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職場

舞台「職場」に分類された 141 作品。

  1. 001 2026 満ちる街 みちるまち 山本莉会 単行本・朝日新聞出版 限界集落に住む電力会社職員の徳真が、農園の土地売却をめぐる出来事に関わっていく第12回林芙美子文学賞大賞受賞作。受賞時タイトルは「満ちる街」で、掲載時には「むこうの景色は知らない」へ改題された。地方のインフラ、土地、暮らしの持続をめぐる問題を、現代的な地域小説として読ませる。 地方労働同調圧力 第12回 林芙美子賞
  2. 002 2025 バックミラー バックミラー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『バックミラー』は、落ち目のミュージシャン、極度の無駄嫌いのM&A会社社長、樹木伐採に生活を揺さぶられる女性など、都市でままならなさを抱える人物たちを描く短篇集です。河出書房新社公式は、シニカルな笑いと冷徹な観察力で都会の人生を写す「令和の没落小説」と紹介している。後方を映す題名の通り、成功や合理性… 孤独と疎外労働アイデンティティ
  3. 003 2025 ジャスティス・マン じゃすてぃす・まん 佐藤厚志 単行本・文藝春秋 『ジャスティス・マン』は、仙台の老舗ホテルに勤続30年の初老ホテルマンが、特撮ヒーローに重ねた「正義」を暴走させていく長篇です。家庭も職もある中年男性の独りよがりな正義が、職場や周囲との軋轢を深めていく。正義という言葉の快さと危うさを、地方都市の労働現場と生活者の視点から描く作品です。 労働同調圧力暴力
  4. 004 2025 関係のないこと かんけいのないこと 上田岳弘 単行本・新潮社 『関係のないこと』は、パンデミック後の東京で、自分とは切り離してきたはずの出来事や他者の痛みが、ふいに生活へ入り込んでくる瞬間を描く作品集です。表題作では、弁護士として世間と折り合ってきた人物が、見ないようにしてきた「壁」に取り囲まれていく。五篇を通じて、情報や人間関係が過剰に広がる都市生活のなかで… 孤独と疎外労働同調圧力
  5. 005 2025 受け手のいない祈り うけてのいないいのり 朝比奈秋 単行本・新潮社 『受け手のいない祈り』は、感染症拡大で地域の救急医療が逼迫するなか、患者を受け入れ続ける病院で働く青年医師・公河を描く長篇です。長時間勤務と極度の疲労が、死、狂気、使命感、食欲や時間感覚の乱れをひとつの身体に押し寄せさせる。医師としての経験に支えられた具体性と、現実の歪みが幻想に近い手触りへ変わる語… 労働身体
  6. 006 2025 YABUNONAKA ヤブノナカ 金原ひとみ 単行本・文藝春秋 『YABUNONAKA』は、文芸誌元編集長への性加害告発をきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の人物たちの日常が絡み合っていく長篇です。MeToo運動、マッチングアプリ、SNSといった現代の環境を背景に、性、権力、暴力、愛、そして「わかりあえないこと」の先を群像劇として描く。文芸業界そのものを… ジェンダー暴力
  7. 007 2025 BOXBOXBOXBOX ボックスボックスボックスボックス 坂本湾 初出・「文藝」2025年冬季号 『BOXBOXBOXBOX』は、薄霧のたちこめる宅配所で箱を仕分ける安を中心に、単調な労働と禁断の欲望を描くベルトコンベア・サスペンス。ほとんど誰とも口をきかず、箱の中身を妄想して労働をやり過ごす安は、ある箱の中身を覗いたことをきっかけに、箱が次々と消えていく現象に巻き込まれる。宅配所で働く四人とそ… 労働孤独と疎外同調圧力 第62回 文藝賞
  8. 008 2025 カンザキさん かんざきさん ピンク地底人3号 初出・「すばる」2025年8月号 『カンザキさん』は、家電配送会社に就職した語り手が、暴力的なベテラン配送員カンザキさんと組まされるところから始まる。離職者の絶えない職場で、罵倒、暴力、不条理な命令に耐える日々が、自伝的小説の強度で描かれる。労働現場の暴力を、悪魔なのか別の何かなのか判然としない人物像とともに押し出す。 労働暴力身体 第47回 野間新人賞
  9. 009 2024 バリ山行 バリさんこう 松永K三蔵 初出・群像 2024年3月号 転職して関西の建物修繕会社に入った波多は、社内の親睦登山をきっかけに六甲山に通うようになる。やがて、職人気質で社内では変人扱いされるベテラン社員・妻鹿が、整備された登山道を外れ、地図を読みながら道なき道を行く「バリ山行(バリエーションルートの登山)」を独りで続けていることを知る。会社の経営が傾き、リ… 労働孤独と疎外身体 第171回 芥川賞
  10. 010 2024 カメオ かめお 松永K三蔵 初出・群像 2021年7月号 『カメオ』は、本社命令で期日までに倉庫を建てなければならない会社員の前に、犬を連れた隣地の男・カメオが立ちはだかるデビュー作。職場の命令、土地、期限、隣人との交渉が、現実的な仕事の話でありながら不条理な可笑しみを帯びて進む。労働の現場にある理不尽さと、人がどうにも動かせない他者の存在を、乾いたユーモ… 労働孤独と疎外同調圧力
  11. 011 2024 ある日の、あのタクシー あるひのあのたくしー 広小路尚祈 単行本・桜山社 『ある日の、あのタクシー』は、運転手と乗客の一期一会の出会いを通して町の姿を描く、12編からなるタクシー小説集。車内という短い時間と閉じた空間に、乗る人の生活、職業、孤独、偶然の会話が交差する。タクシー運転手経験を持つ著者の経歴も重なり、労働の現場から都市を見つめる読み味がある。 労働孤独と疎外記憶
  12. 012 2024 K+ICO 上田岳弘 単行本・文藝春秋 ウーバーイーツ配達員のKと、TikTokerとして活動する女子大生ICOが、巨大な「システム」のなかで交錯していく長篇。ギグワーク、SNS、インターネットによる偶然の接続を現代的な意匠として扱いながら、カフカ『城』を象徴的な参照点にして、資本主義の抽象的な力と個人の孤独を重ねる。KとICO、それぞれ… テクノロジー労働孤独と疎外
  13. 013 2024 ナチュラルボーンチキン ナチュラルボーンチキン 金原ひとみ 単行本・河出書房新社 45歳で一人暮らしの事務職・浜野文乃は、仕事、動画、ご飯という反復の生活を守ってきた。上司の指示で、捻挫を理由に在宅勤務を続ける若い編集者・平木直理の部屋を訪ねたことから、ホストクラブ通いの痕跡や奔放な価値観に触れ、忘れかけていた自分の欲望と向き合い始める。職場小説の軽さと中年の再生譚を重ね、ルーテ… 労働孤独と疎外アイデンティティ
  14. 014 2024 タブー・トラック タブー・トラック 羽田圭介 単行本・講談社 クリーンなイメージに押しつぶされそうな俳優、自分を管理しようとする脚本家、SNSで著名人を糾弾する会社員、整形と動画配信で稼ぐ女子高生など、タブーに縛られ、またタブーに惹かれる人々の人生が交錯する長篇。題名の「タブー・トラック」は、世間の目から離れて禁忌を犯せるプライベートスペースとして示される改造… 同調圧力身体テクノロジー
  15. 015 2024 多頭獣の話 たとうじゅうのはなし 上田岳弘 単行本・講談社 IT企業の幹部として働く「僕」の前に、会社員からトップYouTuberへ転身した元後輩・桜井君が再び現れる。彼は世界の危機を回避し、人類が進むべき方向を示すため、かつて存在した「完璧な文章」を取り戻そうと予言めいた言葉を発する。IT企業、YouTuber、神話、カフカ的な不条理を重ね、現代の情報環境… テクノロジー言葉と言語信仰
  16. 016 2024 ゲーテはすべてを言った げーてはすべてをいった 鈴木結生 初出・小説トリッパー 2024年秋季号 「ゲーテはすべてを言った」は、ゲーテ学者・博把統一がティーバッグのタグに印字された未知の名言を追い、原典と記憶をたどっていく小説。学問の調査譚でありながら、引用、記憶、創作の境界を問い、知の確かさそのものを物語の謎にしている。出版社は本作を「アカデミック冒険譚」と紹介しており、ユーモラスな名前や知的… 言葉と言語芸術と表現記憶 第172回 芥川賞
