Themes

主題「性」に分類された 113 作品。

  1. 001 2026 姥皮 うばかわ 三国美千子 初出・「新潮」2026年4月号 女系の強い家に伝わる大叔母・あけ美さんから譲り受けた「皮」をめぐる奇譚。性愛と生殖の不気味さを穿つ幻想的な短篇。単行本未収録。 身体寓話・幻想
  2. 002 2025 女の子の背骨 おんなのこのせぼね 市川沙央 単行本・文藝春秋 『女の子の背骨』は、先天性筋疾患を抱える10歳の少女ガゼルの家族旅行を描く表題作と、中篇「オフィーリア23号」を収めた第二小説集です。病気の姉、障害をもつ身体、家族、性、文学表象をめぐる言葉が、前作『ハンチバック』以後の市川沙央の問題意識をさらに広げる。身体から発せられる語りが、ケアされる側、見る側… 障害身体家族
  3. 003 2025 YABUNONAKA ヤブノナカ 金原ひとみ 単行本・文藝春秋 『YABUNONAKA』は、文芸誌元編集長への性加害告発をきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の人物たちの日常が絡み合っていく長篇です。MeToo運動、マッチングアプリ、SNSといった現代の環境を背景に、性、権力、暴力、愛、そして「わかりあえないこと」の先を群像劇として描く。文芸業界そのものを… ジェンダー暴力
  4. 004 2023 浮遊 ふゆう 遠野遥 単行本・河出書房新社 『浮遊』は、年の離れたITベンチャーCEOの男と暮らす十六歳のふうかを中心に、日常とホラーゲームの感覚が浸み合っていく長編である。男の元恋人を象ったマネキンの下で夜ごとゲームの悪霊から逃げる設定が、現実の人間関係の不気味さと重なり、身体感覚と恐怖の境界を揺らす。遠野遥らしい乾いた文体で、依存、欲望… 身体テクノロジー
  5. 005 2023 ハンチバック ハンチバック 市川沙央 初出・文學界 2023年5月号 重度の先天性ミオチュブラー・ミオパチーのため人工呼吸器と電動車椅子を使い、両親が遺したグループホームで暮らす井沢釈華。背骨がS字に湾曲した彼女は、通信制大学で学び、ウェブにコタツ記事や性的な小説を書き、匿名アカウントで「妊娠と中絶がしてみたい」と挑発的な呟きを放つ。その呟きを、彼女の書いたものをすべ… 障害身体 第169回 芥川賞
  6. 006 2023 おわりのそこみえ おわりの そこみえ 図野象 初出・「文藝」2023年冬季号 『おわりのそこみえ』は、消費者金融のアプリとマッチングアプリを行き来しながら暮らす二十五歳の美帆を描く。買い物依存と性依存を抱え、明日を必要としないように生きる彼女の現在が、地獄の底へ向かうような勢いで語られる。貧困、性、孤独の問題を、切迫した一人称のリズムで押し切る作品。 貧困孤独と疎外
  7. 007 2022 教育 きょういく 遠野遥 単行本・河出書房新社 成績向上のために性的な規律が制度化された学校を舞台に、生徒たちは管理された欲望と競争のなかで「正しさ」に従っていく。語り手は異様なルールを淡々と受け入れ、読者は倫理の壊れた環境が日常として語られる不気味さに引きずり込まれる。学園小説の形を借りながら、教育、身体、成績主義、同調の圧力が人間の判断をどう… 同調圧力身体
  8. 008 2021 生を祝う せいをいわう 李琴峰 単行本・朝日新聞出版 子どもを産むためには、その子自身から「この世界に生まれてきたい」という同意を得なければならない社会を舞台にした長編。出生を祝福するはずの制度が、親になること、同意、身体、存在の選択をめぐる問いを鋭く浮かび上がらせる。芥川賞受賞作『彼岸花が咲く島』の後に刊行された作品で、現実の倫理問題を架空制度として… 身体家族アイデンティティ
  9. 009 2021 死者にこそふさわしいその場所 ししゃにこそふさわしいそのばしょ 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 折口山に暮らす奇妙でどこか壊れた人々が、町はずれの植物園へ引き寄せられていく連作短篇集。介護、欲望、病、善意の暴走といった日常の歪みを、グロテスクで滑稽な筆致で少しずつ現実からずらしていく。表題作を含む六篇を通じて、怖さと可笑しさが同居する吉村萬壱の寓話的な人間観察が前面に出る。 ケアと介護身体
  10. 010 2020 fishy フィッシー 金原ひとみ 単行本・朝日新聞出版 三十代の女性三人が、それぞれの恋愛、結婚、仕事、女友だちとの距離を抱えながら、言い切れない本音をにじませていく連作長篇。男に対する屈託や違和感を、単純な対立ではなく、関係性が少しずつ更新される過程として描く。会話と内面の揺れを重ね、友情、欲望、自立の輪郭が変わっていく読み味がある。 恋愛ジェンダー労働
  11. 011 2020 破局 はきょく 遠野遥 初出・文藝 2020年夏季号 主人公の陽介は、筋トレと公務員試験の勉強に励む大学4年生。母校のラグビー部でコーチも務め、政治家を目指す恋人・麻衣子がいる。やがて新入生の灯に好意を寄せられ、関係を持つようになる。陽介は常に「正しさ」やマナー、他人にどう見られるかを基準に行動するが、その整いすぎた思考と行動のあいだには、どこか空洞が… 恋愛身体 第163回 芥川賞
  12. 012 2020 犬のかたちをしているもの いぬのかたちをしているもの 高瀬隼子 初出・すばる 2019年11月号 間橋薫は卵巣の手術を経て、恋人の郁也とも性交渉から距離を置いて暮らしている。そこへ郁也の子を妊娠したという女性が現れ、子どもを育ててくれないかと唐突に持ちかける。愛をどう証明するのか、子どもを産むことと持つことは何を意味するのかを、薫の身体感覚と故郷の家族への思いを通じて問うデビュー作。 身体家族 第43回 すばる文学賞
  13. 013 2020 完全犯罪の恋 かんぜんはんざいのこい 田中慎弥 単行本・講談社 『完全犯罪の恋』は、芥川賞受賞後も地味な暮らしを送る四十男の小説家「田中」が、新宿で初恋の相手の娘に声をかけられるところから始まる長編。物語は現在の東京と、下関の高校時代に読書を通じて近づいた才女・真木山緑との記憶を往還し、恋の独りよがりと罪悪感を掘り下げる。作家本人を思わせる語り手を置き、私小説的… 恋愛記憶芸術と表現
