ岡本学が通勤電車の時間に執筆したデビュー作です。架空の列車旅をめぐる語りを通じて、移動、想像、日常の反復が重なります。列車という形式が、現実と虚構の境目を走る装置として働く作品です。 テクノロジー芸術と表現孤独と疎外
  102. 102 2011 これはペンです これはぺんです 円城塔 単行本・新潮社 『これはペンです』は、書くこと、記号、道具としての言葉をめぐる円城塔の実験的な小説です。題名の単純な文は、ものを名指すことの確かさを疑わせ、物語の成立条件そのものを問いに変えます。メタフィクションとしての仕掛けと、知的なユーモアが読みどころです。 言葉と言語テクノロジー芸術と表現
  103. 103 2011 不愉快な本の続編 ふゆかいなほんのぞくへん 絲山秋子 単行本・新潮社 『不愉快な本の続編』は、既にある物語の「続編」という発想から、読むこと、語り直すこと、他者の物語を引き受けることを問う絲山秋子の作品です。既存データでは『異邦人』を思わせる文脈が示されており、文学的参照を通じて孤独と違和感が描かれます。廃墟や続きの感覚が、乾いた不穏さを生みます。 芸術と表現孤独と疎外アイデンティティ
  104. 104 2011 恋する原発 こいするげんぱつ 高橋源一郎 単行本・講談社 『恋する原発』は、東日本大震災後の言葉とメディアを、チャリティーAV制作という挑発的な設定から問い直す高橋源一郎の小説です。笑いや猥雑さを含む語りは、災害をきれいな物語に回収することへの抵抗として働きます。性、表現、原発事故後の社会を同時に扱うメタフィクションです。 災害芸術と表現
  105. 105 2011 ビリジアン ビリジアン 柴崎友香 単行本・毎日新聞社 『ビリジアン』は、色彩、風景、記憶の手ざわりを、柴崎友香らしい観察の文体で描く小説です。ビリジアンという色名は、人物の感情を説明するのではなく、視覚的な印象として残します。都市や郊外の日常のなかで、孤独と芸術的な感受性が静かに重なります。 記憶芸術と表現孤独と疎外
  106. 106 2011 髪魚 かみうお 鈴木善徳 初出・「文學界」2011年12月号 『髪魚』は、人体と異形なるものの関係を独自の感覚で描く鈴木善徳のデビュー作です。髪と魚という異質なイメージを結びつけ、身体の境界が揺らぐ感覚を前面に出しています。後に芥川賞候補となる作者の、奇妙な身体感覚を示す出発点です。 身体芸術と表現寓話・幻想 第113回 文學界新人賞
  107. 107 2011 楽器 がっき 滝口悠生 初出・「新潮」2011年11月号 『楽器』は、記憶と語りの重なりを繊細に扱った滝口悠生のデビュー短篇です。音や楽器のイメージを通じて、過去の出来事や人の声が現在の語りに響きます。のちに芥川賞・野間文芸新人賞を受賞する作者の、時間感覚と語りの特徴を示す出発点です。 記憶芸術と表現言葉と言語 第43回 新潮新人賞
  108. 108 2010 「悪」と戦う あくとたたかう 高橋源一郎 単行本・河出書房新社 『「悪」と戦う』は、幼い兄弟が世界を脅かす「悪」と対峙する、高橋源一郎の冒険小説的な長篇です。子どもの視点を借りながら、現実の政治性や倫理を寓話として組み替えます。軽やかな語りの裏側に、悪とは何か、物語は悪に対抗できるのかという問いが置かれています。 暴力家族芸術と表現
  109. 109 2010 地上で最も巨大な死骸 ちじょうでもっともきょだいなしがい 飯塚朝美 単行本・新潮社 『地上で最も巨大な死骸』は、表題作と「クロスフェーダーの曖昧な光」を収めた飯塚朝美の単行本です。巨大な死骸というイメージは、死や身体の存在感を過剰なスケールで立ち上げます。現時点では詳細な内容資料が限られるため、死と身体をめぐる不穏な作品集として暫定的に整理します。 死と喪失身体芸術と表現
  110. 110 2010 自由高さH じゆうたかさH 穂田川洋山 初出・「文學界」2010年6月号 『自由高さH』は、建築的な視点から人間の空間認識と自由の関係を探る保高洋三のデビュー作です。空間、身体、自由という抽象的な主題を、建築の語彙に近い感覚で小説化している点が特徴です。第143回芥川賞候補作にもなり、形式意識の強い新人作として位置づけられます。 身体芸術と表現孤独と疎外 第110回 文學界新人賞
  111. 111 2010 トロンプルイユの星 とろんぷるいゆのほし 米田夕歌里 初出・「すばる」2010年11月号 『トロンプルイユの星』は、視覚的錯視を意味するトロンプルイユをモチーフに、見えているものと実際の世界のずれを描く作品です。視覚、認識、現実感の不安定さが小説の主題になっています。美術的な発想を文学へ移した、感覚的なデビュー作として整理しました。 芸術と表現アイデンティティ寓話・幻想 第34回 すばる文学賞
  112. 112 2010 ののの ののの 太田靖久 初出・「新潮」2010年11月号 『ののの』は、言語の反復、ずれ、遊びを極限まで押し進めた実験的な作品です。意味が固定される前の音や文字の運動を前面に出し、小説の語りそのものを問い直します。受賞時は単行本化されず、後に改稿版として刊行された経緯も含めて、制度外的な実験性が際立つ作品です。 言葉と言語芸術と表現実験的文体 第42回 新潮新人賞
  113. 113 2009 1Q84 いちきゅうはちよん 村上春樹 単行本・新潮社 『1Q84』は、1984年に似て非なる世界「1Q84」を舞台に、青豆と天吾の二つの視点が交差していく長篇です。宗教的共同体、暴力、物語を作ることへの問いが、並行世界の構造の中で結びつきます。恋愛小説でありながら、世界の成り立ちそのものを疑わせる大きな構成が特徴です。 恋愛信仰暴力
