Setting

島・海辺

舞台「島・海辺」に分類された 64 作品。

  1. 001 2025 温泉小説 おんせんしょうせつ 朝比奈あすか 単行本・光文社 『温泉小説』は、おひとり様限定ツアー、後期高齢者のドライブ旅、母の呪縛から逃れられない娘、亡き妻との記憶をたどる男など、六つの旅路を収めた連作的な作品集です。年齢も性別も境遇も違う人物たちが、人生の苦みや迷いを抱えたまま温泉地へ向かい、湯に身体をほどかれながら自分を見つめ直す。温泉ソムリエマスターで… 老い家族身体
  2. 002 2025 百日と無限の夜 ひゃくにちとむげんのよる 谷崎由依 単行本・集英社 『百日と無限の夜』は、第一子の妊娠中に切迫早産で入院した「わたし」が、横たわる時間のなかで出産と生命をめぐる幻視の旅へ入っていく長篇です。能『隅田川』の女物狂いを案内人に、中世の京、駆け込み寺、若狭のお水送り、海辺の産小屋へと時空を越えて進む構成が、病室の身体感覚と神話的な想像力を結びつける。妊娠・… 母と子身体
  3. 003 2025 わたしハ強ク・歌ウ わたしハつよク・うたウ 山下澄人 単行本・河出書房新社 『わたしハ強ク・歌ウ』は、海へ行こうとする「わたし」が、自分の旅と母が残した旅の記録を重ねて書き始める小説です。停留所の謎の男、先住民たちとの出会い、アンネの日記や火山の町といった断片が、現実の旅行記を越えた冒険譚へ変形していく。記憶を継ぐこと、書くこと、異なる土地や人々と出会うことが、山下澄人らし… 記憶母と子移民と越境
  4. 004 2024 無形 むけい 井戸川射子 単行本・講談社 立ち退き勧告が進む海辺の団地を舞台に、年老い病を患う祖父と面倒を見る孫娘、親が失踪した姉弟、夫に先立たれた老女、友情以上の感情を育む少女たちなど、複数の生活がゆるやかに重なる群像長篇。確かにそこにあった暮らしの喜びや悲しみが、形として残らないまま季節とともに流れていく。団地という共同体の消滅を背景に… 家族記憶老い
  5. 005 2024 月ぬ走いや、馬ぬ走い つちぬはゆいや、うんまぬはゆい 豊永浩平 初出・「群像」2024年6月号 沖縄に生きるアメリカルーツの少年、幻肢痛に苦しむ元米兵と結婚したコザの女性、特攻へ向かう旧日本軍将校など14人の語りを通して、戦中から現代までの沖縄の80年史を描く。第67回群像新人文学賞と第46回野間文芸新人賞のダブル受賞作。 戦争記憶アイデンティティ 第46回 野間新人賞
  6. 006 2023 観音様の環 李琴峰 単行本・U-NEXT 『観音様の環』は、瀬戸内の島から東京へ逃れるように出たマヤが、恋人ジェシカとの結婚を機に台湾へ渡り、封じてきた家族の記憶と向き合う中編である。田舎の排他的な空気、暴力的な父、母の期待と支配からの逃走が、台湾での年夜飯と母の故郷への訪問を通して再び立ち上がる。日本語と中国語、島と東京と台湾をまたぐ移動… 家族移民と越境ジェンダー
  7. 007 2023 流れる島と海の怪物 ながれるしまとうみのかいぶつ 田中慎弥 単行本・集英社 母に連れられて行った屋敷で、「俺」は朱音と朱里という二人の姉妹に出会う。母がなぜ二人に会わせたのかという謎は、伯母から聞く出生の秘密と、姉妹の母の故郷である「流れる島」の神話へつながっていく。下関という土地、家族と血の記憶、少年と少女の出会いを、現実と神話が絡む濃密な語りで描いた長編である。 家族母と子記憶