  17. 017 2024 ハイパーたいくつ ハイパー たいくつ 松田いりの 初出・「文藝」2024年冬季号 『ハイパーたいくつ』は、給与計算のミスを繰り返し職場で疎まれる「ペンペン」が、借金と退屈に追い詰められていく日常破壊小説。買い物、クレジットカード、職場での失敗といった現実の閉塞が、壊れた言葉によって壊れた風景へ変形していく。笑いと恐怖が同時に立ち上がる語り口で、労働と消費のなかで大人になれない感覚… 労働貧困言葉と言語 第61回 文藝賞
  18. 018 2023 ミドルノート みどるのーと 朝比奈あすか 単行本・実業之日本社 食品会社の同期でワーキングマザーの菜々と愛美、アロマデザイナーに転身した麻衣、同世代の派遣社員・彩子という四人のアラサー女性を描く仕事小説。新型肺炎の流行で社会が揺れるなか、働き方、結婚、出産、昇進、転職によって、それぞれの道は同じスタート地点から大きく分かれていく。香水の「ミドルノート」を人生の中… 労働家族ジェンダー
  19. 019 2023 ハジケテマザレ ハジケテマザレ 金原ひとみ 単行本・講談社 コロナ禍で派遣切りにあった「私」が、生活のためにイタリアンレストラン「フェスティヴィタ」で働き始める作品集。YouTuberの恋人をめぐる騒動、クラブでの爆踊り、激辛フェスでのプロポーズ演出など、バイト仲間との出来事が愉快さと切実さを帯びて連なる。「普通」をめぐる言葉を軸に、労働、居場所、混ざり合う… 労働同調圧力孤独と疎外
  20. 020 2023 立春大吉 りっしゅんだいきち 浅尾大輔 単行本・新日本出版社 『立春大吉』は、過疎の町で町立病院の入院ベッド全廃計画が持ち上がり、病院と町への思いを抱えた住民たちが抗う長編である。新米町議・友川あさひを中心に、主義主張や家庭事情の異なる人々が交わり、地域医療、暮らし、政治参加の問題が重なっていく。『しんぶん赤旗』連載を単行本化した作品で、若い世代の苦悩と住民運… ケアと介護労働家族
  21. 021 2023 共に明るい ともにあかるい 井戸川射子 初出・群像 2023年1月号 『共に明るい』は、早朝のバス、野鳥園、恋人の家、島への修学旅行、工場の作業部屋など、異なる場所で人が抱える痛みや不安に触れる五篇の小説集である。語られない心の内がふと漏れ出す瞬間をすくい、「他人」がつながりたい「他者」へ変わる手つきを静かに描く。『この世の喜びよ』で芥川賞を受けた後の第一作として、井… 孤独と疎外家族労働
  22. 022 2023 図書館のお夜食 としょかんのおやしょく 原田ひ香 単行本・ポプラ社 『図書館のお夜食』は、東北の書店勤務がうまくいかず仕事を辞めようとしていた樋口乙葉が、東京郊外の「夜の図書館」で働き始める長編である。そこは夕方七時から深夜まで開く特殊な図書館で、亡くなった作家の蔵書を集めた本の博物館のような場所でもある。予想外の出来事と夜食を通して、本、食、仕事、ほどよい距離で語… 労働芸術と表現
  23. 023 2023 うるさいこの音の全部 うるさいこのおとのぜんぶ 高瀬隼子 単行本・文藝春秋 ゲームセンターで働く長井朝陽は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから、職場や友人との関係が少しずつ変化していく。兼業作家であることが知られ、執筆中の小説と現実の境目も揺らぎはじめる。作家デビューの舞台裏を題材にしながら、注目されること、働き続けること、他者の視線に晒され… 芸術と表現労働アイデンティティ
  24. 024 2022 はぐれんぼう はぐれんぼう 青山七恵 単行本・講談社 『はぐれんぼう』は、あさりクリーニング店で働く優子が、長く引き取りに来られない衣服「はぐれんぼちゃん」を持ち帰ったことから始まる長編である。翌朝、衣服が体を覆うようにまとわりつき、優子は持ち主たちを訪ねるが、服は次々に受け取りを拒まれる。トレンチコート姿のユザさんに導かれながら帰るべき場所を探す道行… 孤独と疎外労働アイデンティティ
  25. 025 2022 CF しーえふ 吉村萬壱 単行本・徳間書店 罪の責任を「無化」する超巨大企業Central Factoryをめぐり、加害、被害、償いの意味が揺らいでいく群像劇。キャバクラ嬢、主婦、中学生、ホームレス、CFで働く中年、広報室長、そしてCFへのテロを企てる男など、社会の周縁と制度の内部にいる人々が交錯する。荒唐無稽な設定を通して、責任を引き受ける… 暴力テクノロジー労働
  26. 026 2022 デクリネゾン デクリネゾン 金原ひとみ 単行本・ホーム社 二度の離婚を経て中学生の娘・理子と暮らす小説家の志絵が、年下の大学生・蒼葉との同居を娘に告げるところから、母であることと恋愛することの緊張が露わになる長篇。仕事、家庭、恋愛のすべてを求める女性たちと、その周囲に生まれる家族的なつながりを描く。母子、ステップファミリー、欲望、生活の配分をめぐる会話が… 家族恋愛母と子
  27. 027 2022 青木きららのちょっとした冒険 あおききらら のちょっとしたぼうけん 藤野可織 単行本・講談社 「きらら」という名を手がかりに、人気モデル兼女優の偽物、痴漢された女子高生、特別な日を撮影するカメラマン、若いアイドルの死を願う会社員など、八つの人生を照らす連作的な作品集。無責任な暴力、すれ違う意識、他者への思い込みが、日常の少しずれた場面から立ち上がる。誰かであり誰でもない存在として生きる人々を… 暴力アイデンティティジェンダー
  28. 028 2022 嫌いなら呼ぶなよ きらいならよぶなよ 綿矢りさ 単行本・河出書房新社 『嫌いなら呼ぶなよ』は、表題作を含む四篇で、有毒に暴走するコミュニケーションと、その遮断を描く短篇集である。妻の親友宅に招かれた「僕」が突然ミニ裁判にかけられる表題作をはじめ、美容整形、YouTuberへの粘着的なコメント、深夜まで続く助言など、現代的なつながりの圧力がブラックユーモアを帯びて展開す… 同調圧力言葉と言語暴力
  29. 029 2022 まっとうな人生 まっとうなじんせい 絲山秋子 単行本・河出書房新社 『逃亡くそたわけ』から十数年後、花ちゃんとなごやんは富山で偶然再会する。かつて精神病院を抜け出して九州を旅した二人は、それぞれ家族を持ち、コロナ禍の同時代を生きる人として再び向き合う。富山の地名、食文化、方言、スーパーの細部までを織り込みながら、家庭を守ろうともがく花ちゃんの怒りや不安を、土地に根ざ… 家族記憶労働
  30. 030 2022 おいしいごはんが食べられますように おいしいごはんがたべられますように 高瀬隼子 初出・群像 2022年1月号 食品会社の支店を舞台に、三人の社員の関係を描く。そつなく働くが食への関心が薄い二谷、体が弱く周囲に守られ、手作り菓子を職場に持ってくる芦川、芦川の分の仕事まで引き受けてしまう押尾。二谷は芦川と付き合いながら、「おいしいごはん」を大切にする価値観への苛立ちを募らせ、押尾は守られる芦川への反感を二谷とひ… 労働同調圧力 第167回 芥川賞
  31. 031 2022 プリテンド・ファーザー ぷりてんど・ふぁーざー 白岩玄 単行本・集英社 シングルファーザーとして四歳の娘を育てる恭平と、シッターとして働きながら一歳半の息子を育てる章吾が、互いの事情から四人で暮らし始める物語。高校の同級生だった二人の共同生活は、家事・育児・仕事の負担を分かち合う試みであると同時に、ケアとキャリアをめぐるひずみを可視化していく。血縁や恋愛関係だけではない… 父と子ケアと介護労働
  32. 032 2022 老人ホテル ろうじんほてる 原田ひ香 単行本・光文社 埼玉県の大家族で育った日村天使は、テレビに出る大家族の一員だったが、16歳で家を出て大宮のキャバクラで働く。生活保護を受けながら流されるように暮らしていた彼女は、かつて店で出会ったビルのオーナー・綾小路光子と、訳あり老人が長逗留する古びたビジネスホテルで再会する。光子の投資や生活の指南を通じて、天使… 貧困老い孤独と疎外
  33. 033 2022 財布は踊る さいふはおどる 原田ひ香 単行本・新潮社 専業主婦の葉月みづほは、ある夢のために生活費を切り詰め、毎月二万円を貯金してきた。努力の末に夢を実現した直後、夫に二百万円以上の借金があることが発覚し、彼女の生活は大きく動き始める。ひとつの財布をめぐる六話を通じて、節約、借金、投資、奨学金、老後資金など、「今より少し、お金がほしい」人々の切実さと再… 貧困家族労働
