Setting

海外

舞台「海外」に分類された 104 作品。

  1. 001 2025 帰れない探偵 かえれないたんてい 柴崎友香 単行本・講談社 『帰れない探偵』は、探偵事務所兼自宅へ突然帰れなくなった「わたし」が、世界のさまざまな街を巡る連作探偵小説です。急な坂の街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街などを歩く探偵の移動を通じて、帰る場所、知らない街と知っている街のずれ、時間と記憶の手ざわりが浮かび上がる。事件解決よりも、場所の感覚と… 記憶移民と越境言葉と言語
  2. 002 2025 ティータイム ティータイム 石井遊佳 単行本・集英社 『ティータイム』は、『百年泥』で芥川賞を受賞した石井遊佳による、奇想の強い4篇を収めた短篇集です。大人びた兄妹、インドから脱出できない日本人、電車の網棚の上で暮らす女性、恐ろしいサンタクロースなど、現実の足場を少しずつ外す人物や状況が並ぶ。なぜか笑えてどこか怖い語り口で、絶望と解放の境目を軽やかに踏… 移民と越境孤独と疎外身体
  3. 003 2025 月を見に行こうよ つきをみにいこうよ 李琴峰 単行本・集英社 『月を見に行こうよ』は、アイオワ大学の国際創作プログラム IWP に招かれた経験をもとに、世界各地から集まった詩人や小説家たちの交流を描く物語です。背景も言語も異なる創作者たちが、約二か月半の滞在のなかで互いの作品観や創作への覚悟に触れていく。越境、言語、創作をめぐる李琴峰の関心が、国際的な文学共同… 芸術と表現言葉と言語移民と越境
  4. 004 2025 わたしハ強ク・歌ウ わたしハつよク・うたウ 山下澄人 単行本・河出書房新社 『わたしハ強ク・歌ウ』は、海へ行こうとする「わたし」が、自分の旅と母が残した旅の記録を重ねて書き始める小説です。停留所の謎の男、先住民たちとの出会い、アンネの日記や火山の町といった断片が、現実の旅行記を越えた冒険譚へ変形していく。記憶を継ぐこと、書くこと、異なる土地や人々と出会うことが、山下澄人らし… 記憶母と子移民と越境
  5. 005 2025 燃ゆる海 もゆるうみ チヒロ・オオダテ 単行本・朝日新聞出版 馬を愛する女性がドバイへ渡る物語として紹介され、第11回林芙美子文学賞佳作に選ばれた作品。受賞時タイトルは「燃ゆる海」だが、雑誌掲載時には「燃ゆる馬」へ改題された。移動、動物との関係、海外の舞台が重なり、生活圏の外へ出ていく人物の熱量を読む作品として位置づけられる。 移民と越境身体孤独と疎外
  6. 006 2024 DJヒロヒト ディージェイヒロヒト 高橋源一郎 単行本・新潮社 『DJヒロヒト』は、パラオ放送局のラジオ番組という奇想の形式を通して、昭和史・文学史・戦争の記憶を再構成する大長編です。中島敦、南方熊楠、森鴎外らの名が交差し、謎のDJの語りが歴史上の人物とフィクションの声をリミックスしていく。ラジオ、録音、放送というメディアの仕掛けを使いながら、天皇制と近代日本を… 戦争記憶芸術と表現
  7. 007 2024 昏色の都 くれいろのみやこ 諏訪哲史 単行本・国書刊行会 表題作「昏色の都」に、「極光」「貸本屋うずら堂」を併録した幻想小説集。国書刊行会公式は、表題作を初出時の三倍の規模へ増補した中編として紹介し、夢と現実のあわいをさまよう旅の物語や、古い貸本漫画と幼年期の記憶をめぐる作品を収めると説明している。作品ごとに文体と世界観を変えながら、記憶、読書、幻想都市の… 記憶芸術と表現孤独と疎外
  8. 008 2023 あなたの燃える左手で あなたのもえるひだりてで 朝比奈秋 単行本・河出書房新社 ハンガリーの病院で左手の移植手術を受けたアサトは、目覚めると自分の身体に見知らぬ白人の手がつながれていることを知る。身体の一部が他者のものになる違和感から、国境、民族、所有、故郷の喪失へと思考が広がっていく中篇である。医師でもある作者の冷静な筆致が、身体の境界と自己同一性の揺らぎを切実な問題として立… 身体アイデンティティ戦争 第45回 野間新人賞
  9. 009 2023 観音様の環 李琴峰 単行本・U-NEXT 『観音様の環』は、瀬戸内の島から東京へ逃れるように出たマヤが、恋人ジェシカとの結婚を機に台湾へ渡り、封じてきた家族の記憶と向き合う中編である。田舎の排他的な空気、暴力的な父、母の期待と支配からの逃走が、台湾での年夜飯と母の故郷への訪問を通して再び立ち上がる。日本語と中国語、島と東京と台湾をまたぐ移動… 家族移民と越境ジェンダー
  10. 010 2023 パッキパキ北京 パッキパキペキン 綿矢りさ 単行本・集英社 コロナ禍の北京で単身赴任中の夫に呼ばれた菖蒲が、愛犬ペイペイを連れて中国へ渡る。隔離、食、交通、春節、北京の人々のふるまいを、主人公はしぶしぶ来たはずの立場を軽々と反転させるように貪欲に観察し、味わっていく。著者自身の中国滞在経験に基づく観察力を生かし、異国の都市を「視察」する語りの勢いとユーモアで… 移民と越境夫婦
  11. 011 2023 ラーメンカレー ラーメンカレー 滝口悠生 単行本・文藝春秋 『ラーメンカレー』は、ロンドンの結婚式やペルージャへの旅をきっかけに、高校時代の同級生たちの言葉と記憶があふれ出す連作短編集である。表題作を含む「窓目くんの手記」連作と複数の短篇を収め、食べ物の名前の軽さとは裏腹に、青春の偶然や移動、他者との出会いが時間をまたいで響く構成になっている。滝口悠生らしい… 記憶青春
  12. 012 2023 そこまでして覚えるようなコトバだっただろうか? そこまでしておぼえるようなことばだっただろうか 松波太郎 単行本・書肆侃侃房 言葉、文字、発音、身体感覚をめぐる四篇を収めた短篇集。発音できない一音によって自国から疎外される「クィ」、サッカーから人類の起源へ飛躍する思考、ひらがな・カタカナ・漢字を身体で渡るような文字の冒険、子の言語習得を前に立ちつくす猫木豊が描かれる。言葉を扱うことの自由さと不自由さを、実験的な形式と切実な… 言葉と言語アイデンティティ身体