  14. 014 2020 サピエンス前戯 さぴえんすぜんぎ 木下古栗 単行本・河出書房新社 『サピエンス前戯』は、表題作「サピエンス前戯」に「オナニーサンダーバード藤沢」「酷暑不刊行会」を加えた長編小説集。身長、寿命、インターネット、ポルノ文化など、21世紀の人間の能力や欲望が極点に達した世界を、人類史のまだ前戯にすぎないものとして誇張してみせる。シンギュラリティSF、下世話な身体感覚、過… テクノロジー身体
  15. 015 2020 丸の内魔法少女ミラクリーナ まるのうちまほうしょうじょミラクリーナ 村田沙耶香 単行本・KADOKAWA 表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』に、『秘密の花園』『無性教室』『変容』を加えた四篇の短篇集。魔法少女、秘密の領域、無性化、変容といった設定を通じて、社会が当然視する性別、年齢、役割、自己像をずらして見せる。村田沙耶香らしい寓話的な発想と日常の手ざわりが同居し、軽やかさの奥に規範への違和感が残る。 アイデンティティジェンダー
  16. 016 2020 肉体のジェンダーを笑うな にくたいのじぇんだーをわらうな 山崎ナオコーラ 単行本・集英社 『肉体のジェンダーを笑うな』は、夫の胸から「父乳」が出る話や、PMSを体験できるサーフボードの話などを収めた小説集。身体に結びつけられた性別役割を、SF的な設定や軽やかなユーモアでずらし、家族・ケア・労働の当たり前を問い直す。現実の制度を直接論じるより、ありえたかもしれない身体の可能性を想像すること… ジェンダー身体夫婦
  17. 017 2020 流卵 りゅうらん 吉村萬壱 単行本・河出書房新社 『流卵』は、中学2年の男子が性の目覚めとオカルト的な妄想に取りつかれ、自分を「選ばれた民」とみなして向こう側の世界へ進もうとする長篇。河出書房新社公式は、官能と陶酔を帯びた吉村萬壱版『金閣寺』として紹介している。母親に「ヘンタイ」と呼ばれる少年の半生をたどる書評もあり、性・信仰・自己神話が混ざる不穏… 青春信仰
  18. 018 2020 象牛 ぞうぎゅう 石井遊佳 単行本・新潮社 表題作は、インド・ガンジス河岸の聖地にやってきた女子大生が、謎の存在である象牛に翻弄される物語。併録の『星曝し』は大阪の淀川河岸を思わせる比ラカ駄を舞台に、恋に似た激しい熱情と死者の気配を描く。現実の痛みと法螺話めいた幻想が混ざり合う、石井遊佳の芥川賞受賞後初の作品集。 身体暴力
  19. 019 2020 お面 おめん 三国美千子 初出・「新潮」2020年12月号 三島由紀夫没後50年記念特集「私の『仮面の告白』」(三島由紀夫の没後に生まれた作家4名による換骨奪胎創作)の一篇として掲載された短篇。単行本未収録。 アイデンティティメタフィクション
  20. 020 2019 アタラクシア アタラクシア 金原ひとみ 単行本・集英社 結婚生活の苦しさや不倫、家庭内の苛立ちを抱える複数の男女を描く群像長編。翻訳者の由依、シェフの瑛人、パティシエの英美、作家の桂らの視点を通じて、望んで結婚したはずなのに救われない人々の孤独と愛情への渇望が交錯する。倫理や制度では割り切れない親密さの痛みを、金原ひとみらしい熱量で描く。 恋愛夫婦家族
  21. 021 2019 改良 かいりょう 遠野遥 単行本・河出書房新社 女装し、美しくなることに執着する大学生の「私」を描くデビュー作。コールセンターのアルバイト収入を美容やデリヘルに費やす私は、メイクや服装、仕草を研究し、やがて女装した自分を他人に認められたいという欲望を抱く。その望みは、性をめぐる理不尽な暴力と絶望へ向かっていく。 身体ジェンダー 第56回 文藝賞
  22. 022 2019 夏物語 なつものがたり 川上未映子 単行本・文藝春秋 『乳と卵』の世界を引き継ぎ、作家となった夏子が、パートナーなしで妊娠・出産し子どもを持つ可能性を考え始める長篇。姉・巻子や姪・緑子の身体をめぐる物語を背後に、生まれること、産むこと、産まないこと、家族の形をめぐる声が重なっていく。文藝春秋公式が掲げる「生まれること」と「産むこと」の非対称性の問いを中… 身体家族
  23. 023 2019 夜はおしまい よるはおしまい 島本理生 単行本・講談社 「夜のまっただなか」「サテライトの女たち」「雪ト逃ゲル」「静寂」を収めた短篇集。夜、逃避、静けさといった収録作名が示すように、関係の余白や孤独を抱えた人物たちの時間を描く。島本理生の恋愛や家族関係をめぐる繊細な筆致を、より暗く静かなトーンで味わえる作品集として位置づけられる。 恋愛家族孤独と疎外
  24. 024 2019 犬のかたちをしているもの いぬのかたちをしているもの 高瀬隼子 初出・「すばる」2019年11月号 『犬のかたちをしているもの』は、卵巣手術後に性交渉を拒むようになった三十歳の薫が、恋人の子を妊娠した女性から子どもを引き取らないかと提案される物語。快楽、生殖、子どもを持つことをめぐる問いが、恋愛関係や身体の履歴と重なって進む。集英社文芸公式は「一人の女性の醸成してきた問い」の行方を描く作品として紹… 身体家族 第43回 すばる文学賞
  25. 025 2019 デッドライン でっどらいん 千葉雅也 初出・「新潮」2019年9月号、同年12月新潮社より単行本刊行 『デッドライン』は、2000年代初頭の東京を舞台に、修士論文の締切を抱える「僕」が、哲学、身体感覚、ゲイとしての欲望、家族とのずれのなかを生きるデビュー小説。新潮社は「ゲイであること、思考すること、生きること」を掲げ、夜の街を回遊する男たちと大学院生活を交差させる作品として紹介している。朝吹真理子の… 身体アイデンティティ 第41回 野間新人賞
  26. 026 2018 あなたの愛人の名前は あなたのあいじんのなまえは 島本理生 単行本・集英社 『あなたの愛人の名前は』は、すれ違う大人の恋愛を描く六篇の作品集。集英社公式が示す「あなたは知らない」と「俺だけが知らない」は、同じ関係を別々の視点から照らし、同じ部屋にいても互いの心が決定的にずれていく痛みを描く。欲望、秘密、婚約、浮気、世間の価値観に揺れる心を、島本理生らしい繊細な心理の動きとし… 恋愛夫婦
  27. 027 2018 みなさんの爆弾 みなさんのばくだん 朝比奈あすか 単行本・中央公論新社 「初恋」「譲治のために」「メアリーとセッツ」など六篇を収め、女性たちの内部に抱え込まれた欲望や怒り、関係の歪みを描く短篇集。同性への欲望、母と息子の倒錯的な結びつき、創作や日常に潜む衝動が、それぞれの「爆弾」として立ち上がる。平穏に見える生活の奥で感情が臨界に近づく瞬間を、鋭くも読みやすい語りで追う… ジェンダー家族