  34. 034 2022 とんこつQ&A とんこつきゅーあんどえー 今村夏子 単行本・講談社 中華料理店「とんこつ」で働く「わたし」は、挨拶を覚えて居場所を得たかに見えるが、新人の「あの女」によって均衡を崩されていく。表題作ほか「嘘の道」「良夫婦」「冷たい大根の煮物」を収録し、普通の可笑しみの奥から人間の取り返しのつかない瞬間が顔を出す。短く平明な語りが、善意や純粋さの怖さをじわじわ見せる作… 労働孤独と疎外同調圧力
  35. 035 2022 雨滴は続く うてきはつづく 西村賢太 単行本・文藝春秋 2004年、北町貫多は同人誌発表作「けがれなき酒のへど」が同人雑誌優秀作に選ばれ、純文学誌に転載されたことで文壇デビューを果たす。藤澤清造の歿後弟子であろうとする執念、純文学誌への執筆、恋情と自尊心の揺れが、貫多らしい苛立ちと滑稽さを伴って進む。完成直前で未完となった遺作長篇であり、作家になる以前の… 芸術と表現恋愛孤独と疎外
  36. 036 2022 ジャクソンひとり ジャクソン ひとり 安堂ホセ 初出・「文藝」2022年冬季号 『ジャクソンひとり』は、東京で整体師として働くブラックミックスの青年ジャクソンが、Tシャツに仕込まれたコードから流出した動画をめぐって職場で疑われるところから動き出す。本人が否定しても身体的特徴で同一視される彼は、動画の男は自分だと主張する三人の男と出会い、逆襲へ向かう。人種、身体、アイデンティティ… アイデンティティ移民と越境身体 第59回 文藝賞
  37. 037 2021 滅私 めっし 羽田圭介 単行本・新潮社 必要最低限の物だけで暮らすライターの男が、ミニマリストの同志が集うサイト運営と投資で生計を立てながら、自由でスマートな生活を手に入れている。物だけでなく人間関係にも淡泊だった彼の前に、昔の所業を知る人物が現れ、捨てたはずの過去が生活に影を落とす。所有を減らすことの快楽と、過去や欲望は簡単には消せない… アイデンティティ労働記憶
  38. 038 2021 水たまりで息をする みずたまりでいきをする 高瀬隼子 単行本・集英社 ある日、衣津実は夫が風呂に入らなくなったことに気づく。夫は水が臭く、体につくと痒くなると言って入浴を拒み、やがて雨に濡れに外へ出るようになり、職場で体臭が問題にされる。退職と移住を経て、夫が川で水浴びをする生活へ向かう過程を、夫婦の問題として押し返される妻の視点から描き、身体、清潔、共同生活の境界を… 夫婦身体
  39. 039 2021 Phantom ファントム 羽田圭介 単行本・文藝春秋 外資系食料品メーカーで働く元地下アイドルの華美は、生活費を切り詰めて株式投資を続け、給与収入と同じ配当を生む「分身」の構築を目指している。恋人の直幸は、使われない金を軽んじながら、ある人物が率いるオンラインコミュニティにのめり込み、物々交換や集団生活の思想へ傾いていく。投資、オンライン共同体、恋愛の… 労働テクノロジー恋愛
  40. 040 2021 旅のない たびのない 上田岳弘 単行本・講談社 コロナ禍中の日々を映す四篇からなる、上田岳弘初の短篇集。恋人とのホテル、息子との散歩、甥を預かる夏、出張先の車中といった限られた場面を通して、移動が制限された時代の記憶、会話、自己認識を描く。大きな事件よりも、日常の小さな違和感や言葉のずれから世界の変化を浮かび上がらせる作品集。 記憶孤独と疎外家族 第46回 川端賞
  41. 041 2021 象の皮膚 ぞうのひふ 佐藤厚志 単行本・新潮社 幼少時から重度のアトピー性皮膚炎に苦しんできた五十嵐凜は、仙台の書店で契約社員として働きはじめる。肌を隠し、他人と距離を取ることで日々をやり過ごす凜に、今度は接客業の理不尽な客対応や、震災後に本を求める人々の姿が重なっていく。子どもの頃の記憶と現在の職場を往還しながら、身体に刻まれた痛み、労働の疲弊… 身体労働
  42. 042 2021 悪い音楽 わるいおんがく 九段理江 初出・「文學界」2021年5月号 『悪い音楽』は、音楽家の父を持ち、卓越した才能を持ちながら他者への共感に乏しい中学校の音楽教師・三井ソナタを描く。彼女の平穏な日常は、音楽を熱烈に愛しながら耳に障害を抱える生徒との出会いで崩れていく。芸術的才能、感受性、教育現場の関係性をブラックユーモアで問う、九段理江のデビュー作である。 芸術と表現同調圧力言葉と言語 第126回 文學界新人賞
  43. 043 2020 地に這うものの記録 ちにはうもののきろく 田中慎弥 単行本・文藝春秋 再開発計画に揺れる駅前ビルに現れた、言葉を話すネズミのポールを主人公にした寓話的長篇。市議会議員の浦田さんの助けを得て、ポールは欲望や利害が渦巻く人間社会へ踏み込み、やがて市議会で語るところまで進む。人間とネズミの古い因縁を、都市再開発、政治、他者への嫌悪と共存の問題に重ねて描く。 同調圧力暴力労働
  44. 044 2020 fishy フィッシー 金原ひとみ 単行本・朝日新聞出版 三十代の女性三人が、それぞれの恋愛、結婚、仕事、女友だちとの距離を抱えながら、言い切れない本音をにじませていく連作長篇。男に対する屈託や違和感を、単純な対立ではなく、関係性が少しずつ更新される過程として描く。会話と内面の揺れを重ね、友情、欲望、自立の輪郭が変わっていく読み味がある。 恋愛ジェンダー労働
  45. 045 2020 一橋桐子(76)の犯罪日記 ひとつばしとうこのはんざいにっき 原田ひ香 単行本・徳間書店 76歳で一人暮らしの一橋桐子は、親友トモを亡くし、年金と清掃パートだけでは先行きの見えない老後に追い詰められる。孤独死で人に迷惑をかけるくらいなら刑務所に入ればよいのではないかと考え、万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人と、より長く収監される方法を真剣に調べ始める。犯罪計画の滑稽さの奥に、貧困、老い… 老い貧困孤独と疎外
  46. 046 2020 口福のレシピ こうふくのれしぴ 原田ひ香 単行本・小学館 『口福のレシピ』は、フリーのSE兼料理研究家として働く留希子と、昭和二年の品川料理教習所で働くしずえの時間を行き来する家族小説。留希子は老舗料理学校を営む家の後継者であることに抵抗を抱きながらも、SNS発信をきっかけに料理研究家として認知されていく。簡単でおいしい献立企画をめぐる問題を通じて、家庭の… 家族労働
  47. 047 2020 丸の内魔法少女ミラクリーナ まるのうちまほうしょうじょミラクリーナ 村田沙耶香 単行本・KADOKAWA 表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』に、『秘密の花園』『無性教室』『変容』を加えた四篇の短篇集。魔法少女、秘密の領域、無性化、変容といった設定を通じて、社会が当然視する性別、年齢、役割、自己像をずらして見せる。村田沙耶香らしい寓話的な発想と日常の手ざわりが同居し、軽やかさの奥に規範への違和感が残る。 アイデンティティジェンダー
  48. 048 2020 御社のチャラ男 おんしゃのちゃらおとこ 絲山秋子 単行本・講談社 『御社のチャラ男』は、社内で「チャラ男」と呼ばれる三芳部長をめぐり、彼を見つめる周囲の人々の語りから職場の現実を照らし出す長篇。中心人物を直接つかまえるのではなく、多方向から語られる噂や距離感によって、憎らしさと愛おしさが同居する人物像が立ち上がる。会社という共同体の空気、働く人の孤独、他人を語るこ… 労働同調圧力孤独と疎外
  49. 049 2020 幼な子の聖戦 おさなごのせいせん 木村友祐 初出・すばる 2019年11月号 第162回芥川賞候補作の表題作と、ビルの窓拭きを描く『天空の絵描きたち』を収める作品集。表題作では、青森の小さな村で村議をしている「おれ」が、人妻との関係を県議に握られ、同級生候補への選挙妨害を強いられる。地方政治の閉塞、個人の弱み、労働現場の緊張を、怒りと諦めのあわいにかすかな希望を探る語りで描く… 同調圧力労働暴力
  50. 050 2020 うつくしい羽 うつくしいはね 上村渉 初出・すばる 2019年6月号 表題作『うつくしい羽』と『あさぎり』などを収めた、上村渉の初小説集。OpenBDの版元提供情報は、食の記憶が過去を呼び覚ます作品として、離婚で心の支えを失った男と、フランス修業時代に大切な人を失った料理人の軌跡を紹介している。併録作『あさぎり』では、十五歳の少女の一時保護を通して、家族の絆と外国人労… 記憶死と喪失