  13. 013 2022 月の三相 つきのさんそう 石沢麻依 単行本・講談社 旧東ドイツの小さな街で「フローラが失踪した」という噂が広がり、歴史に引き裂かれた少年と少女の物語が呼び起こされる。その街では誰もが自分の「肖像面」を持ち、面に惹かれて移り住んだ望、グエット、ディアナの三人は、失われた「顔」を探して見えない境界を越えていく。いくつもの時間が重層する街を舞台に、歴史、記… 記憶アイデンティティ死と喪失
  14. 014 2021 貝に続く場所にて かいにつづくばしょにて 石沢麻依 初出・群像 2021年6月号 コロナ禍に覆われたドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす日本人留学生の「私」のもとに、東日本大震災の津波で行方不明になったはずの友人・野宮が現れる。九年前に仙台で被災した記憶と、疫病下の異国の街の現在が静かに重なり合い、惑星の名を冠した小径、聖人伝や絵画の細部、庭に埋められた様々な品をたどりながら… 死と喪失記憶災害 第165回 芥川賞
  15. 015 2021 満天の花 まんてんのはな 佐川光晴 単行本・左右社 幕末の長崎・出島に生まれ、青い目を隠して育った花が、勝海舟との出会いを経て通詞として外交の渦中に入る歴史長篇。咸臨丸、ロシア艦、大政奉還、江戸無血開城へと続く時代の転換点を、女性通訳の視点からたどる。西欧列強、幕府、身分秩序に抗し、言葉と意思で生きる人物像が読みどころになる。 移民と越境言葉と言語ジェンダー
  16. 016 2021 ミトンとふびん ミトンとふびん 吉本ばなな 単行本・新潮社 大切な人の死や癒えない喪失を抱えながら生きる人々を、ヘルシンキ、ローマ、台北など複数の土地で描く全6編の短篇集。旅の風景は観光的な背景ではなく、残された人が小さな光や手触りに支えられて日々を続けるための場所として置かれている。吉本ばななが長く書き続けてきた喪失、時間、愛の主題を、静かでやわらかな語り… 死と喪失恋愛記憶 第58回 谷崎賞
  17. 017 2020 星月夜 ほしつきよる 李琴峰 単行本・集英社 日本の大学で日本語を教える台湾出身の柳凝月と、新疆ウイグル自治区出身で大学院進学を目指す玉麗吐孜の恋を描く長篇。二人は日本語という共通語で近づくが、家族、国家、在留資格、セクシュアリティをめぐる負荷は同じ形では共有できない。親密さの甘さよりも、相手を分かっていると思うことの危うさを静かな語りで照らす… 恋愛移民と越境ジェンダー
  18. 018 2020 逃亡者 とうぼうしゃ 中村文則 単行本・幻冬舎 第二次大戦後から現代へまたがる逃亡と追跡を軸に、暴力、信仰、戦争の記憶が絡み合う長編。中村文則が得意とする犯罪小説的な緊張を保ちながら、個人の罪と歴史の暗部が切り離せないものとして立ち上がる。五百ページ規模の構成で、サスペンスの推進力と思想的な問いを並走させる読みどころがある。 戦争暴力信仰
  19. 019 2020 うつくしい羽 うつくしいはね 上村渉 初出・すばる 2019年6月号 表題作『うつくしい羽』と『あさぎり』などを収めた、上村渉の初小説集。OpenBDの版元提供情報は、食の記憶が過去を呼び覚ます作品として、離婚で心の支えを失った男と、フランス修業時代に大切な人を失った料理人の軌跡を紹介している。併録作『あさぎり』では、十五歳の少女の一時保護を通して、家族の絆と外国人労… 記憶死と喪失
  20. 020 2020 象牛 ぞうぎゅう 石井遊佳 単行本・新潮社 表題作は、インド・ガンジス河岸の聖地にやってきた女子大生が、謎の存在である象牛に翻弄される物語。併録の『星曝し』は大阪の淀川河岸を思わせる比ラカ駄を舞台に、恋に似た激しい熱情と死者の気配を描く。現実の痛みと法螺話めいた幻想が混ざり合う、石井遊佳の芥川賞受賞後初の作品集。 身体暴力
  21. 021 2019 五つ数えれば三日月が いつつかぞえればみかづきが 李琴峰 初出・文學界 2019年6月号 表題作は、日本で働く台湾人の「私」と、台湾人と結婚して台湾へ移った友人・実桜が、平成最後の夏に東京で五年ぶりに再会する物語。話す言葉、住む国、選び取った人生の差異が、再会の会話のなかで静かに立ち上がる。収録作「セイナイト」とあわせて、移動、言語、親密さ、記憶のずれを、越境する人のアイデンティティとし… 移民と越境言葉と言語恋愛
  22. 022 2018 独り舞 ひとりまい 李琴峰 単行本・講談社 台湾出身のレズビアン女性が、過去の痛みと孤独を抱えながら日本で生き直そうとするデビュー作。著者公式プロフィールでは、李琴峰が第二言語である日本語で初めて書いた小説とされており、移動と言語のずれ、性的マイノリティとしての孤立、自己回復の時間が重なる。内面に寄り添う一人称の語りが、越境する身体と言葉の不… 移民と越境言葉と言語
  23. 023 2018 公園へ行かないか?火曜日に こうえんへいかないか?かようびに 柴崎友香 単行本・新潮社 2016年、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、世界各国の作家・詩人たちと過ごした3か月をもとに描く11篇の連作小説集。英語で議論し、街を歩き、アメリカ大統領選挙の瞬間にも居合わせる経験を通じて、そこにいること/いないこと、知りたいのに届かないことを考え続ける… 移民と越境言葉と言語芸術と表現
  24. 024 2018 静かに、ねぇ、静かに しずかに、ねぇ、しずかに 本谷有希子 単行本・講談社 「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」「でぶのハッピーバースデー」の3篇を収める作品集。海外旅行の写真投稿、ネットショッピング依存、動画撮影で自分たちだけの印を残そうとする夫婦など、SNSやスマートフォン越しにしか確かめられない現実感を描く。軽妙な語りの底に、承認欲求、支配、親密さの不安がにじみ… テクノロジー同調圧力孤独と疎外