  8. 008 2023 共に明るい ともにあかるい 井戸川射子 初出・群像 2023年1月号 『共に明るい』は、早朝のバス、野鳥園、恋人の家、島への修学旅行、工場の作業部屋など、異なる場所で人が抱える痛みや不安に触れる五篇の小説集である。語られない心の内がふと漏れ出す瞬間をすくい、「他人」がつながりたい「他者」へ変わる手つきを静かに描く。『この世の喜びよ』で芥川賞を受けた後の第一作として、井… 孤独と疎外家族労働
  9. 009 2022 荒地の家族 あれちのかぞく 佐藤厚志 初出・新潮 2022年12月号 宮城県亘理町の植木職人・坂井祐治、四十歳。あの「災厄」の二年後に妻を病で亡くし、再婚した相手も流産の後に家を出て、いまは老いた母と中学生の息子と暮らしている。津波という言葉を正面に掲げず「災厄」「海の膨張」と呼びながら、荒れた海辺の土地で黙々と木に向かう男の日常を描く。職を転々とする旧友や没落してい… 災害死と喪失家族 第168回 芥川賞
  10. 010 2022 水平線 すいへいせん 滝口悠生 単行本・新潮社 硫黄島を墓参したことのある妹に見知らぬ男から電話がかかり、兄は不思議なメールに導かれて船に乗る。祖父母世代の疎開、激戦地に残された人々、現在の兄妹の時間が交差し、死者の言葉が海を越えて現在へ届く。視点や人称を変えながら、戦争の記憶と島の隆起する時間を重ねる長篇。 戦争記憶死と喪失
  11. 011 2021 彼岸花が咲く島 ひがんばながさくしま 李琴峰 初出・文學界 2021年3月号 彼岸花が咲き乱れる浜辺に、記憶を失った少女が流れ着く。海の向こうから来たため「宇実(ウミ)」と名付けられた彼女がたどり着いたのは、日本と台湾の間に浮かぶ架空の島。そこでは〈ニホン語〉と、女性だけが学ぶことを許された〈女語〉という二つの言語が話され、「ノロ」と呼ばれる女性たちが祭祀と政治、歴史の伝承を… 言葉と言語ジェンダー記憶 第165回 芥川賞
  12. 012 2021 あなたに安全な人 あなたにあんぜんなひと 木村紅美 単行本・河出書房新社 3.11直前の少年の死をめぐる出来事に苛まれる元教師の妙と、沖縄新基地建設反対デモの警備中の事故を抱える便利屋の忍が、「感染者第一号」を誰もが恐れる土地で出会う。二人は人を傷つけ、傷つけられる社会のなかで、孤独で安全な逃亡生活のような関係を築いていく。東日本大震災、沖縄、感染症下の共同体の視線を交差… 孤独と疎外災害同調圧力
  13. 013 2021 ミトンとふびん ミトンとふびん 吉本ばなな 単行本・新潮社 大切な人の死や癒えない喪失を抱えながら生きる人々を、ヘルシンキ、ローマ、台北など複数の土地で描く全6編の短篇集。旅の風景は観光的な背景ではなく、残された人が小さな光や手触りに支えられて日々を続けるための場所として置かれている。吉本ばななが長く書き続けてきた喪失、時間、愛の主題を、静かでやわらかな語り… 死と喪失恋愛記憶 第58回 谷崎賞
  14. 014 2020 踏み跡にたたずんで ふみあとにたたずんで 小野正嗣 単行本・毎日新聞出版 『踏み跡にたたずんで』は、毎日新聞大分県版連載をもとに、土地と人々の記憶をめぐる36篇を収めた掌編小説集。掩体壕、赤い波、磨崖仏、港、道の駅、診療所など、場所や物の名を起点に、戦争の痕跡、伝説、老い、自然との遭遇が短い物語として立ち上がる。現実と幻の境目をあいまいにする語りで、土地に残る見えない記憶… 記憶戦争死と喪失
  15. 015 2019 変半身 かわりみ 村田沙耶香 単行本・筑摩書房 『変半身』は、劇作家・松井周と練り上げた千久世島ワールドを舞台に、人間の身体や歴史、信仰が別のかたちへ変わっていく悪夢的な中篇。秘祭モドリ、ポピ原人、ポーポー様、遺伝子退行手術といった奇妙な要素が、共同体の常識と身体観を揺さぶる。併録の「満潮」とあわせ、村田沙耶香らしい「正常」を疑う想像力が、演劇的… 身体信仰アイデンティティ