  51. 051 2019 出来事 できごと 吉村萬壱 単行本・鳥影社 『季刊文科』連載「転落」を単行本化した長篇。OpenBDの出版社由来データでは、見慣れた日常世界が歪み、人間の嘘や文明の虚妄が露出していく哲学小説として紹介されている。吉村萬壱の身体感覚の強い描写と、日常を異様なものへ反転させる語りが読みどころになる。 身体暴力アイデンティティ
  52. 052 2019 改良 かいりょう 遠野遥 単行本・河出書房新社 女装し、美しくなることに執着する大学生の「私」を描くデビュー作。コールセンターのアルバイト収入を美容やデリヘルに費やす私は、メイクや服装、仕草を研究し、やがて女装した自分を他人に認められたいという欲望を抱く。その望みは、性をめぐる理不尽な暴力と絶望へ向かっていく。 身体ジェンダー 第56回 文藝賞
  53. 053 2019 駒音高く こまおとたかく 佐川光晴 単行本・実業之日本社 『駒音高く』は、将棋の勝負の世界に関わる七人の青春と人生を描く短篇集。プロを志す中学生や引退間際の棋士だけでなく、将棋会館の清掃員など周辺にいる人々にも視線を向け、勝敗の外側にある家族、仕事、誇りを浮かび上がらせる。実業之日本社公式が「青春・家族小説の名手」の温かなまなざしと紹介する通り、競技小説で… 青春家族労働
  54. 054 2019 まずはこれ食べて まずはこれたべて 原田ひ香 単行本・双葉社 池内胡雪は、散らかった社内と不規則な生活に疲れながらベンチャー企業で働く三十歳。社長が会社に家政婦を雇ったことで、無愛想な筧みのりが作る料理が、殺伐とした職場に小さな休息をもたらしていく。食べることを通じて、労働の疲れ、ケアの手触り、人と人が同じ場にいることの温度を描く連作短編集。料理の題名を冠した… 労働ケアと介護
  55. 055 2019 むらさきのスカートの女 むらさきのスカートのおんな 今村夏子 初出・小説トリッパー 2019年春季号 語り手「わたし」の近所には、いつも紫色のスカートをはき「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女がいる。週に一度パン屋でクリームパンを買い、公園の決まったベンチに座る彼女を、「わたし」は毎日観察し続けている。友達になりたい一心で、「わたし」は求人誌をベンチに置くなどして、彼女が自分と同じホテルの清掃の職… 孤独と疎外労働同調圧力 第161回 芥川賞
  56. 056 2019 サバティカル さばてぃかる 中村航 初出・小説トリッパー 連載 33歳のエンジニア梶くんは、転職先への入社までに空いた五カ月を「サバティカル」と名づけ、自分にさまざまな宿題を課す。プロジェクト管理ツールで課題を片付けるうち、将棋の師匠が生き別れた娘を探すという思いがけない宿題に向き合うことになる。仕事の切れ目に生まれた時間を、単なる休暇ではなく自分の結びつきや恋… 労働恋愛青春
  57. 057 2019 遠の眠りの とおのねむりの 谷崎由依 単行本・集英社 大正末期、貧しい農家に生まれた絵子は本を読むことを支えにしていたが、女学校には進めず、家を追い出されて女工として働く。市内に初めて開業した百貨店「えびす屋」で、付属劇場の少女歌劇団に関わる「お話係」として雇われ、娘役のキヨと親しくなる。集英社公式は、福井市に実在した百貨店の少女歌劇部に着想を得た長篇… 労働青春芸術と表現
  58. 058 2019 尾を喰う蛇 おをくうへび 中西智佐乃 初出・「新潮」2019年11月号 『尾を喰う蛇』は、病院で介護士として働く小沢興毅が、患者の老人、同僚、家族への憎悪を募らせ、暴力に呑まれていく過程を描く新潮新人賞受賞作。中西智佐乃は受賞者インタビューで、戦争における「仕方がなかった」という感覚と、現代の労働・介護の場に潜む暴力を接続して本作が動き出したと語っている。肌と肌が過剰に… ケアと介護労働暴力 第51回 新潮新人賞
  59. 059 2018 5時過ぎランチ ごじすぎランチ 羽田圭介 単行本・実業之日本社 「グリーンゾーン」「内なる殺人者」「誰が為の昼食」の三篇からなる、労働と犯罪が絡み合う短篇集。ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギーを抱える殺し屋、写真週刊誌の女性記者が、それぞれ過酷な仕事の延長線上でヤクザや警察、国家権力に触れていく。ブラックな職場感覚とクライムノベルの緊張を重ね、仕事にまつわ… 労働暴力貧困
  60. 060 2018 羅針盤は壊れても らしんばんはこわれても 西村賢太 単行本・講談社 西村賢太の分身的主人公・北町貫多が、二十三歳を迎え、日雇い暮らしのなかで人生の敗北感を濃くしていく小説集。田中英光や藤澤清造の私小説に救いを求める貫多が、自らも私小説を書き始めようとする姿を軸に、貧困、文学への執着、自己嫌悪が泥臭く絡み合う。表題作に加え「陋劣夜曲」などを収め、惨めさと不屈さが同時に… 貧困労働孤独と疎外
  61. 061 2018 三千円の使いかた さんぜんえんのつかいかた 原田ひ香 単行本・中央公論新社 御厨家の女性たちが、結婚、子育て、入院、離婚、老後といった局面でお金の使い方に向き合う連作短篇集。節約や貯金のノウハウに寄せつつ、家族の役割、将来不安、生活を立て直す知恵を物語として読ませる。具体的な金額や家計の話が、女性たちの選択と自立をめぐる現実的なドラマになっている。 家族老いケアと介護
  62. 062 2018 たてがみを捨てたライオンたち たてがみをすてたらいおんたち 白岩玄 単行本・集英社 専業主夫を考える30歳の出版社社員・直樹、離婚後の孤独を抱える35歳の広告マン・慎一、アイドルを追う25歳の公務員・幸太郎という三人の男性を並べる長編。仕事の評価、家事・育児、父親像、恋愛や趣味を通じて、「大人の男」らしさやプライドの重さを問い直す。軽く読ませる群像劇の形を取りながら、弱音を吐きにく… ジェンダー労働家族
  63. 063 2018 夜更けの川に落葉は流れて よふけのかわにおちばはながれて 西村賢太 初出・群像 2017年10月号 北町貫多の二十代前半を描く「寿司乞食」「夜更けの川に落葉は流れて」「青痰麺」の三篇を収める作品集。表題作では、無気力で受け身になっていた貫多が梁木野佳穂という女性との関わりによって、わずかに外の世界へ引き戻されていく。貧しさ、職場の失敗、恋愛の痛み、長く尾を引く恨みを、私小説的な乾いた筆致で読ませる… 貧困労働孤独と疎外
  64. 064 2018 前世は兎 ぜんせはうさぎ 吉村萬壱 初出・すばる 2015年11月号 表題作「前世は兎」のほか、「夢をクウバク」「宗教」「沼」「梅核」「真空土練機」「ランナー」を収める短篇集。兎だった前世の記憶を持つ女、カタログを書き写すことで不安を鎮める休職中の教員、破滅後の世界でマラソンに選ばれる姉など、現実の足場をずらす設定が並ぶ。身体、性、信仰、労働不能や破滅のイメージを通じ… 身体暴力
  65. 065 2018 いつか深い穴に落ちるまで いつかふかいあなにおちるまで 山野辺太郎 初出・「文藝」2018年冬号 日本とブラジルを直線で結ぶ穴を掘るという秘密プロジェクトをめぐる、壮大なホラ話としての会社員小説。戦後に若手官僚が思いついた計画を、大手建設会社子会社の広報係が調査することで、国家事業、会社組織、移民や国際関係が奇妙に絡み合う。真顔のユーモアで日本社会のシステムを描く点が読みどころ。 労働日本史移民と越境 第55回 文藝賞
  66. 066 2017 人間タワー にんげんたわー 朝比奈あすか 単行本・文藝春秋 『人間タワー』は、朝比奈あすかが人間関係の積み重なりや、集団の中で支え合うことの危うさを扱う小説として整理できます。タワーという題名は、高く積み上がる共同性と、崩れやすい均衡の両方を示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 同調圧力家族孤独と疎外
  67. 067 2017 劇場 げきじょう 又吉直樹 単行本・新潮社 『劇場』は、売れない劇作家・永田と、彼を支える沙希の恋愛を描く長編です。演劇を作ることと恋愛で相手を傷つけることが重なり、表現者の自意識と未熟さが露出します。恋愛小説であると同時に、創作の場にしがみつく人物の痛みを読む作品です。 恋愛芸術と表現孤独と疎外