  25. 025 2018 鏡のなかのアジア かがみのなかのあじあ 谷崎由依 単行本・集英社 チベット、台湾、クアラルンプール、京都など、アジアの土地をモチーフにした全5篇の幻想短篇集。集英社公式は、少年僧が経典の歴史に触れる「……そしてまた文字を記していると」、台湾・九份の村を舞台にする「Jiufenの村は九つぶん」、熱帯雨林の巨樹であった過去を持つ男を描く「天蓋歩行」などを挙げている。翻… 移民と越境言葉と言語記憶
  26. 026 2018 いつか深い穴に落ちるまで いつかふかいあなにおちるまで 山野辺太郎 初出・「文藝」2018年冬号 日本とブラジルを直線で結ぶ穴を掘るという秘密プロジェクトをめぐる、壮大なホラ話としての会社員小説。戦後に若手官僚が思いついた計画を、大手建設会社子会社の広報係が調査することで、国家事業、会社組織、移民や国際関係が奇妙に絡み合う。真顔のユーモアで日本社会のシステムを描く点が読みどころ。 労働日本史移民と越境 第55回 文藝賞
  27. 027 2017 百年泥 ひゃくねんどろ 石井遊佳 初出・新潮 2017年11月号 恋人の借金を肩代わりして多重債務に陥った「私」は、返済のため南インド・チェンナイのIT企業で日本語教師として働き始める。着任三か月半で百年に一度の大洪水が街を襲い、水が引いたアダイヤール川には百年分の泥が残された。泥の中からは死んだはずの人や記憶の品々が次々と現れ、橋を渡る数十分のあいだに、語り手の… 移民と越境記憶言葉と言語 第158回 芥川賞
  28. 028 2017 幸福な水夫 こうふくなすいへい 木村友祐 単行本・未來社 『幸福な水夫』は、木村友祐が水夫という移動する労働者の像を通じて、幸福と漂流の関係を描く作品として整理できます。海や船のイメージは、生活の不安定さと越境の感覚を呼び込みます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働移民と越境孤独と疎外
  29. 029 2016 異郷の友人 いきょうのゆうじん 上田岳弘 単行本・新潮社 『異郷の友人』は、上田岳弘が「異郷」と「友人」という距離のある言葉を結び、共同性と疎外を描く長編として整理できます。見知らぬ場所や社会の中で、友人という関係がどこまで成立するのかが問われます。個人の孤立を、世界の構造へ広げて考える作品です。 移民と越境アイデンティティ孤独と疎外
  30. 030 2016 グローバライズ ぐろーばらいず 木下古栗 単行本・河出書房新社 『グローバライズ』は、木下古栗がグローバル化する世界の言葉、身体、欲望を奇妙な文体で扱う作品として整理できます。タイトルの綴りや響きそのものが、世界を標準化する力への違和感を含んでいます。実験的な語りを通じて、表現と書く技法の問題が前面に出る作品です。 移民と越境言葉と言語身体
  31. 031 2016 カブールの園 かぶーるのその 宮内悠介 初出・「文學界」2016年10月号、2017年1月文藝春秋より単行本刊行 日系アメリカ人三世の女性が、IT企業を立ち上げた友人とヨセミテへ向かい、日系人強制収容所の記憶に触れていく表題作を中心とする作品集。移民、戦争の記憶、アメリカ社会の周縁に置かれた人々を、作者らしい構成意識で扱う。収録作「半地下」とあわせ、越境するアイデンティティと継承されにくい記憶が主題となる。 移民と越境記憶日本史 第30回 三島賞
  32. 032 2015 私の恋人 わたしのこいびと 上田岳弘 単行本・新潮社 『私の恋人』は、クロマニョン人以来、転生を繰り返してきた「私」が人類史と恋を語る長編です。個人の恋愛が、文明、歴史、身体の記憶へと拡張される点に特徴があります。時間のスケールを大きく動かしながら、「私」と「恋人」という近い言葉を問い直す作品です。 恋愛アイデンティティ記憶 第28回 三島賞
  33. 033 2014 離陸 りりく 絲山秋子 単行本・文藝春秋 『離陸』は、絲山秋子が時間と空間を大きく動かしながら、人の移動と記憶を描く長篇です。タイトルどおり、地上の生活から浮き上がるように物語が進み、現実の距離感が変わっていきます。旅や移動の小説であると同時に、記憶の重力をめぐる作品です。 記憶移民と越境孤独と疎外
  34. 034 2014 あなたへの歌 あなたへのうた 楊逸 単行本・中央公論新社 『あなたへの歌』は、楊逸が他者へ向ける言葉と、移動する人びとの記憶を扱う小説として整理できます。歌という形式は、直接届かない思いを誰かへ送るための媒介になります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境家族言葉と言語
  35. 035 2014 指の骨 ゆびのほね 高橋弘希 初出・「新潮」2014年11月号 太平洋戦争中の南方戦線で負傷した一等兵の「私」が、臨時野戦病院で過ごす日々を語る戦争小説。食料の調達、戦友の死、退避を余儀なくされる状況を通じて、戦場の空白と狂気が描かれる。身体の損傷と形見としての骨が、忘れられた戦場の記憶を呼び戻す。静かな語りのなかに、死が日常化した場所の異様さがにじむ。 戦争身体死と喪失 第46回 新潮新人賞
  36. 036 2014 名誉と恍惚 めいよ と こうつ 松浦寿輝 初出・「新潮」2014年5月号〜連載。単行本は2017年、新潮社刊。 日中戦争下の上海で、工部局に勤める日本人警官・芹沢が軍と青幇の面会を仲介したことから警察を追われ、潜伏生活へ追い込まれていく長篇。祖国や名前を失う男の生存を通じて、戦争、都市、裏社会、アイデンティティが交錯する。大部の分量で、歴史の混沌と個人の逃走を描き込む作品。 戦争移民と越境アイデンティティ 第53回 谷崎賞