  28. 028 2018 独り舞 ひとりまい 李琴峰 単行本・講談社 台湾出身のレズビアン女性が、過去の痛みと孤独を抱えながら日本で生き直そうとするデビュー作。著者公式プロフィールでは、李琴峰が第二言語である日本語で初めて書いた小説とされており、移動と言語のずれ、性的マイノリティとしての孤立、自己回復の時間が重なる。内面に寄り添う一人称の語りが、越境する身体と言葉の不… 移民と越境言葉と言語
  29. 029 2018 その先の道に消える そのさきのみちにきえる 中村文則 単行本・朝日新聞出版 アパートの一室で発見された緊縛師の死体をめぐり、重要参考人の女性と彼女に惹かれる刑事・富樫、別の刑事たちの視線が絡み合う長編ミステリー。謎と嘘を追う捜査の形を取りながら、暴力、欲望、死者の痕跡を通じて、この世界を生きる意味を問い詰めていく。犯罪小説の緊迫感と、中村文則らしい倫理的・実存的な暗さが重な… 暴力死と喪失
  30. 030 2018 前世は兎 ぜんせはうさぎ 吉村萬壱 初出・すばる 2015年11月号 表題作「前世は兎」のほか、「夢をクウバク」「宗教」「沼」「梅核」「真空土練機」「ランナー」を収める短篇集。兎だった前世の記憶を持つ女、カタログを書き写すことで不安を鎮める休職中の教員、破滅後の世界でマラソンに選ばれる姉など、現実の足場をずらす設定が並ぶ。身体、性、信仰、労働不能や破滅のイメージを通じ… 身体暴力
  31. 031 2017 影裏 えいり 沼田真佑 初出・文學界 2017年5月号 会社の出向で岩手に移り住んだ今野は、釣り仲間となった同僚・日浅にだけ心を許していた。二人で川に通った日々はやがて途絶え、日浅は何も告げずに会社を去る。そして東日本大震災の後、今野は日浅の行方を追ううちに、親しいと思っていた男のもう一つの顔に触れることになる。北国の自然や釣りの場面を丹念に描きながら… 災害死と喪失孤独と疎外 第157回 芥川賞
  32. 032 2016 軽薄 けいはく 金原ひとみ 単行本・新潮社 『軽薄』は、甥である10代の弘斗と関係を持つ30歳のカナの、破滅的な愛を描く長編です。禁忌の関係を通じて、欲望、孤独、自己破壊が露出します。軽さを意味する題名とは裏腹に、人物の身体と倫理の重さが息苦しく迫る作品です。 恋愛家族
  33. 033 2016 二人組み ふたりぐみ 鴻池留衣 初出・「新潮」2016年11月号 『二人組み』は、鴻池留衣のデビュー作で、第48回新潮新人賞受賞作。新潮社の『ナイス・エイジ』書籍ページでは、啓蒙欲と性欲をこじらせた男子中学生が暴走する作品として収録紹介されている。同ページ掲載の倉本さおり書評は、ほとんど返答しない女子生徒を前に主人公の饒舌が上滑りし、言葉と関係性の不気味で滑稽な姿… 青春言葉と言語 第48回 新潮新人賞
  34. 034 2016 伯爵夫人 はくしゃくふじん 蓮實重彦 初出・「新潮」2016年4月号、同年6月新潮社より単行本刊行 帝大入試を控えた二朗が謎めいた伯爵夫人に誘われ、性の昂ぶりと戦争前夜の不穏な空気に巻き込まれていく長篇。伯爵夫人、従妹、和製ルイーズ・ブルックスら魅力的な女性たちが二朗を挑発し、個人の感情教育と時代の破滅が交錯する。エロス、映画的記憶、戦争の気配が入れ子状に重なる作品である。 戦争芸術と表現 第29回 三島賞
  35. 035 2015 夏の裁断 なつのさいだん 島本理生 単行本・文藝春秋 『夏の裁断』は、執筆を辞めた女性小説家のもとに若い男性が現れ、破綻した恋愛が始まる長編です。書くことを断った人物が、恋愛や身体の関係を通じてもう一度言葉に絡め取られていきます。夏の熱と「裁断」という語の冷たさが、恋愛の高揚と自己破壊の感覚を並置しています。 恋愛芸術と表現
  36. 036 2015 消滅世界 しょうめつせかい 村田沙耶香 単行本・河出書房新社 『消滅世界』は、人工授精による出産が標準となり、夫婦間の性が忌避される社会を描く長編です。生殖、恋愛、家族の制度を極端に組み替えることで、当たり前とされる身体や親密さの規範を反転させます。架空社会の設定を通して、ジェンダーと同調圧力の怖さを読む作品です。 ジェンダー同調圧力
  37. 037 2015 虚ろまんてぃっく うつろまんてぃっく 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 『虚ろまんてぃっく』は、吉村萬壱が恋愛や欲望のロマンティックな外形を、空虚さや不穏さへずらして描く作品として整理できます。題名のひらがな表記は、甘さと不気味さが同居する感触を生みます。身体、性、孤立をめぐる違和感が、読後にざらつきを残す小説です。 恋愛身体
  38. 038 2015 ドール どーる 山下紘加 初出・「文藝」2015年冬号 自分だけの特別な人形を手に入れたいと思う少年の衝動を軸に、性と闇を描く作品。少年の内面にある欲望や不快感を直視し、読者を落ち着かない心理の流れへ引き込む。人形という対象を通じて、身体と所有、成長期の暴力性が浮かび上がる。出版社紹介でも、不穏な少年の衝動を前面に出したデビュー作として位置づけられている… 暴力身体 第52回 文藝賞
  39. 039 2014 教団X きょうだんえっくす 中村文則 単行本・集英社 『教団X』は、巨大宗教団体をめぐって複数の男女の欲望と思想が交差する中村文則の長篇です。信仰、性、暴力、社会不安がからみ合い、個人が何に救いを求めるのかを暗い群像劇として描きます。連載小説らしい大きな構成で、現代社会の空洞とカルト的共同性を問う作品です。 信仰暴力
  40. 040 2014 メタモルフォシス メタモルフォシス 羽田圭介 単行本・新潮社 『メタモルフォシス』は、SMの快楽へ深入りしていく証券マンを描く羽田圭介の小説です。仕事で求められる合理性と、身体が求める変容の欲望がずれていきます。性と労働を結びつけながら、自己像が変質していく過程を乾いた文体で追う作品です。 身体労働
  41. 041 2014 Red れっど 島本理生 単行本・中央公論新社 『Red』は、専業主婦がかつての恋人との再会をきっかけに、不倫と欲望へ踏み込んでいく島本理生の長篇です。家庭、性愛、母であることの役割が衝突し、主人公の身体と自己決定が問われます。官能的な筆致で、恋愛の昂揚と生活の閉塞を同時に描く作品です。 恋愛ジェンダー