  68. 068 2017 いつか来る季節 名古屋タクシー物語 いつかくるきせつ なごやたくしーものがたり 広小路尚祈 単行本・桜山社 『いつか来る季節 名古屋タクシー物語』は、名古屋のタクシー運転手や乗客をめぐる物語として整理できます。タクシーは都市を移動する仕事の場であり、偶然出会う人びとの会話を運ぶ装置でもあります。地方都市の生活と労働を、移動の視点から読ませる作品です。 労働地方孤独と疎外
  69. 069 2017 ランチ酒 らんちざけ 原田ひ香 単行本・祥伝社 『ランチ酒』は、夜に子どもを預け昼間に働くシングルマザーが、仕事後の一人ランチに酒を飲む連作です。食事と酒は、労働の疲れをほどき、自分だけの時間を取り戻すための小さな儀式になります。母であること、働くこと、孤独を、店の風景から読ませる作品です。 労働母と子
  70. 070 2017 R帝国 あーるていこく 中村文則 単行本・中央公論新社 『R帝国』は、中村文則が独裁的な国家、情報統制、戦争の気配を描くディストピア長編です。架空の帝国を通して、政治的な言葉が現実を支配する怖さと、個人が制度に巻き込まれる過程が描かれます。現代社会への寓話として、同調と暴力の構造を読む作品です。 同調圧力暴力テクノロジー
  71. 071 2017 成功者K せいこうしゃケー 羽田圭介 単行本・河出書房新社 『成功者K』は、芥川賞受賞とメディア露出で人生が変貌していく作家Kを描く、私小説的メタフィクションです。成功は幸福ではなく、視線、消費、自己演出の圧力として人物にまとわりつきます。作家が商品化される現代の文芸状況を、皮肉と自虐で読ませる作品です。 芸術と表現労働同調圧力
  72. 072 2017 光点 こうてん 山岡ミヤ 初出・「すばる」2017年11月号 工場しかない閉じられた町で暮らす実以子が、弁当工場と家を往復する日々のなかで、八つ山と呼ばれる裏山で青年カムトと出会う。母のいらだちや父の無関心から逃れるように神社へ通う語りは、身体感覚と祈りのかたちをめぐって不穏に深まる。閉塞した生活から、言葉以前の祈りや表現を探る作品。 家族孤独と疎外信仰 第41回 すばる文学賞
  73. 073 2016 月刊「小説」 げっかんしょうせつ 松波太郎 単行本・河出書房新社 『月刊「小説」』は、松波太郎が小説という媒体や制度そのものを題名に取り込み、書くことと読むことの場を扱う作品として整理できます。月刊誌のような周期性や掲載の感覚が、文学の生産と消費を意識させます。物語だけでなく、小説が置かれる文芸誌の文脈も読む作品です。 芸術と表現言葉と言語労働
  74. 074 2016 天才 てんさい 石原慎太郎 単行本・幻冬舎 『天才』は、田中角栄の一人称で語られる石原慎太郎の政治小説です。実在の政治家の生涯を、本人が語る形式に置き換えることで、戦後政治、権力、地方から中央へ向かう上昇の物語を描きます。史実を素材にしつつ、語りの強さで人物像を押し出す作品です。 日本史労働同調圧力
  75. 075 2016 蠕動で渉れ、汚泥の川を ぜんどうでわたれ、おでいのかわを 西村賢太 単行本・集英社 『蠕動で渉れ、汚泥の川を』は、17歳の北町貫多が新聞専売所で働く日々を描く長編私小説です。労働の単調さ、貧しさ、屈辱感が、身体を引きずるような題名の感覚と重なります。西村賢太らしい苛立ちと自己嫌悪を、青年期の労働現場から読む作品です。 労働貧困孤独と疎外
  76. 076 2016 のろい男 俳優・亀岡拓次 のろいおとこ はいゆう かめおかたくじ 戌井昭人 単行本・文藝春秋 脇役俳優・亀岡拓次を主人公にした連作短篇集で、全国のロケ地を転々としながら仕事相手との淡い縁を紡ぐ日々を描く。続編として、職業俳優の孤独、現場ごとの仮のつながり、生活の滑稽さが積み重なる。諦観とユーモアを交え、主役ではない人物の時間を照らす作品。 芸術と表現労働孤独と疎外 第38回 野間新人賞
  77. 077 2015 愛と人生 あいとじんせい 滝口悠生 単行本・講談社 『愛と人生』は、映画『男はつらいよ』の世界を下敷きに、かつて子役として出演した青年を描く滝口悠生の長篇です。映画の記憶と現実の生活が重なり、個人の人生が既存の物語にどう影響されるかが問われます。軽やかな語りの奥で、愛と人生という大きな言葉を日常へ引き戻す作品です。 芸術と表現記憶アイデンティティ 第37回 野間新人賞
  78. 078 2015 あなたが消えた夜に あなたがきえたよるに 中村文則 単行本・毎日新聞出版 『あなたが消えた夜に』は、連続通り魔殺人事件を追う二人の刑事の視点が交錯する中村文則の長篇です。事件の真相を追うミステリー的構造のなかで、暴力、記憶、加害と被害の境界が揺らぎます。暗い犯罪小説の形を取りながら、人間の空洞を覗き込む作品です。 暴力記憶孤独と疎外
  79. 079 2015 復讐屋成海慶介の事件簿 ふくしゅうやなるみけいすけのじけんぼ 原田ひ香 単行本・双葉社 『復讐屋成海慶介の事件簿』は、原田ひ香が復讐を請け負う人物を軸に、事件と人間関係を描く小説として整理できます。復讐は単なる解決ではなく、依頼者や加害者の生活のゆがみを浮かび上がらせます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 暴力労働孤独と疎外
  80. 080 2015 ギリギリ ぎりぎり 原田ひ香 単行本・KADOKAWA 『ギリギリ』は、原田ひ香が生活の余裕のなさや、関係の危うい境界を描く小説として整理できます。題名は金銭、時間、感情のいずれも限界に近い状態を示します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働貧困家族
  81. 081 2015 キッチン戦争 きっちんせんそう 樋口直哉 単行本・講談社 『キッチン戦争』は、樋口直哉が料理や台所をめぐる場所から、人間関係や労働の摩擦を描く小説として整理できます。キッチンは家庭的な空間であると同時に、技術、役割、競争が生じる戦場にもなります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働家族
  82. 082 2015 可愛い世の中 かわいいよのなか 山崎ナオコーラ 単行本・講談社 『可愛い世の中』は、山崎ナオコーラが「可愛い」という価値観を手がかりに、現代社会の人間関係や自己像を見直す小説として整理できます。可愛さは肯定的な魅力である一方、他者の視線や消費されるイメージにもつながります。軽やかな題名の奥で、ジェンダー、言葉、同調圧力の関係が立ち上がる作品です。 ジェンダー同調圧力言葉と言語
  83. 083 2015 十七八より じゅうななはちより 乗代雄介 初出・「群像」2015年6月号 塾講師として働く作者の経験も背景に、十代後半の言葉やリズムをすくい取るデビュー作。若者の会話や身振りを手がかりに、青春の不安定さと都市生活の距離感を描く。のちの乗代作品につながる、観察と文体への関心が見える作品として位置づけられる。 青春言葉と言語労働
  84. 084 2014 メタモルフォシス メタモルフォシス 羽田圭介 単行本・新潮社 『メタモルフォシス』は、SMの快楽へ深入りしていく証券マンを描く羽田圭介の小説です。仕事で求められる合理性と、身体が求める変容の欲望がずれていきます。性と労働を結びつけながら、自己像が変質していく過程を乾いた文体で追う作品です。 身体労働
  85. 085 2014 ミチルさん、今日も上機嫌 みちるさんきょうもじょうきげん 原田ひ香 単行本・集英社 『ミチルさん、今日も上機嫌』は、原田ひ香が女性の日常と気分の揺れを描く小説として整理できます。題名の明るさは、生活のなかで自分を保とうとする振る舞いにも読めます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働孤独と疎外ジェンダー
  86. 086 2014 みずうみのほうへ みずうみのほうへ 上村亮平 初出・「すばる」2014年11月号(投稿時タイトル「その静かな、小さな声」を改題) 七歳の誕生日旅行で父を失った「ぼく」が、湖のある町で育ち、二十代の終わりに父との記憶に結びつく「サイモン」に似た人物と出会う。港町、水産物加工場、アイスホッケー観戦といった生活の細部が、喪失の記憶と幻想的な再会をゆっくり結びつけていく。静かな語りの中で、父の死の謎と過去への引力が持続する作品である。 父と子死と喪失記憶 第38回 すばる文学賞