  37. 037 2013 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 しきさいをもたないたざきつくると、かれのじゅんれいのとし 村上春樹 単行本・文藝春秋 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、36歳の多崎つくるが高校時代の突然の絶交の謎をたどる長篇です。名古屋、東京、フィンランドへ向かう旅は、記憶の欠落と自己像の空白を埋める巡礼として進みます。抑制された語りで、友情、喪失、回復不能な時間を扱います。 記憶孤独と疎外青春
  38. 038 2013 流転の魔女 りゅうてんのまじょ 楊逸 単行本・文藝春秋 『流転の魔女』は、楊逸が移動する女性の生と、越境のなかで変わっていく家族や記憶を描く小説として整理できます。流転という語は、土地や身分が安定しない感覚を示し、魔女という像は周囲からの異物視も思わせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境ジェンダー家族
  39. 039 2013 太陽 たいよう 上田岳弘 初出・「新潮」2013年11月号 新宿のホテル、アフリカの「赤ちゃん工場」、パリの蚤の市、インドの湖畔などを横断し、人類の欲望と未来を極端なスケールで描くデビュー小説集。表題作「太陽」は金、不老不死、核融合といったモチーフを扱い、現代社会の資本と身体をSF的想像力で押し広げる。純文学とSFを接続する破格の語りが特徴。 テクノロジー身体移民と越境 第45回 新潮新人賞
  40. 040 2012 道化師の蝶 どうけしのちょう 円城塔 初出・「群像」2011年8月号 『道化師の蝶』は、言語、記憶、翻訳、移動をめぐる円城塔の実験的な作品集です。表題作は、物語が別の言語や媒体へ渡るたびに輪郭を変えるような構造を持ちます。読みどころは、難解さそのものではなく、言葉が世界を作り替える過程を小説として体験できる点にあります。 言葉と言語記憶芸術と表現 第146回 芥川賞
  41. 041 2012 肉骨茶 にくこつちゃ 高尾長良 初出・「新潮」2012年11月号 シンガポール・マレーシアへの旅の途中で母のもとを抜け出した17歳の赤猪子を描く。食べ物が自分の身体に蓄積していくことへの恐怖から逃れようとする彼女は、友人ゾーイーの海辺の別荘に身を寄せる。食、身体、母子関係を通じて、人間であることへの拒絶を激しく描くデビュー作。 身体母と子 第44回 新潮新人賞
  42. 042 2011 赤の他人の瓜二つ あかのたにんのうりふたつ 磯﨑憲一郎 単行本・講談社 『赤の他人の瓜二つ』は、血縁のない他人が瓜二つであるという設定から、労働、移動、世界史を交差させる磯﨑憲一郎の長編です。写し鏡のような人物配置は、個人の固有性と歴史の反復を同時に揺さぶります。寓話的な設定を取りながら、近代的な労働と身体の問題へ広がる作品です。 労働アイデンティティ記憶
  43. 043 2011 黒うさぎたちのソウル くろうさぎたちのそうる 木村紅美 単行本・集英社 『黒うさぎたちのソウル』は、ソウルという海外都市を舞台に、移動と孤独の感覚を描く木村紅美の作品です。黒いうさぎという像は、かわいらしさだけでなく、夜や不安の気配も帯びています。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境記憶孤独と疎外
  44. 044 2011 獅子頭 しーずとう 楊逸 単行本・朝日新聞出版 『獅子頭』は、獅子舞を思わせる題名を通じて、移動する人びとの記憶や家族のつながりを描く楊逸の小説です。中国語圏の文化的な記憶と日本語で書く現在が重なり、越境の感覚が作品の核になります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 移民と越境家族記憶
  45. 045 2011 フラミンゴの村 ふらみんごのむら 澤西祐典 初出・「すばる」2011年11月号 『フラミンゴの村』は、二十世紀初頭のベルギーの村で、ある日突然に妻がフラミンゴになるという奇妙な出来事をめぐる幻想小説です。変身譚のかたちを取りながら、共同体の視線や夫婦の距離を浮かび上がらせます。ヨーロッパ文学的な寓話性を帯びた作品として整理できます。 夫婦身体同調圧力 第35回 すばる文学賞
  46. 046 2010 陽だまり幻想曲 ひだまりげんそうきょく 楊逸 単行本・講談社 『陽だまり幻想曲』は、楊逸が日本語で描く移動者の生活感覚を、光のある場所への憧れと結びつける作品です。家族や言葉のずれは、異国で暮らす人物の孤独と希望を同時に映します。日常の会話に潜む違和感が、越境文学としての読みどころになります。 移民と越境家族言葉と言語
  47. 047 2009 白い紙 しろいかみ シリン・ネザマフィ 初出・文學界 2009年6月号 イラン・イラク戦争下のイランの地方都市。成績優秀な高校生の男女が、勉強を口実に心を通わせていく。だが前線が近づくにつれ、家族の事情と戦争の影がふたりの未来を静かに引き裂いていく。日本語を母語としない書き手が、平易で簡潔な日本語によって戦時下の日常と若い恋の痛みを描き、戦争文学と青春小説を重ねてみせた… 戦争恋愛青春 第108回 文學界新人賞
  48. 048 2009 ロンバルディア遠景 ろんばるでぃあえんけい 諏訪哲史 単行本・講談社 『ロンバルディア遠景』は、遠景という距離の感覚を通して、記憶、場所、言葉の変形を描く諏訪哲史の作品です。現実の土地はそのまま写されるのではなく、語りの中でずれ、遠ざかり、別の像になります。『りすん』同様、言葉そのものが主題化される実験的な小説として読めます。 言葉と言語記憶芸術と表現
  49. 049 2009 TRIP TRAP トリップ・トラップ 金原ひとみ 単行本・角川書店 『TRIP TRAP』は、移動や逸脱の感覚を、恋愛、身体、都市的な不安と結びつける金原ひとみの小説です。旅を意味する「TRIP」と罠を意味する「TRAP」が並ぶ題名は、自由に見える移動が別の閉塞へつながる感覚を示します。鋭い身体感覚と、若い人物の危うい関係性が読みどころです。 恋愛身体孤独と疎外