  42. 042 2014 死にたくなったら電話して しにたくなったらでんわして 李龍徳 初出・「文藝」2014年冬号 大阪・十三のキャバクラで働く初美と出会った浪人生・徳山が、外部とのつながりを失い、悪意と厭世へ引き込まれていく。河出書房新社の紹介では、初美が語る残虐史と徳山の関係の断絶が軸に置かれ、現代の「心中もの」と位置づけられている。欲望、虚無、言葉の呪術性が破滅へ向かって濃密に絡む、強い閉塞感のある作品。 孤独と疎外死と喪失 第51回 文藝賞
  43. 043 2014 島と人類 しまとじんるい 足立陽 初出・「すばる」2014年11月号 ヌーディストの人類学者・河鍋未來夫が停職処分を受け、その仲間たちや週刊誌記者を巻き込みながら、妻マリアが待つ島へ向かう奇想的な長篇。裸体主義、人類学、ボノボ、新人類構想といった要素が、知的な冗談と壮大な実験のあいだで展開する。人間の身体、共同性、進化をめぐる思索を、明るいナンセンスと実験小説の形式で… 身体芸術と表現 第38回 すばる文学賞
  44. 044 2013 快楽 かいらく 青山七恵 単行本・講談社 『快楽』は、欲望の不平等を題材に、身体、性、他者からの評価を大胆に描く青山七恵の小説です。快楽は単純な喜びではなく、誰が欲望を持つことを許されるのかという社会的な問いへ広がります。静かな文体の奥で、性とジェンダーの不均衡が不穏に浮かびます。 ジェンダー同調圧力
  45. 045 2012 ひらいて ひらいて 綿矢りさ 単行本・新潮社 『ひらいて』は、片想いの相手とその恋人の関係に介入していく女子高生・愛の暴走を描く綿矢りさの青春小説です。恋は純粋な感情ではなく、他者の身体や秘密へ踏み込む衝動として描かれます。学校という狭い共同体のなかで、恋愛、性、支配欲が鋭く交差します。 恋愛青春
  46. 046 2012 百年の憂鬱 ひゃくねんのゆううつ 伏見憲明 単行本・ポット出版 『百年の憂鬱』は、伏見憲明が長い時間の憂鬱を、性、ジェンダー、孤独の問題と結びつけて描く作品として整理できます。百年という誇張された時間は、個人の悩みを社会的な制度や歴史の重さへ広げます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 ジェンダー孤独と疎外
  47. 047 2012 しろいろの街の、その骨の体温の しろいろのまちの、そのほねのたいおんの 村田沙耶香 単行本・朝日新聞出版 『しろいろの街の、その骨の体温の』は、ニュータウンで思春期を迎える結佳を通じて、スクールカースト、性の目覚め、身体への違和感を描く村田沙耶香の長編です。白い街の均質さは、子どもたちの序列や欲望をかえって際立たせます。学校と身体の圧力を、息苦しい成長の物語として読む作品です。 青春身体 第26回 三島賞
  48. 048 2011 ハコブネ ハコブネ 村田沙耶香 単行本・集英社 『ハコブネ』は、自分の性別や身体に違和感を抱く女性たちを通して、ジェンダー、性、身体の境界を描く村田沙耶香の長編です。箱舟という題名は、社会から隔てられた小さな共同体や避難場所を思わせます。人物の切実さは、身体をめぐる違和感と他者への欲望の両方から立ち上がります。 ジェンダー身体
  49. 049 2011 いい女vsいい女 いいおんなたいいいおんな 木下古栗 単行本・講談社 『いい女vs.いい女』は、女性像の競争や評価を、木下古栗らしい奇妙なユーモアと不穏さで扱う作品です。題名の「vs.」は、人物同士の対立だけでなく、社会が押しつける「いい女」像のばかばかしさを示します。実験的な語りと、ジェンダー規範への斜めの視線が読みどころです。 ジェンダー同調圧力
  50. 050 2011 恋する原発 こいするげんぱつ 高橋源一郎 単行本・講談社 『恋する原発』は、東日本大震災後の言葉とメディアを、チャリティーAV制作という挑発的な設定から問い直す高橋源一郎の小説です。笑いや猥雑さを含む語りは、災害をきれいな物語に回収することへの抵抗として働きます。性、表現、原発事故後の社会を同時に扱うメタフィクションです。 災害芸術と表現
  51. 051 2011 共喰い ともぐい 田中慎弥 初出・すばる 2011年10月号 昭和63年夏、川辺の町に暮らす17歳の遠馬は、父・円とその愛人琴子との三人暮らし。父は性交の際に女を殴る男で、遠馬の実母・仁子はその暴力ゆえに家を出て、川向こうで魚屋を営んでいる。恋人の千種との関係が深まるにつれ、遠馬は自分の中にも父と同じ暴力の血が流れているのではないかという恐れに苛まれていく。鰻… 父と子暴力 第146回 芥川賞
  52. 052 2010 星が吸う水 ほしがすうみず 村田沙耶香 単行本・講談社 『星が吸う水』は、性をめぐる固定観念に違和感を抱く女性たちを描いた村田沙耶香の作品集です。身体や欲望が社会の規範によってどう名づけられるのかが、奇妙さと切実さを伴って描かれます。ジェンダー、性、同調圧力をめぐる村田作品の重要な関心が見える一冊です。 ジェンダー身体
  53. 053 2009 独居45 どっきょしじゅうご 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 『独居45』は、四十五歳で独り暮らしをする人物の生活を通して、身体、欲望、孤独を露悪的に描く吉村萬壱の作品です。平凡な住まいの内側に、社会から切り離された感覚と不穏な衝動が溜まっていきます。ユーモアと気味悪さが同居する読み味が特徴です。 孤独と疎外身体
  54. 054 2009 トモスイ ともすい 高樹のぶ子 初出・表題作「トモスイ」は「新潮」2009年4月号。単行本は2011年1月、新潮社刊。 『トモスイ』は、タイ、バリ、韓国などアジア各地を舞台に、男女の密接な関係とエロスを描く短篇集です。旅先の空気、身体の距離、異文化の感触が、恋愛や性の場面に入り込みます。高樹のぶ子の官能性と越境感覚が短篇の形で凝縮された作品です。 恋愛移民と越境 第36回 川端賞
  55. 055 2008 ギンイロノウタ ギンイロノウタ 村田沙耶香 単行本・新潮社 『ギンイロノウタ』は、歪んだ自意識を抱えた少女の性と暴力の衝動を描く表題作を含む作品です。村田沙耶香らしく、学校や身体をめぐる「普通」の感覚が鋭く異化されます。痛ましい題材を、過剰な説明ではなく、人物の感覚の切迫として読ませる作品です。 暴力身体 第31回 野間新人賞