  16. 016 2019 ウナノハテノガタ うなのはてのがた 大森兄弟 単行本・中央公論新社 海の民の少年オトガイは父からある役目を引き継ぎ、山の民の少女マダラコは生贄の儀式から逃れて山を下りる。中央公論新社の文庫版公式ページは、二人の出会いからすべてが始まる「原始の物語」として紹介している。共同体の掟、信仰、暴力、出会いによる世界の更新を、神話や寓話に近い距離感で描く作品。 信仰暴力家族
  17. 017 2019 背高泡立草 せいたかあわだちそう 古川真人 初出・「すばる」2019年10月号 草に覆われた納屋をめぐる作業を起点に、土地に積もった記憶と家族史が立ち上がる作品。島の一族をめぐる複数の声や時間が重なり、目の前の草刈りが過去を掘り起こす行為へと変わっていく。方言や多層的な語りによって、地方の生活と歴史が静かに接続される。 家族記憶地方 第162回 芥川賞
  18. 018 2019 飛族 ひぞく 村田喜代子 初出・「文學界」連載後、単行本2019年3月・文藝春秋。連載開始年は未確認のため単行本年を year に採用 『飛族』は、大分で魚料理店を営む六十五歳のウミ子が、長崎の国境離島を思わせる架空の島に住む九十二歳の母イオと八十八歳のソメ子を訪ねる長編。島には二人の元海女だけが残り、失われた漁師たちを鳥に重ねる「鳥踊り」や、国境離島の維持をめぐる現実的な緊張が、牧歌的な生活に不穏さを差し込む。著者インタビューでは… 老い死と喪失地方 第55回 谷崎賞
  19. 019 2017 幸福な水夫 こうふくなすいへい 木村友祐 単行本・未來社 『幸福な水夫』は、木村友祐が水夫という移動する労働者の像を通じて、幸福と漂流の関係を描く作品として整理できます。海や船のイメージは、生活の不安定さと越境の感覚を呼び込みます。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 労働移民と越境孤独と疎外
  20. 020 2017 囚われの島 とらわれのしま 谷崎由依 単行本・河出書房新社 『囚われの島』は、谷崎由依が島という閉じた場所を舞台に、隔離や記憶の問題を扱う小説として整理できます。囚われることは地理的な閉塞であると同時に、過去や関係から自由になれない状態でもあります。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶孤独と疎外暴力
  21. 021 2016 虫たちの家 むしたちのいえ 原田ひ香 単行本・光文社 『虫たちの家』は、九州の孤島にあるグループホームで、インターネットで傷ついた女性たちが共同生活を送る物語です。家という避難所は、保護の場であると同時に、傷ついた人びとの距離を測り直す場所になります。現代的な孤立とケアの問題を、共同生活の細部から読ませる作品です。 ケアと介護ジェンダー孤独と疎外
  22. 022 2016 太陽の側の島 たいようのそばのしま 高山羽根子 単行本・朝日新聞出版 『太陽の側の島』は、戦時中を背景に、女性と兵士の関係を架空の日記や手紙の連なりでたどる中篇。第2回林芙美子文学賞の大賞受賞作として発表され、のちに短篇集『オブジェクタム』に収録された。戦争の記憶、記録の不確かさ、島という隔絶した場所を、SF的・幻想的な想像力で結びつける作品として位置づけられる。 戦争記憶芸術と表現 第2回 林芙美子賞