  50. 050 2009 金魚生活 きんぎょせいかつ 楊逸 単行本・文藝春秋 『金魚生活』は、楊逸が日本語で描く生活の細部を通して、移動する人びとの感覚や家族の距離をすくう小説です。金魚という題名は、限られた水槽のなかで動く存在のように、環境に制約されながら生きる人物像を思わせます。異文化の間で暮らす日常のささやかな揺れが読みどころです。 移民と越境家族アイデンティティ
  51. 051 2009 すき・やき すきやき 楊逸 単行本・新潮社 『すき・やき』は、食卓の親密さを通じて、国境を越えて暮らす人びとの関係や違和感を描く楊逸の作品です。題名は日本の料理名を思わせながら、好意や関係の「好き」をも響かせます。食、家族、言葉のずれが、移民文学としての読みどころにつながります。 移民と越境家族
  52. 052 2009 トモスイ ともすい 高樹のぶ子 初出・表題作「トモスイ」は「新潮」2009年4月号。単行本は2011年1月、新潮社刊。 『トモスイ』は、タイ、バリ、韓国などアジア各地を舞台に、男女の密接な関係とエロスを描く短篇集です。旅先の空気、身体の距離、異文化の感触が、恋愛や性の場面に入り込みます。高樹のぶ子の官能性と越境感覚が短篇の形で凝縮された作品です。 恋愛移民と越境 第36回 川端賞
  53. 053 2008 グ、ア、ム グ、ア、ム 本谷有希子 単行本・新潮社 『グ、ア、ム』は、グアムという観光地を舞台に、家族旅行の明るさの裏にある母娘や姉妹の違和感を描く本谷有希子の作品です。海外の解放感は、むしろ家族の関係の息苦しさを浮かび上がらせます。滑稽さと不穏さが同時に進む、劇作家的な場面の強さがあります。 家族母と子ジェンダー
  54. 054 2008 サウスポイント サウスポイント 吉本ばなな 単行本・中央公論新社 『サウスポイント』は、よしもとばななが南の島の気配や移動の感覚を通じて、恋愛と家族の記憶を描く長篇です。明るい場所に向かう題名とは裏腹に、人物の内側には喪失や過去の影が残ります。土地の光や空気を、心の回復の過程と重ねて読む作品です。 恋愛家族記憶
  55. 055 2008 時が滲む朝 ときがにじむあさ 楊逸 単行本・文藝春秋 『時が滲む朝』は、天安門事件前後の中国に生きる若者たちの青春と政治の時間を描く作品です。留学生作家である楊逸の日本語が、祖国の記憶、民主化への希望、移動する身体の感覚を重ねます。個人の朝の光景に、歴史が滲み出してくる点が読みどころです。 移民と越境青春戦争 第139回 芥川賞
  56. 056 2007 エロマンガ島の三人 えろまんがじまのさんにん 長嶋有 単行本・エンターブレイン 『エロマンガ島の三人』は、長嶋有の異色作品集として、奇妙な地名や設定から日常の感覚をずらしていく作品です。旅行記や冒険譚のような外見を借りながら、人と場所の距離感をユーモラスに扱います。題名の軽さの奥に、どこにも完全には属せない感覚が残ります。 芸術と表現孤独と疎外移民と越境
  57. 057 2007 肝心の子供 かんじんのこども 磯﨑憲一郎 初出・文藝 2007年冬号 出家して悟りを開く前のブッダ、その息子のラーフラ、さらにその子へ——インドを舞台に親子三代の生をたどる。偉人の伝記ではなく、川の流れや樹木、身体の感覚といった即物的な描写を長い呼吸の文体で積み重ね、人の一生を超えて流れる時間そのものを小説に写し取ろうとする。商社マンとして働きながら書かれた42歳の遅… 父と子家族信仰 第44回 文藝賞
  58. 058 2007 臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ ろうたしアナベル・リイ そうけだちつみまかりつ 大江健三郎 単行本・新潮社 『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』は、文学作品や映画的想像力を下敷きに、老い、成熟、欲望を晩年の大江健三郎が再構成する作品です。語りは引用や記憶を重ねながら、ひとつの恋愛譚に収まらないメタフィクション的な広がりを持ちます。文学を読み直すこと自体が、過去の自己を組み替える行為として描かれま… 芸術と表現老い記憶
  59. 059 2007 ワンちゃん わんちゃん 楊逸 初出・文學界 2007年12月号 日本に渡って暮らす中国人女性「ワンちゃん」は、中国の女性たちと日本の男たちを引き合わせる見合いツアーの世話役を務めている。国境をまたぐ結婚の斡旋という生々しい現場を通して、経済格差のなかを生きる女たちのたくましさと哀感を、来日20年の作者がよどみのない日本語で描いた。日本語を母語としない書き手が日本… 移民と越境ジェンダー貧困 第105回 文學界新人賞
  60. 060 2006 公園 こうえん 荻世いをら 初出・文藝 2006年冬号 世界の縮図のような公園から始まり、下田へ、ニューヨークへ、そしてグラウンド・ゼロへ。大学生の「ぼく」と友人オノサは、これといった目的もなく移動を続ける。「で、」という接続詞による突飛な場面転換を重ね、「なんとなく」の気分が全編に漂う独特の語りで、9.11後の世界をふわふわと浮遊する若者の感覚を写し取… 青春孤独と疎外移民と越境 第43回 文藝賞
  61. 061 2006 森のはずれで もりのはずれで 小野正嗣 単行本・文藝春秋 『森のはずれで』は、共同体の中心ではなく「はずれ」に立つ人物の感覚を、小野正嗣らしい静かな語りで描く作品です。森や周縁の場所は、記憶、土地、言葉の違いを考えるための舞台になります。中心から外れた場所で人がどう他者と出会うかを読む作品として位置づけられます。 移民と越境孤独と疎外記憶