  114. 114 2009 魔法使いクラブ まほうつかいくらぶ 青山七恵 単行本・幻冬舎 『魔法使いクラブ』は、若い人びとの小さな結びつきや願望を、魔法という言葉の軽やかさで包む作品です。現実を大きく変える力ではなく、日々を少しだけ違って見せる想像力が中心になります。青山七恵らしい静かな文体で、青春と孤独のあいだを描きます。 青春孤独と疎外芸術と表現
  115. 115 2009 烏有此譚 うゆしたん 円城塔 単行本・講談社 『烏有此譚』は、あるようでない物語をめぐり、注釈、引用、脱線が本文そのものを膨らませていく円城塔の実験的長篇です。物語を読むことと、物語が成立しないことが同時に進むため、読者は筋よりも言葉の運動を追うことになります。メタフィクションとしての遊びと、知的な不穏さが強い作品です。 言葉と言語芸術と表現アイデンティティ 第32回 野間新人賞
  116. 116 2009 JOHNNY TOO BAD 内田裕也 じょにーとぅーばっど うちだゆうや モブ・ノリオ 単行本・文藝春秋 『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』は、小説「ゲットーミュージック」と内田裕也のロックン・トークを合わせた書籍として確認できる作品です。モブ・ノリオの小説的な語りと、ロック文化への接近が一冊の中で並置されています。純文学とサブカルチャー、発話とパフォーマンスの境界を見る資料としても読めます。 芸術と表現言葉と言語アイデンティティ
  117. 117 2009 世紀の発見 せいきのはっけん 磯﨑憲一郎 単行本・河出書房新社 『世紀の発見』は、巨大な機関車と大きな鯉の記憶、そして消えた友人をめぐって語りが展開する長篇です。現実の出来事と記憶の像が入り混じり、世界の見え方そのものが少しずつ変わっていきます。磯﨑憲一郎らしい、夢のようで乾いた語りの運動が読みどころです。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  118. 118 2009 瘡瘢旅行 そうはんりょこう 西村賢太 単行本・講談社 『瘡瘢旅行』は、藤澤清造の墓参と女性との旅を描く、北町貫多ものの作品集です。私小説的な語りは、文学への執着、貧しさ、対人関係のこじれを隠さずに差し出します。旅の形を取りながら、過去の傷や屈辱を抱え直す作品として読めます。 貧困芸術と表現孤独と疎外
  119. 119 2009 水死 すいし 大江健三郎 単行本・講談社 『水死』は、父の死の記憶と「水死小説」の構想をめぐる、大江健三郎晩年の古義人もの長篇です。家族史、戦後史、文学を書くことが複層的に絡み、個人の記憶は国家や天皇制の問題にも接続します。長い息の文体で、作家自身の過去を再検討する作品です。 父と子記憶戦争
  120. 120 2009 ロンバルディア遠景 ろんばるでぃあえんけい 諏訪哲史 単行本・講談社 『ロンバルディア遠景』は、遠景という距離の感覚を通して、記憶、場所、言葉の変形を描く諏訪哲史の作品です。現実の土地はそのまま写されるのではなく、語りの中でずれ、遠ざかり、別の像になります。『りすん』同様、言葉そのものが主題化される実験的な小説として読めます。 言葉と言語記憶芸術と表現
  121. 121 2008 クロスフェーダーの曖昧な光 くろすふぇーだーのあいまいなひかり 飯塚朝美 初出・新潮 2008年11月号 三島由紀夫『金閣寺』をモチーフとし、宗教というテーマを現代の感覚で引き受けようとした意欲作。DJ機材の「クロスフェーダー」を題名に掲げ、ふたつの音源のあいだを行き来するように、聖なるものと現実のあいだで揺れる意識の「曖昧な光」を掬い取ろうとする。10代で文學界新人賞奨励賞を受けた早熟の書き手による… 信仰孤独と疎外芸術と表現 第40回 新潮新人賞
  122. 122 2008 ほんたにちゃん ほんたにちゃん 本谷有希子 単行本・太田出版 『ほんたにちゃん』は、本谷有希子自身を思わせるキャラクターや語りを通して、作者像と作品の境界を遊ぶ一冊として読めます。自己紹介のようでいて、虚構化された「ほんたにちゃん」が前面に出るため、メタフィクション的な楽しさがあります。小説、演劇、エッセイ的な感覚が混じる軽やかな作品です。 芸術と表現アイデンティティ言葉と言語
  123. 123 2008 いつかソウル・トレインに乗る日まで いつかソウル・トレインにのるひまで 高橋源一郎 単行本・集英社 『いつかソウル・トレインに乗る日まで』は、音楽の記憶と個人史を重ねる高橋源一郎の小説です。ソウル・トレインという題名が示すように、音楽は単なる背景ではなく、語りと記憶を運ぶ乗り物になります。ポップカルチャーと私的な痛みを接続する読みどころがあります。 芸術と表現記憶父と子
  124. 124 2008 神様のいない日本シリーズ かみさまのいないにほんシリーズ 田中慎弥 単行本・文藝春秋 『神様のいない日本シリーズ』は、「江夏の21球」で知られる1979年の日本シリーズを背景に、父と子の時間を描く中篇です。野球の記憶は、家族の記憶や時代の空気を呼び戻す装置になります。田中慎弥の乾いた語りが、父子関係の近さと断絶を浮かび上がらせます。 父と子記憶芸術と表現