  23. 023 2016 縫わんばならん ぬわんばならん 古川真人 初出・「新潮」2016年11月号 九州長崎の漁村の島を舞台に、一族をめぐる四世代の来歴を女性の語りで編む作品。ほころびていく意識から湧き出る声を拾い、記憶の断片を縫い合わせるように家族史を立ち上げる。方言と声の流れが、過去・記憶・語り継ぎの主題を支えている。島の生活と老いの身体感覚が、個人史を超えた時間の厚みを生む。 家族記憶老い 第48回 新潮新人賞
  24. 024 2015 水死人の帰還 すいしにんのきかん 小野正嗣 単行本・文藝春秋 『水死人の帰還』は、小野正嗣が死者、記憶、土地の声をめぐって描く小説として整理できます。水死人という存在は、失われたものが共同体へ戻ってくる不穏な気配を帯びています。生と死の境目を揺らしながら、地方の場所に残る記憶を読む作品です。 死と喪失記憶地方
  25. 025 2014 ボラード病 ぼらーどびょう 吉村萬壱 単行本・文藝春秋 『ボラード病』は、海辺の新興住宅地に越してきた家族が、地域の同調圧力に絡め取られていく吉村萬壱の小説です。安全や秩序を掲げる共同体が、異物を排除する病のようなものとして描かれます。寓話的な設定によって、災害後の町づくり、家族、排除の感覚が不穏に重なります。 同調圧力家族災害
  26. 026 2014 九年前の祈り くねんまえのいのり 小野正嗣 初出・群像 2014年9月号 35歳のさなえは、カナダ人の夫に去られたあと、激しい癇癪を起こす幼い息子・希敏を連れて、故郷である大分の海辺の小さな集落に帰ってくる。育児に疲弊する彼女の脳裏には、九年前、集落の女たちとカナダを旅した際、世話役の「みっちゃん姉」が異国の教会で見せた祈りの姿が繰り返し蘇る。そのみっちゃん姉の息子がいま… 母と子信仰記憶 第152回 芥川賞
  27. 027 2014 島と人類 しまとじんるい 足立陽 初出・「すばる」2014年11月号 ヌーディストの人類学者・河鍋未來夫が停職処分を受け、その仲間たちや週刊誌記者を巻き込みながら、妻マリアが待つ島へ向かう奇想的な長篇。裸体主義、人類学、ボノボ、新人類構想といった要素が、知的な冗談と壮大な実験のあいだで展開する。人間の身体、共同性、進化をめぐる思索を、明るいナンセンスと実験小説の形式で… 身体芸術と表現 第38回 すばる文学賞
  28. 028 2014 みずうみのほうへ みずうみのほうへ 上村亮平 初出・「すばる」2014年11月号(投稿時タイトル「その静かな、小さな声」を改題) 七歳の誕生日旅行で父を失った「ぼく」が、湖のある町で育ち、二十代の終わりに父との記憶に結びつく「サイモン」に似た人物と出会う。港町、水産物加工場、アイスホッケー観戦といった生活の細部が、喪失の記憶と幻想的な再会をゆっくり結びつけていく。静かな語りの中で、父の死の謎と過去への引力が持続する作品である。 父と子死と喪失記憶 第38回 すばる文学賞
  29. 029 2014 レールの向こう れーる の むこう 大城立裕 初出・「新潮」2014年5月号。単行本は2015年8月、新潮社刊。 沖縄に生きて創作を続けてきた老年の作家が、妻の入院をきっかけに日常と記憶を往還する作品集。表題作では、病院や家族との現在の生活と、レールの向こうにある創作の記憶が重ねられる。老いと死を含む生活を慈しみながら、作家として切り捨てられない不穏な領域を見つめる。 老い記憶地方 第41回 川端賞
  30. 030 2013 獅子渡り鼻 ししわたりばな 小野正嗣 単行本・講談社 『獅子渡り鼻』は、親の事情で海辺の集落に預けられた少年・尊の日々を描く小野正嗣の小説です。土地の記憶、祈り、共同体の気配が、少年の視界を通じて静かに立ち上がります。海辺の集落を舞台に、家族から離された子どもの孤独と場所への感受性を描きます。 家族信仰孤独と疎外