  62. 062 2005 さようなら、私の本よ! さようならわたしのほんよ 大江健三郎 単行本・講談社 『さようなら、私の本よ!』は、老作家・長江古義人と建築家・塙吾良を軸に、文学、暴力、記憶の継承を問い直す長編です。作中人物と作者像が重なり合うメタフィクション的な構えのなかで、晩年の作家が自作と時代にどう別れを告げるかが描かれます。会話と回想を積み重ねる長い息の文体が、個人史と政治的記憶を結びつけて… 芸術と表現記憶暴力
  63. 063 2001 ベラクルス べらくるす 堂垣園江 初出・単行本(講談社、2001年)。初出誌は未確認。 カナダ・メキシコに長く在住した経験を持つ堂垣園江が書いたメキシコのベラクルスを舞台にした作品。清水博子「処方箋」と同時受賞した第23回野間文芸新人賞受賞作。 戦争記憶移民と越境 第23回 野間新人賞
  64. 064 1999 彼女のプレンカ かのじょのぷれんか 中上紀 初出・「すばる」1999年 中上健次の娘として注目されたデビュー作。熊野・新宮の土地との深い縁を持つ作者の初小説。 移民と越境海外 第23回 すばる文学賞
  65. 065 1999 零歳の詩人 れいさいのしじん 楠見朋彦 初出・「すばる」1999年 短歌誌「玲瓏」同人でもある詩歌人・楠見朋彦の小説デビュー作。第122回芥川賞候補となった。 戦争言葉と言語実験的文体 第23回 すばる文学賞
  66. 066 1999 ラニーニャ らにーにゃ 伊藤比呂美 初出・新潮社1999年刊 カリフォルニアに暮らす日本人女性を主人公に、異国での育児と老いた親の介護を往還しながら女性の身体と生の意味を問う。詩人としての言語感覚と小説的構成が融合した作品。第121回芥川賞候補・第21回野間文芸新人賞受賞(阿部和重と同時)。 母と子ケアと介護身体 第21回 野間新人賞
  67. 067 1998 日蝕 にっしょく 平野啓一郎 初出・「新潮」1998年8月号 15世紀フランスを舞台に、若い修道士が異端の哲学者を追い求め日蝕の瞬間に神秘的な体験をする中編。三島由紀夫を彷彿させる文語的な格調高い文体で書かれ、デビュー作にして40万部のベストセラーとなった。23歳の最年少(当時)受賞作。 信仰死と喪失長い息の文体 第120回 芥川賞
  68. 068 1998 おぱらばん おぱらばん 堀江敏幸 初出・青土社1998年刊 フランスの郊外に暮らす「私」が時代に忘れられた文学への愛惜と結びつきながら書いた15篇。表題作は、中国人が「以前(オーパラバン)」と発音すると外国人には「おぱらばん」と聞こえるという着想から卓球名人の肖像を描く。エッセイと純文学の境界を横断する形式が新鮮な小説集。第12回三島由紀夫賞受賞(鈴木清剛と… 言葉と言語記憶芸術と表現 第12回 三島賞
  69. 069 1997 ゴーストバスターズ 冒険小説 ゴーストバスターズ ぼうけんしょうせつ 高橋源一郎 単行本・講談社 ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドら複数の登場人物が時代・国境を越えて謎の「ゴースト」を追う、メタフィクション的構造を持つ実験的長編冒険小説。 芸術と表現メタフィクション実験的文体
  70. 070 1997 最後の吐息 さいごのといき 星野智幸 初出・「文藝」1997年 社会の抑圧と個人の変容を鋭く描く星野智幸のデビュー作。続く「目覚めよと人魚は歌う」で三島由紀夫賞を受賞した。 アイデンティティ実験的文体海外 第34回 文藝賞
  71. 071 1996 レキシントンの幽霊 れきしんとんのゆうれい 村上春樹 単行本・文藝春秋 「レキシントンの幽霊」「めくらやなぎと眠る女」など7篇を収録した短編集。 孤独と疎外記憶死と喪失
  72. 072 1996 SLY スライ 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 HIVに感染した元彼・喬を励ますため、語り手の女性と元彼氏の日出雄が彼を連れてエジプトへ旅立つ。複雑な三角関係と死の影の中で展開する恋愛小説。 恋愛死と喪失海外
  73. 073 1996 マンモスの牙 まんもすのきば 小山右人 初出・「新潮」1996年11月号 医学とアートを渉猟した独自の視点による小説。後に映画化もされた。 身体芸術と表現寓話・幻想 第28回 新潮新人賞
  74. 074 1995 KYOKO キョウコ 村上龍 単行本・集英社 ダンスを教えてくれた米兵を探してニューヨークへ渡る娘キョウコの旅を描く。 移民と越境青春海外
  75. 075 1995 韓素音の月 かんそいんのつき 茅野裕城子 初出・「すばる」1995年 旅行作家・元女優の経験と中国研究を背景にしたデビュー作。 移民と越境記憶海外 第19回 すばる文学賞
  76. 076 1995 私小説 from left to right ししょうせつ ふろむ れふと とぅ らいと 水村美苗 初出・新潮社1995年刊 アメリカに住む日本語話者の姉妹を主人公に、日本語と英語(横書き混在)という特異な書記形式を採用した実験的私小説。言語・国籍・アイデンティティの問題を問い直す越境文学の傑作。第17回野間文芸新人賞受賞(佐藤洋二郎と同時)。 アイデンティティ移民と越境言葉と言語 第17回 野間新人賞
  77. 077 1994 マリカの永い夜・バリ夢日記 マリカのながいよる・バリゆめにっき 吉本ばなな 単行本・幻冬舎 多重人格を抱えるマリカと精神科医のジュンコが共にバリ島を旅する小説と、著者自身のバリ旅行エッセイを一冊に収録した作品。 身体アイデンティティ海外
  78. 078 1994 アメリカの夜 あめりかのよる 阿部和重 初出・「群像」1994年6月号(第37回当選) 「アメリカ映画の夜」を舞台に、メディアとアイデンティティの問題を前衛的な手法で描いたデビュー作。 アイデンティティテクノロジー実験的文体