  87. 087 2013 去年の冬、きみと別れ きょねんのふゆきみとわかれ 中村文則 単行本・幻冬舎 『去年の冬、きみと別れ』は、猟奇事件をめぐる取材と記録の迷路を描く中村文則の長篇です。人物の語る真実は次々に反転し、取材する側もまた物語に巻き込まれていきます。犯罪小説の外形を使いながら、欲望、表現、他者を所有する暴力を問う作品です。 暴力芸術と表現孤独と疎外
  88. 088 2013 おれたちの約束 おれたちのやくそく 佐川光晴 単行本・集英社 『おれたちの約束』は、佐川光晴が「おれ」から「おれたち」へ広がる関係を描く小説です。個人の正義や孤独なヒーロー像ではなく、仲間や共同性のなかで約束が意味を持つ構図が見えます。対談記事の題名にもあるように、単独者から複数者へ移る視点が読みどころです。 家族労働同調圧力
  89. 089 2013 よだかの片想い よだかのかたおもい 島本理生 単行本・集英社 『よだかの片想い』は、顔に大きなあざを持つ女性が、映画撮影をきっかけに初めての恋へ向かう島本理生の長篇です。恋愛は救済として単純化されず、身体の見られ方と自己受容の問題を伴います。題名の片想いは、相手への思いだけでなく、自分自身へ向けるまなざしにも広がります。 身体恋愛アイデンティティ
  90. 090 2012 パトロネ ぱとろね 藤野可織 単行本・集英社 『パトロネ』は、支援者や庇護者を意味する語を手がかりに、芸術、労働、他者への依存を描く藤野可織の小説として整理できます。誰かに支えられることは、保護であると同時に支配や不自由も生みます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 芸術と表現労働孤独と疎外
  91. 091 2012 55歳からのハローライフ ごじゅうごさいからのハローライフ 村上龍 単行本・幻冬舎 『55歳からのハローライフ』は、定年前後の世代が仕事、家族、老いを前に再出発を探る村上龍の連作小説集です。人生の後半は穏やかな余生ではなく、労働市場や家族関係の変化にさらされる時間として描かれます。複数の人物を通じて、老いと孤独の現代的なかたちが見えてきます。 老い労働家族
  92. 092 2012 LOVE & SYSTEMS らぶあんどしすてむず 中島たい子 単行本・幻冬舎 『LOVE & SYSTEMS』は、恋愛を感情だけでなく、社会や制度の仕組みとして見つめる中島たい子の小説です。愛とシステムという並置は、親密な関係が個人の気持ちだけで成立しないことを示します。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 恋愛同調圧力労働
  93. 093 2012 盗まれた顔 ぬすまれたかお 羽田圭介 単行本・幻冬舎 『盗まれた顔』は、指名手配犯の顔を記憶して追う見当たり捜査班の刑事を描く羽田圭介の小説です。顔を覚える仕事は、他者のアイデンティティを管理する労働であると同時に、見る側の自己認識も揺さぶります。警察小説の形を取りながら、身体、記憶、監視の問題へ広がります。 アイデンティティ労働テクノロジー
  94. 094 2012 狭小邸宅 きょうしょうていたく 新庄耕 初出・「すばる」2012年11月号 不動産営業会社で働く若い社員を主人公に、ノルマ、叱責、顧客対応に追われる日々を描く職場小説。狭い住宅を売る仕事の具体性が、労働の過酷さと都市生活の息苦しさを結びつける。成長譚の枠組みを持ちながら、ブラックな職場環境を乾いたリアリズムで読ませる作品である。 労働貧困同調圧力 第36回 すばる文学賞
  95. 095 2011 すべて真夜中の恋人たち すべてまよなかのこいびとたち 川上未映子 単行本・講談社 『すべて真夜中の恋人たち』は、孤独な校閲者・冬子と年上の物理教師・三束さんの出会いを描く川上未映子の長編です。真夜中の光や静けさは、都市で働く女性の孤独と、他者に近づこうとする繊細な感情を照らします。恋愛小説でありながら、労働、孤独、自己認識の物語として読めます。 恋愛孤独と疎外労働
  96. 096 2011 「ワタクシハ」 ワタクシハ 羽田圭介 単行本・講談社 『「ワタクシハ」』は、就職活動に翻弄される元バンドマンの大学生を描く羽田圭介の就活小説です。自己PRや面接の言葉が、主人公の音楽への未練や自己像をゆがめていきます。労働へ入る前の儀礼としての就活を、乾いた違和感とともに読む作品です。 労働青春アイデンティティ
  97. 097 2011 きんのじ きんのじ 馳平啓樹 初出・「文學界」2011年12月号 『きんのじ』は、大阪文学学校在籍中に書かれた長谷原宏己のデビュー作です。製造業で働く人物の日常と内面を静かな文体で描く作品として整理されています。労働の反復の中にある孤独や尊厳を、派手な事件ではなく生活の手触りから読む作品です。 労働孤独と疎外私小説的 第113回 文學界新人賞
  98. 098 2011 美しい私の顔 うつくしいわたしのかお 中納直子 初出・「群像」2011年6月号 『美しい私の顔』は、顔面神経麻痺を患った家具屋勤務の女性の内面と人間関係を描く作品です。自己像と他者の視線のずれが、顔というもっとも見られる部位を通じて丁寧に描かれます。身体の変化をきっかけに、アイデンティティと社会的視線を問い直す作品です。 身体アイデンティティ
  99. 099 2010 月曜日の朝へ げつようびのあさへ 朝比奈あすか 単行本・講談社 『月曜日の朝へ』は、週の始まりである月曜の朝に向かう感覚を通じて、若い人物の生活と不安を描く朝比奈あすかの作品です。日常の時間割や働くことの圧力が、人物の気持ちを少しずつ追い込みます。平明な語りのなかに、青春から社会へ出る時期の息苦しさが表れます。 青春労働孤独と疎外
  100. 100 2010 彼女のしあわせ かのじょのしあわせ 朝比奈あすか 単行本・光文社 『彼女のしあわせ』は、女性にとっての幸福が何によって測られるのかを、家族、恋愛、仕事の文脈から描く朝比奈あすかの小説です。題名の「彼女」は、誰かに見られる存在であると同時に、自分で幸福を選び直す存在でもあります。日常的な場面から、同調圧力と自己決定の問題が見えてきます。 ジェンダー恋愛家族
  101. 101 2010 御不浄バトル ごふじょうバトル 羽田圭介 単行本・集英社 『御不浄バトル』は、ブラック企業で働く男がトイレを唯一の避難所として戦う、羽田圭介の職場小説です。労働の場で追い詰められた身体が、排泄の空間に逃げ込む構図がユーモラスで痛切です。職場、身体、屈辱の問題を、過剰な題名の勢いで読ませます。 労働身体貧困
  102. 102 2010 勝手にふるえてろ かってにふるえてろ 綿矢りさ 単行本・文藝春秋 『勝手にふるえてろ』は、脳内の初恋相手「イチ」と現実の求愛者「ニ」のあいだで揺れるOLヨシカを描く綿矢りさの恋愛小説です。内面の饒舌さと現実の人間関係のずれが、ユーモラスで痛い語りを生みます。恋愛の物語でありながら、自己像、妄想、孤独の問題が強く表れます。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  103. 103 2010 苦役列車 くえきれっしゃ 西村賢太 初出・新潮 2010年12月号 中卒で家を出た19歳の北町貫多は、東京の埠頭で冷凍倉庫から荷を運び出す日雇い仕事でその日暮らしを続けている。日当はすぐに酒と風俗に消え、家賃は滞納し、人付き合いもない。そんな彼が職場で専門学校生の日下部と知り合い、初めて友人と呼べそうな存在を得るが、劣等感と過剰な自意識がその関係に影を落としていく… 労働貧困孤独と疎外 第144回 芥川賞
  104. 104 2010 ゴルディータは食べて、寝て、働くだけ ごるでぃーたはたべて ねて はたらくだけ 吉井磨弥 初出・「文學界」2010年12月号 『ゴルディータは食べて、寝て、働くだけ』は、中南米系移民女性ゴルディータの日常をユーモラスに描く吉井磨弥のデビュー作です。食べる、眠る、働くという生活の反復から、日本社会の異文化の交差が見えてきます。移民的な視点を重くしすぎず、軽やかな語りで日常のたくましさを読む作品です。 移民と越境労働 第111回 文學界新人賞
  105. 105 2010 工場 こうじょう 小山田浩子 初出・「新潮」2010年11月号 何を作っているのかわからない巨大な工場を舞台に、そこで働く三人の従業員の視点から不可思議な日々を描く。敷地内の謎の動物や職場の細部が、労働の徒労と不条理を奇妙なリアリティで浮かび上がらせる。職場小説でありながら、寓話的な生態系を観察するような読み味を持つ。 労働孤独と疎外三人称・多視点 第42回 新潮新人賞