  125. 125 2008 イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集 いぎりすかいがん いーはとーう たんぺんしゅう 木村紅美 単行本・メディアファクトリー 『イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集』は、宮沢賢治のイーハトーヴを思わせる場所の記憶や文学的想像力を、短篇のかたちでたどる作品集です。実在の土地と架空の地名が重なり、読むこと、訪ねること、思い出すことがひとつにつながります。静かな幻想性と地方の手触りが読みどころです。 芸術と表現記憶言葉と言語
  126. 126 2008 眼と太陽 めとたいよう 磯﨑憲一郎 単行本・河出書房新社 『眼と太陽』は、視線と光のイメージを軸に、複数の視点や時間が交差する短篇集です。見ること、見られることが、人物の記憶や世界の捉え方を変えていきます。磯﨑憲一郎らしい抽象度の高い構成が、現実を少しずつ別の角度から照らします。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  127. 127 2008 空で歌う そらでうたう 中山智幸 単行本・講談社 『空で歌う』は、歌うことや空を見上げる感覚を通して、若い人物の孤独と希望を描く作品として整理できます。芸術や声は、現実から逃げるためだけでなく、誰かに届くための手段になります。書誌以外の資料は少なく、今後は掲載誌・書評で主題を精査したい作品です。 芸術と表現青春孤独と疎外
  128. 128 2008 おひるのたびにさようなら おひるのたびにさようなら 安戸悠太 初出・文藝 2008年冬号 会社の昼休み、外階段で繰り広げられる主人公・真司と先輩女子社員たちの秘密の遊び。真司の役目は、近くの病院で音声を消した昼ドラを眺め、想像で補った物語を先輩に報告することだ。見ることと聞くことのずれ、語り直された物語と現実の重なりを入れ子状に組み上げ、ささやかな昼の儀式の終わりをせつなく描く。メディア… 労働言葉と言語芸術と表現 第45回 文藝賞
  129. 129 2008 主題歌 しゅだいか 柴崎友香 単行本・講談社 『主題歌』は、都市で暮らす人物たちの時間や感情を、音楽のように反復する記憶と結びつけて描く柴崎友香の作品です。大きな事件よりも、会話、移動、見えた風景の差異が人物の心の変化を形づくります。語りは静かですが、誰かの人生に流れている旋律を探すような読み味があります。 記憶恋愛芸術と表現
  130. 130 2008 ミュージック・ブレス・ユー!! みゅーじっく・ぶれす・ゆー 津村記久子 初出・書き下ろし単行本(KADOKAWA、2008年6月30日刊行) 高校3年生のオケタニアザミが「音楽について考えることは、将来について考えることよりずっと大事」とパンクロックを支えに「ぐだぐだの日常」を過ごす青春小説。津村記久子初の書き下ろし長編。第30回野間文芸新人賞受賞作。 青春芸術と表現一人称 第30回 野間新人賞
  131. 131 2007 アウレリャーノがやってくる あうれりゃーのがやってくる 高橋文樹 初出・新潮 2007年11月号 岩手出身のうっとりするほどの美少年・天地遍人は、高校卒業と同時に姉を頼って上京し、路上で詩を代筆する「代理詩人」を始める。やがて文芸同人「破滅派」に加入し、リーダー・紙上大兄皇子ら風変わりな同人たちにあてられて文芸活動に没頭するが、皇子の恋人・深川潮への恋心と同人の経営難が破滅を呼び寄せる。実在のオ… 芸術と表現青春恋愛 第39回 新潮新人賞
  132. 132 2007 Self-Reference ENGINE せるふれふぁれんすえんじん 円城塔 単行本・早川書房 『Self-Reference ENGINE』は、自己言及、時間、宇宙的スケールの思考実験を断片的なエピソードとして積み上げるSF小説です。物語は線形に進むよりも、定義や論理が暴走するように展開します。理論的な遊戯と小説的な冗談が同時に走る、円城塔初期の代表的な実験作として読めます。 テクノロジー言葉と言語芸術と表現
  133. 133 2007 エロマンガ島の三人 えろまんがじまのさんにん 長嶋有 単行本・エンターブレイン 『エロマンガ島の三人』は、長嶋有の異色作品集として、奇妙な地名や設定から日常の感覚をずらしていく作品です。旅行記や冒険譚のような外見を借りながら、人と場所の距離感をユーモラスに扱います。題名の軽さの奥に、どこにも完全には属せない感覚が残ります。 芸術と表現孤独と疎外移民と越境
  134. 134 2007 臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ ろうたしアナベル・リイ そうけだちつみまかりつ 大江健三郎 単行本・新潮社 『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』は、文学作品や映画的想像力を下敷きに、老い、成熟、欲望を晩年の大江健三郎が再構成する作品です。語りは引用や記憶を重ねながら、ひとつの恋愛譚に収まらないメタフィクション的な広がりを持ちます。文学を読み直すこと自体が、過去の自己を組み替える行為として描かれま… 芸術と表現老い記憶
  135. 135 2007 夢を与える ゆめをあたえる 綿矢りさ 単行本・河出書房新社 『夢を与える』は、子役からCMタレントとして成長する少女・夕子の栄光と転落を描く長編です。芸能の世界が、家族、欲望、消費される身体を映す場所として機能します。若さや人気が商品化される過程を、綿矢りさらしい鋭い観察で追う作品です。 芸術と表現同調圧力家族