  79. 079 1993 エクスタシー エクスタシー 村上龍 単行本・集英社 ニューヨークのバワリーで謎めいた日本人ホームレスと出会った主人公が、東京のケイコとパリのレイコを巻き込む「恍惚のゲーム」に引き込まれ、ドラッグの運び屋となっていく長編小説。 身体暴力
  80. 080 1993 寂寥郊野 じゃくりょうこうや 吉目木晴彦 初出・「群像」1993年1月号 国際結婚してアメリカに在住する日本人女性がアルツハイマー症を発症し、家族と当事者の苦悩と愛情を描いた長めの中編。1998年に松井久子監督により映画「ユキエ」として映画化された。 ケアと介護移民と越境家族 第109回 芥川賞
  81. 081 1993 マシアス・ギリの失脚 ましあす・ぎりのしっきゃく 池澤夏樹 初出・書き下ろし。1993年6月新潮社刊(純文学書下ろし特別作品)。 赤道近くの架空の島国ナビダード諸島を舞台に、絶大な権力を集める大統領マシアス・ギリをめぐる政治的陰謀と、日本からの慰霊団行方不明事件を重ね合わせて描く長篇。 戦争死と喪失三人称・多視点 第29回 谷崎賞
  82. 082 1992 イビサ イビサ 村上龍 単行本・角川書店 『イビサ』は、精神病院を退院したマチコが男に誘われてパリへ渡り、ドラッグ、セックス、アルコールに浸りながらモロッコ、バルセロナ、イビサ島へ漂流する物語です。海外の都市と身体の破滅感を通じて、自己を失いながらなお移動していく感覚を描きます。初期村上龍の暴力的な欲望と都市的な不安が濃く出た長篇です。 孤独と疎外アイデンティティ
  83. 083 1991 海を渡る植物群 うみをわたるしょくぶつぐん みどりゆうこ 初出・「文學界」1991年6月号(第72回受賞) 『海を渡る植物群』は、みどりゆうこが第72回文學界新人賞を受賞した作品です。NDLで受賞作発表記事と『文學界』1991年6月号の書誌を確認できました。題名から越境や移動のイメージがうかがえますが、物語内容を具体的に確認できる公開資料は今回見つからず、紹介は書誌中心です。 移民と越境記憶簡潔な文体 第72回 文學界新人賞
  84. 084 1991 かかとを失くして かかとをなくして 多和田葉子 初出・「群像」1991年6月号(第34回当選) 『かかとを失くして』は、ドイツ語圏に渡った日本人女性の言語と身体の変容を、夢幻的な語りで描く多和田葉子のデビュー作です。足元の感覚を失うというイメージが、母語の外へ出る不安や、身体の境界の揺らぎにつながっていきます。越境文学・エクソフォニーの出発点として重要な作品です。 アイデンティティ言葉と言語身体 第34回 群像新人賞
  85. 085 1991 やすらかに今はねむり給え やすらかにいまはねむりたまえ 林京子 初出・各短篇は1980年代後半に複数誌に発表。単行本1991年講談社刊。初出連載年の特定が困難なため単行本刊行年を year とした。 『やすらかに今はねむり給え』は、長崎、上海、アメリカを背景に、被爆者としての記憶と海外体験を重ねる短篇集です。戦争の傷を大きな声で告発するだけでなく、戦後を生き続ける人物の静かな時間に沈めて描きます。林京子の原爆文学の系譜にあり、移動と記憶が響き合う一冊です。 戦争記憶死と喪失 第26回 谷崎賞
  86. 086 1990 村の名前 むらのなまえ 辻原登 初出・「文學界」1990年6月号 『村の名前』は、中国奥地を舞台に、ある村の名をめぐる記憶と謎を追う中篇です。旅と聞き書きのような手触りを持ちながら、地名が個人や共同体の歴史をどのように抱え込むかを幻想的に描きます。辻原登のデビュー期の越境感覚と、語りの迷宮性が読みどころです。 記憶移民と越境実験的文体 第103回 芥川賞
  87. 087 1989 ラッフルズホテル ラッフルズホテル 村上龍 単行本・集英社 シンガポールの名門ホテルを思わせる空間を舞台に、旅、欲望、演技する自己を描く村上龍の作品。ホテルという非日常の場所が、登場人物の孤独や消費社会の空虚さを浮かび上がらせる。都市的で乾いた感触の中に、海外への視線と身体感覚が重なる。 孤独と疎外身体
  88. 088 1988 村上龍料理小説集 むらかみりゅうりょうりしょうせつしゅう 村上龍 単行本・集英社 料理を軸に、欲望、記憶、身体感覚を結びつける村上龍の短篇集。食べることが単なる生活描写ではなく、性、旅、階層、感覚の鋭さを呼び出す装置として働く。村上龍の官能的な文体を、暴力よりも味覚と記憶の側から読める作品集。 身体
  89. 089 1988 由煕 ゆひ 李良枝 初出・「群像」1988年11月号(第43巻第11号) 『由煕』は、韓国に留学した在日韓国人女性・由煕が、理想化していた「祖国」と現実の韓国語・韓国社会のずれに苦しむ姿を描く中篇です。日本語と韓国語のあいだで裂かれる自己認識が、言葉の問題としても身体感覚としても迫ってきます。越境やアイデンティティを、外側から説明するのでなく当事者の息苦しさとして読ませる… アイデンティティ移民と越境言葉と言語 第100回 芥川賞
  90. 090 1988 ルイジアナ杭打ち るいじあなくいうち 吉目木晴彦 初出・単行本(講談社、1988年)。初出誌は未確認。 父の仕事の都合でルイジアナ州バトンルージュに暮らす日々を、少年の目を通して書きとめた短篇集。紀伊國屋書店の紹介では、深南部に住む異邦人としての非適応感覚を、クールさとユーモアを交えて捉えた作品とされる。移住先の風物、家族、周囲の人々との距離感が、記憶と越境の物語になっている。 移民と越境記憶青春 第10回 野間新人賞
  91. 091 1985 過越しの祭 すごしのまつり 米谷ふみ子 初出・「新潮」1985年7月特大号(第82巻第7号)。同年「新潮新人賞」受賞作。単行本は1985年新潮社刊 『過越しの祭』は、ロサンゼルス在住の日本人女性の視点から、日系・白人・黒人が交錯するアメリカ社会の摩擦を描く作品です。ユダヤ教の過越祭という宗教的な枠組みを手がかりに、異文化の理解と断絶、日本人としての立ち位置を問い直します。越境文学として、家族や信仰の場面に社会的緊張が入り込むところが重要です。 移民と越境家族信仰 第94回 芥川賞