  106. 106 2009 ブルーシート ぶるーしーと 浅尾大輔 単行本・朝日新聞出版 『ブルーシート』は、デビュー作「家畜の朝」を含む第一創作集として、底辺労働や生活の現場を描く作品です。都市の表面では見えにくい働く身体と貧困の感覚が、青いシートの仮設性と重なります。社会的な題材を、個人の孤独と身体感覚に引き寄せて読むことができます。 労働貧困身体
  107. 107 2009 ボーダー&レス ぼーだーあんどれす 藤代泉 初出・文藝 2009年冬号 東京の大学を出て就職した新入社員・江口理倫は、独特の魅力を持つ在日コリアンの同期・趙成佑(ソンウ)と親しくなる。気の合う友人同士のはずのふたりのあいだにも、「在日」という歴史が刻んだ見えない溝が走っていることに、僕はやがて直面する。国籍や民族だけでなく、この世界のあらゆる場所にあるボーダーを、若い会… 移民と越境アイデンティティ孤独と疎外 第46回 文藝賞
  108. 108 2009 神キチ かみきち 赤木和雄 初出・新潮 2009年11月号 屋根屋として建築現場で働く主人公を、不条理な出来事が次々と襲う。だが彼や登場人物たちが本当に悩むのは、世界の理不尽そのものではなく、〈真剣に神に祈れない〉という一点だ。奇妙で黒い笑劇の合間に、切り刻まれた宗教性の断片が乱舞し、信じることが壊れてしまった時代の労働者の魂のありかを照らし出す。地方の建築… 信仰労働孤独と疎外 第41回 新潮新人賞
  109. 109 2009 何もかも憂鬱な夜に なにもかもゆううつなよるに 中村文則 単行本・集英社 『何もかも憂鬱な夜に』は、死刑囚と向き合う若い刑務官が、自らの孤独な子供時代と現在を重ねていく中村文則の長篇です。犯罪や死刑制度の問題は、単なる社会的題材ではなく、人が他者の罪をどう受け止めるかという倫理の問いになります。暗い語りの中に、救いの可能性がかすかに残ります。 暴力死と喪失孤独と疎外
  110. 110 2008 おひるのたびにさようなら おひるのたびにさようなら 安戸悠太 初出・文藝 2008年冬号 会社の昼休み、外階段で繰り広げられる主人公・真司と先輩女子社員たちの秘密の遊び。真司の役目は、近くの病院で音声を消した昼ドラを眺め、想像で補った物語を先輩に報告することだ。見ることと聞くことのずれ、語り直された物語と現実の重なりを入れ子状に組み上げ、ささやかな昼の儀式の終わりをせつなく描く。メディア… 労働言葉と言語芸術と表現 第45回 文藝賞
  111. 111 2008 ラジ&ピース らじあんどぴーす 絲山秋子 単行本・講談社 『ラジ&ピース』は、ラジオや言葉の届き方を思わせる題名のもと、人と人がどのように声を受け渡すかを描く作品です。絲山秋子らしい乾いた会話と距離感が、親密さと孤独を同時に浮かび上がらせます。平和やつながりを軽く言い切れないところに、作品の手触りがあります。 言葉と言語労働孤独と疎外
  112. 112 2007 ダーティ・ワーク だーてぃ・わーく 絲山秋子 単行本・集英社 『ダーティ・ワーク』は、仕事や関係のなかで避けられない面倒さを、絲山秋子らしい乾いた文体で描く作品です。労働をきれいごとにせず、そこで生まれる距離、疲労、親密さを淡々と見つめます。人と人の関係を、会話と行動のずれから読ませるところに魅力があります。 労働恋愛孤独と疎外
  113. 113 2006 沖で待つ おきでまつ 絲山秋子 単行本・文藝春秋 『沖で待つ』は、同期入社の男女の友情と、死後に残された約束をめぐる作品です。恋愛に回収されない親密さを、職場の記憶と喪失の感覚を通して描きます。絲山秋子の簡潔で乾いた語りが、死者との距離を過度に sentimental にせず保つところが読みどころです。 労働死と喪失記憶 第134回 芥川賞
  114. 114 2005 フルタイムライフ フルタイムライフ 柴崎友香 単行本・マガジンハウス 新社会人として働きはじめた春子の日常を、会社の時間、疲れ、同僚との距離感から等身大に描く長編。仕事が劇的な自己実現になるのではなく、生活の大半を占める時間として淡々と積み上がる。柴崎友香らしい心情に寄りすぎない文体で、働きはじめの戸惑いと観察が描かれる。 労働青春孤独と疎外
  115. 115 2005 泣かない女はいない なかないおんなはいない 長嶋有 単行本・河出書房新社 泣かない、あるいは泣けない女性の姿を、恋愛や仕事の日常の中から描く長嶋有の中篇。感情を大きく説明せず、会話や行動の端に表れる違和感で、人物の孤独を浮かび上がらせる。ユーモラスな題名の裏に、強がりと弱さが同時にある作品である。 恋愛労働孤独と疎外
  116. 116 2004 お縫い子テルミー おぬいこてるみー 栗田有起 単行本・集英社 夜間の縫製工場で働く女性たちをめぐる連作短篇集。針仕事、夜勤、同僚との距離が、働くことの孤独と可笑しさを浮かび上がらせる。栗田有起の柔らかいユーモアが、職場小説を重くなりすぎない読後感へ導いている。 労働ジェンダー孤独と疎外
  117. 117 2003 家畜の朝 かちくのあさ 浅尾大輔 初出・新潮 2003年11月号 中卒で道路工事などの日雇い仕事をしながら日銭を稼ぐ主人公と、その仲間たちのうだつの上がらない日々。労働と競艇と愚行で埋まる時間の隙間に、父親の自殺、学習障害、友人の堕胎といった出来事が断片として挟み込まれ、貧困が人と土地をどう蝕むかが一人称の語りで立ち上がる。労働運動の現場にいた作者が、「ワーキング… 労働貧困孤独と疎外 第35回 新潮新人賞
  118. 118 2002 リレキショ りれきしょ 中村航 初出・文藝 2002年冬季号 過去を捨てた19歳の「僕」は、「姉さん」と名乗る女性に拾われ、「半沢良」という新しい名前と居場所をもらう。深夜のガソリンスタンドでアルバイトをしながら、白紙に「どこへでもいける切符」を持つ自分の履歴書を書いてみる——。何者でもなくなった青年が、淡い人間関係のなかでもう一度自分の輪郭をなぞり直していく… アイデンティティ家族青春 第39回 文藝賞
  119. 119 2002 スチール すちーる 織田みずほ 初出・すばる 2002年11月号 男性客相手の風俗のアルバイトで日銭を得て、新宿の24時間営業のロッカールームで夜を過ごす17歳の高校生。ある日見かけた中年男性に惹かれ、彼が経営する倉庫で働き始めると、朗らかなパートの中年女性たちに囲まれて、少しずつ世の中との関わり方を学んでいく。だが、かつての「客」だった男が国語教師として学校に着… 貧困青春 第26回 すばる文学賞
  120. 120 2002 よしわら よしわら 鈴木弘樹 単行本・新潮社 新潮新人賞受賞作「グラウンド」を、単行本化に際して『よしわら』と改題した中篇。風俗雑誌編集などの職歴を持つ作者の経歴とも重なり、労働、都市の周縁、学歴や階層から外れた人物の感覚を描く。新人賞受賞作が芥川賞候補にもなった、2000年代初頭の新潮新人賞系譜の一作。 労働孤独と疎外アイデンティティ 第33回 新潮新人賞
  121. 121 2001 ジャムの空壜 じゃむのあきびん 佐川光晴 単行本・新潮社 屠畜の現場を舞台にした短篇集で、労働、身体、動物の死を生活の近くから描く。清潔な消費の背後にある仕事を見つめることで、社会の見えにくい暴力と人間の尊厳を浮かび上がらせる。佐川光晴の労働への視線がよく表れる作品。 労働身体暴力
  122. 122 2001 夜明けの音が聞こえる よあけのおとがきこえる 大泉芽衣子 初出・すばる 2001年11月号 自ら声を封じ込めているうちに本当に声が出なくなってしまった「僕」が、治療者の勧めでホテルで働きはじめる。しかし職場に溶け込めず、ふとした誤解から従業員たちを敵に回し、執拗ないじめにさらされていく。語ることのできない主人公の内側に渦巻く苛立ちと怒りを、鮮烈な言葉の力で外へ撃ち出すような文章が特徴で、声… 言葉と言語孤独と疎外労働 第25回 すばる文学賞
  123. 123 2000 看板屋の恋 かんばんやのこい 都築隆広 初出・文學界 2000年12月号 受賞作なしが続いた時期の文學界新人賞で、2000年下期に単独で選ばれた短篇。『文學界』2000年12月号に掲載されたが単行本未収録のままで、今日では掲載誌でしか読めない。作者の都築隆広は当時22歳の若さでデビューしたものの、その後は脚本家・放送作家として映像分野へ活動の軸を移した。新人賞受賞が必ずし… 恋愛労働簡潔な文体 第91回 文學界新人賞