  136. 136 2006 どうで死ぬ身の一踊り どうでしぬみのひとおどり 西村賢太 単行本・講談社 『どうで死ぬ身の一踊り』は、大正期の私小説家・藤澤清造の「歿後弟子」を自任する男をめぐる、西村賢太初期の作品集です。文学への執着、貧しい生活、対人関係の不器用さが、露悪的でありながら妙に律儀な語りで押し出されます。私小説の系譜を現代に引き寄せる作品として読めます。 芸術と表現労働貧困
  137. 137 2006 その街の今は そのまちのいまは 柴崎友香 単行本・新潮社 『その街の今は』は、カフェで働く歌ちゃんが古い写真に写る大阪に惹かれ、街の過去と現在を行き来する作品です。写真という媒体が、個人の記憶だけでなく都市の時間をたどる装置になります。柴崎友香らしい歩くような文体で、街を見ることと自分の現在を確かめることが重なります。 記憶芸術と表現青春
  138. 138 2006 絶対、最強の恋のうた ぜったい、さいきょうのこいのうた 中村航 単行本・小学館 『絶対、最強の恋のうた』は、恋愛の高揚と自意識のまぶしさを正面から扱う中村航の小説です。強い題名とは裏腹に、語りは若い人物の不安や不器用さにも寄り添います。恋を歌や物語として信じたい気持ちと、現実の揺らぎの間を読む作品です。 恋愛青春芸術と表現
  139. 139 2005 BGM びーじーえむ 岡田智彦 単行本・河出書房新社 現役教師として文藝賞を受賞した岡田智彦の、受賞後第一作として発表された作品。題名の「BGM」は、人物の感情を大きな事件で説明するのではなく、日常の背後で鳴り続ける気配として捉える読みを誘う。若い感覚と学校・生活の現場が交差する、2000年代文藝賞周辺の一作である。 青春芸術と表現孤独と疎外
  140. 140 2005 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ ふぬけども、かなしみのあいをみせろ 本谷有希子 単行本・講談社 両親の事故死をきっかけに、女優を夢見る自己中心的な姉・澄伽が田舎の実家へ戻ってくる。妹、兄夫婦、家族内の記憶と嫉妬が、痛烈な喜劇として噴き出す。本谷有希子の戯曲的な会話と、家族を安全な場所として描かない毒の強さが読みどころである。 家族芸術と表現暴力
  141. 141 2005 ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ 高橋源一郎 単行本・集英社 宮沢賢治の作品やイメージを、高橋源一郎流に再配置するようなタイトルをもつ作品集。古典的な作家をそのまま讃えるのではなく、引用、変奏、遊びを通じて、文学を現在の言葉で鳴らし直す。メタフィクションとリミックス感覚が結びついた、高橋作品らしい一冊である。 芸術と表現言葉と言語記憶
  142. 142 2005 さようなら、私の本よ! さようならわたしのほんよ 大江健三郎 単行本・講談社 『さようなら、私の本よ!』は、老作家・長江古義人と建築家・塙吾良を軸に、文学、暴力、記憶の継承を問い直す長編です。作中人物と作者像が重なり合うメタフィクション的な構えのなかで、晩年の作家が自作と時代にどう別れを告げるかが描かれます。会話と回想を積み重ねる長い息の文体が、個人史と政治的記憶を結びつけて… 芸術と表現記憶暴力
  143. 143 2005 性交と恋愛にまつわるいくつかの物語 せいこうとれんあいにまつわるいくつかのものがたり 高橋源一郎 単行本・朝日新聞社 『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』は、性と恋愛をめぐる語りを、物語そのものへの問いと重ねて扱う作品です。高橋源一郎の小説らしく、露骨な題材を単純な告白にせず、言葉が欲望をどう作り替えるかを意識させます。恋愛小説の形式をずらしながら、身体、関係、語りの自由度を探る読みどころがあります。 恋愛言葉と言語
  144. 144 2004 ぐるぐるまわるすべり台 ぐるぐるまわるすべりだい 中村航 単行本・文藝春秋 失意の青年が、バンドや仲間との関係の中で少しずつ再生へ向かう連作短篇集。若者の閉塞感を、深刻さだけでなく、音楽や会話の軽さ、少しずつ回り続ける遊具のような時間感覚で描く。中村航の青春小説としての明るさと、何者にもなれない痛みが並走する。 青春芸術と表現孤独と疎外 第26回 野間新人賞
  145. 145 2004 初子さん はつこさん 赤染晶子 初出・文學界 2004年12月号 あんパンとクリームパンしか売らないパン屋の二階で、ひたすらミシンを踏む洋裁職人の初子さん。一枚の布が誰かの身体を待つ服になることに魅せられて職人になったものの、夢を叶えた先に広がるのは単調な日々だった。京都の田舎町のよどんだ空気と、そこで生きる女性の手仕事の時間を、とぼけたユーモアと正確な観察で描く… 労働孤独と疎外芸術と表現 第99回 文學界新人賞
  146. 146 2004 High and dry(はつ恋) ハイ・アンド・ドライ(はつこい) 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 14歳の少女・夕子の、年上の男性への初恋を描く長編。年齢差のある関係を、危うさよりも、少女の感覚が外界へ開かれていく時間として追っていく。吉本ばななの作品らしく、恋の痛みと透明な夢見心地が同じ調子で語られる。 恋愛青春芸術と表現