  31. 031 2013 スナックちどり スナックちどり 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『スナックちどり』は、吉本ばななが小さな店や旅先の空気を通じて、喪失後の再生を描く小説として整理できます。スナックという場所は、家族でも職場でもないゆるい避難所として機能します。公開資料では内容細部を十分に確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 死と喪失家族
  32. 032 2013 想像ラジオ そうぞうらじお いとうせいこう 初出・「文藝」掲載後、2013年3月河出書房新社より単行本刊行 海沿いの町で高い杉の木のてっぺんに引っかかっているDJアークが、想像の電波を使ってリスナーに語りかける小説。届くメールやリクエストを読み上げながら、どうしても聞きたいひとつの声へ向かっていく。震災後の死者と生者、声と想像力をめぐる、ラジオ番組形式の物語である。 災害死と喪失言葉と言語 第35回 野間新人賞
  33. 033 2013 すっぽん心中 すっぽん しんじゅう 戌井昭人 初出・「新潮」2013年1月号掲載 休職中で行き詰まった男と、痛い目に遭いつつもあっけらかんと生きる女が、不忍池で出会い霞ヶ浦へ向かう表題作を中心にした作品集。貧しさや失敗を重く閉じ込めず、滑稽さと哀愁が混じる道行きとして描く。会話と行動のずれから、人物の孤独と生活の可笑しみがにじむ。 恋愛貧困孤独と疎外 第40回 川端賞
  34. 034 2012 佐渡の三人 さどのさんにん 長嶋有 単行本・講談社 『佐渡の三人』は、佐渡という島の土地性を背景に、三人の人物の関係や記憶を描く長嶋有の小説です。島は閉じた場所でありながら、外から来る者と土地に残るものを結びつけます。長嶋作品らしい抑えたユーモアのなかで、家族や共同体への距離が見えてきます。 家族記憶孤独と疎外
  35. 035 2012 肉骨茶 にくこつちゃ 高尾長良 初出・「新潮」2012年11月号 シンガポール・マレーシアへの旅の途中で母のもとを抜け出した17歳の赤猪子を描く。食べ物が自分の身体に蓄積していくことへの恐怖から逃れようとする彼女は、友人ゾーイーの海辺の別荘に身を寄せる。食、身体、母子関係を通じて、人間であることへの拒絶を激しく描くデビュー作。 身体母と子 第44回 新潮新人賞
  36. 036 2011 春待ち海岸カルナヴァル はるまちかいがんかるなゔぁる 木村紅美 単行本・新潮社 『春待ち海岸カルナヴァル』は、海辺の土地と春を待つ時間を重ね、記憶や人間関係の揺れを描く木村紅美の小説です。カルナヴァルという祝祭的な語は、静かな海岸の風景に非日常の気配を差し込みます。公開資料では内容細部を確認できていないため、書誌確認に基づく暫定的な紹介です。 記憶孤独と疎外家族
  37. 037 2011 半島へ はんとうへ 稲葉真弓 初出・単行本刊行2011年・講談社。初出誌は未確認のため単行本年を year に採用 『半島へ』は、伊勢志摩の半島地帯を舞台に、衰えゆく自然と人間の静かな対話を描く散文詩的長編です。土地の風景と老い、移ろう自然の気配が、ゆるやかな時間の中で重なります。半島という外縁の場所から、生と死の境目を見つめる作品です。 老い死と喪失地方 第47回 谷崎賞
  38. 038 2010 アクアノートとクラゲの涙 あくあのーととくらげのなみだ 樋口直哉 単行本・メディアファクトリー 『アクアノートとクラゲの涙』は、水中を思わせるイメージとクラゲの浮遊感を通じて、記憶や孤独を描く樋口直哉の小説です。題名の柔らかい幻想性は、現実から少し離れた視界を与えます。公開資料で内容細部を確認できていないため、書誌と題名から確実に言える範囲での暫定紹介です。 記憶孤独と疎外青春