  56. 056 2008 小銭をかぞえる こぜにをかぞえる 西村賢太 単行本・文藝春秋 『小銭をかぞえる』は、金欠と痴話喧嘩にまみれた同棲生活を、私小説的な露悪と乾いた笑いで描く作品です。小銭を数える行為が、貧しさ、欲望、関係の行き詰まりを象徴します。西村賢太の作品らしく、金と性と屈辱が分かちがたく結びつきます。 貧困恋愛労働
  57. 057 2007 ハイドラ ハイドラ 金原ひとみ 単行本・新潮社 『ハイドラ』は、身体、欲望、恋愛の結びつきを、金原ひとみらしい鋭い感覚で描く作品です。複数の頭を持つ怪物を思わせる題名のように、感情や関係は一つにまとまらず分岐していきます。自己破壊的な衝動と生への執着が同時に読める、不穏な恋愛小説です。 身体恋愛
  58. 058 2007 パワー系181 ぱわーけいいちはちいち 墨谷渉 初出・すばる 2007年11月号 身長181センチ、強靭な肉体を持つ女性リカが開いた個人サロンには、身体測定マニア、張り手を浴びたいマゾヒスト、衣類フェチなど、それぞれ奇妙な性癖を抱えた男たちが通ってくる。彼らが求める「本物のエクスタシー」を、湿った官能ではなく即物的でドライな筆致で記録していく。身体とマゾヒズムという題材を真っ向か… 身体孤独と疎外 第31回 すばる文学賞
  59. 059 2007 臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ ろうたしアナベル・リイ そうけだちつみまかりつ 大江健三郎 単行本・新潮社 『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』は、文学作品や映画的想像力を下敷きに、老い、成熟、欲望を晩年の大江健三郎が再構成する作品です。語りは引用や記憶を重ねながら、ひとつの恋愛譚に収まらないメタフィクション的な広がりを持ちます。文学を読み直すこと自体が、過去の自己を組み替える行為として描かれま… 芸術と表現老い記憶
  60. 060 2007 わたくし率 イン 歯ー、または世界 わたくしりつ イン はー、またはせかい 川上未映子 単行本・講談社 『わたくし率 イン 歯ー、または世界』は、「わたし」は奥歯にあると考える女性の独白を、大阪弁のリズムで疾走させるデビュー作です。身体の一部に自己を置く発想が、アイデンティティと言葉の関係を奇妙に拡張します。文体の勢いそのものが主題になっている、川上未映子初期の重要作として読めます。 身体言葉と言語アイデンティティ
  61. 061 2006 オートフィクション オートフィクション 金原ひとみ 単行本・集英社 『オートフィクション』は、作家リンの現在から過去へさかのぼる構成で、愛、嫉妬、自己像の形成をたどる長編です。自分を書くことと自分を作ることが重なり、タイトル通り「私小説」と「作り物」の境界が揺れます。時間を逆行する構成が、感情の根を探る読み方を促します。 アイデンティティ恋愛
  62. 062 2006 不思議の国のペニス ふしぎのくにのペニス 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『不思議の国のペニス』は、性欲に振り回される男子高校生の日常を、露骨さと滑稽さを交えて描く作品です。青春小説の枠組みを使いながら、身体の変化や欲望を制御できない不安を前面に出しています。題名の挑発性に対して、語りは若い自意識のぎこちなさを追うところに読みどころがあります。 青春身体
  63. 063 2006 無限のしもべ むげんのしもべ 木下古栗 初出・群像 2006年6月号 早く目覚めすぎた休日の朝、稔がマンションから見下ろすと、駐車場に円卓を持ち込んでティーパーティーに興じる4人の男女がいた。そのなかの美人に目をつけた稔は、パーティーに加わりあわよくば濃密な性愛を、という淫靡な考えに取り憑かれ作戦を練り始める。性的妄想の無意味な暴走を生真面目な文体で押し切る、木下古栗… 身体孤独と疎外 第49回 群像新人賞
  64. 064 2005 AMEBIC アミービック 金原ひとみ 単行本・集英社 拒食やアルコールに蝕まれた女性ライターの意識を、断片的で揺らぐ独白として描く長編。身体の輪郭が崩れ、言葉や記憶がアメーバのように変形していく感覚が、タイトルどおり作品の構造にも入り込む。金原ひとみの身体感覚と実験的な語りが強く出た作品である。 身体
  65. 065 2005 窓の灯 まどのひ 青山七恵 初出・文藝 2005年冬季号 大学を辞めた「私」は、時代に取り残されたような喫茶店の二階に住み込み、店を営む奔放な女主人のもとで働いている。日課は、向かいの部屋の窓の中の生活を覗き見ること。やがて視線は夜の街の散歩で垣間見える家々の窓へと広がっていく。覗くことのうしろめたさとゆるやかな官能を、抑制の効いた静かな文体でつづり、他人… 孤独と疎外青春 第42回 文藝賞
  66. 066 2005 踊るナマズ おどるなまず 高瀬ちひろ 初出・すばる 2005年11月号 ナマズにまつわる民話や伝説が数多く残る田多間町。弥生は中学の同級生・一真と民話のレポートを作るうち、「ナマズの番人」と呼ばれる元図書館司書・水口さんから古い伝説を聞き、ナマズの幻を見たという叔母・小夜子の記憶にも触れていく。やがて母となった弥生が胎児に語りかけるという入れ子の構成で、土地の記憶と性… 記憶母と子 第29回 すばる文学賞
  67. 067 2005 性交と恋愛にまつわるいくつかの物語 せいこうとれんあいにまつわるいくつかのものがたり 高橋源一郎 単行本・朝日新聞社 『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』は、性と恋愛をめぐる語りを、物語そのものへの問いと重ねて扱う作品です。高橋源一郎の小説らしく、露骨な題材を単純な告白にせず、言葉が欲望をどう作り替えるかを意識させます。恋愛小説の形式をずらしながら、身体、関係、語りの自由度を探る読みどころがあります。 恋愛言葉と言語
  68. 068 2004 アッシュベイビー アッシュベイビー 金原ひとみ 単行本・集英社 『蛇にピアス』後の第二作で、同居人の男と赤ん坊をめぐる歪んだ関係に巻き込まれる女性を描く。身体、依存、母性への違和感が、金原ひとみらしい硬い感覚の文体で押し出される。家庭的な題材を扱いながら、安心できる家族像を反転させる不穏な作品である。 家族身体