  147. 147 2003 江利子と絶対 本谷有希子文学大全集 えりことぜったい ほんたにゆきこぶんがくだいぜんしゅう 本谷有希子 単行本・講談社 劇作家として活動していた本谷有希子が、小説家として最初にまとめた短篇集。表題の「江利子と絶対」を含む諸篇では、過剰な自意識、対人関係のずれ、舞台劇のような会話の圧が前面に出る。後年の本谷作品に続く、痛さと可笑しさを同時に押し出す語りの出発点として読める。 アイデンティティ芸術と表現孤独と疎外
  148. 148 2003 極東アングラ正伝 きょくとうあんぐらせいでん 佐川光晴 単行本・双葉社 佐川光晴が、都市の周縁や表舞台の外側にある生の感覚へ目を向けた2003年の作品。題名が示す「アングラ」は、文化や労働や生活が公的な語りからこぼれ落ちる場所を思わせる。デビュー期から一貫する、きれいごとでは済まない生活への視線をたどる一冊として位置づけられる。 労働芸術と表現孤独と疎外
  149. 149 2002 官能小説家 かんのうしょうせつか 高橋源一郎 単行本・朝日新聞社 永井荷風と森鷗外を軸に、「官能」と文学の歴史をめぐって展開する高橋源一郎の長編。近代文学の作家を素材にしながら、性、表現、文学史をメタフィクションとして組み替える。日本文学を読むこと自体を小説の快楽へ変える作品。 芸術と表現言葉と言語
  150. 150 2001 ゴヂラ ゴヂラ 高橋源一郎 単行本・新潮社 高橋源一郎が2001年に刊行した作品で、怪獣映画を思わせる表記を小説の入口に置く。戦後日本の記憶、メディアの記号、文学の語りを重ね、現実とフィクションの境界を揺さぶるタイプの作品として読める。内容細部は追加確認が必要だが、実験的な社会批評性を持つ作品として分類する。 芸術と表現言葉と言語戦争
  151. 151 2001 日本文学盛衰史 にほんぶんがくせいすいし 高橋源一郎 単行本・講談社 明治の文学者たちを現代の事物と混在させて描く、高橋源一郎の長編。日本文学史そのものを小説の材料にし、正典や文学制度をパロディと批評の対象に変える。文学をめぐる知識が物語の中で揺さぶられる、メタフィクション性の高い作品。 芸術と表現言葉と言語記憶
  152. 152 2001 次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? つぎのまちまで、きみはどんなうたをうたうの 柴崎友香 単行本・河出書房新社 柴崎友香の初期作品で、次の町へ向かう移動の感覚と、若い人々の会話や音楽の気配を描く。大きなドラマではなく、場所が変わるときの心の揺れ、友人関係の距離、都市の日常の質感が中心になる。後の柴崎作品に通じる、移動と観察の文学として読める。 青春芸術と表現孤独と疎外
  153. 153 2000 (世界記録) せかいきろく 横田創 初出・群像 2000年6月号 括弧でくくられた題名がすでに仕掛けになっている、劇作家出身の新人による実験的なデビュー作。世界を「写生=記録」しサンプリングするような手つきで、書くことと現実のあいだのずれを執拗に往復する。単行本には小説とあわせて戯曲二篇が収められ、演劇の言葉と小説の言葉を行き来してきた作者の出自がそのまま本の形に… 言葉と言語芸術と表現アイデンティティ 第43回 群像新人賞
  154. 154 2000 取り替え子(チェンジリング) とりかえこ 大江健三郎 単行本・講談社 義兄・吾良の自死をきっかけに、作家・古義人が過去の謎をたどる長編。録音された声や記憶を通して死者と対話し、家族史、映画、芸術、自己の来歴が絡み合う。大江後期の「おかしな二人組」三部作へつながる、喪失と再生の作品。 死と喪失家族記憶
  155. 155 1999 ロックンロールミシン ろっくんろーる みしん 鈴木清剛 初出・「新潮」掲載後、河出書房新社1999年刊 会社員の主人公が高校時代の友人が旗揚げしたインディーズファッションブランド「ストロボ・ラッシュ」に関わるうち服作りに巻き込まれていく物語。ファッション業界経験を持つ作者の実感が生きた軽快な青春小説。第12回三島由紀夫賞受賞(堀江敏幸と同時)。 青春芸術と表現都市・郊外 第12回 三島賞
  156. 156 1998 カブキの日 かぶきのひ 小林恭二 初出・新潮社1998年刊 歌舞伎の世界を舞台にメタフィクション的なユーモアと批評性を盛り込んだ小説。「小説伝」以来の実験的な語りの手法が成熟した作品。第11回三島由紀夫賞受賞。 芸術と表現メタフィクション都市・郊外 第11回 三島賞
  157. 157 1998 おぱらばん おぱらばん 堀江敏幸 初出・青土社1998年刊 フランスの郊外に暮らす「私」が時代に忘れられた文学への愛惜と結びつきながら書いた15篇。表題作は、中国人が「以前(オーパラバン)」と発音すると外国人には「おぱらばん」と聞こえるという着想から卓球名人の肖像を描く。エッセイと純文学の境界を横断する形式が新鮮な小説集。第12回三島由紀夫賞受賞(鈴木清剛と… 言葉と言語記憶芸術と表現 第12回 三島賞
  158. 158 1997 ゴーストバスターズ 冒険小説 ゴーストバスターズ ぼうけんしょうせつ 高橋源一郎 単行本・講談社 ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドら複数の登場人物が時代・国境を越えて謎の「ゴースト」を追う、メタフィクション的構造を持つ実験的長編冒険小説。 芸術と表現メタフィクション実験的文体
  159. 159 1997 街の座標 まちのざひょう 清水博子 初出・「すばる」1997年 下北沢を舞台に、文学系女子大生が「S区S街」を描いた女性作家を追いながら、書くことと読むことの関係を問うデビュー作。2001年「処方箋」で野間文芸新人賞を受賞した。 言葉と言語芸術と表現メタフィクション 第21回 すばる文学賞