  39. 039 2010 きことわ きことわ 朝吹真理子 初出・「新潮」2010年9月号 『きことわ』は、葉山の別荘で幼少期を共にした貴子と永遠子が、二十五年後に別荘の解体を機に再会する作品です。夢と記憶が重なり、現在の時間の中にかつての少女時代が静かに蘇ります。大きな事件よりも、時間の層と二人の距離を繊細に読む作品です。 記憶青春家族 第144回 芥川賞
  40. 040 2009 海猫ツリーハウス うみねこつりーはうす 木村友祐 初出・すばる 2009年11月号 海猫の鳴き交わす青森県八戸。25歳の亮介は服飾デザイナーの夢を抱えつつ家業を手伝い、師匠のもとでツリーハウス作りに励んでいる。そこへ、自給自足の暮らしを求めて都会から人気者の兄・慎平が帰ってくると、田舎町の均衡は静かに乱れはじめる。標準語に回収されない南部弁の語りが土地の身体感覚をそのまま運び、地方… 家族労働アイデンティティ 第33回 すばる文学賞
  41. 041 2008 マイクロバス マイクロバス 小野正嗣 単行本・新潮社 『マイクロバス』は、移動する小さな乗り物を通して、地方の場所や人々の距離を描く小野正嗣の作品です。バスという共有空間は、共同体に属することと、そこから外れることの両方を見せます。静かな語りのなかで、土地の記憶と孤独がゆっくり浮かび上がります。 記憶孤独と疎外移民と越境
  42. 042 2008 波打ち際の蛍 なみうちぎわのほたる 島本理生 単行本・角川書店 『波打ち際の蛍』は、傷を抱えた人物が、波打ち際のように揺れる場所で他者との距離を測り直す島本理生の作品です。蛍の光のようなかすかな希望と、身体に残る痛みが同時に描かれます。恋愛や回復を単純に美化せず、触れ合うことの怖さまで含めて読ませます。 暴力恋愛身体
  43. 043 2008 サウスポイント サウスポイント 吉本ばなな 単行本・中央公論新社 『サウスポイント』は、よしもとばななが南の島の気配や移動の感覚を通じて、恋愛と家族の記憶を描く長篇です。明るい場所に向かう題名とは裏腹に、人物の内側には喪失や過去の影が残ります。土地の光や空気を、心の回復の過程と重ねて読む作品です。 恋愛家族記憶
  44. 044 2007 エロマンガ島の三人 えろまんがじまのさんにん 長嶋有 単行本・エンターブレイン 『エロマンガ島の三人』は、長嶋有の異色作品集として、奇妙な地名や設定から日常の感覚をずらしていく作品です。旅行記や冒険譚のような外見を借りながら、人と場所の距離感をユーモラスに扱います。題名の軽さの奥に、どこにも完全には属せない感覚が残ります。 芸術と表現孤独と疎外移民と越境
  45. 045 2007 島の夜 しまのよる 木村紅美 単行本・角川書店 『島の夜』は、島という隔てられた場所と夜の時間を背景に、孤独や記憶の濃度を描く作品として整理できます。閉じた地理は、人間関係を近づける一方で、逃げ場のなさも作ります。静かな語りのなかに、不安と親密さが同時に漂う読み味があります。 孤独と疎外記憶恋愛
  46. 046 2006 イルカ イルカ 吉本ばなな 単行本・文藝春秋 『イルカ』は、よしもとばななの小説らしく、親密な関係と心身の変化をやわらかな語りで扱う作品です。題名が示す水辺のイメージは、閉じた日常から別の感覚へ移るための入口として働きます。喪失や不安を強く断定せず、ゆるやかな回復の気配を読む作品として位置づけられます。 恋愛家族身体