  69. 069 2004 人のセックスを笑うな ひとのせっくすをわらうな 山崎ナオコーラ 初出・文藝 2004年冬季号 美術専門学校に通う19歳の「オレ」は、20歳年上の講師・ユリと恋に落ちる。年の差も、ユリに夫がいることも、ふたりの関係のゆるさを変えはしないが、恋はやがて静かに終わっていく。性愛を声高に語らず、軽くやわらかい口語の文体で、若さの側から見た年上の女性のかわいさと残酷さをすくいとる。タイトルの挑発性と中… 恋愛青春 第41回 文藝賞
  70. 070 2003 ハリガネムシ はりがねむし 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 中学教師の男が、教え子の母親との関係をきっかけに、性と暴力の泥沼へ落ちていく芥川賞受賞作。語りは冷たく湿っており、主人公の欲望や嫌悪が、昆虫的・寄生的なイメージと重なって増殖していく。家族や学校という制度の薄い膜の下にある衝動を、読後感の悪さごと突きつける作品である。 暴力身体 第129回 芥川賞
  71. 071 2003 蛇にピアス へびにピアス 金原ひとみ 初出・すばる 2003年11月号 19歳のルイは、蛇のように舌先が割れた「スプリット・タン」を持ち、全身にピアスと刺青を施した青年アマと出会い、同棲を始める。自らも舌にピアスを開け、拡張し、背中に麒麟と龍の刺青を彫ろうと、アマの紹介で知り合ったサディストの彫り師シバとも危険な関係を結んでいく。痛みによってしか生の実感をつかめない若者… 身体暴力 第130回 芥川賞
  72. 072 2003 イッツ・オンリー・トーク いっつ・おんりー・とーく 絲山秋子 初出・文學界 2003年6月号 躁鬱病を抱えた30代半ばの独身女性「私」は、東京の場末めいた蒲田の町に引っ越してくる。EDの痴漢、鬱病のヤクザ、出世コースを外れた従兄——彼女の周りに集まるのは、どこか欠けた男たちばかり。誰とも深く結ばれないまま交わされる「ただのおしゃべり」を通して、病とともに生きる日常を、自己憐憫ゼロの乾いたユー… 孤独と疎外 第96回 文學界新人賞
  73. 073 2003 授乳 じゅにゅう 村田沙耶香 初出・群像 2003年6月号 中学生の少女「私」は、母が選んだ冴えない家庭教師の青年に、嫌悪とも支配欲ともつかない倒錯した感情を抱き、「授乳」と呼ぶ秘密の行為へと彼を引き込んでいく。教育熱心な母への息苦しさ、性とも甘えともつかない身体感覚——のちに「コンビニ人間」へと結実する村田沙耶香の核、つまり「普通」とされる世界への違和を身… 母と子身体
  74. 074 2003 壊れるほど近くにある心臓 こわれるほどちかくにあるしんぞう 佐藤智加 単行本・河出書房新社 身体と精神の境界がゆるみ、恋愛の近さがそのまま危うさへ変わっていく第二作。親密さを求めるほど相手との距離が測れなくなる感覚を、肉体的なイメージと内面の揺れを重ねて描く。恋愛小説でありながら、愛の甘さよりも依存、痛み、自己の輪郭が崩れる怖さを読む作品である。 恋愛身体
  75. 075 2003 魔女の息子 まじょのむすこ 伏見憲明 初出・文藝 2003年冬季号(受賞発表。本文の誌面掲載は未確認) 40歳を目前にしたゲイのフリーライター・和紀。77歳の母が「老いらくの恋」に燃え始めたことで、亡き父との確執、ハッテン場の旅館で出会った男との関係、そして自分自身の来し方と否応なく向き合うことになる。ゲイ・ムーブメントの先頭に立ってきた評論家が、運動の言葉では掬えない母子の情愛と人間の弱さを、ユーモ… ジェンダー母と子 第40回 文藝賞
  76. 076 2002 官能小説家 かんのうしょうせつか 高橋源一郎 単行本・朝日新聞社 永井荷風と森鷗外を軸に、「官能」と文学の歴史をめぐって展開する高橋源一郎の長編。近代文学の作家を素材にしながら、性、表現、文学史をメタフィクションとして組み替える。日本文学を読むこと自体を小説の快楽へ変える作品。 芸術と表現言葉と言語
  77. 077 2002 スチール すちーる 織田みずほ 初出・すばる 2002年11月号 男性客相手の風俗のアルバイトで日銭を得て、新宿の24時間営業のロッカールームで夜を過ごす17歳の高校生。ある日見かけた中年男性に惹かれ、彼が経営する倉庫で働き始めると、朗らかなパートの中年女性たちに囲まれて、少しずつ世の中との関わり方を学んでいく。だが、かつての「客」だった男が国語教師として学校に着… 貧困青春 第26回 すばる文学賞
  78. 078 2001 インストール いんすとーる 綿矢りさ 初出・文藝 2001年冬季号 高校生活から突然降りてしまった17歳の朝子が、部屋の荷物を全部捨てたことをきっかけに、マンションの押入れに住み着くような小学生・かずよしと知り合い、拾った中古パソコンで風俗チャットの「バイト」を代行するようになる。インターネット黎明期の風俗チャットという際どい題材を扱いながら、筆致はあくまで軽やかで… 青春テクノロジー 第38回 文藝賞
  79. 079 1999 あ・だ・る・と あ・だ・る・と 高橋源一郎 単行本・主婦と生活社 AV監督「ピン」の視点から、アダルトビデオの撮影現場を克明に描きながら、「普通の人々」が「普通のAV」に出演するとはどういうことかを問い続ける小説。インドの元同僚から届いたフィルムが思索の起点となる。 身体アイデンティティ
  80. 080 1999 ハードボイルド/ハードラック ハードボイルド/ハードラック 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 「ハードボイルド」と「ハードラック」2篇からなる短編集。前者は別れた同性の恋人を思いながらの不思議なひとり旅、後者は植物人間となった姉の看病を通して芽生える愛を描く。死と喪失を核に据えながら癒しと前進を模索する。 死と喪失恋愛
  81. 081 1999 夏の約束 なつのやくそく 藤野千夜 初出・「群像」1999年12月号 ゲイのカップルを中心に、性転換した美容師、売れない小説家とその女友達といった「ゆるやか」な人々のある夏の日常を描いた短編。性的マイノリティを自然体で描いた1990年代末の問題作。玄月「蔭の棲みか」と同時受賞。 恋愛アイデンティティ 第122回 芥川賞