  160. 160 1997 三絃の誘惑 さんげんのゆわく 樋口覚 初出・新潮社1997年刊 近代日本精神史を三絃(三味線)という楽器を軸に辿った評論。副題は「近代日本精神史覚え書」。日本の近代化と伝統芸能の交錯を独自の視点で照射した。第10回三島由紀夫賞受賞。 芸術と表現日本史 第10回 三島賞
  161. 161 1996 おとうと 石原慎太郎 単行本・幻冬舎 弟・石原裕次郎の生涯を兄の視点から描いた伝記的長編小説。 家族死と喪失芸術と表現
  162. 162 1996 マンモスの牙 まんもすのきば 小山右人 初出・「新潮」1996年11月号 医学とアートを渉猟した独自の視点による小説。後に映画化もされた。 身体芸術と表現寓話・幻想 第28回 新潮新人賞
  163. 163 1996 折口信夫論 おりくちしのぶろん 松浦寿輝 初出・太田出版1995年刊 民俗学者・歌人・小説家である折口信夫の主著「死者の書」等を通じて、折口の幻惑的な世界と思想を「折口の言葉そのものの中で折口から遠ざかろう」という姿勢で読み解いた評論。伝記研究と一線を画す作品批評の手法で第9回三島由紀夫賞を受賞。 言葉と言語芸術と表現 第9回 三島賞
  164. 164 1995 デッドエンド・スカイ でっどえんど・すかい 清野栄一 初出・「文學界」1995年12月号(第81回受賞、塩崎豪士と同時受賞) 都市の音楽シーンと若者の閉塞感を描いたデビュー作。DJでもある著者の感性が横溢する。 青春芸術と表現都市・郊外 第81回 文學界新人賞
  165. 165 1995 紅栗 べにぐり 冬川亘 初出・「新潮」1995年11月号 『紅栗』は、SF翻訳家としても活動した冬川亘の短編小説で、新潮新人賞受賞作として登録されています。既存情報では詳細な筋は限られますが、翻訳・SF的想像力を背景にした作家の純文学的実作として位置づけられます。題名の色彩感と身体的な質感から、幻想性を含む短篇として分類しました。 芸術と表現身体寓話・幻想 第27回 新潮新人賞
  166. 166 1994 昭和歌謡大全集 しょうわかようだいぜんしゅう 村上龍 単行本・集英社 昭和歌謡を愛する青年グループと中年女性グループの殺し合いをブラックユーモアで描く長編。 暴力芸術と表現三人称・多視点
  167. 167 1993 私の自叙伝前篇 わたしのじじょでん ぜんぺん 竹野雅人 初出・「群像」1993年7月号、講談社1994年刊 テレビアニメのスタッフを主人公とした自伝的色彩の強い小説。東宝でアニメ制作に携わる作家自身の経験を素材に、若者のアイデンティティと仕事への逡巡を描く。第16回野間文芸新人賞受賞。 アイデンティティ芸術と表現労働 第16回 野間新人賞
  168. 168 1992 音符 おんぷ 三浦恵 初出・「文藝」1992年 『音符』は、三浦恵が第29回文藝賞を受賞した作品です。NDLでは1993年河出書房新社版の単行本書誌と『文藝』1992年12月号の書誌を確認しました。音楽的な題名を持つ作品ですが、内容を詳述した信頼できる公開資料は今回確認できず、紹介は受賞・書誌中心です。 芸術と表現青春簡潔な文体 第29回 文藝賞
  169. 169 1992 チューリップの誕生日 ちゅーりっぷのたんじょうび 楡井亜木子 初出・「すばる」1992年 『チューリップの誕生日』は、女子高生がロックバンドで活動する姿を描く青春小説です。音楽を通じて学校生活や仲間との関係が動き、若い身体感覚と自己表現への欲求が前面に出ます。すばる文学賞受賞作として、1990年代初頭の若い書き手の感性を示す作品です。 青春芸術と表現学校 第16回 すばる文学賞
  170. 170 1991 西行花伝 さいぎょうかでん 辻邦生 初出・「新潮」1991年1月号〜1993年6月号(断続連載・全24回)。単行本1995年新潮社刊。初出連載開始年(1991年)を year とした。 『西行花伝』は、平安末期の歌人・西行の生涯を、架空の弟子・藤原秋実の視点から描く大作歴史小説です。出家の謎、和歌、信仰、絶対美への希求が、貴族社会の精緻な描写の中で重なっていきます。歴史小説でありながら、芸術とは何かを問う思索小説として読めます。 芸術と表現信仰三人称・多視点 第31回 谷崎賞
  171. 171 1990 惑星P-13の秘密 わくせいピーじゅうさんのひみつ 高橋源一郎 単行本・角川書店 『惑星P-13の秘密』は、二台の壊れたロボットが読み漁る架空の書物を集めたという体裁の作品集です。音楽、スポーツ、文学などの言説を断片化し、偽書やパロディとして再構成するメタフィクションになっています。高橋源一郎らしい、世界文学を遊びながら解体するユーモアが前面に出た一冊です。 芸術と表現メタフィクション架空社会
  172. 172 1989 ペンギン村に陽は落ちて ペンギンむらにひはおちて 高橋源一郎 単行本・集英社 高橋源一郎が1989年に刊行した、ポップカルチャーの記号と小説の語りを交差させる作品。題名からも分かるように、既存の文化記号をずらして使い、文学とメディアの境目を揺さぶる。筋よりも、引用、冗談、語りの脱線が作る運動を読む作品。 芸術と表現言葉と言語実験的文体