  47. 047 2006 愛の島 あいのしま 望月あんね 単行本・講談社 『愛の島』は、島という閉じた場所を背景に、愛や孤独をめぐる関係の揺れを描く作品として整理できます。遠く離れた場所である島は、人物の逃避先であると同時に、自分の感情と向き合う場にもなります。書誌情報以外の詳細資料はまだ少ないため、今後の批評・紹介資料で精度を上げたい作品です。 恋愛孤独と疎外アイデンティティ
  48. 048 2004 海のふた うみのふた 吉本ばなな 単行本・ロッキング・オン 故郷の海辺の町でかき氷屋を始めた女性のひと夏を描く長編。海、店、訪れる人々とのやりとりを通じて、傷ついた心が生活の手触りを取り戻していく。吉本ばなならしいやさしい幻想味が、地方の小さな商いと再生の感覚に結びついている。 労働家族記憶
  49. 049 2004 海の仙人 うみのせんにん 絲山秋子 単行本・新潮社 海辺で暮らす人物の孤独に、現実から少しずれた存在や関係が入り込んでくる絲山秋子の長篇。日常的な会話の軽さと、死や喪失の気配が同じ平面に置かれ、海辺の時間が寓話のように広がる。恋愛小説でも幻想小説でもあるが、どちらにも収まりきらない余白が読みどころになる。 孤独と疎外恋愛死と喪失
  50. 050 2002 にぎやかな湾に背負われた船 にぎやかなわんにせおわれたふね 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 九州の海辺の集落「浦」を舞台に、土地の人々の記憶と語りを紡ぐ長編。個人の物語が、海辺の共同体、死者、土地の歴史と重なり合う。小野正嗣らしい、声の重なりと土地の記憶を読む作品。 記憶死と喪失移民と越境 第15回 三島賞
  51. 051 2001 水に埋もれる墓 みずにうもれるはか 小野正嗣 単行本・朝日新聞社 小野正嗣のデビュー作で、既存データでは朝日新人文学賞受賞作とされる。水や墓のイメージが示すように、土地、記憶、死者との関係をめぐる作品として位置づけられる。後の小野作品に続く、共同体の記憶と語りへの関心の出発点として読みたい。 記憶死と喪失孤独と疎外
  52. 052 1998 望潮 もちしお 村田喜代子 初出・「新潮」1998年6月号初出。 潮の満ち引きを軸に、老年期の女性の意識と記憶が揺れ動く短篇。村田喜代子の南九州的な感性と幻視的な文体が際立つ代表的な短篇作品。 老い記憶島・海辺 第25回 川端賞
  53. 053 1997 水滴 すいてき 目取真俊 初出・「文學界」1997年4月号 ある日突然足がはれて指先から水が流れ出した沖縄の老人を主人公に、沖縄戦の死者たちの記憶が現実に浸食してくる幻想譚。ユーモアとペーソスが共存する目取真俊の代表作。 戦争死と喪失寓話・幻想 第117回 芥川賞
  54. 054 1996 海峡の光 かいきょうのひかり 辻仁成 初出・「新潮」1996年12月号 津軽海峡を望む青函連絡船の乗組員たちの群像と、かつての仲間との宿命的な再会を描いた海洋的叙情詩。柳美里「家族シネマ」と同時受賞。 暴力孤独と疎外東北 第116回 芥川賞
  55. 055 1995 豚の報い ぶたのむくい 又吉栄喜 初出・「文學界」1995年11月号 沖縄のスナックに豚が乱入し、その厄落としのためにスナックのママ・従業員・大学生の4人が離れ小島の御嶽へ向かうというファルス的構造の中に、沖縄の霊的世界観と生の逞しさを描いた作品。 信仰身体方言・口語 第114回 芥川賞
  56. 056 1995 夏至祭 なつしさい 佐藤洋二郎 初出・講談社1995年刊 九州の小さな漁港を舞台に、土地の祭りや共同体の記憶と個人の喪失を交錯させた抒情的な長編。佐藤洋二郎の代表作のひとつ。第17回野間文芸新人賞受賞(水村美苗と同時)。 死と喪失記憶島・海辺 第17回 野間新人賞