  82. 082 1998 ライン ライン 村上龍 単行本・幻冬舎 電話線でつながる20人の人物が連鎖的に描かれる連作。SM嬢・看護婦・IQ170のウエイター・殺人を犯したキャリアウーマンら、現代日本の暴力と孤独の連鎖を圧倒的な筆力で描く。 暴力孤独と疎外
  83. 083 1998 ゲルマニウムの夜 げるまにうむのよる 花村萬月 初出・「文學界」1998年6月号 問題行動を重ねた少年が小学校高学年から中学卒業まで暮らした修道院兼教護院に、殺人を犯した後に逃亡先として舞い戻る物語。暴力・性・宗教が過剰な密度で交錯する花村萬月の代表作。 暴力信仰 第119回 芥川賞
  84. 084 1998 腦病院へまゐります。 のうびょういんへまゐります。 若合春侑 初出・「文學界」1998年6月号(第86回受賞) 旧仮名遣いを用いた独特の文体で、精神の病と言語の関係を探った問題作。第119回芥川賞候補となった。 言葉と言語 第86回 文學界新人賞
  85. 085 1998 あなたがほしい je te veux あなたがほしい じゅ とぅ ゔー 安達千夏 初出・「すばる」1998年 第120回芥川賞候補ともなった受賞作。30代主婦の作家デビューとして注目された。 恋愛ジェンダー 第22回 すばる文学賞
  86. 086 1997 オーディション オーディション 村上龍 単行本・ぶんか社 再婚相手を探す男が映画オーディションで出会った女の狂気に巻き込まれる長編。三池崇史により映画化。 暴力恋愛
  87. 087 1997 最後の息子 さいごのむすこ 吉田修一 初出・「文學界」1997年6月号(第84回受賞) 長崎から上京した若者が、新宿の中年ゲイ男性と同居するうちに互いの孤独と依存を見つめ合う中編。吉田修一のデビュー作であり、芥川賞候補ともなった。 孤独と疎外青春 第84回 文學界新人賞
  88. 088 1996 ラブ&ポップ ラブアンドポップ 村上龍 単行本・幻冬舎 援助交際をめぐる女子高生たちの一日を描く長編。庵野秀明により映画化。 青春東京
  89. 089 1993 エクスタシー エクスタシー 村上龍 単行本・集英社 ニューヨークのバワリーで謎めいた日本人ホームレスと出会った主人公が、東京のケイコとパリのレイコを巻き込む「恍惚のゲーム」に引き込まれ、ドラッグの運び屋となっていく長編小説。 身体暴力
  90. 090 1992 イビサ イビサ 村上龍 単行本・角川書店 『イビサ』は、精神病院を退院したマチコが男に誘われてパリへ渡り、ドラッグ、セックス、アルコールに浸りながらモロッコ、バルセロナ、イビサ島へ漂流する物語です。海外の都市と身体の破滅感を通じて、自己を失いながらなお移動していく感覚を描きます。初期村上龍の暴力的な欲望と都市的な不安が濃く出た長篇です。 孤独と疎外アイデンティティ
  91. 091 1991 背負い水 せおいみず 荻野アンナ 初出・「文學界」1991年6月号 『背負い水』は、荻野アンナが三年連続候補を経て芥川賞を受けた作品です。ラブレー研究者としての言語感覚を背景に、肉体、性、笑いを奔放な語りで絡ませます。湿った私小説性よりも、身体と言葉がはねるようなユーモアが前面に出る作品です。 恋愛都市・郊外 第105回 芥川賞
  92. 092 1991 rose ローズ 川本俊二 初出・「文藝」1991年 『rose』は、大阪を舞台に、優柔不断な青年ノボルと二人の女性との関係を回想的に描く恋愛小説です。穏やかに接するケイコと、サディスティックな朱理という対照的な人物を通じて、欲望と受け身の関係が揺れます。バラの赤が象徴する感情の強さが、都市の恋愛の乾いた感覚と結びついています。 恋愛関西 第28回 文藝賞
  93. 093 1989 ラッフルズホテル ラッフルズホテル 村上龍 単行本・集英社 シンガポールの名門ホテルを思わせる空間を舞台に、旅、欲望、演技する自己を描く村上龍の作品。ホテルという非日常の場所が、登場人物の孤独や消費社会の空虚さを浮かび上がらせる。都市的で乾いた感触の中に、海外への視線と身体感覚が重なる。 孤独と疎外身体
  94. 094 1989 YES・YES・YES いえす・いえす・いえす 比留間久夫 初出・「文藝」1989年冬季号(河出書房新社) 『YES・YES・YES』は、新宿のゲイバーで働く青年ホストの日常と欲望を描く比留間久夫のデビュー作です。性の解放感と都市の夜の空気を前面に出し、当時の純文学にクィアな身体感覚を持ち込んだ作品として読めます。軽さと痛みが同居する、都市的な性の物語です。 青春孤独と疎外 第26回 文藝賞
  95. 095 1988 村上龍料理小説集 むらかみりゅうりょうりしょうせつしゅう 村上龍 単行本・集英社 料理を軸に、欲望、記憶、身体感覚を結びつける村上龍の短篇集。食べることが単なる生活描写ではなく、性、旅、階層、感覚の鋭さを呼び出す装置として働く。村上龍の官能的な文体を、暴力よりも味覚と記憶の側から読める作品集。 身体
  96. 096 1988 トパーズ トパーズ 村上龍 単行本・角川書店 SMクラブで働く女性たちの身体、欲望、孤独を都市の夜の中に描く村上龍の作品。性の描写は刺激としてだけでなく、支配、痛み、金銭、自己感覚をめぐる問いとして機能する。乾いた文体で、バブル期都市の消費と身体の商品化を突きつける。 身体暴力
  97. 097 1987 69 sixty nine シックスティナイン 村上龍 単行本・集英社 1969年の佐世保を舞台に、高校生ケンの反乱と文化祭騒動を描く自伝的青春小説。政治の季節、ロック、映画、性への憧れが混ざり合い、重い時代背景を祝祭的な語りで駆け抜ける。村上龍作品の中では、暴力や破滅よりも若者のエネルギーとユーモアが前面に出る。 青春芸術と表現
  98. 098 1986 ミモザの林を みもざのはやしを 岩阪恵子 初出・単行本(講談社、1986年8月)。初出誌は未確認。 日常の猥雑を越えてなお何かを求め続ける女性たちの生命力を描く短篇集。表題作のほか「毀れる」「焔の舌」「くずれる音」「冬の苺」「ガラスの破片」を収め、身体感覚と性、日々の生活の手ざわりが重なっていく。短い紹介しか確認できないが、女であることの感覚を正面から扱った作品として読める。 身体ジェンダー 第8回 野間新人賞