  124. 124 2000 生活の設計 せいかつのせっけい 佐川光晴 初出・新潮 2000年11月号 大学を出て出版社に勤めたのち、埼玉の食肉処理場で牛の解体に従事する「私」が、読者に向かって「諸君」と呼びかけながら、屠畜という労働の現場と自分の生活について語っていく自伝的小説。差別と偏見にさらされてきた仕事を、告発でも美化でもなく、ナイフ捌きの習熟といった身体的なディテールの積み重ねで描くところに… 労働身体孤独と疎外 第32回 新潮新人賞
  125. 125 1999 あ・だ・る・と あ・だ・る・と 高橋源一郎 単行本・主婦と生活社 AV監督「ピン」の視点から、アダルトビデオの撮影現場を克明に描きながら、「普通の人々」が「普通のAV」に出演するとはどういうことかを問い続ける小説。インドの元同僚から届いたフィルムが思索の起点となる。 身体アイデンティティ
  126. 126 1993 私の自叙伝前篇 わたしのじじょでん ぜんぺん 竹野雅人 初出・「群像」1993年7月号、講談社1994年刊 テレビアニメのスタッフを主人公とした自伝的色彩の強い小説。東宝でアニメ制作に携わる作家自身の経験を素材に、若者のアイデンティティと仕事への逡巡を描く。第16回野間文芸新人賞受賞。 アイデンティティ芸術と表現労働 第16回 野間新人賞
  127. 127 1992 運転士 うんてんし 藤原智美 初出・「群像」1992年5月号 『運転士』は、郊外住宅地を走るバス運転士の日常を通じて、家族関係の崩壊と男性の内面を描く作品です。職業の反復的な動きと、家庭の不安定さが重なり、都市郊外の生活の閉塞感が浮かびます。藤原智美の社会観察眼が出た芥川賞受賞作です。 労働家族都市・郊外 第107回 芥川賞
  128. 128 1991 自動起床装置 じどうきしょうそうち 辺見庸 初出・「文學界」1991年5月号 『自動起床装置』は、通信社の仮眠室で眠る人々を起こす「起こし屋」を主人公にした作品です。眠りを管理する仕事を通して、現代の労働、身体、文明の疲弊を問います。ジャーナリストでもある辺見庸の観察眼と、実験的な文体が交差する芥川賞受賞作です。 労働テクノロジー実験的文体 第105回 芥川賞
  129. 129 1990 渇水 かっすい 河林満 初出・「文學界」1990年6月号 『渇水』は、水道料金を滞納した家庭の給水停止に向かう水道局員・岩切俊作と、その家の子どもたちをめぐる中篇です。行政の仕事としての「停止」と、生活の水を断たれる人々の現実がぶつかります。乾いた社会派リアリズムで、貧困、労働、家庭の孤立を描く作品です。 労働貧困家族 第70回 文學界新人賞
  130. 130 1990 ショート・サーキット しょーと さーきっと 佐伯一麦 初出・福武書店1990年刊 『ショート・サーキット』は、電気工として働く人物の日常と内面を描く、佐伯一麦の初期連作短篇集です。肉体労働の現場、工具、疲労、生活の細部を通じて、働くことと自己を保つことの関係を見つめます。私小説的な語りのなかに、都市の労働者の孤独が乾いた手触りで残ります。 労働私小説的職場 第12回 野間新人賞
  131. 131 1989 さして重要でない一日 さしてじゅうようでないいちにち 伊井直行 初出・単行本(講談社、1989年)。初出誌は未確認。「パパの伝説」を併録。 会社で「社内局」経由の会議資料を回収することになった人物が、どこにあるのか誰も知らない部署を探して会社という迷宮をさまよう一日を描く。講談社の内容紹介は、困惑の一日を会社内の不条理な探索として示している。職場の制度や組織の見えにくさを、ユーモアと不穏さのある寓話として読ませる作品。 労働同調圧力孤独と疎外 第11回 野間新人賞
  132. 132 1987 スティル・ライフ すてぃる・らいふ 池澤夏樹 初出・「中央公論」1987年10月特大号(第102年第12号)。単行本は1988年・中央公論社刊 『スティル・ライフ』は、染色工場で働く「ぼく」と、世界を少し離れた位置から見ている佐々井との交流を描く短篇です。大きな事件よりも、労働、会話、都市の時間の中で、世界が静かにつながって存在している感覚を描きます。透明感のある文体と、孤独を否定しない清澄な肯定感が読みどころです。 孤独と疎外芸術と表現一人称 第98回 芥川賞
  133. 133 1986 復活祭のためのレクイエム ふっかつさいのためのれくいえむ 新井千裕 初出・「群像」1986年6月号 『復活祭のためのレクイエム』は、コピーライターを主人公に、言葉と笑いが交錯する軽快な実験小説です。復活祭という宗教的な題を掲げつつ、広告的な言語感覚や都市的な軽さを作品の推進力にしています。単行本刊行も確認でき、1980年代半ばの群像新人文学賞系の言語実験として読めます。 言葉と言語芸術と表現実験的文体
  134. 134 1970 化石の森 かせきのもり 石原慎太郎 単行本・新潮社 政界・財界の腐敗を描いた石原慎太郎の長編政治小説。若者の感覚を描いた初期作とは違い、権力の硬直と社会の閉塞を「化石」のイメージで捉える。篠田正浩監督による映画化もあり、政治小説としての石原を確認できる作品。 同調圧力労働アイデンティティ
  135. 135 1966 金環蝕 きんかんしょく 石川達三 単行本・新潮社 政界と財界の癒着を描いた石川達三の政治小説。ダム利権をめぐる汚職を告発的に扱い、個人の倫理よりも制度と権力の腐敗を前景化する。社会派作家としての石川の問題意識が、政治経済の構造へ向けられた作品である。 労働同調圧力貧困
  136. 136 1959 人間の壁 にんげんのかべ 石川達三 単行本・新潮社 教育現場を舞台に、教師たちの苦闘と理想を描いた石川達三の大河社会小説。学校という制度を通じて、戦後社会の矛盾、労働、政治的な圧力を広く描く。個人の善意だけでは越えられない「壁」を、複数の人物の視点で見せる作品である。 労働同調圧力貧困
  137. 137 1958 死者の奢り ししゃのおごり 大江健三郎 単行本・文藝春秋新社 大学の死体処理室でアルバイトをする若者たちを描く、初期大江の代表的な短篇。死者は畏怖の対象であると同時に、運搬され、数えられ、処理される物質として現れ、生と死の境界が事務的な労働の場に引き寄せられる。若い語り手の冷えた感覚と不安を通して、戦後の身体感覚、死への距離、社会の片隅に置かれた労働の異様さが… 死と喪失身体労働
  138. 138 1957 裸の王様 はだかのおうさま 開高健 初出・「文學界」1957年12月号(第38回芥川賞受賞) 『裸の王様』は、企業の付設美術教室で働く主人公が、子どもたちの表現を管理しようとする組織と向き合う短篇です。子どもの自由な絵と大人の制度的な論理を対比させ、個人が組織に取り込まれていく過程を批評します。開高健の社会批評性と寓話性が、読みやすい構図のなかに収まった出世作です。 芸術と表現同調圧力労働 第38回 芥川賞
  139. 139 1952 真空地帯 しんくうちたい 野間宏 初出・書き下ろし長篇。1952年2月、河出書房刊。 『真空地帯』は、軍隊内務班という閉じた空間で、暴力と服従が日常化していく構造を描いた長篇です。野間宏自身の軍隊経験を背景に、命令・階級・沈黙が個人を追い詰める過程を厚いリアリズムで追います。戦争を前線の英雄譚ではなく、組織の非人間性として描いたところに作品の強さがあります。 戦争暴力同調圧力
  140. 140 1951 風にそよぐ葦 かぜにそよぐあし 石川達三 単行本・新潮社 戦後の混乱期を生き抜く民衆の姿を、新聞社を舞台に描いた長編社会小説。報道、政治、生活の不安が交差する場として新聞社を置き、戦後民主主義の理想と現実のずれを描く。複数の人物を通じて社会全体を見渡す、大河的な読み味がある。 労働同調圧力戦争
  141. 141 1951 広場の孤独 ひろばのこどく 堀田善衛 初出・「中央公論」1951年(第26回芥川賞受賞) 『広場の孤独』は、朝鮮戦争下の東京を舞台に、新聞社に勤める在日中国人の知識人が戦争と民族のあいだで引き裂かれていく姿を描く作品です。政治状況を背景にしながら、個人の倫理と所属の不安を前景化する点に読みどころがあります。戦後文学の中でも、国際政治と内面の孤独を同時に扱った作品として位置づけられます。 戦争移民と越境孤独と疎外 第26回 芥川賞