  92. 092 1985 遠来の客 えんらいのきゃく 米谷ふみ子 初出・「文學界」1985年 『遠来の客』は、ロサンゼルス在住の米谷ふみ子が「過越しの祭」と同時期に発表したデビュー期の作品です。既存データでは、家族、障害、移民的な越境感覚を扱う作品として整理されています。海外に暮らす日本語作家の視点から、家族の内部にある距離と異文化の緊張を読む作品です。 家族障害移民と越境 第60回 文學界新人賞
  93. 093 1985 ゼロはん ぜろはん 李起昇 初出・「群像」1985年 第28回群像新人文学賞当選作。李起昇のデビュー作。詳細は未確認。 アイデンティティ移民と越境死と喪失
  94. 094 1985 過越しの祭 すぎこしのまつり 米谷ふみ子 初出・「新潮」1985年11月号(新潮社) ロサンゼルスに暮らす日本人女性の視点から、日系、白人、黒人が混在するアメリカ社会の文化的・人種的摩擦を描く。ユダヤ教の「過越しの祭」を題材に、異文化のなかで自分の位置を測り直す過程が物語の軸になる。移民の生活感覚と信仰儀礼が交差し、理解と断絶の両方を浮かび上がらせる作品。 アイデンティティ移民と越境信仰 第17回 新潮新人賞
  95. 095 1984 女からの声 おんなからのこえ 青野聰 初出・単行本(初出誌は未確認) 1979年「愚者の夜」で芥川賞を受賞した青野聰が、女性の声と視点を主題に据えた作品集。島田雅彦「夢遊王国のための音楽」と同時受賞した第6回野間文芸新人賞受賞作。 孤独と疎外恋愛移民と越境 第6回 野間新人賞
  96. 096 1982 佐川君からの手紙 さがわくんからのてがみ 唐十郎 初出・「文藝」1982年秋季号。複数の情報源から「文藝」1982年掲載と確認。単行本は1983年河出書房新社刊 『佐川君からの手紙』は、1981年のパリ人肉事件を下敷きに、犯人から届く手紙と映画化をめぐる交渉を通して事件へ接近していく作品です。唐十郎らしいアングラ演劇的な誇張と越境感が、小説の形で犯罪、欲望、表現の倫理を揺さぶります。実在事件を扱うため、読後には不穏さと表現上の危うさが強く残ります。 暴力死と喪失実験的文体 第88回 芥川賞
  97. 097 1982 夢の壁 ゆめのかべ 加藤幸子 初出・「新潮」1982年9月号(第79巻第9号) 『夢の壁』は、北京での幼少期の記憶を背景に、異文化の中で形成された自己感覚と現在のまなざしを重ねる作品です。人間と自然、記憶と現実の境目を探る語りには、生態学的な観察と越境の感覚が混ざっています。歴史や国境を大きく語るより、個人の記憶の層から世界を見直すところに読みどころがあります。 記憶移民と越境アイデンティティ 第88回 芥川賞
  98. 098 1981 金色の象 こんじきのぞう 宮内勝典 初出・単行本(河出書房新社、1981年)。初出誌は未確認。 世界を放浪してきた青年と、自分を持て余す家出娘の一瞬の出会いから、同棲と出産へ進む物語。河出書房新社の紹介では、小さな生命の誕生が若い二人に愛と性の輝きをもたらす作品として位置づけられている。移動する身体、出会い、家族の始まりを、祝祭性と痛みを含んだ青春譚として読むことができる。 恋愛移民と越境 第3回 野間新人賞
  99. 099 1980 海を越えた者たち うみをこえたものたち 笹倉明 初出・「すばる」1980年12月号(集英社) 海外を放浪する日本人若者たちを描いたデビュー作。笹倉明が後にミステリー作家へと転じる前の純文学的出発点。 移民と越境青春孤独と疎外
  100. 100 1977 海の向こうで戦争が始まる うみのむこうでせんそうがはじまる 村上龍 単行本・講談社 村上龍が『限りなく透明に近いブルー』後に発表した初期長編。題名の通り、戦争が遠くで始まるという感覚を、若者の身体や都市的な不安と接続する。暴力、メディア、距離感のずれを通じて、初期村上龍の社会への鋭い視線を読む作品である。 戦争青春暴力
  101. 101 1955 白い人 しろいひと 遠藤周作 初出・「近代文學」1955年5〜6月号(第33回芥川賞受賞) 『白い人』は、ナチ占領下のフランスを舞台に、拷問と背徳を通して悪の問題を問う遠藤周作の中篇です。信仰の有無を単純に裁くのではなく、人間が悪へ傾く瞬間を内面から探ります。カトリック作家としての遠藤の問題意識が、以後の『沈黙』などへつながる出発点として読めます。 信仰暴力戦争 第33回 芥川賞
  102. 102 1949 異邦人 いほうじん 辻亮一 初出・「新小説」1949年(1950年上半期 第23回芥川賞受賞) 『異邦人』は、敗戦後の中国で中国共産党軍に徴用された日本人の体験を描く短篇です。異国の軍事・政治状況に投げ込まれた人物を通して、戦後直後の日本人が抱えた疎外感と帰属の不安を切り取ります。物語の細部については公開出典が限られるため、ここでは受賞作として確認できる範囲を中心に紹介します。 戦争移民と越境孤独と疎外 第23回 芥川賞
  103. 103 1945 生きてゐる兵隊 いきてゐるへいたい 石川達三 単行本・河出書房 南京攻略戦に従軍した日本兵の実態を描いた戦争小説。戦場の兵士を英雄化せず、加害と疲弊のただ中に置くことで、戦争が人間の身体と倫理をどう壊すかを見つめる。発売直後に発禁処分を受けた問題作として知られ、石川達三の社会的リアリズムを代表する重要作である。 戦争暴力身体
  104. 104 1935 蒼氓 そうぼう 石川達三 初出・同人誌「星座」1935年 昭和初頭、国策としてブラジル移民に応じた人々を描く三部構成の群像劇。第一部では神戸の国立移民収容所で出港を待つ数日間が、東北の寒村から一家で海を渡ろうとする者たちを中心に描かれ、続いて移民船での45日間の航海、ブラジル到着後に過酷な労働へ踏み出す姿へと続く。貧しさゆえに故郷を棄てざるをえない名もなき… 移民と越境貧困労働 第1回 芥川賞