  99. 099 1985 ベッドタイムアイズ べっどたいむあいず 山田詠美 初出・「文藝」1985年冬季号(河出書房新社) 『ベッドタイムアイズ』は、黒人兵スプーンと日本人女性の激しい性愛を奔放な文体で描いた山田詠美のデビュー作です。恋愛や性を、社会的規範から外れた身体感覚として押し出し、当時の日本文学に強い衝撃を与えました。都市、身体、異文化の接触が、痛切で挑発的な読み味を作っています。 恋愛身体 第22回 文藝賞
  100. 100 1985 水平線上にて すいへいせんじょうにて 中沢けい 初出・単行本(講談社、1985年)。初出誌は未確認。 中沢けいが女性の性と身体の問題を描いた作品集。増田みず子「自由時間」と同時受賞した第7回野間文芸新人賞受賞作。 身体青春 第7回 野間新人賞
  101. 101 1983 光抱く友よ ひかりいだくともよ 高樹のぶ子 初出・「新潮」1983年12月号(第80巻第12号) 『光抱く友よ』は、北陸の旧家を背景に、若い女性の官能と精神の成熟を光のイメージとともに描く中篇です。家、身体、女性の内面が重なり合い、恋愛や性を単純な事件としてではなく、自己の輪郭を獲得する過程として読ませます。抒情性と緊張感のある心理描写が作品の核です。 アイデンティティ地方 第90回 芥川賞
  102. 102 1982 沙耶のいる透視図 さやのいるとうしず 伊達一行 初出・「すばる」1982年12月号(集英社) 『沙耶のいる透視図』は、ビニ本業界を舞台に、カメラマン、編集者、謎めいたモデル・沙耶の関係が破滅へ向かう物語です。性的な視線、撮ること、消費される身体が重なり、愛と精神の崩壊が乾いた都市の空気の中で描かれます。後に映画化されたことも、作品の映像的な題材性を示しています。 恋愛暴力 第6回 すばる文学賞
  103. 103 1981 1980 アイコ十六歳 せんきゅうひゃくはちじゅう あいこじゅうろくさい 堀田あけみ 初出・「文藝」1981年冬季号(河出書房新社) 『1980 アイコ十六歳』は、名古屋の女子高生アイコの等身大の日常を描く青春小説です。高校生活、友人関係、身体感覚を大きな事件に回収せず、十六歳の時間の手触りとして描く点に特徴があります。若い書き手による若者の日常表現として、1980年代初頭の文藝賞を象徴する一作です。 青春一人称 第18回 文藝賞
  104. 104 1981 金色の象 こんじきのぞう 宮内勝典 初出・単行本(河出書房新社、1981年)。初出誌は未確認。 世界を放浪してきた青年と、自分を持て余す家出娘の一瞬の出会いから、同棲と出産へ進む物語。河出書房新社の紹介では、小さな生命の誕生が若い二人に愛と性の輝きをもたらす作品として位置づけられている。移動する身体、出会い、家族の始まりを、祝祭性と痛みを含んだ青春譚として読むことができる。 恋愛移民と越境 第3回 野間新人賞
  105. 105 1976 限りなく透明に近いブルー かぎりなくとうめいにちかいブルー 村上龍 初出・群像 1976年6月号 米軍基地の街・福生のハウスを舞台に、19歳のリュウとその仲間たちの日々を描く。ドラッグとロック、黒人兵たちとの乱痴気騒ぎ、セックスと暴力に明け暮れる若者たちの退廃を、感傷を排した即物的な描写と、ガラスの破片や雨に濡れた滑走路といった鮮烈なイメージの連なりで定着させる。荒廃の只中にいながらどこか透明な… 暴力孤独と疎外 第75回 芥川賞
  106. 106 1964 日常生活の冒険 にちじょうせいかつのぼうけん 大江健三郎 単行本・文藝春秋新社 大江健三郎の1960年代の長編で、「日常生活」と「冒険」という相反する語を重ねる題名が印象的な作品。平凡な生活の内部に、暴力、性、幻想的な逸脱が入り込む大江らしい構図を持つ。日常の足場が崩れていく不穏さを読む作品である。 孤独と疎外暴力
  107. 107 1963 性的人間 せいてきにんげん 大江健三郎 単行本・新潮社 大江健三郎が性と人間存在を正面から扱った初期作品。性を単なる欲望としてではなく、身体、羞恥、孤独、社会への反抗が交差する場として描く。初期大江の挑発的な主題設定と、重くねじれた文体を読む作品である。 身体孤独と疎外
  108. 108 1959 われらの時代 われらのじだい 大江健三郎 単行本・中央公論社 大江健三郎が1959年に刊行した初期長編。敗戦後世代の若者たちの閉塞、政治感覚、性や暴力への傾斜を通じて、「われら」と呼べる時代の不安を描く。初期大江の実存的な焦燥と社会への違和感が前面に出る作品。 青春孤独と疎外
  109. 109 1958 完全な遊戯 かんぜんなゆうぎ 石原慎太郎 単行本・新潮社 若者たちの倦怠と残虐な「遊び」を描いた石原慎太郎の中篇。遊戯の名の下に暴力がエスカレートしていく構図は、戦後若者文化への不安と反発を強く帯びる。太陽族文学の享楽性の裏側にある空虚さを読む作品である。 青春暴力
  110. 110 1956 処刑の部屋 しょけいのへや 石原慎太郎 単行本・新潮社 大学生の性的奔放と暴力を描いた石原慎太郎の初期代表短篇。若者の身体感覚、退屈、残酷さを挑発的に描き、「太陽族」文学の衝撃を広げる作品となった。戦後の新しい若者像を、道徳的な安定ではなく暴力と欲望の側から提示する。 青春暴力
  111. 111 1956 四十八歳の抵抗 よんじゅうはっさいのていこう 石川達三 単行本・新潮社 中年男性が若い女性に惹かれ、家庭と欲望の間で揺れる姿を描いた長編。年齢、性、家庭内の役割が絡み合い、戦後の中産階級的生活の安定が揺らぐ。映画化もされた話題作で、石川達三が家族と欲望を社会的に描いた一作。 夫婦家族
  112. 112 1955 太陽の季節 たいようのきせつ 石原慎太郎 初出・文學界 1955年7月号 裕福な家庭に育ち、拳闘に打ち込む高校生・津川竜哉が主人公。湘南の海やヨット、盛り場を舞台に、既成の倫理や大人の価値観を軽蔑し、喧嘩や女性関係を遊戯のように楽しむ戦後世代の若者たちの生態を描く。竜哉は英子という女性と出会い、互いに駆け引きめいた恋愛を続けるうちに、欲望と愛情の間で関係は思わぬ方向へ傾い… 青春恋愛 第34回 芥川賞
  113. 113 1954 驟雨 しゅうう 吉行淳之介 初出・「文學界」1954年2月号(第31回芥川賞受賞) 『驟雨』は、料亭の女との短い逢瀬を軸に、中年男の倦怠と孤独を描く短篇です。感情を大きく説明せず、会話や身振りの細部から男女の距離を読ませるところに特徴があります。吉行淳之介の乾いた都市的感覚が、第三の新人の作風を代表するかたちで現れています。 恋愛孤独と疎外 第31回 芥川賞