  57. 057 1990 世紀末鯨鯢記 せいきまつ げいげいき 久間十義 初出・河出書房新社1990年3月刊(書き下ろし) 『世紀末鯨鯢記』は、南氷洋の捕鯨船を舞台に、悪夢と現実がせめぎ合う奇想の長篇です。白鯨のモチーフを思わせる巨大な生きものへの執着を通じて、バブル期の狂騒や身体感覚の不安を寓話的に浮かび上がらせます。海上の閉じた空間が、現実離れした不穏さを強めています。 身体寓話・幻想島・海辺 第3回 三島賞
  58. 058 1987 四万十川―あつよしの夏 しまんとがわ あつよしのなつ 笹山久三 初出・「文藝」1987年冬季号(河出書房新社) 『四万十川―あつよしの夏』は、高知県四万十川流域を舞台に、少年あつよしの夏を豊かな自然とともに描く作品です。川、家族、土地の生活感が、少年の成長と結びついています。後にシリーズとして読み継がれる「四万十川」作品群の出発点です。 青春家族地方 第24回 文藝賞
  59. 059 1986 十六歳のマリンブルー じゅうろくさいのまりんぶるー 本城美智子 初出・「すばる」1986年12月号(集英社) 16歳の女子高生の青春を描く作品。本城美智子のデビュー作。 青春家族島・海辺 第10回 すばる文学賞
  60. 060 1985 水平線上にて すいへいせんじょうにて 中沢けい 初出・単行本(講談社、1985年)。初出誌は未確認。 中沢けいが女性の性と身体の問題を描いた作品集。増田みず子「自由時間」と同時受賞した第7回野間文芸新人賞受賞作。 身体青春 第7回 野間新人賞
  61. 061 1957 硫黄島 いおうじま 菊村到 初出・「文學界」1957年6月号 『硫黄島』は、太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島を題材にした戦争小説です。戦闘の記憶を扱いながら、兵士個人の生と死が国家や軍事の物語に回収されていく重さを描きます。公開出典から確認できる内容紹介は限られるため、ここでは受賞・書誌情報を中心に整理しています。 戦争死と喪失暴力 第37回 芥川賞
  62. 062 1956 海人舟 かいとぶね 近藤啓太郎 初出・「文學界」1956年2月号(第35回芥川賞受賞) 『海人舟』は、千葉・鴨川の海辺を背景に、漁師たちの労働と土地に根ざした生活を描く短篇です。近藤啓太郎自身の漁業体験に近い素材を、海と身体の感覚を伴うリアリズムで扱っています。都市の内面劇とは違う、海辺の共同体と労働の重さが読みどころです。 労働身体家族 第35回 芥川賞
  63. 063 1955 太陽の季節 たいようのきせつ 石原慎太郎 初出・文學界 1955年7月号 裕福な家庭に育ち、拳闘に打ち込む高校生・津川竜哉が主人公。湘南の海やヨット、盛り場を舞台に、既成の倫理や大人の価値観を軽蔑し、喧嘩や女性関係を遊戯のように楽しむ戦後世代の若者たちの生態を描く。竜哉は英子という女性と出会い、互いに駆け引きめいた恋愛を続けるうちに、欲望と愛情の間で関係は思わぬ方向へ傾い… 青春恋愛 第34回 芥川賞
  64. 064 1954 潮騒 しおさい 三島由紀夫 初出・書き下ろし長篇。1954年6月10日、新潮社刊。 『潮騒』は、三重県の孤島を舞台に、若い漁夫と海女の恋を明るく端正に描く長篇です。古代ギリシャの牧歌的恋愛物語を思わせる構成を、日本の海辺の共同体に置き換えています。三島由紀夫作品のなかでは例外的に清明な青春小説として読まれ、自然と身体の健やかさが強く印象に残ります。 青春恋愛身体