  173. 173 1988 優雅で感傷的な日本野球 ゆうがでかんしょうてきなにほんやきゅう 高橋源一郎 初出・海 1986年〜(連作) 「ぼくは野球を知らなかった」――野球が忘れ去られた世界で、語り手は「日本野球」の神髄を教わろうとする。断片的な7つの章で構成され、実在の選手や球団の記憶、「1985年、阪神タイガースは本当に優勝したのだろうか」という問いをめぐって、パロディとパスティーシュ(既存作品の文体模倣)を駆使した物語が時空を… 言葉と言語芸術と表現記憶 第1回 三島賞
  174. 174 1988 少年アリス しょうねんありす 長野まゆみ 初出・「文藝」1988年冬季号(河出書房新社) 『少年アリス』は、耽美的で幻想的な世界に生きる少年たちを描く長野まゆみのデビュー作です。物語の筋よりも、詩的な言葉、異界的な舞台、少年たちの気配が作品世界を形づくります。以後の長野作品に通じる、美しく閉じた幻想世界の原点として読めます。 芸術と表現寓話・幻想学校 第25回 文藝賞
  175. 175 1987 懐かしい年への手紙 なつかしいとしへのてがみ 大江健三郎 単行本・講談社 語り手が導き手である「ギー兄さん」との関係をたどりながら、自分の文学的半生と故郷の森の記憶を再構成する自伝的長編。私小説の形式を借りながら、実際には作家自身と架空の人物をずらし、記憶・読書・共同体の物語を重ねていく。ダンテを媒介に、帰郷できない作家が森の村と文学の場所を問い直す。 記憶芸術と表現アイデンティティ
  176. 176 1987 69 sixty nine シックスティナイン 村上龍 単行本・集英社 1969年の佐世保を舞台に、高校生ケンの反乱と文化祭騒動を描く自伝的青春小説。政治の季節、ロック、映画、性への憧れが混ざり合い、重い時代背景を祝祭的な語りで駆け抜ける。村上龍作品の中では、暴力や破滅よりも若者のエネルギーとユーモアが前面に出る。 青春芸術と表現
  177. 177 1987 スティル・ライフ すてぃる・らいふ 池澤夏樹 初出・「中央公論」1987年10月特大号(第102年第12号)。単行本は1988年・中央公論社刊 『スティル・ライフ』は、染色工場で働く「ぼく」と、世界を少し離れた位置から見ている佐々井との交流を描く短篇です。大きな事件よりも、労働、会話、都市の時間の中で、世界が静かにつながって存在している感覚を描きます。透明感のある文体と、孤独を否定しない清澄な肯定感が読みどころです。 孤独と疎外芸術と表現一人称 第98回 芥川賞
  178. 178 1987 ヴェクサシオン ヴェクサシオン 新井満 初出・単行本(文藝春秋、1987年9月)。初出誌は未確認。 都会に暮らす現代人の心象を詩的な物語性で繊細に描いた作品。新井満は翌1988年「尋ね人の時間」で第99回芥川賞を受賞した。第9回野間文芸新人賞受賞作。 恋愛芸術と表現身体 第9回 野間新人賞
  179. 179 1986 M/Tと森のフシギの物語 エムティーともりのフシギのものがたり 大江健三郎 単行本・岩波書店 四国の森に伝わる物語を、M=母権的な存在とT=トリックスター的な存在の対立・変奏として語る長編。村の伝承、神話、人類学的な型を組み合わせ、作家の幼年期の森を大きな物語装置へ変えていく。短い断章を積み重ねる構成で、個人の記憶と共同体の神話が互いに照らし合う。 記憶アイデンティティ家族
  180. 180 1986 復活祭のためのレクイエム ふっかつさいのためのれくいえむ 新井千裕 初出・「群像」1986年6月号 『復活祭のためのレクイエム』は、コピーライターを主人公に、言葉と笑いが交錯する軽快な実験小説です。復活祭という宗教的な題を掲げつつ、広告的な言語感覚や都市的な軽さを作品の推進力にしています。単行本刊行も確認でき、1980年代半ばの群像新人文学賞系の言語実験として読めます。 言葉と言語芸術と表現実験的文体
  181. 181 1985 ジョン・レノン対火星人 ジョン・レノンたいかせいじん 高橋源一郎 単行本・角川書店 高橋源一郎の初期作品で、音楽、SF的な想像力、文学の制度を横断するような題名の通り、ジャンルの境界を遊びながら崩していく。物語の筋だけでなく、固有名やサブカルチャーの断片が語りを動かす点に読みどころがある。実験的な笑いと不穏さが同居する、ポストモダン文学の入口に置ける作品。 芸術と表現言葉と言語アイデンティティ
  182. 182 1984 虹の彼方に にじのかなたに 高橋源一郎 単行本・中央公論社 高橋源一郎の初期長編で、ポップカルチャーの速度と文学的な実験が混ざり合う作品。既成の小説らしさをずらしながら、語りの軽さ、引用、遊びの感覚で現代の気分を立ち上げる。筋を追うだけでなく、言葉やジャンルがほどけていく過程を読む作品として扱いたい。 芸術と表現言葉と言語青春
  183. 183 1984 天北の詩人たち てんぽくのしじんたち 冬木薫 初出・「すばる」1984年12月号(集英社) 北海道の雪深い大地に生きる人々の熱い思いを詩情豊かに描く青春小説。厳しい冬と春への希望を背景に、詩と文学を愛する若者たちの情熱を謳う。 青春芸術と表現地方
  184. 184 1984 夢遊王国のための音楽 ゆめゆうこくのためのおんがく 島田雅彦 初出・単行本(福武書店、1984年)。初出誌は未確認。 千々石雅という青年の頭の中で鳴る音楽が、妄想的な思考と語る言葉を加速させていく作品。島田雅彦公式サイトは、管理と支配に満ちた現在を生きる若者の矛盾と混乱を、クラシック音楽形式の実験的手法で描いた作品として紹介している。音楽形式を小説の構造に取り込み、現実感覚の不安定さを文体そのものに反映させる点が読… 芸術と表現孤独と疎外同調圧力 第6回 野間新人賞
  185. 185 1983 新しい人よ眼ざめよ あたらしいひとよめざめよ 大江健三郎 単行本・講談社 障害を持つ息子イーヨーとの日常を、ウィリアム・ブレイクの詩を媒介に見つめ直す連作小説。語り手は息子の成長、死や性への問い、家族のなかの不安を受け止めながら、文学の言葉が現実のケアとどのように結びつくかを探る。私小説的な素材を思想的な読解と重ねることで、父と子の関係を閉じた家族の物語にせず、他者と共に… 家族身体芸術と表現
  186. 186 1983 だいじょうぶマイ・フレンド だいじょうぶマイ・フレンド 村上龍 単行本・集英社 村上龍が1983年に刊行した、映画化とも接続するポップな幻想小説。現実の都市感覚に、異質な存在との遭遇や友情のモチーフを重ね、初期村上龍の暴力的なリアリズムとは別の軽さを見せる。サブカルチャー、映像、音楽的な速度感を小説へ持ち込む読みどころがある。 青春芸術と表現孤独と疎外
  187. 187 1983 カンガルー日和 かんがるーびより 村上春樹 単行本・平凡社 村上春樹の初期短編集で、ショートショートを含む短い物語が並ぶ。日常の手ざわりからふいに幻想へ滑り込む語り口が特徴で、軽いユーモアの奥に孤独や関係の不確かさが残る。後年の長編へ続く比喩、欠落、都市生活者の感覚をコンパクトに読むことができる。 孤独と疎外恋愛芸術と表現
  188. 188 1983 応為坦坦録 おういたんたんろく 山本昌代 初出・「文藝」1983年冬季号(河出書房新社) 『応為坦坦録』は、浮世絵師・葛飾北斎の娘である応為(お栄)と父北斎の関係を描く歴史小説的なデビュー作です。芸術家の家族関係、創作の継承、父娘の緊張が、江戸の美術史的な題材を通して浮かび上がります。女性の創作者を中心に据える視点が読みどころです。 芸術と表現父と子方言・口語 第20回 文藝賞
  189. 189 1983 雪野 ゆきの 赤瀬川原平 初出・「文學界」1983年2月号 著者の中学以来の友人である実在の画家・雪野恭弘を軸に若い頃の自伝的体験を描く実名小説。ペンネーム「尾辻克彦」による発表。第5回野間文芸新人賞受賞。 芸術と表現記憶青春 第5回 野間新人賞
  190. 190 1982 「雨の木」を聴く女たち 「レイン・ツリー」をきくおんなたち 大江健三郎 単行本・新潮社 「雨の木」という象徴的なイメージを核に、死者の記憶、喪失、救いの可能性をめぐる連作短篇集。マルカム・ラウリーなど西洋文学への参照と、樹木・音・女性たちの声が重なり、現実の痛みを神話的な想像力へ押し広げていく。大江健三郎の1980年代の作品群のなかでも、個人的な死生観と文学的引用が静かに響き合う作品と… 死と喪失記憶芸術と表現
  191. 191 1982 さようなら、ギャングたち さようならギャングたち 高橋源一郎 単行本・講談社 詩の学校で教える「僕」と、名前や物語のルールがずれていくギャングたちの世界を、断章・引用・言葉遊びで組み上げるデビュー長編。ギャングたちは犯罪集団というより、言語と記憶のなかで生成される虚構の仲間として現れ、物語は詩、ポップカルチャー、メタフィクションを軽やかに横断する。青春小説の形式を借りながら… 芸術と表現青春アイデンティティ
  192. 192 1981 極楽 ごくらく 笙野頼子 初出・「群像」1981年 『極楽』は、笙野頼子のデビュー作にあたる群像新人文学賞当選作です。既存情報では、のちにフェミニズム純文学や実験的語りを切り開く作家の出発点として位置づけられます。詳細な梗概は限定的ですが、制度や現実感への違和を独自の語りで押し出す初期作として読めます。 芸術と表現息苦しい
  193. 193 1979 同時代ゲーム どうじだいゲーム 大江健三郎 単行本・新潮社 四国の森の谷間にある「村=国家=小宇宙」を、手紙・神話・歴史の断片を重ねて語り直す実験的長編。語り手は村の起源、反乱、血縁、移住の記憶を再編し、個人の物語ではなく共同体が自分自身を語る仕組みそのものを小説化する。大江の森の神話と戦後政治への問いが、濃密な語りの構造として展開される。 記憶アイデンティティ暴力
  194. 194 1957 裸の王様 はだかのおうさま 開高健 初出・「文學界」1957年12月号(第38回芥川賞受賞) 『裸の王様』は、企業の付設美術教室で働く主人公が、子どもたちの表現を管理しようとする組織と向き合う短篇です。子どもの自由な絵と大人の制度的な論理を対比させ、個人が組織に取り込まれていく過程を批評します。開高健の社会批評性と寓話性が、読みやすい構図のなかに収まった出世作です。 芸術と表現同調圧力労働 第38回 芥川賞
  195. 195 1956 金閣寺 きんかくじ 三島由紀夫 初出・「新潮」1956年1〜10月号連載。単行本は1956年10月、新潮社刊。 『金閣寺』は、1950年の金閣寺放火事件に着想を得て、吃音と自己嫌悪を抱える若い僧が美に囚われていく過程を描く長篇です。金閣の絶対的な美が主人公の現実感を侵食し、破壊衝動へ変わるまでを緊密な心理描写で追います。三島由紀夫の美意識とニヒリズムが最も鋭く結びついた戦後文学の代表作です。 芸術と表現身体暴力
  196. 196 1952 或る「小倉日記」伝 あるこくらにっきでん 松本清張 初出・「三田文学」1952年9月号(第28回芥川賞受賞) 『或る「小倉日記」伝』は、森鷗外の小倉時代を記録することに生涯を傾けた人物を主人公にする短篇です。文学史の周縁にいる無名の調査者の執念をたどり、資料を追う行為そのものを物語化しています。史実と想像を接続する構成が、のちの松本清張の記録性・推理性を予告します。 記憶芸術と表現障害 第28回 芥川賞